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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009137
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】空洞共振器及びESR測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20250110BHJP
   G01N 24/10 20060101ALI20250110BHJP
   G01R 33/60 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
G01N24/00 570G
G01N24/10 510Y
G01R33/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111931
(22)【出願日】2023-07-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「CFRP複合材劣化のオペランドミクロ計測分析法と余寿命推定モデル」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴之
(72)【発明者】
【氏名】丸本 一弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 世力
(57)【要約】
【課題】漏れ磁場を生じさせる空洞共振器を用いるESR測定において、感度及び空間分解能を高める。
【解決手段】空洞共振器70において、キャビティ本体74は開口82を有する。開口82を通じて共振磁場88の一部が外部空間71Bへ漏れ出す。漏れ出た磁場が測定対象でESRを生じさせ且つそのESRを検出するためのプローブ磁場90である。開口82内には、開口82の中心を横切る細長いスタブ84が設けられている。このスタブ84には誘導電流が流れる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ESR測定用の電磁波が入力される内部空間を有し、その内部空間において共振磁場を生じさせるキャビティ本体を含み、
前記キャビティ本体は、
前記内部空間と外部空間との間に設けられ、前記外部空間に漏れ出るプローブ磁場を生じさせる開口と、
前記開口内に設けられ、前記プローブ磁場に対して電磁気的に作用するスタブと、
を含む、ことを特徴とする空洞共振器。
【請求項2】
請求項1記載の空洞共振器において、
前記スタブと前記プローブ磁場とが相互作用し、
前記スタブには誘導電流が流れる、
ことを特徴とする空洞共振器。
【請求項3】
請求項1記載の空洞共振器において、
前記スタブの基端が前記開口の周縁に連結され、
前記スタブの先端が前記開口の周縁から隔てられている、
ことを特徴とする空洞共振器。
【請求項4】
請求項1記載の空洞共振器において、
前記スタブは前記開口の中心を横切る中間部分を有する、
ことを特徴とする空洞共振器。
【請求項5】
請求項4記載の空洞共振器において、
前記共振磁場における前記開口近傍の磁束方向は第1方向であり、
前記中間部分は前記第1方向に直交する第2方向に伸長している、
ことを特徴とする空洞共振器。
【請求項6】
請求項5記載の空洞共振器において、
前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向を定義した場合に、前記中間部分の前記第3方向の厚みは2mm以下である、
ことを特徴とする空洞共振器。
【請求項7】
請求項5記載の空洞共振器において、
前記スタブの前記第1方向の幅は前記第2方向にわたって実質的に同一である、
ことを特徴とする空洞共振器。
【請求項8】
請求項5記載の空洞共振器において、
前記スタブは、
前記中間部分に連なり、前記開口の周縁に連結された基端を含む基端部分と、
前記中間部分に連なり、前記開口の周縁から隔てられた先端を含む先端部分と、
を有し、
前記中間部分における前記第1方向の幅が、前記第2方向において前記開口の中心からその両側へ離れるのに従って増大している、
ことを特徴とする空洞共振器。
【請求項9】
請求項1記載の空洞共振器と、
測定対象に対して前記開口を近接させた状態を維持しながら前記測定対象に対して前記空洞共振器を相対的に二次元走査することにより得られた一連のESR信号に基づいて二次元ESR画像を生成する画像生成器と、
を含むことを特徴とするESR測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空洞共振器及びESR測定装置に関し、特に、空洞共振器の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ESR測定装置は、電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)を測定する測定である。より詳しくは、ESR測定では、測定対象が有するラジカル(不対電子をもった化学物質)で生じるESRが測定される。ESR測定によれば、ラジカルの定量等を行える。
【0003】
ESR測定装置は、一般に、空洞共振器(キャビティ)を有する。空洞共振器内にマイクロ波が供給され、これにより空洞共振器の内部に高周波磁場としての共振磁場が生じる。典型的なESR測定では、共振磁場中に配置された試料で生じるESRが測定される。
【0004】
ラジカルの二次元分布を測定する場合、放射窓を有するキャビティが用いられる。放射窓は、ハウジング又は容器としてのキャビティ本体に形成された貫通孔つまり開口である。放射窓を通じて、キャビティ内の共振磁場の一部が外界へ漏れ出る。漏れ出た磁場は漏れ磁場と呼ばれる。漏れ磁場はプローブとして機能する。その観点から見て、漏れ磁場はプローブ磁場である。
【0005】
放射窓に対して測定対象の表面を近接させつつ、放射窓に対して測定対象を二次元走査することにより(あるいは測定対象に対して放射窓を二次元走査することにより)、測定対象の表面における各位置でESRが測定される。そのような表面ESR測定により二次元のラジカル分布情報が得られる。ラジカル分布情報が解析され、また画像化される。
【0006】
特許文献1~5には、ESR測定用のキャビティが開示されている。各キャビティは放射窓を有する。いずれの放射窓も単なる開口であり、放射窓内には何らの部材も存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-2060号公報
【特許文献2】特開平11-64243号公報
【特許文献3】特許第2892005号公報
【特許文献4】特許第2967224号公報
【特許文献5】特許第5481651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、漏れ磁場を生じさせる空洞共振器を用いるESR測定において、感度及び空間分解能の一方又は両方を高めることにある。あるいは、漏れ磁場を生じさせる空洞共振器における新しい開口構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る空洞共振器は、ESR測定用の電磁波が入力される内部空間を有し、その内部空間において共振磁場を生じさせるキャビティ本体を含み、前記キャビティ本体は、前記内部空間と外部空間との間に設けられ、前記外部空間に漏れ出るプローブ磁場を生じさせる開口と、前記開口内に設けられ、前記プローブ磁場に対して電磁気的に作用するスタブと、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係るESR測定装置は、上記の空洞共振器と、測定対象に対して前記開口を近接させた状態を維持しながら前記測定対象に対して前記空洞共振器を相対的に二次元走査することにより得られた一連のESR信号に基づいて二次元ESR画像を生成する画像生成器と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、漏れ磁場を生じさせる空洞共振器を用いるESR測定において、感度及び空間分解能の一方又は両方を高められる。あるいは、本発明によれば、漏れ磁場を生じさせる空洞共振器における新しい開口構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るESR測定装置の構成例を示す図である。
図2】比較例に係る空洞共振器を示す図である。
図3】比較例に係る開口を示す図である。
図4】実施形態に係る空洞共振器を示す図である。
図5】実施形態に係るスタブ付き開口を示す図である。
図6】比較例に係るシミュレーション結果を示す図である。
図7】第1構成例に係るシミュレーション結果を示す図である。
図8】第2構成例に係るシミュレーション結果を示す図である。
図9】比較例に係るESR信号を示す図である。
図10】実施形態に係るESR信号を示す図である。
図11】第1実施例に係るESR測定装置を示す図である。
図12】第2実施例に係るESR測定装置を示す図である。
図13】スタブの第1変形例を示す図である。
図14】スタブの第2変形例を示す図である。
図15】スタブの第3変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る空洞共振器は、ESR測定用の電磁波が入力される内部空間を有し、その内部空間において共振磁場を生じさせるキャビティ本体を含む。キャビティ本体は、開口、及び、スタブを有する。開口は、内部空間と外部空間との間に設けられ、外部空間に漏れ出るプローブ磁場を生じさせる。スタブは、開口内に設けられ、プローブ磁場に対して電磁気的に作用する。
【0015】
上記構成によれば、共振磁場の一部が開口を通じて外部空間に漏れ出る。漏れ出た磁場がESR測定用のプローブ磁場である。開口内に設けられたスタブがプローブ磁場に対して電磁気的に作用する。これにより、プローブ磁場の強度が大きくなり、あるいは、プローブ磁場の磁場分布がシャープになる。
【0016】
実施形態において、スタブは、プローブ磁場(及び共振磁場)と相互作用する受動素子である。スタブを中心としてスタブを取り囲むようにループ状の磁束(プローブ磁場の磁束)が生じる。スタブとプローブ磁場(及び共振磁場)の相互作用により、スタブには誘導電流が流れ、その結果、プローブ磁場における中心軸付近の磁束密度が高められる。
【0017】
キャビティ本体は、基本的に、非磁性金属材料により構成される。スタブがキャビティ本体と一体化されてもよいし、スタブがキャビティ本体とは別の部材により構成されてもよい。いずれにしても、スタブは導電性を有する材料により構成される。開口の形態は、例えば、円形、矩形又はその他である。開口縁に囲まれる平面を開口面と定義した場合、スタブは、開口面上に設けられ、あるいは、開口面の内側又は外側に設けられる。いずれの場合においても、開口から漏れ出るプローブ磁場と相互作用する位置に(つまり開口内に)、スタブが設けられる。
【0018】
実施形態においては、スタブの基端が開口の周縁に連結され、スタブの先端が開口の周縁から隔てられている。この構成によれば、スタブに誘導電流が流れ得る状態を確実に形成でき、あるいは、スタブにおいて誘導電流が流れ易くなる。
【0019】
実施形態においては、スタブは開口の中心を横切る中間部分を有する。開口の中心は、プローブ磁場の中心に相当する。換言すれば、開口の中心軸は、プローブ磁場の中心軸に相当する。開口の中心をスタブが横切ることにより、プローブ磁場の中心軸付近の磁束密度を高められる。これにより、プローブ磁場の強度分布がシャープになり、プローブ磁場が開口からより離れたところまで到達するようになる。
【0020】
実施形態において、共振磁場における開口近傍の磁束方向は第1方向である。スタブの中間部分は第1方向に直交する第2方向に伸長している。この構成によれば、誘導電流の増大により、プローブ磁場の強度を高められる。
【0021】
実施形態において、第1方向及び第2方向に直交する第3方向を定義した場合に、中間部分の第3方向の厚みは2mm以下である。スタブの第3方向の厚みを厚くした場合、磁場の漏洩が生じ難くなる。スタブの第3方向の厚みを薄くすれば、プローブ磁場が漏洩し易くなる。実施形態では、スタブそれ全体の第3方向の厚みが2mm以下とされる。
【0022】
ある実施例において、スタブの第1方向の幅は第2方向にわたって実質的に同一である。この構成によれば、スタブ製作が容易となる。スタブの先端を円弧状にすれば、対象物に対するスタブの接触時に、対象物及びスタブを保護できる。
【0023】
別の実施例において、スタブは、基端部分、先端部分及び中間部分を有する。基端部分は、中間部分に連なり、開口の周縁に連結された基端を含む部分である。先端部分は、中間部分に連なり、開口の周縁から隔てられた先端を含む部分である。中間部分は、基端部分と先端部分との間の部分である。中間部分における第1方向の幅が、第2方向において開口の中心からその両側へ離れるのに従って増大している。この構成によれば、プローブ磁場における中心部分の磁場強度がより大きくなり、且つ、中心部分の磁場分布がよりシャープになる。なお、スタブにおいて、中間部分は、スタブ中心軸方向に伸長し、開口中心を横切る部分であって、スタブ全長の1/3又はそれ以上に相当する部分である。
【0024】
実施形態に係るESR測定装置は、空洞共振器、及び、画像生成器を有する。空洞共振器は、キャビティ本体を有する。キャビティ本体は、ESR測定用の電磁波が入力される内部空間を有し、その内部空間において共振磁場を生じさせるものである。キャビティ本体は、開口、及び、スタブを有する。開口は、内部空間と外部空間との間に設けられ、外部空間に漏れ出るプローブ磁場を生じさせる。スタブは、開口内に設けられ、プローブ磁場に対して電磁気的に作用する。
【0025】
画像生成器は、測定対象に対して開口を近接させた状態を維持しながら測定対象に対して空洞共振器を相対的に二次元走査することにより得られた一連のESR信号に基づいて二次元ESR画像を生成するものである。
【0026】
上記構成を採用する場合、測定対象及び空洞共振器のいずれを運動させてもよい。測定対象が電気部品である場合、当該電気部品に電力又は信号を与えながら、当該電気部品で生じるESRが測定されてもよい。
【0027】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係るESR測定装置が示されている。ESR測定装置は、測定対象で生じるESRを測定することにより測定対象を分析する装置である。
【0028】
図1において、符号10は、マイクロ波回路を示している。発振器12によりマイクロ波が生成される。マイクロ波の周波数は、所定の共鳴条件を満たすように定められる。生成されたマイクロ波が、減衰器14及びサーキュレータ16を介して、空洞共振器17へ送られる。
【0029】
空洞共振器17は、容器としてのキャビティ本体18を有する。キャビティ本体18には開口20が形成されている。キャビティ本体18の内部空間にマイクロ波が供給されると、その内部空間において高周波磁場としての共振磁場が生じる。共振磁場の一部が開口20を通じて外部へ漏れ出す。漏れ出た磁場がプローブ磁場である。プローブ磁場が外部空間に配置された測定対象の表面に照射される。
【0030】
符号24は静磁場を生成する電磁石を示している。空洞共振器17は静磁場の中におかれる。符号26は磁場変調用コイルを示している。磁場変調用コイル26により生成された磁場により静磁場が変調される。磁場変調用コイル26に対して、変調信号生成器28が生成した変調信号が供給されている。
【0031】
測定対象の表面上において、プローブ磁場の照射によりESRが生じた場合、空洞共振器17内の電気的状態が変化し、反射波30が生じる。その反射波30がESR検出信号として処理される。具体的には、ESR検出信号はサーキュレータ16を介して位相検波器34へ送られる。発振器12で生成されたマイクロ波が移相器32を介して位相検波器34に送られている。位相検波器34では、入力されたマイクロ波を利用して、入力されたESR検出信号に対して位相検波を実施する。位相検波器34から出力されたESR検出信号がプリアンプ36を介してロックインアンプ38へ送られる。
【0032】
ロックインアンプ38には、変調信号生成器28で生成された変調信号が供給されている。ロックインアンプ38において、位相検波器40は、入力された変調信号を利用して、プリアンプ36から出力されたESR検出信号に対して位相検波を実施する。位相検波器40から出力されたESR検出信号がプリアンプ42及びAD変換器44を介してPC46へ送られる。PC46において、以上のように処理されたESR検出信号が解析される。PC46は、分光計又は信号解析器として機能するものである。
【0033】
後述するように、測定対象22に対する空洞共振器17の二次元走査により、測定対象22の表面上における各位置でESR信号が観測される。二次元走査により得られた一連のESR信号に基づいて二次元画像が生成される。その二次元画像は、ラジカルの二次元分布を表す画像である。PC46において、各位置でのラジカル量やラジカルの種類が解析されてもよい。
【0034】
図2及び図3には、比較例に係る空洞共振器50が示されている。図2において、空洞共振器50はキャビティ本体54を有する。キャビティ本体54は、開口58及び開口62を有する。キャビティ本体54には、マイクロ波を伝送する導波管52が接続されている。導波管52から開口58を通じてキャビティ本体54の内部空間51Aへマイクロ波が供給される。これにより、内部空間51Aにおいて共振磁場66が生じる(なお各破線は磁束を表現している)。なお、符号64は導波管52で生じる磁場を示している。
【0035】
キャビティ本体54に形成された開口62が放射窓として機能する。開口62を通じて、共振磁場66の一部が外部空間51Bへ漏れ出る。その漏れ出た磁場がプローブ磁場68である。プローブ磁場68の一部分が外部空間51Bに入り込んでおり、その一部分が測定対象の表面に照射される。
【0036】
図3には、比較例に係る空洞共振器50において、キャビティ本体54に形成された開口62が示されている。図示された開口62は、単純な円形の開口である。開口62の内部には何らの部材も設けられていない。
【0037】
図4及び図5には、実施形態に係る空洞共振器70が示されている。図4において、空洞共振器70は、矩形又は箱状のキャビティ本体74を有する。他の形態(例えば円筒形)を有するキャビティ本体を採用してもよい。キャビティ本体74は、非磁性金属材料により構成され、例えば、それは銅により構成される。キャビティ本体74は、開口78及び開口82を有する。図示の例では、開口78はキャビティ本体74が有する側面板76に形成されており、開口82はキャビティ本体74が有する側面板80に形成されている。
【0038】
キャビティ本体74には導波管72が接続されている。導波管72から開口78を介してキャビティ本体74の内部空間71Aへマイクロ波が供給される。これにより内部空間71Aにおいて共振磁場88が生じる。図4においては、共振磁場88の磁束は、XY面に沿うループ状の形態を有している。符号86は、導波管72内で生じる磁場を示している。
【0039】
図5には、実施形態に係る空洞共振器70において、キャビティ本体74に形成された開口82が示されている。開口82は円形の開口であり、それはYZ面に平行に広がっている。開口82内には、受動素子としてのスタブ84が設けられている。スタブ84は、Z方向に沿って伸長しており、細長い板状の形態を有する。スタブ84の基端92は、円形の開口縁82Aに連結されている。スタブ84の先端94は、開口縁82Aに非接触で近接している。開口縁82Aと先端94との間には微小の隙間が存在する。
【0040】
Fは、共振磁場において開口82付近を通過する磁束を示している。磁束Fは、Y方向に沿った流れである。磁束Fに直交するように、スタブ84が設けられている。Lはスタブ84の中心軸を示している。中心軸Lは、開口82の中心Cを横切っている。実質的に見て、スタブ84は、開口82におけるZ方向の全体に及んでいる。スタブ84のY方向一方側には半円状の半開口が生じており、スタブ84のY方向他方側には半円状の半開口が生じている。それら2つの半開口がプローブ磁場の磁束を通過させる通路として働く。
【0041】
スタブ84は、図示の例において、キャビティ本体74と一体化されている。スタブ84は導電性材料である銅によって構成されている。スタブ84が非磁性の他の導電性材料で構成されてもよい。スタブ84がキャビティ本体74とは別の部材で構成されてもよい。開口82内の平面を開口面と定義した場合、実施形態において、スタブ84は開口面上に位置している。開口面の内側又は外側にスタブ84を設ける変形例も考えられる。実施形態では、スタブ84は、開口面上を伸長し、開口82の中心Cを横切っている。プローブ磁場の中心軸は、開口面に直交しており、開口82の中心Cを通過している。
【0042】
図4に戻って、開口82から漏れ出た磁場がプローブ磁場90である。上述のように、開口82内には、スタブ84が設けられている。スタブ84とプローブ磁場90(及び共振磁場88)とが電磁気的に相互作用する。その相互作用により、スタブに誘導電流(高周波誘導電流)が流れる。その結果、プローブ磁場90の強度が大きくなり、プローブ磁場90の強度分布がシャープになる。換言すれば、プローブ磁場90がより遠くまで到達するようになる。
【0043】
なお、電気的に見て、スタブ84は、リアクタンス及びキャパシタンスに相当する。それらの電気素子の作用により、開口82付近の電気的な特性が変化し、プローブ磁場90の強度が大きくなったと解釈してもよい。
【0044】
キャビティ本体74の内部空間71Aに関し、そのX方向の大きさは例えば20mmであり、そのY方向の大きさは例えば20mmであり、そのZ方向の大きさは例えば10mmである。開口82の直径は例えば5mmである。スタブ84に関し、そのZ方向の長さは例えば4.5mmであり、そのY方向の幅は例えば0.5mmであり、そのX方向の厚みは例えば0.3mmである。本願明細書に記載した数値はいずれも例示に過ぎない。
【0045】
実施形態において、スタブ84は、側面板80の一部を構成しており、スタブ84のX方向の厚みは、側面板80のX方向の厚みと同じである。キャビティ本体74の剛性の確保を考慮した場合、側面板80の厚みを2mm、1mm又は0.5mmとしてもよい。一般的には、その厚みを2mm以下にすれば、磁場が漏れ易くなる。スタブ84を側面板80とは異なる部材で構成してもよい。
【0046】
図4に示されるように、Z方向に伸長したスタブ84を中心として、スタブ84を取り囲むようにループ状の磁束(プローブ磁場90の磁束)が生じる。プローブ磁場90におおいてその中心軸付近の磁束密度が高められており、プローブ磁場90はその中心軸に沿って大きく伸長している。これは、ESR測定での感度及び分解能の向上を意味する。
【0047】
図6図7及び図8を用いて、シミュレーション結果について説明する。図6は、比較例に係るシミュレーション結果を示すものであり、図7は第1構成例に係るシミュレーション結果を示すものであり、図8は第2構成例に係るシミュレーション結果を示すものである。第1構成例及び第2構成例が実施形態に相当する。
【0048】
図6において、符号100はシミュレーション条件を示している。プローブ磁場を生じさせる開口の直径D1は5mmである。符号102は、シミュレーション条件100の下で生成されたプローブ磁場の二次元強度分布を示している。横軸はZ方向を示しており、縦軸はY方向を示している。グレースケール104は輝度と磁場強度との関係を示しており、ライン106は開口中心を横断する、Y方向に平行な注目ラインを示している(後述する他の図においても同様である)。強度分布108は注目ライン106上の一次元強度分布である。横軸はY方向を示しており、縦軸は磁場強度を示している。
【0049】
図7において、符号100は第1構成例についてのシミュレーション条件を示している。開口の直径D1は5mmであり、スタブの長さL1は4.5mmである。スタブの幅W1は0.5mmである。図示されたシミュレーション条件110では、スタブにおける右端が基端であり、スタブにおける左端が先端である。シミュレーション条件110の下で生成されたプローブ磁場の二次元強度分布112において、Y方向の中央部で、大きな正の磁場強度が生じている(白色部分を参照)。Y方向における開口縁付近で、2つの大きな負の磁場強度が生じている(2つの黒色部分を参照)。強度分布114は、注目ライン106上の一次元強度分布である。Y方向の中央には、大きな1つの正ピーク116が生じている。正ピーク116の右側及び左側には、大きな2つの負ピーク118,120が生じている。このようなプロファイルを有するプローブ磁場を利用することにより、感度及び分解能の両方を高められる。
【0050】
図8において、符号122は第2構成例についてのシミュレーション条件を示している。開口の直径D1は5mmであり、スタブの長さL1は4.5mmである。スタブの幅W2は1.75mmである。シミュレーション条件122の下で生成されたプローブ磁場の二次元強度分布124において、Y方向の中央部で大きな正の磁場強度が生じている(白色部分を参照)。Y方向における開口縁付近で、2つの大きな負の磁場強度が生じている(2つの黒色部分を参照)。強度分布126は、注目ライン106上の一次元強度分布である。Y方向の中央には、大きな2つの正ピーク128,130が生じている。それらの右側及び左側には、大きな2つの負ピーク132,134が生じている。スタブの幅を大きくすると、正のピークが分裂するが、その分裂間隔はあまり大きくない。このようなプロファイルを有するプローブ磁場を利用することにより、感度及び分解能の両方を高められる。上記の分裂が問題となる場合には、スタブの幅を小さくすればよい。
【0051】
図7及び図8に示した第1構成例及び第2構成例によれば、図6に示した比較例におけるプローブ磁場強度の4倍又は5倍に相当する、プローブ磁場強度を得られる。よって、プローブ磁場が到達する距離を比較例の場合よりも大幅に増大できる。
【0052】
図9には、比較例に係る空洞共振器(図2及び図3を参照)を用いて取得されたESR検出信号136が示されている。横軸は磁場強度軸であり、縦軸はESRの大きさを示している。図10には、実施形態に係る空洞共振器(図4及び図5を参照)を用いて取得されたESR検出信号138が示されている。図示されるように、実施形態によれば、比較例に比べて、ESR検出信号の振幅を増大できる。
【0053】
図11には、実施形態に係るESR測定装置の第1実施例が示されている。ESR測定装置は、装置本体140及び測定部142により構成される。測定部142は空洞共振器146及び磁場発生器を有する。空洞共振器146には、スタブを有する開口(放射窓)が形成されている。装置本体140は、マイクロ波回路、ロックインアンプ、分光計等を有している。装置本体140と測定部142との間には同軸ケーブル又はフレキシブル導波管が設けられる。図示された第1構成例においては、測定対象148の表面に沿って、マニュアルで測定部142が二次元走査される。2つの走査方向がx方向及びy方向である。測定対象148は、例えば板状の部材である。
【0054】
図12には、実施形態に係る走査型ESR測定装置の第2実施例が示されている。ESR測定装置は、装置本体及び測定部により構成される。測定部は、空洞共振器を有する。図12には、空洞共振器のキャビティ本体152が示されている。キャビティ本体152は円柱状の内部空間154を有し、その内部空間154に対して側方(紙面右側)からマイクロ波が導入される。これにより内部空間154において共振磁場160が生じる。キャビティ本体152の上部には、スタブ158を有する開口156が設けられている。開口156を通じて、共振磁場160の一部が漏れ出し、漏れ出た磁場がプローブ磁場162である。
【0055】
キャビティ本体152の上側に、具体的には、開口156に近接した位置に、測定対象が設けられている。測定対象は例えば半導体デバイスである。電気回路166は、測定対象に対して電源及び信号を供給するものである。電源及び信号が供給された状態で、測定対象に対してプローブ磁場が照射される。これにより測定対象で生じるESRが観測される。
【0056】
図12に示す第2実施例においては、例えば、測定対象164をx方向及びy方向に搬送する搬送設備が設けられる。空洞共振器がx方向及びy方向に搬送されてもよい。
【0057】
図13乃至図15には、スタブについての幾つかの変形例が示されている。図13において、第1変形例に係るスタブ170の先端172は半円状の形態を有する。スタブ170それ全体がZ方向に伸長しつつ、開口の中心を横切っている。
【0058】
図14において、第2変形例に係るスタブ174は、Z方向に沿って伸長した部分(基端部分及び中間部分)176と、円弧状又は弓状に広がった先端部分178と、を有する。伸長した部分176が開口の中心を横切っている。先端部分178の端面178Aは、開口縁の内面180Aに非接触で近接している。第2変形例によれば、キャパシタ成分を増大できる。
【0059】
図15において、第3変形例に係るスタブ182は、基端部分186、中間部分184、及び、先端部分188からなる。基端部分186は、開口縁に連なる基端を含む肥大した部分である。先端部分188は、開口縁から隔てられた先端を含む肥大した部分である。中間部分184は、基端部分186と先端部分188との間の部分である。中間部分184はZ方向に伸長しており、具体的には、中間部分184のY方向の幅は、開口の中心Cにおいて最も小さく、その中心からZ方向両側へ遠ざかるのに従って徐々に大きくなっている。このような構成を採用することにより、プローブ磁場の強度分布をよりシャープにできる。
【0060】
上記実施形態において、放射窓として機能する開口に対してスタブを設けることは容易である。よって、製造コストの増大はほとんど問題とならない。上記のように、開口内に受動素子としてのスタブを設けることにより、感度を増大でき且つ分解能を高められる。様々なESR測定装置に対して上記のスタブ技術を適用し得る。
【符号の説明】
【0061】
17,70 空洞共振器、18,74 キャビティ本体、20,82 開口、84 スタブ、88 共振磁場、90 プローブ磁場。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
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図15