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特開2025-90995運動性精子選別デバイス、及び運動性精子の選別方法
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  • 特開-運動性精子選別デバイス、及び運動性精子の選別方法 図1
  • 特開-運動性精子選別デバイス、及び運動性精子の選別方法 図2
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  • 特開-運動性精子選別デバイス、及び運動性精子の選別方法 図6
  • 特開-運動性精子選別デバイス、及び運動性精子の選別方法 図7A
  • 特開-運動性精子選別デバイス、及び運動性精子の選別方法 図7B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025090995
(43)【公開日】2025-06-18
(54)【発明の名称】運動性精子選別デバイス、及び運動性精子の選別方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20250611BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205929
(22)【出願日】2023-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】595009763
【氏名又は名称】株式会社協同インターナショナル
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三田 正弘
(72)【発明者】
【氏名】安井 学
(72)【発明者】
【氏名】百武 徹
(72)【発明者】
【氏名】大日方 塁
(72)【発明者】
【氏名】塚原 隼人
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029DF09
4B029DG08
4B029GB05
4B029HA05
4B063QA20
4B063QQ08
(57)【要約】
【課題】 本発明は、運動性精子を容易かつ効率的に選別でき、運動性精子のDNAの損傷を抑えることができる、運動性精子選別デバイス、及び運動性精子の選別方法を提供する。
【解決手段】 精子を含む精子含有液を収容する供給槽4、液状の媒体を収容する回収槽5、及び供給槽4と、回収槽5とを互いに連通する複数の流路6を備え、複数の流路6内に、回収槽5から供給槽4へ向かう媒体の流れを生じさせることによって、精子に含まれる運動性精子を、供給槽4から回収槽5へ複数の流路6を介して遡上させて、運動性精子を選別する、運動性精子選別デバイスである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精子を含む精子含有液を収容する供給槽、
液状の媒体を収容する回収槽、及び
前記供給槽と、前記回収槽とを互いに連通する複数の流路を備え、
複数の前記流路内に、前記回収槽から前記供給槽へ向かう前記媒体の流れを生じさせることによって、前記精子に含まれる運動性精子を、前記供給槽から前記回収槽へ複数の前記流路を介して遡上させて、前記運動性精子を選別する、運動性精子選別デバイス。
【請求項2】
前記回収槽に収容された前記媒体の液面を、前記供給槽に収容された前記精子含有液の液面より高くすることによって、複数の前記流路内に、前記回収槽から前記供給槽へ向かう前記媒体の流れを生じさせる、請求項1に記載の運動性精子選別デバイス。
【請求項3】
前記供給槽及び前記回収槽は、互いに平行に対向する面を有し、
複数の前記流路が、前記対向する面に接続しており、前記対向する面に直交する方向に延出する直線状の形状を有する、請求項1に記載の運動性精子選別デバイス。
【請求項4】
複数の前記流路は、前記対向する面と平行な断面が矩形である、請求項3に記載の運動性精子選別デバイス。
【請求項5】
基板、及びチップを備え、
前記チップは、上面と、下面とを有し、
前記チップに、前記上面と前記下面とを貫通する、前記供給槽用の穴、及び前記回収槽用の穴が形成され、前記チップの前記下面側に、前記供給槽用の穴と、前記回収槽用の穴とを連通する、複数の前記流路用の複数の溝が形成されており、
前記基板と、前記チップの前記下面とが接着されることによって、前記供給槽、前記回収槽、及び複数の前記流路が形成される、請求項1に記載の運動性精子選別デバイス。
【請求項6】
請求項1に記載の運動性精子選別デバイスを用意する工程、
前記回収槽に前記媒体を注入し、前記供給槽に前記精子含有液を注入し、複数の前記流路内に、前記回収槽から前記供給槽へ向かう前記媒体の流れを生じさせる工程を含む、運動性精子の選別方法。
【請求項7】
前記媒体の液面が前記精子含有液の液面より高くなるように、前記供給槽に前記精子含有液を注入する、請求項6に記載の運動性精子の選別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動性精子選別デバイス、及び運動性精子の選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体外受精において、受精卵を効率的に作成するためには、運動性の良好な精子(以下、運動性精子と称する)を用いることが望まれる。運動性精子を選別する方法として、遠心を行うパーコール法等の方法が存在する。しかしながら、このような方法は、遠心によって精子のDNAが損傷する虞がある。また、操作に熟練した技術者が必要であり、精子の回収に時間がかかるという問題がある。従って、運動性精子を容易に選別することができ、運動性精子のDNAの損傷を抑えることができる方法が求められている。また、運動性精子を効率よく選別できる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0308192号 明細書
【特許文献2】国際公開第2022/140648号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、運動性精子を容易かつ効率的に選別でき、運動性精子のDNAの損傷を抑えることができる、運動性精子選別デバイスを提供する。また、本発明は、運動性精子を容易かつ効率的に選別でき、運動性精子のDNAの損傷を抑えることができる、運動性精子の選別方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係る運動性精子選別デバイスは、精子を含む精子含有液を収容する供給槽、液状の媒体を収容する回収槽、及び供給槽と、回収槽とを互いに連通する複数の流路を備え、複数の流路内に、回収槽から供給槽へ向かう媒体の流れを生じさせることによって、精子に含まれる運動性精子を、供給槽から回収槽へ複数の流路を介して遡上させて、運動性精子を選別する。
【0006】
また、本発明の実施形態に係る運動性精子の選別方法は、精子を含む精子含有液を収容する供給槽、液状の媒体を収容する回収槽、及び供給槽と、回収槽とを互いに連通する複数の流路を備え、複数の流路内に、回収槽から供給槽へ向かう媒体の流れを生じさせることによって、精子に含まれる運動性精子を、供給槽から回収槽へ複数の流路を介して遡上させて、運動性精子を選別する運動性精子選別デバイスを用意する工程、並びに回収槽に媒体を注入し、供給槽に精子含有液を注入し、複数の流路内に、回収槽から供給槽へ向かう媒体の流れを生じさせる工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、運動性精子を容易かつ効率的に選別でき、運動性精子のDNAの損傷を抑えることができる、運動性精子選別デバイスを提供できる。また、本発明は、運動性精子を容易かつ効率的に選別でき、運動性精子のDNAの損傷を抑えることができる、運動性精子の選別方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを示す斜視図であり、(a)は、運動性精子選別デバイスの全体を示す斜視図であり、(b)は、複数の流路のうちのひとつを抜き出して示す斜視図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを示す平面図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを示す断面図であり、(a)は、図2に示すA-A断面図であり、(b)は、図2に示すB-B断面図である。
図4図4(a)~(e)は、運動性精子の選別方法の一例を説明する断面図である。
図5図5(a)~(c)は、実施例1において、運動性精子選別デバイスの複数の流路を上から観察したときの顕微鏡写真であり、(a)は、運動性精子が流路内を遡上している状態を示す顕微鏡写真であり、(b)は、(a)の状態から約1.4秒後の状態を示す顕微鏡写真であり、(c)は、(a)の状態から約2.8秒後の状態を示す顕微鏡写真である。
図6図6は、実施例1において選別した精子の運動性を比較するグラフであり、(a)は精子の曲線速度を示し、(b)は精子の直線性を示し、(c)は精子の頭部振幅を示し、(d)は精子の頭部振動数を示すグラフである。
図7A図7Aは、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスの変形例を示す図であり、(a)は、第1の変形例の一部を模式的に示す平面図であり、(b)は、第2の変形例の一部を模式的に示す平面図である。
図7B図7Bは、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスの変形例を示す図であり、(c)は、第3の変形例の一部を模式的に示す平面図であり、(d)は、第4の変形例の一部を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一、又は、類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0010】
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスは、精子を含む精子含有液を収容する供給槽、液状の媒体を収容する回収槽、及び供給槽と、回収槽とを互いに連通する複数の流路を備え、複数の流路内に、回収槽から供給槽へ向かう媒体の流れを生じさせることによって、精子に含まれる運動性精子を、供給槽から回収槽へ複数の流路を介して遡上させて、運動性精子を選別する。
【0011】
本明細書において、運動性精子とは、精子運動解析装置(SMAS)を用いて計測した曲線速度、直線性、頭部振幅、及び頭部振動数が高い精子である。第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスは、このような運動性精子を容易かつ効率的に選別でき、運動性精子のDNAの損傷を抑えることができる。
【0012】
以下、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスについて、図1~3を参照しながら説明する。
【0013】
図1~3に示すように、運動性精子選別デバイス1は、基板2、及びチップ3を備える。図示するように、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を記載する。X軸に沿った方向をX方向と称し、Y軸に沿った方向をY方向と称し、Z軸に沿った方向をZ方向と称する。X方向は、運動性精子選別デバイス1の幅方向に相当する。Y方向は、運動性精子選別デバイス1の奥行方向に相当する。Z方向は、運動性精子選別デバイス1の厚さ方向に相当する。X軸、及びY軸によって規定されるX-Y平面を見ることを平面視と称する。
【0014】
基板2は、上面2aと、下面2bとを有する。図1(a)に示すように、基板2は、上面2a及び下面2bが平坦であり、かつ上面2a及び下面2bが平行な板状の形状を有する。基板2の形状は、板状に限定されず、例えば、立方体、直方体、及び円柱状等の形状であってもよい。基板2の材料は、特に限定されないが、ガラスであることが好ましい。
【0015】
チップ3は、上面3aと、下面3bとを有する。図1(a)に示すように、チップ3は、概略直方体状の形状を有する。チップ3の形状は、概略直方体に限定されず、例えば、概略立方体及び円柱状等の形状であってもよい。また、チップ3は、上面3aと下面3bとを貫通する、供給槽4用の穴7、及び回収槽5用の穴8が形成されている。また、チップ3の下面3b側に、供給槽4用の穴7と、回収槽5用の穴8とを連通する、複数の流路6用の複数の溝9が形成されている。チップ3の材料は、特に限定されないが、樹脂であることが好ましく、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMSと称する)であることがより好ましい。
【0016】
図1(a)に示すように、基板2の上面2aと、チップ3の下面3bとが接着されることによって、供給槽4、回収槽5、及び供給槽4と、回収槽5とを互いに連通する複数の流路6が形成されている。
【0017】
図1(a)に示すように、供給槽4の一つの側面LS4と、回収槽5の一つの側面LS5が、Y方向に互いに平行であり、X方向に互いに対向している。また、図1(a)に示すように、複数の流路6は、対向する面LS4及びLS5に接続している。また、図1(a)及び(b)に示すように、複数の流路6は、対向する面LS4及びLS5に直交する方向(X方向)に延出する直線状の形状を有する。より詳細には、複数の流路6は、対向する面LS4及びLS5と平行な方向(Y方向)の断面が矩形である、直方体の形状を有している。供給槽4、回収槽5、及び複数の流路6をこのように構成することによって、複数の流路6の長さLがすべて同じ長さとなる。これにより、後述する運動性精子の選別方法において、各流路6を遡上する運動性精子の量、及び運動性精子の運動性の高さを揃えることができる。また、複数の流路6は、対向する面LS4及びLS5と平行する方向(Y方向)の断面が矩形であることにより、図1(b)に図示する幅W、高さH、及び長さLを有する。これにより、後述する複数の流路6内の媒体11の流れF(u)の平均流速uを容易に設計することができる。
【0018】
図1及び2に示すように、供給槽4及び回収槽5は、直方体状の形状を有している。供給槽4及び回収槽5の形状は、直方体に限定されず、立方体及び円柱状等であってもよい。供給槽4及び回収槽5の底面の面積は、例えば、20mm以上64mm以下である。
【0019】
図1及び2に示すように、供給槽4及び回収槽5が直方体の形状を有する場合、図1(a)に示す供給槽4の幅W、奥行D、並びに回収槽5の幅W、奥行Dの値が、前記底面の面積の範囲を満たす組み合わせであることが好ましい。例えば、幅W及びWがそれぞれ1.6mm以上7.0mm以下であり、奥行D及びDがそれぞれ4.0mm以上40mm以下である。
【0020】
図1及び図2に示すように、運動性精子選別デバイス1は、供給槽4と回収槽5とを互いに連通する流路6を複数備える。好ましくは、運動性精子選別デバイス1は、当該流路6を、供給槽4の側面LS4の横方向の長さ1mm当たりに対して、10本/1mm以上50本/1mm以下の密度で備える。運動性精子選別デバイス1が流路6を複数備えることによって、運動性精子が流路6を介して遡上する際に、運動性精子が接触する面が多くなるため、運動性精子の走触性を誘発し易くなる。従って、運動性精子の走触性を利用して、より多くの運動性精子を回収槽5へ移動させることができ、運動性精子を効率的に選別できる。なお、図1~3では、流路6を6本備える運動性精子選別デバイス1を模式的に示しているが、流路の数は6本に限定されない。
【0021】
流路6の幅Wは、10μm以上の範囲で、可能な限り小さい方が好ましい。これにより、運動性精子が流路6の内側面LS61及びLS62により接触し易くなるため、運動性精子の走触性をより誘発することができ、運動性精子をより効率的に選別できる。幅Wが10μm未満であると、運動性精子が流路6を遡上することが困難となる虞がある。また、流路6の幅Wに対する高さH(H/W)を、0.1<H/W<10とすることが好ましい。H/Wが0.1以下であると、チップ3がPDMSで形成されている場合に、流路6の上面がたわんで流路6の下面(即ち、基板2の上面2a)に接触し、流路6の少なくとも一部を塞ぐ虞がある。また、H/Wが10以上であると、チップ3がPDMSで形成されている場合に、流路6の側面がたわんで内側面LS61とLS62とが接触し、流路6の少なくとも一部を塞ぐ虞がある。
【0022】
図3(a)及び(b)に示すように、供給槽4、回収槽5、及び複数の流路6の底面は、同一平面上に位置することが好ましい。これにより、後述する複数の流路6内の媒体の流れF(u)の平均流速uを制御することが容易となる。
【0023】
第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイス1は、複数の流路6内に、回収槽5から供給槽4へ向かう媒体の流れF(u)を生じさせることによって、精子に含まれる運動性精子を、供給槽4から回収槽5へ複数の流路6を介して遡上させて、運動性精子を選別する。これにより、運動性精子を容易かつ効率的に選別でき、運動性精子のDNAの損傷を抑えることができる。媒体の流れ(u)を生じさせる方法は、特に限定されない。例えば、回収槽5に収容された媒体の液面を、供給槽4に収容された精子含有液の液面より高くすることによって、媒体の流れ(u)を生じさせてもよい。これにより、媒体の液面を精子含有液の液面より高くするという容易な操作によって、媒体の流れ(u)を生じさせることができる。また、回収槽5内の圧力を供給槽4内の圧力よりも高くすることによって、媒体の流れ(u)を生じさせてもよい。
【0024】
(第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスの製造方法)
次に、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスの製造方法について説明する。ここでは、図1~3に示す運動性精子選別デバイス1について、製造方法を説明する。第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイス1の製造方法は、基板2を用意する工程、供給槽4用の穴7、回収槽5用の穴8、及び複数の流路6用の複数の溝9が形成されたチップ3を用意する工程、並びに基板2の上面2aと、チップ3の下面3bとを接着する接着工程を含む。
【0025】
チップ3を用意する工程は、公知の方法によって行うことができる。例えば、穴7、穴8及び溝9が形成される前のチップ3に対して、切削、及びフォトリソグラフィ等によって、穴7、穴8及び溝9を形成し、チップ3を作製してもよい。また、穴7、穴8及び溝9の形状を設けた型を、金属、フォトレジスト及びシリコン等によって作製し、当該型を用いて射出成型等の成型を行うことによってチップ3を作製してもよい。また、ニッケル等を用いた電気鋳造によってチップ3を作製してもよい。
【0026】
接着工程において、基板2の上面2aと、チップ3の下面3bとの接着は、プラズマ処理等によって行うことが好ましい。接着剤を用いた接着は、後述する運動性精子を選別方法において、接着剤に含まれる成分が媒体に溶け出し、精子の運動性に悪影響を与える虞があるため、好ましくない。
【0027】
以上説明した方法によって、図1~3に示す運動性精子選別デバイス1を製造することができる。このような製造方法によれば、チップ3の下面3bに複数の溝を加工することによって、容易に複数の流路6を形成することができる。
【0028】
(第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを用いた運動性精子の選別方法)
次に、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを用いた、運動性精子の選別方法について説明する。
【0029】
運動性精子の選別方法は、精子を含む精子含有液を収容する供給槽、液状の媒体を収容する回収槽、及び供給槽と、回収槽とを互いに連通する複数の流路を備え、複数の流路内に、回収槽から供給槽へ向かう媒体の流れを生じさせることによって、精子に含まれる運動性精子を、供給槽から回収槽へ複数の流路を介して遡上させて、運動性精子を選別する、運動性精子選別デバイス(即ち、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイス)を用意する工程(S1)、並びに回収槽に媒体を注入し、供給槽に精子含有液を注入し、複数の流路内に、回収槽から供給槽へ向かう媒体の流れを生じさせる工程(S2)を含む。また、運動性精子の選別方法は、回収槽内に移動した運動性精子を回収する工程(S3)を更に含んでもよい。
【0030】
以下、図1~3に示す運動性精子選別デバイス1を用いた運動性精子の選別方法を説明する。
【0031】
まず、運動性精子選別デバイス1を用意する工程(S1)において、運動性精子選別デバイス1を水平な面に設置する。運動性精子選別デバイス1は、第1の実施形態で説明したものを用いることができる。
【0032】
次いで、媒体の流れを生じさせる工程(S2)において、回収槽5に媒体を注入し、供給槽4に精子含有液を注入し、複数の流路6内に、回収槽5から供給槽4へ向かう媒体の流れF(u)を生じさせる。
【0033】
媒体は、複数の流路6内に回収槽5から供給槽4へ向かう媒体の流れF(u)を生じさせた際に、精子に含まれる運動性精子を回収槽5へ遡上させることができる液状の物質であれば特に限定されない。媒体の密度は、水と同程度であることが好ましい。媒体の粘度は、例えば、1×10-3Pa・s以上1×10Pa・s以下である。また、媒体の粘度は、水と同程度であることが好ましい。このような媒体として、IFP963B(株式会社機能性ペプチド研究所社製)等の媒精液、体外受精用培養液、緩衝液、生理食塩水、及びその他の培養液等からなる群から選択される1つ、又は2つ以上の混合物に、ウシ血清アルブミン(BSA)等のアルブミンを溶解したものが好ましい。2つ以上の混合物を用いる場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0034】
回収槽5に媒体を注入する方法は、特に限定されず、例えば、マイクロピペット及びシリンジ等を用いて回収槽5に媒体を注入することによって行ってもよい。
【0035】
精子含有液は、精子を含む液体であれば特に限定されないが、精液及び精液懸濁液等であることが好ましい。精液懸濁液は、精子凍結保存液、培養液、緩衝液及び生理食塩水等からなる群から選択される少なくとも1つ、又は2つ以上の混合物に対して精液を懸濁させたものである。2つ以上の混合物を用いる場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。精子は、あらゆる動物の精子であってよいが、ウシ、ブタ及びヒト等の哺乳類動物の精子であることが好ましい。精子は、上述したような動物から採取したままの状態であってもよく、採取した後凍結保存し、その後解凍した状態のものであってもよい。
【0036】
供給槽4に精子含有液を注入する方法は、特に限定されず、例えば、マイクロピペット及びシリンジ等を用いて供給槽4に精子含有液を注入することによって行ってもよい。
【0037】
媒体の流れを生じさせる工程(S2)において、複数の流路6内に、回収槽5から供給槽4へ向かう媒体の流れF(u)を生じさせる。運動性精子は、運動性精子が有する走流性及び走触性によって、流れF(u)に逆らって供給槽4から回収槽5へ複数の流路6を介して遡上し、回収槽5に移動する。一方、運動性の低い精子は、流れF(u)に逆らって遡上し難いため、供給槽4内に残留する。このように、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイス1は、運動性精子と、運動性の低い精子とを、運動性精子の走流性及び走触性を利用して選別することができる。また、遠心等の精子のDNAに損傷を生じさせる虞がある方法を用いることなく運動性精子を選別できるため、運動性精子のDNAが損傷することを抑えることができる。
【0038】
複数の流路6内に生じさせる、回収槽5から供給槽4へ向かう媒体の流れF(u)の平均流速uを、10μm/s以上100μm/s以下とすることが好ましく、20μm/s以上50μm/s以下とすることがより好ましい。媒体の流れF(u)の平均流速uが10μm/s以上100μm/s以下の範囲であると、運動性精子は、流れF(u)に逆らって遡上し、回収槽5に移動することができる。一方、運動性の低い精子は、流れF(u)に逆らって遡上することが難しくなる。従って、運動性精子と、運動性の低い精子とを精度よく選別することができる。また、平均流速uが20μm/s以上であると、運動性の低い精子が流れF(u)に逆らって遡上することがさらに難しくなるため、運動性精子と、運動性の低い精子とをより精度よく選別することができる。平均流速uが10μm/s未満であると、媒体の流れF(u)が安定しなかったり、媒体が逆流したりする虞がある。平均流速uが100μm/sを超えると、運動性精子が流れF(u)に逆らって遡上して、回収槽5に移動することが難しくなる虞がある。
【0039】
媒体の流れを生じさせる方法は、特に限定されない。例えば、回収槽5に収容された媒体の液面を、供給槽4に収容された精子含有液の液面より高くすることによって、媒体の流れF(u)を生じさせてもよい。また、シリンジポンプ等を用いて、回収槽5内の圧力を供給槽4内の圧力よりも高くすることによって、媒体の流れF(u)を生じさせてもよい。
【0040】
以下、回収槽5に収容された媒体の液面を、供給槽4に収容された精子含有液の液面より高くすることによって、媒体の流れF(u)を生じさせる方法を、図4(a)~(e)を参照して説明する。
【0041】
まず、図4(a)及び(b)に示すように、回収槽5に媒体11を注入し、媒体11を回収槽5から供給槽4へ複数の流路6を介して流入させる。
【0042】
媒体11を回収槽5から供給槽4へ複数の流路6を介して流入させることができ、かつ後の工程において、媒体11の液面FL11を精子含有液10の液面FL10より高くするために十分な量の媒体11を、回収槽5に注入する。回収槽5に十分な量の媒体11を注入することによって、媒体11が回収槽5から供給槽4へ複数の流路6を介して流入する。
【0043】
回収槽5に媒体11を注入した後、媒体11が回収槽5から供給槽4へ流入したことを確認することが好ましい。媒体11が回収槽5から供給槽4へ流入したことは、例えば、図4(b)に示すように、供給槽4に媒体11が流入した状態を、供給槽4の開口部から目視等で確認すること等によって行うことができる。これにより、複数の流路6が回収槽5と供給槽4とを互いに連通していることを確認することができる。
【0044】
次いで、図4(c)に示すように、媒体11の液面FL11が精子含有液10の液面FL10より高くなるように、供給槽4に精子含有液10を注入する。媒体11の液面の高さFL11と、精子含有液10の液面の高さFL10との差ΔFL(即ち、ΔFL=FL11-FL10)(以下、「液面差ΔFL」と称する)は、後述する式(1)において、媒体の流れF(uM)の平均流速uMが10μm/s以上100μm/s以下の範囲となる任意の値とすることができる。しかしながら、液面差ΔFLが小さすぎると、衝撃等で媒体11が逆流する虞がある。また、液面差ΔFLが大きすぎると、媒体の流れF(uM)の平均流速uMを前記範囲とするために、流路6の長さLを長くする必要が生じる。液面差ΔFLは、例えば、0.7mm以上10mm以下とすることができる。
【0045】
媒体11の液面FL11が精子含有液10の液面FL10より高くなるように、供給槽4に精子含有液10を注入することによって、回収槽5内の媒体11の液圧P11が、供給槽4内の精子含有液10の液圧P10より大きくなる。従って、供給槽4に精子含有液10を注入した後においても、図4(c)~(e)に示すように、媒体11が回収槽5から供給槽4へ複数の流路6を介して流入する。このとき、複数の流路6内には、回収槽5から供給槽4へ向かう方向に平均流速uの媒体11の流れF(u)が生じる。図4(d)及び(e)に示すように、運動性精子12aは、運動性精子12aが有する走流性及び走触性によって、流れF(u)に逆らって供給槽4から回収槽5へ複数の流路6を介して遡上し、回収槽5に移動する。一方、運動性の低い精子12bは、流れF(u)に逆らって遡上し難いため、供給槽4内に残留する。
【0046】
以下、複数の流路6内の媒体11の流れF(u)の平均流速uと、流路6の形状と、液面差ΔFLとの関係について説明する。流れF(u)の平均流速uは、図1(b)に示す流路6の幅W、高さH、及び長さL、並びに液面差ΔFLを用いて、次の式で表すことができる。なお、下記式において、gは重力加速度、ρは媒体11の密度、μは媒体11の粘度を示す。
【0047】
【数1】
【0048】
液面差ΔFL、並びに流路6の幅W、高さH及び長さLは、上記式において、平均流速uが10μm/s以上100μm/s以下の範囲となる任意の値とすることができる。例えば、媒体11の密度ρ及び粘度μが水と同程度である場合、液面差ΔFLを0.7mm以上10mm以下、流路6の幅Wを10μm以上60μm以下、高さHを10μm以上60μm以下、長さLを1mm以上80mm以下とすることができる。
【0049】
供給槽4に精子含有液10を注入してから、運動性精子12aを回収槽5内に移動させるまでの時間は、特に限定されないが、例えば、15分以上60分以下である。
【0050】
以上説明したようにして、媒体の流れを生じさせる工程(S2)を行ってもよい。これにより、媒体11の液面FL11を精子含有液10の液面FL10より高くするという容易な操作によって、媒体の流れを生じさせることができる。
【0051】
媒体の流れを生じさせる工程(S2)以降の工程において、運動性精子選別デバイス1内の精子含有液及び媒体を、精子が運動するために適切な温度に保つことが好ましい。適切な温度は、用いる精子の動物の種類によって異なり、例えば、ヒトの場合は32℃以上37℃以下、ウシの場合は37℃以上39℃以下である。精子含有液及び媒体を適切な温度に保つ方法は、特に限定されないが、運動性精子選別デバイス1をインキュベータに入れ、当該インキュベータによって温度を管理することによって行ってもよい。
【0052】
媒体の流れを生じさせる工程(S2)の後、回収槽5内に移動した運動性精子を回収する工程(S3)を行ってもよい。運動性精子を回収する方法は特に限定されないが、運動性精子を、回収槽5内に残存する媒体と共に、マイクロピペットやシリンジ等で回収することによって行ってもよい。
【0053】
回収した運動性精子を、例えば、媒体と共にマイクロチューブ等の中で保存してもよく、当該マイクロチューブ等を凍結して保存してもよい。回収及び保存した運動性精子は、体外受精に用いることができる。第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを用いて選別した運動性精子は、遠心を行うパーコール法等の従来の選別方法によって選別された精子と比較して、DNAの損傷が抑えられる。従って、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを用いて選別した運動性精子を体外受精に用いることで、体外受精の卵割率、胚盤胞率及び凍結可能胚率を高めることができる。
【0054】
以下、第1の実施形態の効果について説明する。
第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスは、複数の流路内に、回収槽から供給槽へ向かう媒体の流れを生じさせることによって、精子に含まれる運動性精子を、供給槽から回収槽へ複数の流路を介して遡上させて、運動性精子を選別する。このように、当該運動性精子選別デバイスは、複数の流路内に、回収槽から供給槽へ向かう媒体の流れを生じさせるという容易な操作によって、運動性精子を選別することができる。また、遠心等の運動性精子のDNAに損傷を生じさせる虞がある方法を用いることなく、運動性精子の走流性及び走触性を利用することによって運動性精子を選別するため、運動性精子のDNAの損傷を抑えることができる。
また、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスは、供給槽と、回収槽とを互いに連通する流路を複数備える。これにより、運動性精子が流路を介して遡上する際に、運動性精子が接触する面が多くなるため、運動性精子の走触性を誘発し易くなる。従って、運動性精子の走触性を利用して、より多くの運動性精子を回収槽へ移動させることができるため、運動性精子を効率的に選別できる。
【0055】
(実施例)
以下、実施例を例示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
(運動性精子選別デバイスの用意)
図1~3に示す運動性精子選別デバイス1と同様のものを用意した。供給槽4及び回収槽5は、略同一形状の直方体であり、図1(a)に示す幅W及びWが3.5mmであり、奥行きD及びDが8.2mmであり、高さH及びHが5mmであった。また、複数の流路6は、図1(a)及び(b)に示すように、Y方向の断面が矩形の直方体であり、幅Wが50μmであり、高さHが10μmであり、長さLが5mmであった。また、運動性精子選別デバイス1は、当該流路6をY方向に並列して80本備えていた。当該運動性精子選別デバイス1を、水平な面に設置した。
【0057】
(精子含有液及び媒体の用意)
ウシの凍結精液ストロー(種雄牛名:黒毛和牛「勝美桜」、家畜改良事業団盛岡種雄牛センター)中のウシの凍結精液を、38.5℃の湯浴で融解し、精子含有液であるウシの精液を用意した。また、媒精用基本液IFP963B(株式会社機能性ペプチド研究所製)(以下、BO液と称する)に、ウシ血清アルブミン(アルブミン、ウシ血清由来(BSA)、pH7.0、ニュージーランド産、富士フイルム和光純薬株式会社製)(以下、BSAと称する)を溶解し、BSAの濃度が0.2質量%のBO液(以下、0.2質量%BSA添加BO液と称する)を調製し、媒体とした。
【0058】
(運動性精子の選別)
調製した媒体100μLを、マイクロピペットを用いて、回収槽5に注入した。媒体が複数の流路を介して回収槽5から供給槽4へ流入したことを、供給槽4の開口部から目視によって確認した。次いで、精液80μLを供給槽4に注入した。このとき、媒体の液面が精子の液面よりも高く、媒体の液面の高さと、精液の液面の高さとの差ΔFLが0.7mm以上10mm以下であった。また、精液を供給槽4に注入した後の、複数の流路6内の媒体の流れF(u)の平均流速uは、14.8μm/sであった。次いで、運動性精子選別デバイス1をCO2インキュベータ(MCO-170AICUV-PJ、PHC株式会社製)に入れ、媒体及び精液の温度を38.5度に保ち、30分間安置した。この間、複数の流路6を上から顕微鏡で観察して、複数の流路6を介して供給槽4から回収槽5へ遡上する運動性精子の様子を観察した。その際の顕微鏡写真を、図5(a)~(c)に示す。図5(a)は、運動性精子が流路6を遡上している状態を示す顕微鏡写真である。図5(b)は、図5(a)の状態から約1.4秒後の状態を示す顕微鏡写真であり、図5(c)は、図5(a)の状態から約2.8秒後の状態を示す顕微鏡写真である。なお、図5(a)~(c)において、複数の流路6のうちのひとつを符号6で示し、その内側面を符号LS61及びLS62で示し、運動性精子のうちのひとつを符号12aで示している。図5(a)~(c)に示す顕微鏡写真から明らかなように、複数の運動性精子が、その走流性によって、複数の流路6内の媒体の流れF(u)に逆らって遡上していることがわかる。また、運動性精子が、流路6の内側面LS61及びLS62に沿って多数存在し、当該内側面LS61及びLS62に沿って移動していることから、運動性精子は、その走触性によっても、複数の流路6内を遡上していることがわかる。
【0059】
30分間安置した後、回収槽5から、回収槽5に移動した運動性精子、及び回収槽5に残存する媒体の混合物を、マイクロピペットを用いて吸引し、マイクロチューブに入れて回収した。また、供給槽4から、供給槽4に残存する精液、及び回収槽5から供給槽4に流入した媒体の混合物を、マイクロピペットを用いて吸引し、マイクロチューブに入れて回収した。その後、精子運動解析装置(SMAS、株式会社ディテクト製)を用いて、回収槽5、及び供給槽4から回収した各混合物中に含まれる精子について、精子の曲線速度、直線性、頭部振幅、及び頭部振動数をそれぞれ測定し、精子の運動性を評価した。その結果を図6に示す。図6において、エラーバーは標準誤差を示し、符号「*」は、p値が0.05未満であること(p<0.05)を示し、符号「n.s.」は、統計的に有意でないことを示す。
【0060】
図6(a)に示すように、回収槽5に移動した運動性精子は、供給槽4に残存する精子よりも高い曲線速度を有していた。また、図6(b)に示すように、回収槽5に移動した運動性精子は、供給槽4に残存する精子よりも高い直線性を有していた。また、図6(c)に示すように、回収槽5に移動した運動性精子は、有意ではないものの、供給槽4に残存する精子よりも高い頭部振幅を有していた。また、図6(d)に示すように、回収槽5に移動した運動性精子は、供給槽4に残存する精子よりも、高い頭部振動数を有していた。このように、回収槽5に移動した運動性精子は、供給槽4に残存する精子よりも高い運動性を有していることが分かった。従って、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを用いることによって、運動性の高い運動性精子を容易かつ効率的に選別できた。
【0061】
(実施例2)
運動性精子選別デバイス1の流路6の数が120本であった以外、実施例1と同様の方法によって、回収槽5から、回収槽5に移動した運動性精子、及び回収槽5に残存する媒体の混合物を回収した。当該混合物の精子濃度は50万個/mLであった。
【0062】
(実施例3)
運動性精子選別デバイス1の流路の長さが3mmであり、流路の数が120本であり、複数の流路内の媒体の流れF(u)の平均流速uが24.8μm/sであった以外、実施例1と同様の方法によって、回収槽5から、回収槽5に移動した運動性精子、及び回収槽5に残存する媒体の混合物を回収した。当該混合物の精子濃度は50万個/mLであった。
【0063】
(比較例1)
まず、2mlの90%パーコール液を遠心管に入れ、その後、2mLの45%パーコール液を遠心管に積層した。ウシの凍結精液ストロー(種雄牛名:黒毛和牛「勝美桜」、家畜改良事業団盛岡種雄牛センター)中のウシの凍結精液を、38.5℃の温湯で融解し、当該精液を遠心管内の45%パーコール液の表面に積層した。遠心管を、1000rpmの速度で、30分間遠心分離し、運動性精子と運動性の低い精子を分離した。遠心管から上清を除去し、1mLの媒精液(IVF100、株式会社機能性ペプチド研究所社製)を加え、ピペッティングすることによって混和し、精子浮遊液を調製した。当該精子浮遊液の精子濃度をSMASを用いてカウント後、さらに媒精液(IVF100)を加え、当該精子浮遊液の精子濃度を250万個/mLに調整した。
【0064】
<体外受精>
(卵子の準備)
ウシの卵巣の卵胞内から、卵丘細胞卵子複合体を卵胞液と共にシリンジを用いて吸引採取した。顕微鏡を用いて、採取した卵丘細胞卵子複合体のうち、卵丘細胞が3層以上卵子に付着しているものを選別した。選別した卵丘細胞卵子複合体を、シャーレ内の成熟培地(血清を5%添加したMedium199(Gibco社製))へ導入し、38.5℃、5%CO in airのインキュベータ内で、20~24時間成熟培養した。
【0065】
(媒精及び発生培養)
成熟培養した卵子を媒精培地に移動し、実施例2で回収した運動性精子及び媒体の混合物をマイクロピペットを用いて添加し、38.5℃、5%CO in airのインキュベータ内で、6~16時間培養することによって媒精した。媒清後の胚を、血清を5%添加したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて洗浄した。次いで、洗浄した胚を、発生培地(BO-IVC(IVF Bioscience社製))に導入し、192時間発生培養した。実施例3で回収した運動性精子及び媒体の混合物、及び比較例1で回収した精子浮遊液についても、同様の媒精及び発生培養処理を行った。
【0066】
<卵割率、胚盤胞率、凍結可能胚率の測定>
発生培養開始後、48時間経過した胚を、顕微鏡を用いて観察し、卵割した胚の数を数えて卵割数及び卵割率(=卵割数/供試胚数×100)を得た。また、発生培養開始後、192時間経過した胚を、顕微鏡を用いて観察し、発生した胚盤胞を数えて胚盤胞数、及び胚盤胞率(=胚盤胞数/供試胚×100)を得た。また、発生培養開始後、168時間経過した胚を、顕微鏡を用いて観察し、国際胚技術学会(IETS)の分類においてCode 2以上の胚を凍結可能胚とし、当該凍結可能胚の数を数えて凍結可能胚数、及び凍結可能胚率(=凍結可能胚数/供試胚×100)を得た。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例2及び3は、比較例1よりも卵割率が高かった。また、実施例2及び3は、比較例1よりも胚盤胞率が高かった。また、実施例2及び3は、比較例1よりも凍結可能胚率が高かった。このように、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを用いて選別された運動性精子(実施例2及び3)は、遠心を行う従来法(パーコール法)によって得られた運動性精子(比較例1)よりも、体外受精の卵割率、胚盤胞率及び凍結可能胚率が高いことが分かった。従って、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを用いることによって、遠心を行う従来法よりも運動性精子のDNAの損傷を抑えつつ、運動性精子を選別することができた。
【0069】
また、表1に示すように、複数の流路内の媒体の流れF(u)の平均流速uが20μm/s以上50μm/s以下の範囲内であった実施例3は、平均流速uが20μm/s未満であった実施例2と比較して、凍結可能胚率がより高い結果となった。従って、平均流速uを20μm/s以上50μm/s以下の範囲内とすることにより、運動性の低い精子が回収槽まで遡上することをより抑え、運動性精子をより高い精度で選別することができた。
【0070】
上述した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0071】
(第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスの変形例)
以下、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイス1の変形例について、図7A及び図7Bを参照しながら説明する。なお、図7A(a)及び(b)、並びに図7B(c)及び(d)では、運動性精子選別デバイス1の供給槽4、回収槽5及び複数の流路6のみを抜き出してそれぞれ図示している。流路6は、省略して1本のみを示しているが、複数本設けられている。上述の第1の実施形態と同様の構成についての説明は、上述の説明を援用して省略する。
【0072】
(第1の変形例)
図7A(a)に示すように、2つの供給槽4の間に回収槽5を配置して、供給槽4と回収槽5とを複数の流路6でそれぞれ互いに連通して、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを構成してもよい。
【0073】
(第2の変形例)
図7A(b)に示すように、2つの供給槽4をX方向の両端に配置し、2つの供給槽4をY方向の両端に配置し、4つの供給槽4の中央に回収槽5を配置して、各供給槽4と、回収槽5とを、複数の流路6でそれぞれ互いに連通して、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを構成してもよい。
【0074】
(第3の変形例)
図7B(c)に示すように、複数の供給槽4及び複数の回収槽5を、X方向及びY方向に交互に並べて配置し、X方向及びY方向に隣り合う供給槽4と回収槽5とを、複数の流路6でそれぞれ互いに連通して、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを構成してもよい。
【0075】
(第4の変形例)
図7B(d)に示すように、中空円柱状の供給槽4の中央に、円柱状の回収槽5を配置し、供給槽4の側面LS4と、回収槽5の側面LS5とを、複数の流路6によって互いに連通することによって、第1の実施形態に係る運動性精子選別デバイスを構成してもよい。第4の変形例において、供給槽4の側面LS4、及び回収槽5の側面LS5は、互いに平行に対向している。また、複数の流路6が、回収槽5を中心として放射状に配置され、各流路6が、側面LS4、及び側面LS5と直交する方向に延出する直線状の形状を有している。
【符号の説明】
【0076】
1…運動性精子選別デバイス、2…基板、3…チップ、4…供給槽、5…回収槽、6…流路、7…供給槽用の穴、8…回収槽用の穴、9…流路用の溝、10…精子含有液、11…媒体、12…精子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B