(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009002
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】表皮材
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20250109BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20250109BHJP
B32B 27/02 20060101ALI20250109BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20250109BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20250109BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B5/26
B32B27/02
B32B27/12
B32B27/36
B32B7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111687
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松本 光明
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA11
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4F100AK42A
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4F100BA03
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4F100DG01C
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4F100DG13C
4F100DG15C
4F100EJ39A
4F100GB33
4F100GB72
4F100GB74
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4F100HB31A
4F100JA04A
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4F100JA13C
4F100JB16A
4F100JK09
4F100JL12B
4F100YY00A
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】良好な風合と高い耐摩耗性、高級感のある外観を兼ね備えたリサイクル可能な表皮材の提供。
【解決手段】表皮層と、ポリエステル系繊維状物を骨格としたシート状物である基材層とが、ポリエステル系樹脂である接着層を介して貼着されている表皮材であって、表皮層が(1)表皮層が少なくとも1種の主体繊維と主体繊維の融点よりも20℃以上170℃以下低い融点を持つ熱可塑性樹脂から構成される;(2)主体繊維の繊度が0.01dtex以上0.5dtex以下である;(3)熱可塑性樹脂の少なくとも一部が主体繊維間を接着している;(4)熱可塑性樹脂の少なくとも一部が塊状形状で外表面繊維層の外表面に露出している;(5)塊状形状の投影面積の平均値が1.3×10―9m2以下である;(6)主体繊維がポリエステル系繊維である;(7)熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である;等の特徴を有する表面繊維層を有する人工皮革である表皮材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮層と、ポリエステル系繊維状物を骨格としたシート状物である基材層とが、ポリエステル系樹脂である接着層を介して貼着されている表皮材であって、
該表皮層が、下記(1)~(8)の特徴:
(1)該表皮層が、少なくとも1種の主体繊維と該主体繊維の融点よりも20℃以上170℃以下低い融点を持つ熱可塑性樹脂から構成される;
(2)該主体繊維の繊度が、0.01dtex以上0.5dtex以下である;
(3)該熱可塑性樹脂の少なくとも一部が、主体繊維間を接着している;
(4)該熱可塑性樹脂の少なくとも一部が、塊状形状で外表面繊維層の外表面に露出している;
(5)該熱可塑性樹脂を表面から観察した際に、該塊状形状の投影面積の平均値が、1.3×10―9m2以下である;
(6)該主体繊維が、ポリエステル系繊維である;
(7)該熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂である;及び
(8)該表皮層の外表面に対して他方の表面が、該接着層に面している;
有する外表面繊維層を有する人工皮革である、表皮材。
【請求項2】
前記表皮層の外表面繊維層が、織物又は編物であるスクリム層と交絡されている、請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記スクリム層の織物又は編物がポリエステル系繊維である、請求項2に記載の表皮材。
【請求項4】
前記表皮層の外表面繊維層の熱可塑性樹脂の個数平均体積が、5000μm3以上14000μm3以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項5】
前記表皮層の外表面繊維層の熱可塑性樹脂の体積個数密度が、1.1×1012個/m3 以上3.0×1012個/m3以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項6】
前記表皮層にプリント加工又はエンボス加工が施されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項7】
前記接着層が、ドット状又は網目状とモザイク柄状である、請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項8】
前記接着層が、ポリエステル系の熱溶融パウダー樹脂接着剤に由来する、請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項9】
前記基材層が、織物、編物、不織布又はフェルトである、請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項10】
前記基材層の目付が、20g/m2~800g/m2である、請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項11】
前記表皮材が、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材を含むシート表皮材。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載の表皮材を含む車両用シートカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
人工皮革は、天然皮革の代替材料として広く市場に受け入れられており、銀面調、スエード調などの多様な商品展開を実現し、染色工程によって天然皮革にはない多彩な色彩を発現することができ、メンテナンスが容易であるため、高機能意匠材として広く用いられている。特に外表面が起毛処理されたスエード調人工皮革は靴、鞄、家具類、自動車や鉄道車両や航空機や船舶などのシート表皮材などの内装材、リボン、ワッペン基材等の服飾材などの分野において好適に用いられている。これらの分野では、良好な外観品位、しなやかな風合と、長時間の使用に対する耐摩耗性などの物理負荷に対する耐性の両立が要求されている。
【0003】
JIS-6601の定義では、人工皮革はその外観によって、革の銀面様外観を持つ「スムーズ」と、革のヌバック、スエード、ベロア等の外観を持つ「ナップ」に分類されるが、本実施形態の人工皮革は「ナップ」に分類されるもの(すなわち、起毛調外観を有する起毛調人工皮革)に関するものである。起毛調外観は、主体繊維層の外表面(表(おもて)面ともいう)をサンドペーパー等でバフィング処理(起毛処理)することにより形成することができる。尚、本明細書中、人工皮革の外表面、主体繊維層の外表面、繊維シートの外表面、及び積層シートの外表面とは、人工皮革として使用される際に外部に露出する表面(例えば、椅子用途の場合は人体と接触する側の表面)である。一態様において、起毛調人工皮革の場合には、主体繊維層の外表面が、バフィング加工等により起毛又は立毛されている。
【0004】
人工皮革用の素材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドといった素材からなる繊維を交絡させてなる不織布構造体に、ポリウレタンをはじめとした高分子弾性体樹脂を含浸し付着させた形態のものが主流である。高分子弾性体樹脂を含浸させず、ニードルパンチや水流交絡法などによって単に繊維を物理的に交絡させたままだと、実使用時に十分な耐摩耗性を持たない、人工皮革のもつしなやかな手触りに欠ける、染色工程時に糸の脱落が多く、製造上の不具合が発生するといった不具合を生じる。
【0005】
そこで、人工皮革の製造工程においては、ポリウレタンなどの高分子弾性体を付着させることにより、良好な風合と耐摩耗性を付与させるという手法が広く用いられている。例えば、ポリウレタンを含浸付着させたタイプの人工皮革として、ラムース(商標)、エクセーヌ(商標)やアルカンターラ(商標)などの名称の下で市販されている。しかし、ポリウレタンなどの高分子弾性体は、染料のブリードアウト性が高く、十分な還元洗浄処理を用いないと洗濯堅牢度が悪化する、紫外線に弱い、長時間の使用によって劣化しやすく色彩の変化や長時間使用時の劣化が発生しやすいといった問題を生じやすい。加えて、ポリエステルが解重合する反応条件では分解することができないため、人工皮革の主体繊維で最も広く用いられるポリエステル繊維との複合系においては、リサイクルが難しい。
【0006】
以下の特許文献1では、ポリウレタン樹脂などの高分子弾性体を含浸しなくても、良好な風合と高い耐摩耗性、及び裁ち切り性や形状安定性を兼ね備えた人工皮革用不織布を提供すべく、表面繊維層と織編物であるスクリム層の少なくとも2層以上の多層構造をもつ不織布の少なくとも表面繊維層に熱融着性短繊維を特定の比率で混合させた後に熱融着処理を施すことにより、人工皮革用不織布を製造している。用途には車内装材も記載されているが、人工皮革用不織布と貼り合わせる基材層について述べられていない。
【0007】
また、以下の特許文献2では、特許文献1に記載された発明において、熱融着性短繊維が溶融して形成される熱可塑性樹脂の一部を、所定のサイズの塊状状態で表面繊維層の外表面に露出させることで、耐摩耗性(マーチンデール法による耐摩耗試験で40000回以上)と風合(KES純曲げ測定における曲げ値24cm未満)を改善している。しかし、特許文献1と同様に用途には車内装材も記載されているが、人工皮革用不織布と貼り合わせる基材層について述べられていない。
【0008】
ところで、表皮材は表皮層と接着層、基材層により構成されることが多い。表皮層だけでは機械的物性等が不十分のため、基材層が用いられる。基材層と表皮層を接着させるために接着層が必要となる。
以下の特許文献3に記載されるように、従来の車両用シートの基材層には半硬質ポリウレタンフォームが用いられることが多い。表皮層だけがポリエステル系の樹脂や繊維で構成されていても、接着層や基材層が同様に他素材であれば、表皮材としては素材が複合系となるため、ポリエステル解重合を行うケミカルリサイクルは困難である。
【0009】
表皮材はシート表皮材としても用いられる。シート表皮材とシートフレームとシートパッド、により車両用シートを構成されることが多い。シート表皮材に高級な外観や風合いを備えることで、車両用シートに高級な外観や風合いを付与することができる。しかし、市販されている高級な外観や風合いを有する車両用シートはPVC等の合成皮革や天然レザー等が部分的に使用されることが多く、基材層にも半硬質ポリウレタンフォームが用いられることが多く、素材として複合系となるためリサイクルが容易でない。
【0010】
表皮材は車両用シートカバーとしても用いられる。車両用シートカバーは車両のシートに脱着可能に取り付けられるシートカバーである。車両用シートカバーも高級な外観や風合いを備えることで、車両のシートに高級な外観や風合いを付与することができる。また着脱可能であるシートカバーはシートからの分離が容易でリサイクルに適している。しかし、市販されている高級な外観や風合いを有する車両用シートカバーはPVC等の合成皮革や天然レザー等が部分的に使用されることが多く、基材層にも半硬質ポリウレタンフォームが用いられることが多く、素材として複合系となるためリサイクルが容易でない。他方、ポリエステル系繊維のファブリックでのみ構成されたシートカバーも市販されているが高級感が乏しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5685003号公報
【特許文献2】特許第6118174号公報
【特許文献3】国際公開第2013/125653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上の従来技術の水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、良好な風合と高い耐摩耗性、高級感のある外観を兼ね備えたリサイクル可能な表皮材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意研究し実験を重ねた結果、以下の特徴を有する表皮材であれば前記課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
【0014】
[1]表皮層と、ポリエステル系繊維状物を骨格としたシート状物である基材層とが、ポリエステル系樹脂である接着層を介して貼着されている表皮材であって、
該表皮層が、下記(1)~(8)の特徴:
(1)該表皮層が、少なくとも1種の主体繊維と該主体繊維の融点よりも20℃以上170℃以下低い融点を持つ熱可塑性樹脂から構成される;
(2)該主体繊維の繊度が、0.01dtex以上0.5dtex以下である;
(3)該熱可塑性樹脂の少なくとも一部が、主体繊維間を接着している;
(4)該熱可塑性樹脂の少なくとも一部が、塊状形状で外表面繊維層の外表面に露出している;
(5)該熱可塑性樹脂を表面から観察した際に、該塊状形状の投影面積の平均値が、1.3×10―9m2以下である;
(6)該主体繊維が、ポリエステル系繊維である;
(7)該熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂である;及び
(8)該表皮層の外表面に対して他方の表面が、該接着層に面している;
有する外表面繊維層を有する人工皮革である、表皮材。
[2]前記表皮層の外表面繊維層が、織物であるスクリム層と交絡されている、前記[1]に記載の表皮材。
[3]前記スクリム層の織物又は編物がポリエステル系繊維である、前記[2]に記載の表皮材。
[4]前記表皮層の外表面繊維層の熱可塑性樹脂の個数平均体積が、5000μm3以上14000μm3以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の表皮材。
[5]前記表皮層の外表面繊維層の熱可塑性樹脂の体積個数密度が、1.1×1012個/m3 以上3.0×1012個/m3以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の表皮材。
[6]前記表皮層にプリント加工又はエンボス加工が施されている、前記[1]~[5]のいずれかに記載の表皮材。
[7]前記接着層が、ドット状又は網目状とモザイク柄状である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の表皮材。
[8]前記接着層が、ポリエステル系の熱溶融パウダー樹脂接着剤に由来する、前記[1]~[7]のいずれかに記載の表皮材。
[9]前記基材層が、織物、編物、不織布又はフェルトである、前記[1]~[8]のいずれかに記載の表皮材。
[10]前記基材層の目付が、20g/m2~800g/m2である、前記[1]~[9]のいずれかに記載の表皮材。
[11]前記表皮材が、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する、前記[1]~[10]のいずれかに記載の表皮材。
[12]前記[1]~[11]のいずれかに記載の表皮材を含むシート表皮材。
[13]前記[1]~[11]のいずれかに記載の表皮材を含む車両用シートカバー。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る表皮材は、良好な風合と高い耐摩耗性、高級感のある外観を備えた上で、表皮層と接着層と基材がすべて、ポリエステル系繊維又はポリエステル系樹脂で構成されているため、リサイクル性にも優れる。それゆえ、本発明に係る表皮材は、カーインテリア素材の他、鉄道車両、航空機、船舶などのシート表皮材や内装材、車両用シートカバー、衣料、靴、鞄、スマートフォンケース、インテリア、家具類などの分野において好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】表皮層の外表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。
【
図2】表皮層の外表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。
【
図3】表皮層の外表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。
【
図4】表皮層の外表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。
【
図5】表皮層の外表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。
【
図6】表皮層の外表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。
【
図7】表皮層の外表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。
【
図8】表皮層の外表面繊維層の塊状樹脂の存在状態の別の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の1の実施形態は、表皮層と、ポリエステル系繊維状物を骨格としたシート状物である基材層とが、ポリエステル系樹脂である接着層を介して貼着されている表皮材であって、
該表皮層が、下記(1)~(8)の特徴:
(1)該表皮層が、少なくとも1種の主体繊維と該主体繊維の融点よりも20℃以上170℃以下低い融点を持つ熱可塑性樹脂から構成される;
(2)該主体繊維の繊度が、0.01dtex以上0.5dtex以下である;
(3)該熱可塑性樹脂の少なくとも一部が、主体繊維間を接着している;
(4)該熱可塑性樹脂の少なくとも一部が、塊状形状で外表面繊維層の外表面に露出している;
(5)該熱可塑性樹脂を表面から観察した際に、該塊状形状の投影面積の平均値が、1.3×10―9m2以下である;
(6)該主体繊維が、ポリエステル系繊維である;
(7)該熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂である;及び
(8)該表皮層の外表面に対して他方の表面が、該接着層に面している;
有する外表面繊維層を有する人工皮革である、表皮材である。
【0018】
人工皮革である表皮層の外表面繊維層に含まれる主体繊維とは、該外表面繊維層100質量%に対して60質量%以上含まれる繊維である。より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。上限については特に限定されないが、99質量%以下であってよい。
外表面繊維層に含まれる主体繊維は、強度、極細繊維の製造のしやすさ、市場での汎用流通性などの観点から、ポリエステル系繊維であり、前記したように、カーシート分野等の耐久性が要求される用途を考慮すると、直射日光に長時間曝露しても繊維自身が黄変等せず、染色堅牢度に優れる点で、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、環境負荷を低減するという観点から、ケミカルリサイクル若しくはマテリアルリサイクルされたポリエチレンテレフタレート、又は植物由来原料を使ったポリエチレンテレフタレート等が更に好ましい。
【0019】
外表面繊維層を構成する主体繊維としてのポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリラクテート、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。これらの繊維は単独で用いることもできるし、各種ポリマーの繊維を任意の割合で混合してもよい。
【0020】
主体繊維だけでなく、以下に説明する外表面繊維層に含まれる熱可塑性樹脂、及びスクリム、接着層、基材層をポリエステル系樹脂で構成すれば、例えば、衣料や飲料ボトルから使用後のPETを回収し、これを再生PET樹脂に加工し、これを用いて表皮材を製造し、更に使用後(寿命の尽きた)表皮材をリサイクル処理して、例えば、断熱材やフィルター材に加工し、さらに使用後の断熱材やフィルター材からPETを回収するというサーキュラーエコノミー適性をもつリサイクル可能な表皮材とすることができる。
【0021】
主体繊維は、天然皮革に近い風合や、スエード調またはヌバック調の表面感が得られやすい点から、繊度が0.5dtex以下であり、繊度が0.35dtex以下であることがより好ましく、繊度が0.2dtex以下であることがさらに好ましい。また、繊維製造時の生産効率、生産安定性、耐摩耗性発現の観点から、繊度は0.01dtex以上であり、さらに好ましくは0.03dtex以上である。
主体繊維としては、溶融紡糸法により直接紡糸された繊維や、湿式紡糸法により得られる繊維、共重合ポリエステルを海成分に、レギュラーポリエステルを島成分に用いた海島繊維から海成分を除去することによって得られる極細繊維などを用いることができる。
【0022】
主体繊維には所望の効果が奏される限り添加剤の類が混入又は付着していてもよい。添加剤の類とは、酸化チタン、各種耐酸化剤、耐光剤、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、堅牢度向上剤、カーボンブラックなどの顔料、染料などを指す。
【0023】
主体繊維の製造方法として短繊維を用いた方法を選択する場合の短繊維長は、乾式法(カーディング法、エアレイド法等)では、好ましくは13mm以上102mm以下、より好ましくは25mm以上76mm以下、更に好ましくは38mm以上76mm以下であり、湿式法(抄造法等)では、好ましくは1mm以上30mm以下、より好ましくは2mm以上25mm以下、更に好ましくは3mm以上20mm以下である。例えば、湿式法(抄造法等)に用いられる短繊維の、長さ(L)と直径(D)との比であるアスペクト比(L/D)は、好ましくは500以上2000以下、より好ましくは700~1500である。このようなアスペクト比は、短繊維を水中に分散してスラリーを調製する際の該スラリー中での短繊維の分散性及び開繊性が良好であること、繊維層強度が良好であること、乾式法と較べて繊維長が短く且つ単繊維分散し易いため、摩擦によってピリングと呼ばれる毛玉状の外観になり難いこと、から好ましい。例えば、直径4μmの短繊維の繊維長は、好ましくは2mm以上8mm以下、より好ましくは3mm以上6mm以下である。
【0024】
外表面繊維層を構成する、該主体繊維の融点よりも20℃以上170℃以下低い融点を持つ熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂である。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリラクテート、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。
【0025】
熱可塑性樹脂も、必ずしも単一のポリマーのみによって構成されていなくとも構わず、複数種のポリマーが混合されていても構わない。
また、この熱可塑性樹脂には所望の効果が奏される限り添加剤の類が混入又は付着していても構わない。添加剤の類とは、酸化チタン、各種耐酸化剤、耐光剤、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、堅牢度向上剤、カーボンブラックなどの顔料、染料などを指す。
熱可塑性樹脂は、前記主体繊維の融点よりも20℃以上170℃以下低い融点を持つものであり、主体繊維が2種類以上の場合は最も低い融点を持つ主体繊維の融点よりも20℃以上170℃以下低い融点を持つことが必要である。尚、熱可塑性樹脂が複数種のポリマーが混合されたものである場合、最も高い融点をもつ熱可塑性樹脂が、最も低い融点を持つ主体繊維の融点よりも20℃以上170℃以下低い融点を持つことが必要である。融点の範囲に関しては、上記範囲であれば本願に記載される耐摩耗性、外観品位を達成することができるが、外観品位を特に良好に保つ観点で、熱可塑性樹脂の融点は、前記主体繊維の融点よりも、好ましくは、40℃以上150℃以下低い融点、さらに好ましくは40℃以上100℃以下低い融点であるとよい。
【0026】
本明細書における融点とは、DSC(示差走査熱量計)で測定された値のことをいう。示差走査熱量計によって、測定試料と基準物質との間の熱量の差が計測され、測定資料の融点が算出される。具体的には、25℃から10℃/分で250℃まで昇温した際に観察される吸熱ピークのピークトップを融点とした。
【0027】
熱可塑性樹脂は塊状形状で外表面繊維層の外表面に露出していること必要である。表面に露出していない場合は、表面に存在する主体繊維が樹脂融着によって十分に保持されておらず、繊維の脱落や破損を生じやすいために、表皮層として満足な耐摩耗性を有さない。また、熱可塑性樹脂の一部又は全部が、主体繊維間を接着している。熱可塑性樹脂が主体繊維間を接着していない場合は、主体繊維間の保持が不十分で、繊維の脱落や破損を生じやすいために、表皮層として満足な耐摩耗性や強度を有さない。
【0028】
また、熱可塑性樹脂は塊状形状で外表面繊維層の断面にも存在している。表面のみに存在し、断面において塊状形状で存在していない場合、主体繊維が樹脂融着によって十分に保持されておらず、表皮層として満足な耐摩耗性を有さないばかりか、外表面繊維層の密度が十分に上がらず、表皮層に特有の高級感のあるしっとりとした質感を発現することができない。
【0029】
本実施形態では、前記熱可塑性樹脂が、前記主体繊維同士を接着し、かつ、個数平均体積が5000μm3以上14000μm3以下であることが好ましい。当該熱可塑性樹脂の個数平均体積が14000μm3を超えると、複数の主体繊維を同一の熱可塑性樹脂が接着する割合が高くなり、手触りがざらつく原因となりやすく、表皮層として満足な高級感を発揮することができない。他方、個数平均体積が5000μm3未満であると、主体繊維1本を取り巻くほどの十分な大きさが発現できず、主体繊維を効果的に保持することができず、カーインテリア向け求められる耐摩耗性を発現することができない。個数平均体積の好ましい範囲は5500μm3以上13000μm3以下、より好ましくは5500μm3以上12000μm3以下である。
【0030】
外表面繊維層中において、熱可塑性樹脂の単位体積当たりの個数である体積個数密度が1.1×1012個/m3以上3.0×1012個/m3以下あることが好ましい。熱可塑性樹脂の単位体積当たりの個数が1.1×1012個/m3未満となると、複数の主体繊維を複数の熱可塑性樹脂で接合することができず、摩耗された際に繊維束としての脱落が多くなり、十分な耐摩耗性を発揮することができない。他方、該熱可塑性樹脂の体積個数密度が、3.0×1012個/m3を超えると、第一表面繊維層が硬くなりすぎ、表皮層に求められるしなやかな高級感を得ることができない。熱可塑性樹脂の体積個数密度、好ましくは1.1×1012個/m3以上2.0×1012個/m3以下、より好ましくは1.1×1012個/m3以上1.6×1012個/m3以下である
【0031】
外表面繊維層を表面から観察した際の塊状形状の熱可塑性樹脂の投影面積の平均値は、1.3×10-9m2以下であり、より好ましくは1.1×10-9m2以下である。投影面積の平均値が、1.3×10-9m2より大きい場合は、主体繊維に対して表面に存在している樹脂塊が大きいために、外観品位と手触り風合いを損なうという欠点がある。また、主体繊維間の融着点個数の密度が小さくなってしまい、主体繊維間の十分な保持がなされず表面層の耐摩耗性が劣るという欠点がある。他方、主体繊維間を接着するために塊状樹脂が十分な大きさであることが望ましいという観点から、該投影面積の平均値は0.001×10-9m2以上であることが好ましく、より好ましくは0.01×10-9m2以上である。
【0032】
熱可塑性樹脂は3次元のどの角度から見ても等方的に主体繊維を接着させることが好ましい。具体的には表面繊維層中の熱可塑性樹脂を楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値が100以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂を楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値が100以下であれば、主体繊維間を接着させる際に熱融着樹脂が十分に溶融され、接着強度が高くなり、高い耐摩耗性を有することができる。熱可塑性樹脂を楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値は、より好ましく10以下であり、さらに好ましくは5以下である。熱可塑性樹脂は真球(商の値1)に近づく方が好ましいため、特に限定されないが、熱可塑性樹脂の楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値は1以上であってよい。
【0033】
上記熱可塑性樹脂の評価方法に関しては表皮層を垂直に割断し、光学顕微鏡や電子線顕微鏡で観察する、CTやMRIなどの測定により3次元画像を測定するなどの手法により評価することができる。表面繊維層の表層のみならず、その内部での熱融着樹脂の位置、存在密度、形状、サイズを正確に評価することが求められるが、実施例に記載のX線CTにおける断面の連続的画像解析と、画像を適切に処理する手順を踏み、数学的な解析を行うことで正確に評価することができる。
【0034】
表皮層を構成する人工皮革は、スクリム層を芯材として用いることができる。スクリム層を用いる場合、抄造工程における抄造シートの作製を安定化したり、得られる外表面繊維層の機械強度を高めたりすることができる観点から、用いるスクリム層は、織物又は編物であることが好ましい。スクリム層の素材は染色における同色性の点から、主体繊維と同じポリマー系が好ましく、編物の場合、22ゲージ以上28ゲージ以下で編み上げたシングルニットが好ましい。織物の場合、編物よりも高い寸法安定性及び強度が実現できるため更に好適である。織物を構成する糸条は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。糸条の単繊維繊度は、絡合シートを用いた柔軟な表皮層が得られ易い点で5.5dtex以下が好ましい。織物を構成する糸条の形態としては、ポリエステル系樹脂のマルチフィラメントの生糸、又は仮撚り加工を施した加工糸等に撚数0~3000T/mで撚りを施したものが好ましい。該マルチフィラメントは通常のものでよく、例えば、ポリエステルの33dtex/6f、55dtex/24f、83dtex/36f、83dtex/72f、110dtex/36f、110dtex/48f、167dtex/36f、166dtex/48f等が好ましく用いられる。織物を構成する糸条は、マルチフィラメントの長繊維であってよい。織物における糸条の織密度は、柔軟で且つ機械強度に優れる表皮層を得る点で、30本/インチ以上150本/インチ以下が好ましく、更に好ましくは40本/インチ以上100本/インチ以下である。良好な機械強度と適度な風合いとを具備するためには、織物の目付は20g/m2以上150g/m2以下が好ましい。尚、織物における仮撚り加工の有無、撚数、マルチフィラメントの単繊維繊度、織密度等は、主体繊維層の構成繊維との交絡性、表皮層の柔軟性に加え、縫目強力、引裂強力、引張強伸度、伸縮性等の機械物性にも寄与するため、目標とする物性及び用途に応じて適宜選択すればよい。
【0035】
表皮層において、外表面繊維層は表皮材のおもて側となるように配される。例えば、表皮層となる人工皮革が、外表面繊維層とスクリム層からなる場合、外表皮層の第一の表面(上側の面)が表面(おもてめん)となり、該スクリム層の裏面が第二の表面(下側の面)となる。また、本実施形態の表皮層が外表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の3層からなる場合、裏面繊維層の裏面が第二の表面となる。
また、人工皮革が外表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の構成を採る場合における裏面繊維層を構成する素材は特に限定されないが、良好なリサイクル性を発現する観点から前記外表面繊維層の主体繊維及び/又は熱可塑性樹脂と同様のものであることが好ましい。また、裏面繊維層を含む場合、外表面繊維層とは異なるもとのし、例えば、難燃剤を付与したりして、所望の特性を追加することができる。
【0036】
外表面繊維層を形成する方法としては、主体繊維及び/又は熱融着繊維を短繊維の形態で使用し、抄造法、カード法、エアレイ法などを用いて、該繊維を交絡させて不織布構造を形成する方法などが挙げられる。
構成繊維の均一分散性、極細繊維が利用しやすいという観点から、抄造法によって表面繊維層が形成されていることが特に好ましい。
【0037】
また、本実施形態における各層間の交絡にはスパンレース法と呼ばれる水流交絡法、ニードルパンチ法などを用いることができるが、スクリム層である織編物の組織を破壊することがない水流交絡法が好ましい。
【0038】
上記方法によって得られた外表面繊維層の表面を起毛し、染色処理することによってスエード調やヌバック調の表皮層として用いられる。起毛処理としてはサンドペーパーでバフィングするなどの公知の方法を用いることができる。その場合、表面繊維層の熱融着繊維を熱融着させる前に起毛処理を行えばスエード調の表面感が得られる。他方、熱融着繊維を熱融着させた後に起毛処理を行えばヌバック調の表面感が得られる。
【0039】
染色処理においては、特に限定されない。例えば、主体繊維がポリエステル系繊維の場合は分散染料を用いることが一般的である。染色方法は、染色加工業者に周知の常法であることができ、表皮層においては均染性の点から液流染色機が好適に用いられる。このようにして染色された表皮層はソーピングや化学的還元剤の存在下で還元洗浄され、余剰染料が除去される。還元洗浄における条件は特に限定されず、主体繊維や熱可塑性樹脂の化学安定性に応じた条件で行えばよく、常法に従い塩基性還元剤、酸性還元剤を特に限定することなく用いることができる。
【0040】
表皮層の厚みは、0.40mm~1.50mmであることが好ましい。表皮層の厚みが0.40mm以上1.50mmの範囲に入ることにより、極細繊維層の厚みを十分に確保しつつ、単位面積当たりの融着点と表面の極細繊維層にある繊維間どうしの絡み合いを十分に維持することができるので、しなやかな手触りと十分なストレッチ性を両立することができる。
【0041】
表皮層の表皮層の目付は、100g/m2~400g/m2であることが好ましい。目付を100g/m2~400g/m2とすることにより、しなやかな手触りと適度な硬さを両立することができる。目付は、より好ましくは200g/m2~300g/m2である。
【0042】
表皮層は、表皮層として用いるにあたって良好な耐摩耗性として、JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に準拠し、押圧荷重12kPaで表面を摩耗したとき、摩耗回数50000回未満では、スクリムが露出しないものであることが好ましい。
【0043】
表皮層は、米国連邦自動車安全基準「FMVSS No.302」に準拠する燃焼性試験において4級以上の難燃性を示すことが好ましい。4級以上の難燃性を保持することで、自動車用途、航空機用途などに用いる耐燃焼性基準をクリアすることができ、表皮層として用いるにあたり適応可能な用途範囲を広げることができる。
【0044】
接着層の形成に用いられる接着剤は、ポリエステル系樹脂であることが必要である。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリラクテート、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。
【0045】
接着剤で用いられるポリエステル系樹脂は必ずしも単一のポリマーのみによって構成されていなくとも構わず、複数種のポリマーが混合されていても構わない。
また、この熱可塑性樹脂には所望の効果が奏される限り添加剤の類が混入又は付着していても構わない。添加剤の類とは、酸化チタン、各種耐酸化剤、耐光剤、難燃剤などを指す。
【0046】
接着剤の形態は特に限定はされず、エマルジョン、スラリー状、ゲル状、液体状、固形状、テープ状、不織布状などが用いられる。前記固体状においては、加工性の観点からパウダー状が好ましく、パウダー状のポリエステル系樹脂の粒径は50μm~900μmであることが好ましい。接着する前は、不織布状等であっても、接着した後は、不織布状等でなくなってもよい。
【0047】
更に、接着剤が、表皮層や基材層を貼着するための形態は特に限定されないが、ドット状と網目状とモザイク柄状のうち何れか1つとすることが好ましい。接着剤が点状若しくは部分的に塗布されて、熱溶着されることによって、通気性を的確に確保でき、従来品のフレームラミネート法を採用する場合に比べて、異臭やカビの発生を抑制でき、衛生的な環境を保つことができる。
【0048】
接着剤を塗布する手段としては、特に限定されない。一例としてシンタ塗装、パウダードット塗装、カーテンフロー塗装、フィルム塗装(シート状の接着剤を対象物の間に挟み込み、熱、圧をかけて溶融接着する)、スプレイ塗装などである。また、用いられる接着剤の形態も粉末であったり、液状であったり各種を適宜に採用できる。パウダードット塗装を用いるのが望ましい。その他の手法として、クモの巣状(網目状)フィルムに加工された接着剤を対象物の間に挟み込み、熱、圧をかけて溶融接着する等の手段も採用される。
【0049】
接着層の目付(単位面積当たりの塗布量)も、特に限定はないが、10g/m2以上100g/m2以下、好ましくは15g/m2以上95g/m2以下、更に好ましくは20g/m2以上90g/m2以下であってもよい。目付が10g/m2未満になると接着が不十分になり、表皮材を使用時に剥離しやすくなる。他方、100g/m2 以上になると加工時の樹脂の染み出しが発生する可能性が高まり、不良品になりやすい。
【0050】
本実施形態の基材層は、繊維状物を骨格としたシート状物である。基材層の布帛に用いられる樹脂はポリエステル系樹脂であることが必要である。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリラクテート、それらのコポリマーなどが好適に用いられる。
【0051】
基材層の繊維状物を骨格としたシート状物に用いられるポリエステル系樹脂は必ずしも単一のポリマーのみによって構成されていなくとも構わず、複数種のポリマーが混合されていても構わない。
また、このポリエステル系樹脂には所望の効果が奏される限り添加剤の類が混入又は付着していても構わない。添加剤の類とは、酸化チタン、各種耐酸化剤、耐光剤、帯電防止剤、難燃剤、柔軟剤、堅牢度向上剤、カーボンブラックなどの顔料、染料などを指す。
【0052】
基材層で用いられる繊維状物を骨格としたシート状物の形態としては特に限定はされず、織物、編物、不織布、フェルトなどが用いられる。表皮材の機械強度を高める観点から、用いられる布帛は織物又は編物であることが好ましい。伸縮性や立体形状の制御が行いやすいという観点から、編物であることが更に好ましい。
【0053】
基材層で用いられる布帛の目付も特に限定がないが、特に限定はないが、20g/m2以上800g/m2以下、好ましくは30g/m2以上700g/m2以下、更に好ましくは40g/m2以上600g/m2以下であってもよい。目付が10g/m2未満になると表皮材の機械的強度が不十分になる。他方、800g/m2以上になると経済性の観点から好ましくない。
【0054】
表皮層の少なくとも一つの表面と接着層の一つの表面が接合されている必要がある。接合時の接着層の形態は特に限定されないが、前述の通り、ドット状と網目状とモザイク柄状のうち何れか1つとすることが好ましい。
【0055】
また、接着層は基材層と接合されている必要がある。接合時の接着層の形態は特に限定されないが、前述の通り、ドット状と網目状とモザイク柄状のうち何れか1つとすることが好ましい。
【0056】
本実施形態の表皮材は、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有してよい。通気性と意匠性の観点から、穿孔加工(パーフォレーション加工)を施して、複数の貫通孔を有することが好ましい。表皮材の貫通孔の平面視における形状としては、特に限定はされず、円形、楕円形、多角形、星型、不定形などが用いられる。
【0057】
本実施形態の表皮層は、プリント加工又はエンボス加工が施されていてもよい。表皮層のプリント加工による柄あるいはエンボス加工による模様等により、より高級感が得られるものとなる。
【実施例0058】
以下、まず、実施例で用いた各種物性等の測定方法等を説明する。
(1)塊状樹脂の投影面積の平均値
試料表面の任意の100ヶ所を走査型電子顕微鏡の倍率250倍にて撮影して100枚の画像を採取した。各画像を用いて塊状樹脂100点の面積を求め、平均し、塊状樹脂の投影面積の平均値とした。
【0059】
撮影には、日本電子(株)製の走査電子顕微鏡JSM-5610を使用した。塊状樹脂の面積の算出には、画像処理ソフトとしてImageJを使用した。倍率250倍の画像より塊状樹脂を縁取りして得た面積を、撮影画像の縮尺に換算することによって求めた。縁取りして得た面積は0.001×10-9m2未満の桁を四捨五入した。塊状樹脂100点の面積の平均値は0.1×10-9m2未満の桁を四捨五入した。
塊状樹脂の選別には、塊状樹脂が主体繊維間を接着していることと、塊状樹脂が表面繊維層の外表面に露出していることとを満たすものをカウントするという判定基準を用いた。
【0060】
(2)熱融着点構造の説明
図を用いて塊状樹脂の状態とその判定について説明すると、
図1は外表面繊維層の外表面に露出しているが主体繊維間を接着していない例であり、
図2は表面に露出して主体繊維間を接着している例である。
図3は表面に露出していないが主体繊維間を接着している例であり、
図4は表面に露出して主体繊維間を接着している例であり、
図5は表面に露出しているが主体繊維間を接着していない例である。
図6は熱融着繊維が未溶融の例であり、塊状樹脂とは言わない。
図7は熱融着繊維として鞘芯繊維を用いた例であり、熱融着繊維は繊維形状を残しており、塊状樹脂とは言わない。
図8は表面に露出しているが主体繊維間を接着していない例である。図中、1は主体繊維、2は塊状樹脂、3は未溶融樹脂、4は鞘芯繊維である。
ここでいう『主体繊維間を接着している』とは、塊状樹脂(熱可塑性樹脂)の内部に、主体繊維が少なくとも2本以上貫通し、物理的に結合された状態を意味する。
【0061】
(3)個数平均体積(μm3)、体積個数密度(1012個/m3)
[X線CTを用いた画像測定]
熱融着点の塊状部の観察は、X線CT装置(株式会社リガク製「高分解能3DX線顕微鏡 Nano3DX」)を用い、表皮層の外表面繊維層の厚み方向をすべて観察するものとし、厚み方向断面における中央部を観察領域の中心点となるように3次元画像を撮影した。画像測定は、X線ターゲットに銅を用い、X線管電圧40kV、管電流30mA、露光時間12秒/枚、空間解像度1.08μm/ピクセルの条件において行った。同様の操作にて、回転角度180度あたりに画像1000枚を撮影し、3次元測定データを得た。
【0062】
[画像処理方法、解析方法、及び楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の加算平均値の算出方法]
以下、上記で取得した3次元測定データの処理・解析の詳細なプロセスについて記す。尚、画像解析ソフトは「ImageJ(バージョン:1.51j8)アメリカ国立衛生研究所)を用いた。
(i:画像の回転)外表面繊維層の面方向がxz軸からなる面方向に一致させ、外表面繊維層の厚み方向がy軸に一致するよう3次元画像を回転させる。
(ii:トリミング)3次元画像を直方体にトリミングする。この際、y軸は厚みのすべてが入り、かつ膜外の空間が過剰に存在することのない範囲とする。x軸とz軸に関しては、y軸の範囲を決めた後、トリミング後の直方体内に測定視野外の画素が入らない最大の範囲を取ることとする。
(iii:軸の設定)トリミング後の画像のx軸方向の画素数をx0、y軸方向の画素数をy0、z軸方向の画素数をz0とする。
(iv:フィルター化)medianフィルターを半径2pixの条件で実施する。
(v:領域分割)Otsu法を適用して領域を分割する。この時、明暗を明確にするため、画素の輝度値を、外表面繊維層を含まない空気の部分を0、外表面繊維層を構成する主体繊維部を255となるように設定する。
(vi:セグメンテーション)輝度値255の画素に対して、画像処理方法のsegmentationを実施する。3次元的に一つに繋がった輝度値255領域の画素数(pix)が10000以下の構造はノイズとみなし、その輝度値を0に変更し除去する。
(vii:ノイズ除去)輝度値0の画素のうち輝度値255に3次元的に囲われた0の画素をノイズとみなし、輝度値を255に変更して除去する。
(viii:空隙率の算出)3次元画像からxz面の2次元元画像を厚み方向に厚さ1pixで切り出し、その面での空隙率を次式:
空隙率=輝度値0の画素数/全画素数
で求める。
(ix:空隙率の厚み分布)上記(viii)をすべてのyのデータに対して実施し、空隙率のy軸方向の分布を求める。
(x:高輝度画素の大きさ算出)Thickness法により輝度値255の画素の大きさを求める。これにより、各画素にその場所に入る最大の球の直径の値が輝度値となった3次元画像が得られる。Thickness法とは、文献“A new method for the model-independent assessment of thickness in three-dimensional images” T. Hildebrand and P. Rueesgsegger, J. of Microscopy, 185 (1996) 67-75の方法であり、例えば画像解析ソフトImageJのプラグインのBoneJのThicknessにて実行できるものである。さらに、ここで得られた画像に対して、12μm以下の構造は主体繊維とみなし解析対象外として除去するため、12μmに相当する画素数以下の輝度値の画輝度値を0に変更する。
(xi:二値化)上記(x)で得られた画像に対して、輝度値が0でないすべての画素を255とし、輝度値が0の画素はそのまま0として二値化を実施する。
(xii:粒子解析)上記(xi)で得られた画像に対して、3次元の粒子解析を行う。3次元的に一つながりの輝度値255の部分を1粒子とし、各粒子の中心座標(XC,YC,ZC)並びに連続した構造の画素数を算出する。
(xiii:表面・スクリム層・裏面の定義)上記(ix)で求めた空隙率分布のデータにおいて、95%の範囲を解析に用いる(表面および裏面の最表面を解析から除外する)ため、当該外表面繊維層の表面において、空隙率が0.95以上となる最も表側から遠いy軸の値をy1と定義する。スクリム層を含む場合においては、(viii)の空隙率の数値及び100dtex以上の繊度の繊維が現れる部分を表側の端部と定義し、その座標をy2とする。
(xiv:画素数の総和算出とデータ解析)上記(xii)で求めたすべて粒子のうち座標値がy1<YC<y2を満たす粒子について、粒子の個数並びに粒子の画素数の総和を求める。
個数平均体積(μm3)=粒子の画素数の総和*p*p*p÷粒子の個数
体積個数密度(1012個/m3)=粒子の個数÷(|y2-y1|*p*x0*p*z0*p)
ここで、pは画素サイズ(m/pix)であり、1画素(pix)の実寸(m)である。
(xv:楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値の算出とデータ解析)
上記(xi)で得られた画像に対して、3次元の粒子解析を行う。3次元的に一つながりの輝度値255の部分を1粒子とし、各粒子を楕円球に近似した。楕円球の3つの軸の大きい方から長軸、中軸、短軸とする。各粒子の楕円近似した時の長軸を短軸で除した商の平均値を次式:
長軸を短軸で除した商(熱可塑性樹脂長軸/短軸比)=長軸長さ/短軸長さ
で計算した。測定点30点の加算平均を測定値とした。
但し、近似した楕円球の長軸が、解析対象の直方体の最小軸よりも大きい場合はエラーとして除外し、アスペクト比=0とした。平均アスペクト比を次式:
平均長軸を短軸で除した商=粒子の長軸を短軸で除した商の総和÷(粒子の総個数-除外した総個数)
で計算した。
【0063】
(4)繊度
表皮層の外表面繊維層の表面又は裏面の任意の10ヶ所をマイクロスコープの倍率2500倍にて撮影して、50点の繊維の直径を測定し、それらの平均値を平均繊維径として求めた。得られた平均繊維径と主体繊維の密度から換算して、主体繊維の繊度[dtex]を求めた。
また、表皮層の外表面繊維層をエタノールに浸漬し、ゼラチンカプセルに包んだものを液体窒素中で凍結乾燥し、カプセルごとナイフで割断し、常温に戻した試料の割断断面を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-5610)を用いてWD=10mm、倍率200倍の条件で観察し、得られた画像20枚から各5点ずつ測定したスクリム層を構成する織糸の太さを計測することによって、スクリム層を構成する織糸の繊度を求めた。
熱融着繊維の繊度は、原料繊維の繊度であり、走査型電子顕微鏡を用いて評価した。具体的には、評価ステージの上に粘着性のカーボンテープを張り付け、その上に原料短繊維を0.05g載せ、余剰の熱融着繊維をエアダスターで除去したものを試料とし、WD=10mm、倍率200倍の条件で観察し、得られた画像20枚から各5点ずつ太さを計測することによって求めた。
【0064】
(5)耐摩耗性及び摩耗減量
JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に規定される手法で、押圧荷重12kPaにてサンプル表面の摩耗を実施した。この試験方法での評価基準として、サンプル表面層が摩耗し、スクリム又は接着層が露出する部分を生じるまでの摩耗回数によって下記評価基準(等級)に分けて評価した。
(評価基準)
××:摩耗回数5000回で繊維の脱落が著しく、評価できない。
× :摩耗回数30000回未満でスクリムが露出する。
△ :摩耗回数30000回以上40000回未満でスクリムが露出する。
○ :摩耗回数40000回以上50000回未満でスクリムが露出する。
◎ :摩耗回数50000回以上でスクリムが露出する。
また、JIS-L-1096 E法(マーチンデール法)に規定される表皮層の外表面繊維層の試料(直径40mmの真円状)を押圧荷重12kPa、50000回摩耗する前後での重量変化[mg]を摩耗減量として評価した。測定は3回行い、その加算平均を結果とした。
【0065】
[実施例]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.15dtex、融点255℃のポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体繊維とした。熱融着繊維として、融点180℃のポリエチレンテレフタレートコポリマーからなる単繊維繊度1.1dtex、長さ5mmの全融タイプ熱融着性繊維(ユニチカ(株)製キャスベン8000)を用いた。これらの短繊維を、主体繊維:熱溶融糸=90:10の重量比率となるよう水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付110g/m2の表面繊維用抄造シートを作製した。
また、直接紡糸法によって単繊維繊度0.15dtex、融点255℃のポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体繊維とした。熱融着繊維として、融点180℃のポリエチレンテレフタレートコポリマーからなる単繊維繊度1.1dtex、長さ5mmの全融タイプ熱融着性繊維(ユニチカ(株)製キャスベン8000)を用いた。これらの短繊維を、主体繊維:熱溶融繊維=97:3の重量比率となるよう水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付50g/m2の裏面繊維用抄造シートを作製した。これら2層をMD方向の織密度とCD方向の織密度の和が120(本/2.54cm)、166dtex/48fのポリエチレンテレフタレート繊維からなる目付100g/m2の織物スクリムと積層し、表面繊維層/スクリム層/裏面繊維層の3層構成とした。得られた3層積層体を、直進流噴射ノズルを用いた高速水流を噴射して絡合させて交絡した後に、エアースルー方式の乾燥機を用いて、130℃で5分間乾燥して、3層構造の不織布を得た。
【0066】
得られた不織布の外表面繊維層の表面を400メッシュのサンドペーパーでバフィングすることによって起毛処理した後に、東洋精機製作所製 二軸延伸試験装置X4HDHTに不織布をMD・CD方向にそれぞれ収縮率5%となるようにたるませ、圧縮エア式グリップにより両辺の中心と四隅を固定した。その後、チャンバー内にて不織布を5分間、190℃で熱アニール処理し、表皮層を得た。次いで青色分散染料(BlueFBL:住友化学製)を用い、液流染色機にて130℃で染色し、80℃で還元洗浄処理を行うことでスエード調の表皮層を得た。表面から観察した塊状樹脂は
図2のように主体繊維間を接着しており、塊状樹脂サイズの平均面積は1.0×10
-9m
2、X線CTで測定した熱可塑性樹脂の個数平均体積は108000μm
3、体積個数密度は1.1×10
12個/m
3耐摩耗性は50000回でスクリムは露出されず、摩耗減量は18mgであった。
【0067】
MD方向の織密度とCD方向の織密度の和が240(本/2.54cm)、166dtex/48fのポリエチレンテレフタレート繊維からなる目付200g/m2の織物を基材層の布帛として用い、接着剤であるポリエステル樹脂パウダーを点状に織物の上に載せ、さらに表皮層を上に重ね合わせ、フラットプレス機を用いて加熱、加圧を加えながら、接着し、表皮材を得た。得られた表皮材は良好な風合いと高い耐摩耗性、高級感のある外観を備えながらも、ポリエステル系樹脂で構成されているためリサイクル性も優れている。
本発明の表皮材は、良好な風合と高い耐摩耗性、高級感のある外観を備えている。また、本発明の表皮材は、表皮層と接着層と基材がすべて、ポリエステル系繊維又はポリエステル系樹脂で構成されており、ポリウレタン等の他の高分子を含まないため、リサイクル性にも優れる。それゆえ、本発明の表皮材は、カーインテリア素材の他、鉄道車両、航空機、船舶などのシート表皮材や内装材、車両用シートカバー、衣料、靴、鞄、スマートフォンケース、インテリア、家具類などの分野において好適に利用可能である。