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特開2025-9155モノテルペンケトール系化合物を有効成分とする害虫忌避剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009155
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】モノテルペンケトール系化合物を有効成分とする害虫忌避剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 35/06 20060101AFI20250110BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
A01N35/06
A01P17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111965
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松尾 憲忠
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC06
4H011BB05
(57)【要約】
【課題】カ類、ブユ、サシバエ、サンドフライ、ヌカカ等の吸血害虫およびイエバエ等の衛生害虫等に優れた忌避効力を示す化合物を提供する。
【解決手段】
一般式 化1
【化1】
〔式中、R1 ,R2およびR3は下記の意味を表わす。
(1) R1 は水素原子を表わし、R2とR3とで炭素-炭素単結合を表わす。
(2) R2は水素原子を表わし、R1とR3とで炭素-炭素単結合を表わす。〕
で示されるモノテルペンケトール系化合物を有効成分として含有することを特徴とする害虫忌避剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式 化1
【化1】
〔式中、R1 ,R2およびR3は下記の意味を表わす。
(1) R1 は水素原子を表わし、R2とR3とで炭素-炭素単結合を表わす。
(2) R2は水素原子を表わし、R1とR3とで炭素-炭素単結合を表わす。〕
で示されるモノテルペンケトール系化合物を有効成分として含有することを特徴とする害虫忌避剤。
【請求項2】
モノテルペンケトール系化合物が、R1が水素原子を表わし、R2とR3とで炭素-炭素単結合を表わすモノテルペンケトール系化合物である請求項1記載の害虫忌避剤。
【請求項3】
モノテルペンケトール系化合物が、1S,3S,6R-カラン-4-オン-3-オールである請求項2記載の害虫忌避剤。
【請求項4】
モノテルペンケトール系化合物が、1S,3R,6R-カラン-4-オン-3-オールである請求項2記載の害虫忌避剤。
【請求項5】
モノテルペンケトール系化合物が、Rが水素原子を表わし、RとRとで炭素-炭素単結合を表わすモノテルペンケトール系化合物である請求項1記載の害虫忌避剤。
【請求項6】
モノテルペンケトール系化合物が、1S,2S,5S-ピナン-3-オン-2-オールである請求項2記載の害虫忌避剤。
【請求項7】
モノテルペンケトール系化合物が、1R,2R,5R-ピナン-3-オン-2-オールである請求項2記載の害虫忌避剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノテルペンケトール系化合物を有効成分とする害虫忌避剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、イエカ類、ヤブカ類、ハマダラカ類をはじめとする蚊類、ブユ、サシバエ等の吸血害虫に対する忌避剤として、N,N-ジエチル-m-トルアミド(以下、Deetと称する。)および、sec-ブチル-2-ピペリジン-1-カーボキシレート(以下、イカリジンと称する。)が、スプレー、ローション、クリーム等の形態で使用されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
吸血害虫忌避剤として使用されているDeetは、対象害虫種が限られ、マラリア媒介蚊のハマダラカ類に対する効力が劣るうえに、不快臭や樹脂溶解性がある等の欠点を有する。また、イカリジンも対象害虫種が限られていること、製造コストが高いなどの欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、このような状況に鑑み、Deet やイカリジンの持つ欠点を克服した害虫忌避活性を示す化合物を開発すべく鋭意検討した結果、一般式 化1
(化1)
〔式中、R ,R2 およびR3 は下記の意味を表わす。
(1) R1 は水素原子を表わし、R2とR3とで炭素-炭素単結合を表わす。
(2) R2は水素原子を表わし、R1とR3とで炭素-炭素単結合を表わす。〕
で示されるモノテルペンケトール系化合物が、きわめて高い害虫忌避効力を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0005】
本化合物は、カ類、ブユ、サシバエ、サンドフライ、ヌカカ等の吸血害虫およびイエバエ等の衛生害虫等に優れた忌避効力を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本化合物は、文献記載の既知化合物であり、詳細は以下のとおりである。 (1)R1=H,R2とR3とで炭素-炭素単結合を表わすカランケトールの合成法は、Synthetic Communications, Vol .17,
P. 25~32(1987)に記載されている。 (2)R2=H,R1とR3とで炭素-炭素単結合を表わすピナンケトールの合成法は、Tetrahedron Letters, Vol . 57 P. 420~422(2016)等に記載されている。
上記のカランケトールおよびピナンケトールには立体異性体が存在しており、本化合物は、これらすべての異性体およびそれらの混合物をも含むものである。
【0007】
本化合物の中で好ましい化合物としては、1S,3S,6R-カラン-4-オン-3-オール、および1S,2S,5S-ピナン-3-オン-2-オールをあげることができる。
【0008】
本化合物の具体例を以下に示す。
【0009】
化合物1
1S,3S,6R-カラン-4-オン-3-オール
【0010】
化合物2
1S,3R,6R-カラン-4-オン-3-オール
【0011】
化合物3
1S,2S,5S-ピナン-3-オン-2-オール
【0012】
化合物4
1R,2R,5R-ピナン-3-オン-2-オール
【0013】
本化合物が有効な害虫としては、たとえば熱帯地域のマラリア媒介蚊であるA-nophel es al bi manus 等のハマダラカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のA-edes類、アカイエカ、コガタアカイエカ等のイエカ類等のカ類、ブユ、サシバエ、サンドフライ、ヌカカ等の吸血害虫またはイエバエ等の衛生害虫等をあげることができる。
【0014】
本化合物を害虫忌避剤として用いる場合、化合物によっては、原体そのものを用いることもできるが、通常、適当な担体に配合した組成物(以下、本組成物と称する。)として用いることができ、たとえばローション、エアゾール等の液剤やクリーム剤等の形態に調整して利用される。
【0015】
液剤を調整する際に用いられる担体としては、たとえば水、メタノール、エタノール、セチルアルコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ケロシン、パラフィン、石油ベンジン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類等があげられる。
【0016】
液剤には、さらに通常の乳化剤または分散剤、展着・湿潤剤、懸濁化剤、保存剤、噴射剤等の製剤用補助剤等を添加配合することもでき、さらに通常の塗膜形成剤を配合することもできる。
【0017】
具体的には、たとえば石鹸類、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアルキルアリールスルホン酸塩等の乳化剤
【0018】
グリセリン、ポリエチレングリコール等の展着・湿潤剤、カゼイン、ゼラチン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ベントナイト等の懸濁化剤、サリチル酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等の保存剤、ジメチルエーテル、クロロフルオロカーボン、炭酸ガス等の噴射剤、ニトロセルロース、アセチルセルロース、アセチルブチリルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル樹脂等のビニル系樹脂、ポリビニルアルコール等の各種塗膜形成剤をあげることができる。
【0019】
また、クリーム剤を調整する際に用いられる担体としては、たとえば流動パラフィン、ワセリン、パラフィン等の炭化水素類、ジメチルシロキサン、コロイド状シリカ、ベントナイト等のシリコン類、エタノール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール等のアルコール類、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、ラウリン酸、ステアリン酸等のカルボン酸類、密蝋、ラノリン等のエステル類等があげられる。
【0020】
さらに、液剤と同様の製剤用補助剤を添加配合することもできる。さらにまた、マイクロカプセル化した形態に調整して、ローション、エアゾール等に製剤して用いることもできる。
【0021】
本組成物には、他の害虫忌避剤、酸化防止剤、その他の添加剤等を配合することもできる。配合可能な他の害虫忌避剤としては、たとえばDeet 、イカリジン、ジメチルフタレート、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、N-オクチルビシクロヘプタン ジカルボキシミド、p-メンタン-3,8-ジオール、2,3,4,5-ビス(△2 -ブチレン)テトラヒドロフルフラール、ジ-n-プロピルイソシンコメロネート、ジ-n-ブチルサクシネート、2-ヒドロキシエチルオクチルスルフィドおよびエンペントリン{1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル d-シス,トランス-クリサンセメート(シス:トランス比=2:8)}等を、酸化防止剤としては、たとえばブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、γ -オリザノール等をそれぞれ例示できる。
【0022】
上記のようにして調整された本組成物または本化合物は、直接皮膚等に処理することができ、また、予めシート状、フィルム状、網目状、帯状等の適当な基材に塗布、含浸、混練、滴下等の処理をしておき、該基材で皮膚の露出部または衣服の上を被覆する等の方法で使用できる。
【0023】
該基材の材質としては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ビニロン、ナイロン等の合成繊維や樹脂、絹、綿、羊毛等の動植物繊維、アルミニウム等の無機質繊維またはそれらの混合物があげられる。網目状の基材を用いる場合、網目は細かいほど好ましいが、一般には16メッシュ以下程度であれば充分に有効である。
【0024】
本組成物中、有効成分である本化合物の量は、剤型や適用方法により異なるが、たとえばローション、エアゾール等の液剤あるいはクリーム剤等で用いる場合または基材に含有させて用いる場合には、 0.1~70重量%、好ましくは1~40重量%である。
【0025】
また、本組成物の処理量は、通常皮膚の面積1cm2 当たり、本化合物を0.01~2mg、好ましくは0.05~1mg含有する量であり、これらの量は、本化合物を単独で処理する場合にも用いられる量である。上述の処理量は、製剤の種類、対象の害虫種、その密度、使用時刻、気象条件または使用する人の年令等によって異なり、上記の範囲に拘ることなく、増加させたり減少させたりすることができる。
【実施例0026】
以下、参考例、製剤例および試験例をあげ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はもちろんこれらの例に限定されるものではない。
【0027】
まず、本発明化合物の製造例を示す。 製造例で使用した出発化合物1S,3S,4S,6R-カラン-3,4-ジオール及び1S,3R,4R,6R-カラン-3,4-ジオールは、いずれも特開平5-4901(1993)に記載の方法で合成した。また、1S,2S,5S-ピナン-3-オン-2-オール及び1R,2R,5R-ピナン-3-オン-2-オールはいずれも試薬として販売されており、東京化成から購入した。
【0028】
まず、参考例を示す。
〔参考例1〕
1S,3S,6R-カラン-4-オン-3-オール
(化合物(1))の製法
50ml のナスフラスコに、1S,3S,4S,6R-カラン-3,4-ジオール2.00g(11.8× 10-3 mol )とジクロロメタン30ml とを入れ、これを攪拌しながら、0℃に冷却した。これに、ピリジニウムクロロクロメート3.00g(13.9× 10-3 mol )を5~10分間かけて加えた後、0℃で5時間攪拌した。ジエチルエーテル30ml を加えた後、フロリジルろ過後、溶媒濃縮して粗化合物1. 80gを得た。 シリゲルカラムクロマトグラフィーに付し、無色油状の化合物(2) 1.10gを得た。
【0029】
〔参考例2〕
1S,3R,6R-カラン-4-オン-3-オール
(化合物(2))の製法
50ml のナスフラスコに、1S,3R,4R,6R-カラン-3,4-ジオール1.00g(5.88× 10-3 mol )とジクロロメタン20ml とを入れ、これを攪拌しながら、0℃に冷却した。これに、ピリジニウムクロロクロメート1.52g(7.05× 10-3 mol )を5~10分間かけて加えた後、0℃で5時間攪拌した。ジエチルエーテル20ml を加えた後、フロリジルろ過後、溶媒濃縮して粗化合物0. 95gを得た。
シリゲルカラムクロマトグラフィーに付し、無色油状の化合物(2) 0.56gを得た。
【0030】
次に製剤例を示す。なお、部は重量部を表わし、本化合物は、段落0009~段落0012に記載の化合物番号で表わす。
【0031】
〔製剤例1〕
化合物(1)~(4)10部をエタノールに溶解して全体を35部とし、エアゾール容器に充填する。ついでバルブを付けた後、該バルブ部分を通じて、フロン11とフロン12の1:1混合物(噴射剤)65部を加圧充填してエアゾールを得る。
【0032】
〔製剤例2〕
化合物(1)5部と化合物(2)5部とをエタノールに溶かして全体を35部とし、エアゾール容器に充填する。ついで製剤例1と同様の処理をしてエアゾールを得る。
【0033】
〔製剤例3〕
化合物(3)10部に、ステアリン酸10部、セチルアルコール2部、ラノリン1部、流動パラフィン2部および水62部を加え、加熱して溶解混和し、これに、さらに、加熱したグリセリン13部を注入し、よく攪拌してクリーム剤を得る。
【0034】
〔製剤例4〕
ステアリン酸6部、ラノリン 0. 5部およびTween 60(商品名:ポリオキシエチレンソルビタンモノステ6部からなる混合物を80℃に加熱し、これを、水75部とサリチル酸2.5部との混合物(60℃)中に入れ、迅速に攪拌しながら、化合物(1)10部を添加してローションを得る。
【0035】
次に本化合物が、害虫忌避剤の有効成分として有用であることを試験例により示す。
【0036】
〔試験例1〕
化合物1及び2をエタノール(富士フイルム和光純薬特級試薬)で所定の濃度に希釈した。
ナイロンゴースケージ(30 cm×30 cm×30 cm)にネッタイシマカ100頭を放虫し、餌として3%砂糖水を設置した。
ディスポーサブル手袋を着用した左手の甲(表面積約0.016 m)に、エタノール(Blank)または各化合物のエタノール溶液を0.2 ml滴下し手の甲全体に塗り広げ、Blank手袋および0.5 g AI/mまたは2.0 g AI/mの化合物処理手袋とした。手首から先を、蚊を放ったケージにいれ、掌をケージ側面に密着させて蚊の定着を防いで試験開始とした(図1)。試験開始から1分間隔で5分後まで手の甲側の手袋全体に静止した供試虫数(誘引虫数)をカウントした。ケージは7つ用意し、ローテーションで試験を行った。
各処理区についてそれぞれ3反復実施し、次式により、ネッタイシマカに対する忌避率を算出した
忌避率(%) = (1 - 処理区の平均誘引虫数 / Blankの平均誘引虫数)×100
【0037】
【0038】
〔試験例2〕
各化合物をアセトン(富士フイルム和光純薬特級試薬)で所定の濃度に希釈した。
定性ろ紙(ADVANTEC No. 2、直径90 mm)にアセトン(Blank)または各化合物のアセトン溶液を1.5 mL滴下してドラフト内にて約5分間風乾し、Blankろ紙および2.0 g AI/mの化合物処理ろ紙を作製した。
ナイロンゴースケージ(30 cm×30 cm×30 cm)の上辺にBlankろ紙および2.0 g AI/mいずれかの化合物処理ろ紙を各1枚吊るし、供試虫300頭を放って試験開始とした(図1図2)。試験開始から6時間後まで、1時間ごとに各ろ紙に定着した供試虫数(定着虫数)をカウントした。2.0 g AI/mそれぞれについて3反復実施した。
0時間後(初期)から6時間後までの定着虫数をもとに平均定着虫数を算出し、以下の式により平均定着虫数から各化合物の忌避率をもとめた。
平均定着虫数 = 0時間後から6時間後までの定着虫数の3反復平均値
忌避率(%) = (1 - 各化合物の平均定着無死数 / Blankの平均定着虫数)×100
【0039】
試験法:ろ紙吊り下げ法
供試虫:アカイエカ雌成虫、300頭/ケージ
ろ紙の種類:ADVANTEC No. 2定性ろ紙、直径90mm
*1平均定着虫数 =0時間後から6時間後までの定着虫数の3反復平均値
*2忌避率(%) =(1 -処理区の平均定着虫数 / Blankの平均定着虫数)×100