(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008984
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】一方向プリプレグの製造方法、一方向プリプレグの製造装置および繊維束の供給方法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20250109BHJP
D02J 1/18 20060101ALI20250109BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
B29B11/16
D02J1/18 A
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111658
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】畑山 明人
(72)【発明者】
【氏名】泉原 沙智
【テーマコード(参考)】
4F072
4L036
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB15
4F072AB22
4F072AG03
4F072AH12
4F072AH13
4F072AH17
4F072AH18
4F072AH19
4F072AH43
4F072AH49
4F072AJ22
4F072AL01
4F072AL02
4F072AL04
4L036MA04
4L036MA33
4L036UA21
(57)【要約】
【課題】並走する複数の扁平な繊維束の間隔を変化させる場合であっても、繊維束が部分的に折りたたまれたり、繊維に折れが生じたりすることを抑制できる一方向プリプレグの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】扁平な連続繊維束1を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て連続繊維束1の扁平面を90°±15°回旋させることを含み、連続繊維束1の走行方向から見て、90°±15°回旋させる前の連続繊維束1の扁平面に対して傾斜して設けられた第1傾斜ガイドロール21Aと、90°±15°回旋させた後の連続繊維束1の扁平面と平行に設けられた第1平行ガイドロール22Aとを用い、連続繊維束1を第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aに順に接触させながら走行させることによって連続繊維束1の扁平面を90°±15°回旋させる、一方向プリプレグの製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺で扁平な繊維束を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させることを含む一方向プリプレグの製造方法であって、
前記繊維束の走行方向から見て、90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対して傾斜して設けられた傾斜ガイドロールと、90°±15°回旋させた後の前記繊維束の扁平面と平行に設けられた平行ガイドロールとを用い、前記繊維束を前記傾斜ガイドロールと前記平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる、一方向プリプレグの製造方法。
【請求項2】
前記繊維束の走行方向から見て、90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対する前記傾斜ガイドロールの傾斜角度が15°以上75°以下である、請求項1に記載の一方向プリプレグの製造方法。
【請求項3】
前記繊維束の初期の幅Wに対する、前記傾斜ガイドロールと前記平行ガイドロールの前記繊維束の走行方向における距離Dの比(D/W)が3以上である、請求項1に記載の一方向プリプレグの製造方法。
【請求項4】
前記繊維束の走行方向から見て、水平でかつ走行方向に垂直な幅方向における、走行する前記繊維束の前記傾斜ガイドロールと接する部分と前記平行ガイドロールと接する部分の中心間距離が10mm以上である、請求項1に記載の一方向プリプレグの製造方法。
【請求項5】
前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる間に接触させる前記傾斜ガイドロールが1つである、請求項1に記載の一方向プリプレグの製造方法。
【請求項6】
前記平行ガイドロールを2つ以上設け、それぞれの前記平行ガイドロールに前記繊維束を順に接触させながら走行させることにより、前記繊維束を所定の位置へ供給することを含む、請求項1に記載の一方向プリプレグの製造方法。
【請求項7】
前記繊維束を開繊させることを含む、請求項1に記載の一方向プリプレグの製造方法。
【請求項8】
前記繊維束が炭素繊維を含む、請求項1に記載の一方向プリプレグの製造方法。
【請求項9】
長尺で扁平な繊維束を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる回旋装置を含む一方向プリプレグの製造装置であって、
前記回旋装置は、前記繊維束の走行方向から見て、90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対して傾斜して設けられた傾斜ガイドロールと、90°±15°回旋させた後の前記繊維束の扁平面と平行に設けられた平行ガイドロールとを備え、前記繊維束を前記傾斜ガイドロールと前記平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる、一方向プリプレグの製造装置。
【請求項10】
前記繊維束の走行方向から見て、90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対する前記傾斜ガイドロールの傾斜角度が15°以上75°以下である、請求項9に記載の一方向プリプレグの製造装置。
【請求項11】
前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる間に接触させる前記傾斜ガイドロールが1つである、請求項9に記載の一方向プリプレグの製造装置。
【請求項12】
前記平行ガイドロールが2つ以上設けられ、それぞれの前記平行ガイドロールに前記繊維束が順に接触しながら走行されることにより、前記繊維束が所定の位置へ供給される、請求項9に記載の一方向プリプレグの製造装置。
【請求項13】
前記繊維束を開繊させる開繊装置をさらに備える、請求項9に記載の一方向プリプレグの製造装置。
【請求項14】
長尺で扁平な繊維束を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させることを含む繊維束の供給方法であって、
走行方向から見て90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対して傾斜して設けられた傾斜ガイドロールと、90°±15°回旋させた後の前記繊維束の扁平面と平行に設けられた平行ガイドロールとを用い、それら前記傾斜ガイドロールと前記平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる、繊維束の供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向プリプレグの製造方法、一方向プリプレグの製造装置および繊維束の供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)、特に繊維補強材として炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量、高強度であり、スポーツ用品や、航空機、自動車等の輸送機器といった様々な用途に幅広く用いられている。FRPは、強化繊維からなる補強材に樹脂を含侵させた中間材料、すなわちプリプレグを使用して製造される。
【0003】
繊維が一方向に揃えられたシート状の繊維束に樹脂を含浸した一方向プリプレグ(UDプリプレグ)は、プリプレグの一種であり、例えば複数のクリールから送り出した繊維束を集合させて並走させつつ開繊し、得られた開繊シートに樹脂シートを積層して樹脂を含浸させることによって得られる。
【0004】
各クリールから送り出された繊維束を集合させて並走させる方法としては、
図12に示すように、繊維束120の走行方向に対して垂直な幅方向に所定の間隔で複数のコーム110を並べて立て、各繊維束120を各コーム110間に誘導することにより、各繊維束120の走行間隔を狭く調整する方法がある。しかし、UDプリプレグの製造に用いられる繊維束120は扁平であり、この方法では扁平面を水平にして送り出された繊維束120の片側部分だけがコーム110に当たるため、走行中の繊維束120が部分的に折りたたまれるといった不具合が生じることがある。
【0005】
図13(A)に示すように、各クリールから扁平面を鉛直方向に立てた状態で繊維束120を送り出し、鉛直方向に立てたガイドロール112で走行する繊維束120を方向転換させ、
図13(B)に示すように、各繊維束120の走行間隔を狭く調整する方法も提案されている(特許文献1)。この方法では、繊維束120の扁平面がガイドロール112に接するため、ガイドロール112に接したときに繊維束120が部分的に折りたたまれることが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のような方法では、開繊は並走する各繊維束120の扁平面を水平にして行うため、並走する繊維束120の鉛直方向に立った扁平面を90°回旋させて水平にする必要がある。このとき、繊維束120に捩じれの力が加わることで、繊維に折れが発生することがある。
【0008】
本発明の目的の一つは、並走する複数の扁平な繊維束の間隔を変化させる場合であっても、繊維束が部分的に折りたたまれたり、繊維に折れが生じたりすることを抑制できる一方向プリプレグの製造方法、一方向プリプレグの製造装置、および繊維束の供給方法を提供することである。また、本発明の目的は、上に挙げたものに加えて、本発明において明示的または黙示的に示される場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を含む。
[1]長尺で扁平な繊維束を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させることを含む一方向プリプレグの製造方法であって、
前記繊維束の走行方向から見て、90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対して傾斜して設けられた傾斜ガイドロールと、90°±15°回旋させた後の前記繊維束の扁平面と平行に設けられた平行ガイドロールとを用い、前記繊維束を前記傾斜ガイドロールと前記平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる、一方向プリプレグの製造方法。
[2]前記繊維束の走行方向から見て、90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対する前記傾斜ガイドロールの傾斜角度が15°以上75°以下である、[1]に記載の一方向プリプレグの製造方法。
[3]前記繊維束の初期の幅Wに対する、前記傾斜ガイドロールと前記平行ガイドロールの前記繊維束の走行方向における距離Dの比(D/W)が3以上である、[1]又は[2]に記載の一方向プリプレグの製造方法。
[4]前記繊維束の走行方向から見て、水平でかつ走行方向に垂直な幅方向における、走行する前記繊維束の前記傾斜ガイドロールと接する部分と前記平行ガイドロールと接する部分の中心間距離が10mm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の一方向プリプレグの製造方法。
[5]前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる間に接触させる前記傾斜ガイドロールが1つである、[1]~[4]のいずれかに記載の一方向プリプレグの製造方法。
[6]前記平行ガイドロールを2つ以上設け、それぞれの前記平行ガイドロールに前記繊維束を順に接触させながら走行させることにより、前記繊維束を所定の位置へ供給することを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の一方向プリプレグの製造方法。
[7]前記繊維束を開繊させることを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の一方向プリプレグの製造方法。
[8]前記繊維束が炭素繊維を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の一方向プリプレグの製造方法。
[9]長尺で扁平な繊維束を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる回旋装置を含む一方向プリプレグの製造装置であって、
前記回旋装置は、前記繊維束の走行方向から見て、90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対して傾斜して設けられた傾斜ガイドロールと、90°±15°回旋させた後の前記繊維束の扁平面と平行に設けられた平行ガイドロールとを備え、前記繊維束を前記傾斜ガイドロールと前記平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる、一方向プリプレグの製造装置。
[10]前記繊維束の走行方向から見て、90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対する前記傾斜ガイドロールの傾斜角度が15°以上75°以下である、[9]に記載の一方向プリプレグの製造装置。
[11]前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる間に接触させる前記傾斜ガイドロールが1つである、[9]又は[10]に記載の一方向プリプレグの製造装置。
[12]前記平行ガイドロールが2つ以上設けられ、それぞれの前記平行ガイドロールに前記繊維束が順に接触しながら走行されることにより、前記繊維束が所定の位置へ供給される、[9]~[11]のいずれかに記載の一方向プリプレグの製造装置。
[13]前記繊維束を開繊させる開繊装置をさらに備える、[9]~[12]のいずれかに記載の一方向プリプレグの製造装置。
[14]長尺で扁平な繊維束を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させることを含む繊維束の供給方法であって、
走行方向から見て90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対して傾斜して設けられた傾斜ガイドロールと、90°±15°回旋させた後の前記繊維束の扁平面と平行に設けられた平行ガイドロールとを用い、それら前記傾斜ガイドロールと前記平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる、繊維束の供給方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、並走する複数の扁平な繊維束の間隔を変化させる場合であっても、繊維束が部分的に折りたたまれたり、繊維に折れが生じたりすることを抑制できる一方向プリプレグの製造方法、一方向プリプレグの製造装置、および繊維束の供給方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態の一例に係る一方向プリプレグの製造装置の概略構成を示した模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の製造装置における回旋装置を上方から見た様子を示した模式図である。
【
図3】
図3は、
図1の製造装置における回旋装置を側方から見た様子を示した模式図である。
【
図4】
図4は、回旋装置において繊維束を回旋させる様子を上方から見た模式図である。
【
図5】
図5(A)は、第1傾斜ガイドロールの傾斜角度を説明する図であり、
図5(B)は、第2傾斜ガイドロールの傾斜角度を説明する図である。
【
図6】
図6は、走行する繊維束の第1傾斜ガイドロールに接する部分と第1平行ガイドロールに接する部分の中心間距離を説明する図である。
【
図7】
図7は、走行する繊維束の第2傾斜ガイドロールに接する部分と第2平行ガイドロールに接する部分の中心間距離を説明する図である。
【
図8】
図8は、他の一例の回旋装置において繊維束を回旋させる様子を上方から見た模式図である。
【
図9】
図9は、他の一例の回旋装置において繊維束を回旋させる様子を上方から見た模式図である。
【
図10】
図10は、他の一例の回旋装置において繊維束を回旋させる様子を上方から見た模式図である。
【
図11】
図11は、実施例において走行する繊維束の扁平面を90°回旋させる様子を示した模式図である。
【
図12】
図12は、所定の間隔で並べた複数のコームによって繊維束の走行間隔を調整する従来の方法を示した模式図である。
【
図13】
図13は、各繊維束の扁平面を鉛直方向に立てた状態で走行間隔を調整する従来の方法を示した模式図であって、
図13(A)は上方から見た平面図、
図13(B)は走行方向から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に係る一方向プリプレグの製造方法、一方向プリプレグの製造装置、および繊維束の供給方法について、一例を示し、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
実施形態に係る一方向プリプレグの製造方法は、繊維が一方向に揃えられたシート状の繊維束に樹脂が含浸されたプリプレグ、いわゆる一方向プリプレグ(UDプリプレグ)を製造する方法であって、長尺で扁平な繊維束を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させることを含む。
なお、「繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる」とは、走行方向から見て、回旋前の繊維束の扁平面に対する回旋後の扁平面の角度が90°±15°であることを意味する。走行方向から見た繊維束の90°±15°回旋は、時計回りであってもよく、反時計回りであってもよい。
【0014】
走行する繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる際には、走行方向から見て90°±15°回旋させる前の前記繊維束の扁平面に対して傾斜して設けられた傾斜ガイドロールと、90°±15°回旋させた後の前記繊維束の扁平面と平行に設けられた平行ガイドロールとを用いる。
そして、繊維束をそれら傾斜ガイドロールと平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる。このように、傾斜ガイドロールと平行ガイドロールでガイドしながら繊維束の扁平面を回旋させることにより、並走する複数の扁平な繊維束の間隔を変化させる場合であっても、繊維束が部分的に折りたたまれたり、繊維に折れが生じたりすることを抑制することができる。
なお傾斜ガイドロールおよび平行ガイドロールは固定されていてもよく、繊維束の走行速度に合わせて回転させてもよい。
【0015】
[一方向プリプレグの製造装置]
図1は、実施形態に係る一方向プリプレグの製造方法に用い得る製造装置の一例である一方向プリプレグの製造装置100(以下、単に「製造装置100」ともいう。)の概略構成を示した模式図である。
以下の説明においては、各図に示すXYZ方向を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。このXYZ方向においては、X軸方向が繊維束の走行方向、すなわち水平で、かつ繊維束が供給される上流からプリプレグを得る下流へと向かう方向であり、Y軸方向が水平でかつ走行方向に垂直な幅方向である。XY平面は水平である。Z軸方向は鉛直方向であり、XY平面に垂直である。
【0016】
製造装置100は、複数の給糸体10と、回旋装置20と、開繊装置30と、積層装置40と、含浸機50と、を備えている。
【0017】
(給糸体)
給糸体10は、長尺で扁平な連続繊維束1を送り出すものであり、例えば、クリールに取り付けられたボビンパッケージから外取りで連続繊維束1が引き出されるものを例示できる。また、ボビンが抜き取られたパッケージから内取りで連続繊維束1が引き出されるものであってもよい。
【0018】
複数の給糸体10から送り出された各連続繊維束1は、水平でかつ走行方向に垂直な方向(Y軸方向)に所定の間隔をあけ、互いに平行となるように回旋装置20へと走行される。給糸体10から回旋装置20までの連続繊維束1の走行には、ガイドロール、ダンサーロール等を適宜使用することができる。
給糸体10の数は、各給糸体10から送り出される連続繊維束1のフィラメント数、目的とするプリプレグの幅等に応じて適宜設定することができる。
【0019】
(回旋装置)
回旋装置20は、連続繊維束1を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て連続繊維束1の扁平面を90°±15°回旋させる装置である。
図1および
図2に示す一例の回旋装置20は、第1傾斜ガイドロール21Aと、第1平行ガイドロール22Aと、第3平行ガイドロール23と、第2傾斜ガイドロール21Bと、第2平行ガイドロール22Bと、をこの順に備えている。
【0020】
第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aは、扁平面1aを水平にした状態で走行する連続繊維束1の扁平面1aを90°±15°回旋させて鉛直方向に立てるためのガイドロールである。
第3平行ガイドロール23は、扁平面1aを鉛直方向に立てた連続繊維束1を方向転換してY軸方向(幅方向)の位置を変化させ、各連続繊維束1のY軸方向の走行間隔を調整するためのガイドロールである。
第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロール22Bは、扁平面1aを鉛直方向に立てた状態で走行する連続繊維束1の扁平面1aを90°±15°回旋させて水平にするためのガイドロールである。
【0021】
第1傾斜ガイドロール21A、第1平行ガイドロール22A、第3平行ガイドロール23、第2傾斜ガイドロール21Bおよび第2平行ガイドロール22Bに用いるガイドロールの形状は、典型的には円柱状である。
これらのガイドロールの直径は、適宜設定することができ、例えば3mm以上20mm以下とすることができる。
【0022】
第1傾斜ガイドロール21Aは、連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見て、90°±15°回旋させる前の連続繊維束1の上を向いた水平の扁平面1aに対して傾斜して設けられている。第1平行ガイドロール22Aは、連続繊維束1の走行方向から見て、90°±15°回旋させた後の連続繊維束1の鉛直方向に立てた扁平面1aと平行に設けられている。
【0023】
図1~4に示す一例では、給糸体10から送り出された各連続繊維束1は、扁平面1aを水平にした状態で回旋装置20へと供給され、回旋装置20の直前のガイドロール11は連続繊維束1の下側の扁平面1bに接している。
図3および
図4に示すように、回旋装置20の前半部分では、扁平面1a,1bを水平にして走行する連続繊維束1の下側の扁平面1bに、第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aが順に接触される。これにより、連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見て、連続繊維束1の扁平面1aが反時計回りに90°±15°回旋されて鉛直方向に立てられる。
【0024】
連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見て、90°±15°回旋させる前の連続繊維束1の水平な扁平面1aに対する第1傾斜ガイドロール21Aの傾斜角度θ1(0°<θ1<90°、
図5(A))は、好ましくは15°以上、より好ましくは20°以上、さらに好ましくは30°以上、特に好ましくは40°以上である。第1傾斜ガイドロール21Aの傾斜角度θ1は、好ましくは75°以下、より好ましくは70°以下、さらに好ましくは60°以下、特に好ましくは50°以下である。第1傾斜ガイドロール21Aの傾斜角度θ1が前記範囲内であれば、繊維束が傾斜ガイドロールに接触し回旋する際に生じる捻じれの力により、繊維束に折れが発生することを抑制できる。第1傾斜ガイドロール21Aの傾斜角度θ1の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば15°以上75°以下が好ましい。
【0025】
連続繊維束1の水平な扁平面1aを鉛直方向に立てるための第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aとの走行方向(X軸方向)における距離D1(
図3)は、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、さらに好ましくは60mm以上、特に好ましくは100mm以上である。距離D1が前記下限値以上であれば、扁平面1aを回旋するときに連続繊維束1に対して加わる捩じれの力がより小さくなり、連続繊維束1において繊維の折れがさらに生じにくくなる。第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aの距離D1は、好ましくは500mm以下、より好ましくは300mm以下、さらに好ましくは200mm以下、特に好ましくは150mm以下である。距離D1が前記上限値以下であれば、プリプレグ製造装置が過大となることを抑止できる。第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aの距離D1の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば30mm以上500mm以下が好ましい。
【0026】
連続繊維束1の初期の幅Wに対する、第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aの連続繊維束1の走行方向(X軸方向)における距離D1の比(D1/W)は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは7以上、特に好ましくは12以上である。D1/Wが前記下限値以上であれば、扁平面1aを回旋するときに連続繊維束1に対して加わる捩じれの力がより小さくなり、連続繊維束1において繊維の折れがさらに生じにくくなる。D1/Wは、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、さらに好ましくは30以下、特に好ましくは15以下である。D1/Wが前記上限値以下であれば、プリプレグ製造装置が過大となることを抑制できる。D1/Wの好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば3以上50以下が好ましい。
なお、「繊維束の初期の幅W」とは、プリプレグの製造に用いる繊維束の供給前の幅を意味する。
【0027】
図6に示すように、連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見て、走行する連続繊維束1における第1傾斜ガイドロール21Aと接する部分と第1平行ガイドロール22Aと接する部分のY軸方向(幅方向)における中心間距離d1は、好ましくは10mm以上、より好ましくは15mm以上、さらに好ましくは20mm以上である。中心間距離d1が前記下限値以上であれば、連続繊維束1が部分的に折りたたまれることを抑制しやすい。中心間距離d1は、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下、さらに好ましくは30mm以下である。中心間距離d1が前記上限値以下であれば、第一傾斜ガイドロールと繊維束、及び第一平行ガイドロールと繊維束が接触し擦過することによる毛羽立ちが抑制できる。中心間距離d1の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば10mm以上100mm以下が好ましい。
なお、中心間距離d1は、連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見た、連続繊維束1における第1傾斜ガイドロール21Aと接する部分の繊維長さに垂直な断面の中心と、第1平行ガイドロール22Aと接する部分の繊維長さに垂直な断面の中心のY軸方向(幅方向)における距離を意味する。
中心間距離d1は、第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22AのY軸方向(幅方向)の位置を調節することによって調節できる。
【0028】
図1~4に示す一例のように、連続繊維束1の水平な扁平面1aを鉛直方向に立てるときの90°±15°旋回において、連続繊維束1に接触させる第1傾斜ガイドロール21Aは1つであることが好ましい。90°±15°旋回時に連続繊維束1に接触させる第1傾斜ガイドロール21Aの数が1つであれば、作業性を損ねることなく、また少ない設備投資額で、折れの少ない繊維束を供給することができる。
なお、連続繊維束1の扁平面1aを立てる90°±15°旋回時に連続繊維束1に接触させる第1傾斜ガイドロール21Aの数は、2つ以上であってもよい。
【0029】
図2に示す一例では、扁平面1aが鉛直方向に立てられた各々の連続繊維束1を、第1平行ガイドロール22Aと第3平行ガイドロール23に順に接触させながら走行させることにより、各連続繊維束1のY軸方向(幅方向)の位置が等間隔に調整される。このように、繊維束を供給する位置を調整する際に、扁平面を鉛直方向に立てた状態で走行する繊維束を鉛直方向の2つ以上の平行ガイドロールによって方向転換させることにより、扁平な繊維束が部分的に折りたたまれることを抑制することが容易になる。この態様は、複数の繊維束の走行間隔を狭くして開繊装置に供給する場合、または複数の繊維束の走行間隔を広くして開繊装置に供給する場合に特に有用である。
なお、扁平面を鉛直方向に立てた状態で走行する繊維束を3つ以上の平行ガイドロールに順に接触させながらY軸方向(幅方向)の位置を調整してもよい。
【0030】
第2傾斜ガイドロール21Bは、連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見て、90°±15°回旋させる前の連続繊維束1の鉛直方向に立てた扁平面1aに対して傾斜して設けられている。第2平行ガイドロール22Bは、連続繊維束1の走行方向から見て、90°±15°回旋させた後の連続繊維束1の水平な扁平面1aと平行に設けられている。
図3および
図4に示すように、回旋装置20の後半部分では、扁平面1aを鉛直方向に立てて走行する連続繊維束1の扁平面1aに、第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロール22Bが順に接触される。これにより、連続繊維束1の鉛直方向に立った扁平面1aが時計回りに90°±15°回旋されて水平にされる。
【0031】
このように、回旋装置20では、扁平面1aを水平にした状態で走行する連続繊維束1を第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aで反時計回りに90°±15°回旋させて扁平面1aを鉛直方向に立てた後、第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロール22Bで時計回りに90°±15°回旋させて連続繊維束1の扁平面1aを水平にする。
【0032】
連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見た、90°±15°回旋させる前の連続繊維束1の鉛直方向に立った扁平面1aに対する第2傾斜ガイドロール21Bの傾斜角度θ2(0°<θ2<90°、
図5(B))の好ましい下限および上限は、前述の第1傾斜ガイドロール21Aの傾斜角度θ1の好ましい下限および上限と同様である。具体的には、第2傾斜ガイドロール21Bの傾斜角度θ2は、好ましくは15°以上、より好ましくは20°以上、さらに好ましくは30°以上、特に好ましくは40°以上である一方、好ましくは75°以下、より好ましくは70°以下、さらに好ましくは60°以下、特に好ましくは50°以下である。第2傾斜ガイドロール21Bの傾斜角度θ2の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば15°以上75°以下が好ましい。
【0033】
連続繊維束1の鉛直方向に立った扁平面1aを水平に倒すための第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロール22Bとの走行方向(X軸方向)における距離D2(
図3)の好ましい下限および上限は、前述の第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aの距離D1の好ましい下限および上限と同様である。具体的には、距離D2は、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、さらに好ましくは60mm以上、特に好ましくは100mm以上である一方、好ましくは500mm以下、より好ましくは300mm以下、さらに好ましくは200mm以下、特に好ましくは150mm以下である。距離D2の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば30mm以上500mm以下が好ましい。
【0034】
連続繊維束1の初期の幅Wに対する、第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロールの連続繊維束1の走行方向(X軸方向)における距離D2の比(D2/W)の好ましい下限と上限も、前述のD1/Wの好ましい下限および上限と同様である。具体的には、D2/Wは、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは7以上、特に好ましくは12以上である一方、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、さらに好ましくは30以下、特に好ましくは15以下である。D2/Wの好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば3以上50以下が好ましい。
【0035】
図7に示すように、連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見て、走行する連続繊維束1における第2傾斜ガイドロール21Bと接する部分と第2平行ガイドロール22Bと接する部分のY軸方向(幅方向)における中心間距離d2は、前述の中心間距離d1と同様である。具体的には、中心間距離d2は、好ましくは10mm以上、より好ましくは15mm以上、さらに好ましくは20mm以上である一方、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下、さらに好ましくは30mm以下である。中心間距離d2の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば10mm以上100mm以下が好ましい。
なお、中心間距離d2は、連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見た、連続繊維束1における第2傾斜ガイドロール21Bと接する部分の繊維長さに垂直な断面の中心と、第2平行ガイドロール22Bと接する部分の繊維長さに垂直な断面の中心のY軸方向(幅方向)における距離を意味する。
中心間距離d2は、第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロール22BのY軸方向(幅方向)の位置を調節することによって調節できる。
【0036】
図1~4に示す一例のように、連続繊維束1の鉛直方向に立った扁平面1aを水平に倒すときの90°±15°旋回において、連続繊維束1に接触させる第2傾斜ガイドロール21Bは1つであることが好ましい。90°±15°旋回時に連続繊維束1に接触させる第2傾斜ガイドロール21Bの数が1つであれば、作業性を損ねることなく、また少ない設備投資額で、折れの少ない繊維束を供給することができる。
なお、連続繊維束1の扁平面1aを水平に倒す90°±15°旋回時に連続繊維束1に接触させる第2傾斜ガイドロール21Bの数は、2つ以上であってもよい。
【0037】
図3および
図4に示す一例の回旋装置20では、走行方向から見て、連続繊維束1の扁平面1aを第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aで反時計回りに90°±15°回旋させた後、第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロール22Bで時計回りに90°±15°回旋させ、連続繊維束1の扁平面1aが上に向いた状態に戻すが、この形態には限定されない。
【0038】
例えば、
図8に示す一例のように、走行方向から見て、連続繊維束1の扁平面1aを第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aで反時計回りに90°±15°回旋させた後、第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロール22Bでさらに反時計回りに90°±15°回旋させ、連続繊維束1の扁平面1bが上に向いた状態(合計180°回旋)にする回旋装置20としてもよい。
また、
図9に示す一例のように、走行方向から見て、連続繊維束1の扁平面1aを第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aで時計回りに90°±15°回旋させた後、第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロール22Bでさらに反時計回りに90°±15°回旋させ、連続繊維束1の扁平面1aが上に向いた状態に戻す回旋装置20としてもよい。
【0039】
繊維束の扁平面を90°±15°回旋する際、傾斜ガイドロールと平行ガイドロールを繊維束の別々の扁平面に接触させてもよい。
例えば、
図10に示す一例のように、走行方向から見て、連続繊維束1の扁平面1aに第1傾斜ガイドロール21Aを接触させ、次いで連続繊維束1の扁平面1bに第1平行ガイドロール22Aを接触させることにより、水平な扁平面1aを反時計回りに90°±15°回旋させて鉛直方向に立てる回旋装置20としてもよい。
【0040】
(開繊装置)
図1に示す開繊装置30は、複数の擦過バー31を備えている。
複数の擦過バー31は、それぞれがY軸方向に平行とされ、X軸方向に間隔をあけて上下にジグザグに配置されている。各連続繊維束1は、各々の擦過バー31を通過する間に加熱、擦過、揺動等が加えられることにより、幅方向に拡幅されて開繊される。
【0041】
(積層装置)
積層装置40は、開繊された連続繊維束2に樹脂シート3を積層する装置である。
積層装置40は、走行する連続繊維束2の上方に配置された第一樹脂シート供給体41と、走行する連続繊維束2の下方に配置された第二樹脂シート供給体42と、を備えている。積層装置40は、第一樹脂シート供給体41から送り出された樹脂シート3と、第二樹脂シート供給体42から送り出された樹脂シート3を、走行する連続繊維束2の上下に貼り合わせて積層する。
【0042】
(含浸機)
含浸機50は、連続繊維束2と樹脂シート3とが積層された積層体4を上下から挟み込んで荷重をかける複数対の含浸ロール51を備えている。
搬送される積層体4が複数対の含浸ロール51によって挟み込まれて上下から加圧されることにより、樹脂シート3を形成する樹脂が連続繊維束2に含浸される。
【0043】
図1に示す一例では、含浸機50が備える最も上流側の一対の含浸ロール51が、積層装置40における連続繊維束2と樹脂シート3とを貼り合わせる貼合ロールを兼ねている。すなわち、この例の製造装置100では、連続繊維束2と樹脂シート3との接触点で含浸ロール51によって荷重がかかり、含浸が開始されるようになっている。このように、連続繊維束2と樹脂シート3とを積層したと同時に含浸が開始されるようにすれば、搬送される積層体4がロールに抱かれた際の内外周差によって連続繊維束2と樹脂シート3にズレが生じることが抑制されるため、不具合が生じにくくなる。
【0044】
なお、積層装置40は、含浸機50の最も上流側の一対の含浸ロール51とは別に、貼合ロールを備えていてもよい。この場合、貼合ロールによって積層される連続繊維束2と樹脂シート3の接触点から含浸機50の最も上流側の一対の含浸ロール51までは、積層体4がX軸方向に直線的に搬送されるようにすることが好ましい。そのような態様にすることでも、搬送される積層体4がロールに抱かれた際の内外周差によって連続繊維束2と樹脂シート3にズレが生じることを抑制することができる。
【0045】
なお、本発明の一方向プリプレグの製造装置は、前記した製造装置100のように、給糸体、回旋装置、開繊装置、積層装置および含浸機を備え、90°±15°回旋、開繊、積層および含浸を一連のラインで連続的に実施するものには限定されない。例えば、本発明の一方向プリプレグの製造装置は、給糸体、回旋装置、開繊装置および積層装置を備える積層体の製造装置と、含浸装置とを別々のラインで備えていてもよい。
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0046】
[一方向プリプレグの製造方法]
実施形態の一例に係る一方向プリプレグの製造方法は、下記の回旋工程、開繊工程、積層工程および含浸工程を含む。
回旋工程:長尺で扁平な繊維束を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる。
開繊工程:前記繊維束を開繊する。
積層工程:開繊された前記繊維束に樹脂シートを積層する。
含浸工程:前記積層体に荷重をかけて繊維束に樹脂を含浸させる。
以下、実施形態に係る一方向プリプレグの製造方法の一例として、製造装置100を用いる場合について説明する。
【0047】
(回旋工程)
まず、複数の給糸体10から連続繊維束1を扁平面1aが水平の状態で送り出し、回旋装置20へと搬送する。
連続繊維束1の走行速度(ライン速度)は、限定するものではないが、例えば1~50m/minとすることができる。
【0048】
図3および
図4に示すように、扁平面1a,1bが水平の各連続繊維束1を第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aに順に接触させつつ走行させることにより、各連続繊維束1の扁平面1aを90°±15°回旋させて鉛直方向に立てる。
次いで、扁平面1a,1bを鉛直方向に立てた各連続繊維束1を第1平行ガイドロール22Aと第3平行ガイドロール23によって方向転換させ、各連続繊維束1のY軸方向の位置を互いに近づけて走行間隔を等間隔に調整する。
次いで、扁平面1a,1bを鉛直方向に立てた各連続繊維束1を、第2傾斜ガイドロール21Bと第2平行ガイドロール22Bに順に接触させつつ走行させることにより、各連続繊維束1の扁平面1aを90°±15°回旋させて水平にする。
【0049】
(開繊工程)
開繊工程では、開繊装置30において連続繊維束1をX軸方向に各々の擦過バー31に接触させつつジグザグに走行させ、その間に加熱、擦過、揺動等を加えることにより、各連続繊維束1をY軸方向(幅方向)に拡幅して開繊する。
【0050】
(積層工程)
積層工程では、積層装置40において、第一樹脂シート供給体41から送り出された樹脂シート3と、第二樹脂シート供給体42から送り出された樹脂シート3を、開繊された連続繊維束2の上下に積層する。
【0051】
(含浸工程)
含浸機50の最も上流側の含浸ロール51により、連続繊維束2と樹脂シート3とを積層すると同時に荷重をかけて含浸を開始し、複数対の含浸ロール51で繊維束に樹脂を含浸してプリプレグ(UDプリプレグ)5を得る。得られたプリプレグ5は、例えば巻取機で巻き取ることができる。
【0052】
(繊維束)
連続繊維束1は、強化繊維の集合体からなる長尺の連続した繊維束である。
強化繊維としては、特に限定されず、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、高強度ポリエステル繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維等の各種の無機繊維または有機繊維を例示できる。これらの中でも、比強度、比弾性の点から、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維が好ましく、機械物性や軽量化の点から炭素繊維が特に好ましい。強化繊維として炭素繊維を用いる場合、金属による表面処理を施してもよい。繊維束に含まれる強化繊維は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0053】
強化繊維の繊維径は、限定するものではないが、例えば4~10μmとすることができる。
連続繊維束1の1錘あたりのフィラメント数は、限定するものではないが、例えば1000~100000本とすることができる。
連続繊維束1の繊維目付は、限定するものではないが、例えば0.2~4g/mとすることができる。
【0054】
(樹脂シート)
樹脂シート3は、例えば離型処理が施された紙、樹脂フィルム等のキャリアシート上に樹脂が塗布されることによって形成される。キャリアシートは含浸後の任意のタイミングで剥離することができる。
第一樹脂シート供給体41および第二樹脂シート供給体42からは、予めキャリアシート上に樹脂シート3が形成されているものを送り出してもよく、キャリアシートを送り出し、搬送中のキャリアシート上に樹脂を塗布して樹脂シート3を形成してもよい。
【0055】
樹脂シート3に用いる樹脂としては、特に限定されず、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂を例示できる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂を例示できる。
樹脂シート3に用いる樹脂は、1種でもよく、2種以上でもよい。
樹脂には、必要に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等の添加剤を配合してもよい。
【0056】
以上説明したように、実施形態に係る一方向プリプレグの製造方法では、繊維束を傾斜ガイドロールと平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる。これにより、繊維束が部分的に折りたたまれたり、繊維に折れが生じたりすることを抑制しつつ、複数の扁平な繊維束の走行間隔を調整して開繊工程に供給することができる。
【0057】
なお、本発明の製造方法は、前記した製造装置100を用いる方法には限定されない。例えば、回旋工程、開繊工程および積層工程を一連のラインで連続的に実施して積層体を製造し、別ラインで含浸工程を実施してプリプレグを製造してもよい。
【0058】
[繊維束の供給方法]
実施形態に係る繊維束の供給方法は、長尺で扁平な繊維束を長さ方向に走行させながら、走行方向から見て前記繊維束の扁平面を90°±15°回旋させることを含む。また、前述の一方向プリプレグの製造方法と同様に、傾斜ガイドロールと平行ガイドロールを用い、繊維束を傾斜ガイドロールと平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる。
【0059】
傾斜ガイドロールと平行ガイドロールを用いて繊維束の扁平面を90°±15°回旋させる供給方法は、UDプリプレグの製造方法に適用する形態には限定されず、それ以外の目的で扁平な繊維束を走行させている際に適用してもよい。
【実施例0060】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0061】
[実施例1]
図11に示すように、1本の連続繊維束1に対し、その走行方向(X軸方向)に間隔をあけて第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aを設置し、扁平面1a,1bを水平にして走行する連続繊維束1の下側の扁平面1bを第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aに順に接触させ、連続繊維束1の扁平面を90°回旋させて鉛直方向に立てた。
連続繊維束1としては、扁平な連続炭素繊維束(三菱ケミカル社製、商品名「TRW50 50L」、フィラメント数:50000本、繊維目付:3.8g/m、初期の幅W:14mm)を使用した。
連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見た、90°±15°回旋させる前の連続繊維束1の水平な扁平面1aに対する第1傾斜ガイドロール21Aの傾斜角度θ1(
図5(A))は45°とした。第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aとの走行方向(X軸方向)における距離D1(
図3)は100mm、D1/Wは7とした。
連続繊維束1の走行方向(X軸方向の下流側)から見た、走行する連続繊維束1における第1傾斜ガイドロール21Aと接する部分と第1平行ガイドロール22Aと接する部分のY軸方向(幅方向に)における中心間距離d1は、20mmとした。
連続繊維束1の走行速度(ライン速度)は5m/minとした。
【0062】
[実施例2~5]
第1傾斜ガイドロール21Aの傾斜角度θ1、第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aの距離D1、D1/W、および中心間距離d1を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様の方法で、走行する連続繊維束1の水平な扁平面を90°回旋させて鉛直方向に立てた。
【0063】
[比較例1]
第1傾斜ガイドロール21Aを設けなかった以外は実施例1と同様の方法で、走行する連続繊維束1の水平な扁平面を90°回旋させて鉛直方向に立てた。
【0064】
[実施例6]
連続繊維束1としては、扁平な連続炭素繊維束(三菱ケミカル社製、商品名「TR50S 15L」、フィラメント数:15000本、繊維目付:1.0g/m、初期の幅W:8mm)を使用し、D1/Wを12とした以外は実施例1と同様の方法で、走行する連続繊維束1の水平な扁平面を90°回旋させて鉛直方向に立てた。
【0065】
[実施例7、8]
第1傾斜ガイドロール21Aの傾斜角度θ1、第1傾斜ガイドロール21Aと第1平行ガイドロール22Aの距離D1、D1/W、および中心間距離d1を表1に示すとおりに変更した以外は実施例6と同様の方法で、走行する連続繊維束1の水平な扁平面を90°回旋させて鉛直方向に立てた。
【0066】
[比較例2]
第1傾斜ガイドロール21Aを設けなかった以外は実施例6と同様の方法で、走行する連続繊維束1の水平な扁平面を90°回旋させて鉛直方向に立てた。
【0067】
[評価方法]
各例において、扁平面を90°回旋させた後の繊維束を、扁平面に対して垂直な方向から1秒ごとに連続して3分間カメラで撮影して画像を取得した。カメラは「Sony HDR-CX680」を使用した。撮影時には、繊維束の幅を計測できるよう、繊維束走行位置と同一の位置にスケールを設置し、スケールとともに繊維束を撮影して画像を取得した。取得したすべての画像で回旋後の繊維束の幅を計測し、画像の総数に対する、回旋後の幅が3.5mm以上小さくなった画像の割合からQ1を、回旋後の幅が3.0mm以上小さくなった画像の割合からQ2をそれぞれ求めた。
結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1に示す通り、連続繊維束を傾斜ガイドロールと平行ガイドロールに順に接触させながら走行させることによって繊維束の扁平面を90°回旋させた実施例1~8は、傾斜ガイドロールを使用しなかった比較例1~2と異なり、回旋後の幅が変化しなかった。すなわち、繊維束に折れを発生させることなく回旋させ、繊維束の走行間隔を調整することができた。