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特開2025-9081金属部材ならびに金属樹脂複合体、金属部材の製造方法および金属樹脂複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009081
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】金属部材ならびに金属樹脂複合体、金属部材の製造方法および金属樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20250110BHJP
   H01M 50/188 20210101ALI20250110BHJP
   H01M 50/193 20210101ALI20250110BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20250110BHJP
   H01M 50/15 20210101ALI20250110BHJP
   H01M 50/159 20210101ALI20250110BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20250110BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20250110BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20250110BHJP
   H01M 50/176 20210101ALI20250110BHJP
   H01M 50/553 20210101ALI20250110BHJP
【FI】
C23C26/00 E
H01M50/188
H01M50/193
H01M50/184 A
H01M50/15
H01M50/159
C23C28/00 B
B32B15/08 Z
B29C45/14
H01M50/176
H01M50/553
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111839
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 陽三
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】江原 強
(72)【発明者】
【氏名】土屋 詔一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 正孝
(72)【発明者】
【氏名】浅野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】内村 将大
(72)【発明者】
【氏名】永野 泰章
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
4K044
5H011
5H043
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AB01A
4F100AB01B
4F100AB10
4F100AK01C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA41C
4F100DD09
4F100DD09C
4F100DE01
4F100DE01B
4F100DE01C
4F100EJ34
4F100EJ34C
4F100EJ52
4F100EJ52B
4F100EJ52C
4F100GB48
4F100JD01
4F100YY00C
4F206AA34
4F206AB11
4F206AB17
4F206AB25
4F206AD03
4F206AD05
4F206AD19
4F206AD24
4F206AD28
4F206AD32
4F206AE03
4F206AH33
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF05
4F206JL02
4F206JN14
4K044AA02
4K044AA06
4K044AB02
4K044AB10
4K044BA01
4K044BA06
4K044BA10
4K044BA11
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB03
4K044BB11
4K044BB14
4K044CA44
4K044CA53
5H011AA09
5H011AA10
5H011AA17
5H011CC06
5H011DD09
5H011EE04
5H011FF04
5H011GG02
5H011HH02
5H011JJ03
5H011JJ15
5H011JJ16
5H011JJ25
5H011KK01
5H043AA13
5H043BA19
5H043CA04
5H043DA09
5H043HA25
5H043HA25D
5H043LA02
5H043LA02D
(57)【要約】
【課題】シール性に優れた金属部材および金属部材の製造方法ならびにシール性に優れた金属樹脂複合体および金属樹脂複合体の製造方法を実現すること。
【解決手段】樹脂部材(蓋部材30や正極端子部材50)が接合して樹脂部材(正極用樹脂部材70)と共に第1空間と第2空間と(電池1の外側と内側と)の間を封止する接合領域(接合領域E1~E4)を表面に有し、接合領域は、表面に形成され、デブリ粒子が堆積してなる基礎層(基礎層35、55)と、基礎層からデブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びたナノ柱状体(ナノ柱状体361、561)が二次元的に林立する柱群層(柱群層36、56)と、が形成された粗化領域(粗化領域F1~F4)を含み、粗化領域におけるナノ柱状体の平均高さは84nm以上である。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部材が接合して前記樹脂部材と共に第1空間と第2空間との間を封止する接合領域を表面に有する金属部材であって、
前記接合領域は、前記表面に形成され、デブリ粒子が堆積してなる基礎層と、前記基礎層から前記デブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びたナノ柱状体が二次元的に林立する柱群層と、が形成された粗化領域を含み、
前記粗化領域における前記ナノ柱状体の平均高さは84nm以上である金属部材。
【請求項2】
請求項1に記載の金属部材であって、
前記接合領域の外側に前記第1空間が配置され、前記接合領域の内側に前記第2空間が配置され、
前記接合領域は、環状に形成され、
前記粗化領域は、前記接合領域の形状に沿った環状に形成されている金属部材。
【請求項3】
請求項1に記載の金属部材と、
前記接合領域に接合した樹脂部材と、を備え、
前記樹脂部材を形成する樹脂は、前記基礎層にまで達して前記ナノ柱状体間の隙間に充填している金属樹脂複合体。
【請求項4】
請求項2に記載の金属部材と、
前記接合領域に接合した樹脂部材と、を備え、
前記樹脂部材を形成する樹脂は、前記基礎層にまで達して前記ナノ柱状体間の隙間に充填している金属樹脂複合体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の金属部材の製造方法であって、
前記柱群層が形成されていない状態の前記粗化領域になり得る前記金属部材の表面に、パルスレーザの照射によって生成された当該金属部材由来のデブリ粒子を堆積させ、前記ナノ柱状体に成長させて前記粗化領域を形成するレーザ照射工程を備える金属部材の製造方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載の金属樹脂複合体の製造方法であって、
熱溶融した溶融樹脂を、前記柱群層をなす前記ナノ柱状体間の隙間を前記基礎層に達するまで充填させる充填工程と、
前記充填工程で前記柱群層をなす前記ナノ柱状体間の隙間に充填した溶融樹脂を固化させて、前記粗化領域に接合した樹脂部材を形成させる固化工程と、を備える金属樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術分野は、金属部材ならびに金属樹脂複合体、金属部材の製造方法および金属樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材と樹脂部材とが接合した金属樹脂複合体が知られている。金属部材と樹脂部材とのシール性を高めるために、予め金属部材の表面を、例えばレーザなどで粗化処理することが行われている。これに関連する従来技術として、例えば特許文献1が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、金属部材の表面に、サブミクロンオーダーまたはナノオーダーの開口幅L及び深さDを有するナノ凹部を形成することが記載されている。詳細には、このナノ凹部は、開口幅Lと深さDとの関係がD/L≧1となるように形成されている。すなわち、金属部材の表面には、全体的に柱状部とまでは言えない突状部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-75805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の金属部材については、樹脂部材と接合したときの当該接合部分に係るシール性が十分ではなく、更にシール性を高めることが望まれていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、樹脂部材と接合したときの当該接合部分に係るシール性に優れた金属部材および金属部材の製造方法ならびにシール性に優れた金属樹脂複合体および金属樹脂複合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の解決を目的としてなされた金属部材は、
樹脂部材が接合して前記樹脂部材と共に第1空間と第2空間との間を封止する接合領域を表面に有する金属部材であって、
前記接合領域は、前記表面に形成され、デブリ粒子が堆積してなる基礎層と、前記基礎層から前記デブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びたナノ柱状体が二次元的に林立する柱群層と、が形成された粗化領域を含み、
前記粗化領域における前記ナノ柱状体の平均高さは84nm以上である。
【0008】
本発明の金属部材によれば、樹脂部材との接合領域に、デブリ粒子が堆積してなる基礎層と、基礎層にデブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びたナノ柱状体が二次元的に林立する柱群層と、が形成された粗化領域を含み、粗化領域におけるナノ柱状体の平均高さは84nmであるので、樹脂部材と接合したときの当該接合部分に係るシール性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る電池の斜視図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】正極端子部材の斜視図である。
図4図1の電池から抽出されたユニット部材の斜視図である。
図5】(A)は図4のB-B断面図であり、(B)は図4のC-C断面図である。
図6】(A)は蓋部材の上面と正極用樹脂部材との接合領域、および、蓋部材の上面において粗化処理が施されている領域を説明する説明図であり、(B)は蓋部材の下面と正極用樹脂部材との接合領域、および、蓋部材の下面において粗化処理が施されている領域を説明する説明図である。
図7】(A)は正極端子部材の一部の側面と正極用樹脂部材との接合領域、および、正極端子部材の一部の側面において粗化処理が施されている領域を説明する説明図であり、(B)は正極端子部材の長直線部分の下面と正極用樹脂部材との接合領域、および、正極端子部材の長直線部分の下面において粗化処理が施されている領域を説明する説明図である。
図8】実際に基礎層および柱群層が形成されている様子を表す画像である。
図9】実際に正極用樹脂部材に係る樹脂(ポリフェニレンサルファイド)がナノ柱状体間の隙間に充填している様子を表す画像である。
図10】実施の形態に係る電池の製造方法のフローチャートである。
図11】(A)は蓋下面粗化領域に対する粗化処理を模式的に表した図であり、(B)は端子側面粗化領域に対する粗化処理を模式的に表した図である。
図12】インサート成形処理を模式的に表した図である。
図13】試験用供試体を模式的に表した説明図である。
図14】粗化領域に対して行ったパルスレーザ照射の各種条件と、粗化領域に形成されたナノ柱状体の平均高さおよび表面積比との関係を表した表である。
図15】(A)は横軸をナノ柱状体の平均高さとし、縦軸をヘリウムリーク量としてプロットした散布図であり、(B)は横を表面積比とし、縦軸をヘリウムリーク量としてプロットした散布図である。
図16】(A)は走査電子顕微鏡を用いて得られた断面試料の断面画像の一例であり、(B)は図16(A)に基づいてナノ柱状体の断面面積および底面長さを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明の金属樹脂複合体を構成する電池1は、蓄電デバイスの一例、具体的には、ハイブリッドカー、プラグインハイブリッドカーおよび電気自動車等の車両に搭載される角型で密閉型のリチウムイオン二次電池である。なお、以下において、図面中の方向に係る符号X、Y、Zは、方向を特定するものとして、左右方向、前後方向、上下方向を表している。また、各方向に係る矢印の先に記載の符号U、D、L、R、F、Bは、位置を特定するものとして、上側、下側、左側、右側、前側、後側を表している。ただし、これらの方向、位置は説明のために便宜上、特定されているものである。したがって、電池1が設置される向きは何ら限定されない。
【0011】
[電池の構成]
図1は、電池1の斜視図である。図2は、図1におけるA-A断面図である。図1および図2に示すように、電池1は、内部を密閉するケース10、ケース10内に収容されている電極体40、電解液3および絶縁ホルダ5ならびに電極体40に接続されている正極端子部材50および負極端子部材60を有する。
【0012】
ケース10は、全体的に扁平かつ有底の直方体形状を呈している。本実施の形態において、ケース10は、アルミニウムからなる。ただし、ケース10の材料は、アルミニウムに限られないが金属製であることが好ましい。例えば、ケース10の材料は、アルミニウム合金、鉄および鉄合金等の他の金属であってもよい。また、ケース10は、本体部材20と蓋部材30とから構成されている。
【0013】
本体部材20は、有底角筒状をなしている。また、本体部材20は、開口部21を有する。言い換えると、本体部材20は、矩形板状の底部12と、底部12の前側Fの縁部および後側Bの縁部から垂直に立設された一対の前側部13および後側部14と、底部12の左側Lの端部および右側Rの端部から垂直に立設された一対の左側部15および右側部16と、を有する。開口部21の形状は、左右方向Xを長辺方向、前後方向Yを短辺方向とする矩形状である。底部12の形状は、左右方向Xを長辺方向、前後方向Yを短辺方向とする矩形板状である。前側部13および後側部14の形状は、左右方向Xを長辺方向、上下方向Zを短辺方向とする矩形板状である。左側部15および右側部16の形状は、上下方向Zを長辺方向、前後方向Yを短辺方向とする矩形板状である。
【0014】
なお、前側部13および後側部14の高さ(上下方向Zの長さ)と左側部15および右側部16の高さ(上下方向Zの長さ)とは同一である。また、前側部13等の高さ(上下方向Zの長さ)ならびに前側部13および後側部14の左右方向Xの長さは左側部15および右側部16の前後方向Yの長さに比べてかなり長い。そこで、以下において、ケース10、本体部材20および蓋部材30について、左右方向Xを「長さ方向」、前後方向Yを「幅方向」、上下方向を「高さ方向」とそれぞれ称することもある。
【0015】
蓋部材30は、本体部材20の開口部21を閉塞している。詳細には、蓋部材30の周縁部が、前側部13、後側部14、左側部15および右側部16の上側Uの先端部と全周にわたってレーザ溶接されている。なお、本体部材20の先端部と蓋部材30の周縁部との境界部分には、レーザによって本体部材20および蓋部材30が溶融して固化した溶融固化部18が全周にわたって形成されている。
【0016】
蓋部材30の左右方向Xの中央のやや左側Lには、安全弁19が設けられている。安全弁19は、ケース10の内圧が開弁圧を超えたときに破断して開弁する。蓋部材30の左右方向Xの中央のやや右側Rには、上下方向Zに蓋部材30を貫通する注液孔30kが形成されている。アルミニウムからなる封止部材39が上側Uから注液孔30kに嵌入されることによって、注液孔30kが気密に封止されている。
【0017】
蓋部材30の左右方向Xの一方側(図1図2において左側L)の端部近傍には、蓋部材30を上下方向Zに貫通する正極用挿入孔33hが形成されている。また、蓋部材30の左右方向Xの他方側(図1図2において右側R)の端部近傍には、蓋部材30を上下方向Zに貫通する負極用挿入孔34hが形成されている。正極用挿入孔33hおよび負極用挿入孔34hは、左右方向Xを長辺方向、前後方向Yを短辺方向とする矩形状に形成されている。正極用挿入孔33hには、全体的に縦長形状の(一方向に延設された)正極端子部材50が上側Uからその長さ方向に沿って挿入されている。負極用挿入孔34hには、全体的に縦長形状の(一方向に延設された)負極端子部材60が上側Uからその長さ方向に沿って挿入されている。
【0018】
正極端子部材50は、正極用樹脂部材70を介して蓋部材30と絶縁された状態で蓋部材30に固定されている。したがって、正極端子部材50は、正極用樹脂部材70を介して蓋部材30に支持されていることになる。なお、本実施の形態において、正極端子部材50は、アルミニウムからなる。ただし、正極端子部材50の材料は、後述する電極体40の正極集電部41rと電気的に接続可能な範囲で適宜に設定可能である。
【0019】
負極端子部材60は、負極用樹脂部材80を介して蓋部材30と絶縁された状態で蓋部材30に固定されている。したがって、負極端子部材60は、負極用樹脂部材80を介して蓋部材30に支持されていることになる。なお、本実施の形態において、負極端子部材60は、銅からなる。ただし、負極端子部材60の材料は、後述する電極体40の負極集電部42rと電気的に接続可能な範囲で適宜に設定可能である。
【0020】
電極体40は、所謂「捲回型」の電極体である。電極体40において、帯状の正極板41と帯状の負極板42とが、帯状のセパレータ43を間に挟んで所定の捲回方向に捲回されている。その結果、電極体40は、全体的に、前側Fおよび後側Bにおいて、上下方向Zおよび左右方向Xに拡がる横長矩形状の側面を有する扁平形状に形成されている。
【0021】
正極板41は、正極の集電箔(図示なし)と当該集電箔に担持された正極の活物質層(図示なし)とを有する。正極の集電箔はアルミニウムからなる。ただし、正極の集電箔の材料は、リチウムイオン二次電池の正極としての機能を実現可能な範囲で適宜に設定可能である。一方、負極板42は、負極の集電箔(図示なし)と当該集電箔に担持された負極の活物質層(図示なし)とを有する。負極の集電箔は銅からなる。ただし、負極の集電箔の材料は、リチウムイオン二次電池の負極としての機能を実現可能な範囲で適宜に設定可能である。
【0022】
また、電極体40には正極集電部41rが形成されている。正極集電部41rは、正極の集電箔が露出された部分である。正極集電部41rには、正極端子部材50の正極端子下側部52が接着されている。同様に、電極体40には負極集電部42rが形成されている。負極集電部42rは、負極の集電箔が露出された部分である。負極集電部42rには、負極端子部材60の負極端子下側部62が接着されている。したがって、電極体40は、正極端子部材50および負極端子部材60を介して蓋部材30に支持されていることになる。
【0023】
なお、詳細な図示は省略するが、正極集電部41rは、電極体40の軸線方向において負極板42およびセパレータ43よりも突出していて正極の集電箔のみが捲回されている部分である。同様に、負極集電部42rは、電極体40の軸線方向において正極板41およびセパレータ43よりも突出していて負極の集電箔のみが捲回されている部分である。本実施の形態においては、正極集電部41rは電極体40の左側Lの端部に形成されている。また、負極集電部42rは、電極体40の右側Rの端部に形成されている。
【0024】
また、電極体40と、本体部材20の底部12、前側部13、後側部14、左側部15および右側部16ならびに蓋部材30とは、それぞれ一定距離離れている。そして、電極体40と本体部材20との間には、絶縁性を確実に維持するための絶縁ホルダ5が配置されている。絶縁ホルダ5の形状および材料は、電極体40と本体部材20との間に配置可能であり、かつ、電極体40と本体部材20とを絶縁させることが可能であれば、適宜に設定可能である。本実施の形態では、絶縁ホルダ5は、合成樹脂であるポリプロピレン(PP)の帯状フィルムで構成されている。また、絶縁ホルダ5は、袋状に形成されている。そして、袋状の絶縁ホルダ5は、上側Uが開放した状態で電極体40を包み込んでいる。すなわち、絶縁ホルダ5は、本体部材20の底部12、前側部13、後側部14、左側部15および右側部16の内面と、電極体40の本体部材20に対向する外面とを絶縁している。
【0025】
正極用樹脂部材70は、熱可塑性樹脂、具体的にはポリフェニレンサルファイド(PPS)からなる。そして、正極用樹脂部材70は、蓋部材30および正極端子部材50のそれぞれに接合している。正極用樹脂部材70が蓋部材30および正極端子部材50に接合することによって蓋部材30、正極端子部材50および正極用樹脂部材70は一体化されているので、この一体化されたものを含む電池1は、金属および樹脂による複合体を構成していることになる。また、正極用樹脂部材70は、蓋部材30と正極端子部材50との間を、絶縁しつつ、気密に封止している。すなわち、正極用樹脂部材70は、蓋部材30と正極端子部材50との間の絶縁部材およびシール部材として機能する。なお、正極用樹脂部材70の材料は、蓋部材30と正極端子部材50との間を絶縁しつつ気密に封止し、さらには蓋部材30および正極端子部材50のそれぞれに接合可能であれば適宜に設定可能であり、他の種類の熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂などの他の種類の樹脂であってもよい。
【0026】
負極用樹脂部材80は、熱可塑性樹脂、具体的にはポリフェニレンサルファイド(PPS)からなる。そして、負極用樹脂部材80は、蓋部材30および負極端子部材60のそれぞれに接合している。負極用樹脂部材80が蓋部材30および負極端子部材60に接合することによって蓋部材30、負極端子部材60および負極用樹脂部材80は一体化されているので、この一体化されたものを含む電池1は、金属および樹脂による複合体を構成していることになる。また、負極用樹脂部材80は、蓋部材30と負極端子部材60との間を、絶縁しつつ、気密に封止している。すなわち、負極用樹脂部材80は、蓋部材30と負極端子部材60との間の絶縁部材およびシール部材として機能する。なお、負極用樹脂部材80の材料は、蓋部材30と負極端子部材60との間を絶縁しつつ気密に封止し、さらには蓋部材30および負極端子部材60のそれぞれに接合可能であれば適宜に設定可能であり、他の種類の熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂などの他の種類の樹脂であってもよい。
【0027】
次に、正極端子部材50の形状について説明する。図3は、正極端子部材50の斜視図である。図3に示すように、正極端子部材50は、正極端子上側部51、正極端子下側部52および正極端子中間部53を有する。なお、電池1において、正極端子上側部51は、相対的に上側Uに配置される。正極端子下側部52は、相対的に下側Dに配置される。
【0028】
正極端子上側部51は、一方向においてL字状で一定の断面形状を有する。この正極端子上側部51の断面形状の詳細としては、L字に係る一方の直線部分よりも他方の直線部分の方が長い。そこで、正極端子上側部51の中でL字状の断面形状の長い方の直線部分に該当する矩形板状の部分を「長直線部分51a」と称し、長直線部分51aの一方の縁部から垂直に延設されている部分を「短直線部分51b」と称する。
【0029】
なお、以下において、正極端子部材50の説明について、便宜上、方向を特定するものとして、図3に示す符号O、P、Qを用いる。符号O、P、Qは、それぞれ「正極端子上側部51に係るL字状の断面形状が一定に延在している方向」、「正極端子上側部51に係るL字状の断面形状の長直線部分51aに沿った方向」、「正極端子上側部51に係るL字状の断面形状の短直線部分51bに沿った方向」を表している。また、以下において、方向を表す符号O、P、Qを、それぞれ「第1方向O」、「第2方向P」、「第3方向Q」と称する。さらに、正極端子部材50の説明において、第3方向Qにおける正極端子上側部51が配置されている側を「上側」と称し、第3方向Qにおける正極端子下側部52が配置されている側を「下側」と称することもある。
【0030】
正極端子下側部52は、全体として長直線部分51aに垂直に形成されている。正極端子下側部52の形状は、第3方向Qを長辺方向、第2方向Pを短辺方向とする矩形板状である。また、第1方向Oにおいて、正極端子下側部52の一部分は正極端子上側部51の内側に収まり、他の部分は正極端子上側部51の外側にはみ出している。さらに、第2方向Pにおいて、正極端子下側部52の一部分は正極端子上側部51の内側に収まり、他の部分は正極端子上側部51の外側にはみ出している。
【0031】
正極端子中間部53は、全体的にクランク形状であり、正極端子上側部51と正極端子下側部52とをつないでいる。第2方向Pから見た正極端子中間部53の形状は、第1方向Oを長辺方向、第3方向を短辺方向とする矩形状である。また、正極端子中間部53の第1方向Oの長さは正極端子下側部52の第1方向Oの長さよりも長い。そして、正極端子下側部52の第1方向Oにおける正極端子上側部51の外側にはみ出している側の側面と、正極端子中間部53の第1方向Oにおける同一側の側面とは連続している。
【0032】
また、正極端子中間部53の短直線部分51bに接続されている付近の第2方向Pに直交する両表面は、短直線部分51bの第2方向Pに直交する両表面と同一平面上に形成されている。以下において、正極端子中間部53の中で短直線部分51bの第2方向Pに直交する両表面と同一平面上に形成されている部分を「上側接続部53a」と称する。そして、短直線部分51bを含む正極端子上側部51の第2方向Pにおける正極端子下側部52が配置されている側の表面と、上側接続部53aの同一側の表面とは面一状態になっている。また、上側接続部53aの第3方向Qにおける短直線部分51bと反対側には、第2方向Pに沿って正極端子上側部51の外側に向けてクランク状に屈曲する屈曲部53bが形成されている。
【0033】
なお、本実施の形態において、負極端子部材60の形状は、正極端子部材50の形状と同一である。したがって、負極端子部材60の斜視図を用いた説明は省略するが、負極端子部材60は、正極端子部材50と同様に、正極端子上側部51、正極端子下側部52および正極端子中間部53に対応した負極端子上側部61、負極端子下側部62および負極端子中間部63を有する。
【0034】
次に、正極用樹脂部材70と蓋部材30および正極端子部材50との接合構造、ならびに、蓋部材30および正極端子部材50への粗化処理について説明する。図4は、図1および図2に示す電池1の一部分を構成し、一体化されている蓋部材30と、正極端子部材50および正極用樹脂部材70と、負極端子部材60および負極用樹脂部材80とからなるユニット部材1Aを抽出して斜視図で表した図である。図5(A)は図4のB-B断面図であり、図5(B)は図4のC-C断面図である。図6は、蓋部材30と正極用樹脂部材70との接合領域、および、蓋部材30において粗化処理が施されている領域を説明する説明図である。図7は、正極端子部材50と正極用樹脂部材70との接合領域、および、正極端子部材50において粗化処理が施されている領域を説明する説明図である。
【0035】
正極端子部材50は、第1方向Oが左右方向Xと平行であり、かつ、正極端子下側部52が後側Bに配置された状態で、正極用樹脂部材70を介して蓋部材30に固定されている。一方、負極端子部材60は、第1方向Oが左右方向Xと平行であり、かつ、負極端子下側部62が前側Fに配置された状態で、負極用樹脂部材80を介して蓋部材30に固定されている。
【0036】
長直線部分51aの上面は、上側Uに対して露出している。また、上下方向Zにおいて蓋部材30の上面と長直線部分51aの下面とが略同一位置に配置されている。さらに、上下方向Zにおいて短直線部分51bの下面は蓋部材30の下面よりもやや低い位置に配置されている。なお、平面視(上側Uから下側Dに向けた視線)において、正極用挿入孔33hに挿入した正極端子部材50の長直線部分51aは、正極用挿入孔33hの内部にすっぽりと収まっている。そして、左右方向Xおよび前後方向Yにおいて、長直線部分51aは正極用挿入孔33hの略中央に配置されている。
【0037】
正極用樹脂部材70は、上下方向Zにおいて正極端子上側部51の上端から上側接続部53aの下端よりも少し上側Uまで形成されている。そして、正極用樹脂部材70によって蓋部材30と正極端子部材50との間が気密に封止されている。なお、後述するように、本実施の形態では正極用樹脂部材70はインサート成形によって一体的に形成されているが、便宜上、正極用樹脂部材70の蓋部材30の上面よりも上の部分を「正極樹脂上側部71」と称し、蓋部材30の下面よりも下の部分を「正極樹脂下側部72」と称し、蓋部材30の上面と下面との間の部分、言い換えると、正極用挿入孔33hに充填されている部分を「正極樹脂中間部73」と称する。
【0038】
正極樹脂上側部71は、長直線部分51aを全周にわたって取り囲む正極樹脂上側枠状部71aと、正極樹脂上側枠状部71aに繋がっている正極樹脂上側突出部71bと、を有する。
【0039】
正極樹脂上側枠状部71aは矩形枠状に形成されている。正極樹脂上側枠状部71aの各直線部分の内縁から外縁までの距離である第1幅W1は、略同一である。正極樹脂上側突出部71bは、正極樹脂上側枠状部71aの右側Rに形成された直線部分の略中央の一部の範囲から右側Rの方に突出して形成されている。正極樹脂上側突出部71bの形状は、左右方向Xが長辺方向であり、前後方向Yが短辺方向である矩形板状である。正極樹脂上側突出部71bの左右方向Xの長さおよび前後方向Yの長さは、第1幅W1よりも長い。なお、正極樹脂上側突出部71bは、そのインサート成形の際に溶融樹脂が注入されるゲート部材GT(図12参照)が配置される箇所である。
【0040】
また、正極樹脂上側枠状部71aは、長直線部分51aの外側面全体、および、蓋部材30の上面における正極用挿入孔33hの縁を全周にわたって囲む矩形環状の蓋上面枠状接合領域E11と接合している。蓋上面枠状接合領域E11の各直線部分の内縁から外縁までの距離である第2幅W2は、略同一である。また、正極樹脂上側突出部71bは底面全域で蓋部材30の上面と接合している。
【0041】
なお、以下において、蓋部材30の上面における正極樹脂上側突出部71bと接合している領域を「蓋上面矩形状接合領域E12」と称する。蓋上面矩形状接合領域E12は、蓋上面枠状接合領域E11における右側Rの直線部分の略中央の一部の範囲から右側Rの方に突出して形成されている。すなわち、蓋上面枠状接合領域E11と蓋上面矩形状接合領域E12とは繋がっており、蓋部材30の上面における正極用樹脂部材70との接合領域を構成している。そこで、蓋上面枠状接合領域E11と蓋上面矩形状接合領域E12とを合わせて「蓋上面接合領域E1」と称する。
【0042】
正極樹脂下側部72は、全体的に、左右方向Xが長辺方向であり、前後方向Yが短辺方向である矩形板状に形成されている。正極樹脂下側部72の内部には、正極端子部材50の上下方向Zにおいて重なっている部分が完全に埋設されている。したがって、正極樹脂下側部72は、正極端子部材50の短直線部分51bおよび上側接続部53aの上下方向Zにおいて重なっている部分の外側面全体と接合している。
【0043】
また、正極樹脂下側部72は、蓋部材30の下面における正極用挿入孔33hの縁を全周にわたって囲む矩形環状の蓋下面接合領域E2と接合している。蓋下面接合領域E2の各直線部分の内縁から外縁までの距離としては、前側Fと後側Bとで略同一であり、左側Lと右側Rとで略同一である。そして、前側Fおよび後側Bの直線部分の内縁から外縁までの距離である第3幅W3よりも、左側Lおよび右側Rの直線部分の内縁から外縁までの距離である第4幅W4の方が広い。
【0044】
正極樹脂中間部73は、正極樹脂上側部71および正極樹脂下側部72に繋がっている。また、正極樹脂中間部73は、正極用挿入孔33hにおいて充填されている。したがって、正極樹脂中間部73は、蓋部材30の正極用挿入孔33hに係る内側面と全周にわたって接合している。さらに、正極樹脂中間部73の内部には正極端子部材50の短直線部分51bの上下方向Zにおいて重なっている部分が完全に埋設されている。したがって、正極樹脂中間部73は、正極端子部材50の短直線部分51bの上下方向Zにおいて重なっている部分の外側面全体と接合している。
【0045】
なお、正極端子部材50の長直線部分51aの外側面全体は正極樹脂上側枠状部71aと接合している。また、正極端子部材50の短直線部分51bの上下方向Zにおいて正極樹脂中間部73および正極樹脂下側部72と重なっている部分の外側面全体は正極樹脂中間部73および正極樹脂下側部72と接合している。さらに、正極端子部材50の上側接続部53aの上下方向Zにおいて正極樹脂下側部72と重なっている部分の外側面全体は正極樹脂中間部73および正極樹脂下側部72と接合している。そこで、正極端子部材50において正極端子上側部51と上側接続部53aとにまたがって面一状態になっている側面の中で正極用樹脂部材70に接合している領域を「端子側面接合領域E3」と称する。また、正極端子部材50の第3方向Qにおける正極端子下側部52が形成されている側の長直線部分51aの下面全体である正極用樹脂部材70に接合している領域を「端子下面接合領域E4」と称する。
【0046】
このように、蓋部材30および正極端子部材50には、正極用樹脂部材70との接合領域が複数存在する。そして、蓋部材30および正極端子部材50における正極用樹脂部材70との接合領域を含む特定領域には、シール性を高めるために、パルスレーザ照射による粗化処理が施されている。そこで、当該粗化処理について説明する。
【0047】
蓋部材30の上面における蓋上面接合領域E1を完全に囲って内部に収める蓋上面粗化領域F1および蓋部材30の下面における蓋下面接合領域E2を完全に囲って内部に収める蓋下面粗化領域F2に粗化処理が施されている。また、正極端子部材50において正極端子上側部51と上側接続部53aとにまたがって面一状態になっている側面全体で端子側面接合領域E3を完全に囲って内部に収める端子側面粗化領域F3および端子下面接合領域E4そのものである端子下面粗化領域F4に粗化処理が施されている。
【0048】
詳細な条件は後述するが、蓋上面粗化領域F1、蓋下面粗化領域F2、端子側面粗化領域F3および端子下面粗化領域F4への粗化処理はパルスレーザ照射によって行われる。そして、蓋上面粗化領域F1および蓋下面粗化領域F2には、デブリ粒子が面状に堆積してなる基礎層35と、デブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びた多数のナノ柱状体361が二次元的に林立する柱群層36と、が積層されている。同様に、端子側面粗化領域F3および端子下面粗化領域F4には、デブリ粒子が面状に堆積してなる基礎層55と、デブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びた多数のナノ柱状体561が二次元的に林立する柱群層56と、が積層されている。すなわち、正極用樹脂部材70が接合して正極用樹脂部材70と共に電池1の外側と内側との間を封止する蓋上面接合領域E1および蓋下面接合領域E2は、蓋部材30の表面にデブリ粒子が面状に堆積してなる基礎層35と、基礎層35にデブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びたナノ柱状体361が二次元的に林立する柱群層36と、が形成された蓋上面粗化領域F1および蓋下面粗化領域F2を含む。同様に、正極用樹脂部材70が接合して正極用樹脂部材70と共に電池1の外側と内側との間を封止する端子側面接合領域E3および端子下面接合領域E4は、正極端子部材50の表面にデブリ粒子が面状に堆積してなる基礎層55と、基礎層55にデブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びたナノ柱状体561が二次元的に林立する柱群層56と、が形成された端子側面粗化領域F3および端子下面粗化領域F4を含む。
【0049】
なお、デブリ粒子とは、金属部材の表面にパルスレーザを照射し、表面の一部を爆発的に蒸発させた際に、金属蒸気や金属原子と雰囲気ガスとが反応した化合物などが凝縮して形成され、レーザ照射位置付近の表面に落下した直径100nm以下の粒子のことをいう。
【0050】
蓋上面粗化領域F1および蓋下面粗化領域F2のそれぞれにおいて柱群層36として林立している多数のナノ柱状体361の平均高さ、およびは、端子側面粗化領域F3および端子下面粗化領域F4のそれぞれにおいて柱群層56として林立している多数のナノ柱状体561の平均高さは、84nm以上且つ1000nm未満である。
【0051】
また、蓋上面粗化領域F1、蓋下面粗化領域F2、端子側面粗化領域F3および端子下面粗化領域F4のそれぞれの表面積比の平均は、12.9以上である。なお、ここでの表面積比とは、各粗化領域F1~F4の幾何学的表面積を、各粗化領域F1~F4のナノ柱状体361、561を含む凹凸を加味した真の表面積(真表面積)で除算した値のことである。
【0052】
ここで、実際に金属部材(蓋部材30、正極端子部材50)がパルスレーザ照射によって粗化処理されて、基礎層(基礎層35、55)および柱群層(柱群層36、56)が形成されている様子を表す画像を図8に示す。図8に示すように、金属部材(蓋部材30、正極端子部材50)の表面に、デブリ粒子が堆積してなる基礎層(基礎層35、55)が積層されている。さらに、基礎層(基礎層35、55)にデブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びた多数のナノ柱状体(ナノ柱状体361、561)が二次元的に林立する柱群層(柱群層36、56)が積層されている。なお、図8の画像の右下隅に記載された目盛りの間隔1つ分は、30nmを表している。
【0053】
そして、電池1において、正極用樹脂部材70に係る樹脂(ポリフェニレンサルファイド)は、基礎層35、55にまで達した状態でナノ柱状体361、561間の隙間に充填している。言い換えると、正極用樹脂部材70は、各ナノ柱状体361、561の表面および基礎層35、55の表面と接合している。ここで、実際に、正極用樹脂部材70に係る樹脂(ポリフェニレンサルファイド)が、多数のナノ柱状体(ナノ柱状体361、561)の隙間に充填している様子を表す画像を図9に示す。なお、図9の左側の画像の右下隅に記載された目盛りの間隔1つ分は、10μmを表し、図9の右側の画像の右下隅に記載された目盛りの間隔1つ分は、15nmを表している。
【0054】
なお、負極用樹脂部材80と蓋部材30および負極端子部材60との接合構造は、図5図9を用いて説明した上述の正極用樹脂部材70と蓋部材30および正極端子部材50との接合構造と同様に構成されている。また、蓋部材30の負極用樹脂部材80との接合領域および負極端子部材60と負極用樹脂部材80との接合領域への粗化処理は、図5図9を用いて説明した上述の蓋部材30および正極端子部材50への粗化処理と同様に構成されている。
【0055】
[電池の製造]
次に、電池1の製造方法について、図10のフローチャートを参照しつつ説明する。電池1の製造方法は、部材準備工程S1、レーザ照射工程S2、インサート成形工程S3、蓋アセンブリ完成工程S4、閉塞工程S5、溶接工程S6、注液・封止工程S7および初充電・エージング工程S8を含む。
【0056】
部材準備工程S1において、蓋部材30、正極端子部材50および負極端子部材60を用意する。具体的には、従来の一般的な加工方法によって、アルミニウム板に、注液孔30k、正極用挿入孔33h、負極用挿入孔34hおよび安全弁19を形成することで、蓋部材30を得る。また、従来の一般的な加工方法によって、アルミニウム板から、図3に示す形状の正極端子部材50を得る。さらには、従来の一般的な加工方法によって、銅板から、正極端子部材50と同一形状の負極端子部材60を得る。
【0057】
部材準備工程S1の次に、レーザ照射工程S2を行う。レーザ照射工程S2において、基礎層35および柱群層36が形成されていない状態の蓋上面粗化領域F1および蓋下面粗化領域F2になり得る蓋部材30の表面に、パルスレーザ照射による粗化処理を施すことで、当該蓋部材30由来のデブリ粒子を堆積させ、多数のナノ柱状体361に成長させて、蓋上面粗化領域F1および蓋下面粗化領域F2を形成する。同様に、レーザ照射工程S2において、基礎層55および柱群層56が形成されていない状態の端子側面粗化領域F3および端子下面粗化領域F4になり得る正極端子部材50の表面に、パルスレーザ照射による粗化処理を施すことで、当該正極端子部材50由来のデブリ粒子を堆積させ、多数のナノ柱状体561に成長させて、端子側面粗化領域F3および端子下面粗化領域F4を形成する。
【0058】
レーザ照射工程S2におけるパルスレーザ照射の各種条件の一例として、1パルスのレーザ照射のエネルギー密度をアルミニウムの場合は24J/cm、銅の場合は32J/cmとなるようにする。そして、例えば、アルミニウムについては、波長を1060nm、平均出力を25W、パルス周期を40μs、バルス幅を50ns、スポット径を63μm、送り速度を1450mm/s、ラインピッチを0.059mmに設定する。図11は、レーザ照射工程S2において、蓋下面粗化領域F2および端子側面粗化領域F3に対してパルスレーザ照射を行う場合のパルスレーザ照射の軌跡を模式的に表した図である。
【0059】
図11(A)に示すように、蓋下面粗化領域F2に対しては、蓋下面粗化領域F2における左右方向Xに沿った一方側(図11(A)において左側L)の先端(図11(A)において、「始点」と記載されている側)で、前後方向Yのうちの一方側(図11(A)において後側B)に進行させるパルスレーザ照射を行う。続いて、設定されたラインピッチ(0.059mm)分、左右方向Xに沿った他方側(図11(A)において右側R)にずらして、前後方向Yのうちの他方側(図11(A)において前側F)に進行させるパルスレーザ照射を行う。そして、設定されたラインピッチ(0.059mm)分、左右方向Xに沿った他方側(図11(A)において右側R)にずらして、再度、(図11(A)において後側B)に進行させるパルスレーザ照射を行う。以降は、前後方向Yのうちの一方側または他方側に進行させるパルスレーザ照射が、蓋下面粗化領域F2における左右方向Xに沿った他方側(図11(A)において右側R)の先端(図11(A)において、「終点」と記載されている側)に到達するまで、当該パルスレーザ照射を繰り返し行う。
【0060】
このように蓋下面粗化領域F2に対してパルスレーザ照射を行うことで、基礎層35および柱群層36が形成されることになる。最初に、蓋部材30のデブリ粒子が蓋部材30の表面に散点状に付着して基礎層35が面状に形成される。次いで、デブリ粒子の散点状の付着が進行すると、基礎層35にデブリ粒子が結合していき、高さ方向に延びた多数の短い突状のナノ柱状体361が二次元的に林立する。そして、デブリ粒子の散点状の付着がさらに進行すると、基礎層35にデブリ粒子が数珠つなぎ状に結合していき、さらに高さ方向に延びた長い柱状の多数のナノ柱状体361が二次元的に林立する。なお、例えば、パルスレーザ照射のエネルギー密度を高めることにより、平均高さが高いナノ柱状体361を形成することができる。
【0061】
また、蓋下面粗化領域F2に対してパルスレーザ照射を開始させる位置(図11(A)において、「始点」と記載されている側)は図11(A)に限られず、図11(A)において「終点」と記載されている側がパルスレーザ照射を開始させる位置になってもよい。また、蓋上面粗化領域F1に対するパルスレーザ照射も、図11(A)に図示した蓋下面粗化領域F2に対するパルスレーザ照射と同様に行われるものとする。ただし、蓋上面粗化領域F1に対するパルスレーザ照射と、蓋下面粗化領域F2に対するパルスレーザ照射とが異なる態様で行われてもよい。
【0062】
図11(B)に示すように、端子側面粗化領域F3に対しては、正極端子部材50の第3方向Qに沿った端子側面粗化領域F3の一方側の先端(図11(B)において、「始点」と記載されている側)で、正極端子部材50の第2方向Pのうちの一方に進行させるパルスレーザ照射を行う。続いて、設定されたラインピッチ(0.059mm)分、第3方向Qに沿った正極端子部材50の他方側にずらして、第2方向Pのうちの他方に進行させるパルスレーザ照射を行う。そして、設定されたラインピッチ(0.059mm)分、第3方向Qに沿った正極端子部材50の他方側にずらして、再度、第2方向Pのうちの一方に進行させるパルスレーザ照射を行う。以降は、第2方向Pの一方または他方に進行させるパルスレーザ照射が、第3方向Qに沿った端子側面粗化領域F3の他方側の先端(図11(B)において、「終点」と記載されている側)に到達するまで、当該パルスレーザ照射を繰り返し行う。
【0063】
このように端子側面粗化領域F3に対してパルスレーザ照射を行うことで、基礎層55および柱群層56が形成されることになる。最初に、正極端子部材50のデブリ粒子が正極端子部材50の表面に散点状に付着して基礎層55が面状に形成される。次いで、デブリ粒子の散点状の付着が進行すると、基礎層55にデブリ粒子が結合していき、高さ方向に延びた多数の短い突状のナノ柱状体561が二次元的に林立する。そして、デブリ粒子の散点状の付着がさらに進行すると、基礎層55にデブリ粒子が数珠つなぎ状に結合していき、さらに高さ方向に延びた長い柱状の多数のナノ柱状体561が二次元的に林立する。なお、例えば、パルスレーザ照射のエネルギー密度を高めることにより、平均高さが高いナノ柱状体561を形成することができる。
【0064】
また、端子側面粗化領域F3に対してパルスレーザ照射を開始させる位置(図11(B)において、「始点」と記載されている側)は図11(B)に限られず、図11(B)において「終点」と記載されている側がパルスレーザ照射を開始させる位置になってもよい。また、端子下面粗化領域F4に対するパルスレーザ照射も、図11(B)に図示した端子側面粗化領域F3に対するパルスレーザ照射と同様に行われるものとする。ただし、この場合、パルスレーザ照射を進める方向は、端子側面粗化領域F3に対するレーザ照射と同様となるが、パルスレーザ照射の開始位置および終了位置は、正極端子部材50の第2方向Pに沿った端子下面粗化領域F4の一方側の先端および他方側の先端となる。さらには、パルスレーザ照射を設定されたラインピッチ(0.059mm)分、ずらす方向は、正極端子部材50の第2方向Pのうちの一方となる。
【0065】
また、レーザ照射工程S2においては、蓋部材30の負極用挿入孔34h周辺の負極用樹脂部材80との接合領域に対して、蓋上面粗化領域F1および蓋下面粗化領域F2の場合と略同一態様でパルスレーザ照射を行う。同様に、負極端子部材60の負極用樹脂部材80との接合領域に対して、端子側面粗化領域F3および端子下面粗化領域F4の場合と略同一態様でパルスレーザ照射を行う。ここでの「略同一態様」とは、パルスレーザ照射を行う領域およびパルスレーザ照射の条件のことである。
【0066】
レーザ照射工程S2の次に、インサート成形工程S3を行う。インサート成形工程S3では、正極用樹脂部材70および負極用樹脂部材80を形成し、正極用樹脂部材70と蓋部材30および正極端子部材50とを接合して一体化させると共に、負極用樹脂部材80と蓋部材30および負極端子部材60とを接合して一体化させる。すなわち、金属樹脂複合体であるユニット部材1Aを製造する。図12は、正極端子部材50側のインサート成形工程S3を模式的に表した説明図である。
【0067】
インサート成形工程S3では、金型DEを用いる。金型DEは、下側に配置される下金型DE1と、上側に配置される上金型DE2と、を有する。最初に、下金型DE1および上金型DE2をセットすることで、蓋部材30、正極端子部材50および負極端子部材60を所定位置に配置する。このとき、金型DEによって、正極用挿入孔33hに挿入した正極端子部材50、負極用挿入孔34hに挿入した負極端子部材60および蓋部材30が一体的に支持される。また、セットされた下金型DE1と上金型DE2とで正極用樹脂部材70および負極用樹脂部材80に対応する空間が形成される。
【0068】
インサート成形工程S3では、最初に、充填工程S31が行われ、次に、固化工程S32が行われる。充填工程S31では、図12に示すように、正極用樹脂部材70および負極用樹脂部材80の材料となる溶融樹脂MRをゲート部材GTから上金型DE2を通して、下金型DE1と上金型DE2とで形成された空間に注入する。このとき、例えば、溶融樹脂MRは、柱群層36をなす多数のナノ柱状体361間の隙間を基礎層35に達するまで充填する。同様に、溶融樹脂MRは、柱群層56をなす多数のナノ柱状体561間の隙間を基礎層55に達するまで充填する。
【0069】
なお、正極用樹脂部材70および負極用樹脂部材80の材料は、ポリフェニレンサルファイドを主成分とし、正極用樹脂部材70および負極用樹脂部材80の材料には、ガラスフィラーが含まれている。そして、正極用樹脂部材70および負極用樹脂部材80の材料の線膨張係数は、銅の線膨張係数(1.65)とアルミニウムの線膨張係数(2.31)との間に設定されている。
【0070】
そして、溶融樹脂MRを注入し終えた後、固化工程S32として、溶融樹脂MRを適宜に冷却することで、正極用樹脂部材70および負極用樹脂部材80を形成させる。詳細には、例えば、充填工程S31において多数のナノ柱状体361間の隙間を基礎層35に達するまで充填すると共に、多数のナノ柱状体561間の隙間を基礎層55に達するまで充填した溶融樹脂MRが固化して、粗化領域F1乃至F4を含む接合領域E1乃至E4に接合した正極用樹脂部材70が形成される。同様に、負極用樹脂部材80も形成される。その後、上金型DE2を上方に移動させて、一体化した蓋部材30と正極用樹脂部材70および正極端子部材50と負極用樹脂部材80および負極端子部材60とからなるユニット部材1Aを、下金型DE1から取り出す。
【0071】
インサート成形工程S3の次に、蓋アセンブリ完成工程S4を行う。蓋アセンブリ完成工程S4では、蓋アセンブリを完成させる。具体的には、電極体40を用意し、電極体40の正極集電部41rおよび負極集電部42rに、インサート成形工程S3により生成されたユニット部材1Aの正極端子下側部52および負極端子下側部62をそれぞれ溶接して接続する。その後、この状態の電極体40を袋状の絶縁ホルダ5で包む。その結果、蓋部材30、正極端子部材50、負極端子部材60、正極用樹脂部材70、負極用樹脂部材80、電極体40および絶縁ホルダ5からなる蓋アセンブリが完成する。
【0072】
蓋アセンブリ完成工程S4の次に、閉塞工程S5を行う。閉塞工程S5では、本体部材20を用意し、蓋アセンブリ完成工程S4において完成した蓋アセンブリのうち、電極体40および絶縁ホルダ5を含む蓋部材30よりも下の部分を本体部材20内に挿入し、蓋部材30で本体部材20の開口部21を塞ぐ。
【0073】
閉塞工程S5の次に、溶接工程S6を行う。溶接工程S6では、本体部材20の前側部13、後側部14、左側部15および右側部16の先端部分と蓋部材30の周縁部とを全周にわたってレーザ溶接することで、開口部21を気密に封止する。
【0074】
溶接工程S6の次に、注液・封止工程S7を行う。注液・封止工程S7では、注液孔30kを通じて電解液3をケース10内に注入し、電極体40内に電解液3を含浸させる。その後、封止部材39を上側Uから注液孔30kに嵌入し、封止部材39を全周にわたり蓋部材30に溶接して、封止部材39と蓋部材30との間を気密に封止する。
【0075】
注液・封止工程S7の次に、充電・エージング工程S8を行う。充電・エージング工程S8では、電池1に充電装置(不図示)を接続して、電池1に初充電を行う。その後、初充電した電池1を所定時間にわたり放置して、電池1のエージングを行う。かくして、電池1が完成する。
【0076】
次に、金属部材と樹脂部材との接合部のシール性を検証するための実験について説明する。当該実験は出願人によって行われた。また、当該実験のことを「シール性検証実験」と称する。シール性検証実験は、以下の(1)~(3)の3つの工程で構成される。
(1)試験用供試体の製作
(2)液槽冷熱衝撃試験の実施
(3)ヘリウムリークテストの実施
【0077】
最初に、(1)試験用供試体の製作について説明する。試験用供試体はシール性検証実験の被検体である。図13は、試験用供試体を模式的に表した説明図である。詳細には、図13(A)は試験用供試体の平面図であり、図13(B)は図13(A)のD-D断面図である。試験用供試体は、板状の金属部材と樹脂部材とが接合してなる。板状の金属部材は、アルミニウムまたは銅からなる。すなわち、試験用供試体として、アルミニウムを板状の金属部材としたものと、銅を板状の金属部材としたものとがある。また、樹脂部材は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)一種類からなる。
【0078】
板状の金属部材は、金属部材の種類に関わらず、全体的に正方形に成形されている。金属部材の平面視中心には、通気孔が金属部材の厚さ方向に貫通して形成されている。
【0079】
金属部材の樹脂部材と接合する側の表面には、粗化領域が形成されている。粗化領域の形状は、通気孔の縁を略一定幅で囲う円環状である。粗化領域には、前述の粗化領域F1~F4と同様に、パルスレーザ照射によって基礎層および柱群層が積層されている。ただし、シール性検証実験では、複数の試験用供試体を用意し、試験用供試体毎に相互に異なる条件でパルスレーザ照射を行った。そのため、ナノ柱状体の平均高さおよび表面積比も試験用供試体によって異なる。図14は、粗化領域に対して行ったパルスレーザ照射の各種条件と、粗化領域に形成されたナノ柱状体の平均高さおよび表面積比との関係を表した表である。なお、シール性検証実験では、アルミニウムからなる金属部材および銅からなる金属部材を7つずつ用意した。
【0080】
そして、インサート成形によって各金属部材に樹脂部材を接合させる。樹脂部材の形状は、円形板状である。そして、樹脂部材の中心軸と、通気孔の中心軸とは略一致している。したがって、本実験において、樹脂部材と金属部材との接合領域は、金属部材の粗化領域と一致している。また、樹脂部材は、完全に通気孔を覆った状態で、通気孔の周囲の粗化領域と全周にわたって接合していることになる。すなわち、本実験において、樹脂部材と金属部材との接合部は、試験用供試体を構成する金属部材の樹脂部材と接合している側の空間(第1空間)と樹脂部材と接合していない側の空間(第2空間)との間を封止している。
【0081】
次に、(2)液槽冷熱衝撃試験について説明する。既製の液槽冷熱衝撃装置(ES-96EXH-LS、日立アプライアンス株式会社)を用いて、各試験用供試体に対して液槽冷熱衝撃試験を行った。
【0082】
最後に、(3)ヘリウムリークテストについて説明する。液槽冷熱衝撃試験を受けた各試験用供試体に対して、既製のヘリウムリークディテクタ(HELiOT900、株式会社アルバック)を用いて、公知のヘリウムリークテストを行った。
【0083】
(3)ヘリウムリークテストの結果を図15に示す。図15(A)は、横軸をナノ柱状体の平均高さとし、縦軸をヘリウムリーク量としてプロットした散布図であり、図15(B)は、横軸を表面積比とし、縦軸をヘリウムリーク量としてプロットした散布図である。図15(A)、および図15(B)の縦軸は、上にいくほどヘリウムリーク量が少なくなることを示している。図15に示すように、シール性検証実験においては、ナノ柱状体の平均高さが84nm以上、または、表面積比が12.9以上であれば、金属部材と樹脂部材との接合部のシール性が良好であるとの結果が得られた。
【0084】
ここで、シール性検証実験における各粗化領域のナノ柱状体の平均高さの算出方法を説明する。当該算出方法としては、最初に、板状の金属部材を試験片として用意する。この金属部材の試験片を「平均高さ用試験片」と称する。そして、各平均高さ用試験片の一方の平面全体に各種条件でパルスレーザ照射を行う。
【0085】
次に、各平均高さ用試験片から、パルスレーザ照射を受けた平面部分を含む断面試料を所定の断面試料作製装置(例えば、クロスセクションポリッシャ(登録商標):日本電子株式会社製)を用いて作製する。断面試料は、平均高さ用試験片の厚さ方向に平行なものである。続いて、走査電子顕微鏡(S-4800、株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて、各断面試料の断面画像を得る。なお、この断面画像の倍率は15万倍である。
【0086】
次に、公知の画像処理ソフトを使用し、各断面画像におけるナノ柱状体の断面面積および底面長さを測定する。そして、以下の数式1によってナノ柱状体の高さを算出する。
【数1】
【0087】
図16(A)は、走査電子顕微鏡を用いて得られた断面画像の一例であり、図16(B)は、図16(A)に基づいてナノ柱状体の断面面積および底面長さを説明する説明図である。図16(B)に示すように、湾曲した曲線部分の長さが底面長さであり、林立しているナノ柱状体の総面積がナノ柱状体の断面面積である。なお、図16(A)、図16(B)の画像の右下隅に記載された目盛りの間隔1つ分は、30nmを表している。
【0088】
次に、シール性検証実験における各粗化領域の表面積比の算出方法を説明する。当該算出方法としては、最初に、板状の金属部材を試験片として用意する。この金属部材の試験片を「表面積比用試験片」と称する。そして、各表面積比用試験片の一方の平面に各種条件でパルスレーザ照射を行う。本実験では、パルスレーザ照射の対象は、一方の平面である。続いて、当該パルスレーザ照射が施された表面積比用試験片の比表面積を、一般的なクリプトンガス吸着法によって測定する。
【0089】
次に、測定された表面積比用試験片の比表面積に基づいて、表面積比用試験片においてパルスレーザ照射された平面の粗化面表面積を算出する。粗化面表面積は、以下の数式2によって算出される。
【数2】
【0090】
さらに、算出された表面積比用試験片の粗化面表面積に基づいて、表面積比用試験片においてパルスレーザ照射された平面の表面積比を算出する。表面積比は、以下の数式3によって算出される。
【数3】
【0091】
以上のように、部材表面に正極用樹脂部材70が接合して正極用樹脂部材70と共に電池1の外側となる第1空間と、電池1の内側となる第2空間との間を封止する接合領域E1、E2を有する蓋部材30によれば、接合領域E1、E2は、蓋部材30の部材表面に形成され、デブリ粒子が堆積してなる基礎層35と、基礎層35にデブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びたナノ柱状体361が二次元的に林立する柱群層36と、が形成された粗化領域F1、F2を含み、林立するナノ柱状体361の平均高さは84nm以上であるので、例えば、柱状部とはいえない突状部が形成された金属部材に比べて、正極用樹脂部材70との接合面のシール性を高めることができる。同様に、接合領域E3、E4を有する正極端子部材50によれば、接合領域E3、E4は、正極端子部材50の部材表面に形成され、デブリ粒子が堆積してなる基礎層55と、基礎層55にデブリ粒子が数珠つなぎ状に結合して高さ方向に延びたナノ柱状体561が二次元的に林立する柱群層56と、が形成された粗化領域F3、F4を含み、林立するナノ柱状体561の平均高さは84nm以上であるので、例えば、柱状部とはいえない突状部が形成された金属部材に比べて、正極用樹脂部材70との接合面のシール性を高くすることができる。
【0092】
また、接合領域E1、E2は、正極用挿入孔33hの縁を全周にわたって囲む態様で環状に形成されており、粗化領域F1、F2は、接合領域E1、E2においてその形状に沿った環状に形成されているので、接合領域E1、E2が正極用樹脂部材70と接合した場合の正極用挿入孔33hに対するシール性が高まる。
【0093】
さらに、接合領域E1、E2と接合した正極用樹脂部材70を形成する樹脂は、基礎層35にまで達した状態でナノ柱状体361間の隙間に充填しているので、蓋部材30と正極用樹脂部材70との接合部のシール性が高まる。同様に、接合領域E3、E4と接合した正極用樹脂部材70を形成する樹脂は、基礎層55にまで達した状態でナノ柱状体561間の隙間に充填しているので、正極端子部材50と正極用樹脂部材70との接合面のシール性が高まる。
【0094】
また、金属部材としての蓋部材30の製造方法として、基礎層35および柱群層36が形成されていない状態の粗化領域F1、F2になり得る蓋部材30の表面に、パルスレーザ照射によって生成された当該蓋部材30の素材となるアルミニウム由来のデブリ粒子を堆積させ、ナノ柱状体361に成長させて粗化領域F1、F2を形成するレーザ照射工程S2を備えるので、84nm以上の多数のナノ柱状体361を林立させ、シール性の高い蓋部材30を得ることができる。同様に、正極端子部材50の製造方法として、基礎層55および柱群層56が形成されていない状態の粗化領域F3、F4になり得る正極端子部材50の表面に、パルスレーザ照射によって生成された当該正極端子部材50の素材となるアルミニウム由来のデブリ粒子を堆積させ、ナノ柱状体561に成長させて粗化領域F3、F4を形成するレーザ照射工程S2を備えるので、84nm以上の多数のナノ柱状体561を林立させ、シール性の高い正極端子部材50を得ることができる。
【0095】
さらに、金属樹脂複合体としての電池1の製造方法として、熱溶融した正極用樹脂部材70の材料である溶融樹脂MRを、柱群層36をなす多数のナノ柱状体361間の隙間を基礎層35に達するまで充填させると共に、柱群層56をなす多数のナノ柱状体561間の隙間を基礎層55に達するまで充填させる充填工程S31と、充填工程S31で柱群層36をなす多数のナノ柱状体361間の隙間に充填した溶融樹脂MRおよび柱群層56をなす多数のナノ柱状体561間の隙間に充填した溶融樹脂MRを固化させて、粗化領域F1~F4に接合した正極用樹脂部材70を形成させる固化工程S32と、を備えるので、正極用樹脂部材70が基礎層35、55の表面およびナノ柱状体361、561の表面に接合し、シール性の高い電池1を得ることができる。
【0096】
また、前述の通り、蓋部材30の負極用樹脂部材80との接合領域には、粗化領域F1、F2と同様に、粗化処理が施され、高さの平均値が84nm以上の多数のナノ柱状体が林立しているので、蓋部材30の負極用樹脂部材80との接合領域も、シール性を高くすることができる。さらには、負極端子部材60の負極用樹脂部材80との接合領域には、粗化領域F3、F4と同様に、粗化処理が施され、高さの平均値が84nm以上の多数のナノ柱状体が林立しているので、負極端子部材60の負極用樹脂部材80との接合領域も、シール性を高くすることができる。
【0097】
なお、本実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。以下に、本実施の形態の改良例、変形例について説明する。
【0098】
本実施の形態では、ケース10内に収容する電極体として、扁平状捲回型の電極体40を例示したが、電極体は積層型の電極体でもよい。また、本実施の形態においてケース10内に収容されている電極体は1つであるが、複数の電極体がケース10内に収容されてもよい。
【0099】
本実施の形態では、ケース10は、全体的に扁平かつ有底の直方体形状を呈しているが、ケース10の形状も適宜に変形可能であり、円柱状などの他の形状を呈していてもよい。また、正極端子部材50および負極端子部材60の一方または双方の形状を適宜に変形してもよい。同様に、正極用樹脂部材70および負極用樹脂部材80の一方または双方の形状を適宜に変形してもよい。さらには、本実施の形態では、正極端子部材50の形状と負極端子部材60の形状とは同一であるが、異なっていてもよい。同様に、本実施の形態では、正極用樹脂部材70の形状と負極用樹脂部材80の形状とは同一であるが、異なっていてもよい。
【0100】
本実施の形態では、金属製の蓋部材30および正極端子部材50のそれぞれと正極用樹脂部材70とが接合すると共に、金属製の蓋部材30および負極端子部材60のそれぞれと負極用樹脂部材80とが接合している電池1は、本発明の金属樹脂複合体に含まれるが、電池1を構成するユニット部材1Aも、本発明の金属樹脂複合体に含まれるものとする。
【0101】
本実施の形態では、本発明をリチウムイオン電池に適用しているが、一般的な蓄電デバイスであれば適用可能であり,例えばニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池にも本発明を適用できる。また、本発明の用途は、電池に限られず、金属部材と樹脂部材とを接合する複合体に広く適用可能である。
【0102】
本実施形態では、正極用樹脂部材70は、粗化領域F1、F2の基礎層35および粗化領域F3、F4の基礎層55に達しているが、例えば、正極用樹脂部材70を、全体としてナノ柱状体361、561の先端、先端と中間の間の部分、略中間、または中間と基端との間の部分に達した状態で、多数のナノ柱状体361間の隙間や多数のナノ柱状体561間の隙間に充填させてもよい。
【0103】
本実施形態では、接合領域E1、E2の全体に粗化領域F1、F2が形成されているが、接合領域E1、E2の一部に粗化領域F1、F2を形成させてもよい。ただし、この場合は、粗化領域F1、F2は、接合領域E1、E2において、正極用挿入孔33hを囲う態様の環状に形成されていることが好ましい。また、接合領域E3、E4の全体に粗化領域F3、F4が形成されているが、接合領域E3、E4の一部に粗化領域F3、F4を形成させてもよい。ただし、この場合は、粗化領域F3は、接合領域E3における正極端子中間部53の部分全体に形成されていることが好ましい。また、粗化領域F4は、接合領域E4の周縁部に沿って環状に形成されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0104】
1…電池、10…ケース、20…本体部材、30…蓋部材、
33h…正極用挿入孔、34h…負極用挿入孔、
50…正極端子部材、60…負極端子部材、
70…正極用樹脂部材、80…負極用樹脂部材、
30a、50a…突起部、
35、55…基礎層、36、56…柱群層、361、561…ナノ柱状体、
E1…蓋上面接合領域、E2…蓋下面接合領域、
E3…端子側面接合領域、E4…端子下面接合領域、
F1…蓋上面粗化領域、F2…蓋下面粗化領域、
F3…端子側面粗化領域、F4…端子下面粗化領域
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16