(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009153
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】SiC基板の加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20250110BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20250110BHJP
B24B 7/04 20060101ALI20250110BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20250110BHJP
B24B 37/12 20120101ALI20250110BHJP
【FI】
H01L21/304 622Q
B24B1/00 A
B24B7/04 A
B24B37/00 H
B24B37/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111961
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】酒井 歩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝雅
【テーマコード(参考)】
3C043
3C049
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C043BA03
3C043BA09
3C043BA16
3C043CC04
3C043DD05
3C043DD06
3C049AA02
3C049AA07
3C049AB04
3C049CA01
3C049CA05
3C049CB02
3C158AA07
3C158AB04
3C158AC04
3C158CB02
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA12
3C158EB01
3C158EB09
3C158EB29
3C158ED08
3C158ED09
3C158ED10
3C158ED11
3C158ED12
3C158ED23
5F057AA06
5F057AA21
5F057BA12
5F057BB09
5F057CA11
5F057DA03
5F057DA38
5F057EC30
5F057FA36
(57)【要約】
【課題】過マンガン酸イオンを含む研磨液を用いたSiC基板の研磨工程を含むSiC基板の加工方法において、SiC基板の一面に高品質なエピタキシャル成長層を形成可能なSiC基板の加工方法を提供する。
【解決手段】SiC基板の一面に過マンガン酸塩が溶解した水溶液を含む酸性の研磨液を供給しながらSiC基板を研磨する研磨工程と、研磨工程後、SiC基板の一面を洗浄する洗浄工程と、を備え、洗浄工程は、SiC基板の他面をスピンナテーブルで保持した状態でスピンナテーブルを回転させながら、金属酸化物の金属と過マンガン酸塩のマンガン酸イオンとを還元可能な還元洗浄液をSiC基板の一面に供給する還元洗浄工程と、還元洗浄工程の後、還元洗浄液の供給を停止した上で、SiC基板の他面を保持したスピンナテーブルを回転させながら、純水をSiC基板の該一面に供給する純水洗浄工程と、を有するSiC基板の加工方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板の加工方法であって、
該SiC基板の一面が露出する様に、該SiC基板の他面をチャックテーブルで保持し、且つ、該SiC基板の該一面に研磨パッドを接触させた状態で、該SiC基板の該一面に過マンガン酸塩が溶解した水溶液を含む酸性の研磨液を供給しながら、該SiC基板を研磨する研磨工程と、
該研磨工程後、該SiC基板の該一面を洗浄する洗浄工程と、
を備え、
該研磨工程の後且つ該洗浄工程の前の該一面にはパーティクルが残留し、該パーティクルは金属酸化物と該過マンガン酸塩との一方又は両方を含んでおり、
該洗浄工程は、
該SiC基板の該他面をスピンナテーブルで保持した状態で該スピンナテーブルを回転させながら、該金属酸化物の金属と該過マンガン酸塩のマンガン酸イオンとを還元可能な還元洗浄液を該SiC基板の該一面に供給する還元洗浄工程と、
該還元洗浄工程の後、該還元洗浄液の供給を停止した上で、該SiC基板の該他面を保持した該スピンナテーブルを回転させながら、純水を該SiC基板の該一面に供給する純水洗浄工程と、を有することを特徴とするSiC基板の加工方法。
【請求項2】
該還元洗浄液は、硫酸ヒドロキシルアミンが水に溶解した水溶液を含むことを特徴とする請求項1に記載のSiC基板の加工方法。
【請求項3】
該還元洗浄液は、酸及び過酸化水素が水に溶解した水溶液を含むことを特徴とする請求項1記載のSiC基板の加工方法。
【請求項4】
該研磨工程の前に、該SiC基板の該一面を研削ホイールで研削して、該SiC基板を所定の厚さまで薄化する研削工程を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のSiC基板の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC基板の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力の変換、制御等を行う半導体デバイスとして、高耐圧であり大電流を制御可能なパワーデバイスが注目されている。パワーデバイスは、例えば、シリコン(Si)の単結晶基板に比べてバンドギャップが大きく且つ絶縁破壊電界強度が高い炭化ケイ素(SiC)の単結晶基板の一面側に形成される。
【0003】
一般的に、パワーデバイスは、SiC単結晶で構成された基板(以下、SiC基板)の一面上に結晶欠陥が低減された高品質なSiCエピタキシャル成長層を形成した後、このSiCエピタキシャル成長層側に形成される。
【0004】
SiC基板の一面上にSiCエピタキシャル成長層を形成する前には、SiC基板の一面を平坦化するために当該一面に対して化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)を行う必要がある。
【0005】
従来、SiC基板に対する化学機械研磨として、過マンガン酸塩、酸化力を有する無機塩類及び水を含有する研磨液を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
過マンガン酸塩は、研磨液中で電離して過マンガン酸イオン(MnO4
-)となる。過マンガン酸イオンは、SiC基板の研磨時に、SiC基板の被研磨面を酸化する酸化剤として機能する。
【0007】
ところで、最近、過マンガン酸イオンを含む研磨液を用いてSiC基板の一面側を研磨すると、エピタキシャル成長層に格子欠陥、転位等が発生し、高品質なエピタキシャル成長層が形成できない場合があることが確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、過マンガン酸イオンを含む研磨液を用いたSiC基板の研磨工程を含むSiC基板の加工方法において、SiC基板の一面に高品質なエピタキシャル成長層を形成可能なSiC基板の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、SiC基板の加工方法であって、該SiC基板の一面が露出する様に、該SiC基板の他面をチャックテーブルで保持し、且つ、該SiC基板の該一面に研磨パッドを接触させた状態で、該SiC基板の該一面に過マンガン酸塩が溶解した水溶液を含む酸性の研磨液を供給しながら、該SiC基板を研磨する研磨工程と、該研磨工程後、該SiC基板の該一面を洗浄する洗浄工程と、を備え、該研磨工程の後且つ該洗浄工程の前の該一面にはパーティクルが残留し、該パーティクルは金属酸化物と該過マンガン酸塩との一方又は両方を含んでおり、該洗浄工程は、該SiC基板の該他面をスピンナテーブルで保持した状態で該スピンナテーブルを回転させながら、該金属酸化物の金属と該過マンガン酸塩のマンガン酸イオンとを還元可能な還元洗浄液を該SiC基板の該一面に供給する還元洗浄工程と、該還元洗浄工程の後、該還元洗浄液の供給を停止した上で、該SiC基板の該他面を保持した該スピンナテーブルを回転させながら、純水を該SiC基板の該一面に供給する純水洗浄工程と、を有するSiC基板の加工方法が提供される。
【0011】
好ましくは、該還元洗浄液は、硫酸ヒドロキシルアミンが水に溶解した水溶液を含む。
【0012】
また、好ましくは、該還元洗浄液は、酸及び過酸化水素が水に溶解した水溶液を含む。
【0013】
また、好ましくは、SiC基板の加工方法は、該研磨工程の前に、該SiC基板の該一面を研削ホイールで研削して、該SiC基板を所定の厚さまで薄化する研削工程を更に備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係るSiC基板の加工方法では、過マンガン酸塩が溶解した水溶液を含む酸性の研磨液を供給しながらSiC基板を研磨する(研磨工程)。研磨工程後には、金属酸化物及び過マンガン酸塩の一方又は両方を含むパーティクルがSiC基板の一面に残留する。
【0015】
例えば、過マンガン酸塩に含まれるマンガンに起因するマンガン酸化物及び過マンガン酸塩の一方又は両方を含むパーティクルがSiC基板の一面に残留する。このパーティクルは、エピタキシャル成長層の高品質化を妨げる原因となり得る。
【0016】
そこで、研磨工程後の洗浄工程では、金属酸化物の金属と過マンガン酸塩のマンガン酸イオンとを還元可能な還元洗浄液でSiC基板の一面を洗浄する還元洗浄工程と、還元洗浄工程の後、純水でSiC基板の一面を洗浄する純水洗浄工程と、を行う。
【0017】
これにより、SiC基板の一面に残留する金属酸化物及び/又は過マンガン酸塩を含むパーティクルの数を低減できるので、SiC基板の一面にエピタキシャル成長層を形成する際に、SiC基板の単位面積当たりにおける格子欠陥、転位等の発生を低減できる。即ち、高品質なエピタキシャル成長層を形成可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施形態におけるSiC基板の加工方法のフロー図である。
【
図3】洗浄工程における還元洗浄工程を示す側面図である。
【
図4】洗浄工程における純水洗浄工程を示す側面図である。
【
図5】洗浄工程における乾燥工程を示す側面図である。
【
図6】還元洗浄工程、純水洗浄工程及び乾燥工程を経たSiC基板の一面におけるパーティクルの数及び位置を示す画像である。
【
図7】純水洗浄工程及び乾燥工程を経たSiC基板の一面におけるパーティクルの数及び位置を示す比較例の画像である。
【
図8】第2の実施形態におけるSiC基板の加工方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態におけるSiC基板11(
図2参照)の加工方法のフロー図である。本実施形態では、研磨工程S10及び洗浄工程S20の順に各工程を行う。
【0020】
まず、
図2を参照し、研磨工程S10で使用する研磨装置2について説明する。
図2に示すZ軸方向は、研磨装置2の高さ方向であり、例えば、鉛直方向と略平行である。+Z方向及び-Z方向は、共にZ軸方向と平行であるが、互いに逆向きの方向である。なお、本明細書では、+Z方向を上と称し、-Z方向を下と称する場合がある。
【0021】
研磨装置2は、チャックテーブル4を有する。チャックテーブル4は、円盤状の枠体を有する。枠体は、例えば、非多孔質のセラミックス(例えば、非多孔質のアルミナ)で形成されている。枠体の中央部には枠体の径よりも小径の円盤状の凹部(不図示)が形成されている。
【0022】
この凹部には、多孔質のセラミックス(例えば、多孔質のアルミナ)で形成された円盤状の多孔質板が固定されていている。枠体には、所定の流路が形成されており、所定の流路には、管部(不図示)等を介して真空ポンプ等の吸引源(不図示)が接続されている。
【0023】
吸引源で生じた負圧が多孔質板に伝達されると、多孔質板の上面には負圧が生じる。枠体の環状の上面と、多孔質板の円形の上面とは、略面一且つ略平坦となっており、SiC基板11等の被加工物を吸引保持するための保持面4aとして機能する。保持面4aは、XY平面と略平行に配置されている。
【0024】
チャックテーブル4の下部、且つ、チャックテーブル4の径方向の中心部には、チャックテーブル4の回転軸4bが設けられている。回転軸4bは、Z軸方向に沿って配置されており、チャックテーブル4は、回転軸4bの周りに回転可能である。
【0025】
回転軸4bには、サーボモータ等の回転駆動機構(不図示)から動力が伝達される。回転駆動機構が動作することにより、チャックテーブル4は回転軸4bの周りを回転する。保持面4aの上方には、研磨ユニット6が配置されている。
【0026】
研磨ユニット6は、円筒状のスピンドルハウジング(不図示)を有する。スピンドルハウジングの長手方向は、Z軸方向に沿って配置されている。スピンドルハウジングには、ボールねじ式のZ軸方向移動機構(不図示)が取り付けられている。
【0027】
Z軸方向移動機構は、スピンドルハウジングをZ軸方向に沿って移動させる。後述する研磨工具12の被研磨物への押圧力は、Z軸方向移動機構によって調節される。スピンドルハウジングには、円柱状のスピンドル8の一部が回転可能に収容されている。
【0028】
スピンドル8の長手方向は、Z軸方向に沿って配置されている。スピンドル8の上端部近傍には、サーボモータ等の回転駆動源(不図示)が設けられている。回転駆動源を動作させると、スピンドル8が回転する。
【0029】
スピンドル8の下端部は、スピンドルハウジングよりも下方に突出している。スピンドル8の下端部には、円盤状のマウント10の上面の中央部が固定されている。マウント10の下面には、円盤状の研磨工具12が装着されている。スピンドル8を回転させれば、マウント10及び研磨工具12が一体的に回転する。
【0030】
研磨工具12は、円盤状のベース14を含む。ベース14の上面14aには、マウント10の下面が接しており、ベース14の下面14bには、ベース14と略同径であり円盤状の研磨パッド16が固定されている。研磨パッド16は、発泡硬質ポリウレタンで形成された基材を有し、基材中には、シリカ(酸化シリコン、SiO2)等の砥粒が固定されている。
【0031】
なお、砥粒の材料は、シリカに限定されない。砥粒は、GC(グリーンカーボン)、ダイヤモンド、アルミナ(酸化アルミニウム、Al2O3)、セリア(酸化セリウム、CeO2)、cBN(cubic boron nitride)、炭化ケイ素(SiC)で形成されてもよい。
【0032】
また、研磨パッド16の基材も、発泡硬質ポリウレタンに限定されず、他の発泡硬質材料で形成されていてもよく、ウレタンが含浸された不織布で形成されていてもよい。
【0033】
上述の様に、本実施形態の研磨パッド16には砥粒が固定されているが、研磨パッド16には砥粒が固定されていなくてもよい。研磨パッド16に砥粒が固定されていない場合、砥粒は、後述する研磨液18aに遊離砥粒として含まれる。
【0034】
スピンドル8、マウント10、及び、研磨工具12は、略同心状に配置されている。スピンドル8、マウント10、及び、研磨工具12の各径方向の中心部には、研磨液18aの流路となる貫通孔8a,10a,14c,16aが形成されている。
【0035】
スピンドル8の貫通孔8aには、研磨液供給源18が接続されている。研磨液供給源18は、研磨液18aが貯留された貯留槽(不図示)と、貯留槽から研磨液18aを供給するためのポンプ(不図示)と、を含む。
【0036】
研磨時には、各貫通孔8a,10a,14c,16aを介して、研磨パッド16及び被研磨物に研磨液18aが供給される。本実施形態の研磨液18aは、砥粒を含まない酸性の水溶液であり、特に、酸化剤と、pH調整剤とが、純水(溶媒)に溶解した水溶液である。
【0037】
水溶液中で酸化剤として機能する材料としては、過マンガン酸ナトリウム(NaMnO4)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)等の過マンガン酸塩が用いられるが、過マンガン酸カリウムに比べて溶解度の高い過マンガン酸ナトリウムを用いる方が好ましい。なお、研磨液18aに過マンガン酸ナトリウムを用いる場合、研磨液18aは淡赤色を呈する。
【0038】
pH調整剤としては、硝酸ランタン(La(NO3)3)又は硝酸セリウム(Ce(NO3)3)が用いられる。なお、本明細書の硝酸セリウムは、三価のセリウムイオン(即ち、Ce3+)と、硝酸イオン(即ち、NO3-)と、のイオン化合物である。
【0039】
硝酸ランタン、硝酸セリウム等のpH調整剤で研磨液18aを強酸性(例えば、pHが3未満の所定値)とすることにより、過マンガン酸の酸化能力を十分に発揮させることができる。過マンガン酸の酸化能力が十分に発揮されると、単位時間あたりに研磨により除去されるSiC基板11の厚さ(即ち、研磨レート)を高くできる。
【0040】
但し、硝酸ランタン及び硝酸セリウムに代えて、硝酸イットリウム(Y(NO3)3)、硝酸ジルコニル(オキシ硝酸ジルコニウムとも呼ばれる)(ZrO(NO3)2)等の硝酸系の水溶性化合物を用いてもよい。
【0041】
上述の硝酸系の水溶性化合物に代えて、塩化ランタン(LaCl3)、塩化セリウム(CeCl3)、塩化イットリウム(YCl3)、塩化ジルコニル(酸化塩化ジルコニウム又はジルコニウムオキシクロリドとも呼ばれる)(ZrOCl2)等の塩酸系の水溶性化合物を用いてもよい。
【0042】
また、上述の硝酸系及び塩酸系の水溶性化合物に代えて、硫酸ランタン(La2(SO4)3)、硫酸セリウム(Ce(SO4)2)、硫酸イットリウム(Y2(SO4)3)、硫酸ジルコニル(硫酸ジルコニウムとも呼ばれる)(ZrOSO4)等の硫酸系の水溶性化合物を用いてもよい。
【0043】
SiC基板11の研磨では、一面11aの酸化と、酸化により形成された酸化シリコン層の除去と、が交互に繰り返される。具体的には、まず、SiC基板11の一面11aに研磨液18aが供給されると、過マンガン酸の酸化作用により一面11a側のSi原子が酸化されて、酸化シリコン(例えば、SiO2)層が形成される。
【0044】
なお、SiC基板11のC原子は、カルボキシル基、二酸化炭素等に変化する。カルボキシル基は、金属イオン(例えば、La3+、Ce3+)、砥粒等に配位してSiC基板11から引き抜かれる。また、二酸化炭素は、炭酸イオンとして研磨液18aに溶解したり、気体となり研磨液18aから外に排出されたりする。
【0045】
一面11a側に形成された酸化シリコン層は、SiCの結晶に比べて柔らかい。酸化シリコン層が砥粒により物理的に削り取られることで、新たなSiCの結晶面が露出する。以降、同様に、酸化による酸化シリコン層の形成と、砥粒による酸化シリコン層の物理的な削り取りとが、交互に繰り返される。
【0046】
SiC基板11は、円盤状であり、厚さ方向において互いに反対側に位置するそれぞれ円形の一面11a及び他面11bを有する。一面11a及び他面11bのうち一方が、Si面である場合、他方はC面である。
【0047】
図2は、研磨工程S10を示す一部断面側面図である。研磨工程S10では、まず、SiC基板11の一面11aが露出する様に、他面11bを保持面4aで吸引保持する。次いで、チャックテーブル4を研磨ユニット6の直下に配置する。
【0048】
そして、研磨ユニット6を下方に移動させることで研磨パッド16を所定の圧力で一面11aに押圧しながら、チャックテーブル4と、スピンドル8(即ち、スピンドル8に装着されている研磨工具12)と、をそれぞれ所定の回転速度で回転させると共に、研磨液供給源18から一面11aに所定の流量で研磨液18aを供給する。
【0049】
この様に、一面11aに研磨パッド16を接触させた状態で研磨液18aを一面11aに供給しながら、一面11aを研磨する。研磨工程S10では、例えば、6インチ(約150mm)の径を有するSiC基板11のSi面を研磨する。研磨条件の一例を下記に示す。
【0050】
スピンドルの回転数 :750rpm
チャックテーブルの回転数:745rpm
押圧力 :39.2kPa
供給される研磨液の流量 :200ml/min
研磨時間 :620s
【0051】
研磨工程S10において上述の研磨液18aを供給しながらSiC基板11を研磨すると、研磨工程S10の後(且つ洗浄工程S20の前)には、金属酸化物と過マンガン酸塩との一方又は両方を含むパーティクル13(
図3参照)が一面11aに残留する。なお、
図3では、パーティクル13を誇張して大きく示している。
【0052】
出願人が鋭意探求したところ、過マンガン酸塩に含まれるマンガンに起因するマンガン酸化物(MnO2、MnO3等)及び/又は過マンガン酸塩(NaMnO4等)を含むパーティクル13がSiC基板11の一面11aに残留しており、このパーティクル13が、一面11aに形成されるエピタキシャル成長層の高品質化を妨げる原因であろうとの結論に達した。
【0053】
そこで、研磨工程S10後の洗浄工程S20では、金属酸化物の金属と過マンガン酸塩の過マンガン酸イオインとを還元可能な還元洗浄液21をSiC基板11の一面11aに供給して一面11aを洗浄する還元洗浄工程S22(
図3参照)と、還元洗浄工程S22の後、純水23を一面11aに供給して一面11aを洗浄する純水洗浄工程S24(
図4参照)と、一面11aを乾燥させる乾燥工程S26(
図5参照)と、を順次行う。
【0054】
まず、
図3を参照し、洗浄工程S20で使用するスピンナ洗浄装置20について説明する。スピンナ洗浄装置20は、円盤状のスピンナテーブル22を有する。スピンナテーブル22の構造は、研磨装置2のチャックテーブル4と略同じである。
【0055】
スピンナテーブル22は、負圧によりSiC基板11の他面11bを吸引保持可能な保持面22aを有する。スピンナテーブル22は、所定の回転軸22bの周りで高速回転可能である。
【0056】
但し、保持面22aの径は、SiC基板11の他面11bの径よりも小さい。スピンナテーブル22でSiC基板11を保持する際には、SiC基板11の他面11bの中央部を保持面22aで吸引保持する。
【0057】
スピンナテーブル22の径方向の外側には、Z軸方向に直交するXY平面内で第1アーム24を回転移動させる第1回転移動機構26が設けられている。
【0058】
第1回転移動機構26は、還元洗浄工程S22において、第1アーム24の先端部に設けられている第1ノズル28の軌跡が保持面22aの中心を通る所定長さの円弧となる様に、第1アーム24を回転移動させる。
【0059】
還元洗浄工程S22において、第1ノズル28には、第1アーム24の内部に形成されている流路(不図示)を介して、還元洗浄液供給源30から還元洗浄液21が供給される。還元洗浄液供給源30は、還元洗浄液21が貯留された貯留槽(不図示)と、貯留槽から還元洗浄液21を供給するためのポンプ(不図示)と、を含む。
【0060】
第1ノズル28は、還元洗浄液21のみを噴射してもよく、還元洗浄液21とは別系統の流路から供給されるエア等の気体(不図示)と、還元洗浄液21と、が混合された二流体を噴射してもよい。
【0061】
還元洗浄液21は、例えば、硫酸ヒドロキシルアミン(示性式:(NH2OH)2・H2SO4)が純水に溶解した水溶液である。例えば、還元洗浄液21は、1質量部以上20質量部以下(例えば、5質量部)の硫酸ヒドロキシルアミンを、純水に溶解させることで形成される。
【0062】
還元洗浄液21は、硫酸ヒドロキシルアミンに代えて、クエン酸(即ち、酸)及び過酸化水素が純水に溶解した水溶液、又は、アスコルビン酸(即ち、ビタミンC)が純水に溶解した水溶液であってもよい。
【0063】
いずれの水溶液であっても、パーティクル13を構成するマンガン酸化物のマンガン(即ち、金属)と、過マンガン酸塩の過マンガン酸イオンと、を還元可能である。
【0064】
クエン酸及び過酸化水素を用いる場合、還元洗浄液21は、例えば、1質量部以上59質量部以下(例えば、1質量部)のクエン酸と、1質量部以上35質量部以下(例えば、5質量部)の過酸化水素とを、純水に溶解させることで形成される。なお、クエン酸が、還元洗浄液21におけるpH調整剤として機能し、過酸化水素が還元剤として機能する。
【0065】
回転軸22bを間に挟んで第1回転移動機構26と反対側には、第2回転移動機構32が設けられている。第2回転移動機構32は、Z軸方向に直交するXY平面内で第2アーム34を回転移動させる。
【0066】
純水洗浄工程S24において、第2回転移動機構32は、第2アーム34の先端部に設けられている第2ノズル36の軌跡が保持面22aの中心を通る所定長の円弧となる様に、第2アーム34を回転移動させる。
【0067】
第2ノズル36には、第2アーム34の内部に形成されている流路(不図示)を介して、純水供給源38から純水23が供給される。純水供給源38は、純水23が貯留された貯留槽(不図示)と、貯留槽から純水23を供給するためのポンプ(不図示)と、を含む。
【0068】
図3を参照し、還元洗浄工程S22について説明する。
図3は、洗浄工程S20における還元洗浄工程S22を示す側面図である。還元洗浄工程S22では、まず、研磨後の一面11aが露出する様に、SiC基板11の他面11bを保持面22aで吸引保持する。
【0069】
次いで、他面11bを吸引保持した状態で、スピンナテーブル22を高速で回転させると共に一面11a上において第1ノズル28を比較的ゆっくりと回転移動させながら、第1ノズル28から一面11aに還元洗浄液21を供給する。
【0070】
これにより、パーティクル13に含まれるマンガン酸化物のマンガン及び/又は過マンガン酸塩の過マンガン酸イオンは、還元洗浄液21により2価のマンガンイオン(Mn2+)へと還元された後、還元洗浄液21に含まれる2価のマンガンイオンは、遠心力により一面11a外に除去される。なお、研磨工程S10後に淡赤色を呈していた一面11aは、還元洗浄工程S22を経ると略無色透明に変わる。
【0071】
還元洗浄工程S22では、一定数のパーティクル13は一面11aから完全に除去されるが、残りのパーティクル13については、パーティクル13に含まれる一部のマンガン酸化物及び/又は過マンガン酸塩が除去される。つまり、還元洗浄工程S22では、全てのパーティクル13が除去されるわけではない。
【0072】
還元洗浄工程S22では、例えば、スピンナテーブル22の回転数を500rpmとし、還元洗浄液21の流量を20ml/min以上800ml/min以下(例えば、300ml/min)とし、且つ、SiC基板11の一面11aの中心から外周縁まで15sかけて第1ノズル28が移動することを2回繰り返す。
【0073】
なお、還元洗浄液21の流量は、エア等の気体と混合されていない一流体の場合、100ml/min以上800ml/min以下としてよく、気体と混合された二流体の場合、20ml/min以上200ml/min以下としてよい。
【0074】
還元洗浄工程S22の後、純水洗浄工程S24を行う。
図4は、洗浄工程S20における純水洗浄工程S24を示す側面図である。純水洗浄工程S24では、還元洗浄液21の供給を停止した上で、第1ノズル28がSiC基板11の径方向においてSiC基板11の外側に位置する様に第1アーム24を回転移動させる。
【0075】
加えて、SiC基板11を吸引保持した状態のスピンナテーブル22の回転を継続すると共に一面11a上において第2ノズル36を移動させながら、第2ノズル36から一面11aに純水23を供給する。これにより、一面11aに残留する一部のパーティクル13と還元洗浄液21とを除去する。
【0076】
純水洗浄工程S24では、例えば、スピンナテーブル22の回転数を500rpmとし、純水23の流量を20ml/min以上800ml/min以下(例えば、300ml/min)とし、且つ、SiC基板11の一面11aの中心から外周縁まで30sかけて第2ノズル36を1回だけ移動させる。
【0077】
なお、純水23の流量は、エア等の気体と混合されていない純水23のみの場合、100ml/min以上800ml/min以下としてよく、気体と混合された二流体の場合、20ml/min以上200ml/min以下としてよい。
【0078】
純水洗浄工程S24の後、乾燥工程S26を行う。
図5は、洗浄工程S20における乾燥工程S26を示す側面図である。乾燥工程S26では、純水23の供給を停止した上で、第2ノズル36がSiC基板11の径方向の外側に位置する様に第2アーム34を回転移動させる。
【0079】
加えて、SiC基板11を吸引保持した状態のスピンナテーブル22の回転を継続する。乾燥工程S26では、例えば、スピンナテーブル22の回転数を2000rpmとし、回転継続時間を60sとする。
【0080】
本実施形態では、洗浄工程S20により、一面11aに残留するパーティクル13の数を低減できるので、一面11aにエピタキシャル成長層を形成する際に、SiC基板11の単位面積当たりにおける格子欠陥、転位等の発生を低減できる。即ち、高品質なエピタキシャル成長層を形成可能となる。
【0081】
(実験例)次に、
図6及び
図7を参照し、実験例について説明する。なお、SiC基板11としては、SiCの単結晶で形成されオリエンテーションフラット(Orientation Flat)を有する6インチ(約150mm)の径のミラーウェーハを用いた。
【0082】
図6は、上述の第1の実施形態の加工方法に対応しており、研磨工程S10と、還元洗浄工程S22、純水洗浄工程S24及び乾燥工程S26を含む洗浄工程S20と、を経た一面11aにおけるパーティクル13の数及び位置を示す画像である。
【0083】
より具体的には、
図6の画像を得た実験では、第1の実施形態と同様に、第1ノズル28から還元洗浄液21を噴射しながら、SiC基板11の一面11aの中心から外周縁まで15sかけて第1ノズル28を移動させることを2回繰り返した後、第2ノズル36から純水23を噴射しながら、SiC基板11の一面11aの中心から外周縁まで30sかけて第2ノズル36を1回だけ移動させた。その後、乾燥工程S26を行った。
【0084】
これに対して、
図7は、研磨工程S10の後、還元洗浄工程S22を経ることなく、純水洗浄工程S24及び乾燥工程S26を経た一面11aにおけるパーティクル13の数及び位置を示す比較例の画像である。
【0085】
但し、
図7に示す比較例では、還元洗浄工程S22を省略したことに伴い、純水洗浄工程S24にかける時間を、
図6の画像を得た実験での純水洗浄工程S24にかけた時間に比べて長くした。
【0086】
具体的には、
図7に示す比較例の純水洗浄工程S24では、第2ノズル36から純水23を噴射しながら、SiC基板11の一面11aの中心から外周縁まで15sかけて第2ノズル36を移動させることを2回繰り返した後、第2ノズル36から純水23を噴射しながら、SiC基板11の一面11aの中心から外周縁まで30sかけて第2ノズル36を1回だけ移動させた。
【0087】
図6及び
図7に示す画像は、405nmの波長を有するレーザービームを乾燥工程S26後の一面11aの法線ベクトルに対して所定角度傾けた状態で照射し、光電子倍増管(PMT:photomultiplier tube)を有する検出器を用いて一面11aからの散乱光を受光することで得られた。
【0088】
特に、レーザービームの集光点と、検出器と、の位置関係を固定した上で、他面11bを吸引保持したステージ(不図示)を回転させると共に、当該ステージを水平面内の所定方向に移動させることで、一面11a上において集光点を螺旋状に移動させた。この様にステージを移動させながら、一面11aからの散乱光を受光した。
【0089】
これにより、一面11aに残留するパーティクル13を可視化した画像を作成した。パーティクル13の可視化には、株式会社 山梨技術工房により製造及び販売されているウェーハ表面検査装置であるYPI-MX-SMIFを用いた。
【0090】
当該装置を用いて可視化可能なパーティクル13の径は、0.1μm以上であり、0.1μm以上の径を有するパーティクル13の数を得られた画像に基づきカウントした。
【0091】
本実施形態の加工方法に対応する
図6に示す画像では、残留したパーティクル13の数が1011個であったのに対して、比較例に対応する
図7に示す画像では、残留したパーティクル13の数が5032個であった。
【0092】
SiC基板11の一面11aに残留するパーティクル13の数が1200個以下(より好ましくは1000個以下)であれば、エピタキシャル成長層の品質に略問題がない。つまり、
図6及び
図7に示す実験を通じて、本実施形態の加工方法の優位性を確認できた。
【0093】
(第2の実施形態)次に、
図8及び
図9を参照し、第2の実施形態について説明する。
図8は、第2の実施形態におけるSiC基板11の加工方法のフロー図である。第2の実施形態のSiC基板11は、SiCインゴット(不図示)から剥離されることで形成される。
【0094】
具体的には、SiC基板11は、SiCインゴット(不図示)の所定の深さに形成された脆弱領域(即ち、改質領域と、改質領域から進展するクラックと、を含む剥離層が形成された領域)を起点として、インゴットから剥離される。
【0095】
なお、改質領域とは、SiC基板11を透過する波長(例えば、1064nm)を有するパルス状のレーザービームの集光点近傍で生じる多光子吸収により形成され、レーザービームの非照射領域と比較して結晶性が変化した領域である。
【0096】
SiCインゴットの所定の深さに脆弱領域を形成するためには、まず、上述のレーザービームの集光点をSiCインゴットの所定の深さ(SiC基板11の厚さに対応する)に配置した状態で、SiCインゴットの厚さ方向と直交する第1方向に沿って、レーザービームの集光点と、SiCインゴットとを、相対的に移動させる。
【0097】
第1方向に沿ってSiCインゴットを横断する様に集光点を移動させた後、SiCインゴットの厚さ方向及び第1方向と直交する第2方向に沿って、集光点とSiCインゴットとを相対的に所定距離だけ割り出し送りする。その後、同様に、レーザービームの集光点と、SiCインゴットとを、第1方向に沿って相対的に移動させる。
【0098】
この様にして、SiCインゴットの所定深さの全体に剥離層を形成する。次いで、SiC基板11をSiCインゴットから剥離する。SiC基板11の一面11aは、SiCインゴットの剥離層に接していた被剥離面に対応する。
【0099】
剥離後の一面11aの凹凸は、比較的大きいので、研磨工程S10の前に、一面11aを研削ホイール50(
図9参照)で研削して、SiC基板11を所定の厚さまで薄化する(研削工程S5)。
【0100】
図9を参照して、研削装置40について説明する。研削装置40は、円盤状のチャックテーブル42を有する。チャックテーブル42は、非多孔質の緻密なセラミックス等で形成された円盤状の枠体を有する。
【0101】
枠体の上面側には、円盤状の凹部が形成されている。凹部には多孔質のセラミックスで形成された円盤状の多孔質板が固定されている。多孔質板は、略平坦な底面と、外周から中央に向かうにつれて厚さが増加する上面と、を有する。
【0102】
つまり、多孔質板の上面は、外周部に比べて中央部が僅かに突出する円錐面である。但し、多孔質板の上面における中央部の突出量は、10μmから20μm程度と微小であるので、
図9では多孔質板の上面を略平坦に示す。
【0103】
枠体の凹部の底面には、流路が形成されている。真空ポンプ等の吸引源(不図示)で発生された負圧は、流路を介して多孔質板へ伝達される。枠体の上面と、多孔質板の上面とは、略面一となっており、SiC基板11の他面11bを吸引保持する保持面42aとして機能する。
【0104】
チャックテーブル42の下部、且つ、チャックテーブル42の径方向の中心部には、チャックテーブル42の回転軸42bが設けられている。なお、
図9では、チャックテーブル42の回転軸42bを簡略化し、一点破線で示す。
【0105】
チャックテーブル42は、円盤状のテーブルベース(不図示)上にベアリング(不図示)を介して回転可能に連結されている。このテーブルベースは、チャックテーブル42の回転軸42bの傾きを調整する傾き調整機構(不図示)で支持されている。
【0106】
テーブルベースの傾きは、保持面42aの一部である円弧状の領域が、Z軸方向と直交する所定平面(例えば、XY平面)と略平行になる様に、Z軸方向に対して所定角度だけ傾けられている。
【0107】
テーブルベースの径方向の中心部には、貫通孔(不図示)が形成されており、貫通孔には、上述の回転軸42bが配置されている。回転軸42bには、サーボモータ等の回転駆動源(不図示)から、ベルト・プーリ機構(不図示)を介して動力が伝達される。
【0108】
チャックテーブル42の上方には、研削ユニット44が設けられている。研削ユニット44は、円柱状のスピンドルハウジング(不図示)を有する。スピンドルハウジング内には、Z軸方向に略平行に配置された円柱状のスピンドル46の一部が回転可能に保持されている。
【0109】
スピンドル46の上端部近傍には、サーボモータ等の回転駆動源(不図示)が設けられている。スピンドル46の下端部には、円盤状のホイールマウント48を介して円環状の研削ホイール50が装着されている。
【0110】
研削ホイール50は、アルミニウム合金等の金属材料で形成された円環状の基台52を有する。基台52の一面52aは、ボルト等によりホイールマウント48に固定されている。基台52の他面52bには、基台52の周方向に沿って略等間隔に複数の研削砥石54が配置されている。
【0111】
各研削砥石54は、例えば、金属、セラミックス、熱硬化性樹脂等の結合材に、ダイヤモンド、cBN(cubic boron nitride)等の砥粒を混錬した後、成型、焼成等を経て形成される。
【0112】
スピンドル46の直下であって、Z軸方向において研削ホイール50と保持面42aとの間には、研削水供給ノズル(不図示)が設けられている。研削水供給ノズルは、SiC基板11を研削する際に、SiC基板11と、研削砥石54と、の接触領域に純水等の研削水を供給する。
【0113】
図9は、研削工程S5を示す一部断面側面図である。研削工程S5では、まず、保持面42aの中心とSiC基板11の径方向の中心とを略一致させた状態で、SiC基板11の他面11bを吸引保持する。このとき、SiC基板11の一面11aが上方に露出する。
【0114】
次いで、チャックテーブル42及び研削ホイール50を回転させると共に、複数の研削砥石54の移動の軌跡がZ軸方向においてSiC基板11と重なる領域(即ち、被研削領域)に研削水を供給しながら、研削ユニット44を所定の速度で下方に研削送りする。
【0115】
この様なインフィード研削により、SiC基板11の一面11aの略全体を研削ホイール50で研削する。これにより、SiC基板11を所定の厚さまで薄化する。研削条件の一例を下記に示す。
【0116】
スピンドルの回転数 :2000rpm
チャックテーブルの回転数:200rpm
研削送り速度 :0.1μm/sから1.0μm/s
研削水の流量 :5L/minから10L/min
【0117】
研削工程S5の後、上述の研磨工程S10及び洗浄工程S20を順次行う。上述の様に、洗浄工程S20では一面11aに残留するパーティクル13の数を低減できるので、一面11aにエピタキシャル成長層を形成する際に、SiC基板11の単位面積当たりにおける格子欠陥、転位等の発生を低減できる。
【0118】
その他、上述の実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。パーティクル13を構成する金属酸化物は、マンガンの酸化物に限定されず、pH調整剤に含まれる金属等の他の金属の酸化物を含んでもよい。
【0119】
SiC基板11の他面11bに樹脂製の保護部材を貼り付けた上で、一面11aに対して、研削工程S5、研磨工程S10及び洗浄工程S20を施してもよい。このとき、SiC基板11の他面11bは、保護部材を介して保持面4a,22a,42aで吸引保持される。
【符号の説明】
【0120】
2:研磨装置、4:チャックテーブル、4a:保持面、4b:回転軸
6:研磨ユニット、8:スピンドル、8a:貫通孔
10:マウント、10a:貫通孔
11:SiC基板、11a:一面、11b:他面、13:パーティクル
12:研磨工具、14:ベース、14a:上面、14b:下面、14c:貫通孔
16:研磨パッド、16a:貫通孔、18:研磨液供給源、18a:研磨液
20:スピンナ洗浄装置
21:還元洗浄液、23:純水
22:スピンナテーブル、22a:保持面、22b:回転軸
24:第1アーム、26:第1回転移動機構、28:第1ノズル
30:還元洗浄液供給源
32:第2回転移動機構、34:第2アーム、36:第2ノズル
38:純水供給源
40:研削装置、42:チャックテーブル、42a:保持面、42b:回転軸
44:研削ユニット、46:スピンドル、48:ホイールマウント
50:研削ホイール、52:基台、52a:一面、52b:他面、54:研削砥石
S5:研削工程
S10:研磨工程、S20:洗浄工程
S22:還元洗浄工程、S24:純水洗浄工程、S26:乾燥工程