IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2025-91087電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーター
<>
  • -電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーター 図1
  • -電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーター 図2
  • -電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーター 図3
  • -電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーター 図4
  • -電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーター 図5
  • -電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーター 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025091087
(43)【公開日】2025-06-18
(54)【発明の名称】電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーター
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20250611BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M3/155 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023206084
(22)【出願日】2023-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 尊衛
(72)【発明者】
【氏名】保立 尚史
(72)【発明者】
【氏名】照沼 智明
【テーマコード(参考)】
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5H730AS05
5H730BB13
5H730DD03
5H730DD04
5H730DD13
5H730FD61
5H770AA15
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770HA01X
5H770HA12X
5H770JA11W
5H770JA19X
(57)【要約】
【課題】
互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子にオン抵抗差がある場合でも簡易的な制御方法によって損失アンバランスを低減する。
【解決手段】
電力変換回路と制御部とを有する電力変換装置において、電力変換回路は、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子を有し、制御部は、制御状態として、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちの一部のみをオンさせる部分駆動モードと、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子の全部をオンさせる全部駆動モードとを有し、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちのオンさせる半導体スイッチング素子の対象を変更しながら部分駆動モードで制御しつつ、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のオン抵抗差に応じた所定の比率で全部駆動モードを挿入して制御する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチング素子を用いた電力変換回路と、前記半導体スイッチング素子のオン・オフを制御する制御部とを有する電力変換装置において、
前記電力変換回路は、前記半導体スイッチング素子として、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子を有し、
前記制御部は、制御状態として、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちの一部のみをオンさせる部分駆動モードと、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子の全部をオンさせる全部駆動モードとを有し、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちのオンさせる半導体スイッチング素子の対象を変更しながら前記部分駆動モードで制御しつつ、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のオン抵抗差に応じた所定の比率で前記全部駆動モードを挿入して制御することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記電力変換回路は、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子として、第1の半導体スイッチング素子と、前記第1の半導体スイッチング素子に並列に接続された第2の半導体スイッチング素子とを有し、
前記制御部は、前記制御状態として、前記第1の半導体スイッチング素子をオンさせ前記第2の半導体スイッチング素子をオフさせる第1のモードと、前記第1の半導体スイッチング素子をオフさせ前記第2の半導体スイッチング素子をオンさせる第2のモードと、前記第1の半導体スイッチング素子と前記第2の半導体スイッチング素子とを両方ともオンさせる第3のモードとを有し、前記第1のモードと前記第2のモードとを交互に繰り返しながら、前記第1の半導体スイッチング素子と前記第2の半導体スイッチング素子のオン抵抗差に応じた所定の比率で前記第3のモードを挿入して制御することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1の半導体スイッチング素子のオン抵抗が前記第2の半導体スイッチング素子のオン抵抗よりも大きく、
前記第3のモードにおいて、前記第1の半導体スイッチング素子で発生する損失が前記第2の半導体スイッチング素子で発生する損失よりも小さいことを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記制御部による前記部分駆動モードの制御中に前記所定の比率で前記全部駆動モードを挿入する制御は、前記オン抵抗差が所定の大きさ以上の場合に実行されることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記所定の比率は、予め計測された前記オン抵抗差に基づいて予め設定されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記電力変換回路は、直流電力を交流電力に変換する回路であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記電力変換回路は、交流電力を直流電力に変換する回路であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記電力変換回路は、直流電力を電圧の異なる直流電力に変換する回路であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の電力変換装置を有することを特徴とするエレベーター。
【請求項10】
半導体スイッチング素子を用いた電力変換回路と、前記半導体スイッチング素子のオン・オフを制御する制御部とを有する電力変換装置の制御方法において、
前記電力変換回路は、前記半導体スイッチング素子として、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子を有し、
前記制御部は、制御状態として、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちの一部のみをオンさせる部分駆動モードと、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子の全部をオンさせる全部駆動モードとを有し、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちのオンさせる半導体スイッチング素子の対象を変更しながら前記部分駆動モードで制御しつつ、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のオン抵抗差に応じた所定の比率で前記全部駆動モードを挿入して制御することを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーターに関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、半導体スイッチング素子であるパワー半導体素子のスイッチング動作によって、直流電力を交流電力に、もしくはその逆方向に、もしくは直流電力を電圧の異なる直流電力に電力変換する装置であり、エレベーターなどの多分野に適用されている。
【0003】
エレベーターに用いる電力変換装置にはパワー半導体素子として例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられている。IGBTには、複数のIBGTチップを一つのモジュールにしたIGBTモジュールと、IBGTチップ1つを一つのパッケージにしたディスクリートIGBTがある。
【0004】
エレベーターなどに用いる電力変換装置は運転/停止を繰り返す。このような運転方法は、パワー半導体素子のオン/オフ動作によって生じるパワー半導体素子の温度変化を増加させるので、パワー半導体素子の寿命の低下が懸念される。
【0005】
寿命の低下を抑制するために、ディスクリートIGBTを並列接続する方法がある。並列接続により流入する電流が分散し、1つのディスクリートIGBTに流れる電流が減少する。これにより、ディスクリートIGBTの温度変化を抑え、長寿命化することができる。
【0006】
また、電力変換装置の一種であるDC/DCコンバータに関する技術として、例えば特許文献1がある。特許文献1の要約および図3には、「並列接続されたスイッチング素子に分流バラツキを生じることなく、また、スイッチング周波数を増加させることなく小型なリアクトルを用いることのできるDC/DCコンバータを提供することを目的とする。」との記載、および、「半導体素子を互いに並列に接続された3個の半導体素子411、421、431で構成し、リアクトル5に印加される電圧の周波数がスイッチング素子のスイッチング周波数の3倍となるよう、3個のスイッチング素子411s、421s、431sのオンオフ制御を、スイッチング素子のスイッチング周期の1/3=120°だけ互いに位相をずらして行うようにした。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-213402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、IGBTなどの半導体スイッチング素子を並列接続した場合には、半導体スイッチング素子のオン抵抗が個体差によってそれぞれ異なることにより、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子の間に損失アンバランスが発生する。このような損失アンバランスが発生すると、それぞれの半導体スイッチング素子の温度変化に差が生じ、それにより互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子の間の寿命が異なることとなるので、長寿命化の妨げとなる。
【0009】
また、特許文献1では、互いに並列に接続された3個の半導体素子を120°だけ互いに位相をずらしてスイッチングする技術を開示しているが、この技術を用いた場合でも、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のオン抵抗に差がある場合には、それぞれの半導体スイッチング素子で発生する損失が異なることとなるため、先ほどの説明と同様に損失アンバランスが発生する。
【0010】
他には、損失アンバランス抑制のために、予め測定された半導体スイッチング素子のオン抵抗に基づいてオン抵抗の近いもののみを仕分けして用いる方法や、センサを用いてアンバランスを検出してアンバランスを抑制するよう制御する方法などが考えられる。しかしながら、それらの方法では、半導体スイッチング素子の選別によるコストの大幅な増加や、センサを用いてリアルタイムでアンバランスを検出して制御するための構成のためのコストの大幅な増加があるという問題がある。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子にオン抵抗差がある場合でも簡易的な制御方法によって損失アンバランスを低減できる電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明の電力変換装置/電力変換装置の制御方法は、半導体スイッチング素子を用いた電力変換回路と、前記半導体スイッチング素子のオン・オフを制御する制御部とを有する電力変換装置/電力変換装置の制御方法において、前記電力変換回路は、前記半導体スイッチング素子として、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子を有し、前記制御部は、制御状態として、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちの一部のみをオンさせる部分駆動モードと、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子の全部をオンさせる全部駆動モードとを有し、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちのオンさせる半導体スイッチング素子の対象を変更しながら前記部分駆動モードで制御しつつ、前記互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のオン抵抗差に応じた所定の比率で前記全部駆動モードを挿入して制御することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のエレベーターは、上記した電力変換装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子にオン抵抗差がある場合でも簡易的な制御方法によって損失アンバランスを低減できる電力変換装置、電力変換装置の制御方法、エレベーターを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の電力変換装置とそれを用いたエレベーターの一例を示す機能ブロック図。
図2】実施例1のコンバータの電力変換回路の一例を示す回路図。
図3】実施例1のインバータの電力変換回路の一例を示す回路図。
図4】実施例1の制御モードを説明する図。
図5】実施例1の制御方法の一例を説明するフローチャート。
図6】実施例2のDC/DCコンバータの一例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。各図、各実施例において、同一または類似の構成要素については同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【実施例0017】
図1は、実施例1の電力変換装置とそれを用いたエレベーターの一例を示す機能ブロック図である。
【0018】
実施例1のエレベーター101は、例えば、コンバータ110と、インバータ111と、フィルタ回路103、104と、モータ108と、ロープ105と、かご106と、おもり107とを有する。
【0019】
本実施例のエレベーター101では、系統102からの交流電力がフィルタ回路103を介してコンバータ110に入力され、コンバータ110により直流電力に変換される。そして、変換された直流電力は、インバータ111により交流電力に変換される。そして、変換された交流電力は、フィルタ回路104を介してモータ108に入力され、モータ108を駆動する。
【0020】
ロープ105の一方側には、かご106が接続されており、ロープ105の他方側には、かご106とつり合いをとるためのおもり107が接続されている。モータ108がロープ105を動かすことにより、エレベーター101のかご106を上下に移動させることができる。このように、モータ108の電力は、かご106を上下させるために消費される。
【0021】
本実施例の電力変換装置は、半導体スイッチング素子を用いた電力変換回路と、半導体スイッチング素子のオン・オフを制御する制御部とを有する。そして、本実施例の電力変換回路は、半導体スイッチング素子として、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子を有する。
【0022】
本実施例の電力変換装置の一例は、コンバータ110である。コンバータ110は、交流電力を直流電力に変換する回路である電力変換回路112と、電力変換回路112を制御するコンバータ制御部114とを有する。
【0023】
図2は、実施例1のコンバータの電力変換回路の一例を示す回路図である。
【0024】
コンバータ110の電力変換回路112は、上アームと下アームとで構成されたレグと、コンデンサ12とを有しており、ここでは一例として3相分のレグを有する例を示しているが、これに限られない。上アームと下アームのそれぞれは、例えばIGBTなどの半導体スイッチング素子10と、半導体スイッチング素子10に逆並列に接続されたダイオード11とを有する。
【0025】
本実施例では、各アームにおける半導体スイッチング素子10を、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子で構成した。具体的には、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子10として、第1の半導体スイッチング素子10Aと、第1の半導体スイッチング素子10Aに並列に接続された第2の半導体スイッチング素子10Bとを有する構成とした。第1の半導体スイッチング素子10Aと第2の半導体スイッチング素子10Bは、コンバータ制御部114によりそれぞれ独立にオン・オフが制御される。互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子は、複数のディスクリートIGBTを並列接続することで実現してもよいし、互いに並列に接続された複数のIGBTチップを有するIGBTモジュールで実現してもよい。
【0026】
本実施例の電力変換装置の他の例は、インバータ111である。図1に示すように、インバータ111は、直流電力を交流電力に変換する回路である電力変換回路113と、電力変換回路113を制御するインバータ制御部115とを有する。
【0027】
図3は、実施例1のインバータの電力変換回路の一例を示す回路図である。
【0028】
インバータ111の電力変換回路113も、コンバータ110の電力変換回路112と同様の構成を有しているので、詳細な説明は省略する。なお、第1の半導体スイッチング素子10Aと第2の半導体スイッチング素子10Bは、インバータ制御部115によりそれぞれ独立にオン・オフが制御される。
【0029】
図4は、実施例1の制御モードを説明する図である。
【0030】
本実施例の制御部であるコンバータ制御部114とインバータ制御部115は、制御状態として、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちの一部のみをオンさせる部分駆動モードと、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子の全部をオンさせる全部駆動モードとを有する。
【0031】
部分駆動モードは、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちのオンさせる半導体スイッチング素子の対象を変更しながら制御するモードである。したがって、部分駆動モードは、第1の半導体スイッチング素子10Aをオンさせ第2の半導体スイッチング素子10Bをオフさせる第1のモードと、第1の半導体スイッチング素子10Aをオフさせ第2の半導体スイッチング素子10Bをオンさせる第2のモードとを有する。そして、第1のモードと第2のモードとを交互に繰り返しながら制御する。
【0032】
また、全部駆動モードは、第1の半導体スイッチング素子10Aと第2の半導体スイッチング素子10Bとを両方ともオンさせる第3のモードを有する。
【0033】
ここで、第1の半導体スイッチング素子10Aのオン抵抗Ron1と第2の半導体スイッチング素子10Bのオン抵抗Ron2とが個体差により異なっており、Ron1>Ron2である場合を考える。
【0034】
第1のモードでは、第1の半導体スイッチング素子10Aのみがオンとなっているので、電流Iは第1の半導体スイッチング素子10Aの側を流れる。このときの損失P1は、P1=I・Ron1となる。
【0035】
第2のモードでは、第2の半導体スイッチング素子10Bのみがオンとなっているので、第1のモードと同じ大きさの電流Iが流れると仮定すると、電流Iは第2の半導体スイッチング素子10Bの側を流れる。このときの損失P2は、P2=I・Ron2となる。ここで、Ron1>Ron2なので、P2<P1となる。したがって、部分駆動モードだけでは損失アンバランスが生じてしまう。
【0036】
第3のモードでは、第1の半導体スイッチング素子10Aと第2の半導体スイッチング素子10Bの両方ともオンとなっているので、第1のモードと同じ大きさの電流Iが流れると仮定すると、電流Iは、第1の半導体スイッチング素子10Aの側を流れる電流I1と、第2の半導体スイッチング素子10Bの側を流れる電流I2とに分流して流れる。なお、I=I1+I2となる。また、Ron1>Ron2なので、I1<I2となる。
【0037】
ここで、第1の半導体スイッチング素子10Aと第2の半導体スイッチング素子10Bの電圧Vは、V=Ron1・I1=Ron2・I2である。したがって、第1の半導体スイッチング素子10Aで発生する損失P31は、P31=I1・Ron1=V・I1である。第2の半導体スイッチング素子10Bで発生する損失P32は、P32=I2・Ron2=V・I2である。P31とP32の大小関係は、I1<I2なので、P31<P32となる。したがって、全部駆動モードでは、部分駆動モードとは逆方向の損失アンバランスが生じる。
【0038】
そこで、本実施例の制御部は、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちのオンさせる半導体スイッチング素子の対象を変更しながら部分駆動モードで制御しつつ、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のオン抵抗差に応じた所定の比率で全部駆動モードを挿入して制御する構成とした。前述の通り、全部駆動モードでは、部分駆動モードとは逆方向の損失アンバランスが生じるため、本実施例の制御方法によれば、損失アンバランスを低減することができる。詳細について図5を用いて説明する。
【0039】
図5は、実施例1の制御方法の一例を説明するフローチャートである。
【0040】
図5では、ステップS1からステップS6では、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のうちのオンさせる半導体スイッチング素子の対象を変更しながら部分駆動モードで制御している。そして、前述の通り、オン抵抗差に応じた所定の比率でステップS7の全部駆動モードを挿入している。具体的には、ステップS1、S3、S5では、第1のモードで制御し、ステップS2、S4、S6では、第2のモードで制御している。このように、第1のモードと第2のモードとを交互に繰り返しながら、第1の半導体スイッチング素子10Aと第2の半導体スイッチング素子10Bのオン抵抗差に応じた所定の比率でステップS7の第3のモードを挿入して制御する。ここでは一例として1/7の割合で第3のモードを挿入しているが、損失アンバランスを低減できる比率であればこれに限られない。また、第3のモードを挿入する位置は、ステップS1からステップS7のうちのどこでもよい。なお、図5のフローは繰り返し実行される。
【0041】
前述した所定の比率は、予め計測されたオン抵抗差に基づいて予め設定することができる。なお、オン抵抗の計測は、メーカーから提供された情報を用いてもよいし、自ら計測してもよい。何れの場合も、制御中にセンサを用いてリアルタイムで計測する必要はないので、コストの大幅な増加を抑えることができる。
【0042】
また、制御部による部分駆動モードの制御中に所定の比率で全部駆動モードを挿入する制御は、オン抵抗差が所定の大きさ以上の場合、すなわち、通常の制御では損失アンバランスが大きくなる場合に実行されるようにしてもよい。オン抵抗差が所定の大きさよりも小さい場合は、損失アンバランスも小さいため、損失アンバランスの大きさが許容できる範囲であれば、必ずしも図5に示したような本実施例の制御を行う必要はなく、通常の制御、例えば、全部駆動モードのみ、または、部分駆動モードのみで制御してもよい。
【0043】
本実施例では、2並列の場合を例に説明したが、これに限られず、3並列以上であってもよい。例えば3並列の場合は、部分駆動モードを3つのモードに増やすなどして、適宜拡張すればよい。
【0044】
以上説明した通り、本実施例によれば、互いに並列に接続された複数の半導体スイッチング素子にオン抵抗差がある場合でも簡易的な制御方法によって損失アンバランスを低減できる。
【実施例0045】
実施例2は、実施例1の変形例であり、電力変換装置の一例として、DC/DCコンバータ120に適用した実施例である。
【0046】
図6は、実施例2のDC/DCコンバータの一例を示す回路図である。
【0047】
DC/DCコンバータ120は、直流電力を電圧の異なる直流電力に変換する回路である電力変換回路121と、電力変換回路121を制御するDC/DCコンバータ制御部122とを有する。
【0048】
電力変換回路121の基本的な構成は一般的なDC/DCコンバータの電力変換回路と同じであるため、詳細な説明は省略するが、半導体スイッチング素子10と、ダイオード11と、コンデンサ12と、インダクタ13とを有している。なお、図6に示した構成はあくまで一例であり、これに限られない。
【0049】
本実施例の電力変換回路121は、実施例1と同様に、半導体スイッチング素子10として、互いに並列に接続された第1の半導体スイッチング素子10Aと第2の半導体スイッチング素子10Bとを用いている。なお、第1の半導体スイッチング素子10Aと第2の半導体スイッチング素子10Bは、DC/DCコンバータ制御部122によりそれぞれ独立にオン・オフが制御される。
【0050】
本実施例の場合も、実施例1と同様に制御することで、同様の効果が得られる。
【0051】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に記載された構成に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更が可能である。また、各実施例で説明した構成の一部または全部を組み合わせて適用してもよい。
【0052】
例えば、実施例2のDC/DCコンバータ120を、実施例1のエレベーター101の一部に用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 半導体スイッチング素子
10A 第1の半導体スイッチング素子
10B 第2の半導体スイッチング素子
11 ダイオード
12 コンデンサ
13 インダクタ
101 エレベーター
102 系統
103,104 フィルタ回路
105 ロープ
106 かご
107 おもり
108 モータ
110 コンバータ
111 インバータ
112,113 電力変換回路
114 コンバータ制御部
115 インバータ制御部
120 DC/DCコンバータ
121 電力変換回路
122 DC/DCコンバータ制御部
I,I1,I2 電流
Ron1,Ron2 オン抵抗
P1,P2,P31,P32 損失
図1
図2
図3
図4
図5
図6