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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008956
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ボールペン用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20250109BHJP
   C09D 11/023 20140101ALI20250109BHJP
   C09D 11/17 20140101ALI20250109BHJP
【FI】
C09D11/18
C09D11/023
C09D11/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111615
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 ひかる
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐一
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB02
4J039AD01
4J039AD03
4J039AD08
4J039AD10
4J039BA00
4J039BA21
4J039BA32
4J039BC10
4J039BC14
4J039BC15
4J039BD02
4J039BE01
4J039BE22
4J039BE23
4J039BE30
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA44
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 インク直流性の抑制と、経時安定性に優れたボールペン用水性インク組成物、ボールペンを提供する。
【解決手段】 本発明のボールペン用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、発酵セルロースと、水とを含み、前記発酵セルロースはインク組成物中で粒径が5~1000μmとなる軟凝集体となっており、該軟凝集体中に着色剤が分散していることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、着色剤と、発酵セルロースと、水とを含み、前記発酵セルロースはインク組成物中で粒径が5~1000μmとなる軟凝集体となっており、該軟凝集体中に着色剤が分散していることを特徴とする、ボールペン用水性インク組成物。
【請求項2】
前記ボールペン用水性インク組成物には、樹脂エマルジョンを更に含み、軟凝集体中に樹脂エマルジョンが分散していることを特徴とする、請求項1記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項3】
前記ボールペン用水性インク組成物には、新モース硬度が7以上の微粒子を更に含み、軟凝集体中に前記微粒子が分散していることを特徴とする、請求項1又は2記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項4】
前記ボールペン用水性インク組成物には、HLB値が15以上のノニオン系界面活性剤を更に含むことを特徴とする、請求項1又は2記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のボールペン用水性インク組成物を搭載したことを特徴とするボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペン用水性インク組成物などに関し、さらに詳しくは、インク直流性の抑制と、経時安定性に優れたボールペン用水性インク組成物などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水性ボールペンにおいて、ホルダーとボールの隙間から、重力によりインクが垂れたり漏れたりする、いわゆる「直流現象」を防止する技術として、インクの組成面から、結晶セルロースを配合したボールペン用水性インク組成物が知られている(例えば、本願出願人による特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1の技術は、「直流現象」を防止する技術として従来にない優れたものであるが、経時的に結晶セルロースが凝集・偏在して直流防止効果が低下する現象が見られている。この現象を抑制するため、本願出願人は、結晶セルロースと樹脂粒子を含有することで直流防止効果と経時安定性を高度に両立したボールペン用水性インク組成物を提案している(例えば、特許文献2参照)
【0004】
しかしながら、上記特許文献2の技術は、低粘度の場合、結晶セルロースが凝集・偏在して筆記性能の低下が見られるなどの若干の課題がある。
【0005】
一方、ドライアップ性能と顔料分散性に優れた水性ボールペンの技術として、インク組成面から、発酵セルロースを配合した水性ボールペン用インク(例えば、特許文献3参照)、また、発酵セルロースを配合してボールペン用水性インクの品質(かすれや漏れを抑制等)を向上させるボールペン用水性インクの品質向上方法(例えば、特許文献4参照)、更に、インク漏れ出し抑制のため、有機樹脂粒子と表面処理された多糖類繊維を配合した水性ボールペン用インク(例えば、特許文献5参照)などが知られている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献3~5の各技術では、インクの漏れ出し抑制が不十分であり、さらに発酵セルロースや多糖類繊維は撹拌やろ過の際に空気を巻き込みやすいため、浮力が生じ、経時的に上部に偏在しやすくなり、保存安定性が劣っているという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-1381号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2013-103986号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2013-91730号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2009-161624号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開2017-222113号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状などに鑑み、これを解消しようとするものであり、筆記性能を低下させることなく、直流防止効果と経時安定性を高度に両立したボールペン用水性インク組成物などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、着色剤と、発酵セルロースと、水とを含み、前記発酵セルロースから構成される軟凝集体を所定の粒径範囲などとすることにより、上記目的のボールペン用水性インク組成物などが得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明のボールペン用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、発酵セルロースと、水とを含み、前記発酵セルロースはインク組成物中で粒径が5~1000μmとなる軟凝集体となっており、該軟凝集体中に着色剤が分散していることを特徴とする。
前記ボールペン用水性インク組成物には、樹脂エマルジョンを更に含み、軟凝集体中に樹脂エマルジョンが分散していることが好ましい。
前記ボールペン用水性インク組成物には、新モース硬度が7以上の微粒子を更に含み、軟凝集体中に前記微粒子が分散していることが好ましい。
前記ボールペン用水性インク組成物には、HLB値が15以上のノニオン系界面活性剤を更に含むことが好ましい。
本発明のボールペンは、上記構成のボールペン用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
本発明において「軟凝集体」とは、インク組成物中に含まれる発酵セルロースと、着色剤とにより構成される三次元の網目構造を形成した不定形の輪郭形状を有する軟らかい(柔軟な)凝集体であり、該凝集体の粒径(最大粒径)が所定の範囲(5~1000μm)に構成されるものをいう。また、インク組成物中に樹脂エマルジョンや新モース硬度が7以上の微粒子を含有する場合は、上記所定の範囲の粒径の軟凝集体中に、樹脂エマルジョンや微粒子も分散するものとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、筆記性能を低下させることなく、直流防止効果と経時安定性を高度に両立したボールペン用水性インク組成物、並びに、ボールペンが提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の各実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識(設計事項、自明事項を含む)に基づいて実施することができる。
本発明のボールペン用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、発酵セルロースと、水とを含み、前記発酵セルロースは軟凝集しており、該発酵セルロースの軟凝集体は粒径が5~1000μmであると共に、該軟凝集体中に着色剤が分散していることを特徴とするものである。
【0013】
本発明に用いる着色剤としては、水に溶解もしくは分散する全ての染料、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、白色系プラスチック顔料、ワックス粒子、中空樹脂粒子、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料、アルミ等の光輝性顔料、熱変色性顔料、光変色性粒子等、およびこれらの複合粒子を制限なく使用することができる。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6-C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154,ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットBB等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0014】
無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0015】
熱変色性顔料としては、発色剤として機能するロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.1~6μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性顔料などを挙げることができる。
光変色性粒子としては、例えば、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、テルペンフェノール樹脂などの樹脂とにより構成される光変色性粒子や、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、有機溶媒と、酸化防止剤、光安定剤、増感剤などの添加剤とを含む光変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.1~6μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性粒子などを挙げることができる。
【0016】
本発明(実施例等含む)において、「平均粒子径」は、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)、屈折率1.8〕にて、測定した体積基準の50%粒径(D50)の値である。
上記熱変色性顔料のマイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、壁膜がウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂等となる樹脂原料を使用、例えば、アミノ樹脂溶液、具体的には、メチロールメラミン水溶液、尿素溶液、ベンゾグアナミン溶液などの各液を徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより熱変色性マイクロカプセル顔料を製造することができる。この熱変色性顔料では、ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度、消色温度を好適な温度に設定することができる。
また、上記光変色性粒子のマイクロカプセル化法としては、上述の熱変色性の樹脂粒子の製造と同様に調製することができる。
この光変色性粒子は、フォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などを好適に用いることにより、例えば、室内照明環境(室内での白熱灯、蛍光灯、ランプ、白色LEDなどから選ばれる照明器具)において無色であり、紫外線照射環境(200~400nm波長の照射、紫外線を含む太陽光での照射環境)で発色する性質を有するものとすることができる。
【0017】
これらの着色剤は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、これらの色材のうち、水に分散する顔料や、樹脂粒子顔料、疑似顔料、白色系プラスチック顔料、多層コーティングした顔料、熱変色性顔料、光変色性粒子等の平均粒子径は、ボール径、インク組成・粘度などにより変動するが、平均粒子径が0.02~6μmのものが望ましい。
これらの着色剤の含有量は、インクの描線濃度に応じて適宜増減することが可能であるが、インク組成物全量に対して、0.1~40質量%(以下、「質量%」を「%」という)、好ましくは、1~10%が望ましい。
【0018】
本発明に用いる発酵セルロースは、インク組成物中で所定径の柔軟な凝集体(軟凝集体)を形成するために用いるものである。
従来より、水性ボールペン等において、ホルダーとボールの隙間から、重力によりインクが垂れたり漏れたりする、いわゆる「直流現象」を防止する技術としてキサンタンガムなどを用いることが知られているが、本発明では、上記顔料などの着色剤を含む配合系に発酵セルロースを含有せしめ、インク組成物中で所定径の柔軟な凝集体(軟凝集体)を形成、具体的には粒径が5~1000μmであると共に、該軟凝集体中に着色剤が分散している柔軟な凝集体(軟凝集体)を形成することにより、筆記性能を低下させることなく、直流防止効果と経時安定性を高度に両立したインク組成とするものである。
【0019】
本発明(後述する実施例等を含む)において、前記発酵セルロースによる軟凝集体の粒径は、光学顕微鏡(HIROXデジタルマイクロスコープRH-2000、以下同様)でインクを観察した場合の軟凝集体の最大直径を測定したものであり、5~1000μmが好ましく、更に好ましくは、5~200μmが望ましい。
この軟凝集体の粒径が5μm未満であると、直流防止効果が発揮できないこととなり、一方、1000μm超過であると、筆記時に流出性を阻害することとなり、本発明の効果を発揮できないこととなる。
【0020】
用いることができる発酵セルロースは、セルロース生産菌、例えば、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌が産生するセルロースであり、これらのセルロースであれば特に限定されない。通常、発酵セルロースは、セルロース
生産菌を既知の方法(培養する培地及び条件等)に従って培養し、得られる発酵セルロースを所望に応じて適宜精製することによって製造することができる。
発酵セルロースを構成する多糖類の化学構造は、基本的に、β1-4結合したグルコースによる直鎖状の高分子多糖類である。
本発明における柔凝集体の形成は、少なくとも、着色剤と、発酵セルロースと、水とを含む配合系のインクを調製する際の各成分の含有量や、撹拌条件、例えば、撹拌速度、撹拌時間、温度等の条件を調整することにより得ることができる。
【0021】
本発明に用いる発酵セルロースは、水に不溶性であり、増粘多糖類と異なり、低粘度でべとつきが少なく、種々のインクの共存成分、温度、pHなどにおいて安定して使用することができるものである。
用いることができる発酵セルロースとしては、上記製造に得た発酵セルロースや市販の三栄源エフ・エフ・アイ社製のサンアーティストシリーズ、例えば、サンアーティスト H-PN、サンアーティスト H-PG、サンアーティスト H-PX、また、草野作工株式会社製のCM-NFBCなどが挙げられる。
【0022】
これらの発酵セルロースの含有量は、上述の如く、インク組成物中で所定径の柔軟な凝集体(軟凝集体)を形成し、本発明の効果を発揮できる好適な量で有ればよく、配合種等により変動するが、インク組成物全量に対して、0.01~10質量%、好ましくは、0.03~5質量%、特に好ましくは、0.05~1質量%に調整することが望ましい。
この発酵セルロースの含有量が0.01質量%以上とすることにより、本発明の効果を発揮することができ、一方、10質量%以下とすることにより、コストを押し上げることなく、本発明の効果は効率的に発揮せしめることができる。
【0023】
本発明のボールペン用水性インク組成物においては、インク粘度調整、固着力向上の点から、好ましくは、樹脂エマルジョンを含有することが望ましい。
用いることができる樹脂エマルジョンとしては、具体的には、スチレンアクリル系エマルジョンポリオレフィン系エマルジョン、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、スチレン-ブタジエンエマルジョン、スチレンアクリロニトリルエマルジョンなどの樹脂エマルジョンなどから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、これらはそれぞれ1種類以上、計2種類以上の使用が望ましい。
好ましい樹脂エマルジョンとしては、スチレンアクリル樹脂が望ましい。
用いることができる前記樹脂エマルジョンの市販品としては、例えば、JONCRYL 352D、同537-E、同PDX-7198、同7430、同7538、同7615、同7700、同7787(BASF社)などを使用することができる。
【0024】
これらの樹脂エマルジョンの含有量は、インク組成物全量に対して、固形分量で、0.5~15質量%、好ましくは、1~10質量%に調整することが望ましい。
この樹脂エマルジョンの含有量を0.05質量%以上とすることにより、本発明の効果を更に発揮することができ、一方、15質量%以下とすることにより、本発明の効果は変わらないがコストを押し上げることなく、好ましいものとなる。
さらに本発明の効果を損なわない範囲において、上記の樹脂エマルジョンのほか、ポリアクリル酸、水溶性スチレン-アクリル樹脂、水溶性スチレン・マレイン酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、オレフィン系エマルジョン、水溶性エステル-アクリル樹脂、エチレン-マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂等の分子内に疎水部を持つ水溶性樹脂などの水溶性樹脂を併用して用いてもよい。
【0025】
本発明のボールペン用水性インク組成物では、更に、新モース硬度が7以上の微粒子を用いることが好ましく、この特性の微粒子の含有により、ボール受け座の摩耗抑制効果と、前記軟凝集体が浮上するのを防止する効果が更に発現することとなる。
用いることができる微粒子は、新モース硬度が7以上の微粒子であれば、特に限定されずに用いることができる。
【0026】
微粒子の新モース硬度は、耐久性、インク流出性の点から、7以上15以下となるのものが望ましい。
新モース硬度は、修正モース硬度と同じ意味である。新モース硬度とは、15種の基準となる鉱物と比較することによって、鉱物の硬度を求める硬さの尺度である。基準となる鉱物は、柔らかいもの(新モース硬度1)から硬いもの(新モース硬度15)の順に、滑石、石膏、方解石、蛍石、燐灰石、正長石、溶融石英、水晶(石英)、黄玉(トパーズ)、柘榴石、溶融ジルコニア、溶融アルミナ、炭化ケイ素、炭化ホウ素及びダイヤモンドである。本明細書において、新モース硬度は、これらの基準の鉱物で硬度を測定したい試料物質(微粒子)をこすり、ひっかき傷の有無で硬度を測定される。例えば、溶融石英では傷が付かず、水晶(石英)で傷が付く場合、その試料物質(微粒子)の新モース硬度は7.5(7と8の間の意味)となる。なお、新モース硬度が7未満の微粒子では、ボール受け座に対して十分な摩耗抑制効果が得られないため、好ましくない。
【0027】
新モース硬度が7以上の微粒子としては、例えば、炭化ケイ素、アルミナ、シリカ、炭化タングステン、ジルコニアなどのセラミック微粒子、金属微粒子などが挙げられ、これらは各単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0028】
また、用いる微粒子は、受け座の摩耗を更に抑制する点、インクの流出性を高める軟凝集体の比重調整の点から、平均粒子径が30μm以下、好ましくは、0.07~30μm、更に好ましくは、0.1~10μmが望ましい。
平均粒子径が30μm以下の微粒子であると、インク中の分散安定性が良好で、また、微粒子の沈降が抑制でき、好ましいものとなる。
更に、上記所定の新モース硬度、平均粒子径を有する微粒子の形状は、筆記感の向上の点、インク流出性の点から、球状、楕円状、板状、棒状であるものが望ましい。
【0029】
これらの微粒子として、上記所定の新モース硬度、更に上記平均粒子径を有する微粒子であれば、市販品の微粒子を用いることができ、また、既知の方法で製造したセラミック微粒子、金属微粒子などを用いることができる。
更に、本発明では、微粒子の新モース硬度を(A)、平均粒子径を(B)とし、(A)と(B)の積を掛合値とするとき、掛合値が所定の範囲内にあると、ボールペン用水性インク組成物に用いた場合、受け座の摩耗抑制と、分散安定性の両立に更に優れ、本発明の効果が更に好適に発揮することができ、かかる掛合値の所定の範囲は、例えば0.2以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.49以上、更に好ましくは0.7以上であり、例えば450以下、好ましくは210以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは70以下である。
【0030】
これらの所定の新モース硬度等を有する微粒子の含有量は、インク組成物全量に対して、0.001~5質量%、より好ましくは、0.1~2質量%が望ましい。
この微粒子の含有量が、0.001質量%以上とすることにより、更なる十分な受け座摩耗抑制が得られ、一方、5質量%以下であると、筆記感を低下することなく、更なる十分な受け座摩耗抑制が得られることとなる。
【0031】
更に、本発明では、HLB値15以上のノニオン系界面活性剤を含有することが望ましい。
本発明における「HLB値」は、グリフィン法〔HLB値=20×(MW/M)、MW:親水部分の分子量、M:分子量〕から求めることができる。
用いるHLB値15以上のノニオン系界面活性剤は、水系になじみやすく、上述の所定範囲(5~1000μm)の軟凝集体の作製が効率的に形成することができるものとなる。
用いることができるノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、有機アミンのポリアルキレンオキシド付加物、ジグリセリンポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが挙げられ、これらはHLB値15以上のものが使用でき、特に好ましくはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを用いることが、経時安定性の点からより好ましい。
【0032】
上記のHLB15以上のノニオン界面活性剤は、市販品では、例えば、ソルスパース27000(以上、日本ルーブリゾール社製)、エパン680(以上、第一工業製薬社製)、MM-750、MCA-750、10G-L(以上、阪本薬品工業社製)、エマルゲン120、同150、同430、同A-500、アミート320(以上、花王社製)などの1種叉は2種以上が使用可能である。
【0033】
これらのノニオン系界面活性剤の含有量は、インク組成物全量に対して、0.01~10質量%、より好ましくは、0.2~5質量%が望ましい。
このノニオン系界面活性剤の含有量が、0.01質量%以上とすることにより、上記の軟凝集体の分散安定性が高める効果が得られ、一方、5質量%以下であると、経時的な粘度変化を抑えられる効果に期待ができる。
【0034】
本発明のボールペン用水性インク組成物には、少なくとも、着色剤と、発酵セルロースと、水とを含み、前記発酵セルロースはインク組成物中で粒径が5~1000μmとなる軟凝集体となっており、該軟凝集体中に着色剤が分散していることを特徴とするものであり、更に、樹脂エマルジョン、新モース硬度が7以上の微粒子、HLB値が15以上のノニオン系界面活性剤の少なくとも1つを更に含むことが好ましいものであり、その他に、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、水溶性溶剤、潤滑剤、増粘剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
【0035】
用いることができる水溶性溶剤は、インクとしての種々の品質、例えば、低温時でのインク凍結防止や、ペン先でのインク乾燥防止などの目的で使用するものである。具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。この水溶性溶剤の含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは、1~40質量%とすることが望ましい。
【0036】
用いることができる潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、リン酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
用いることができる増粘剤としては、公知のものが使用でき、具体的には、アルカリ膨潤会合型エマルション、アルカリ膨潤型エマルション、セルロース誘導体、キサンタンガム、サクシノグリカンなどの多糖類群、架橋型アクリル酸重合体、結晶セルロース、レオザンガム、ジェランガム、モンモリロナイト系粘土鉱物等無機系の増粘剤などから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0037】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、チアゾリン系化合物、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
上記潤滑剤、増粘剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などの各成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる。
【0038】
本発明のボールペン用水性インク組成物は、他の水性インク組成物の製造方法と比べて特に変わるところはなく製造することができる。
すなわち、本発明のボールペン用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、発酵セルロースと、水と、好ましい各成分やその他の成分をミキサー等、更に、例えば、強力な剪断を加えることができるビーズミル、ホモミキサー、ホモジナイザー等を用いて撹拌条件を好適な条件に設定等して混合撹拌することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によってボールペン用水性インク組成物を製造することができる。
また、本発明のボールペン用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0039】
本発明のボールペン用水性インク組成物は、ボールペンチップなどのペン先部を備えたボールペンに搭載される。
本発明におけるボールペンとしては、例えば、上記組成のボールペン用水性インク組成物を直径が0.18~2.0mmのボールを備えたボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、該インク収容体内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等がインク追従体として収容されるものが挙げられる。直径が上記範囲のボールを備えたものであれば、用いる水性ボールペンの構造などは、特に限定されず、特に、上記水性インク組成物をポリプロピレン製の樹脂製チューブのインク収容管に充填し、先端のステンレスチップ(ボールは超鋼合金)を有するリフィールの水性ボールペンに仕上げたものが望ましい。
更に、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成のボールペン用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペンであってもよいものである。
本発明では、特に、直径が0.18~1.0mmのボールを有する水性ボールペンに用いた場合に、受け座の摩耗抑制に期待ができ、好適である。
【0040】
このように構成される本発明のボールペン用水性インク組成物が、何故、筆記性能を低下させることなく、直流防止効果と経時安定性を高度に両立したボールペン用水性インク組成物となるかについては、以下のように推測される。
すなわち、本発明のボールペン用水性インク組成物は、少なくとも、着色剤と、発酵セルロースと、水とを含み、前記発酵セルロースはインク中で粒径が5~1000μm程の柔軟な凝集体(軟凝集体)を形成し、該軟凝集体中に着色剤が分散しているものであり、筆記する場合に生じるボールとチップホルダーの間のインクに剪断力がかかる状態では、軟凝集体が容易に崩れて流動性を持つが、一方、筆記をしていない場合、つまりインクに剪断力がかからない状態においては、三次元の網目構造を形成し、嵩高い不定形の軟凝集体形状を維持するため、落下などの過酷な条件下でも、ホルダーとボールの隙間から、インクが垂れたり漏れたりする直流防止効果に優れ、しかも、筆記性能を低下させることなく、インクの経時安定性にも優れたボールペン用水性インク組成物、並びに、このインク組成物を搭載したボールペンが得られることとなる。
【実施例0041】
次に、ボールペン用水性インク組成物及びこれを搭載したボールペンの実施例1~12及び比較例1~5により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1~12及び比較例1~5〕
下記表1に示す配合処方(着色剤、発酵セルロース、樹脂エマルジョン、微粒子、ノニオン系界面活性剤、その他の成分の組み合わせ)にしたがって、撹拌機〔井上製作所社製、MAX MIXER〕を用いて、撹拌速度、撹拌時間、温度等を適宜調整して、各ボールペン用水性インク組成物を調製した。
得られた各ボールペン用水性インク組成物(全量100質量%)について、上述の方法により軟凝集体が作製される場合はその粒径を光学顕微鏡にて測定した。
また、得られた各ボールペン用水性インク組成物について、下記評価方法により、インクの経時的安定性、並びに、下記構成のボールペンに各インク組成物を搭載して、ペン体の経時安定性、耐直流防止性の各評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0043】
(インクの経時的安定性の評価方法)
各インク組成物を25℃、相対湿度60%の環境下において、500mlガラス製マヨ瓶に入れて2箇月保管した。その後、最上部と最下部からインクを抜き取り光学顕微鏡で観察した。最上部と比較して最下部に軟凝集体が見られない場合は、上部に軟凝集体が浮上して安定性が劣ると判断した。
上記の後、以下の評価基準により評価した。
評価基準:
A:最上部と最下部に差がない
B:最下部の軟凝集体が最上部と比較して若干少ない
C:最下部に軟凝集体が全く観察されず、最上部に多く観察される。
【0044】
(ボールペンの構成)
三菱鉛筆社製のUMN-103に搭載するチューブ(共に内径4.7mmのPP製チューブ)及びポリプロピレン製継手部材に各ボール径(0.18mm超合金製ボール、又は1.0mm超合金製ボール)のボールペンチップを搭載し、上記の各水性インク組成物を充填し、インク追従体としてポリブテンを充填し、遠心処理(500G、5分)にて脱泡した後に各ボール径の水性ボールペンに組立後、下記に示す各種の筆記試験を行った。
【0045】
(ペン体の経時安定性)
ペン先を下向きにした状態で、温度50℃、湿度65%の条件下で、期間12週間保管した水性ボールペンについて、下記方法にて試験を行った。リフィル内の上部と下部からインクを抜き取り、光学顕微鏡で観察した。
上記の後、以下の評価基準により評価した。
評価基準:
A:最上部と最下部に差がない
B:最下部の軟凝集体が最上部と比較して若干少ない
C:最下部に軟凝集体が全く観察されず、最上部に多く観察される。
【0046】
(耐直流防止性の評価方法)
上記で得られた各水性ボールペン体を、25℃、相対湿度60%の環境下において、キャップを外した状態で筆記先端を下向きに1日放置し、筆記先端から漏れ出した程度により、下記基準で評価した。
評価基準:
A:全く漏れない又はボールペンチップが僅かに汚れる程度
B:ボールペンチップ周りに液滴ができるがそれ以上には進行せず
C:液滴が大きくなり進行途中であるが垂れず
D:ボールペンチップより液が滴り落ちる
【0047】
【表1】
【0048】
上記表1中の*1~*5は、下記のとおりである。
*1:三菱ケミカル社製、平均粒子径0.1μm
*2:青色着色樹脂粒子、平均粒子径1.2μm
*3:赤色熱変色粒子、平均粒子径3.0μm、消色温度60℃
*4:KELZAN AR(三晶社製)
*5:RD-510Y(東邦化学工業社製)
【0049】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1~12のボールペン用水性インク組成物を搭載したボール径が相違する2種の各水性ボールペンは、本発明の範囲外となる比較例1~5に較べ、インクの経時的安定性、ペン体の経時安定性、耐直流防止性に優れることが判った。
比較例を個別的にみると、比較例1及び3は、軟凝集体が形成されないボールペン用水性インク組成物であり比較例2、4及び5は、軟凝集体が形成されていても、その粒径が1000μm超過のものであると、本発明の効果であるインクの経時的安定性、ペン体の経時安定性、耐直流防止性の何れか1つ以上が著しく劣るものであった。