(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009107
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】フィリング素材用冷凍耐性付与剤およびフィリング素材
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20250110BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20250110BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20250110BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20250110BHJP
A23B 2/80 20250101ALI20250110BHJP
A23D 9/013 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L27/60 A
A23L35/00
A23L5/00 L
A23L3/36 Z
A23D9/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111875
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香取 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】泉 秀明
【テーマコード(参考)】
4B022
4B026
4B035
4B036
4B047
【Fターム(参考)】
4B022LA01
4B022LB01
4B022LQ10
4B026DC03
4B026DC06
4B026DG01
4B026DG11
4B026DK01
4B026DL04
4B026DX08
4B035LC03
4B035LC16
4B035LE01
4B035LG08
4B035LG12
4B035LG15
4B035LG19
4B035LK13
4B035LP21
4B036LC01
4B036LE08
4B036LF15
4B036LH13
4B036LH30
4B036LH41
4B036LK03
4B036LP12
4B036LP14
4B036LP17
4B047LE02
4B047LF10
4B047LG10
4B047LG66
4B047LP06
(57)【要約】
【課題】冷解凍をしてもマヨネーズやマヨネーズ様調味料に含まれる油脂の分離を抑制することができるフィリング素材用冷凍耐性付与剤ならびにフィリング素材を提供する。
【解決手段】本発明のフィリング素材用冷凍耐性付与剤は、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材用冷凍耐性付与剤であって、粉末油脂を含む。本発明のフィリング素材は、粉末油脂および、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材用冷凍耐性付与剤であって、
粉末油脂を含む、フィリング素材用冷凍耐性付与剤。
【請求項2】
前記粉末油脂が、乳化剤を含有する、請求項1に記載のフィリング素材用冷凍耐性付与剤。
【請求項3】
前記粉末油脂が、グリセリン脂肪酸エステルおよびカゼイン由来の乳タンパク質を含有し、グリセリン脂肪酸エステルとカゼイン由来の乳タンパク質の質量比(グリセリン脂肪酸エステル:カゼイン由来の乳タンパク質)が1:10~6:1である、請求項2に記載のフィリング素材用冷凍耐性付与剤。
【請求項4】
粉末油脂および、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有する、フィリング素材。
【請求項5】
前記粉末油脂が、乳化剤を含有する、請求項4に記載のフィリング素材。
【請求項6】
前記粉末油脂が、グリセリン脂肪酸エステルおよびカゼイン由来の乳タンパク質を含有し、グリセリン脂肪酸エステルとカゼイン由来の乳タンパク質の質量比(グリセリン脂肪酸エステル:カゼイン由来の乳タンパク質)が1:10~6:1である、請求項5に記載のフィリング素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィリング素材用冷凍耐性付与剤およびフィリング素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フィリング素材をサンドするサンドウィッチ等の食材パン等において、新鮮さや風味を保つため、中にフィリングをサンドしたまま冷凍流通し、解凍後に店頭で販売されることが多くなっている。
【0003】
しかしながら、マヨネーズやマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材においては、冷解凍すると、マヨネーズやマヨネーズ様調味料の乳化が破壊され、油脂が分離するという問題があった。
【0004】
従来、マヨネーズやマヨネーズ様調味料に改良剤を添加することで特性の改良を図る技術としては、泡沫安定性を目的として起泡剤を添加する技術(特許文献1)、油脂感の増強を目的として酸化油脂を添加する技術(特許文献2、3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-090702号公報
【特許文献2】国際公開第2019/073811号
【特許文献3】国際公開第2020/209158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの従来技術には、起泡性や油脂感の増強といった効果についての記載があるものの、冷解凍後の油脂の分離防止に関する検討はなされていなかった。
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、冷解凍をしてもマヨネーズやマヨネーズ様調味料に含まれる油脂の分離を抑制することができるフィリング素材用冷凍耐性付与剤(以下、冷凍耐性付与剤ということがある。)ならびにフィリング素材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材に粉末油脂を添加することで、これらに冷凍耐性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明のフィリング素材用冷凍耐性付与剤は、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材用冷凍耐性付与剤であって、粉末油脂を含むことを特徴としている。
本発明のフィリング素材は、粉末油脂および、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の冷凍耐性付与剤およびフィリング素材は、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材に粉末油脂を添加することで、これらを冷解凍してもマヨネーズやマヨネーズ様調味料に含まれる油脂の分離を抑制し、冷凍耐性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の具体的な実施形態について説明する。
(粉末油脂)
本発明において、粉末油脂に用いられる油脂は、特に限定されないが、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、菜種油、大豆油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂等の植物性油脂や、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、魚油等の動物性油脂、それらの分別油、加工油(硬化及びエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)等が挙げられる。これらの中でも、冷凍時の油脂結晶に由来する乳化破壊の抑制という観点から、室温下で液状の油脂が好ましい。
【0011】
本発明に用いられる粉末油脂において、粉末油脂に対する油脂の配合量は、特に限定されないが、例えば、粉末油脂全体に対して、40~75質量%が挙げられ、冷凍耐性をより高める観点から、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。また、粉末油脂の長期的な保存安定性確保の観点から、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0012】
本発明に用いられる粉末油脂は、冷凍耐性をより高める観点から、乳化剤を含有することが好ましい。
上記乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル(ジアセチル酒石酸モノグリセライド、コハク酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、乳酸モノグリセライド等)、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等)、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、グリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
また、上記乳化剤のHLBは、特に限定されないが、例えば、16以下が挙げられる。冷凍耐性をより高める観点から、14以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
ここでHLB値は、Griffin式(Atlas社法)により求めることができる。
【0014】
本発明に用いられる粉末油脂における乳化剤の配合量は、特に限定されないが、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材への配合量が少量で冷凍耐性の効果が得られるという観点から、粉末油脂全体に対して0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1.0質量%以上が特に好ましく、7.0質量%以上が最も好ましい。また、粉末油脂中の乳化剤量が多過ぎるとフィリングの呈味を害するため、粉末油脂全体に対して30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明に用いられる粉末油脂は、タンパク質を含有することが好ましい。タンパク質は、油滴の分散性を高め、乳化安定剤として機能する。本発明に用いられる粉末油脂は製造時の水中油型乳化物の油滴を維持したまま粗粒化するが、タンパク質により細かい油滴が分散した構造を保持する。またタンパク質及び糖質は、賦形剤(粉末化基材)として機能し、乾燥後の粉末油脂は、油脂が賦形剤で覆われた(カプセル化した)形状となっている。
【0016】
上記タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、乳タンパク質、大豆タンパク質、えんどうタンパク質、そら豆タンパク質、米タンパク質、小麦タンパク質、コラーゲン、ゼラチン等が挙げられる。また、これらのようなタンパク質の分解物を用いることができ、本発明においては上記タンパク質の分解物もタンパク質と表記する。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
タンパク質としては、乳タンパク質を好ましく使用できる。乳タンパク質は、牛乳等の乳由来タンパク質であり、乳由来のタンパク質は、およそ80質量%がカゼインであり、残りの20質量%は乳清タンパク質が占めている。乳タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、カゼイン塩(カゼインナトリウム、カゼインカリウム)、酸カゼイン、レンネットカゼイン、それらの分解物である乳ペプチド等が挙げられる。これらの中でも、カゼイン由来の乳タンパク質が好ましく、カゼイン由来の乳タンパク質としては、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等のカゼイン塩や、酸カゼイン、カゼイン加水分解物(乳ペプチド)が好ましい。
【0018】
本発明に用いられる粉末油脂における上記タンパク質の配合量は、特に限定されないが、例えば、カゼイン由来の乳タンパク質を使用する場合、乾燥粉末化前の乳化液の粘度が高くなり過ぎず、良好な粉末油脂を得ることができる点から、粉末油脂全体に対して30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましく、1.5~6質量%が特に好ましく、2.5~6質量%が最も好ましい。なお、本発明において、乳タンパク質の質量とは、カゼイン塩の場合、カゼイン塩全体の質量を指す。例えば、カゼインナトリウム、カゼインカリウムのように、カゼインのカードや粉末等に塩基性塩を添加して水溶性塩の形態に転換させる場合には、水溶性のカゼイン塩全体の質量のことである。
【0019】
本発明に用いられる粉末油脂におけるグリセリン脂肪酸エステルとカゼイン由来の乳タンパク質の質量比(グリセリン脂肪酸エステル:カゼイン由来の乳タンパク質)は、冷凍耐性をより高める観点から、1:10~6:1が好ましく、1:5~5:1がより好ましく、2:5~4:1がさらに好ましい。この場合、グリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤を配合してもよい。グリセリン脂肪酸エステルの量は特に限定されないが、乳化剤の全量に対して、例えば15質量%以上とすることができる。
【0020】
本発明に用いられる粉末油脂は、賦形力を高める観点から、糖質を含有することが好ましい。
上記糖質としては、特に限定されないが、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類、マルトペンタオース等の四糖類、オリゴ糖、デキストリン、デンプン等の多糖類、増粘多糖類、糖アルコール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、二糖類、三糖類、多糖類が好ましく、分散性が良好な粉末油脂を得ることができる点から、デキストリンがより好ましい。
【0021】
デキストリンは、デンプンを化学的又は酵素的方法により低分子化したデンプン部分加水分解物であり、市販品等を使用できる。デンプンの原料としては、例えば、コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦等が挙げられる。デキストリンとして具体的には、水あめ、粉あめ、マルトデキストリン、サイクロデキストリン、焙焼デキストリン、分岐サイクロデキストリン、難消化性デキストリン等が挙げられる。デキストリンのDEは、特に限定されないが、5~40が挙げられ、乾燥粉末化前の乳化液の粘度が高くなり過ぎず、良好な粉末油脂を得ることができる点から、10~35が好ましい。DE(Dextrose Equivalent)とは、デキストリンの構成単位であるグルコース残基の鎖長の指標となるものであり、デキストリン中の還元糖の含有量(%)を示す値である。値が大きいほどデキストリンの鎖長は短くなる。DE値はウィルシュテッターシューデル法により測定することができる。
【0022】
デンプンとしては、例えば、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、緑豆デンプン、サゴデンプン、コーン、ワキシーコーン、馬鈴薯、タピオカ等を原料とし、これをエーテル化処理したカルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプンや、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプン等が挙げられる。
増粘多糖類としては、例えば、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、トラガントガム、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチン等が挙げられる。
【0023】
本発明に用いられる粉末油脂における糖質の配合量は、特に限定されないが、配合量が多くなれば油脂の賦形力も高くなる。
【0024】
本発明に用いられる粉末油脂には、本発明の効果を損なわない範囲内において、前記の成分以外の他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、特に限定されないが、例えば、油脂の劣化を抑制する酸化防止剤、乳タンパク質を配合した場合に再溶解時の分散性を高めるリン酸塩や、着色料、フレーバー等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いられる粉末油脂の製造方法は、特に限定されない。好ましくは、本発明に用いられる粉末油脂は、油脂、水、及び必要に応じて他の成分を配合して水中油型乳化物を調製し、その後水中油型乳化物を乾燥粉末化することによって製造することができる。
【0026】
水中油型乳化物を乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法等を用いることができる。これらの中でも、噴霧乾燥法によって得られる噴霧乾燥型粉末油脂が好ましい。
【0027】
水中油型乳化物は、水相と、油脂を含む油相を混合して調製することができる。例えば、次の乳化工程及び均質化工程によって調製することができる。
【0028】
乳化工程では、各原材料を乳化機の撹拌槽に投入して撹拌混合する。水とその他の原材料の配合比は、特に限定されないが、例えば、油脂及び配合する場合にはその他の原材料を前記のような配合範囲とし、これらの合計量100質量部に対して水50~200質量部の範囲内にすることができる。各原材料の配合手順は、特に限定されないが、例えば、糖質、タンパク質等を配合する場合にはこれらの水溶性成分を水に室温で分散後、加熱下に攪拌し、あるいは当該水溶性成分を加熱した水に分散、攪拌して完全に溶解させ水相とした後、撹拌槽に設置されたホモミキサー等の攪拌装置で攪拌しながら、加熱溶解させた油相を滴下して乳化することができる。乳化剤を配合する場合には、通常は、油溶性乳化剤は油相に、水溶性乳化剤は水相に配合する。
【0029】
均質化工程では、乳化工程において得られた乳化液を圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、市販の圧力式ホモジナイザーを用いて、10~200kgf/cm2程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。なお、乾燥粉末化前において加熱殺菌工程を設けてもよい。
【0030】
次に、噴霧乾燥法によって乾燥粉末化する場合には、均質化した乳化液を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。噴霧乾燥された粉末は、噴霧乾燥機の槽内底部に堆積されるので、該粉末を取り出すことによって、粉末油脂を製造することができる。
【0031】
上記の通り、本発明に用いられる粉末油脂は水中油型乳化物を乾燥したものであり、水に添加すると元の水中油型乳化物となり、油滴が再分散した状態となる。
本発明に用いられる粉末油脂の水に溶解したときのメディアン径は、特に限定されないが、例えば、0.3~1.8μmである。マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料やフィリング素材への分散性が向上し、これらの中での乳化安定性が向上することで冷凍耐性の効果をより発揮できる観点から、メディアン径は0.5~1.5μmが好ましく、0.5~1.3μmがより好ましく、0.3~1.0μmがさらに好ましい。
【0032】
ここでメディアン径は、粉末油脂を水に溶解させて、水分散液中の油滴の粒度分布をレーザー回折散乱法によって測定し、粒度分布から算出する。具体的には、島津製作所製SALD-2300湿式レーザー回折装置等の粒度分布測定装置により体積基準として測定する。
【0033】
(フィリング素材用冷凍耐性付与剤およびフィリング素材)
本発明のフィリング素材用冷凍耐性付与剤は、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材用冷凍耐性付与剤であって、粉末油脂を含む。
【0034】
本発明において、マヨネーズ様調味料としては、マヨネーズの日本農林規格には該当しないが、風味、外観、物性、使用目的などがマヨネーズに類似するものが挙げられ、半固体状ドレッシング等が含まれる。
【0035】
マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料において、油脂としては、食用植物油脂等であれば特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、コーン油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、エゴマ油等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料に使用される食酢もしくはかんきつ類の果汁は、特に限定されず、食酢としては、例えば、米や麦などを原材料とする穀物酢、リンゴやぶどうなどを原材料とする果実酢、梅酢、もろみ酢などの醸造酢等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料に使用される卵類としては、例えば、全卵、卵黄から選ばれる少なくとも1種、およびこれらと卵白を組み合わせたものを使用することができる。卵黄としては、卵類を割卵し卵白と分離して得られた生卵黄、生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、濾過処理、乾燥処理、酵素処理、脱糖処理、脱コレステロール処理、食塩または糖類との混合処理から選ばれる少なくとも1種の処理を施したもの等を挙げることができ、その形態は液状、粉状のいずれであってもよい。卵黄の働きは、主に乳化作用、風味への影響、色調への影響である。
マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料には、上記した原材料以外に、他の原材料を配合することができる。原材料はマヨネーズの場合は日本農林規格の定めに従うが、マヨネーズ様調味料の場合は各種の原材料が使用できる。例えば、たん白質やその加水分解物、食塩、砂糖類、はちみつ、アミノ酸、香辛料、香辛料抽出物、クエン酸等の酸味料、乳化剤、着色料、糊料、酸化防止剤、香料、糖質、増粘剤や、澱粉、加工澱粉、澱粉分解物などの澱粉類等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いることができる。工業スケールの生産においては、例えば、水溶性の原材料を水に加えて撹拌、混合し水相を調製する。水相は、原材料の均一な分散、溶解、および殺菌を目的として、必要に応じて加熱する。そこへ油脂を添加しながらホモミキサーなどで予備乳化を行い、その後、コロイドミルなどを用いて均質化する。水相を加熱した場合には、その後、水相を常温程度まで冷却し、別途に殺菌された卵類と、別途に調製された油脂を加えて乳化してもよい。乳化した後、ボトル容器やガラス容器などに充填密封し、製品とされる。
【0037】
本発明のフィリング素材用冷凍耐性付与剤およびフィリング素材は、前記に説明した粉末油脂を含むことで、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料に冷凍耐性を付与する。
マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料は、酸性の水中油型乳化組成物である。酸性のため、かびや細菌の繁殖による腐敗が進行しにくいことから、その流通や保管に際して冷凍することは少なかった。しかし近年、野菜やサラダにかける、和えるなどの代表的な用途以外にも、その用途が拡大され、各種の冷凍食品にも使用されている。家庭用の冷凍食品だけではなく、業務用の冷凍食品、スーパーやコンビニのバックヤードで解凍して店頭に並べられる冷凍食品への使用も進んでいる。また、各家庭においても、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を用いた食品を冷凍保存し、解凍あるいは温めて食することが行われている。このように、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を他の腐敗しやすい食品に含む冷凍食品としたり、冷凍を要する食材の主包装に別添したりして長期間保存することが多くなってきている。しかし、酸性の水中油型乳化組成物であるマヨネーズまたはマヨネーズ様調味料は通常、凍結されると油脂の結晶化および針状結晶の成長により乳化膜が破壊され、解凍後に合一して油分離が起きてしまう。それらが冷凍食品に用いられる場合、冷凍保存および解凍中に乳化破壊が発生して、油分離が著しくなり、それにより風味や外観等が悪化すると商品価値が損なわれてしまう。しかし本発明の冷凍耐性付与剤である粉末油脂を添加することで、冷凍保存後に解凍しても乳化状態の破壊を抑制できるため、流通時や保管時に冷凍される、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有する冷凍食品、冷凍を要する食材の主包装に別添したものや、その他、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を単独で冷凍保存したものについて、解凍後の使用、加工等を可能とする。
フィリング素材を有する食品の新鮮さや風味を保つため、フィリング素材を充填等により含ませて食品としたまま冷凍流通し、解凍後に店頭で販売される場合、マヨネーズやマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材においては、冷解凍すると、マヨネーズやマヨネーズ様調味料の乳化が破壊され、前記したように油分離が起きてしまい、それにより風味や外観等が悪化すると商品価値が損なわれてしまう。しかし本発明の冷凍耐性付与剤である粉末油脂を添加することで、冷凍保存後に解凍しても乳化状態の破壊を抑制できる。
【0038】
本発明の冷凍耐性付与剤が用いられるフィリング素材としては、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含んでいれば、特に限定されないが、例えば、卵フィリング、ポテトサラダフィリング、カボチャサラダフィリング、マカロニサラダフィリング等が挙げられる。
【0039】
フィリング素材を用いた食品としては、サンドウィッチ等の食材パン等が挙げられる。
【0040】
本発明の冷凍耐性付与剤をフィリング素材に添加する方法は、特に限定されず、粉末油脂をマヨネーズまたはマヨネーズ様調味料とは別々にフィリング素材へ添加することを妨げないが、冷凍耐性を付与する点からマヨネーズまたはマヨネーズ様調味料に添加することが好ましい。
【0041】
本発明の冷凍耐性付与剤のフィリング素材への配合量は、特に限定されないが、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有するフィリング素材や、このフィリング素材を有する食品を冷解凍してもこれに含まれる油脂の分離を抑制し、冷凍耐性を付与することができる点から、その下限はフィリング素材の全量(添加する粉末油脂を除く。)に対して1.5質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましく、2.5質量%以上がさらに好ましい。フィリング素材の呈味性確保の観点から、その上限は50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
本発明のフィリング素材は、粉末油脂および、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料を含有する。
本発明のフィリング素材は、粉末油脂を添加することで、冷凍保存後に解凍してもマヨネーズまたはマヨネーズ様調味料に含まれる油脂の乳化状態の破壊を抑制できる。
粉末油脂、マヨネーズまたはマヨネーズ様調味料、およびフィリング素材等の詳細については、以上に説明した内容が参照される。
【実施例0043】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(粉末油脂の作製)
実施例および比較例では次の手順により粉末油脂を作製した。
油脂を70℃に調温後、配合する場合には乳化剤を添加し油相を調製した。水を60℃に調温後、賦形剤等、配合する場合にはカゼインナトリウム、カゼイン加水分解物、またはカゼインカリウムを添加し、水相を調製した。
水相を60℃に維持し、水相をホモミキサーで攪拌しながら油相の全量を添加し、水中油型に乳化させた。これにより、表1の全配合100質量部に対し、50質量部の水を含有する乳化液を得た。
その後、得られた乳化液を、圧力式ホモジナイザーを用いて10~200kgf/cm2の圧力で処理し、均質化した。
この均質化した乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥することにより粉末化して粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度210℃)。なお、表1はスプレードライ後の粉末油脂の配合組成を示している。これらの粉末油脂は、以下の飲食品の原料に用いた。
【0044】
以下の各官能評価において、パネルは、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テスト、日本電色工業製SE6000等の色差測定装置による色差ΔE=0.8の識別テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20~50代の男性6名、女性9名を選抜した。
【0045】
[メディアン径]
実施例の粉末油脂を水に溶解したときの油滴径(メディアン径)について、島津製作所製SALD-2300湿式レーザー回折装置を用いて測定した。
【0046】
(フィリング素材の評価)
[冷凍耐性試験]
実施例1~11では粉末油脂、比較例2ではグリセリンを表1に記載の量で卵フィリング素材またはポテトフィリング素材に添加、混合し(比較例1ではこれらのいずれも添加しない。)、-20℃で24時間冷凍し、5℃の冷蔵室にて12時間または25℃の恒温槽にて2時間解凍した実施例および比較例の卵フィリング素材またはポテトフィリング素材における油脂の分離について、以下の基準で評価した。
評価基準
◎+:油脂の分離がない
◎:油脂の分離がほとんどない
○:油脂の分離が少しあるが、問題ない程度
△:油脂の分離がある
×:油脂の分離がかなりある
【0047】
[喫食時の評価]
実施例1~11では粉末油脂、比較例2ではグリセリンを表1に記載の量で卵フィリング素材またはポテトフィリング素材に添加、混合し(比較例1ではこれらのいずれも添加しない。)、-20℃で24時間冷凍し、5℃の冷蔵室にて12時間で解凍した実施例および比較例の卵フィリング素材またはポテトフィリング素材を喫食し、パネル15名のうち「風味が良好」と回答した人数によって、以下の基準で評価した。
評価基準
◎:15名中12名以上が、風味が良好と評価した。
〇:15名中8名~11名が、風味が良好と評価した。
×:15名中7名以下が、風味が良好と評価した。
【0048】
(サンドウィッチの評価)
[冷凍耐性試験]
実施例1~11では粉末油脂、比較例2ではグリセリンを表1に記載の量で卵フィリング素材に添加、混合し(比較例1ではこれらのいずれも添加しない。)、厚さ10mmにカットした食パンに挟み、サンドウィッチを作製した。-20℃で24時間保管後、5℃の冷蔵室にて12時間または25℃の恒温槽にて2時間で解凍した実施例および比較例のサンドウィッチにおける油脂の分離について、以下の基準で評価した。
評価基準
◎+:油脂の分離がない
◎:油脂の分離がほとんどない
○:油脂の分離が少しあるが、問題ない程度
△:油脂の分離がある
×:油脂の分離がかなりある
【0049】
[喫食時の評価]
実施例1~11では粉末油脂、比較例2ではグリセリンを表1に記載の量で卵フィリング素材に添加、混合し(比較例1ではこれらのいずれも添加しない。)、厚さ10mmにカットした食パンに挟み、サンドウィッチを作製した。-20℃で24時間保管後、5℃の冷蔵室にて12時間で解凍した実施例および比較例のサンドウィッチを喫食し、パネル15名のうち「風味が良好」と回答した人数によって、以下の基準で評価した。
評価基準
◎:15名中12名以上が、風味が良好と評価した。
〇:15名中8名~11名が、風味が良好と評価した。
×:15名中7名以下が、風味が良好と評価した。
【0050】
上記評価の結果を表1に示す。
【0051】