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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009131
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20250110BHJP
   C04B 14/02 20060101ALI20250110BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20250110BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20250110BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20250110BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/02 Z
C04B24/32 A
B28C7/04
E21D11/10 D
E04G21/02 103B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111920
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100203242
【弁理士】
【氏名又は名称】河戸 春樹
(72)【発明者】
【氏名】島田 恒平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲一
(72)【発明者】
【氏名】谷本 理勇
(72)【発明者】
【氏名】佐川 桂一郎
【テーマコード(参考)】
2D155
2E172
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
2D155DB00
2E172AA05
2E172DC00
4G056AA06
4G056CB28
4G112PA02
4G112PB36
4G112PC06
4G112PE01
(57)【要約】
【課題】表面水率の高い細骨材を用いても、水硬性組成物の調製から例えば20時間の硬化反応に伴う積算水和発熱量が大きくなる水硬性組成物、及びその製造方法、並びにその水硬性組成物を用いた湿式吹付工法を提供する。
【解決手段】(A)セメント、(B)表面水率が0.1%以上10%以下の細骨材、(C)重量平均分子量が200,000以上1,000,000未満のポリアルキレンオキサイド、及び(D)水を含有する、水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セメント(以下、(A)成分という)、(B)表面水率が0.1%以上10%以下の細骨材(以下、(B)成分という)、(C)重量平均分子量が200,000以上1,000,000未満のポリアルキレンオキサイド(以下、(C)成分という)、及び(D)水(以下、(D)成分という)を含有する、水硬性組成物。
【請求項2】
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との質量比(B)/(A)が、2以上6以下である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
(A)成分の含有量と(D)成分の含有量との質量比(D)/(A)が、0.4以上0.8以下である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.05質量部以上2質量部以下である、請求項1~3の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
急結剤の含有量が、(A)成分100質量部に対して1質量部以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
湿式吹付用である、請求項1~5の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
(A)セメント(以下、(A)成分という)と、(B)表面水率が0.1%以上1%以下の細骨材(以下、(B)成分という)と、(C)重量平均分子量が200,000以上1,000,000未満のポリアルキレンオキサイド(以下、(C)成分という)と、(D)水(以下、(D)成分という)とを混合する、水硬性組成物の製造方法。
【請求項8】
(B)成分に(C)成分を添加し、(A)成分を加え混合した後、該混合物に(D)成分を添加して混合する、請求項7に記載の水硬性組成物の製造方法。
【請求項9】
(A)セメント(以下、(A)成分という)と、(B)表面水率が0.1%以上1%以下の細骨材(以下、(B)成分という)と、(C)重量平均分子量が200,000以上1,000,000未満のポリアルキレンオキサイド(以下、(C)成分という)と、(D)水(以下、(D)成分という)とを混合して水硬性組成物を製造し、前記水硬性組成物を対象物に吹き付ける、湿式吹付工法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、及びその製造方法、並びにその水硬性組成物を用いた湿式吹付工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは人類の発展に欠くことのできないことのできない建設資材であり、中でもセメントコンクリートは、主にセメント、水、細骨材、粗骨材を混合し成形、硬化させることによって製造される。
細骨材としては、JIS A0203-2014中の番号2311で規定される、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂および珪砂に代表される天然骨材と、これらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材及び再生細骨材等の人工骨材が挙げられる。
細骨材の多くは、火山活動や産業副産物で生じたシリカを主成分とする無機物であり、産生の過程で高温にさらされるため、水和水の蒸発、脱水、有機物の燃焼等により、多孔質である。
【0003】
そのためコンクリート産業においても、細骨材は内部に空気や水蒸気を含んだ状態で用いられることが多いが、内部に空気を含んだまま使用すると、水を加えてスラリーとした際に、断続的に細骨材に水が取り込まれ、ワーカビリティーが悪化したり、硬化の過程で乾燥によるひび割れが発生したりするため、事前に細骨材内部に水を含ませた状態、特に、細骨材内部は水で満たされながら表面に水がブリードしていない状態である、表面乾燥飽水状態で使用されることが多い。
風雨や乾燥による影響を絶えず受ける施工現場においては、表面乾燥飽水状態の細骨材を準備することは困難であり、また、コンクリート中の水量はコンクリートに求められる主要な性能の一つである強度に大きく影響することからも、乾燥状態または湿潤状態の細骨材を用い、水分量を測定した後に、配合調整によってフレッシュコンクリート中の水分量を一定に制御している。
細骨材の表面水量測定は、JIS A 1111に規定される方法で実施され、算出された表面水率に基づいてコンクリートの配合修正がなされるが、特に風雨や乾燥による影響が大きい施工現場では、表面水率の変動が大きいため配合修正が煩雑となり、フレッシュコンクリートの水量を直接測定する試みがなされている。
【0004】
またトンネル工事や法面保護工事等露出した地山の崩落を防止するために、水硬性組成物を用いた吹付工法が行われている。この工法のうち、湿式吹付工法と呼ばれるものは、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材、及び水の計量混合プラントで水硬性組成物を調製し、それをアジテータ車で運搬・吹付け機に移送し、吹付け機から水硬性組成物を地山面に所定の厚みになるまで吹き付ける工法である。
【0005】
特許文献1には、送信アンテナと受信アンテナとを試料を挟んで対向して配し、前記送信アンテナからマイクロ波を放射するとともに、試料を通過したマイクロ波を受信アンテナによって受信して測定される試料によるマイクロ波の減衰量をもとに、試料に含まれる水分量を算出する方法において、前記試料はフレッシュコンクリートであり、このフレッシュコンクリート中の空気量、骨材の吸水率及び塩化物の濃度並びにフレッシュコンクリートの温度のいずれか一つまたは複数を考慮して、単位水量を算出することを特徴とするフレッシュコンクリートの単位水量測定方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、フレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルの単位水量を測定する方法であって、フレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルに電磁波を発信するとともに水分で反射した電磁波を受信する水分計を用い、現場において、打設するフレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルが流通する開放空間に前記水分計を設置し、前記水分計によって、開放空間で流動して通過してゆくフレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルの動的測定値を連続的に測定する実測定工程を備えていることを特徴とするフレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルの単位水量測定方法が開示されている。
【0007】
特許文献3には、セメントと、重量平均分子量が100万~500のポリエチレンオキサイド、タルク及び/又はパイロフィライトからなる無機微粉末、50~80体積%で表面水率が10質量%以下の細骨材、表面水率が2質量%以下の粗骨材を用いた粉じん防止効果が向上する急結性セメントコンクリートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-10369号公報
【特許文献2】特開2015-21905号公報
【特許文献3】特開2009-78934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2に記載の様な特殊な手法を用いない限り、フレッシュコンクリート中の水量を把握することは困難であり、細骨材表面水率の変動により、フレッシュコンクリートの強度にバラつきを生じる、といった課題がある。
【0010】
本発明は、表面水率の高い細骨材を用いても、水硬性組成物の調製から例えば20時間の硬化反応に伴う積算水和発熱量が大きくなる水硬性組成物、及びその製造方法、並びにその水硬性組成物を用いた湿式吹付工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(A)セメント(以下、(A)成分という)、(B)表面水率が0.1%以上10%以下の細骨材(以下、(B)成分という)、(C)重量平均分子量が200,000以上1,000,000未満のポリアルキレンオキサイド(以下、(C)成分という)、及び(D)水(以下、(D)成分という)を含有する、水硬性組成物に関する。
【0012】
また本発明は、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、(D)成分とを混合する、水硬性組成物の製造方法に関する。
【0013】
また本発明は、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、(D)成分とを混合して水硬性組成物を製造し、前記水硬性組成物を対象物に吹き付ける、湿式吹付工法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表面水率の高い細骨材を用いても、水硬性組成物の調製から例えば20時間の硬化反応に伴う積算水和発熱量が大きくなる水硬性組成物、及びその製造方法、並びにその水硬性組成物を用いた湿式吹付工法が提供される。
【0015】
水硬性組成物の調製から例えば20時間の硬化反応に伴う積算水和発熱量が大きくなることにより、水硬性組成物の硬化強度を高めることができる。
近年、持続的な社会実現のためにSDGsが提唱されている。本発明は、コンクリート硬化体品質の向上に資し、例えば、SDGsのNo.9、11、12などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、水硬性組成物に表面水率の高い細骨材を用いても、水硬性組成物の調製から例えば20時間の硬化反応に伴う積算水和発熱量が大きくなることを見出した。このような効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、以下のように推測される。
例えば、フレッシュコンクリートは前述の通り、水、セメント、細骨材および粗骨材等を混合して調整されるが、均一混合性を向上させるために、水を加える前に、セメント、細骨材および粗骨材等を事前に混合する、“空練り”という工程を経る。この際、細骨材の表面水率が高い場合には、セメントは細骨材表面の水を介して、セメント-細骨材間、セメント-セメント間に液架橋を生じ、細骨材の周囲に継粉を生じたような形で付着すると考えられる。セメントの硬化反応である水和反応はセメントが水と接した段階から始まるため、空練りの段階でも少なからず水和反応は進行し、細骨材に対するセメントの固着はより強固になると推測される。この状態のまま水を加え混練を開始すると、セメント、細骨材および粗骨材は徐々にスラリー化するが、液架橋力で固結した細骨材近傍のセメントの継粉は解消されにくく、セメントに対する微視的な水の量が十分にならないため、セメントの水和反応が局所的に停滞して、コンクリート硬化体の強度に直結する、積算水和発熱量が低下すると考えられる。
一方、本発明の(C)成分である、特定の重量平均分子量を有するポリアルキレンオキサイドは、セメントへの吸着性が低くセメントの水和反応を阻害しないこと、一定以上の分子量を有することで、分子鎖同士の絡み合いによって細骨材表面の水を保持し、細骨材とセメントとの液架橋の形成を抑制すること、また一定以下の分子量を有することで、過度に分子的に疎水化せず水を効果的に保持し、顕著な分子鎖の絡み合いによる増粘に起因する混合性、水和反応の不活性化を伴わないため、表面水率の高い細骨材を使用しても、セメントの硬化反応に伴う積算水和発熱量が大きくなったと考えられる。
【0017】
〔水硬性組成物〕
<(A)成分>
本発明の水硬性組成物は、(A)成分として、セメントを含有する。
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸セメント等が挙げられ、これらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加された高炉スラグセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等でもよい。これらから1種以上を用いることができる。
【0018】
本発明の水硬性組成物中、(A)成分の含有量は、前記水硬性組成物100質量部に対して、硬化体強度の観点から、好ましくは10質量部以上、より好ましくは12質量部以上、更に好ましくは14質量部以上、そして、硬化体ひび割れ抑制の観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
【0019】
<(B)成分>
本発明の水硬性組成物は、(B)成分として、表面水率が0.1%以上10%以下の細骨材を含有する。
【0020】
(B)成分の細骨材の表面水率は、硬化体強度、及び硬化体ひび割れ抑制の観点から、0.1%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、そして、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。
(B)成分の細骨材の表面水率は、JIS A 1111に記載の方法により測定する。より正確には、以下の手順により20℃下で測定される。
上水道水200mLおよび500.0gの細骨材を、500mLのチャップマンフラスコ(KC-103、関西機器製作所製)に入れ、軽く振とうし30分静置して脱気・吸水させ、チャップマンフラスコの目盛(V)を記録して、下記式に基づいて、2回の試験の平均値として表面水率を算出した。
表面水率(%)
={(V-500.0)-(500.0/各細骨材の表乾密度)}
/{500.0-(V-500.0)}×100
【0021】
細骨材とは、目開き10mmふるいを全部通り、目開き5mmふるいを重量で85%以上通過する骨材である。
細骨材としては、JIS A0203-2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、具体的には、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)並びに再生細骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0022】
本発明の水硬性組成物中、(B)成分の含有量は、前記水硬性組成物100質量部に対して、水硬性組成物の流動性の観点から、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは60質量部以上、そして、好ましくは90質量部以下、より好ましくは85質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。
【0023】
本発明の水硬性組成物中、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との質量比(B)/(A)は、水硬性組成物のワーカビリティーの観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは3.5以上、そして、水硬性組成物の流動性の観点から、好ましくは6以下、より好ましくは5.5以下、更に好ましくは5以下、より更に好ましくは4.5以下である。
【0024】
<(C)成分>
本発明の水硬性組成物は、(C)成分として、重量平均分子量が200,000以上1,000,000未満のポリアルキレンオキサイドを含有する。
【0025】
(C)成分の重量平均分子量は、セメント水和反応促進の観点から、200,000以上、好ましくは250,000以上、より好ましくは300,000以上、更に好ましくは350,000以上、より更に好ましくは400,000以上、そして、水硬性組成物のワーカビリティーの観点から、1,000,000未満、好ましくは900,000以下、より好ましくは800,000以下、更に好ましくは700,000以下、より更に好ましくは600,000以下、より更に好ましくは500,000以下である。
ポリアルキレンオキサイドの重量平均分子量は、市販品の場合は商品情報(カタログなど)に基づいた値を採用してよい。
ポリアルキレンオキサイドの重量平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)測定により決定できる。
〈測定条件〉
・装置:製品名「LC-10AD」(株式会社島津製作所製)
・検出器:示差屈折率検出器(RID)
・カラム:製品名「SHODEX KF-804」(昭和電工株式会社製)
・測定温度:30℃
・溶離液:THF
・流速:1.0mL/min
・サンプル濃度:0.2質量%(THF)
・サンプル注入量:100μL
・換算標準:ポリエチレンオキサイド
【0026】
(C)成分は、重合単位としてエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを含むものが好ましく、エチレンオキサイドを含むものが好ましい。
(C)成分が重合単位として、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを含む場合、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドは、ランダム共重合体、及びブロック共重合体のいずれでもよい。
(C)成分は、水溶性の観点から、ポリオキシエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドの共重合体、及びポリエチレンオキサイドから選ばれる1種以上が好ましく、ポリエチレンオキサイドがより好ましい。
【0027】
本発明の水硬性組成物中、(C)成分の含有量は、前記水硬性組成物100質量部に対して、セメント水和反応促進の観点から、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上、そして、セメント水和反応促進、及び水硬性組成物のワーカビリティーの観点から、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下である。
【0028】
本発明の水硬性組成物中、(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、セメント水和反応促進の観点から、0.05質量部以上、好ましくは0.075質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、そして、セメント水和反応促進、及び水硬性組成物のワーカビリティーの観点から、2質量部以下、好ましくは1.75質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、より更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0029】
<(D)成分>
本発明の水硬性組成物は、(D)成分として、水を含有する。
本発明の水硬性組成物中、(A)成分の含有量と(D)成分の含有量との質量比(D)/(A)は、水硬性組成物の流動性低下抑制の観点から、0.4以上、好ましくは0.45以上、より好ましくは0.5以上、そして、硬化体強度の観点から、0.8以下、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.7以下である。
【0030】
<その他成分等>
本発明の水硬性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(E)成分として、粗骨材を含有してよい。
粗骨材とは5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材である。粗骨材は、JIS A0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。
【0031】
本発明の水硬性組成物中、(E)成分を含有する場合、(E)成分の含有量は、前記水硬性組成物100質量部に対して、水硬性組成物の流動性の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、そして、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。
【0032】
本発明の水硬性組成物は、急結剤を含有してよいが、硬化体ひび割れ抑制の観点から、その含有量は制限される。
急結剤としては、無機塩系急結剤、セメント鉱物系急結剤、及び天然鉱物系急結剤から選ばれる1種以上が挙げられる。
無機塩系急結剤としては、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、硫酸アルミニウム、二水石膏、半水石膏、無水石膏、塩化カルシウム及び珪酸塩、水酸化カルシウムなどが挙げられる。セメント鉱物系急結剤としては、カルシウムアルミネートやカルシウムサルホアルミネートなどが挙げられる。天然鉱物系急結剤としては、か焼ミョウバン石などが挙げられる。
【0033】
本発明の水硬性組成物中、急結剤の含有量は、(A)成分100質量部に対して、硬化体ひび割れ抑制の観点から、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下である。
本発明の水硬性組成物は、急結剤を含有しなくともよい。
【0034】
本発明の水硬性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、分散剤、膨張材、硬化促進剤、硬化遅延剤、セメント用ポリマー、発泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、顔料、繊維、撥水剤、白華防止剤等(但し、前記した成分に該当するものは除く)から選ばれる1種以上を含有してもよい。
【0035】
本発明の水硬性組成物は、表面水率の高い細骨材を用いても、水硬性組成物の調製から例えば20時間の硬化反応に伴う積算水和発熱量が大きくなるから、屋外での水硬性組成物の調製を余儀なくされ、細骨材の表面水率の管理が難しい湿式吹付工法にも最適である。
すなわち、本発明の水硬性組成物は、湿式吹付用として好適である。
【0036】
本発明は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を配合してなる、水硬性組成物であってよい。
(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分は、本発明の水硬性組成物で記載した態様と同じである。(A)成分~(D)成分以外のその他成分も同様であり、前記水硬性組成物に配合することができる。
各成分の配合量、及び質量比は、本発明の水硬性組成物で記載した各成分の含有量、及び質量比の規定について、含有量を配合量に置き換えて前記水硬性組成物に適用することができる。
【0037】
〔水硬性組成物の製造方法〕
本発明は、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、(D)成分とを混合する、水硬性組成物の製造方法を提供する。
(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分は、本発明の水硬性組成物で記載した態様と同じである。(A)成分~(D)成分以外のその他成分も同様であり、本発明の水硬性組成物の製造方法に混合することができる。
各成分の混合量、及び質量比は、本発明の水硬性組成物で記載した各成分の含有量、及び質量比の規定について、含有量を混合量に置き換えて本発明の水硬性組成物の製造方法に適用することができる。
本発明の水硬性組成物の製造方法は、本発明の水硬性組成物で記載した態様を適宜適用することができる。
【0038】
本発明の水硬性組成物の製造方法において、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の混合は、公知の方法により行うことができる。具体的には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を同時に混合する方法でもよいが、セメント水和反応促進の観点から、(B)成分に(C)成分を添加し、(A)成分を加え混合した後、該混合物に(D)成分を加えて更に混合することが好ましい。これらの成分の混合には、パン型強制ミキサー、2軸強制ミキサー、可傾式ミキサー等の混合ミキサーを使用することができる。
【0039】
〔湿式吹付工法〕
本発明は、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、(D)成分とを混合して水硬性組成物を製造し、前記水硬性組成物を対象物に吹き付ける、湿式吹付工法を提供する。
【0040】
本発明の湿式吹付工法における前記水硬性組成物は、本発明の水硬性組成物と同じであり、本発明の水硬性組成物、及びその製造方法で記載した態様を適宜適用することができる。
(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分は、本発明の水硬性組成物で記載した態様と同じである。(A)成分~(D)成分以外のその他成分も同様であり、前記水硬性組成物の製造方法に混合することができる。
各成分の混合量、及び質量比は、本発明の水硬性組成物で記載した各成分の含有量、及び質量比の規定について、含有量を混合量に置き換えて前記水硬性組成物の製造方法に適用することができる。
【0041】
本発明の吹付工法では、このようにして調製した前記水硬性組成物を対象物に吹き付ける。この方法は、いわゆる湿式吹付工法に相当する。
本発明の湿式吹付工法は、従来の吹付設備により実施可能である。吹付設備は、湿式での吹き付けが支障なく行われればよく、例えば、前記水硬性組成物の圧送に、アリバ社製、商品名「アリバ280」等を用いて、吹付け機に圧送し、吹き付けを行うことが可能である。
【実施例0042】
表中の成分は以下のものを用いた。
<(A)成分>
A-1:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、比重3.16)
<(B)成分>
B-1:山砂(京都府城陽市産、表乾密度2.51)
【0043】
<(C)成分>
C-1:アルコックス R-1000(明成化学工業株式会社製、ポリエチレンオキサイド、重量平均分子量:325,000)
C-2:アルコックス E-30(明成化学工業株式会社製、ポリエチレンオキサイド、重量平均分子量:475,000)
C-3:アルコックス E-45(明成化学工業株式会社製、ポリエチレンオキサイド、重量平均分子量:800,000)
<(C’)成分((C)成分の比較成分)>
C’-1:アルコックス R-150(明成化学工業株式会社製、ポリエチレンオキサイド、重量平均分子量:150,000)
C’-2:ポリエチレンオキサイド、分子量1,000,000(富士フイルム和光純薬株式会社製)
<(D)成分>
D-1:上水道水(和歌山市上水、比重1.00)
【0044】
(1)(B)成分の表面水率の調整
上記(B)成分を恒温送風乾燥機DRM620DE(アドバンテック株式会社製)に入れ、105℃、24時間乾燥させ絶対乾燥状態とした。次いで、室温まで冷却した後展開し、肩掛式噴霧器(キンボシ株式会社製)で和歌山市上水を散布しながら、シャベルで均質化して、JIS A 1111で測定した表面水率が、0%、1%、5%となるようにそれぞれ調整した。用いた(B)成分の表面水率を表1中に併記する。なお、表面水率が0%のものは、(B)成分の比較成分となる。また参考例1では、表面水率が10%を超えるものを調整することを試みたが、細骨材に水を留め置けなくなるため作成できず、以下の評価を行わなかった。
【0045】
(2)水硬性組成物の調整
表1記載の配合量(質量部)となるように、(B)成分に(C)成分又は(C’)成分を添加し、(A)成分を加えて、JIS R 5201記載のホバート型のミキサーに投入し、62rpmで10秒間空練を行った。次いで、(D)成分を表1記載の配合量(質量部)となるように添加し、62rpmで2分間混練して水硬性組成物を調製した。
【0046】
(3)積算水和発熱量の測定
(2)に記載の方法で調製した調製直後の水硬性組成物を20.0gサンプリングし、等温熱量測定装置 TAM Air(TA Instruments製)を用いて、調整直後から20時間後までの積算水和発熱量(kJ・h/g)を測定し、硬化体強度の指標とした。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1中、(C)又は(C’)成分の「(A)に対する配合量(質量部)」は、(A)成分100質量部に対する(C)又は(C’)成分の配合量を示す。
【0049】
表1中、(B)成分の表面水率と配合量が同じ実施例と比較例を対比して(具体的には、実施例1~4と比較例1~3、実施例5と比較例4)、本発明の実施例は、大きい積算水和発熱量を示した。これは、重量平均分子量が適度に大きい本発明の(C)成分であるポリアルキレンオキサイドにより、細骨材由来の水によるセメントの継粉形成が抑制され、セメントの水和反応が効果的に促進されたためであると考察される。このように本発明の水硬性組成物は、表面水率の高い細骨材を用いても、水硬性組成物の調製から例えば20時間の硬化反応に伴う積算水和発熱量が大きくなるから、屋外での水硬性組成物の調製を余儀なくされ、細骨材の表面水率の管理が難しい湿式吹付工法にも最適である。なお実施例4と比較例1では、積算水和発熱量の差が6kJ・h/gであるが、化学反応である水和反応は熱エネルギーによって可視化され、実際のコンクリート構造物におけるスケール効果を勘案すると、積算の水和発熱量として決して小さくない差であることから、優位な差であると言える。