(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009015
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】不快臭低減剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20250109BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20250109BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20250109BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20250109BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20250109BHJP
A23F 5/40 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L2/00 B
A23L2/52
A23L2/38 P
A23F5/24
A23F5/40
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111716
(22)【出願日】2023-07-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】持田 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】浜名 芳輝
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 和人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健二
(72)【発明者】
【氏名】熊王 俊男
【テーマコード(参考)】
4B027
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B027FB22
4B027FC01
4B027FE02
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4B027FK05
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4B117LE01
4B117LE08
4B117LG17
4B117LK14
4B117LL09
(57)【要約】
【課題】飲食品の不快臭を低減させる化合物、及び、当該化合物を用いて、不快臭の低減又は風味の経時劣化抑制により、飲食品の風味を改善させる方法の提供。
【解決手段】カルニチンを有効成分とする、飲食品のカルニチン濃度を増加させることにより、風味の経時劣化を抑制する又は不快臭を低減させる、飲食品の風味改善方法、コーヒー飲料のカルニチン濃度を、2.0μg/100mL以上になるように調整する、コーヒー飲料の風味の経時劣化を抑制する方法、及び、可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有し、飲料のカルニチン濃度が2.0μg/100mL以上であり、風味の経時変化が少ないコーヒー飲料
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルニチンを有効成分とすることを特徴とする、不快臭低減剤。
【請求項2】
飲食品のカルニチン濃度を増加させることにより、風味の経時劣化を抑制する又は不快臭を低減させることを特徴とする、飲食品の風味改善方法。
【請求項3】
飲食品に、カルニチンを原料として含有させる、請求項2に記載の飲食品の風味改善方法。
【請求項4】
前記飲食品が、飲料である、請求項2又は3に記載の飲食品の風味改善方法。
【請求項5】
前記飲食品が、ミルク原料である、請求項2又は3に記載の飲食品の風味改善方法。
【請求項6】
コーヒー飲料のカルニチン濃度を、2.0μg/100mL以上になるように調整することを特徴とする、コーヒー飲料の風味の経時劣化を抑制する方法。
【請求項7】
可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有し、
飲料のカルニチン濃度が2.0μg/100mL以上であり、風味の経時変化が少ないことを特徴とする、コーヒー飲料。
【請求項8】
可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有し、
飲料のカルニチン濃度が0.5mg/100mL以上であることを特徴とする、コーヒー飲料。
【請求項9】
液体と混合して風味の経時変化が少ないコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物であって、
可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有し、
カルニチンの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカルニチン濃度が2.0μg/100mL以上となる量であることを特徴とする、インスタントコーヒー飲料用組成物。
【請求項10】
液体と混合してコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物であって、
可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有し、
カルニチンの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカルニチン濃度が0.5mg/100mL以上となる量であることを特徴とする、インスタントコーヒー飲料用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不快臭の低減や風味の経時劣化の抑制により、飲食品の風味を改善する方法や、そのための改善剤に関する。本発明は、特に、不快臭が低減されたコーヒー飲料、及び当該コーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーや紅茶は、日常的に広く親しまれている嗜好性飲料であり、容器詰飲料や、水等の液体に溶解させることにより喫飲可能となるインスタント飲料用組成物が多数上市されている。一方で、嗜好性飲料の原料であるコーヒー豆や茶葉は天然物であり、その抽出液中には、嗜好性飲料らしい味や香気を担う成分以外にも、嗜好性飲料の風味を損なうような雑味成分も含まれている。これらの雑味成分による不快臭を低減することにより、嗜好性飲料の風味が改善できると期待される。
【0003】
また、容器詰飲料やインスタント飲料用組成物では、市場の流通過程での品質劣化を抑制するために、一般的に加熱殺菌処理が行われる。この加熱殺菌処理により、不快な加熱臭が付与されてしまう場合がある。特にインスタント飲料用組成物では、粉末化の工程でも加熱処理があり、加熱臭がより問題となる。
【0004】
このような不快臭を低減させる方法が、様々な飲食品について報告されている。例えば、特許文献1には、コーヒーオイルをプロピレングリコール又はその水溶液と接触させて得られたコーヒーオイル抽出液を、焙煎コーヒー豆抽出液に添加することによって、発酵臭的な劣化臭の発生が抑制されたコーヒー飲料を製造できることが開示されている。また、特許文献2には、光、熱、空気、酵素等による飲食品の香味の劣化を、バナバ、グァバ、ウラジロガシ、キンミズヒキ、バラ科植物、ケイヒ及びチョウジからなる群より選ばれる植物の抽出物1種又は2種以上を含有させることによって抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-17126号公報
【特許文献2】特開2008-1727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、飲食品の不快臭を低減させる化合物、当該化合物を用いて、不快臭の低減又は風味の経時劣化抑制により、飲食品の風味を改善させる方法、当該化合物を用いて不快臭が低減されたコーヒー飲料、及び、水等の液体に溶解させるだけで当該コーヒー飲料を簡便に調製し得るインスタントコーヒー飲料用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、コーヒー飲料に、カルニチンを所定量含有させることにより、不快臭が低減されたり、風味の経時劣化が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
[1] カルニチンを有効成分とすることを特徴とする、不快臭低減剤。
[2] 飲食品のカルニチン濃度を増加させることにより、風味の経時劣化を抑制する又は不快臭を低減させることを特徴とする、飲食品の風味改善方法。
[3] 飲食品に、カルニチンを原料として含有させる、前記[2]の飲食品の風味改善方法。
[4] 前記飲食品が、飲料である、前記[2]又は[3]の飲食品の風味改善方法。
[5]前記飲食品が、ミルク原料である、前記[2]又は[3]の飲食品の風味改善方法。
[6] コーヒー飲料のカルニチン濃度を、2.0μg/100mL以上になるように調整することを特徴とする、コーヒー飲料の風味の経時劣化を抑制する方法。
[7] 可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有し、
飲料のカルニチン濃度が2.0μg/100mL以上であり、風味の経時変化が少ないことを特徴とする、コーヒー飲料。
[8] 可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有し、
飲料のカルニチン濃度が0.5mg/100mL以上であることを特徴とする、コーヒー飲料。
[9] 液体と混合して風味の経時変化が少ないコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物であって、
可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有し、
カルニチンの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカルニチン濃度が2.0μg/100mL以上となる量であることを特徴とする、インスタントコーヒー飲料用組成物。
[10] 液体と混合してコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物であって、
可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有し、
カルニチンの含有量が、前記インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカルニチン濃度が0.5mg/100mL以上となる量であることを特徴とする、インスタントコーヒー飲料用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、不快臭が低減されたり、風味の経時変化が少なくなることによって、風味が改善された飲食品を得ることができる。本発明により、特に、風味が改善された嗜好性の高いコーヒー飲料や、当該コーヒー飲料を容易に調製可能なインスタント飲料用組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明及び本願明細書において、「インスタント飲料用組成物」とは、可食性液体に溶解、希釈、又は分散させることによって、飲料を調製し得る組成物を意味する。本発明及び本願明細書において、「インスタントコーヒー飲料用組成物」(「IC飲料用組成物」と略記することもある。)とは、可食性液体に溶解、希釈、又は分散させることによって、コーヒー飲料を調製し得る組成物を意味する。また、本発明及び本願明細書において、「インスタント非固形食品調製用組成物」とは、可食性液体に溶解、希釈、又は分散させることによって、非固形食品を調製し得る組成物を意味する。インスタント飲料用組成物、IC飲料用組成物、及びインスタント非固形食品調製用組成物は、いずれも、粉末や顆粒等の固形物であってもよく、液体やペースト等の非固形物であってもよい。なお、非固形物とは、流動性のある物を意味する。
【0011】
インスタント飲料用組成物等を溶解、希釈、又は分散させる可食性液体としては、例えば、水、牛乳等の乳、植物性ミルク等が挙げられる。
【0012】
本発明及び本願明細書において、「粉末」とは粉粒体(異なる大きさの分布をもつ多くの固体粒子からなり,個々の粒子間に,何らかの相互作用が働いているもの)を意味する。また、「顆粒」は粉末から造粒された粒子(顆粒状造粒物)の集合体である。粉末には、顆粒も含まれる。
【0013】
<不快臭低減剤>
本発明に係る不快臭低減剤は、カルニチンを有効成分とする。カルニチンを、喫食可能な状態の飲食品に含有させることにより、当該飲食品の不快臭を低減させることができる。本発明に係る不快臭低減剤の有効成分とするカルニチンは、L-体であってもよく、D-体であってもよく、ラセミ体であってもよい。
【0014】
本発明に係る不快臭低減剤が低減させる不快臭は、飲食品を喫食したヒトが不快だと感じる臭いであれば特に限定されるものではない。当該不快臭としては、例えば、飲食品の品質劣化により発生する臭いや、加熱処理により付与される臭い等が挙げられる。
【0015】
不快臭低減剤の有効成分として使用されるカルニチンは、合成品や精製品を用いることができ、不純物の含有量が少ないものがより好ましく、市販品をそのまま用いてもよい。また、酵母や藻類等の天然物から抽出されたエキスであってカルニチンを含むものを、本発明に係る不快臭低減剤の原料としてもよく、これらのエキスから精製したカルニチンも、本発明に係る不快臭低減剤の有効成分とすることができる。
【0016】
本発明に係る不快臭低減剤の有効成分であるカルニチンは、可食性の塩や溶媒和物であってもよい。可食性の塩としては、例えば、酒石酸、フマル酸、クエン酸、乳酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸等の塩が挙げられる。また、溶媒和物としては、水、エタノール等を溶媒とする溶媒和物が挙げられる。
【0017】
本発明に係る不快臭低減剤は、1個の飲食品へ添加するための量を小パウチなどに個包装したり、使用時に容器から振り出したりスプーンで取り出したりして使用するように瓶などの容器に数個分をまとめて包装して商品として供給することもできる。
【0018】
個包装タイプとは、スティック状アルミパウチ、ワンポーションカップなどにコーヒー飲料1杯分の中身を充填包装するものであり、容器を開けて指で押し出すなどの方法で中身を取り出すことができる。個包装タイプは、1回分が密閉包装されているので取り扱いも簡単で、衛生的であるという利点を有する。
【0019】
<飲食品の風味改善方法>
本発明に係る飲食品の風味改善方法は、飲食品に、飲食品のカルニチン濃度を増加させることにより、風味の経時劣化を抑制する又は不快臭を低減させることを特徴とする。風味の経時劣化が抑制されたり、不快臭が低減されることにより、飲食品の風味が改善される。
【0020】
飲食品のカルニチン濃度を増加させる方法としては、特に限定されるものではない。例えば、カルニチンを原料として含有させる、すなわち、カルニチン自体又はカルニチンを多く含有する可食性組成物等をカルニチン含有添加剤として添加することによって、飲食品のカルニチン濃度を所望の程度にまで増加させることができる。当該カルニチン含有添加剤としては、例えば、前記の本発明に係る不快臭低減剤を用いることができる。
【0021】
カルニチンを含有する食品素材を原料とする飲食品の場合、当該飲食品に含有させる当該食品素材の配合量を増量させたり、同種の食品素材の中から比較的カルニチン含有量が多い食品素材を選択して使用することによっても、飲食品のカルニチン濃度を増加させることができる。例えば、コーヒー抽出液(焙煎コーヒー豆の熱水抽出液)には、一般的にカルニチンはほとんど含まれていないが、品種や産地、栽培方法、収穫後の保管状態、焙煎方法、抽出方法等を調整することで、カルニチンを比較的多く含有するコーヒー抽出液を調製し得る。そこで、カルニチン濃度が比較的高いコーヒー抽出液を選択して原料とすることにより、カルニチン濃度を増加させて風味が改善されたコーヒー飲料や当該コーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物を製造することができる。
【0022】
カルニチン濃度増加による風味の経時劣化抑制効果を得るために増加させる飲食品のカルニチン濃度は、当該効果が得られる濃度増加量であれば特に限定されるものではなく、風味改善前の飲食品の種類やカルニチン濃度等を考慮して適宜決定することができる。飲食品中のカルニチン濃度が高いほど、より強い風味の経時劣化抑制効果が得られる。例えば、飲食品のカルニチン濃度を、2.0μg/100mL以上、より好ましくは4.0μg/100mL以上、さらに好ましくは10.0μg/100mL以上増加させるように、飲食品のカルニチン含有量を増大させることによって、風味の経時劣化を十分に抑制することができる。
【0023】
カルニチン濃度をより高めることにより、風味の経時劣化抑制効果に加えて、不快臭低減効果も得られる。飲食品中のカルニチン濃度が高いほど、より強い不快臭低減効果が得られる。不快臭低減剤として飲食品に添加されるカルニチンの量は、飲食品中のカルニチン濃度が不快臭低減効果が奏されるために十分な濃度となる量であれば特に限定されるものではない。例えば、十分な不快臭低減効果が得られやすいことから、飲食品中のカルニチン濃度は0.5mg/100mL以上が好ましく、1.0mg/100mL以上がより好ましく、2.0mg/100mL以上がさらに好ましい。
【0024】
カルニチンは飲食品の呈味に対する影響が小さいため、飲食品への含有量の上限値は特に定められるものではない。本発明に係る飲食品の風味改善方法においては、コスト等を鑑み、カルニチン濃度を増加させた飲食品のカルニチン濃度は、10g/100mL以下が好ましく、5g/100mL以下がより好ましく、2.5g/100mL以下がさらに好ましい。
【0025】
飲食品等におけるカルニチン濃度は、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)法により測定することができる。
【0026】
カルニチン濃度増加により風味を改善される飲食品としては、特に限定されるものではないが、本発明に係る不快臭低減剤等のカルニチン含有添加剤を喫食可能な状態で添加した場合でも飲食品全体にカルニチンを充分に分散させることができるため、流動性のある非固形物であることが好ましく、液体がより好ましい。当該飲食品には、調味料やミルク原料などの飲食品の原料も含まれる。
【0027】
非固形物の飲食品としては、具体的には、嗜好性飲料、果汁飲料、清涼飲料、乳酸菌飲料、乳飲料、植物性ミルク飲料等の飲料;コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、みそ汁、澄まし汁、だし汁等のスープ類;ドレッシング、ナッツペースト等の調味料;などが挙げられる。嗜好性飲料とは、紅茶、緑茶、ウーロン茶、抹茶等の茶飲料、ハーブティー、コーヒー飲料、ココア、又はこれらの混合飲料を意味する。ハーブティーの原料としては、ハイビスカス、ローズヒップ、ペパーミント、カモミール、レモングラス、レモンバーム、ラベンダー等が挙げられる。これらの飲食品は、常法により製造されたものを用いることができる。
【0028】
カルニチン濃度増加により風味を改善される飲食品としては、インスタント飲料用組成物やインスタント非固形食品調製用組成物であってもよい。インスタント飲料用組成物やインスタント非固形食品調製用組成物は、粉末等の固形の組成物であってもよく、液状組成物であってもよい。インスタント飲料用組成物は、製造する対象の飲料の可溶性固形分を含む各種原料から常法により製造できる。同様に、インスタント非固形食品調製用組成物は、製造する対象の非固形食品の可溶性固形分を含む各種原料から常法により製造できる。本発明に係る飲食品の風味改善方法において、カルニチン濃度が増加される飲食品としては、インスタント嗜好性飲料用組成物又はインスタントスープ類用組成物が好ましい。
【0029】
嗜好性飲料の可溶性固形分は、焙煎されたコーヒー豆や茶葉等の嗜好性原料から抽出された可溶性の固形分である。嗜好性飲料やインスタント嗜好性飲料用組成物の原料となる嗜好性飲料の可溶性固形分は、液体であってもよく、粉末化したものであってもよい。粉末の可溶性固形分としては、具体的には、可溶性コーヒー固形分粉末(インスタントコーヒー粉末)、可溶性紅茶固形分粉末(インスタント紅茶粉末、以下同様)、インスタント緑茶粉末、インスタントウーロン茶粉末、インスタントハーブティー粉末、及びこれらのうちの2種類以上の混合粉末等が挙げられる。
【0030】
嗜好性飲料の粉末の可溶性固形分は、常法により製造することができ、また、市販されているものを用いてもよい。例えば、コーヒー飲料の可溶性の固形分(可溶性コーヒー固形分)は、焙煎されたコーヒー豆から抽出されたコーヒー抽出液、すなわち、可溶性コーヒー固形分が溶解している抽出物を調製し、得られた抽出物を乾燥することにより得られる。茶飲料の粉末状の可溶性固形分は、紅茶葉、緑茶葉(生茶葉)、ウーロン茶葉等の茶葉から熱水を用いて可溶性の固形分を抽出し、得られた抽出物を乾燥することにより得られる。インスタントハーブティー粉末は、ハーブの原料から熱水を用いて可溶性の固形分を抽出し、得られた抽出物を乾燥することにより得られる。
【0031】
コーヒー豆や茶葉等の嗜好性飲料の原料としては、一般的に嗜好性飲料に使用されているものを用いることができる。得られた抽出物の乾燥方法としては、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。また、茶葉やコーヒー豆からの抽出物は、乾燥前に、必要に応じて濃縮してもよい。当該濃縮方法としては、熱濃縮方法、冷凍濃縮方法、逆浸透膜や限外濾過膜等を用いた膜濃縮方法等の汎用されている濃縮方法により行うことができる。
【0032】
嗜好性飲料がコーヒー飲料の場合、焙煎されたコーヒー豆から抽出されたコーヒー抽出液をそのまま原料としてもよく、当該抽出液から可溶性コーヒー固形分のみを粉末化して得られたインスタントコーヒー粉末を原料としてもよい。インスタントコーヒー粉末を原料とする場合、粉末をそのまま原料としてもよく、予め水等の液体に溶かして調製された水溶液を原料としてもよい。例えば、原料とするコーヒー抽出液を、比較的カルニチン含有量の少ないものから、比較的カルニチン含有量の多いものに変更させることにより、コーヒー飲料のカルニチン濃度を増加させることができる。
【0033】
コーヒー抽出液をそのまま原料とする場合には、例えば、焙煎されたコーヒー豆から熱水で抽出されたコーヒー抽出液に、必要に応じてその他の原料を添加して製造することができる。原料コーヒー豆の焙煎や焙煎されたコーヒー豆からの熱水抽出は、ペーパやネル等を用いたドリップ法、サイフォン式やパーコレータ式等の蒸気圧を利用した方法、エスプレッソマシン等を用いた高圧抽出法、フレンチプレス法、エアロプレス法、多段抽出式や向流式連続抽出式等の高温高圧抽出法等、各種の公知の抽出方法の中から適宜選択して用いることができる。
【0034】
スープ類の可溶性固形分は、スープ類から水分を除去して濃縮したり、さらに乾燥することによって調製できる。スープ類の濃縮方法としては、熱濃縮方法、冷凍濃縮方法、逆浸透膜や限外濾過膜等を用いた膜濃縮方法等の汎用されている濃縮方法により行うことができる。また、スープ類やその濃縮物の乾燥方法としては、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。スープ類の可溶性固形分としては、市販のインスタントスープ用組成物をそのまま用いてもよい。
【0035】
カルニチン濃度増加により風味を改善される飲食品が、インスタント飲料用組成物やインスタント非固形食品調製用組成物の場合、本発明に係る不快臭低減剤等のカルニチン含有添加剤をインスタント飲料用組成物やインスタント非固形食品調製用組成物に直接混合させておき、これに液体を混合してインスタント飲料やインスタント非固形食品を調製してもよい。また、インスタント飲料用組成物やインスタント非固形食品調製用組成物を液体に混合してインスタント飲料やインスタント非固形食品を調製し、得られたインスタント飲料等にカルニチン含有添加剤を添加してもよい。インスタント飲料用組成物やインスタント非固形食品調製用組成物を液体に混合して調製されたインスタント飲料やインスタント非固形食品を、所定時間保存した後に、喫食前にカルニチン含有添加剤を添加してもよい。
【0036】
本発明に係る飲食品の風味改善方法をコーヒー飲料に適用することにより、可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有しており、風味の経時劣化が抑制されたコーヒー飲料が製造できる。例えば、コーヒー飲料の場合には、保存期間が長くなるにつれて経時劣化が生じ、焙煎香や甘い香などのコーヒーらしい香りが低減し、不快臭や渋味が増大する。本発明に係る飲食品の風味改善方法をコーヒー飲料に適用することにより、このような風味の経時劣化が抑制され、風味の経時変化が少なく、保存安定性の高いコーヒー飲料が得られる。
【0037】
カルニチン濃度を増加させて風味の経時劣化が抑制されたコーヒー飲料のカルニチン濃度は、2.0μg/100mL以上が好ましく、4.0μg/100mL以上がより好ましく、10.0μg/100mL以上がさらに好ましい。当該コーヒー飲料のカルニチン濃度は、10g/100mL以下が好ましく、5g/100mL以下がより好ましく、2.5g/100mL以下がさらに好ましい。
【0038】
本発明に係る飲食品の風味改善方法をコーヒー飲料に適用することにより、可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有しており、不快臭が低減されたコーヒー飲料が製造できる。コーヒー飲料において、カルニチンにより低減される不快臭としては、例えば、浅煎りのコーヒー豆から調製されたコーヒー飲料に特有のワラや干し草様の香り;中~深煎りのコーヒー豆から調製されたコーヒー飲料に多い、焦げ感や苦味、ざらつきを彷彿とさせる香り;製造時の加熱処理に発生する加熱臭;等が挙げられる。
【0039】
カルニチン濃度を増加させて不快臭が低減されたコーヒー飲料のカルニチン濃度は、0.5mg/100mL以上が好ましく、1.0mg/100mL以上がより好ましく、2.0mg/100mL以上がさらに好ましい。当該コーヒー飲料のカルニチン濃度は、10g/100mL以下が好ましく、5g/100mL以下がより好ましく、2.5g/100mL以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明に係る飲食品の風味改善方法により製造されるコーヒー飲料は、カルニチン濃度を増加させるようにした以外は、常法により製造できる。例えば、本発明に係る飲食品の風味改善方法により製造されるコーヒー飲料としては、可溶性コーヒー固形分とカルニチン以外にも、コーヒー飲料に一般的に含まれている成分を含有していてもよい。当該成分としては、ミルク原料、甘味料、香料、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤等が挙げられる。
【0041】
ミルク原料は、ミルク風味を付与する原料であり、具体的には、乳、クリーミングパウダー(クリームの代用として、コーヒー等の嗜好性飲料に添加される粉末)、植物性ミルク等が挙げられる。これらのミルク原料は、1種類のみを含有していてもよく、2種類以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0042】
乳としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、牛乳、低脂肪乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、加糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖脱脂練乳、乳糖、生クリーム、バター等が挙げられる。なお、全脂粉乳及び脱脂粉乳は、それぞれ、牛乳(全脂乳)又は脱脂乳を、スプレードライ等により水分を除去して乾燥し粉末化したものである。
【0043】
クリーミングパウダーは、例えば、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、水添パーム油、パーム核油、水添パーム核油、大豆油、コーン油、綿実油、ナタネ油、こめ油、サフラワー油(ベニバナ油)、ひまわり油、中鎖脂肪酸トリグリセライド、乳脂、牛脂、豚脂等の食用油脂;シヨ糖、グルコース、澱粉加水分解物等の糖質;カゼインナトリウム、第二リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、脱脂粉乳、乳化剤等のその他の原料等を、望まれる品質特性に応じて選択し、これらの原料を水中で混合し、次いで乳化機等で水中油型乳化液(O/Wエマルション)とした後、水分を除去することによって製造することができる。水分を除去する方法としては、噴霧乾燥、噴霧凍結、凍結乾燥、凍結粉砕、押し出し造粒法等、任意の方法を選択して行うことができる。得られたクリーミングパウダーは、必要に応じて、分級、造粒及び粉砕等を行ってもよい。
【0044】
植物性ミルクとしては、豆類のミルク、ナッツのミルク、穀類のミルクが挙げられる。豆類のミルクとしては、豆乳等が挙げられる。ナッツミルクとしては、ピーナッツミルク、アーモンドミルク、クルミ(ウォールナッツ)ミルク、ピスタチオミルク、ヘーゼルナッツミルク、カシューナッツミルク、ピーカンナッツミルク等が挙げられる。穀類のミルクとしては、ライスミルク、オーツミルク等が挙げられる。これらの乳や植物性ミルクは、常法により製造することができる。
【0045】
甘味料としては、ショ糖、オリゴ糖、ブドウ糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、還元水あめ等の糖アルコール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、アドバンテーム、サッカリン等の高甘味度甘味料、ステビア等が挙げられる。ショ糖としては、グラニュー糖であってもよく、粉糖であってもよく、ショ糖型液糖であってもよい。甘味料は、1種類のみを含有していてもよく、2種類以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0046】
香料としては、コーヒー香料、ミルク香料等が挙げられる。また、シナモン、キャラメル、チョコレート、ハチミツ等の、一般的にフレーバーコーヒーに添加される香料も好ましく用いられる。
【0047】
酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、クロロゲン酸、カテキン等が挙げられる。
【0048】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、コハク酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の有機酸や、リン酸等の無機酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)、二酸化炭素等が挙げられる。
【0049】
増粘剤としては、デキストリン等の澱粉分解物、麦芽糖、トレハロース等の糖類、難消化性デキストリン、ペクチン、グアーガム、カラギーナン等の食物繊維、カゼイン等のタンパク質等が挙げられる。
【0050】
乳化剤としては、例えば、モノグリセライド、ジグリセライド、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリンエステル等のグリセリン脂肪酸エステル系乳化剤;ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル系乳化剤;プロピレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールモノパルミテート、プロピレングリコールオレエート等のプロピレングリコール脂肪酸エステル系乳化剤;ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等のシュガーエステル系乳化剤;レシチン、レシチン酵素分解物等のレシチン系乳化剤等が挙げられる。
【0051】
本発明に係る飲食品の風味改善方法をインスタント飲料用組成物に適用することにより、可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有するインスタントコーヒー飲料用組成物が製造され、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を水等の可食性液体に溶解させることにより、風味の経時変化が少ないコーヒー飲料が得られる。当該インスタントコーヒー飲料用組成物のカルニチンの含有量は、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカルニチン濃度が、2.0μg/100mL以上となる量が好ましく、4.0μg/100mL以上がより好ましく、10.0μg/100mL以上がさらに好ましい。当該インスタントコーヒー飲料用組成物のカルニチンの含有量は、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカルニチン濃度が、10g/100mL以下が好ましく、5g/100mL以下がより好ましく、2.5g/100mL以下がさらに好ましい。
【0052】
本発明に係る飲食品の風味改善方法をインスタント飲料用組成物に適用することにより、可溶性コーヒー固形分とカルニチンとを含有するインスタントコーヒー飲料用組成物が製造され、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を水等の可食性液体に溶解させることにより、不快臭が低減されたコーヒー飲料が得られる。当該インスタントコーヒー飲料用組成物のカルニチンの含有量は、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカルニチン濃度が、0.5mg/100mL以上となる量が好ましく、1.0mg/100mL以上がより好ましく、2.0mg/100mL以上がさらに好ましい。当該インスタントコーヒー飲料用組成物のカルニチンの含有量は、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のカルニチン濃度が、10g/100mL以下が好ましく、5g/100mL以下がより好ましく、2.5g/100mL以下がさらに好ましい。
【0053】
本発明に係る飲食品の風味改善方法により製造されるインスタントコーヒー飲料用組成物は、カルニチンを含有させる以外は、常法により製造できる。当該インスタントコーヒー飲料用組成物は、粉末状であってもよく、液状であってもよい。例えば、当該インスタントコーヒー飲料用組成物は、可溶性コーヒー固形分とカルニチン以外にも、望まれる品質特性によってインスタントコーヒー飲料用組成物に一般的に含まれている成分を含有していてもよい。当該成分としては、ミルク原料、甘味料、香料、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤、賦形剤、結合剤、流動性改良剤等が挙げられる。ミルク原料、甘味料、香料、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤等は、前記で挙げられたものを適宜用いることができる。
【0054】
賦形剤や結合剤としては、デキストリン等の澱粉分解物、麦芽糖、トレハロース等の糖類、難消化性デキストリン等の食物繊維、カゼイン等のタンパク質等が挙げられる。なお、賦形剤や結合剤は、造粒時の担体としても用いられる。
流動性改良剤としては、微粒酸化ケイ素、第三リン酸カルシウム等の加工用製剤が用いられてもよい。
【0055】
本発明に係る飲食品の風味改善方法により製造されたインスタントコーヒー飲料用組成物は、飲用1杯分を小パウチなどに個包装したり、使用時に容器から振り出したりスプーンで取り出したりして使用するように瓶などの容器に数杯分をまとめて包装して商品として供給することもできる。
【0056】
個包装タイプとは、スティック状アルミパウチ、ワンポーションカップなどにコーヒー飲料1杯分の中身を充填包装するものであり、容器を開けて指で押し出すなどの方法で中身を取り出すことができる。個包装タイプは、1杯分が密閉包装されているので取り扱いも簡単で、衛生的であるという利点を有する。
【0057】
本発明に係る飲食品の風味改善方法は、ミルク原料の風味改善にも有用である。例えば、クリーミングパウダーや植物性ミルクに、本発明に係る不快臭低減剤等のカルニチン含有添加剤を含有させることにより、不快臭を低減させたり、風味の経時劣化を抑制することができる。ミルク原料において、本発明による効果を得るために増加させるカルニチン濃度としては、特に限定されるものではなく、コーヒー飲料やインスタントコーヒー飲料用組成物の場合と同程度の増加させることで、風味改善効果を得ることができる。
【実施例0058】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0059】
<カルニチンの測定>
コーヒー抽出液やコーヒー飲料中のカルニチンの含有量は、液体クロマトグラフ質量分析計(Thermo社製)を用いて測定した。カルニチンの標準品から作成した検量線に基づいて、サンプルに含まれるカルニチン量を算出した。
【0060】
<官能評価>
各コーヒー飲料の不快臭、渋味、及びおいしさについて、官能評価を行った。官能評価は、トレーニングされた専門パネル5名が行い、合議制にて10段階(1が最も弱く、10が最も強い。)でスコア付けをした。特に記載のない限り、各官能評価点は、カルニチンを添加していないコーヒー飲料の評価点を5とした。
【0061】
浅煎り豆から調製されたコーヒー抽出液を原料としたコーヒー飲料では、不快臭として、特に、浅煎り豆に特有のワラや干し草様の香りを評価した。中煎り豆や深煎り豆から調製されたコーヒー抽出液を原料としたコーヒー飲料では、不快臭として、特に、焦げ感や苦味、ざらつきを彷彿とさせる香りを評価した。インスタントコーヒー飲料では、不快臭として、特に、加熱臭を評価した。
【0062】
[実施例1]
コーヒー飲料に、各種濃度のカルニチンを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0063】
コーヒー飲料の原料とするコーヒー抽出液としては、ブラジル産アラビカ種コーヒー豆の浅煎り豆から調製されたコーヒー抽出液(コーヒー抽出液A)、ベトナム産カネフォラ種コーヒー豆の深煎り豆から調製されたコーヒー抽出液(コーヒー抽出液B)、及びブレンドしたコーヒー豆の中煎り豆から調製されたコーヒー抽出液(コーヒー抽出液C)を用いた。これら3種のコーヒー抽出液のカルニチン含有量を測定したところ、いずれも測定限界値(5ng/mL)未満であった。
【0064】
各コーヒー抽出液のみからなるブラックコーヒー飲料に、飲料中のカルニチン濃度が表1~3に記載の濃度となるようにカルニチンを添加したコーヒー飲料を製造した。
【0065】
製造された各コーヒー飲料について、不快臭、渋味、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表1~3に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
表1~3に示すように、いずれのコーヒー抽出液を原料としたコーヒー飲料においても、飲料中のカルニチン濃度依存的に、不快臭が低減されており、渋味も低減されて、よりおいしくなり、風味が改善されていた。これらの結果から、カルニチンによる不快臭低減効果は、原料のコーヒー抽出液の種類にかかわらず発揮されることがわかった。
【0070】
[実施例2]
甘味料入りのブラックコーヒー飲料に、各種濃度のカルニチンを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0071】
コーヒー飲料の原料とするコーヒー抽出液としては、実施例1で用いたブラジル産アラビカ種コーヒー豆の浅煎り豆から調製されたコーヒー抽出液(コーヒー抽出液A)を用いた。コーヒー抽出液Aに、グラニュー糖又はアスパルテームとカルニチンとを、飲料中の濃度が表4に記載の濃度となるようにカルニチンを添加したコーヒー飲料を製造した。
【0072】
製造された各コーヒー飲料について、不快臭、渋味、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0073】
【0074】
表4に示すように、甘味料を添加したブラックコーヒー飲料においても、甘味料の種類にかかわらず、カルニチン添加により不快臭と渋味が低減され、よりおいしくなり、風味が改善されていた。これらの結果から、カルニチンによる不快臭低減効果は、甘味料の有無にかかわらず発揮されることがわかった。
【0075】
[実施例3]
ミルク原料入りのミルクコーヒー飲料に、各種濃度のカルニチンを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0076】
コーヒー飲料の原料とするコーヒー抽出液としては、実施例1で用いたブラジル産アラビカ種コーヒー豆の浅煎り豆から調製されたコーヒー抽出液(コーヒー抽出液A)を用いた。67mLのコーヒー抽出液Aに、33mLの牛乳又は調整豆乳を混合し、さらに飲料中のカルニチン濃度が表5に記載の濃度となるようにカルニチンを添加したコーヒー飲料を製造した。
【0077】
製造された各コーヒー飲料について、不快臭、渋味、及びおいしさの官能評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0078】
【0079】
表5に示すように、ミルクコーヒー飲料においても、ミルク原料の種類にかかわらず、カルニチン添加により不快臭と渋味が低減され、よりおいしくなり、風味が改善されていた。これらの結果から、カルニチンによる不快臭低減効果は、ミルク原料の有無にかかわらず発揮されることがわかった。
【0080】
また、前記のミルクコーヒー飲料の調製に使用した市販の調整豆乳に、直接カルニチンを添加したところ、カルニチンの添加量依存的に、豆乳特有の青臭さが弱くなっていた。このことから、カルニチンによる不快臭低減効果は、大豆等の豆類由来の青臭さに対しても発揮されることがわかった。
【0081】
[実施例4]
インスタントコーヒー飲料に、各種濃度のカルニチンを添加して、風味に対する影響を調べた。
【0082】
インスタントコーヒーとしては、ブラジル産アラビカ種コーヒー豆の深煎り豆から調製されたコーヒー抽出液をスプレードライにより粉末化したインスタントコーヒー粉末(IC-A)、ブラジル産アラビカ種コーヒー豆の深煎り豆から調製されたコーヒー抽出液をフリーズドライにより粉末化したインスタントコーヒー粉末(IC-B)、市販のインスタントコーヒー粉末3種(IC-C、IC-D、IC-E)、及び、市販のコーヒーポーション(IC-F)から調製されたコーヒー飲料を用いた。IC-A~IC-Eからは、1.25gのインスタントコーヒー粉末を100mLの熱湯に溶解させ、さらに飲料中のカルニチン濃度が表6~10に記載の濃度となるようにカルニチンを添加することにより、インスタントコーヒー飲料を調製した。IC-Fからは、17gのコーヒーポーションに150mLの水を注ぎ、さらに飲料中のカルニチン濃度が表11に記載の濃度となるようにカルニチンを添加することにより、インスタントコーヒー飲料を調製した。
【0083】
製造された各インスタントコーヒー飲料について、不快臭(特に、加熱臭)、渋味、及びおいしさの官能評価を行った。官能評価においては、加熱臭は、IC-Aから調製されたカルニチン無添加である試験区8-0のインスタントコーヒー飲料を8点、IC-Bから調製されたカルニチン無添加である試験区9-0のインスタントコーヒー飲料を4点としてスコアをつけた。また、渋みとおいしさは、同じインスタントコーヒー飲料用組成物から調製されたカルニチン無添加のインスタントコーヒー飲料を5点とし、スコアをつけた。評価結果を表6~11に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表6~11に示すように、インスタントコーヒー飲料用組成物の種類にかかわらず、インスタントコーヒー飲料においても、カルニチン添加により不快臭、特に加熱臭と渋味が低減され、よりおいしくなり、風味が改善されていた。これらの結果から、カルニチンによる不快臭低減効果は、原料のコーヒー抽出液の種類や製造方法にかかわらず発揮されることがわかった。
【0091】
また、1.25gのIC-Cと甘味料(ショ糖3g又はアスパルテーム0.015g)を100mLの熱湯に溶解させ、さらに飲料中のカルニチン濃度が表12に記載の濃度となるようにカルニチンを添加することにより、インスタントコーヒー飲料を調製した。製造された各インスタントコーヒー飲料について、不快臭(特に、加熱臭)、渋味、及びおいしさの官能評価を行った。官能評価は、試験区8-1と同様にして行った。
【0092】
【0093】
表12に示すように、甘味料を添加したインスタントコーヒー飲料においても、甘味料の種類にかかわらず、カルニチン添加により不快臭、特に加熱臭と渋味が低減され、よりおいしくなり、風味が改善されていた。これらの結果から、カルニチンによる不快臭低減効果は、甘味料が添加されたインスタントコーヒー飲料においても発揮されることがわかった。
【0094】
さらに、1.25gのIC-Cを100mLの熱湯に溶解させ、次いで得られた溶解液67mLに、33mLの牛乳又は調整豆乳を混合し、さらに飲料中のカルニチン濃度が表13に記載の濃度となるようにカルニチンを添加することにより、インスタントコーヒー飲料を調製した。製造された各インスタントコーヒー飲料について、不快臭(特に、加熱臭)、渋味、及びおいしさの官能評価を行った。官能評価は、試験区8-1と同様にして行った。
【0095】
【0096】
表13に示すように、ミルク原料を添加したインスタントコーヒー飲料においても、ミルク原料の種類にかかわらず、カルニチン添加により不快臭、特に加熱臭と渋味が低減され、よりおいしくなり、風味が改善されていた。これらの結果から、カルニチンによる不快臭低減効果は、ミルク原料が添加されたインスタントコーヒー飲料においても発揮されることがわかった。
【0097】
[実施例5]
クリーミングパウダーに、各種濃度のカルニチンを添加して、長期保管後の風味に対する影響を調べた。
【0098】
硬化ヤシ油、タンパク質、全脂粉乳、脱脂粉乳、ショ糖、コーンシロップ等から、組成の異なる3種類のクリーミングパウダー(ICP-A~ICP-C)を調製した。ICP-Aは、大豆タンパク質を原料としており、ICP-B及びICP-Cは、乳タンパク質を原料として製造した。各クリーミングパウダーに、カルニチン濃度が表14~16に記載の濃度となるようにカルニチンを添加することにより、試験区16-0~18-8のクリーミングパウダーを調製した。
【0099】
各試験区のクリーミングパウダーを、60℃で1週間保管した。保管後の各クリーミングパウダーについて、不快臭(特に、酸化臭と加熱臭)の官能評価を行った。具体的には、10gのクリーミングパウダーを90mLの熱湯に溶解させた溶解液(ミルク風味飲料)に対して評価を行った。官能評価においては、不快臭は、カルニチン無添加のクリーミングパウダーのうち、製造直後のものを2点とし、60℃で1週間保管後のものを8点として、スコアをつけた。評価結果を表14~16に示す。表中、カルニチン濃度は、ミルク風味飲料の濃度を示す。なお、カルニチン無添加のクリーミングパウダーから調製されたミルク風味飲料のカルニチン濃度は、試験区16-0は0.025mg/100mL、試験区17-0は0.010mg/100mL、試験区18-0は0.000mg/100mL(測定限界値以下)であった。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
表14~16に示すように、クリーミングパウダーにおいても、組成にかかわらず、カルニチン添加により、不快臭、特に長期保管で強くなる加熱臭や酸化臭が低減され、風味が改善されていた。特に、大豆タンパク質を原料としたICP-Aでは、大豆特有の青臭さも感じられるが、試験区16-2のクリーミングパウダーは、製造直後の試験区16-0のクリーミングパウダーよりも、青臭さが抑えられていた。また、試験区16-2~試験区16-8を比較すると、カルニチン添加量が多くなるほど、大豆特有の青臭さが弱くなっており、カルニチンによって大豆特有の青臭さもマスキングされていた。これらの結果から、カルニチンによる不快臭低減効果は、クリーミングパウダーにおいても発揮されることがわかった。
【0104】
[実施例6]
カルニチン含有量の異なる3種類のインスタントコーヒー粉末を長期保管した後、風味に対する影響を調べた。インスタントコーヒー粉末としては、実施例4で用いた市販のインスタントコーヒー粉末(IC-C)と、原料コーヒー豆を適宜選抜することにより、カルニチン含有量を増大させた2種類のインスタントコーヒー粉末(IC-G、IC-H)を用いた。
【0105】
各インスタントコーヒー粉末を、60℃のインキュベーター内で、湿度コントロールをせずに静置して、1週間又は2週間保管した。各インスタントコーヒー粉末は、所定のアルミパウチに入れたもの(閉鎖系)と、アルミ皿の上にそのまま載せたもの(開放系)を用意した。
【0106】
保管後のインスタントコーヒー粉末1.25gを、100mLの熱湯に溶解させることにより、インスタントコーヒー飲料を調製した。各インスタントコーヒー飲料のカルニチン濃度を測定したところ、IC-Cから調製されたインスタントコーヒー飲料は測定限界値以下(0.5μg/100mL以下)であり、IC-Gから調製されたインスタントコーヒー飲料は2.0μg/100mLであり、IC-Hから調製されたインスタントコーヒー飲料は4.0μg/100mLであった。
【0107】
製造された各インスタントコーヒー飲料に対して、全体の香り、焙煎香、甘い香り、不快臭、酸味、渋み、及び苦味についての官能評価を行った。官能評価においては、製造直後のものを5点として、スコアをつけた。評価結果を表17~19に示す。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
表17~19に示すように、インスタントコーヒー飲料においては、インスタントコーヒー粉末の状態での長期保管により、コーヒーの嗜好性を高める焙煎香や甘い香りが低下し、全体の香りも低下したが、不快臭や渋味は、増大した。これらの風味の経時的な変化(経時劣化)は、保管期間に依存して強くなり、また、閉鎖系よりも開放系でより大きかった。表17~19のデータを比較すると、これらの風味の経時変化は、カルニチンをほとんど含有していないIC-Cから調製されたインスタントコーヒー飲料で最も大きく、カルニチン濃度が高いほど、風味の経時変化が少なかった。一方で、酸味及び苦味は、長期保管後でも変化はなく、カルニチン濃度の影響も観察されなかった。これらの結果から、カルニチン濃度を高めることにより、飲食品の風味の経時劣化を抑制できることがわかった。