(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009018
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法およびその補強構造
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20250109BHJP
E01D 19/02 20060101ALI20250109BHJP
E04G 23/02 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E01D19/02
E04G23/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111720
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】村中 誠
(72)【発明者】
【氏名】後藤 源太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良和
(72)【発明者】
【氏名】長田 光司
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 剛
(72)【発明者】
【氏名】大城 壮司
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059GG01
2D059GG05
2D059GG40
2D059GG55
2E176AA04
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】作業者の作業負担軽減、工期の短縮、および作業コストの削減を図ることができる中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強技術を提供する。
【解決手段】まず、橋脚本体12の塑性ヒンジ領域120上方の外壁126に、躯体内部121に通じるコンクリート注入用孔125を削孔する(第1削孔工程S1)。つぎに、コンクリート注入用孔125から躯体内部121にコンクリート123を注入して塑性ヒンジ領域120の躯体内部121にコンクリート123を充填する(コンクリート充填工程S30)。そして、コンクリート123の硬化後に、橋脚本体12の塑性ヒンジ領域120の外壁126に、コンクリート123内部まで到達するずれ止め鋼材用孔128を削孔し(第2削孔工程S33)、このずれ止め鋼材用孔128にずれ止め鋼材124を打ち込んで、コンクリート123を橋脚本体12に固定する(ずれ止め鋼材施工工程S34)。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法であって、
前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体の塑性ヒンジ領域上方の外壁に、外部から前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体内部に通じるコンクリート注入用孔を削孔する第1削孔工程と、
前記コンクリート注入用孔からコンクリートを注入して、前記塑性ヒンジ領域の前記躯体内部にコンクリートを充填するコンクリート充填工程と、
前記塑性ヒンジ領域の前記躯体内部に充填されたコンクリートの硬化後に、前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体の前記塑性ヒンジ領域の外壁に、前記躯体内部に充填されたコンクリートまで到達するずれ止め鋼材用孔を削孔する第2削孔工程と、
前記ずれ止め鋼材用孔にずれ止め鋼材を打ち込んで、前記躯体内部に充填されたコンクリートを前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体に固定するずれ止め鋼材施工工程と、を有する
ことを特徴とする中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法。
【請求項2】
請求項1に記載の中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法であって、
前記第1削孔工程において、
前記塑性ヒンジ領域上方の外壁の、配筋されていない部位に、前記コンクリート注入用孔を削孔する
ことを特徴とする中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法。
【請求項3】
請求項1に記載の中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法であって、
前記第2削孔工程において、
前記塑性ヒンジ領域の外壁の、配筋されていない部位に、前記ずれ止め鋼材用孔を削孔する
ことを特徴とする中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法。
【請求項4】
請求項1に記載の中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法であって、
前記ずれ止め鋼材施工工程において、
前記ずれ止め鋼材用孔にバインダを注入してから前記ずれ止め鋼材を当該ずれ止め鋼材用孔に打ち込む
ことを特徴とする中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法。
【請求項5】
請求項1に記載の中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法であって、
前記ずれ止め鋼材は、頭部に連結されたプレートを有する
ことを特徴とする中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法であって、
前記コンクリート充填工程に先立って、前記第1削孔工程により削孔された前記コンクリート注入用孔から前記躯体内部にカメラを挿入して、前記塑性ヒンジ領域の躯体内部の状態を確認する内部状態確認工程をさらに有し、
前記内部状態確認工程により確認された状態が、前記コンクリート充填工程により充填されるコンクリートと前記塑性ヒンジ領域の躯体内部の内壁とが固着可能な所定の状態である場合、前記第2削孔工程および前記ずれ止め鋼材施工工程を省略する
ことを特徴とする中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法であって、
前記第2削孔工程に先立って、前記塑性ヒンジ領域の前記躯体内部に充填されたコンクリートの硬化後に、前記第1削孔工程により削孔された前記コンクリート注入用孔からカメラを前記躯体内部に挿入して、前記コンクリート充填工程により充填されたコンクリートと前記塑性ヒンジ領域の躯体内部の内壁との隙間の有無を確認する隙間確認工程と、
前記隙間確認工程により、硬化後の前記コンクリートと前記塑性ヒンジ領域の躯体内部の内壁との隙間が確認された場合に、前記第2削孔工程に先立って、前記コンクリート注入用孔から当該隙間にグラウトを注入するグラウト注入工程と、をさらに有し、
前記グラウト注入工程が実施された場合、前記第2削孔工程を、前記隙間に注入されたグラウトの硬化後に実施する
ことを特徴とする中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法。
【請求項8】
請求項6に記載の中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法であって、
前記第2削孔工程に先立って、前記コンクリート充填工程により充填されたコンクリートの硬化後に、前記第1削孔工程により削孔された前記コンクリート注入用孔から前記躯体内部にカメラを挿入して、前記コンクリートと前記塑性ヒンジ領域の躯体内部の内壁との隙間の有無を確認する隙間確認工程と、
前記隙間確認工程により、硬化後の前記コンクリートと前記塑性ヒンジ領域の躯体内部の内壁との隙間が確認された場合に、前記第2削孔工程に先立って、前記コンクリート注入用孔から当該隙間にグラウトを注入するグラウト注入工程と、をさらに有し、
前記グラウト注入工程が実施された場合に、前記隙間に注入されたグラウトの硬化後に前記第2削孔工程を実施する
ことを特徴とする中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法。
【請求項9】
中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造であって、
前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体の塑性ヒンジ領域の躯体内部に充填されたコンクリートと、
前記躯体内部に充填されたコンクリートを前記躯体の塑性ヒンジ領域の外壁に固定するずれ止め鋼材と、を備えている
ことを特徴とする中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚自重の影響を軽減する目的で躯体を中空とした中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強技術に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳地帯等に建設された高速道路等には、高さ30~40m以上の高橋脚を有する橋梁が用いられることがある。一般に、このような高橋脚としては、橋脚自重の影響を軽減する目的で躯体を中空とした中空断面鉄筋コンクリート橋脚が用いられている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
ところで、地震等により水平方向の正負交番荷重が橋脚に加わると、橋脚の基部に大きな曲げモーメントが発生する可能性がある。これにより橋脚の基部に生じる可能性のある塑性化領域は、一般に塑性ヒンジ領域と呼ばれている。既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚のなかには、塑性ヒンジ領域の躯体も中空のものがある。このような既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚に対して、塑性ヒンジ領域において躯体内部に配筋してコンクリートを充填する耐震補強工事が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-342711号公報
【特許文献2】特開2013-2238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚に対する従来の耐震補強工事は、作業者が躯体内部で配筋作業を行う必要があるため、作業員が躯体内部に入ることができる程度の大きさの開口部を設けるために橋脚の鉄筋を切断する作業が必要となる。また、狭い躯体内部での配筋作業は、作業者に作業負担がかかる。さらに、この作業により、工期が長くなり、作業コストも増大する。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業者の作業負担の軽減、工期の短縮、および作業コストの削減を図ることができる中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、まず、中空断面鉄筋コンクリート橋脚の塑性ヒンジ領域上方の外壁に、躯体内部に通じるコンクリート注入用孔を削孔する。つぎに、このコンクリート注入用孔からコンクリートを注入して塑性ヒンジ領域の躯体内部にコンクリートを充填する。そして、充填されたコンクリートの硬化後に、塑性ヒンジ領域の外壁に、躯体内部に充填されたコンクリートまで到達するずれ止め鋼材用孔を削孔し、ずれ止め鋼材用孔に、ずれ止め鋼材を打ち込んで、躯体内部に充填されたコンクリートを躯体に固定する。
【0008】
ここで、躯体内部へのコンクリート注入に先立って、コンクリート注入用孔にカメラを挿入し、塑性ヒンジ領域の躯体内部の状態を確認してもよい。そして、躯体内部が乾燥しており、かつ内壁にざらつき(凹凸)がある場合等、塑性ヒンジ領域の躯体内部に充填するコンクリートの内壁への固着が期待できる場合には、このコンクリートの硬化後に、塑性ヒンジ領域の外壁にずれ止め鋼材用孔を削孔して、ずれ止め鋼材を打ち込む工程を省略してもよい。
【0009】
例えば、本発明は、
中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法であって、
前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体の塑性ヒンジ領域上方の外壁に、前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体内部に通じるコンクリート注入用孔を削孔する第1削孔工程と、
前記コンクリート注入用孔からコンクリートを注入して、前記塑性ヒンジ領域の前記躯体内部にコンクリートを充填するコンクリート充填工程と、
前記塑性ヒンジ領域の前記躯体内部に充填されたコンクリートの硬化後に、前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体の前記塑性ヒンジ領域の外壁に、前記躯体内部に充填されたコンクリートまで到達するずれ止め鋼材用孔を削孔する第2削孔工程と、
前記ずれ止め鋼材用孔に、ずれ止め鋼材を打ち込んで、前記躯体内部に充填されたコンクリートを前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体に固定するずれ止め鋼材施工工程と、を有する。
【0010】
また、例えば、本発明は、
中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造であって、
前記中空断面鉄筋コンクリート橋脚の躯体の塑性ヒンジ領域の躯体内部に充填されたコンクリートと、
前記躯体内部に充填されたコンクリートを前記躯体の塑性ヒンジ領域の外壁に固定するずれ止め鋼材と、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、中空断面鉄筋コンクリート橋脚において、塑性ヒンジ領域上方の外壁に、躯体内部に通じるコンクリート注入用孔を削孔し、このコンクリート注入用孔から躯体内部にコンクリートを注入して塑性ヒンジ領域の躯体内部にコンクリートを充填する。また、塑性ヒンジ領域の外壁にずれ止め鋼材用孔を削孔し、このずれ止め鋼材用孔にずれ止め鋼材を打ち込んで、躯体内部に充填されたコンクリートを躯体に固定するので、中空断面鉄筋コンクリート橋脚を効果的に補強することができる。
【0012】
このように、本発明によれば、作業員は、狭い躯体内部に入ることなく、すべての作業を躯体の躯体外部で効率的に行うことができる。また、作業員が躯体内部に入るための開口部を躯体に設ける作業も必要ない。このため、作業者の作業負担軽減、工期の短縮、および作業コストの削減を図ることができる中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造が適用された既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚1aの部分断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態に係る中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造の施工方法(補強方法)を説明するためのフロー図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すコンクリート充填工程(ずれ止め施工あり)S3を説明するためのフロー図である。
【
図4】
図4は、
図2に示すコンクリート充填工程(ずれ止め施工なし)S4を説明するためのフロー図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施の形態に係る中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造が適用された既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚の変形例1bの部分断面図である。
【
図6】
図6は、本実施の形態に係る中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造による補強対象となる既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚1の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図6は、本実施の形態に係る中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造による補強対象となる既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚1の部分断面図である。
【0016】
中空断面鉄筋コンクリート橋脚1は、例えば高さ30~40m以上の高橋梁において、橋脚自重を軽減することを目的として利用され、図示するように、少なくとも下端部が地中に根入れされる基礎フーチング10と、橋梁(不図示)を支持する橋座部11と、基礎フーチング10および橋座部11間に配置され、両者を連結・固定する橋脚本体12と、を備えて構成される。橋脚本体12は、鉄筋122が配筋された中空筒状の鉄筋コンクリート構造物である。本実施の形態において補強対象例とする既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚1では、塑性ヒンジ領域120においても橋脚本体12の躯体内部121が中空とされている。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造が適用された既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚1aの部分断面図である。なお、
図1に示す中空断面鉄筋コンクリート橋脚1aにおいて、
図6に示す中空断面鉄筋コンクリート橋脚1と同様な機能を有するものには、同じ符号を付している。
【0018】
図示するように、本実施の形態が適用された既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚1aでは、橋脚本体12の塑性ヒンジ領域120において躯体内部121にコンクリート123が充填されている。また、橋脚本体12の塑性ヒンジ領域120には、外壁126から躯体内部121のコンクリート123まで到達する複数のずれ止め鋼材124が配置されている。ずれ止め鋼材124は、PC(Prestressed Concrete)鋼材等の高強度材料で形成されていることが好ましい。
【0019】
なお、
図1において、符号125は、躯体内部121にコンクリート123を充填するために、塑性ヒンジ領域120よりも高い位置に設けられたコンクリート注入用孔であり、本実施の形態に係る中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強方法にしたがった補強処理の完了後にグラウトにより封止される。また、符号128は、ずれ止め鋼材124を打ち込むために塑性ヒンジ領域120に設けられたずれ止め鋼材用孔であり、外壁126から躯体内部121のコンクリート123の内部まで到達している。
【0020】
図2は、本実施形態に係る中空断面鉄筋コンクリート橋脚の補強構造の施工方法(補強方法)を説明するためのフロー図である。
【0021】
[第1削孔工程S1]
塑性ヒンジ領域120よりも上方において、橋脚本体12の外壁126に、外部から躯体内部121に通じるコンクリート注入用孔125を少なくとも1つ削孔する。ここで、コンクリート注入用孔125は、橋脚本体12の鉄筋122の間を通過するように削孔される。このようにすることで、コンクリート注入用孔125のために鉄筋122が切断されないので、橋脚本体12の強度への影響をより小さくすることができる。
【0022】
[内部状態確認工程S2]
第1削孔工程S1により削孔されたコンクリート注入用孔125から躯体内部121にカメラを挿入して、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121の状態を確認する。
【0023】
例えば、躯体内部121に異物(型枠、汚水等)が残存していない等、躯体内部121の空間が、躯体内部121へのコンクリート123の充填によって橋梁全体の耐震性能等の向上を期待できる状態であることを確認する。
【0024】
躯体内部121の空間がそのような状態である場合には、躯体内部121の内壁127の表面状態を観察する。躯体内部121の内壁127の表面にざらつき(凹凸)がほとんどなく、コンクリート123と内壁127との固着を期待できない場合(S2で「可」)には、コンクリート充填工程(ずれ止め施工あり)S3に進む。また、躯体内部121の内壁127に適度なざらつき(凹凸)があり、コンクリート123と内壁127との固着を期待できる状態である場合(S2で「良」)には、コンクリート充填工程(ずれ止め施工なし)S4に進む。
【0025】
一方、躯体内部121に異物(型枠、汚水等)が残存しており、これらの異物を残したまま躯体内部121にコンクリート123を充填しても橋梁全体の耐震性能等の向上をさほど期待できないと判断した場合(S2で「不可」)、既存の耐震補強工程S5を実施する。すなわち、まず、作業員が躯体内部121に入ることができる程度の大きさの開口部を橋脚本体12に設ける。つぎに、作業員が、この開口部から躯体内部121に入って躯体内部121から異物を取り除く等、躯体内部121を適切な状態に整える。それから、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121に配筋してコンクリートを充填して硬化させる。
【0026】
図3は、
図2に示すコンクリート充填工程(ずれ止め施工あり)S3を説明するためのフロー図である。
【0027】
[コンクリート充填工程S30]
コンクリート注入用孔125からコンクリート123を注入して、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121にコンクリート123を充填する。
【0028】
[隙間確認工程S31]
塑性ヒンジ領域120の躯体内部121に充填されたコンクリート123の硬化後に、コンクリート注入用孔125から躯体内部121にカメラを挿入して、このコンクリート123と躯体内部121の内壁127との隙間の有無を確認する。
【0029】
ここで、コンクリート123と内壁127との間に隙間が確認された場合(S31で「有り」)、グラウト注入工程S32に進む。一方、コンクリート123と内壁127との間に隙間がなく、両者が密着していることが確認された場合(S31で「無し」)には、グラウト注入工程S32を省略して第2削孔工程S33に進む。
【0030】
[グラウト注入工程S32]
コンクリート注入用孔125から、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121に充填されたコンクリート123と躯体内部121の内壁127との隙間にグラウトを注入して硬化させる。
【0031】
[第2削孔工程S33]
橋脚本体12の塑性ヒンジ領域120に、外壁126から、躯体内部121に充填されたコンクリート123の内部まで達するずれ止め鋼材用孔128を複数削孔する。ここで、ずれ止め鋼材用孔128は、橋脚本体12の鉄筋122の間を通過する位置に削孔される。このようにすることで、鉄筋122が切断されないので、橋脚本体12の強度に与える影響をより小さくすることができる。また、ずれ止め鋼材用孔128は、橋脚本体12の周方向および軸方向に均等配置されるように所定の間隔で複数削孔することが好ましい。このようにすることで、後述のずれ止め鋼材施工工程S34により打ち込まれるずれ止め鋼材124は、塑性ヒンジ領域120において橋脚本体12の外周方向および軸方向に均等配置される。このため、地震等により水平方向の正負交番荷重が中空断面鉄筋コンクリート橋脚1aに加わった場合に、橋脚本体12からずれ止め鋼材124を介してコンクリート123に伝達される荷重をより均一に分散させることができる。
【0032】
[ずれ止め鋼材施工工程S34]
ずれ止め鋼材用孔128のそれぞれに、バインダを注入してから、ずれ止め鋼材124を、コンクリート123の内部に達するまで打ち込む。これにより、コンクリート123を橋脚本体12に固定する。
【0033】
[コンクリート注入用孔封止S35]
コンクリート注入用孔125をグラウトにより封止する。これにより、コンクリート充填工程(ずれ止め施工あり)S3が完了する。
【0034】
図4は、
図2に示すコンクリート充填工程(ずれ止め施工なし)S4を説明するためのフロー図である。
【0035】
[コンクリート充填工程S40]
コンクリート注入用孔125からコンクリート123を注入して、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121にコンクリート123を充填する。
【0036】
[隙間確認工程S41]
塑性ヒンジ領域120の躯体内部121に充填されたコンクリート123の硬化後に、コンクリート注入用孔125から躯体内部121にカメラを挿入して、このコンクリート123と躯体内部121の内壁127との隙間の有無を確認する。
【0037】
ここで、コンクリート123と内壁127との間に隙間が確認された場合(S41で「有り」)、グラウト注入工程S42に進む。一方、コンクリート123と内壁127との間に隙間がなく、両者が密着していることが確認された場合(S41で「無し」)には、グラウト注入工程S42を省略してコンクリート注入用孔封止S43に進む。
【0038】
[グラウト注入工程S42]
コンクリート注入用孔125から、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121に充填されたコンクリート123と躯体内部121の内壁127との隙間にグラウトを注入して硬化させる。
【0039】
[コンクリート注入用孔封止S43]
コンクリート注入用孔125をグラウトにより封止する。これにより、コンクリート充填工程(ずれ止め施工なし)S4が完了する。
【0040】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0041】
本実施の形態では、中空断面鉄筋コンクリート橋脚1aの橋脚本体12の塑性ヒンジ領域120上方の外壁126に、躯体内部121に通じるコンクリート注入用孔125を削孔し、このコンクリート注入用孔125から躯体内部121にコンクリート123を注入して塑性ヒンジ領域120の躯体内部121にコンクリート123を充填する。また、塑性ヒンジ領域120の外壁126にずれ止め鋼材用孔128を削孔し、このずれ止め鋼材用孔128にずれ止め鋼材124を打ち込んで、躯体内部121に充填されたコンクリート123を橋脚本体12に固定するので、中空断面鉄筋コンクリート橋脚1aを効果的に補強することができる。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、作業員は、狭い躯体内部121に入ることなく、すべての作業を橋脚本体12の外部で効率的に行うことができる。また、作業員が躯体内部121に入るための開口部を橋脚本体12に設ける作業も必要ない。このため、作業者の作業負担の軽減、工期の短縮、および作業コストの削減を図ることができる。
【0043】
また、本実施の形態では、塑性ヒンジ領域120よりも上方において、橋脚本体12の外壁126に、配筋されていない部位、すなわち橋脚本体12の鉄筋122の間を通過するように、コンクリート注入用孔125を削孔している。このため、コンクリート注入用孔125のために鉄筋122が切断されないので、橋脚本体C強度に与える影響をより小さくすることができる。
【0044】
また、本実施の形態では、塑性ヒンジ領域120において、橋脚本体12に、配筋されていない部位、すなわち橋脚本体12の鉄筋122の間を貫通するように、ずれ止め鋼材用孔128を削孔している。このようにすることで、ずれ止め鋼材用孔128のために鉄筋122が切断されないので、橋脚本体12の強度に与える影響をより小さくすることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、ずれ止め鋼材用孔128のそれぞれに、バインダを注入してからずれ止め鋼材124を打ち込んでいる。このため、ずれ止め鋼材124が橋脚本体12およびコンクリート123にバインダで固定されるので、コンクリート123を橋脚本体12により強固に固定することができる。
【0046】
また、本実施の形態では、コンクリート充填工程S30、S40に先立って、コンクリート注入用孔125から躯体内部121にカメラを挿入して、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121の状態を確認している。そして、躯体内部121に異物(型枠、汚水等)の残存がなく、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121へ充填するコンクリート123によって、塑性ヒンジ領域120の十分な補強効果が期待でき、加えて、躯体内部121の内壁127に適度なざらつき(凹凸)があり、コンクリート123と内壁127との固着を期待できる場合には、塑性ヒンジ領域120の外壁126にずれ止め鋼材用孔128を削孔する第二削孔工程およびずれ止め鋼材124を打ち込むずれ止め鋼材施工工程を省略している(コンクリート充填工程(ずれ止め施工なし)S4)。このため、本実施の形態によれば、工程が簡素化され、工期をさらに短縮し、作業コストを削減することができる。
【0047】
また、本実施の形態では、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121に充填されたコンクリート123の硬化後に、コンクリート注入用孔125から躯体内部121にカメラを挿入して、このコンクリート123と塑性ヒンジ領域120の躯体内部121の内壁127と隙間の有無を確認している。そして、隙間が確認された場合に、この隙間にコンクリート注入用孔125からグラウトを注入する。このため、塑性ヒンジ領域120の躯体内部121に充填されたコンクリート123と橋脚本体12との接合強度が向上し、中空断面鉄筋コンクリート橋脚1aをより効果的に補強することができる。
【0048】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0049】
例えば、本実施の形態では、
図3に示すコンクリート充填工程(ずれ止め施工あり)S3において、コンクリート充填工程S30の実施後に第2削孔工程S33およびずれ止め鋼材施工工程S34を実施している。しかし、本発明はこれに限定されない。コンクリート充填工程S30に先立って第2削孔工程S33およびずれ止め鋼材施工工程S34を実施してもよい。この場合、第2削孔工程S33で削孔するずれ止め鋼材用孔128は、橋脚本体12の塑性ヒンジ領域120を貫通する孔であればよい。また、ずれ止め鋼材124は、橋脚本体12の外壁126から躯体内部121の所定の位置まで到達するように打ち込まれていればよい。
【0050】
また、
図5に示す中空断面鉄筋コンクリート橋脚1bのように、頭部にプレート129が取り付けられたずれ止め鋼材124aをずれ止め鋼材用孔128に打ち込むようにしてもよい。頭部にプレート129が取り付けられたずれ止め鋼材124aを用いることで、ずれ止め鋼材124aの打ち込み時に橋脚本体12の外壁126を損傷する可能性を低減することができる。
【0051】
また、本発明は、RC巻立て工法により耐震補強された既設の中空断面鉄筋コンクリート橋脚に対しても、塑性ヒンジ領域の躯体内部が中空のものであれば、本実施の形態と同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1、1a、1b:中空断面鉄筋コンクリート橋脚
10:基礎フーチング 11:橋座部 12:橋脚本体
120:塑性ヒンジ領域 121:躯体内部
122:鉄筋 123:コンクリート
124:ずれ止め鋼材 125:コンクリート注入用孔
126:橋脚本体12の外壁 127:橋脚本体12の内壁
128:ずれ止め鋼材用孔 129:プレート