(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008962
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】クローラ走行装置
(51)【国際特許分類】
B62D 55/092 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B62D55/092
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111624
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】福田 功貴
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋也
(57)【要約】
【課題】前部転輪を支持する前支持部と後部転輪を支持する後支持部とが揺動フレームで繋がれた転輪に対して、グリースの給排作業等を行い易くする。
【解決手段】転輪支持装置8が、前部転輪7Fを回動自在に支持する前支持部8Fと、後部転輪7Rを回動自在に支持する後支持部8Rと、前支持部8Fと後支持部8Rを繋ぐ揺動フレーム80と、を備え、前支持部8Fに、前部転輪7Fの左右方向での外方側からグリースを注入可能な横向き第一グリス通路r1が形成され、後支持部8Rに、後部転輪7Rの左右方向での外方側からグリースを注入可能な横向き第二グリス通路r2が形成され、揺動フレーム80内に、横向き第一グリス通路r1から前後方向での後方側へ向かう第三グリス通路r3と、横向き第二グリス通路r2から前後方向での前方側へ向かう第四グリス通路r4と、が形成されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に装着されるクローラベルトと、
前記クローラベルトの内周面に内接する複数の転輪と、
長手方向が前記走行機体の前後方向に沿う状態で延設されたトラックフレームと、
前記トラックフレームに対して前記転輪を支持させる転輪支持装置と、が備えられ、
前記転輪が、前後方向での前方側に位置して左右方向に沿う回転軸心周りで回動する前部転輪と、前後方向での後方側に位置して左右方向沿う回転軸心周りで回動する後部転輪と、を備え
前記転輪支持装置が、前記前部転輪を前記回転軸心周りで回動自在に支持する前支持部と、前記後部転輪を前記回転軸心周りで回動自在に支持する後支持部と、前記前支持部と前記後支持部を繋ぐ揺動フレームと、を備え、
前記揺動フレームが、前記トラックフレームに対して、前記前支持部と前記後支持部との中間に位置して左右方向に沿う揺動軸心周りで揺動可能に支持され、
前記前支持部に、前記回転軸心に沿う方向で前記前部転輪の左右方向での外方側からグリースを注入可能な横向き第一グリス通路が形成され、
前記後支持部に、前記回転軸心に沿う方向で前記後部転輪の左右方向での外方側からグリースを注入可能な横向き第二グリス通路が形成され、
前記揺動フレーム内に、前記前支持部に形成された前記横向き第一グリス通路から前後方向での後方側へ向かう第三グリス通路と、前記後支持部に形成された前記横向き第二グリス通路から前後方向での前方側へ向かう第四グリス通路と、が形成されているクローラ走行装置。
【請求項2】
前記第三グリス通路と、前記第四グリス通路と、は、互いに連通する一連の通路で形成されたものである請求項1記載のクローラ走行装置。
【請求項3】
前記転輪は、前記回転軸心に沿う左右方向で前記走行機体の内方側に位置する内側輪体と、前記走行機体の外方側に位置する外側輪体と、を備えている請求項1記載のクローラ走行装置。
【請求項4】
前記クローラベルトの内周面に内接する前記外側輪体の左右方向での幅が、前記内側輪体の左右方向での幅よりも大きく形成されている請求項3記載のクローラ走行装置。
【請求項5】
前記外側輪体のハブ部における肉厚が、前記内側輪体におけるハブ部の肉厚よりも大きく形成されている請求項4記載のクローラ走行装置。
【請求項6】
前記揺動フレームの前後方向での中間箇所に、前記第三グリス通路、又は前記第四グリス通路に到達したグリースの余剰分が溢れ出ることを許容する溢れ出し部が設けられている請求項1~5のいずれか一項記載のクローラ走行装置。
【請求項7】
前記溢れ出し部は、前後方向で前記揺動軸心に近い箇所に設けられている請求項6記載のクローラ走行装置。
【請求項8】
前記溢れ出し部は、前記第三グリス通路内、又は前記第四グリス通路内に存在していた空気を排出可能なブリーザーである請求項6記載のクローラ走行装置。
【請求項9】
前記ブリーザーは、前記揺動フレームの前後方向での中間箇所における上面部位に排出口が設けられたものである請求項8記載のクローラ走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の左右に配置されたクローラベルトと、クローラベルトの内周面に内接する複数の転輪を備えるとともに、前方側に位置する前部転輪を支持する前支持部と、後方側に位置する後部転輪を支持する後支持部と、を繋ぐ揺動フレームを備え、揺動フレームが、トラックフレームに対して、前支持部と後支持部との中間位置において左右方向に沿う揺動軸心周りで揺動可能に支持されたクローラ走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前部転輪を支持する前支持部と、後方側に位置する後部転輪を支持する後支持部と、の夫々に対して潤滑用のグリースを供給するためのグリース供給構造が設けられている。
このグリース供給構造は、前支持部の前端箇所にグリースニップルが設けられ、揺動フレームの内部には前後方向に沿うグリース通路が設けられ、後支持部に排出用の開口を閉塞する油栓が設けられている。
この種のクローラ走行装置では、前支持部の前端箇所に設けられたグリースニップルを介してグリースを注入する作業、及び後支持部の開口を閉塞する油栓を取り外して開口からグリースが溢れ出すか否かを確認する作業を、前後方向の並ぶ転輪同士の狭い間隔内で行う必要があるため、効率良く行い難い傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に示される先行技術では、グリースニップルが前支持部の前端箇所に設けられ、排出用の開口を閉塞する油栓が後支持部の後端箇所に設けられている。
そして、複数の転輪は、走行路面に対するクローラベルトの接地圧が、転輪の存在箇所のみに集中せずに、クローラベルトの接地面の全体に分散されて平均化された状態に近くなるように、前後方向における転輪同士の配設間隔を、比較的狭い所定間隔に設定している。
したがって、複数の転輪のうち、特定箇所の転輪を基準として、その特定箇所の前部転輪とそれよりも前方箇所の転輪の後部転輪との間隔、及び、前記特定箇所の転輪の後部転輪とそれよりも後方箇所の転輪の前部転輪との間隔は、かなり狭くなり易い傾向がある。
このため、前後の転輪同士の狭い前後方向の間隔にグリースガンを差し込んでグリースの注入を行う作業や、排出用の開口を閉塞する油栓の脱着作業がかなり煩わしいものとなり易い。
【0005】
本発明は、前部転輪を支持する前支持部と後部転輪を支持する後支持部とが揺動フレームで繋がれた転輪に対するグリースの給排作業等を行い易くしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のクローラ走行装置は、
走行機体に装着されるクローラベルトと、
前記クローラベルトの内周面に内接する複数の転輪と、
長手方向が前記走行機体の前後方向に沿う状態で延設されたトラックフレームと、
前記トラックフレームに対して前記転輪を支持させる転輪支持装置と、が備えられ、
前記転輪が、前後方向での前方側に位置して左右方向に沿う回転軸心周りで回動する前部転輪と、前後方向での後方側に位置して左右方向沿う回転軸心周りで回動する後部転輪と、を備え
前記転輪支持装置が、前記前部転輪を前記回転軸心周りで回動自在に支持する前支持部と、前記後部転輪を前記回転軸心周りで回動自在に支持する後支持部と、前記前支持部と前記後支持部を繋ぐ揺動フレームと、を備え、
前記揺動フレームが、前記トラックフレームに対して、前記前支持部と前記後支持部との中間に位置して左右方向に沿う揺動軸心周りで揺動可能に支持され、
前記前支持部に、前記回転軸心に沿う方向で前記前部転輪の左右方向での外方側からグリースを注入可能な横向き第一グリス通路が形成され、
前記後支持部に、前記回転軸心に沿う方向で前記後部転輪の左右方向での外方側からグリースを注入可能な横向き第二グリス通路が形成され、
前記揺動フレーム内に、前記前支持部に形成された前記横向き第一グリス通路から前後方向での後方側へ向かう第三グリス通路と、前記後支持部に形成された前記横向き第二グリス通路から前後方向での前方側へ向かう第四グリス通路と、が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、グリースを注入可能な横向き第一グリス通路や横向き第二グリス通路が、前部転輪の左右方向での外方側から、あるいは後部転輪の左右方向での外方側からグリースを注入可能であるように構成されている。
これにより、転輪同士の狭い前後方向の間隔にグリースガンを差し込んでグリースの注入作業を行ったり、排出用の開口を閉塞する油栓の脱着作業を行ったりする必要が無い。したがって、左右方向での外方側からグリースを注入することが可能であり、グリースの注入作業や油栓の脱着作業を、前後の転輪の存在によって制限されることなく、左右方向での外方側における広い空間で作業性良く行うことができ、作業の簡便化を図り得る利点がある。
【0008】
また、転輪の左右方向での外方側から注入されたグリースは、前部転輪の回転軸心に沿う横向き第一グリス通路や、後部転輪横向きの回転軸心に沿う横向き第二グリス通路に注入されるのみならず、揺動フレーム内に形成された前後方向の第三グリス通路や第四グリス通路にも注入される。
したがって、前支持部と後支持部を繋ぐ揺動フレームの内部空間をも、転輪の左右方向での外方側からグリースを注入可能な横向き第一グリス通路や横向き第二グリス通路とともに、グリースを貯蔵する空間に有効利用して、転輪支持装置内に多くのグリースを貯留させておくことができるので、メンテナンス頻度を節減し易くなる点でも有用である。
【0009】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記第三グリス通路と、前記第四グリス通路と、は、互いに連通する一連の通路で形成されたものである。
【0010】
この手段によると、第三グリス通路と第四グリス通路とが非連通状態である場合に比べて、横向き第一グリス通路や横向き第二グリス通路からのグリース注入の際、第三グリス通路や第四グリス通路へのグリース貯蔵量を調整しながら注入する必要がなく、迅速な作業を行い易い。
【0011】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記転輪は、前記回転軸心に沿う左右方向で前記走行機体の内方側に位置する内側輪体と、前記走行機体の外方側に位置する外側輪体と、を備えている。
【0012】
この手段によると、内側輪体と外側輪体とを備えて、軸線方向長さが長くなり易い前支持部及び後支持部に対しても、グリース注入を的確に行える。
【0013】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記クローラベルトの内周面に内接する前記外側輪体の左右方向での幅が、前記内側輪体の左右方向での幅よりも大きく形成されている。
【0014】
この手段によると、外側輪体の左右方向での幅が、前記内側輪体の左右方向での幅よりも大きく形成されているので、転輪による左右方向での接地面積を極力広く確保し易い。
【0015】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記外側輪体のハブ部における肉厚が、前記内側輪体におけるハブ部の肉厚よりも大きく形成されている。
【0016】
この手段によると、内側輪体よりもハブ部における肉厚が大きい外側輪体のハブ部に、横向き第一グリス通路や横向き第二グリス通路を形成することで、内側輪体のハブ部に横向き第一グリス通路や横向き第二グリス通路を形成する場合よりも、前支持部及び後支持部の強度を高く保ち易い。
【0017】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記揺動フレームの前後方向での中間箇所に、前記第三グリス通路、又は前記第四グリス通路に到達したグリースの余剰分が溢れ出ることを許容する溢れ出し部が設けられている。
【0018】
この手段によると、溢れ出し部が揺動フレームの前後方向での中間箇所に設けられているので、溢れ出し部からのグリースの溢れ出しを見て、左右方向での外方側から注入されたグリースが、第三グリス通路、又は第四グリス通路内に対して満杯状態に充填されたことを認知することができる。したがって、従来のように転輪の前支持部の前方側でグリースニップルに注入する作業を行いながら、後支持部の後方側において油栓を外した開口を後方から覗き込んでグリースが溢れ出すことを確認するようにした構造のものに比べて、溢れ出し部からのグリースの溢れ出しを容易に、かつ迅速に視認することができる。
【0019】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記溢れ出し部は、前後方向で前記揺動軸心に近い箇所に設けられている。
【0020】
この手段によると、溢れ出し部は、前後方向で揺動フレームの揺動軸心に近い箇所に設けられているので、左右方向で走行機体の外方側からの視認の際に、転輪の存在によって溢れ出し部の存在箇所が遮られるおそれは無く、より一層視認し易くなる。
【0021】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記溢れ出し部は、前記第三グリス通路内、又は前記第四グリス通路内に存在していた空気を排出可能なブリーザーである。
【0022】
この手段によると、ブリーザーとしての、グリースからの空気の排出を行い易く、かつ、余剰分のグリースの溢れ出し状態も視認することができる。
【0023】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記ブリーザーは、前記揺動フレームの前後方向での中間箇所における上面部位に排出口が設けられたものである。
【0024】
この手段によると、溢れ出し部は、揺動フレームの前後方向での中間箇所における上面部位に設けられているので、左右方向で走行機体の外方側からの視認をより一層良好に行い易い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図3】左側のクローラ走行装置に備えた転輪の揺動軸心箇所における左右方向での縦断背面図
【
図4】左側のクローラ走行装置に備えた転輪の揺動フレームに沿う箇所における前後方向での縦断側面図
【
図5】左側のクローラ走行装置における転輪の横断平面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明にかかるクローラ走行装置の実施形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
尚、本実施形態での説明における前後方向及び左右方向は、特段の説明がない限り、次のように記載している。つまり、本発明のクローラ走行装置を適用した自脱型コンバインの走行時における前進側の進行方向(
図1における矢印F参照)が「前」、後進側への進行方向(
図1における矢印B参照)が「後」、その前後方向での前向き姿勢を基準としての右側に相当する方向(
図2における矢印R参照)が「右」、同様に左側に相当する方向(
図2における矢印L参照)が「左」である。また、図中における矢印Uは「上」方向、矢印Dは「下」方向を示している。
【0027】
〔コンバインの全体構成〕
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、左右一対のクローラ走行装置1,1によって支持された機体フレーム2を備えている。機体フレーム2上に、運転キャビン搭乗型の運転部3と、原動部(図外)とが配設されることにより自走機体を構成している。運転部3は、運転キャビン3Aの内部に操縦部(図示せず)、及び運転座席3Bを備えている。原動部は運転座席3Bの下方に設けられている。
機体フレーム2の前部に、刈取前処理部4の前処理部フレーム4Aの基端側が、機体横向きの軸芯回りで回動自在に連結されている。刈取前処理部4よりも後方の機体フレーム2上に、刈り取られた作物を脱穀処理する脱穀装置5、および穀粒タンク6が搭載されて、自脱型コンバインとして用いられる。
【0028】
この自脱型コンバインは、稲・麦などの穀粒を収穫するものである。
刈取前処理部4は、前処理部フレーム4Aに連結している油圧式のリフトシリンダ10の伸縮作動により、地面上近くまで下降した作業位置と、地面上から高く浮上した上昇非作業位置とに昇降操作可能に構成されている。
刈取前処理部4を下降作業位置にして自走機体を走行させることにより、刈取前処理部4が刈取り対象の複数の植付け条の植立茎稈を引起し装置4Bによって各別に引起し処理するとともに、バリカン型の刈取装置4Cによって刈取り処理する。刈取り穀稈を株元側に作用する挟持搬送装置と穂先側に作用する係止搬送装置とで成る搬送装置11によって機体後方側に搬送する。搬送装置11からの刈取穀稈を脱穀フィードチェン12によって機体後方向きに搬送しながら穂先側を扱室(図示せず)に供給して脱穀処理し、穀粒タンク6に脱穀装置5からの脱穀粒を回収して貯留していく。
【0029】
〔クローラ走行装置〕
自走機体の左側に配置されたクローラ走行装置1と右側に配置されたクローラ走行装置1は、左右対称に構成されている。この実施形態では、便宜上、右側のクローラ走行装置1については説明を省略し、左側のクローラ走行装置1を図面に基づいて説明する。
図1、
図2に示すように、機体フレーム2の前端側にミッションケース20が固定されており、このミッションケース20から左右両側に突出させた駆動軸20aに駆動スプロケット21が設けられている。
【0030】
機体フレーム2の下方には、左横側部に前後一対の揺動リンク13,14を介して、上下位置変更可能に連結した機体前後向きのトラックフレーム15が設けられている。
このトラックフレーム15には、このトラックフレーム15の長手方向に並んで遊転自在に支持された複数個の接地用の転輪7が設けられている。トラックフレーム15の後端部には張力調整用ボルト16aを介して緊張用遊転輪16が設けられている。さらに、機体フレーム2の前後方向の中間部に取付けたブラケット2aに、トラックフレーム15よりも高い位置で、後述するクローラベルト23の内周面を下方側から支持する上部遊転輪22が設けられている。
これらの駆動スプロケット21と、各転輪7と、前記緊張用遊転輪16と、上部遊転輪22と、にわたって、ゴム製のクローラベルト23を巻回してある。
【0031】
図2に示すように、前後の揺動リンク13,14のうち、前方側に位置するベルクランク状の揺動リンク13の上端部に、複動形の油圧式昇降シリンダ18のピストンロッドが連結されている。同様に、後方側に位置するベルクランク状の揺動リンク14の上端部に、複動形の油圧式昇降シリンダ17のピストンロッドが連結されている。
この構造では、油圧式昇降シリンダ17,18が伸縮駆動操作されると、機体フレーム2に備えられた左右方向の横軸心P1,P2回りで、前後の揺動リンク13,14が機体フレーム2に対して揺動操作される。これにより、トラックフレーム15が機体フレーム2に対して相対的に昇降作動するように設けられている
【0032】
〔転輪〕
図2乃至
図5に示されるように、接地用の転輪7は、転輪支持装置8を介してトラックフレーム15に支持されている。
転輪7は、前後方向での前方側に位置して左右方向沿う回転軸心P3周りで回動する前部転輪7Fと、前後方向での後方側に位置して左右方向沿う回転軸心P4周りで回動する後部転輪7Rと、を備えている。
前部転輪7F、及び後部転輪7Rのそれぞれは、前記回転軸心P3,P4に沿う左右方向で、自走機体の内方側に位置する内側輪体71と、自走機体の外方側に位置する外側輪体72と、を備えている。
内側輪体71と外側輪体72とは、これらの内側輪体71と外側輪体72とを支持する回転支軸として、長さ方向の中央部が大径の段付き支軸70が用いられ、この段付き支軸70を介して、左右で一体回動するように連結されている。この段付き支軸70の軸心が、前記回転軸心P3、及び回転軸心P4となる。
段付き支軸70は、内側輪体71と外側輪体72とを連結して一体回動するようにした点では、転輪7の構成要素の一部となっているが、内側輪体71と外側輪体72とを回転自在に支持するものであるから、転輪支持装置8の一部を兼ねるものでもある。
【0033】
転輪支持装置8は、前部転輪7Fの段付き支軸70を回動自在に枢支する前支持部8Fと、後部転輪7Rの段付き支軸70を回動自在に枢支する後支持部8Rと、それらの前支持部8Fと後支持部8Rとを繋ぐ揺動フレーム80と、を備えている。
前支持部8F及び後支持部8Rは、同一形状に構成されており、
図3に前支持部8Fにおける回転軸心P3に沿う方向での上下方向での断面を示し、後支持部8Rについては図示を省略している。
この前支持部8Fは、段付き支軸70を回動自在に保持するボールベアリング82、及びそのボールベアリング82に外嵌する状態で段付き支軸70を介して、内側輪体71及び外側輪体72を支持する筒状のボス部材81を備えている。
後支持部8Rも同様に、段付き支軸70を回動自在に保持するボールベアリング82、及びそのボールベアリング82に外嵌する状態で段付き支軸70を介して、内側輪体71及び外側輪体72を支持する筒状のボス部材81を備えている。
【0034】
ボス部材81を備える前支持部8Fと、ボス部材81を備える後支持部8Rとは、
図4及び
図5に示すように、揺動フレーム80によって一体に接続されている。
また、前支持部8Fと後支持部8Rとにわたって、揺動フレーム80の下方に位置する脱輪防止用の橇状ガイド83が一体に設けられている。これらの、前支持部8Fと後支持部8Rとに備えられるボス部材81,81と、揺動フレーム80、及び橇状ガイド83は、一体に鋳造成型されている。
【0035】
揺動フレーム80には、前後方向における前支持部8Fと後支持部8Rとの中間位置に、左右方向に沿う筒軸心を有したボス部84が設けられている。
このボス部84は、トラックフレーム15に固定された左右方向の揺動支点軸19に外嵌するように構成されている。したがって、ボス部84を揺動支点軸19に外嵌させることによって、揺動フレーム80を、トラックフレーム15に固定された揺動支点軸19の軸心を揺動軸心P5として、天秤状に上下揺動可能に支持されている。
【0036】
前部転輪7F及び後部転輪7Rのそれぞれを構成する内側輪体71と外側輪体72とは、
図3及び
図5に示すように、クローラベルト23の内周面に内接する外側輪体72の左右方向での幅w2が、内側輪体71の左右方向での幅w1よりも大きく形成されている。また、外側輪体72は、ハブ部72aにおける肉厚t2が、内側輪体71におけるハブ部71aの肉厚t1よりも大きく形成されている。
【0037】
〔潤滑路〕
接地用の転輪7における潤滑は次のようにして行われている。
図3乃至
図5に示されているように、転輪7の内部には、グリースを注入するための潤滑路Grが形成されている。
【0038】
潤滑路Grは、前部転輪7Fの左右方向での外方側において、前支持部8Fの一部を兼ねる段付き支軸70の外端部からグリースを注入可能な横向き第一グリス通路r1と、後部転輪7Rの左右方向での外方側において、後支持部8Rの一部を兼ねる段付き支軸70の外端部からグリースを注入可能な横向き第二グリス通路r2と、横向き第一グリス通路r1から前後方向での後方側へ向かう第三グリス通路r3と、横向き第二グリス通路r2から前後方向での前方側へ向かう第四グリス通路r4と、を備えている。
さらに、前支持部8Fにおいて、段付き支軸70を支持する左右のボールベアリング82同士の間に形成された前部グリス溜まりs1と、後支持部8Rにおいて、段付き支軸70を支持する左右のボールベアリング82同士の間に形成された後部グリス溜まりs2と、揺動フレーム80の前後方向での中間箇所において、揺動支点軸19の外周面とボス部84の内周面との間に形成される中間グリス溜まりs3と、を備えている。
【0039】
横向き第一グリス通路r1、及び横向き第二グリス通路r2は、段付き支軸70の外端部から、前部グリス溜まりs1及び後部グリス溜まりs2の左右方向での中間部相当箇所にわたる範囲で、段付き支軸70の回転軸心P3,P4に沿って形成されている。また、横向き第一グリス通路r1、及び横向き第二グリス通路r2は、回転軸心P3,P4に沿う方向視で、回転軸心P3,P4が横向き第一グリス通路r1、及び横向き第二グリス通路r2内に含まれるように、段付き支軸70の軸中心部に形成されているが、必ずしも、軸中心部に限らず、多少、回転軸心P3,P4から外れた偏心した位置に形成されるものであっても差し支えない。
【0040】
図5に示されるように、上記の横向き第一グリス通路r1、及び横向き第二グリス通路r2の外端部、すなわち、段付き支軸70の外端部には、グリースニップル73が装着されている。このグリースニップル73は、機体フレーム2に装着された状態のクローラ走行装置1において、左右方向で横外方側に向く外側輪体72の横外側箇所に位置する状態で設けられている。グリースニップル73が突出する段付き支軸70の外端部には、グリースニップル73に外側から被さる状態でキャップ74が設けられている。このキャップ74は、段付き支軸70に対して脱着可能であり、金属製又は樹脂製の部材で構成されている。
したがって、キャップ74を外して、グリースニップル73が存在するところの、転輪7の横外側箇所から、横向き第一グリス通路r1、及び横向き第二グリス通路r2に対してグリースを注入する作業を行うことができる。尚、キャップ74は備えていないものであっても差し支えない。
【0041】
グリースニップル73から、横向き第一グリス通路r1、及び横向き第二グリス通路r2に注入されたグリースは、横向き第一グリス通路r1、及び横向き第二グリス通路r2の内端部から段付き支軸70の半径方向外方に向かう連通路r5を経て、前部グリス溜まりs1、及び後部グリス溜まりs2へ供給される。
前部グリス溜まりs1、及び後部グリス溜まりs2へ供給されたグリースが、段付き支軸70を回転自在に支持する左右のボールベアリング82,82に対して的確に供給されることになる。
【0042】
前部グリス溜まりs1、及び後部グリス溜まりs2へ供給されたグリースの量が、前部グリス溜まりs1、及び後部グリス溜まりs2の容量を越えると、その容量を越えたグリースが、第三グリス通路r3、及び第四グリス通路r4を経て、中間グリス溜まりs3へ供給される。
中間グリス溜まりs3を構成する揺動支点軸19の外周面とボス部84の内周面とのうち、ボス部84の上方箇所には、余剰分のグリースが外部へ溢れ出すことを許容する溢れ出し部としてのブリーザー85が設けられている。このブリーザー85が設けられている箇所は、揺動フレーム80の揺動支点となるところの、揺動支点軸19の軸心である揺動軸心P5の直上箇所など、前後方向で揺動軸心P5に近い箇所である。
このように、ブリーザー85が揺動軸心P5に近い箇所に設けられることで、余剰分のグリースの外部へ溢れ出しを、多くの転輪7の存在によって目視を妨げられる可能性の少ない状態で容易に検出することができる。
【0043】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態について説明する。下記の各別実施形態は、矛盾が生じない限り、複数組み合わせて上記実施形態に適用してもよい。尚、本発明の範囲は、これらの実施形態の内容に限定されるものではない。
【0044】
(1)上述した実施形態では、転輪7の前部転輪7F、及び後部転輪7Rのそれぞれを、内側輪体71と、外側輪体72との組み合わせで構成した構造のものを例示したが、必ずしもこのような構造に限定されるものではない。
例えば、内側輪体71と外側輪体72とが一体に構成されたものであっても差し支えない。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0045】
(2)上述した実施形態では、外側輪体72の左右方向での幅w2が、内側輪体71の左右方向での幅w1よりも大きく形成された構造のものを例示したが、必ずしもこのような構造に限定されるものではない。
例えば、逆に内側輪体71の左右方向での幅w1が、外側輪体72の左右方向での幅w2よりも大きく形成された構造のものであったり、内側輪体71の左右方向での幅w1と外側輪体72の左右方向での幅w2を同等に形成したものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0046】
(3)上述した実施形態では、外側輪体72のハブ部72aにおける肉厚t2が、内側輪体71におけるハブ部71aの肉厚t1よりも大きく形成された構造のものを例示したが、必ずしもこのような構造に限定されるものではない。
例えば、逆に内側輪体71におけるハブ部71aの肉厚t1が、外側輪体72のハブ部72aにおける肉厚t2よりも大きく形成された構造のものであったり、内側輪体71におけるハブ部71aの肉厚t1と、外側輪体72のハブ部72aにおける肉厚t2と、が同等であるように形成されたものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0047】
(4)上述した実施形態では、内側輪体71及び外側輪体72を支持する回転支持軸としての段付き支軸70を、ボス部材81との間に介在させたボールベアリング82によって、大きな容積のグリス溜まり用の空間を形成した構造のものを例示したが、これに限らず、例えば、ブッシュを用いて回転支持軸を支持できるようにして、小さな容積のグリス溜まり用の空間を形成するものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0048】
(5)上述した実施形態では、第三グリス通路r3と、第四グリス通路r4と、が互いに連通する一連の通路で形成されたものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、第三グリス通路r3が横向き第一グリス通路r1から前後方向での後方側へ向かい、その終端部に溢れ出し部としての一つのブリーザー85を設け、第四グリス通路r4が横向き第二グリス通路r2から前後方向での前方側へ向かい、その終端部に別の溢れ出し部としての別のブリーザー85を設けたものであっても良い。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0049】
(6)上述した実施形態では、溢れ出し部としてブリーザー85を採用したものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではなく、所定以上に内圧が高まった状態で、余剰分のグリースを排出し得る構造のものであれば、任意の構造のものを採用することができる。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0050】
(7)上述した実施形態では、溢れ出し部としてブリーザー85が、揺動フレーム80の揺動支点となるところの、揺動支点軸19の軸心である揺動軸心P5の直上箇所に設けた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
たとえば、前後方向で揺動軸心P5に近い箇所で、かつ揺動フレーム80の上面側であるのが、望ましいが、揺動フレーム80の長手方向で、前部転輪7Fと、後部転輪7Rとの間に相当する箇所であれば、任意の箇所を選択してもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、クローラ走行装置として、自脱型コンバインに適用したクローラ走行装置を例示したが、これに限らず、普通型コンバインや、トウモロコシ収穫機などの各種収穫機、あるいはトラクタ、建機、ならびに運搬車両など、に用いることが可能なクローラ走行装置に適用できる。
【符号の説明】
【0052】
7 転輪
7F 前部転輪
7R 後部転輪
8 転輪支持装置
8F 前支持部
8R 後支持部
15 トラックフレーム
23 クローラベルト
71 内側輪体
71a ハブ部
t1 肉厚
72 外側輪体
72a ハブ部
t2 肉厚
80 揺動フレーム
85 ブリーザー
P3 回転軸心
P4 回転軸心
P5 揺動軸心
r1 横向き第一グリス通路
r2 横向き第二グリス通路
r3 第三グリス通路
r4 第四グリス通路