(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009166
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】既設シールドトンネルの補強構造および既設シールドトンネルの補強方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/08 20060101AFI20250110BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
E21D11/08
E21D11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111981
(22)【出願日】2023-07-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 公開日 :令和4年8月1日 ウェブサイトのアドレス:令和4年度土木学会全国大会 第77回年次学術講演会 講演概要のウェブページ https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2022/subject/III-349/category?cryptoId= (2) 開催日 :令和4年9月16日 令和4年度土木学会全国大会 第77回年次学術講演会(京都大学吉田キャンパス)、公益社団法人土木学会、III-349 「継手特性を考慮したシールドトンネルの大変形挙動に関する実験的研究」
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】今福 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 正整
(72)【発明者】
【氏名】砂金 伸治
(72)【発明者】
【氏名】河田 皓介
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 和希
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA01
2D155BB01
2D155CA03
2D155GC02
2D155KB06
2D155KB13
2D155KC06
2D155LA19
(57)【要約】
【課題】トンネル断面のうち発生断面力が厳しくなる部位を効率的に補強することで、大規模地震時に既設シールドトンネルのコンクリートがトンネル内に落下することを低コストで抑制できる既設シールドトンネルの補強構造および既設シールドトンネルの補強方法を提供する。
【解決手段】セグメント10によって構築された円形断面の既設シールドトンネル1に設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートCの一部を被覆することにより補強する既設シールドトンネル1の補強構造であって、トンネル周方向X1でトンネル天頂部P0から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の第1補強範囲D1において、少なくともトンネル内面10aの一部を覆う被覆補強部材11を備えた。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメントによって構築された円形断面の既設シールドトンネルに設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートの一部を被覆することにより補強する既設シールドトンネルの補強構造であって、
トンネル周方向でトンネル天頂部から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の第1補強範囲において、少なくともトンネル内面の一部を覆う被覆補強部材を備えた既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項2】
トンネルのセグメントが千鳥組であって、トンネル周方向の前記第1補強範囲にセグメント端部同士を連結する第1セグメント継手が配置され、
前記被覆補強部材は、少なくともトンネル周方向に前記第1セグメント継手を含む範囲と、前記第1セグメント継手を含む範囲に対してトンネル軸方向に隣接するリングのセグメント本体に連設する範囲と、に設けられている、請求項1に記載の既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項3】
トンネルのセグメントが千鳥組であって、トンネル周方向の前記第1補強範囲にセグメント端部同士を連結する第1セグメント継手が配置され、
前記被覆補強部材は、前記第1補強範囲に配置される前記第1セグメント継手に対してトンネル軸方向に隣接するリングのみのセグメント本体に設けられている、請求項1に記載の既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項4】
セグメントによって構築された円形断面の既設シールドトンネルに設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートの一部を被覆することにより補強する既設シールドトンネルの補強構造であって、
トンネル周方向でトンネル天頂部から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の第2補強範囲において、少なくともトンネル内面の一部を覆う被覆補強部材を備えた既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項5】
トンネルのセグメントが千鳥組であって、トンネル周方向の前記第2補強範囲にセグメント端部同士を連結する第2セグメント継手が配置され、
前記被覆補強部材は、少なくともトンネル周方向に前記第2セグメント継手を含む範囲と、前記第2セグメント継手を含む範囲に対してトンネル軸方向に隣接するリングのセグメント本体に連設する範囲と、に設けられている、請求項4に記載の既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項6】
トンネルのセグメントが千鳥組であって、トンネル周方向の前記第2補強範囲にセグメント端部同士を連結する第2セグメント継手が配置され、
前記被覆補強部材は、前記第2補強範囲に配置される前記第2セグメント継手に対してトンネル軸方向に隣接するリングのみのセグメント本体に設けられている、請求項4に記載の既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項7】
前記被覆補強部材におけるトンネル周方向に延びる補強長は、セグメント桁高さ以上、トンネル周方向の角度で30°以下の範囲である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項8】
前記被覆補強部材の前記補強長は、前記セグメント桁高さの2倍以上4倍以下である、請求項7に記載の既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項9】
前記被覆補強部材の内周面は、前記トンネル内面と面一で設けられている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項10】
前記被覆補強部材は、複数のセグメントリングに跨って配置される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項11】
前記被覆補強部材は、前記セグメントを貫通させて前記セグメントの背面の地山に定着されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の既設シールドトンネルの補強構造。
【請求項12】
セグメントによって構築された円形断面の既設シールドトンネルに設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートの一部を被覆することにより補強する既設シールドトンネルの補強方法であって、
トンネル周方向でトンネル天頂部から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の第1補強範囲において、少なくともトンネル内面の一部を被覆補強部材で被覆する工程を有する既設シールドトンネルの補強方法。
【請求項13】
セグメントによって構築された円形断面の既設シールドトンネルに設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートの一部を被覆することにより補強する既設シールドトンネルの補強方法であって、
トンネル周方向でトンネル天頂部から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の第2補強範囲において、少なくともトンネル内面の一部を被覆補強部材で被覆する工程を有する既設シールドトンネルの補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設シールドトンネルの補強構造および既設シールドトンネルの補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルの内面にコンクリートが露出している略円形断面のシールドトンネルでは、大規模地震が発生したときにセグメント内面のコンクリートに亀裂や破損が生じ、コンクリートが剥落するおそれがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的に地震発生時にトンネル断面には断面方向のせん断力が作用し、斜めの楕円形になるように変形する。このとき、トンネルの斜め上および斜め下には軸圧縮力に加えて地震力によって大きな負の曲げモーメントが発生する。負(正)の曲げモーメントは、トンネル内面側が圧縮(引張)、トンネル外面側が引張(圧縮)となる。RCセグメントや5面鋼殻タイプの合成セグメントなどのセグメントで構築されたシールドトンネルにおいては、トンネル内面にコンクリートが露出しているため、地震荷重の増加に伴い、まずこの部位において負の曲げモーメントとトンネル周方向の軸圧縮力が卓越してトンネル内空側のコンクリートの圧縮が卓越する。一方、これとは対角のトンネルの斜め上・斜め下は軸圧縮力と地震力による正の曲げモーメントが作用し、この部分のコンクリートにひび割れが発生するものの、上記負の曲げモーメントの作用部が最も厳しい条件となる。なお、地震荷重は繰り返し載荷となるため、トンネル左右の斜め上、斜め下には、正曲げ・負曲げが繰り返し作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の内面にコンクリートが露出する既設シールドトンネルでは、以下のような問題があった。
上述したように、既設シールドトンネルに大きな地震力が作用した際、トンネル横断方向には軸力と曲げモーメントが作用する。RCセグメントや合成セグメントの場合、コンクリートがトンネル内面に露出しているが、コンクリートは変形性能が乏しいため、地震力によりコンクリートが破壊(圧縮破壊(以下、圧壊)や割裂破壊)し、コンクリートがトンネル内に落下するおそれがあり、避けねばならない事象となっている。発明者らは検討の結果、とくに、地震による繰り返し荷重によりトンネル左右の斜め上、斜め下(トンネルを断面の天頂部から斜め±45°付近および±135°付近)はコンクリートが圧壊や割裂ひび割れによって破壊しやすく、特に斜め上はコンクリートが大規模にトンネル内に落下するおそれがあることを見出した。
【0006】
また、高強度材料からなるセグメントを使用することで、耐震性を向上させることは可能であるが、高価であるという問題があるうえ、セグメントのコンクリートの落下を確実に抑止することはできないことから、その点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、トンネル断面のうち発生断面力が厳しくなる部位を効率的に補強することで、大規模地震時に既設シールドトンネルのコンクリートが大規模にトンネル内に落下することを低コストで抑制できる既設シールドトンネルの補強構造および既設シールドトンネルの補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る既設シールドトンネルの補強構造の態様1は、セグメントによって構築された円形断面の既設シールドトンネルに設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートの一部を被覆することにより補強する既設シールドトンネルの補強構造であって、トンネル周方向でトンネル天頂部から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の第1補強範囲において、少なくともトンネル内面の一部を覆う被覆補強部材を備えたことを特徴としている。
【0009】
本発明では、既設シールドトンネルに大規模地震が作用した際に、トンネル横断にはトンネル周方向に軸力と曲げモーメントが作用し、軸力と曲げモーメントが卓越するトンネルの斜め上方を含む第1補強範囲となるトンネル内面を被覆するように例えば鋼板、FRP板、炭素繊維シート、樹脂モルタル、及び繊維補強コンクリート等の被覆補強部材が設けられる。したがって、被覆補強部材によって強度が向上したり、変形性能が高められたりするため、第1補強範囲におけるコンクリートの圧壊や割裂破壊を抑止することができる。また、万一、コンクリートに圧壊や割裂破壊が生じても、被覆補強部材によって支持されているため、第1補強範囲のセグメントのコンクリートが大規模にトンネル内空側に落下することを抑制できる。
【0010】
また、本発明では、トンネル周方向でトンネル天頂部から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の第1補強範囲の少なくともトンネル内面の一部に被覆補強部材を設ける構成となり、トンネル周方向の全周にわたって補強するものではないことから、材料コストを抑制することができる。
このように本発明では、既設シールドトンネルのコンクリートの落下を防止することで、コストを抑えて耐震補強を図ることができる。
【0011】
(2)本発明の態様2は、態様1の既設シールドトンネルの補強構造において、トンネルのセグメントが千鳥組であって、トンネル周方向の前記第1補強範囲にセグメント端部同士を連結する第1セグメント継手が配置され、前記被覆補強部材は、少なくともトンネル周方向に前記第1セグメント継手を含む範囲と、前記第1セグメント継手を含む範囲に対してトンネル軸方向に隣接するリングのセグメント本体に連設する範囲と、に設けられていることを特徴としてもよい。
【0012】
この場合には、第1セグメント継手を含む範囲と隣接するリングの範囲に対して被覆補強部材によって確実に補強することができる。
【0013】
(3)本発明の態様3は、態様1の既設シールドトンネルの補強構造において、トンネルのセグメントが千鳥組であって、トンネル周方向の前記第1補強範囲にセグメント端部同士を連結する第1セグメント継手が配置され、前記被覆補強部材は、前記第1補強範囲に配置される前記第1セグメント継手に対してトンネル軸方向に隣接するリングのみのセグメント本体に設けられていることを特徴としてもよい。
【0014】
この場合には、セグメントを千鳥組することによって、本来セグメント継手が負担する曲げモーメントが小さくなり、隣接するリングのセグメント本体の曲げモーメントの負担が大きくなる(これを添接効果という)。すなわち、セグメント本体よりも第1セグメント継手(一般的なセグメント継手も同様)の方が曲げ剛性が小さいため、曲げ剛性が大きい方に力が流れやすくなる。そのため、一方のリングのセグメント継手面に隣接する他方のリングの補強範囲に被覆補強部材を設けることにより被覆補強部材を削減しつつ効率的に補強できる。すなわち、効率よくかつ効果的に被覆補強部材を配置することができる。
【0015】
(4)本発明に係る既設シールドトンネルの補強構造の態様4は、セグメントによって構築された円形断面の既設シールドトンネルに設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートの一部を被覆することにより補強する既設シールドトンネルの補強構造であって、トンネル周方向でトンネル天頂部から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の第2補強範囲において、少なくともトンネル内面の一部を覆う被覆補強部材を備えたことを特徴としている。
【0016】
本発明では、既設シールドトンネルに大規模地震が作用した際に、トンネル横断にはトンネル周方向に軸力と曲げモーメントが作用し、軸力と曲げモーメントが卓越するトンネルの斜め下方を含む第2補強範囲におけるセグメントの内面を被覆するように例えば鋼板、FRP板、炭素繊維シート、樹脂モルタル、及び繊維補強コンクリート等の被覆補強部材が設けられる。したがって、被覆補強部材によって強度が向上したり、変形性能が高められたりするため、第2補強範囲におけるコンクリートの圧壊や割裂破壊を抑止することができる。また、万一コンクリートに圧壊や割裂破壊が生じても、被覆補強部材によって支持されているため、第2補強範囲のセグメントのコンクリートが大規模にトンネル内空側に落下することを抑制できる。
【0017】
また、本発明では、トンネル周方向でトンネル天頂部から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の第2補強範囲の少なくともトンネル内面の一部に被覆補強部材を設ける構成となり、トンネル周方向の全周にわたって補強するものではないことから、材料コストを抑制することができる。
このように本発明では、既設シールドトンネルのコンクリートの落下を防止することで、コストを抑えて耐震補強を図ることができる。
【0018】
(5)本発明の態様5は、態様4の既設シールドトンネルの補強構造において、トンネルのセグメントが千鳥組であって、トンネル周方向の前記第2補強範囲にセグメント端部同士を連結する第2セグメント継手が配置され、前記被覆補強部材は、少なくともトンネル周方向に前記第2セグメント継手を含む範囲と、前記第2セグメント継手を含む範囲に対してトンネル軸方向に隣接するリングのセグメント本体に連設する範囲と、に設けられていることを特徴としてもよい。
【0019】
この場合には、第2セグメント継手を含む範囲と隣接するリングの範囲に対して補強部材によって確実に補強することができる。
【0020】
(6)本発明の態様6は、態様4の既設シールドトンネルの補強構造において、トンネルのセグメントが千鳥組であって、トンネル周方向の前記第2補強範囲にセグメント端部同士を連結する第2セグメント継手が配置され、前記被覆補強部材は、前記第2補強範囲に配置される前記第2セグメント継手に対してトンネル軸方向に隣接するリングのみのセグメント本体に設けられていることを特徴としてもよい。
【0021】
この場合には、セグメントを千鳥組することによって、本来セグメント継手が負担する曲げモーメントが小さくなり、隣接するリングのセグメント本体の曲げモーメントの負担が大きくなる(これを添接効果という)。すなわち、セグメント本体よりも第2セグメント継手(一般的なセグメント継手も同様)の方が曲げ剛性が小さいため、曲げ剛性が大きい方に力が流れやすくなる。そのため、一方のリングのセグメント継手面に隣接する他方のリングの補強範囲に被覆補強部材を設けることにより被覆補強部材を削減しつつ効率的に補強できる。すなわち、効率よくかつ効果的に被覆補強部材を配置することができる。
【0022】
(7)本発明の態様7は、態様1から態様6のいずれか一つの既設シールドトンネルの補強構造において、前記被覆補強部材におけるトンネル周方向に延びる補強長は、セグメント桁高さ以上、トンネル周方向の角度で30°以下の範囲であることを特徴としてもよい。
【0023】
この場合には、補強長をこのような寸法にすることにより効率よくかつ効果的にトンネルを補強することができる。
すなわち、トンネル天頂部から±45°を中心としてそれぞれトンネル周方向X1に最大でも30°の範囲はほぼ同様の断面力が生じるため、この範囲を補強することが好ましい。例えばトンネル断面の天頂部から+45°付近を補強する場合、+30°~+60°の範囲を補強することが好ましい。
一方、トンネル周方向の最小の補強範囲はセグメントの桁高さと同一とすることが好ましく、これはトンネル内空側が圧縮となる負の曲げモーメントが作用した場合の圧壊の範囲が最小でセグメント桁高さとほぼ等しくなるため、このようにすることでトンネル内空側のコンクリートの圧壊を効率的に抑止できるからである。
【0024】
(8)本発明の態様8は、態様7の既設シールドトンネルの補強構造において、前記被覆補強部材の前記補強長は、前記セグメント桁高さの2倍以上4倍以下であることを特徴としてもよい。
【0025】
この場合には、補強長をこのような寸法にすることにより、より効率よくかつ効果的にトンネルを補強することができる。
すなわち、トンネルには地震の際に正負交番荷重が作用するため、トンネルを断面の天頂部から斜め±45°付近および±135°付近には軸力(軸圧縮力)とともに、正および負の曲げモーメントが繰り返し作用する恐れがある。これらの繰り返し荷重に対してはトンネル内空側には繰り返し作用する応力により損傷が蓄積しやすくコンクリートのトンネル周方向の損傷範囲も大きくなり、その範囲は概ねセグメントの桁高さの2倍以上かつ4倍以下となる。従って、トンネル周方向の補強範囲としては、セグメント桁高さの2倍以上かつ4倍以下の範囲を補強することが効果的かつ経済的となり好ましい。
【0026】
(9)本発明の態様9は、態様1から態様6のいずれか一つの既設シールドトンネルの補強構造において、前記被覆補強部材の内周面は、前記内面と面一で設けられていることを特徴としてもよい。
【0027】
この場合には、被覆補強部材の内周面がトンネルの内面から突出しないので、トンネル内の空間を十分に確保することを防止したりできる。
【0028】
(10)本発明の態様10は、態様1から態様6のいずれか一つの既設シールドトンネルの補強構造において、前記被覆補強部材は、複数のセグメントリングに跨って配置されることを特徴としてもよい。
【0029】
この場合には、一部のセグメントリングでコンクリートが落下する場合であっても、隣接するセグメントリングに跨って被覆補強部材が固定されているので、補強効果を高めることができる。
【0030】
(11)本発明の態様11は、態様1から態様6のいずれか一つの既設シールドトンネルの補強構造において、前記被覆補強部材は、前記セグメントを貫通させて前記セグメントの背面の地山に定着されていることを特徴としてもよい。
【0031】
この場合には、トンネル内面に固定される被覆補強部材が例えばアンカーボルト等で強固に地山に固定されているので、より補強効果を高めることができる。
【0032】
(12)本発明に係る既設シールドトンネルの補強方法の態様12は、セグメントによって構築された円形断面の既設シールドトンネルに設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートの一部を被覆することにより補強する既設シールドトンネルの補強方法であって、トンネル周方向でトンネル天頂部から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の第1補強範囲において、少なくともトンネル内面の一部を被覆補強部材で被覆する工程を有することを特徴としている。
【0033】
(13)本発明に係る既設シールドトンネルの補強方法の態様13は、セグメントによって構築された円形断面の既設シールドトンネルに設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートの一部を被覆することにより補強する既設シールドトンネルの補強方法であって、トンネル周方向でトンネル天頂部から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の第2補強範囲において、少なくともトンネル内面の一部を被覆補強部材で被覆する工程を有することを特徴としている。
【0034】
本発明では、既設シールドトンネルに大規模地震が作用した際に、トンネル横断にはトンネル周方向に軸力と曲げモーメントが作用し、軸力と曲げモーメントが卓越するトンネルの斜め上方を含む第1補強範囲、あるいは斜め下方を含む第2補強範囲となるトンネル内面を被覆するように例えば鋼板、FRP板、炭素繊維シート、樹脂モルタル、及び繊維補強コンクリート等の被覆補強部材が設けられる。したがって、被覆補強部材によって強度が向上したり、変形性能が高められたりするため、補強範囲(第1補強範囲及び第2補強範囲)におけるコンクリートの圧壊や割裂破壊を抑止することができる。また、万一、コンクリートに圧壊や割裂破壊が生じても、被覆補強部材によって支持されているため、補強範囲のセグメントのコンクリートが大規模にトンネル内空側に落下することを抑制できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の既設シールドトンネルの補強構造および既設シールドトンネルの補強方法によれば、トンネル断面のうち発生断面力が厳しくなる部位を効率的に補強することで、大規模地震時に既設シールドトンネルのコンクリートがトンネル内に落下することを低コストで抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の第1実施形態によるトンネルを示す斜視図である。
【
図3】トンネルの上半部分の展開図であって、トンネル内面を示す図である。
【
図4】被覆補強部材を備えた既設シールドトンネルを構成するセグメントを抜き出した場合のセグメントの部分斜視図である。
【
図5】被覆補強部材を備えた既設シールドトンネルを構成するセグメントを抜き出した場合のセグメントの部分斜視図である。
【
図6】被覆補強部材の固定状態の一例を示すトンネル断面図である。
【
図7】被覆補強部材の他の配置例を示すトンネルの上半部分の展開図であって、トンネル内面を示す図である。
【
図8】第2実施形態によるトンネルの上半部分の展開図であって、トンネル内面を示す図である。
【
図9】第3実施形態によるトンネルの上半部分の展開図であって、トンネル内面を示す図である。
【
図11】変形例による被覆補強部材を備えた既設シールドトンネルを構成するセグメントを抜き出した場合の合成セグメントの部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態による既設シールドトンネルの補強構造および既設シールドトンネルの補強方法について、図面に基づいて説明する。
【0038】
(第1実施形態)
図1および
図2に示すように、本第1実施形態による既設シールドトンネル1の補強構造は、セグメント10によって構築された円形断面の既設シールドトンネル1に設けられ、トンネル内面に露出するコンクリートCの一部を被覆することにより補強する構造である。本実施形態では、RCセグメント(鉄筋コンクリートセグメント)で構成されたシールドトンネルを一例として説明する。
【0039】
既設シールドトンネル1を構成するセグメント10は、例えば、シールド工法における、地山に掘削された既設シールドトンネル1の掘削穴の内壁に沿ってトンネル周方向X1およびトンネル軸方向X2に複数連結されて筒状壁体を構築している。セグメント10は、既設シールドトンネル1の掘削穴の内面の曲率半径と略等しい曲率半径を備える円弧版状に形成されている。すなわち、セグメント10は、トンネル外周面側で円弧上に湾曲された四角形枠体形状をなしている。
【0040】
セグメント10は、トンネル軸方向X2に隣接するリングのトンネル周方向X1の接合位置をトンネル周方向X1にずらした千鳥配置として組み立てられる(これを千鳥組と呼ぶ)。以下では、隣接するリングのうち一方を甲リングR1と称し、他方を乙リングR2と称する。甲リングR1と乙リングR2とは、トンネル軸方向X2に交互に配置される。
【0041】
セグメント10のコンクリートの内部には、内空側及び地山側にトンネル周方向X1に円弧状に延びる複数の主鉄筋が配筋されている。
セグメント10は、円弧状のトンネル内面10a及びトンネル外面10bと、トンネル軸方向X2に所定の間隔をあけて対向配置される円弧状の一対のリング継手面10dと、トンネル周方向X1に所定の間隔をあけて対向配置される一対のセグメント継手面10cと、を有する。トンネル内面10a及びトンネル外面10bは、それぞれ一対のリング継手面10d及び一対のセグメント継手面10cの内周側及び外周側に位置する。リング継手面10d及びセグメント継手面10cは、ボルト等の継手(図示省略)を含むセグメント端面である。
【0042】
セグメント10は、その大きさを、運搬性、組み立て性などによって適宜変更できる。すなわち、セグメント10の円弧状の曲率は、掘削するトンネル断面によって適宜決定される。
また、例えば、
図1及び
図2において、セグメント10の組み立ての際にセグメント10を最後に嵌め込めるように、セグメント継手の設置角度や、トンネル周方向X1の長さ寸法を適宜変更したいわゆるKセグメント(図の符号10K)を使用する。
【0043】
トンネル周方向X1及びトンネル軸方向X2のセグメント10同士は、ボルト等の締結手段(図示省略)により固定される。
【0044】
図1から
図3に示すように、既設シールドトンネル1には、トンネル内面10aの少なくとも一部を覆う被覆補強部材11、12(
図3では、符号12の被覆補強部材が省略されている)が設けられている。被覆補強部材11、12は、トンネル周方向X1でトンネル天頂部P0から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の第1補強範囲D1の少なくとも一部(本実施形態では
図3に示す第1補強範囲D1の全領域)と、トンネル周方向X1でトンネル天頂部P0から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の第2補強範囲D2の少なくとも一部(本実施形態では第2補強範囲D2の全領域)と、に配置されている。そのため、各セグメント10に設けられる被覆補強部材11、12は、1リングのトンネル周方向X1に配置される位置によって補強範囲が異なっている。
被覆補強部材11、12は、使用する材料によって厚みが異なるが、トンネル内面10aと面一で設けられることが好ましい。なお、ここでいう「面一」とは、トンネル内面10aに被覆補強部材11、12が全く突出していない状態ではなく、シートや薄鋼板等の薄い材料を張り付けるなど、mm単位以下でトンネル内空側に突出するものを含む。
【0045】
第1補強範囲D1には、少なくとも一部のトンネル内面10aを覆う第1被覆補強部材11が設けられている。第1被覆補強部材11は、少なくともトンネル周方向X1に第1セグメント継手(セグメント継手面10cに設けられる継手)を含む範囲と、第1セグメント継手を含む範囲に対してトンネル軸方向X2に隣接するリングのセグメント本体に連設する範囲と、に設けられている。
【0046】
第2補強範囲D2には、少なくともトンネル内面側の一部に第2被覆補強部材12が設けられている。第2被覆補強部材12は、少なくともトンネル周方向X1に第2セグメント継手(セグメント継手面10cに設けられる継手)を含む範囲と、第2セグメント継手を含む範囲に対してトンネル周方向X1に隣接するリングのセグメント本体に連設する範囲と、に設けられている。なお、上述した第1セグメント継手と第2セグメント継手は同一構成であることが一般的である。
【0047】
被覆補強部材11、12は、トンネル内面10aに沿う曲面状の部材である。被覆補強部材11、12としては、例えば、鋼板、FRP板、炭素繊維シート、メッシュ、樹脂モルタル、繊維補強コンクリート等が挙げられる。被覆補強部材11、12は、セグメント本体に接着、溶接、ボルト/ナット、フック等の固着手段により固定されている。
セグメント本体は、本実施形態では充填されるコンクリートC、鉄筋や鋼板等の鋼材である。被覆補強部材11、12は、コンクリートCと共に落下しないようにセグメント本体内の鋼材に対して固着されることが好ましい。
【0048】
地震時に曲げモーメントと圧縮軸力によってトンネルに発生する圧縮ひずみがコンクリート材料の限界値を超えると、圧壊を生じることになるが、この圧縮ひずみ最大値は、トンネル内面10aあるいはトンネル外面10bにおいて発生しコンクリートが圧壊する。このとき、トンネル内面10aで圧壊が生じると、コンクリートがトンネル内に落下する。従って、コンクリートの落下を防止するためには少なくともトンネル内面側のコンクリートを補強することが効果的である。
【0049】
被覆補強部材11、12として炭素繊維シートを採用する場合には、例えば
図4に示すように、セグメント10のトンネル内面10aに炭素繊維シートを配置し、コンクリートCに対して接着することにより固定してもよい。この場合、被覆補強部材11、12の厚さを極めて薄く設定することができる。これにより、トンネル内空間を侵さないようにするとともに、トンネル内面10aに発生する圧縮ひずみ、圧縮応力の流れを阻害することなく、局所的な応力集中などを発生させることなく補強することが可能となり、コンクリートの局所的な圧壊発生を抑止しつつ、効率的に補強することができる。
【0050】
また、被覆補強部材11、12として樹脂モルタル板や繊維補強コンクリートを採用する場合には、例えば
図5に示すように、セグメント10のトンネル内面10a側に樹脂モルタル板または繊維補強コンクリートを直接打設してもよいし、予め作成した板状のものを接着したり、ボルトやフックなどでコンクリートCに固定したりしてもよい。
【0051】
被覆補強部材11、12が鋼板やFRP板の場合には、トンネル内面10aに接着することができる。また、セグメントのコンクリートCにナットを埋め込み、このナットに対して接合手段(ボルト等)により接合することができる。あるいは、トンネル内面10aに、コンクリートC内の鉄筋に溶接やフック等で定着することで鋼板を配置してもよい。被覆補強部材11、12の内周面がセグメント10のトンネル内面10aより僅かに突出している。この場合、被覆補強部材11、12をより強固にセグメント本体に連結することが可能となり、より確実にコンクリートCの落下を抑制することができる。
【0052】
また、
図6に示すように、被覆補強部材11、12は、その被覆補強部材11、12の一部がセグメント10を厚み方向に貫通させてセグメント10の背面の地山Gに定着されていてもよい。
図6に示す補強構造では、トンネル内面10aに固定される被覆補強部材11、12がアンカーボルト13(定着部材)を備えている。この場合には、アンカーボルト13を地山Gに定着することで、被覆補強部材11、12がトンネル内面10aに強固に支持された補強構造となり、補強効果が高められている。
【0053】
図2及び
図3に示すように、被覆補強部材11、12におけるトンネル周方向X1に延びる補強長Lは、セグメント桁高さH以上、トンネル周方向X1の補強角度θで30°以下の範囲である。さらに好ましくは、被覆補強部材11、12の補強長Lがセグメント桁高さHの2倍以上4倍以下である。
【0054】
地震によってトンネルに発生する断面力が最も大きくなる範囲、すなわち最大断面力が発生する範囲、特に軸力(軸圧縮力)と曲げモーメント(トンネル内空側が圧縮となる負の曲げモーメント)の合力としての断面力が最大となる範囲は、トンネル天頂部P0から斜め±45°付近および/または±135°付近となることを研究の結果により発明者らは見出した。従ってこのように被覆補強部材11、12をこのように配置することで、この近傍の強度が向上したり、変形性能が高められたりするため、コンクリートが圧壊や割裂破壊することを抑止することができる。あるいは、万一、コンクリートが圧壊や割裂破壊しても、被覆補強部材11、12によって支持されているため、コンクリートがトンネル内に落下することを防止できる。
【0055】
すなわち、トンネル天頂部P0から±45°および/または±135°を中心としてそれぞれトンネル周方向X1に最大でも30°の範囲はほぼ同様の断面力が生じるため、この範囲を補強することが好ましい。例えばトンネル断面の天頂部から+45°および/または+135°付近を補強する場合、+30°~+60°および/または+120°~+150°の範囲を補強することが好ましい。
【0056】
一方、トンネル周方向の最小の補強範囲はセグメントの桁高さと同一とすることが好ましく、これはトンネル内空側が圧縮となる負の曲げモーメントが作用した場合の圧壊の範囲が最小でセグメント桁高さとほぼ等しくなるため、このようにすることでトンネル内空側のコンクリートの圧壊を効率的に抑止できるからである。
【0057】
さらに、トンネルには地震の際に正負交番荷重が作用するため、トンネルを断面の天頂部から斜め±45°付近および/または±135°付近には軸力(軸圧縮力)とともに、正および負の曲げモーメントが繰り返し作用する恐れがある。これらの繰り返し荷重に対してはトンネル内空側には繰り返し作用する応力により損傷が蓄積しやすくコンクリートのトンネル周方向X1の損傷範囲も大きくなり、その範囲は概ねセグメントの桁高さの2倍以上かつ4倍以下となる。従って、トンネル周方向X1の補強範囲としては、セグメント桁高さの2倍以上かつ4倍以下の範囲を補強することが効果的かつ経済的となり好ましい。
【0058】
また、被覆補強部材11、12は、リング毎に設けられることに限定されず、例えば、
図7に示すように、複数のリングに跨って配置される構成のものを採用してもよい。
図7に示す構造は、1枚の被覆補強部材110が3リング分の幅寸法(トンネル軸方向X2の長さ寸法)に設定された構成となっている。
図7では、4枚の被覆補強部材110(110A、110B、110C、110D)が示され、各被覆補強部材110が3リングに跨って配置されている。これら被覆補強部材110A、110B、110C、110Dは、それぞれのトンネル周方向X1の中心をトンネル天頂部P0から±45°の位置、すなわちトンネル周方向X1でトンネル天頂部P0から30°~60°及び-30°~-60°の位置に配置されている。この場合には、一部のリングでコンクリートが落下する場合であっても、隣接するリングに跨って被覆補強部材11、12が固定されているので、補強効果を高めることができる。
なお、被覆補強部材110の大きさ(幅寸法)としては、3リングに跨る大きさであることに限定されることはなく、例えば2リング分、4リング分等、被覆補強部材110で跨るリング数が制限されることはない。
【0059】
以上説明した既設シールドトンネルの補強構造によれば、既設シールドトンネル1に大規模地震が作用した際に、トンネル横断にはトンネル周方向X1に軸力と曲げモーメントが作用し、軸力と曲げモーメントが卓越するトンネルの斜め上方を含む第1補強範囲D1(トンネル周方向X1でトンネル天頂部P0から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の範囲)となるトンネル内面10aを被覆するように例えば鋼板、FRP板、炭素繊維シート、樹脂モルタル、及び繊維補強コンクリート等の被覆補強部材11が設けられている。したがって、被覆補強部材11によって強度が向上したり、変形性能が高められたりするため、第1補強範囲D1におけるコンクリートの圧壊や割裂破壊を抑止することができる。また、万一、コンクリートCに圧壊や割裂破壊が生じても、被覆補強部材11によって支持されているため、第1補強範囲D1のセグメントのコンクリートCが大規模にトンネル内空側に落下することを抑制できる。
【0060】
しかも本実施形態では、既設シールドトンネル1に大規模地震が作用した際に、既設シールドトンネル1の斜め下方を含む第2補強範囲D2(トンネル周方向X1でトンネル天頂部P0から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の範囲)となるトンネル内面10aを被覆するように被覆補強部材12が設けられる。したがって、被覆補強部材12によって強度が向上したり、変形性能が高められたりするため、第2補強範囲D2におけるコンクリートCの圧壊や割裂破壊を抑止することができる。また、万一、コンクリートCに圧壊や割裂破壊が生じても、被覆補強部材12によって支持されているため、第2補強範囲D2のセグメントのコンクリートCが大規模にトンネル内空側に落下することを抑制できる。
【0061】
また、本実施形態では、被覆補強部材11、12をトンネル周方向X1でトンネル天頂部P0からの第1補強範囲D1および/または第2補強範囲D2の少なくとも一部に設ける構成となり、トンネル周方向X1の全周にわたって補強するものではないことから、材料コストを抑制することができる。
このように本実施形態では、既設シールドトンネル1のコンクリートCの落下を防止することで、コストを抑えて耐震補強を図ることができる。
【0062】
また、本実施形態では、被覆補強部材11におけるトンネル周方向X1に延びる補強長Lは、セグメント桁高さH以上、トンネル周方向X1の角度で30°以下の範囲である。
この場合には、補強長Lをこのような寸法にすることにより効率よくかつ効果的にトンネルを補強することができる。すなわち、トンネル天頂部P0から±45°を中心としてそれぞれトンネル周方向X1に最大でも30°の範囲はほぼ同様の断面力が生じるため、この範囲を補強することが好ましい。例えばトンネル断面の天頂部から+45°付近を補強する場合、+30°~+60°の範囲を補強することが好ましい。一方、トンネル周方向X1の最小の補強範囲はセグメント桁高さHと同一とすることが好ましく、これはトンネル内空側が圧縮となる負の曲げモーメントが作用した場合の圧壊の範囲が最小でセグメント桁高さHとほぼ等しくなるため、このようにすることでトンネル内空側のコンクリートCの圧壊を効率的に抑止できるからである。
【0063】
また、本実施形態では、補強長Lがセグメント桁高さHの2倍以上4倍以下である。
この場合には、補強長Lをこのような寸法にすることにより、より効率よくかつ効果的にトンネルを補強することができる。すなわち、トンネルには地震の際に正負交番荷重が作用するため、トンネルを断面の天頂部から斜め±45°付近および±135°付近には軸力(軸圧縮力)とともに、正および負の曲げモーメントが繰り返し作用する恐れがある。これらの繰り返し荷重に対してはトンネル内空側には繰り返し作用する応力により損傷が蓄積しやすくコンクリートのトンネル周方向X1の損傷範囲も大きくなり、その範囲は概ねセグメントの桁高さの2倍以上かつ4倍以下となる。従って、トンネル周方向X1の補強範囲としては、セグメント桁高さHの2倍以上かつ4倍以下の範囲を補強することが効果的かつ経済的となり好ましい。
【0064】
上述のように本実施形態による既設シールドトンネルの補強構造および既設シールドトンネルの補強方法では、トンネル断面のうち発生断面力が厳しくなる部位を効率的に補強することで、大規模地震時に既設シールドトンネル1のコンクリートが既設シールドトンネル1内に落下することを低コストで抑制できる。
【0065】
次に、他の実施形態による既設シールドトンネルの補強構造および既設シールドトンネルの補強方法について、添付図面に基づいて説明する。なお、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0066】
(第2実施形態)
図8に示すように、第2実施形態による既設シールドトンネル1の補強構造は、トンネル周方向X1でトンネル天頂部P0から±45°の近傍にセグメント継手面10cが複数配置される場合に適用される一例を示している。
【0067】
被覆補強部材11Aは、上記の第1実施形態による第1補強範囲D1(トンネル天頂部P0から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の範囲)および図示省略する第2補強範囲D2(トンネル天頂部P0から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の範囲)において、甲リングR1のセグメント継手面10cを含む第1範囲d1と、第1範囲d1に対してトンネル軸方向X2に隣接する乙リングR2の第2範囲d2と、乙リングR2のセグメント継手面10cを含む第3範囲d3と、第3範囲d3に対してトンネル軸方向X2に隣接する甲リングR1の第4範囲d4と、に設けられている。
【0068】
本第2実施形態のように第1補強範囲D1及び第2補強範囲D2のそれぞれにおいて、セグメント継手面10cが複数ある場合には、それぞれのセグメント継手面10cにおいて上記第1実施形態と同様の補強長Lに設定される。すなわち、各セグメント継手面10cにおける被覆補強部材11のトンネル周方向X1に延びる補強長Lは、セグメント桁高さH以上、トンネル周方向X1の補強角度θで30°以下の範囲であり、さらに好ましくはセグメント桁高さHの2倍以上4倍以下である。
【0069】
このように補強範囲全体を補強する必要はなく、補強範囲の一部をかつ複数に分割して補強してもよい。このようにすることで材料コストが削減できるほか、現場施工時における重機の小型化による施工コストの削減が可能となる。
【0070】
(第3実施形態)
図9に示すように、第3実施形態によるセグメント10Cの被覆補強部材11Cは、断面視してトンネル周方向X1でトンネル天頂部P0から±45°の近傍にセグメント継手面10cが配置される場合に適用される一例を示している。そして、被覆補強部材11Cは、第1補強範囲D1(トンネル天頂部P0から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の範囲)および図示省略する第2補強範囲D2(トンネル天頂部P0から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の範囲)にセグメント継手面10cが配置される場合であって、セグメント継手面10cが設けられる一方のリングに対してトンネル軸方向X2に隣接する他方のリングの補強範囲のみに設けられている。
【0071】
具体的に被覆補強部材11Cは、甲リングR1のセグメント継手面10cに対してトンネル軸方向X2に隣接する乙リングR2の第2範囲d2と、乙リングR2のセグメント継手面10cに対してトンネル軸方向X2に隣接する甲リングR1の第4範囲d4と、に設けられている。
【0072】
第3実施形態では、
図10に示すように、上記第1実施形態と同様の補強長Lに設定される。すなわち、各セグメント継手面10cにおける被覆補強部材11Cのトンネル周方向X1に延びる補強長Lは、セグメント桁高さH以上、トンネル周方向X1の補強角度θで30°以下の範囲であり、さらに好ましくはセグメント桁高さHの2倍以上4倍以下である。
【0073】
第3実施形態のように第2範囲d2及び第4範囲d4に設けられる被覆補強部材11Cは、添接効果を利用することで、効率よくかつ効果的に被覆補強部材11Cを配置している。
添接効果とは、
図9に示すように、セグメント10Cを千鳥組することによって、本来セグメント継手面10cのセグメント継手が負担する曲げモーメントが小さくなり、隣接するリングのセグメント本体の曲げモーメントの負担が大きくなることをいう。すなわち、セグメント本体よりも第1セグメント継手の方が曲げ剛性が小さいため、曲げ剛性が大きい方に力(
図9の符号F)が流れやすくなる。そのため、一方のリングのセグメント継手面10cに隣接する他方のリングの補強範囲のセグメント10Cのセグメント本体に被覆補強部材11を設けることにより、効率よくかつ効果的に被覆補強部材11を配置することができる。
このように、第3実施形態では、一方のリングのセグメント継手面10cに隣接する他方のリングの補強範囲(第2範囲d2及び第4範囲d4)に被覆補強部材11Cを設けている。
【0074】
以上、本発明による既設シールドトンネルの補強構造及びトンネルの補強方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0075】
例えば、上述した実施形態では被覆補強部材11を設けるトンネル内面10aを形成するセグメントとして、RCセグメント(鉄筋コンクリートセグメント)を適用しているが、これに限らず、例えば、
図11に示すような合成セグメント20に適用することも可能である。要は、円形断面のトンネルに設けられ、第1補強範囲D1(トンネル天頂部P0から30°~60°及び-30°~-60°のうち少なくとも一方の範囲)または第2補強範囲D2(トンネル天頂部P0から120°~150°及び-120°~-150°のうち少なくとも一方の範囲)を含むトンネル内面に露出するコンクリートの一部を被覆することにより補強すればよいのである。
【0076】
具体的に既設シールドトンネル1を構成するセグメントが合成セグメント20である一例としては、セグメントの内空面以外の5面を覆う鋼材から形成されている円弧板状枠体21と、円弧板状枠体21の内部に打設されたコンクリート22と、を備えている。すなわち円弧板状枠体21は、トンネル軸方向X2の両端部にそれぞれ配された一対の主桁23と、一対の主桁23のトンネル周方向X1の両端部にそれぞれ接合された一対の継手板24と、主桁23および継手板24のトンネルの地山側に接合された円筒周面形状に湾曲されたスキンプレート25と、を備える。円弧板状枠体21の内側には一般的にトンネル軸方向X2及びトンネル周方向X1に延在するリブ材が設けられている。
そして、合成セグメント20には、トンネル内面のコンクリート22の少なくとも一部を覆うように被覆補強部材26が設けられる。被覆補強部材26の補強範囲、位置、部材、形状等の構成、設置の考え方は、上述したRCセグメントによって構成される既設シールドトンネル1と同様である。
【0077】
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 トンネル
10、10A~10C セグメント
10a トンネル内面
10b トンネル外面
10c セグメント継手面
10d リング継手面
11、11A~11C、12 被覆補強部材
11a 内周面
13 アンカーボルト(定着部材)
20 合成セグメント
22 コンクリート
22a トンネル内面
26 被覆補強部材
C コンクリート
P0 トンネル天頂部
R1 甲リング
R2 乙リング
X1 トンネル周方向
X2 トンネル軸方向