IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大阪チタニウムテクノロジーズの特許一覧

特開2025-9108溶融塩電解時の副生気体吸引方法および溶融塩電解槽
<>
  • 特開-溶融塩電解時の副生気体吸引方法および溶融塩電解槽 図1
  • 特開-溶融塩電解時の副生気体吸引方法および溶融塩電解槽 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009108
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】溶融塩電解時の副生気体吸引方法および溶融塩電解槽
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/00 20060101AFI20250110BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C25C7/00 302B
C25C7/06 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111876
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】奥田 優也
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058BA05
4K058CB03
4K058DD27
4K058EB13
4K058ED03
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、オーステナイト系ステンレス鋼素材の弁体よりも溶融塩電解により高温下で副生された気体による腐食に耐えることができ、弁体作動時における高い動作円滑性を兼ね備えた弁体を有する副生気体吸引方法および溶融塩電解槽を提供することである。
【解決手段】本発明に係る副生気体吸引方法は、溶融塩電解により金属を製造する際に副生される気体を吸引する方法であって、カーボン材料から成る弁体を有する吸引圧制御弁を介して前記気体を吸引する。この副生気体吸引方法によれば、溶融塩電解時に副生した気体に対する弁体の耐腐食性が著しく向上することが明らかとなった。また、弁体作動時の動作が円滑になることが確認された。このため、本発明に係る副生気体吸引方法によれば、弁体の使用可能期間のさらなる延長を実現することが可能である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩電解により金属を製造する際に副生される気体を吸引する方法であって
カーボン材料から成る弁体を有する吸引圧制御弁を介して前記気体を吸引する
溶融塩電解時の副生気体吸引方法。
【請求項2】
前記弁体が板形状である
請求項1に記載の溶融塩電解時の副生気体吸引方法。
【請求項3】
前記弁体が、炭素繊維強化炭素複合材料から成る
請求項1または2に記載の溶融塩電解時の副生気体吸引方法。
【請求項4】
前記弁体が、表面処理加工を施した炭素繊維強化炭素複合材料から成る
請求項1または2に記載の溶融塩電解時の副生気体吸引方法。
【請求項5】
前記気体が、塩素ガスである、請求項1に記載の副生気体吸引方法。
【請求項6】
電解室と、
前記電解室から延びる気体吸引孔を開閉する、カーボン材料から成る弁体を有する吸引圧制御弁と
を備える溶融塩電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩電解により金属化合物から金属を回収する際に副生される気体の吸引方法に関する。また、本発明は、溶融塩電解に使用される溶融塩電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融塩電解は、水溶液電解では製造不可能な金属の製造が可能であるため、工業的によく用いられている。例えば、金属チタンは、工業的にはクロール法によって製造されたスポンジ状の金属チタン(以下、「スポンジチタン」と称することがある。)をもとに製造されている。そして、このクロール法によるスポンジチタンの製造工程は、塩化蒸留工程、還元分離工程、破砕工程及び電解工程の四工程に大別される。これらの工程の一つである電解工程では、四塩化チタンを金属マグネシウムで還元してスポンジチタンを製造する還元工程において副生される塩化マグネシウムを用いて溶融塩電解を行うことにより金属マグネシウムを回収する。この電解工程において用いられる溶融塩電解槽は、溶融塩の電気分解を行う電気分解室と、溶融塩の電気分解により精製した金属マグネシウムを回収するためのメタル回収室から構成されている。そして、溶融塩電解槽内に塩化マグネシウムを投入し、電気分解室内で電気分解を行うことで金属マグネシウムと塩素ガスを生成する。この場合において、金属マグネシウムを生成する際に副生する塩素ガスは電気分解室内を微負圧環境下に調整することで塩素ガス吸引配管を通じて回収される。このように電気分解室を微負圧に保つためには、吸引側の配管内で制御される吸引圧制御弁が非常に重要となる。過去に、複数の電解槽から発生する塩素ガスの吸引圧を制御するために、電気分解室に塩素ガス吸引配管の支管が設けられており、本管に設けられた吸引機により支管を介して各電解槽を一括吸引することで、各電解槽の電気分解室を負圧に保つ溶融塩電解方法が検討されてきた。例えば、特開平9-125281号公報には、各支管に空々式ポジショナを持つゲート式自動弁をガス輸送系統と、複数の電解槽における塩素ガスの吸引圧力を検出し、各吸引圧力が目標値に管理されるように、各支管に設けられた自動弁の開度を制御する制御系統とを具備している溶融塩装置が記載されている(特開平9-125281号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-125281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、溶融塩電解に用いられる吸引圧制御弁の弁体素材にはSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼素材を使用するのが主流である。しかし、弁体素材に前記ステンレス鋼素材を使用した吸引圧制御弁は、高温下で副生された気体(上述の例においては塩素ガスに相当)により腐食されるという問題が生じていた。一般に、溶融塩電解槽における吸引圧制御弁は副生気体が発生する電気分解室の上方に設置されている場合が多いため、腐食の進行により脆弱化した弁体素材にひびや割れが生じることで、弁体素材の一部が電気分解室内に落下し、その一部が精製された金属と接触することで品質汚染となるリスクがあった。また、上記弁体の腐食が進行すると、その弁体の作動時において、腐食により損耗した弁体表面と気体吸引孔内の他の部品(例えば、パッキン部など)との間で引っ掛かりが生じ、弁体の円滑な動作が損なわれていた。この動作不良により、吸引圧制御弁が適切な圧力制御を行うことができなくなり、電気分解室内の圧力を適切な微負圧環境に保つことができなくなっていた。そのため、電気分解室内の圧力が目標値よりも強い負圧環境下となった場合は、大気を電気分解室内に吸引してしまい、その吸引された大気に含まれる酸素や水分と電気分解室内に溶融している金属とが反応することで電力効率の低下および溶融塩電解により得られる金属純度の低下を招いていた。一方で、電気分解室内の圧力が目標値よりも正圧環境下になった場合は、溶融塩電解により副生された気体が溶融塩電解槽の外部へ漏洩してしまうリスクがあった。また、溶融塩電解の性質上、前記副生気体の吸引とともに電解槽中の金属化合物もダストとして吸引されることがあり、その吸引されたダストが腐食した弁体表面に堆積することで強固な固着物が形成されることがある。このことは、弁体の深刻な動作不良につながり、ひいては吸引圧制御弁が適切な圧力制御を行うことができなくなる。
【0005】
以上のことから、弁体の腐食が発覚すると速やかに弁体の交換作業を行う必要があった。このため、弁体の腐食は、製造現場において製造効率の悪化や製造コストの増加の要因となっていた。したがって、従来よりも副生気体に対して耐腐食性が高く使用可能期間(以下、「弁体ライフ」と称することがある。)が長い弁体を有する副生気体吸引方法および溶融塩電解槽が求められている。
【0006】
本発明の課題は、オーステナイト系ステンレス鋼素材の弁体よりも溶融塩電解により高温下で副生された気体による腐食に耐えることができ、弁体作動時における高い動作円滑性を兼ね備えた弁体を有する副生気体吸引方法および溶融塩電解槽を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1局面に係る副生気体吸引方法は、溶融塩電解により金属を製造する際に副生される気体を吸引する方法であって、カーボン材料から成る弁体を有する吸引圧制御弁を介して前記気体を吸引する。
【0008】
本願発明者の鋭意検討の結果、この副生気体吸引方法によれば、弁体にオーステナイト系ステンレス鋼素材を使用した吸引圧制御弁を介した副生気体吸引方法と比べて、溶融塩電解時に副生した気体に対する弁体の耐腐食性が著しく向上することが明らかとなった。また、弁体作動時の動作が円滑になることが確認された。このため、本発明の第1局面に係る副生気体吸引方法によれば、弁体の使用可能期間のさらなる延長を実現することが可能である。
【0009】
また、本発明の第1局面に係る副生気体吸引方法は、前述の副生気体が塩素ガスである場合に特に有効に機能する。
【0010】
本願発明者の鋭意検討の結果、この副生気体吸引方法によれば、溶融塩電解時に副生した塩素ガスに対する弁体の耐腐食性が著しく向上することが明らかとなった。そのため、塩素ガスを伴う溶融塩電解時においても、弁体の使用可能期間のさらなる延長を実現することが可能となる。
【0011】
本発明の第2局面に係る副生気体吸引方法は、第1局面に係る副生気体吸引方法であって、前記弁体が板形状である。
【0012】
上記の構成によれば、電気分解室内の圧力を適切な微負圧環境下に保つことが可能となる。また、上記の構成によれば、弁体の交換あるいは調整などの整備作業を容易に行うことが可能となる。さらに、板形状の弁体は、他の形状の弁体よりも製造しやすい形状であることから、比較的低コストで製造することができる。そのため、板形状の弁体を購入する際の部材費を抑えることができる。
【0013】
本発明の第3局面に係る副生気体吸引方法は、第1局面または第2局面に係る副生気体吸引方法であって、前記弁体が炭素繊維強化炭素複合材料(以下、「C/Cコンポジット」と称することがある。)から成る。
【0014】
本願発明者の鋭意検討の結果、この炭素繊維強化炭素複合材料から成る弁体を用いた副生気体吸引方法によれば、他のカーボン材料、例えば、黒鉛成形材などから成る弁体に比べ、弁体の靭性がさらに良好となる。このため、弁体の使用可能期間を更に延長できる。
【0015】
本発明の第4局面に係る副生気体吸引方法は、第1局面から第3局面までのいずれか一局面に係る副生気体吸引方法であって、前記弁体が表面処理加工を施した炭素繊維強化炭素複合材料(以下、「表面処理加工を施したC/Cコンポジット」と称することがある。)から成る。
【0016】
本願発明者の鋭意検討の結果、この表面処理加工を施した炭素繊維強化炭素複合材料から成る弁体を用いた副生気体吸引方法によれば、弁体作動時の動作が更に円滑になることが確認された。このため、弁体の使用可能期間を更に延長できる。また、弁体表面が円滑になることで弁体表面にダストが堆積するのを抑制することができる。
【0017】
本発明の第5局面に係る溶融塩電解槽は、電解室および吸引圧制御弁を備える。吸引圧制御弁は、前記電解室から延びる気体吸引孔を開閉する弁体を有する。その弁体は、カーボン材料から成っている。
【0018】
本願発明者の鋭意検討の結果、この溶融塩電解槽によれば、従来の溶融塩電解槽では耐えきれなかった腐食力を有する副生気体を伴う金属化合物の溶融塩電解を可能とする。このため、高い腐食力を有する副生気体を伴う金属の製造が可能となる。また、その金属を製造する際の製造効率の向上および製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る副生気体吸引方法および溶融塩電解槽の実施形態を説明するための溶融塩電解装置の概略断面図である。
図2】本発明に係る副生気体吸引方法および溶融塩電解槽の実施形態を説明するための吸引圧制御弁の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、図1および2を参考にしながら詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではない。また、図1および2は、本発明の実施形態等についての理解を助けるものであり、図示された部材の大きさや位置関係等は必ずしも正確ではない場合がある。さらに、本明細書において、「上方」は、図1において矢印で示すように、溶融電解槽110の底壁112側から上蓋120側へ向かう方向を意味し、「下方」は、上蓋120側から溶融電解槽110の底壁112側へ向かう方向を意味する。
【0021】
本発明の実施の形態に係る副生気体吸引方法は、金属化合物から溶融塩電解により金属を製造する際に副生される気体を吸引する方法である。金属化合物から溶融塩電解により金属を製造するために、図1の示されるような溶融塩電解槽110が用いられる。以下、溶融塩電解装置100について詳述する。
【0022】
<溶融塩電解装置>
図1に示す溶融塩電解装置100は、溶融塩電解槽110、陽極130、陰極140、上蓋120、電気分解室150、およびメタル回収室160を備える。なお、ここで陽極と陰極の間に複数の複極が設けられていてもよい。
【0023】
1.溶融塩電解槽
溶融塩電解槽110は、図1に示されるように、底壁部112と、該底壁に連結されて上方に延在した2対の側壁114とで構成される。この溶融塩電解槽110には、その内部に供給された金属塩化物を含む溶融塩からなる溶融塩浴Bfが貯留される。また、溶融塩電解槽110は、第1の隔壁116および第2の隔壁117により電気分解室150およびメタル回収室160に区画されている。電気分解室150内で溶融塩の電気分解により生成された溶融金属が濃度勾配によってメタル回収室160に送られるとともに、溶融塩がメタル回収室160から電気分解室150に送られる。このため、溶融塩浴内において溶融金属と溶融塩の循環が起こる。すなわち、溶融塩電解装置100は、第1の隔壁116と第2の隔壁117との間に流通口115を形成したことで、矢印Aに示す溶融塩浴の流動(電気分解室150からメタル回収室160への流れ)を確保することができる。また、第2の隔壁117の下面側にも溶融塩浴の流動が可能な通路が形成されており、矢印Bの流動(メタル回収室160から電気分解室150への流れ)を確保することができる。
【0024】
2.陽極
陽極130は、多孔質構造を有する炭素電極である。なお、この炭素電極は、炭素原料(例えば、黒鉛、コークス、ピッチなど)を成形した後に焼成することによって作製される。
【0025】
3.陰極
陰極140は、例えば、鋼陰極である。
【0026】
4.上蓋
上蓋120は、溶融塩浴Bfが高温であるため、溶融塩電解槽110内と外部とを断熱する役割を果たす。また、上蓋120を載置することにより溶融塩電解槽110内を閉空間としている。また、上蓋120には、第1の気体吸気孔124が設けられている。さらに、上蓋120には、第2の気体吸気孔126と、給排孔128とが設けられている。
【0027】
(1)第1の気体吸気孔
第1の気体吸気孔124は、電気分解室150内で行われる電気分解により生成した塩素ガスを回収することに用いられる。そのため、第1の気体吸気孔124は、電気分解室150が位置する領域に設けられている。また、図1に示されるように、第1の気体吸気孔124からは、溶融塩の電気分解により陽極130から発生した気体が回収される際の通り道となる第1の気体吸引配管171が、第1の気体吸気孔124に対して上方に延びている。そして、第1の気体吸引配管171上に、第1の吸引圧制御弁170が、第1の気体吸引配管171の内部通路を開閉可能に設けられている。
【0028】
(2)第2の気体吸気孔
第2の気体吸気孔126は、電気分解で発生した気体のうち、第1の気体吸気孔124で回収されずにメタル回収室160へ流れた残りの気体を回収することに用いられる。そのため、第2の気体吸気孔126は、メタル回収室160が位置する領域に設けられている。また、図1に示されるように、第2の気体吸気孔126からは、第2の気体吸引配管181が、第2の気体吸気孔126に対して上方に延びている。第2の気体吸引配管181は、第1の気体吸気孔124で回収されずにメタル回収室160へ流れた残りの気体が回収される際の通り道となる。そして、第2の気体吸引配管181上に、第2の吸引圧制御弁180が、第2の気体吸引配管171の内部通路を開閉可能に設けられている。
【0029】
(3)吸引圧制御弁
第1の吸引圧制御弁170および第2の吸引圧制御弁180は、溶融塩電解時に陽極130から生じる塩素ガスが漏洩することを防止するために、外部環境に対して溶融塩電解槽110内を微負圧環境下に調整する役割を担っている。以下、図2を参照しながら第1の吸引圧制御弁170の構成について説明する。なお、本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽における第2の吸引圧制御弁180の構成は、図2に示される吸引圧制御弁170と同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0030】
吸引圧制御弁170は、主に弁体210と、バルブボディー220と、ハンドル部230とを備える。本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽の弁体210は、オーステナイト系ステンレス鋼素材よりも優れた耐腐食性を有するカーボン材料から成る。これにより、金属の製造時において副生される気体、例えば、クロール法における電解工程で生成される塩化マグネシウム(MgCl)から金属マグネシウム(Mg)を再生する際に副生される塩素ガス(Cl)などに対して、オーステナイト系ステンレス鋼素材の弁体よりも優れた耐腐食性を発揮する。
【0031】
なお、ここでいうカーボン材料としては、特に限定はされないが、炭素繊維、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス状カーボン(ガラス状炭素、グラッシーカーボン)、黒鉛成形材、炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)、並びにこれらの材料に表面処理加工を施したものなどが挙げられる。その中でも、本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽においては、吸引圧制御弁の弁体に黒鉛成形材料を使用することが好ましく、炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)を使用することがさらに好ましく、表面処理加工を施した炭素繊維強化炭素複合材料(表面処理加工を施したC/Cコンポジット)を使用することが特に好ましい。
【0032】
上述の表面処理加工は、特に限定はされないが、化学蒸着法(CVD法)や化学気相含浸法(CVI法)により炭素繊維強化炭素複合材料表面に熱分解炭素による被膜を形成させることが好ましい。また、前述の表面処理加工により炭素繊維強化炭素複合材料表面に形成される被膜の膜厚は、1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明の実施の形態に係る副生気体吸引方法は、本発明の実施の形態に係る溶融電解槽を用いた副生気体の吸引方法である。そのため、本発明の実施の形態に係る副生気体吸引方法は、従来のオーステナイト系ステンレス鋼素材から成る弁体を使用した方法よりも優れた耐腐食性を発揮する。
【0034】
(4)給排孔
給排孔128は、電気分解室150内における電気分解により生成した溶融金属の回収や、溶融塩電解槽110内へ溶融塩を供給するために用いられる。そのため、給排孔128は、メタル回収室160が位置する領域に設けられる。
【0035】
5.電気分解室
電気分解室150では、陽極130と陰極140との間に所定の電圧を印加して溶融塩の電気分解を行うことにより溶融金属が生成される。例えば、溶融塩が塩化マグネシウムである場合には、塩化マグネシウムの電気分解により溶融金属である金属マグネシウムと副生気体である塩素ガスが生成される。なお、この場合には、溶融塩として上記の塩化マグネシウムの他にも、支持塩として、塩化カルシウム(CaCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化カルシウム(CaF)などが混合されてもかまわない。
【0036】
6.メタル回収室
メタル回収室160は、電気分解室150と連通している。このため、メタル回収室160では、電気分解室150で行われる電気分解により生成した溶融金属を回収することができる。
【0037】
次に、本発明の実施の形態に係る溶融塩電解装置100により金属化合物から金属を生成する電解工程とともに詳述する。
【0038】
<電解工程>
電解工程では、溶融塩浴Bfに含有される金属化合物の電気分解を実施する。溶融塩浴Bfが、図1の矢印Aに示すように電気分解室150から流通口115を通ってメタル回収室160に流動し、図1の矢印Bに示すようにメタル回収室160から第2の隔壁117の下側を通って電気分解室150に流動する。電気分解室150では、溶融塩浴Bf中の金属化合物が電気分解されて、溶融金属と副生気体が生成される。この溶融金属は、溶融塩浴Bfの流動によってメタル回収室160に流入する。その後、溶融塩に対する比重の小さい溶融金属は、メタル回収室160の液面上方に浮上して溜まる。メタル回収室160で液面上方に浮上した溶融金属は、給排口128に回収用のパイプ等を挿通して回収される。
【0039】
また、上述の副生気体は、溶融塩電解時に陽極130から発生し、主に電気分解室150内に滞留する。このとき、第1の気体吸引配管171上に設けられている第1の吸引圧制御弁170が溶融塩電解槽110内の圧力を外部環境に対して微負圧環境に保つことで副生気体が溶融塩電解槽110の外部へ漏洩することを防止している。また、第1の吸引圧制御弁170が開状態となった際、電気分解室150内に滞留した副生気体は第1の気体吸気孔124を介して回収される。
【0040】
一方、前述において第1の気体吸気孔124を介して回収されずにメタル回収室160側へ移動してきた副生気体も存在する。この場合は、第2の気体吸引配管181上に設けられている第2の吸引圧制御弁180が溶融塩電解槽110内の圧力を外部環境に対して微負圧環境に保つことで副生気体が溶融塩電解槽110の外部へ漏洩することを防止している。また、第2の吸引圧制御弁180が開状態となった際、メタル回収室160内に滞留した副生気体が第2の気体吸気孔126を介して回収される。
【0041】
<本発明の実施の形態に係る副生気体吸引方法の特徴>
本発明の実施の形態に係る副生気体吸引方法によれば、上述のように溶融塩電解槽110内の電気分解室150から発生した副生気体を、第1の吸引圧制御弁170あるいは第2の吸引圧制御弁180により溶融塩電解槽110内の圧力を適切な微負圧環境に保つことで第1の気体吸気孔124あるいは第2の気体吸気孔126を介して回収することができる。また、本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽によれば、オーステナイト系ステンレス鋼素材よりも耐腐食性が高いカーボン素材から成る弁体210を有する吸引圧制御弁200を備えるため、腐食力の高い副生気体を伴う金属化合物の電気分解を可能にする。
【0042】
<変形例>
【0043】
(A)
先の実施形態では、溶融塩である塩化マグネシウムから溶融金属である金属マグネシウムを生成するための溶融塩電解装置に本願発明が適用されているが、他の金属化合物から純金属を再生する溶融塩電解装置に本願発明が適用されてもよい。
【0044】
(B)
先の実施形態では、上蓋120に第1の気体吸気孔124、第2の気体吸気孔126および給排孔128が設けられているが、上蓋120に第1の気体吸気孔124のみが設けられている場合、上蓋120に第1の気体吸気孔124および第2の気体吸気孔126が設けられている場合、上蓋120に第1の気体吸気孔124および給排孔128が設けられている場合などにおいても本願発明が適用されてもよい。
【0045】
(C)
先の実施形態では、第1の気体吸気孔124は電気分解室150が位置する領域に設けられているが、メタル回収室160が位置する領域に第1の気体吸気孔124が設けられている場合などの場合にも本願発明が適用されてもよい。
【0046】
(D)
先の実施形態では、第2の気体吸気孔126はメタル回収室160が位置する領域に設けられているが、電気分解室150が位置する領域に第1の気体吸気孔126が設けられている場合などの場合にも本願発明が適用されてもよい。
【0047】
(E)
先の実施形態における第1の吸引圧制御弁170および第2の吸引圧制御弁180は、それぞれ第1の気体吸引配管171上および第2の気体吸引配管181上に設けられていたが、第1の気体吸引配管171および第2の気体吸引配管181が設けられていない場合にも本願発明が適用されてもよい。この場合は、例えば、第1の吸引圧制御弁170および第2の吸引圧制御弁180は、第1の気体吸気孔124および第2の気体吸気孔126を開閉可能な位置に設けられる。
【0048】
(F)
先の実施形態では、第2の吸引圧制御弁180の構成が第1の吸引圧制御弁170の構成と同様であったが、第1の吸引圧制御弁170の構成と第2の吸引圧制御弁180の構成が異なる場合において本願発明が適用されてもよい。
【0049】
(G)
先の実施形態における第1の吸引圧制御弁170および第2の吸引圧制御弁180には、ゲート式自動弁が採用されているが、他の種類の吸引圧制御弁が採用されている場合に本願発明が適用されてもよい。
<実施例および比較例>
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例0050】
図1に示される溶融塩電解装置100を用いて上述の方法により、溶融塩電解質110内で塩化マグネシウムの電気分解を行って金属マグネシウムと塩素ガスを生成させた。該電気分解を360日継続して実施した後、該電気分解を終了した。その後、黒鉛成形材(かさ密度:1.77Mg/m、曲げ強度:43MPaの市販品)から成る弁体210の状態と腐食の進行度を確認した。その結果を表1に示した。
【実施例0051】
弁体210の構成材料にC/Cコンポジット(かさ密度:1.58Mg/m、曲げ強度:185MPaの市販品)を使用したこと以外は実施例1と同様に溶融塩電解装置100を操業した。その後、C/Cコンポジットから成る弁体210の状態と腐食の進行度を確認した。その結果を表1に示した。
【実施例0052】
弁体210の構成材料として、化学気相含浸法(CVI法)によりC/Cコンポジット表面に3μm厚の熱分解炭素による被膜を形成させた材料(表面処理加工を施したC/Cコンポジット(かさ密度:1.58Mg/m、曲げ強度:185MPaの市販されているC/Cコンポジットに対し、3μm厚の熱分解炭素による被膜を形成させたC/Cコンポジット)を使用したこと以外は実施例1と同様に溶融塩電解装置100を操業した。その後、表面処理加工を施したC/Cコンポジットから成る弁体210の状態と腐食の進行度を確認した。その結果を表1に示した。
【0053】
(比較例1)
弁体210の構成材料にオーステナイト系ステンレス鋼素材(以下、「ステンレス製の弁体」と称することがある。)を使用したこと以外は実施例1と同様に溶融塩電解装置100を操業した。その後、ステンレス製の弁体210の状態と腐食の進行度を確認した。その結果を表1に示した。
【0054】
以下に、実施例1~3および比較例1におけるそれぞれの弁体210の評価結果を示す。
【0055】
(評価項目)
・弁体の耐腐食性:上記電気分解後の弁体に錆などの腐食がないかを弁体使用前後の性状の画像比較により確認した。その結果は、ステンレス製の弁体の耐腐食性を100としたインデックス表示により示す。
・弁体の靭性:上記電気分解後の弁体にひびや割れがないかを使用後の弁体を目視および顕微鏡を用いた観察により確認した。その結果は、ステンレス製の弁体の靭性を100としたインデックス表示により示す。
・弁体の動作円滑性:上記電気分解中に弁体の開閉動作が円滑に行われているかを使用中の動作円滑性の評価を定期的に行った。評価は、エアー制御あるいは電動制御に対する弁体の作動速度を計測する事により確認した。その結果は、ステンレス製の弁体の動作円滑性を100としたインデックス表示により示す。
・弁体ライフ:ステンレス製の弁体ライフを100としたインデックス表示により示す。
【0056】
【表1】
【0057】
(評価基準)
ステンレス製の弁体についての各項目の評価結果を100とした時の相対評価値として記載している。
完全耐性:評価期間中に副生した気体の腐食による一切の錆や一部の損失が確認できなかったことを意味する。
上記検討により、ステンレス製の弁体(比較例1の場合)は、上記電気分解を開始してから5か月経過後には弁体全体に錆が生じていること、および、弁体の一部が腐食により損失していることが確認された。また、ステンレス製の弁体は、上記電気分解を開始してから3か月経過後に、弁体開閉時に引っ掛かりが生じることで弁体の動作円滑性が損なわれることが確認された。
【0058】
一方で、弁体の構成材料に黒鉛成形材を使用した弁体(実施例1の場合)は、上記電気分解を開始してから9か月経過後においても、弁体に腐食による錆や一部の損失が確認されなかったことに加え、弁体の動作円滑性にも問題がないことが確認された。
【0059】
また、弁体の構成材料にC/Cコンポジットを使用した弁体(実施例2の場合)は、上記電気分解を開始してから12か月経過後においても弁体に腐食による錆や一部の損失が確認されなかったことに加え、弁体の動作円滑性にも問題がないこと、および、黒鉛成形材を使用した弁体に比べて弁体の靭性が向上していることが確認された。
【0060】
さらに、弁体の構成材料に表面処理加工を施したC/Cコンポジットを使用した弁体(実施例3の場合)は、上記電気分解を開始してから15か月経過後においても弁体に腐食による錆や一部の損失が確認されなかったことに加え、弁体の動作円滑性にも問題がないこと、および、黒鉛成形材を使用した弁体に比べて弁体の靭性が向上していることが確認された。
【0061】
<まとめ>
本発明の実施の形態に係る副生気体吸引方法では、カーボン材料から成る弁体が用いられる。本願発明者の鋭意検討により、前述のカーボン材料から成る弁体は、従来のオーステナイト系ステンレス鋼素材を使用した弁体と比べて、溶融塩電解時に副生した気体による腐食環境下にも耐えうることが明らかとなった。また、カーボン材料から成る弁体は、従来の弁体よりも弁体作動時の動作が円滑になることが確認された。このことから、本発明の実施の形態に係る副生気体吸引方法によれば、従来方法よりも弁体の腐食損耗の発生が著しく減少することが明らかとなった。その結果、従来方法よりも弁体の交換作業の頻度が著しく減少することが明らかとなった。
【0062】
また、本願発明者の鋭意検討により、弁体素材にカーボン材料を使用する場合において、弁体素材に黒鉛成形材を使用した場合に比べて、炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)を使用した場合の方が、弁体の靭性がさらに向上することが明らかになった。このため、黒鉛成形材から成る弁体に比べて、炭素繊維強化炭素複合材料から成る弁体の使用可能期間が更に伸びることが明らかとなった。
【0063】
さらに、本願発明者の鋭意検討により、弁体素材に炭素繊維強化炭素複合材料を使用した場合に比べて、表面処理加工を施した炭素繊維強化炭素複合材料(表面処理加工を施したC/Cコンポジット)を使用した場合の方が、弁体表面が円滑になることで弁体表面にダストが堆積するのを抑制できることが明らかとなった。このため、炭素繊維強化炭素複合材料から成る弁体に比べて、表面処理加工を施した炭素繊維強化炭素複合材料から成る弁体の使用可能期間を更に延長できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0064】
100 溶融塩電解装置
110 溶融塩電解槽
112 底壁
114 側壁
115 流通口
116 第1の隔壁
117 第2の隔壁
120 上蓋
121 蓋裏面
124 第1の気体吸引孔
126 第2の気体吸引孔
128 給排孔
130 陽極
140 陰極
150 電気分解室
160 メタル回収室
170 第1の吸引圧制御弁
180 第2の吸引圧制御弁
171 第1の気体吸引配管
181 第2の気体吸引配管
A、B 矢印
Bf 溶融塩浴
210 弁体
220 バルブボディー
230 ハンドル部
図1
図2