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特開2025-9138二次電池の電解液の製造方法、二次電池の製造方法及び二次電池
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  • 特開-二次電池の電解液の製造方法、二次電池の製造方法及び二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009138
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】二次電池の電解液の製造方法、二次電池の製造方法及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20250110BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111932
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】岸見 裕子
(72)【発明者】
【氏名】松本 修明
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】トドロフ ヤンコ マリノフ
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031AA00
5H031BB02
5H031EE01
5H031EE03
5H031EE04
5H031HH00
5H031HH03
5H031HH06
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】使用後の二次電池に含まれる使用済みの電解液を効率よく回収し有効利用することで、希少資源の消費量を低減することができる二次電池の電解液の製造方法を提供する。
【解決手段】二次電池の電解液の製造方法は、使用後の二次電池を解体して内容物を取り出す工程(ステップS1)と、前記内容物を抽出用の溶媒に浸漬し、前記内容物に付着又は浸透している使用済みの電解液を抽出又は追い出して、抽出液を得る工程(ステップS2)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用後の二次電池を解体して内容物を取り出す工程と、
前記内容物を抽出用の溶媒に浸漬し、前記内容物に付着又は浸透している使用済みの電解液を抽出又は追い出して、抽出液を得る工程と、を備える、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記抽出用の溶媒が、二次電池の電解液の溶媒として使用可能な溶媒を主成分として含み、
前記抽出用の溶媒における前記主成分以外の成分の割合が5体積%以下である、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記抽出用の溶媒が、環状カーボネート、鎖状カーボネート及び環状エステルからなる群から選択される一種又は二種以上を主成分として含み、
前記抽出用の溶媒における前記主成分以外の成分の割合が5体積%以下である、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記抽出用の溶媒が、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びγ―ブチロラクトンからなる群から選択される一種又は二種以上を主成分として含み、
前記抽出用の溶媒における前記主成分以外の成分の割合が5体積%以下である、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記抽出用の溶媒における、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートからなる群から選択される一種又二種以上の合計の割合が60体積%以上である、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記抽出用の溶媒の粘度が、25℃において1.0cP以下である、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記抽出用の溶媒が、前記使用済みの電解液に含まれている溶媒から選択された溶媒である、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記抽出液を濃縮する工程をさらに備える、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記抽出液に別の溶媒を添加する工程をさらに備える、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記抽出用の溶媒又は前記抽出液に金属リチウム片が投入されている、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の電解液の製造方法であって、
前記使用後の二次電池から抽出される使用後の電解液は、リチウム塩と、有機溶媒とを含む、二次電池の電解液の製造方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の電解液の製造方法によって製造された電解液を用いて二次電池を製造する工程を備える、二次電池の製造方法。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の電解液の製造方法によって製造された電解液を備える、二次電池。
【請求項14】
請求項13に記載の二次電池であって、
前記二次電池の電解液において、請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の電解液の製造方法によって製造された電解液の割合が10~50体積%である、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電解液の製造方法、二次電池の製造方法及び二次電池に関する。本発明は、より詳しくは、使用後の二次電池に含まれる使用済みの電解液を効率よく回収して再利用可能な電解液を製造する方法、この電解液を用いた二次電池の製造方法、及びこの電解液を備える二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
EUを中心に、リチウムイオン二次電池等の二次電池のリサイクルに関する法規制の整備が進められている。具体的には、二次電池に使用した材料の規定割合以上を再度二次電池に利用しなければならないという法規制の整備が進められている。
【0003】
特開2010-34021号公報には、電池廃材からの酸化物含有電池材料の回収方法が記載されている。この回収方法は、酸化物を含有する電池材料が付着した基材を、酸化物が実質的に溶解しない溶剤に浸漬して電池材料を基材から剥離する工程と、剥離した電池材料を基材と分別する工程と、を含む。
【0004】
特許第5141970号公報には、リチウム電池の正極から正極活物質を回収する方法が記載されている。この回収方法が対象とするリチウム電池は、水系溶媒で分散された正極活物質と導電材と結着材とを含む材料が正極集電体の表面に付与されて成る正極活物質層を備える。この回収方法は、正極をアルカリ水溶液に浸漬して正極集電体から正極活物質層を剥離する工程、剥離した正極活物質層剥離物に有機溶媒を添加して剥離物から結着材を抽出する工程、及び、抽出工程後の抽出処理物から導電材を含む上澄み部分と正極活物質を含む沈降部分とを分離する工程、を包含する。
【0005】
特開2017-16941号公報には、電池ケースを含む電池構成部材から電解質を除去したうえでリチウムイオン電池を分解し、電池ケースを含む電池構成部材を無駄なく取り出して回収することが記載されている。この、電解液が充填された電池ケースの内部から電解質を除去する方法は、電池ケースに開口部を形成する開口部形成工程と、電解液を、電池ケースの内部から開口部を介して密封減圧された電解液回収トラップへ吸い出す電解液吸出工程と、電解質を含まない溶媒を、溶媒タンクから開口部を介して電池ケースの内部に注入する溶媒注入工程と、溶媒注入工程で電池ケースの内部に注入した溶媒と電池ケースの内部に残留する電解質とを含む混合液を、電池ケースの内部から開口部を介して密封減圧された電解液回収トラップへ吸い出す混合液吸出工程と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-34021号公報
【特許文献2】特許第5141970号公報
【特許文献3】特開2017-16941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
使用後の二次電池に含まれる材料のうち、電極(活物質や集電箔)や外装材の金属については、従来から水平リサイクル、湿式リサイクル及び乾式リサイクル等の各種の検討が行われている。これらは主に、有価金属や活物質として用いられている金属酸化物の回収を目的にしている。
【0008】
一方、二次電池に含まれる他の材料(電解液やセパレータ)については、特許文献3などに示されるように、一部で回収が検討されているものの、主に焼却処理がなされているのが現状である。しかしながら、電解液にはフッ素やリンといった資源価値の高い元素が含まれている場合がある。フッ素は原料である蛍石の資源枯渇リスクが叫ばれており、また、リンは資源枯渇リスクがプラネタリーバウンダリーを超えており、既に逼迫した状況にある。現状、リン消費の多くは肥料や製鉄によるものであり、これらの分野ではリサイクルの実施が進んでいる。今後、電気自動車の普及に伴い、二次電池によるフッ素及びリンの消費も飛躍的に増大すると考えられるため、二次電池からの資源回収及び再利用は重要な課題である。
【0009】
また、充放電サイクルが進行した二次電池では、電解液の分解などにより液量が減少し、そのまま電解液を取り出せないことが多く、特許文献3に示される工程では効率的な回収につながらないことが懸念される。
【0010】
本発明の課題は、使用後の二次電池に含まれる使用済みの電解液を効率よく回収し有効利用することで、希少資源の消費量を低減することができる二次電池の電解液の製造方法を提供することである。本発明の他の課題は、希少資源の消費量を低減することができる二次電池の製造方法を提供すること、及び希少資源の消費量が低減された二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態による二次電池の電解液の製造方法は、使用後の二次電池を解体して内容物を取り出す工程と、前記内容物を抽出用の溶媒に浸漬し、前記内容物に付着又は浸透している使用済みの電解液を抽出又は追い出して、抽出液を得る工程と、を備える。
【0012】
本発明の一実施形態による二次電池の製造方法は、上記の二次電池の電解液の製造方法によって製造された電解液を用いて二次電池を製造する工程を備える。
【0013】
本発明の一実施形態による二次電池は、上記の二次電池の電解液の製造方法によって製造された電解液を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、使用後の二次電池に含まれる使用済みの電解液を効率よく回収し有効利用することで、希少資源の消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態による二次電池の電解液の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[電解液の製造方法]
図1は、本発明の一実施形態による二次電池の電解液の製造方法のフロー図である。この製造方法は、使用後の二次電池を解体して内容物を取り出す工程(ステップS1)と、内容物を抽出用の溶媒に浸漬し、内容物に付着又は浸透している使用済みの電解液を抽出又は追い出して、抽出液を得る工程(ステップS2)と、抽出液を濃縮する工程(ステップS3)と、抽出液に別の溶媒を添加する工程(ステップS4)とを備えている。
【0017】
本実施形態による二次電池の電解液の製造方法は、使用後の二次電池に含まれる使用済みの電解液を回収して再利用可能な電解液を製造する方法である。「使用後の二次電池」とは、これに限定されないが、例えば充放電を繰り返すことによって放電容量が低下し、再使用に適さなくなって回収された二次電池である。二次電池は、例えばリチウムイオン二次電池である。
【0018】
本実施形態で回収の対象とする電解液、及び本実施形態で製造する電解液は、好ましくは非水溶媒に電解質を溶かした非水電解液である。回収の対象とする電解液と製造する電解液とは、同一の組成でなくてもよい。本実施形態で製造する電解液は、二次電池(好ましくは非水二次電池)の電解液(好ましくは非水電解液)として使用可能な電解液であればよい。
【0019】
電解液の電解質は、解離性の塩であり、金属塩、なかでもリチウム塩が好適に用いられる。リチウム塩としては、これらに限定されないが、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF))が好適に用いられ、なかでもLiPF及びLiN(SOF)が特に好適に用いられる。
【0020】
電解液の溶媒は、好ましくは非水溶媒であり、なかでも有機溶媒、特に有機極性溶媒が好適に用いられる。電解液の溶媒として使用可能な溶媒の具体例等は後述する。
【0021】
[内容物を取り出す工程(ステップS1)]
まず、使用後の二次電池を解体して内容物を取り出す(ステップS1)。二次電池の内容物は主に、正負の電極、セパレータ及び電解液である。これらの内容物は一般的に、金属製の外装体又はラミネートフィルムからなる外装体に収容されている。二次電池にはこれらの他、リード線や集電タブ、電気絶縁のためのスペーサ等の部品が含まれている場合がある。正負の電極、セパレータ及び電解液以外の部品(スペーサ等、電解液の付着が少ない部品)は、次の抽出工程(ステップS2)で抽出溶媒に浸漬する対象に含めてもよいし、含めなくてもよい。
【0022】
電極及びセパレータは一般的に、シート状の電極とシート状のセパレータとを積層した電極積層体、又は帯状の電極と帯状のセパレータとを重ねて巻回した電極巻回体の状態で外装体に収納されている。なお電極積層体の場合、電極が袋状のセパレータ内に収納されている場合もある。以下、このような電極とセパレータとからなる構造体を「電極体」と呼ぶ。リチウムイオン二次電池等の二次電池では通常、電解液の使用量は最低限に留められており、電解液の殆どは、電極体等の内容物に付着又は浸透した状態で存在している。
【0023】
使用後の二次電池を解体して内容物を取り出す工程(ステップS1)は、外装体を除去するだけでもよい。使用済みの電解液を回収後に電極体をリユース又はリサイクルする観点から、電極体は分解せずにそのままの状態で取り出すことが好ましい。
【0024】
[電解液を抽出する工程(ステップS2)]
次に、ステップS1で取り出した内容物を抽出用の溶媒に浸漬し、内容物に付着又は浸透している使用済みの電解液を抽出又は追い出す(ステップS2)。より具体的には、抽出用の溶媒(以下「抽出用溶媒」という。)を耐溶剤性の容器等に注入し、ステップS1で取り出した内容物をこの抽出用溶媒に浸漬する。なお、ステップS1で取り出した内容物のすべてを抽出用溶媒に浸漬しなければならない訳ではなく、ステップS1で取り出した内容物の一部のみ(例えば正極のみ、負極のみ、又はセパレータのみ)を浸漬してもよい。
【0025】
上述のとおり、使用後の二次電池に含まれている使用済みの電解液の殆どは、電極体等の内容物に付着又は浸透した状態で存在しており、遊離した液滴として回収できる状態では存在していないことが多い。本実施形態では、内容物を抽出用溶媒に浸漬して、内容物に付着又は浸透した電解液を抽出用溶媒に溶出させるか、又は追い出すことで回収する。以下、この工程によって得られる、抽出用溶媒に使用済みの電解液を溶出させた(あるいは追い出した)液体を「抽出液」と呼ぶ。
【0026】
抽出用溶媒は、二次電池の電解液の溶媒として使用可能な溶媒を主成分とすることが好ましい。換言すれば、抽出用溶媒は、二次電池の電解液の溶媒に適さない溶媒をできるだけ含まないことが好ましい。二次電池の電解液の溶媒に適さない溶媒とは例えば、二次電池の使用温度で不安定になる溶媒、電解液の特性(イオン移動度等)を大きく低下させる溶媒、電気化学的に酸化分解や還元分解する溶媒、粘度が著しく高い溶媒、及び二次電池の構成部材(電極、セパレータ及び外装体等)を腐食させる溶媒等である。
【0027】
抽出用溶媒に二次電池の電解液の溶媒に適さない溶媒が含まれている場合、抽出液にもこの溶媒が含まれることになる。この溶媒は、化学的又は物理的操作によって抽出液から分離できる場合もあるが、完全に除去することが困難な場合もある。また、分離の操作が必要になることで工程が複雑化しコスト増の原因ともなる。抽出用溶媒として二次電池の電解液の溶媒として使用可能な溶媒を用いることで、抽出液をそのまま、あるいは比較的簡単な操作を加えただけで電解液として使用することができる。
【0028】
二次電池の電解液の溶媒として使用可能な溶媒としては、具体的には、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)のような環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)のような鎖状カーボネート類、及びγ―ブチロラクトン(γ―BL)のような環状エステル類等が挙げられる。
【0029】
抽出用溶媒は、上記の溶媒に特に限定されないが、上記の溶媒からなる群から選択される一種又は二種以上を主成分とすることが好ましい。この場合において、抽出用溶媒における主成分以外の成分の割合は、40体積%以下であることが好ましい。主成分以外の成分の割合は、より好ましくは20体積%以下であり、さらに好ましくは5体積%以下であり、最も好ましくは0体積%である。
【0030】
上記の溶媒の中でも、DMC、DEC及びEMCが特に好ましい。そのため、抽出用溶媒における、これらの特に好ましい溶媒からなる群から選択される一種又は二種以上の合計の割合が60体積%以上であることが好ましい。これらの特に好ましい溶媒からなる群から選択される一種又は二種以上の合計の割合は、より好ましくは80体積%以上であり、さらに好ましくは95体積%以上であり、最も好ましくは100体積%である。
【0031】
抽出用溶媒は、粘度の低い溶媒であることが好ましい。溶媒の粘度が低いほど、電解液をより抽出しやすくなるためである。例えば、PCやECよりも、DECやDMCを選択することが好ましい。抽出用溶媒の粘度は、好ましくは25℃において5.0cP以下であり、より好ましくは25℃において2.0cP以下であり、さらに好ましくは25℃において1.0cP以下である。
【0032】
抽出用溶媒は、回収しようとする電解液に含まれている溶媒と同じ溶媒でなくてもよい。もっとも、回収しようとする電解液と同様の電解液を製造しようとする場合には、回収しようとする電解液(使用後の二次電池に含まれている電解液)に含まれている溶媒から選択する溶媒を用いることが好ましい。例えば、回収しようとする電解液の溶媒がECとDECとの混合溶媒である場合には、EC又はDEC、あるいはその混合溶媒を用いることが好ましい。なお、溶媒の比率(混合比率)は後工程で調整できるため、回収しようとする電解液と同様の電解液を製造しようとする場合であっても、抽出用溶媒を構成する溶媒の比率を回収しようとする電解液の溶媒の比率と同じにする必要はない。
【0033】
なお、回収しようとする電解液の組成等の情報を直接分析して取得することは困難である。電解液を分析するためには例えば遠心分離法等の他の方法で電解液を回収する必要があり、再利用を目的とした本実施形態の方法に適用できなくなるためである。そのため、回収しようとする電解液と同様の電解液を製造しようとする場合には、回収しようとする電解液の情報(電解質の種類、溶媒の種類等)を回収対象の二次電池の製品情報等から取得することが好ましい。
【0034】
抽出用溶媒への浸漬時間は、これに限定されないが、例えば1~24時間である。浸漬時間を長くするほど、より多くの電解液を回収することができる。一方、浸漬時間が長くなると回収量の増加が鈍化する。浸漬時間と電解液の回収量との関係は種々の条件に依存するが、ある条件の実験では、5~6時間の浸漬で60体積%、12時間の浸漬で70体積%の電解液を回収することができた。一方、80体積%の電解液を回収するためには約36時間を要した。浸漬時間の下限は、好ましくは3時間であり、さらに好ましくは5時間である。浸漬時間の上限は、特に限定されないが、効率の点から好ましくは18時間であり、さらに好ましくは12時間である。
【0035】
浸漬条件は、常温の抽出用溶媒に内容物を浸漬しておくだけでよいが、必要に応じて加温するなどにより抽出用溶媒の温度を調整したり、容器(浸漬槽)を揺動したり、抽出用溶媒を攪拌したりしてもよい。抽出用溶媒を加温する場合の温度は、溶媒の揮発を防ぐため、例えば、70℃以下とすることが好ましく、50℃以下とすることがより好ましく、40℃以下とすることが特に好ましい。
【0036】
また、容器への新たな抽出用溶媒の注入と容器からの抽出液の取り出しを一定時間連続して行うことにより、容器に入れられた内容物の周囲で、一定時間新たな抽出用溶媒を通過させながら電解液を抽出するのであってもよい。
【0037】
[抽出液を濃縮する工程(ステップS3)]
電解液を抽出した後、抽出液と内容物(電極体等)とを分離し、抽出液を濃縮する(ステップS3)。電解液を抽出する工程(ステップS2)直後の抽出液は、抽出用溶媒を加えているため、電解質(リチウム塩等)の濃度が小さくなっている。抽出液を濃縮することで、電解質の濃度を所定の濃度に調整することができる。濃縮の方法としては、例えば減圧蒸留を用いることができる。
【0038】
[溶媒を添加する工程(ステップS4)]
必要に応じて、抽出液に別の溶媒を添加する(ステップS4)。電解液を抽出する工程(ステップS2)直後の抽出液、又は抽出液を濃縮する工程(ステップS3)直後の抽出液は、抽出用溶媒の比率が高くなっているため、別の溶媒を加えて抽出液の溶媒の比率を調整する。例えば、抽出用溶媒としてDECを使用して、ECとDECとの混合溶媒を含む電解液を回収した場合、抽出液(又はその濃縮液)にECを添加することで、抽出液の溶媒の比率を元の電解液の溶媒の比率に近づけることができる。
【0039】
既述のとおり、本実施形態による二次電池の電解液の製造方法は、回収しようとする電解液と同じ組成の電解液を製造することのみを目的としている訳ではない。そのため、抽出液に別の溶媒を添加する工程(ステップS4)においても、回収しようとする電解液に含まれている溶媒とは異なる溶媒を添加してもよい。添加する溶媒は、抽出用溶媒の場合と同様、二次電池の電解液の溶媒として使用可能な溶媒を主成分とすることが好ましい。
【0040】
この工程(ステップS4)は任意の工程であり、この工程を実施しなくても抽出液は二次電池の電解液として作用し得るが、この工程を行うことで溶媒の比率が最適化され、電解液の性能をより向上させることができる。
【0041】
以上の工程によって、二次電池の電解液が製造される。電解液の電解質の濃度は、目的とする二次電池の仕様や用途に応じて適宜調整すればよいが、例えば二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、全ての工程を終えた後の電解液(抽出液)の電解質の濃度が、0.3~3.0Mの範囲内になることが好ましい。溶媒を添加する工程(ステップS4)を行う場合には、添加する溶媒の量も考慮して、抽出液を濃縮する工程(ステップS3)における濃縮度合を調整することが好ましい。
【0042】
電解液を抽出する工程(ステップS2)、抽出液を濃縮する工程(ステップS3)及び溶媒を添加する工程(ステップS4)の一以上の工程において、抽出用溶媒又は抽出液に金属リチウム片を投入しておくことが好ましい。これによって、抽出用溶媒及び抽出液の不純物を除去することができる。金属リチウム片の重量や大きさに特に制限はないが、過剰に投入すればリチウム資源を徒に消費することになるため、最小限の小片を投入すればよい。金属リチウム片の大きさは、処理する電解液量によって異なり、特に制限されるものではない。例えば10mm×10mm×0.25mm程度である。
【0043】
処理後の内容物(電極体等)には、未回収の電解液が残存しているため、再度、新しい抽出用溶媒に浸漬して電解液を回収するようにしてもよい。また、この操作をさらに繰り替えしてもよい。ただし、電極体等に物理吸着した電解液を100%回収することは現実的に困難であり、また、回数を重ねるごとに抽出濃度が低下するため、濃縮のコストが嵩むことになる。そのため、複数回実施するとしても2回程度とすることが現実的である。
【0044】
製造した電解液(抽出液)には、必要に応じて、さらに任意の添加物(例えばビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,3-プロパンスルトン、アジポニトリル等)を加えてもよい。
【0045】
製造した電解液(抽出液)はまた、別の電解液と混合して使用してもよい。例えば、通常の方法で製造した電解液(新品電解液)に、本実施形態による製造方法によって製造した電解液(再生電解液)を所定割合で混合して使用してもよい。この場合、全体の電解液において、本実施形態による製造方法によって製造した電解液(再生電解液)の割合を10~50体積%にすることが好ましい。
【0046】
[二次電池の製造方法及び二次電池]
本発明の一実施形態による二次電池の製造方法は、上述した電解液の製造方法によって製造された電解液を用いて二次電池を製造する工程を備える。本発明の一実施形態による二次電池は、上述した電解液の製造方法によって製造された電解液を備える。
【0047】
[本実施形態の効果]
以上、本発明の一実施形態による二次電池の電解液の製造方法、二次電池の製造方法及び二次電池について説明した。本発明によれば、使用後の二次電池に含まれる使用済みの電解液を効率よく回収し有効利用することで、希少資源の消費量を低減することができる。
【0048】
本実施形態では、フッ素やリン等の希少資源を分離して回収するのではなく、「電解液」としての機能を保有した状態で回収して再利用する。フッ素やリンを分離して回収する場合、CaFやPOとして回収することが考えられるが、これらを再び電解液として使用するためには、これらの物質から再度電解液を合成する必要がある。本実施形態によれば、「電解液」としての機能を保有した状態で回収することで、低コストで回収及び再利用を行うことができる。
【0049】
使用後の二次電池から使用済みの電解液を回収する他の方法としては、例えば分析用に電解液を回収する場合であれば、二次電池の外装体に小さな穴を開けた後、遠心分離器にかける等して電解液を回収する方法がある。この方法は、二次電池を一つずつ処理するバッチ式の処理であるため、大量の処理に適さない。複数の二次電池を同時に処理する場合には、相応の大型の装置が必要となる。
【0050】
また、本実施形態による方法とは目的が異なるが、電解液からリチウムを回収するのであれば、溶媒抽出法も用いられる。この方法は、電解液と相溶性がなく、かつリチウム溶解性の高い溶媒を使用して、リチウムを溶媒中に抽出する方法である。この方法では、抽出したい元素又はイオンごとに分けて抽出することができるが、電解液として再利用する場合には、再度、リチウム塩の合成と、溶媒への調合が必要となる。
【0051】
これらに対して本実施形態による二次電池の電解液の製造方法によれば、使用済みの電解液を「電解液」としての機能を保有した状態で回収し、再利用することができる。また、複数の電極体を一つの容器(浸漬槽)に入れることで一度に大量処理することも可能である。
【実施例0052】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0053】
使用後の二次電池(劣化セル)から回収した電解液を使用して小型のラミネート型二次電池(カードセル)を作製して電池評価を実施した。
【0054】
劣化セルに使用されている電解液は電解質としてLiPFを含み、溶媒としてEC、DEC及びEMCを含むものであった。解体時の溶媒の比率は確認していない。劣化セルを解体して内容物を抽出用溶媒に浸漬した。抽出用溶媒はDMCを使用した。24時間の浸漬で、回収率は概ね60~70体積%であった。
【0055】
濃縮前の抽出液の組成は下記のとおりであった。
LiPFの濃度 0.027M
溶媒の比率(体積%) EC/DEC/DMC/EMC=0.86/0.73/97.38/1.03
【0056】
濃縮後の抽出液の組成は下記のとおりであった。
[回収例1]
LiPFの濃度 0.43M
溶媒の比率(体積%) EC/DEC/DMC/EMC=15.08/4.98/76.65/3.29
【0057】
同様にして、同種の劣化セルから電解液を回収し、濃縮度合を変更して下記の組成の電解液を得た。
[回収例2]
LiPFの濃度 0.29M
溶媒の比率(体積%) EC/DEC/DMC/EMC=11.70/8.97/66.49/12.84
[回収例3]
LiPFの濃度 0.12M
溶媒の比率(体積%) EC/DEC/DMC/EMC=5.09/4.13/85.06/5.72
【0058】
参照用に、下記の電解液を用いてカードセルを作製した。
[参照用電解液]
LiPFの濃度 1.0M
溶媒の比率(体積%) EC/DEC=30/70
【0059】
電池評価に使用したカードセルは、正極にLCO、負極にグラファイトを含み、容量が18mAhのものであった。電解液として回収例1~3の電解液、及び参照用電解液を用いたカードセルの充放電試験を行った。結果を表1に示す。表1において、「初回効率」は、初回充電容量に対する初回放電容量の割合を表す。
【0060】
【表1】
【0061】
これらの結果から、劣化セルから回収された電解液は、いずれも二次電池用の電解液として再利用可能であることが確認された。LiPFの濃度が低い回収例3では、塩濃度がやや足りずに負荷特性が低い傾向があるが、濃縮度を調整し、最適な塩濃度とすることで使用可能であることが確認された。また、LiPFの濃度を0.4M程度にまで濃縮した場合には、新品の参照用電解液と遜色のない電池特性を示すことが確認された。
【0062】
以上、本発明についての実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態のみに限定されず、発明の範囲内で種々の変更が可能である。
図1