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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025091666
(43)【公開日】2025-06-19
(54)【発明の名称】超音波探傷装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20250612BHJP
   G01N 29/06 20060101ALI20250612BHJP
   G01N 29/32 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
G01N29/07
G01N29/06
G01N29/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207059
(22)【出願日】2023-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】北澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】三木 将裕
(72)【発明者】
【氏名】小西 孝明
(72)【発明者】
【氏名】大島 佑己
(72)【発明者】
【氏名】大内 弘文
(72)【発明者】
【氏名】仁平 泰広
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA03
2G047BC02
2G047BC07
2G047GB02
2G047GB17
2G047GG41
2G047GH07
(57)【要約】
【課題】検査体からの超音波素子の微小な浮きを容易に確認することができる超音波探傷装置等を提供する。
【解決手段】超音波探傷装置100は、超音波探触子101と、送受信制御装置103と、演算装置104と、を備える。超音波探触子101は、超音波の送受信を行う超音波素子102を有する。送受信制御装置103は、超音波素子102による超音波の送受信を制御する。演算装置104は、超音波の収録波形を処理するプロセッサを有する。プロセッサは、収録波形から不感帯時間幅(402、602)を測定する。プロセッサは、不感帯時間幅(402、602)から超音波素子102が検査体301に密着しているかを判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受信を行う超音波素子を有する超音波探触子と、
前記超音波素子による前記超音波の送受信を制御する送受信制御装置と、
前記超音波の収録波形を処理するプロセッサを有する演算装置と、を備え、
前記プロセッサは、
前記収録波形から不感帯時間幅を測定し、
前記不感帯時間幅から前記超音波素子が検査体に密着しているかを判定する
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探傷装置であって、
前記不感帯時間幅は、前記超音波の送信を開始したタイミングから前記超音波の前記収録波形の強度が閾値より小さくなるタイミングまでの期間である
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波探傷装置であって、
前記プロセッサは、
前記超音波探触子が前記検査体から離れた空気中において、前記超音波の送信を開始したタイミングから前記超音波の前記収録波形の強度が前記閾値より小さくなるタイミングまでの期間である前記不感帯時間幅の基準値を測定し、
前記基準値からの前記不感帯時間幅の増減から前記超音波素子が前記検査体に密着しているかを判定する
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波探傷装置であって、
ユーザに報知する報知装置を備え、
前記プロセッサは、
前記超音波素子が前記検査体に密着していないと判定した場合、前記報知装置を用いて前記ユーザに報知する
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波探傷装置であって、
前記超音波探触子は、複数の前記超音波素子から構成され、
前記プロセッサは、
それぞれの前記超音波素子が前記検査体に密着しているかを判定する
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波探傷装置であって、
表示装置を備え、
前記プロセッサは、
複数の前記超音波素子で受信される複数の前記収録波形から前記検査体の内部の画像を生成して前記表示装置に表示する
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波探傷装置であって、
前記プロセッサは、
前記検査体に密着していないと判定された前記超音波素子で受信される前記収録波形のうち、前記不感帯時間幅が基準値以上のものを取り除く
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波探傷装置であって、
前記プロセッサは、
前記不感帯時間幅が前記基準値より小さい前記収録波形のみから前記超音波探触子の近傍の前記検査体の表面形状の情報を取得する
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波探傷装置であって、
前記プロセッサは、
前記検査体の表面形状の情報から前記超音波の伝播経路を計算し、
前記伝播経路から前記検査体の内部の画像を補正する
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波探傷装置であって、
前記プロセッサは、
ユーザからの指示に従って、補正前後の前記検査体の内部の画像のいずれか又は両方を前記表示装置に表示する
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項11】
超音波探触子を構成する超音波素子に対応する超音波の収録波形から不感帯時間幅を測定する工程と、
前記不感帯時間幅から前記超音波素子が検査体に密着しているかを判定する工程と、
を演算装置のプロセッサに実行させる超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント設備には、安全性の担保として余寿命評価が用いられており、その際、検査体内部、主に配管内部の欠陥位置と欠陥寸法の情報が必要である。検査体内部の欠陥情報取得のために非破壊検査が実施されるが、その手法の一つとして超音波探傷が挙げられる。超音波探傷はセンサが受信した超音波波形から、欠陥寸法とセンサからの欠陥位置を測定できる。
【0003】
従来手法として、複数の素子が内蔵されているアレイセンサを用いたPhased Array法が挙げられるが、超音波探傷前にセンサ内の各素子での超音波発振時間の詳細な設定が必要であった。
【0004】
近年、超音波センサの超音波送受信素子の位置情報と、検査体内部の超音波音速と、フルマトリクスキャプチャー(FMC)により収録した超音波の受信波形から、検査体内部への超音波の伝播経路を計算し、検査体内部を映像化する開口合成手法が注目されている。開口合成手法により、従来の検査手法で必要であった事前の探傷設定が不要となり、検査の簡易化が可能となる。
【0005】
開口合成手法においても、従来手法同様センサの密着性は必要である。UT(Ultrasonic Testing)の熟練者においては得られた収録波形からセンサの密着性を確認することができる。しかし、UTの経験が浅い検査員においては波形から判断することは難しく、非密着状態で収録した波形を用いて通常の開口合成にて映像化した場合、画像の歪みが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5155692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、中間媒質を用いた超音波探傷にて受信した信号を用い、検査体表面までの距離もしくは傾きを検出する。その後、表面での屈折を考慮した映像化を実施する発明である。
【0008】
しかし、センサと検査体表面の間に中間層が存在する前提の発明であり、密着性の判定を行っていない。そのため、実際の検査に適用した場合、検査体表面のうねりに伴う微小なセンサの浮きが生じた場合、判定及び補正は難しい。
【0009】
本発明の目的は、検査体からの超音波素子の微小な浮きを容易に確認することができる超音波探傷装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一例の超音波探傷装置は、超音波の送受信を行う超音波素子を有する超音波探触子と、前記超音波素子による前記超音波の送受信を制御する送受信制御装置と、前記超音波の収録波形を処理するプロセッサを有する演算装置と、を備え、前記プロセッサは、前記収録波形から不感帯時間幅を測定し、前記不感帯時間幅から前記超音波素子が検査体に密着しているかを判定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検査体からの超音波素子の微小な浮きを容易に確認することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1に係る全体構成図。
図2】実施例1における基準となる不感帯幅取得時の概要図。
図3】実施例1におけるセンサ密着時の探傷概要図。
図4】実施例1におけるセンサ密着時に取得する波形の概要図。
図5】実施例1におけるセンサ非密着時の探傷概要図。
図6】実施例1におけるセンサ非密着時に取得する波形の概要図。
図7】実施例1における検査フロー図。
図8】実施例1におけるセンサの密着性判定のフロー図。
図9】本発明の実施例2に係る全体構成図。
図10】実施例2における各素子での同素子受信波形の概要図。
図11】実施例2における非密着素子での開口合成収録波形の概要図。
図12】実施例2におけるセンサ近傍での探傷画像の概要図。
図13A】実施例2における無補正の探傷画像の概要図。
図13B】実施例2における補正を行った探傷画像の概要図。
図14】実施例2における検査フロー図。
図15】実施例1,2における演算装置のハードウェア構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
(実施例1)
図1は、本発明による実施例1の超音波探傷装置の全体構成図である。本実施例の超音波探傷装置は、UT実施時にセンサと検査体の密着性を判定し、非密着時において補正手段を講じることで、表面うねりがある対象における検査結果の信頼性を向上する。
【0015】
図1において、本実施例の超音波探傷では、超音波探触子101は超音波素子102を有し、超音波探触子101の送受信制御装置103(超音波送受信制御装置)、演算装置104を用いる。
【0016】
超音波探触子101は超音波素子102を有し、超音波素子102から超音波の照射及び受信が可能である。送受信制御装置103は、超音波探触子101の送信と受信を制御できる。演算装置104は、例えばコンピュータ(PC: Personal Computer)であり、超音波探触子101を用いた探傷により、受信した波形を記録し、画面に表示及び評価する機能を有する。詳細には、演算装置104は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、メモリ、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置と、キーボード、マウス等の入力装置と、ネットワークI/F、入出力回路等の通信装置と、ディスプレイ等の表示装置と、を備える(図15)。
【0017】
図2は実施例1における超音波探傷装置100をセッティングした後に収録される波形の概要図である。ここで、セッティング後に収録される波形というのは、超音波探触子101が何にも触れていない状態で収録される波形を指す。
【0018】
図2において、収録波形201が記録される。収録波形201に対し、閾値202を設定することで、不感帯時間幅203にて基準となる時刻Tが求められる。不感帯とは、超音波素子102が超音波を照射する際の素子の揺れ等により、欠陥信号が受信できない時間領域を指す。
【0019】
閾値202は例えば、一般的な検査で行われる探傷前の校正等により定められる検出する欠陥の信号強度を基に設定してもよい。不感帯時間幅203の時刻Tは超音波素子102が何にも触れていない場合の不感帯時間幅であり、超音波素子102が例えば検査体に密着している場合、素子の揺れが速く収まるため不感帯幅は減少し、超音波素子102が検査体に非密着の場合、超音波探触子101と検査体との間で超音波が多重反射することにより、不感帯幅は増加する。
【0020】
図3は実施例1におけるセンサ密着時の探傷概要図である。
【0021】
図3において、検査体301に対し超音波探触子101を設置する。検査体301表面が平滑であり、超音波探触子101が検査体301に対し十分に押し付けられている場合、検査体301に対し超音波探触子101は密着する。
【0022】
図4図3での試験体系にて得られる超音波の収録波形の概要図である。超音波探触子101が検査体301に密着している場合、収録波形401が得られる。閾値202を用いることで密着状態での不感帯時間幅402の時刻T’が得られる。この時、時刻T’は基準となる不感帯時間幅203の時刻T以下となる。この場合、探触子は密着状態であると演算装置104は判定する。
【0023】
図5はセンサ非密着時における探傷概要図である。
【0024】
超音波探傷において、探触子と検査体の密着性確保のために接触媒質501が塗布される。検査体301の表面において設計公差等の歪みや、超音波探触子101を検査体301に対し十分に押し付けていない場合、超音波探触子101は検査体301に対し非密着となる。その場合、超音波探触子101と検査体301の間に、接触媒質501の層が存在する。
【0025】
図6図5での試験体系にて得られる超音波の収録波形の概要図である。
【0026】
超音波探触子101が検査体301に対し非密着である場合、収録波形601が得られる。閾値202を用いることで非密着状態での不感帯時間幅602の時刻T''が得られる。この時、時刻T''は基準となる不感帯時間幅203の時刻T以上となる。この場合、探触子は非密着状態であると判定する。
【0027】
図7は本発明の実施例1における検査フローである。本実施例では、処理の主体は演算装置104のプロセッサである。
【0028】
A1において、探傷に用いる探触子の検出感度校正を行う。
【0029】
A2において、探触子が何にも触れていない状態で波形を収録し、閾値から密着性判定の基準となる不感帯時間幅を設定する。この時、閾値はA1にて行った検出感度の情報を用いてもよい。
【0030】
A3において、探傷位置まで探触子を走査する。
【0031】
A4において、探傷位置にて収録波形を取得する。
【0032】
A5において、A4で得られた収録波形から探触子の密着性判定を行う。この時、非密着であると判定された場合、探触子を走査し密着性が確保できるまでA3,A4,A5の工程を繰り返す。
【0033】
A6において、A5にて密着と判定された場合、収録された波形を用いて探傷結果を評価する。非密着と判定された場合、非密着状態であることを検査実施者に知らせる手段を講じてもよい。
【0034】
図8は本発明の実施例1における検査フローにおける密着性判定の詳細フローである。本実施例では、処理の主体は演算装置104のプロセッサである。
【0035】
A5-1において、探傷時の収録波形に対し、密着性判定の基準となる不感帯時間幅を求めた際に用いた閾値と同様の値を用いて不感帯時間幅の測定を行う。
【0036】
A5-2において、A5-1で求めた不感帯時間幅と密着性判定の基準となる不感帯時間幅とを比較する。
【0037】
A5-3において、不感帯時間幅の増減を評価する。不感帯時間幅が増加していた場合、探触子と検査体は非密着であると判定する。不感帯時間幅が減少していた場合、探触子と検査体は密着であると判定する。
【0038】
以上の手段により、収録波形から探触子と検査体の密着性の判定が可能となる。
【0039】
実施例1の主な特徴は、次のようにまとめることもできる。
【0040】
図1に示すように、超音波探傷装置100は、超音波探触子101と、送受信制御装置103と、演算装置104と、を備える。超音波探触子101は、超音波の送受信を行う超音波素子102(例えば、圧電素子)を有する。送受信制御装置103は、超音波素子102による超音波の送受信を制御する。演算装置104は、超音波の収録波形を処理するプロセッサを有する。プロセッサは、収録波形から不感帯時間幅(402、602)を測定する(図4図6)。プロセッサは、不感帯時間幅(402、602)から超音波素子102が検査体301に密着しているかを判定する。
【0041】
不感帯時間幅から超音波素子102と検査体301との密着性が判定されるので、検査体301からの超音波素子102の微小な浮きを容易に確認することができる。
【0042】
本実施例では、不感帯時間幅(402、602)は、超音波の送信を開始したタイミング(超音波素子102に電流又は電圧を印加したタイミング)から超音波の収録波形の強度(振幅)が閾値202より小さくなるタイミングまでの期間である(図4図6)。これにより、不感帯時間幅を正確に測定することができる。
【0043】
プロセッサは、超音波探触子101が検査体301から離れた空気中において、超音波の送信を開始したタイミングから超音波の収録波形の強度が閾値202より小さくなるタイミングまでの期間である不感帯時間幅の基準値(時刻T)を測定する。プロセッサは、基準値(時刻T)からの不感帯時間幅(402、602)の増減から超音波素子102が検査体301に密着しているかを判定する(図4図6)。
【0044】
これにより、検査体301からの超音波素子102の微小な浮きを正確に判定することができる。なお、閾値202は測定レンジと探傷前の校正時に検出する欠陥の信号強度との差分に基づいて決定してもよい。例えば、不感帯信号に欠陥信号が重畳しても測定レンジ内に収まるように閾値202が設定される。
【0045】
超音波探傷装置100は、ユーザに報知する報知装置を備えてもよい。プロセッサは、超音波素子102が検査体301に密着していないと判定した場合、報知装置を用いてユーザに報知する。
【0046】
これにより、熟練していないユーザであっても超音波素子102の微小な浮きを認識することができる。なお、報知装置は、例えば、スピーカ、ディスプレイ、ランプ等である。演算装置104に付随するディスプレイ等を報知装置として利用してもよい。
【0047】
(実施例2)
図9は本発明による実施例2の超音波探傷装置の全体構成図である。
【0048】
実施例1との相違点は超音波アレイセンサ901を用いる点である。超音波アレイセンサ901は複数の超音波素子902,903,904,905を含んでおり、各素子において超音波の送受信が可能である。超音波の送受信は送受信制御装置906により制御される。演算装置907は、例えばPCであり、収録した波形を用い映像化または評価する機能を有する。また、演算装置907では例えば開口合成のような映像化機能を用いる。開口合成は医療分野やレーダーなどで一般的に用いられている技術であるため、本明細書では説明を割愛する。
【0049】
検査においては検査体908に超音波アレイセンサ901を設置して探傷を行う。この時、溶接に伴う熱変形や超音波アレイセンサ901の押し付け強度により、909に示すような超音波アレイセンサ901と検査体908において非密着の領域が生じる場合がある。
【0050】
実施例1との効果の違いは、アレイセンサを用いることにより開口合成による探傷画像の補正手段が得られる点である。開口合成による映像化は非密着領域における検査体表面形状の情報を取得することで、検査体表面での超音波の屈折を考慮して映像化を行い、探傷画像中の歪みを補正することができる。以下、図を用いてアレイセンサを用いた場合の密着性判定と、非密着領域における検査体表面の形状情報の取得手段について述べる。
【0051】
図10図9における各素子での同素子受信波形の概要図である。
【0052】
収録波形1001は超音波アレイセンサ901における超音波素子902で送信した超音波を、超音波素子902で受信した波形を示している。収録波形1002は超音波アレイセンサ901における超音波素子903で送信した超音波を、超音波素子903で受信した波形を示している。収録波形1003は超音波アレイセンサ901における超音波素子904で送信した超音波を、超音波素子904で受信した波形を示している。収録波形1004は超音波アレイセンサ901における超音波素子905で送信した超音波を、超音波素子905で受信した波形を示している。
【0053】
各収録波形において実施例1と同様に、センサ非設置状態で収録した波形に対し、センサの感度校正を用いた閾値から測定した不感帯時間幅203の時刻Tと比較し、超音波アレイセンサ各素子の密着性を判定する。図10において、収録波形1002,1003は時刻Tより不感帯幅が増加していることから、超音波素子903,904を非密着素子と判定する。好ましくは、不感帯時間幅の基準値(時刻T)は超音波素子ごとの測定値である。
【0054】
図11図10の判定により、非密着と判定された素子における開口合成での収録波形を表した概要図である。
【0055】
収録波形1101は超音波アレイセンサ901における超音波素子903で送信した超音波を、超音波素子902で受信した波形を示している。収録波形1102は超音波アレイセンサ901における超音波素子903で送信した超音波を、超音波素子903で受信した波形を示している。収録波形1103は超音波アレイセンサ901における超音波素子903で送信した超音波を、超音波素子904で受信した波形を示している。収録波形1104は超音波アレイセンサ901における超音波素子903で送信した超音波を、超音波素子905で受信した波形を示している。
【0056】
非密着素子にて開口合成法で収録した各波形に対し、センサ密着性判定の基準となる不感帯時間幅203の時刻Tを用い、不感帯の大小を判定する。不感帯がセンサ非接触時の波形より増大している場合、波形を取り除く。図11の場合、収録波形の内1102,1103を取り除く。この工程をすべての非密着素子の開口合成による収録波形に適用する。
【0057】
図12図11の工程を終えた後の収録波形を用い、センサ近傍を画像化した際の模式図である。探傷画像1201は収録波形に対し、接触媒質の音速を用いて映像化したものである。
【0058】
図11の工程により、開口合成で収録した波形の内、不感帯の領域が大きいものを取り除くことで、開口合成での映像1201においてセンサ近傍の不感帯領域を低減できる。また、使用する接触媒質の音速を用いて映像化することにより、センサ近傍の検査体表面からの反射エコー1202が得られる。検査体表面からの反射エコー1202から検査体表面形状の情報が得られる。
【0059】
図13A、13Bは収録波形を用い、検査体内部を映像化した際の概要図である。
【0060】
探傷画像1301は収録波形すべてを用いて鋼材音速のみを用いて映像化した結果の概要図である。探傷画像1302は図12の工程で得られた検査体表面形状の情報を用い、接触媒質と鋼材の音速を用いて映像化した結果の模式図である。探傷画像1301においては、超音波アレイセンサ901が非密着であるため、配管表面からの反射エコー1303が表示される。この領域においては接触媒質内での音速で超音波が伝播するため、補正を加えないと検査体底面信号1304は探傷画像1301において歪んで表示される。
【0061】
図12において取得した検査体表面形状1305を用い、センサとの間を接触媒質音速として開口合成において伝播経路を補正することで、検査体底面信号1306は歪みなく表示される。
【0062】
無補正の探傷画像1301及び補正後の探傷画像1302は、演算装置907にて同時表示もしくは切り替え表示可能としてもよい。
【0063】
図14は本発明の実施例2における検査フローである。本実施例では、処理の主体は演算装置907のプロセッサである。
【0064】
B1において、アレイセンサを用いた探傷において感度校正を行う。
【0065】
B2において、アレイセンサが何にも触れていない状態で波形を収録し、閾値から密着性判定の基準となる不感帯時間幅を設定する。この時、閾値はB1にて行った検出感度の情報を用いてもよい。
【0066】
B3において、探傷位置までアレイセンサを走査する。
【0067】
B4において、探傷位置にて開口合成による収録波形を取得する。
【0068】
B5において、B4で得られた収録波形から探触子の密着性判定を行う。
【0069】
B6において、B5の工程でアレイセンサの全素子にて密着していると判定した場合、鋼材音速のみを用いて開口合成にて映像化を行う。
【0070】
B7において、B6の工程で得られた探傷画像から欠陥信号の評価を行う。
【0071】
B8において、B5の工程にて非密着と判定された超音波素子が存在する場合、非密着素子から送信された超音波を収録した波形の内、不感帯時間幅が基準以上の波形を取り除く。この時、基準としてはB5の工程で用いた不感帯時間幅を用いてもよい。不感帯時間幅が基準以上の波形を取り除いた後、接触媒質の音速を用いて開口合成による映像化を行い、検査体表面形状の情報を取得する。
【0072】
B9において、B8で取得した表面形状の情報を用い、接触媒質と検査体の音速を用いて映像化を行う。
【0073】
A10において、B9の工程で得られた探傷画像から欠陥信号の評価を行う。
【0074】
上記手段により、アレイセンサが非密着と判定された場合において、補正手段を講じることにより、検査体内部を歪みなく映像化可能となる。
【0075】
実施例2の主な特徴は、次のようにまとめることもできる。
【0076】
超音波探触子(超音波アレイセンサ901)は、複数の超音波素子902~905から構成される。演算装置907のプロセッサは、それぞれの超音波素子が検査体908に密着しているかを判定する(図10)。これにより、検査体からの超音波素子ごとの微小な浮きを容易に確認することができる。
【0077】
超音波探傷装置900は、表示装置(ディスプレイ)を備えてもよい。プロセッサは、複数の超音波素子902~905での複数の収録波形から検査体の内部の画像を生成して表示装置に表示する(図13A)。これにより、非破壊で検査体の内部を視認することができる。
【0078】
プロセッサは、検査体908に密着していないと判定された超音波素子903、904で受信される収録波形のうち、不感帯時間幅が基準値T以上のものを取り除く(図11)。
【0079】
これにより、検査体の内部の画像において超音波探触子(超音波アレイセンサ901)の近傍の不感帯領域を低減することができる。なお、図11の例では、超音波素子903から送信された超音波に対して超音波素子903、904で受信される不感帯時間幅が基準値T以上の収録波形1102、1103が取り除かれるが、超音波素子902、904、905から送信された超音波に対して超音波素子903、904で受信される収録波形のうち、不感帯時間幅が基準値T以上のものも取り除かれる。
【0080】
プロセッサは、不感帯時間幅が基準値Tより小さい収録波形のみから超音波探触子(超音波アレイセンサ901)の近傍の検査体の表面形状の情報を取得する(図12)。詳細には、プロセッサは、検査体表面からの反射エコー1202から検査体の表面形状を計測(推定)する。これにより、超音波素子と検査体の隙間(接触媒質)における超音波の伝搬速度を後の工程で考慮することができる。
【0081】
プロセッサは、検査体の表面形状(検査体表面形状1305)の情報から超音波の伝播経路を計算し、伝播経路から検査体の内部の画像(検査体底面信号1306)を補正する(図13B)。これにより、検査体の内部の画像の歪みを補正することができる。
【0082】
図15に示すように、プロセッサは、ユーザ(検査者)からの指示(例えば、入力装置(キーボード、マウス)からの入力)に従って、補正前後の検査体の内部の画像のいずれか又は両方を表示装置(ディスプレイ)に表示する。これにより、ユーザは画像の補正の効果を視覚的に把握することができる。また、顕現性を高めることができる。
【0083】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0084】
また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサ(コンピュータ)がそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0085】
なお、本発明の実施例は、以下の態様であってもよい。
【0086】
(1).超音波送受信素子を備える超音波センサと、前記超音波素子からの超音波の送受信を制御する装置と、前記制御装置での超音波の受信波形を記録する演算装置を用いる超音波探傷手法において、得られる収録波形から不感帯時間を測定する超音波探傷手法。
【0087】
(2).(1)に記載の超音波探傷手法において、収録波形に対し閾値を設定し、不感帯時間幅を測定する超音波探傷手法。
【0088】
(3).(1),(2)のいずれかに記載の超音波探傷手法において、密着判定に用いる基準となる不感帯時間幅を測定し、探傷時の収録波形における不感帯時間幅の増減から超音波センサの密着性を判定する超音波探傷手法。
【0089】
(4).(1),(2),(3)のいずれかに記載の超音波探傷手法において、超音波センサが非密着の場合、検査者に知らせる手段を有する超音波探傷手法。
【0090】
(5).(1),(2),(3),(4)のいずれかに記載の超音波探傷手法において、超音波素子を2つ以上含む超音波センサにおいて、各超音波素子の密着性を判定する超音波探傷手法。
【0091】
(6).(1),(2),(3),(4),(5)のいずれかに記載の超音波探傷手法において、複数の収録波形を用い、検査体内部を映像化する手段を有する超音波探傷手法。
【0092】
(7).(1),(2),(3),(4),(5),(6)に記載の超音波探傷手法において、非密着と判定された超音波素子にて受信された収録波形の内、不感帯時間幅が基準以上の波形を取り除くことが可能な超音波探傷手法。
【0093】
(8).(1),(2),(3),(4),(5),(6),(7)のいずれかに記載の超音波探傷手法において、超音波センサ近傍を映像化し、検査体表面形状の情報を取得する手段を有する超音波探傷手法。
【0094】
(9).(1),(2),(3),(4),(5),(6),(7),(8)のいずれかに記載の超音波探傷手法において、検査体表面の情報を用い、非密着状態の領域での超音波の伝播経路を計算し、補正した探傷画像を表示する機能を有する超音波探傷手法。
【0095】
(10).(1),(2),(3),(4),(5),(6),(7),(8),(9)のいずれかに記載の超音波探傷手法において、補正を行わない場合の探傷画像と、補正を行った場合の探傷画像を任意に選択し、表示する手段を有する超音波探傷手法。
【0096】
(1)-(10)によれば、前記超音波アレイセンサでの開口合成法による収録波形における不感帯の収録時間が基準となる不感帯収録時間よりも長い場合、センサと検査体は非密着であると判定する。不感帯が増加したセンサ素子の領域から、非密着状態のセンサ領域を決定する。非密着状態のセンサ領域において、センサ近傍にて開口合成での映像化処理を行い表面形状を取得する。表面での超音波の屈折を考慮した映像化により、センサが非密着状態の場合でも歪みなく映像化が可能となる。
【符号の説明】
【0097】
100 超音波探傷装置
101 超音波探触子(実施例1)
102 超音波探触子内の超音波素子
103 送受信制御装置
104 演算装置
201 センサ非接触時の収録波形
202 波形信号の閾値
203 センサ非接触時の不感帯時間幅
301 検査体
401 センサ密着状態の収録波形
402 センサ密着時の不感帯時間幅
501 接触媒質
601 センサ非密着時の収録波形
602 センサ非密着状態の不感帯時間幅
900 超音波探傷装置
901 超音波アレイセンサ(実施例2)
902 超音波アレイセンサ内の超音波素子
903 超音波アレイセンサ内の超音波素子
904 超音波アレイセンサ内の超音波素子
905 超音波アレイセンサ内の超音波素子
906 送受信制御装置
907 演算装置
908 検査体
909 超音波アレイセンサ設置時の検査体との隙間
1001 超音波素子902で送信した超音波を超音波素子902で受信した際の波形
1002 超音波素子903で送信した超音波を超音波素子903で受信した際の波形
1003 超音波素子904で送信した超音波を超音波素子904で受信した際の波形
1004 超音波素子905で送信した超音波を超音波素子905で受信した際の波形
1101 超音波素子903で送信した超音波を超音波素子902で受信した際の波形
1102 超音波素子903で送信した超音波を超音波素子903で受信した際の波形
1103 超音波素子903で送信した超音波を超音波素子904で受信した際の波形
1104 超音波素子903で送信した超音波を超音波素子905で受信した際の波形
1201 接触媒質音速を用いた開口合成での探傷画像
1202 検査体表面からの反射エコー
1301 検査体音速を用いた探傷画像
1302 接触媒質と検査体音速を用いた探傷画像
1303 探傷画像1301における検査体表面エコー
1304 探傷画像1301における検査体底面エコー
1305 探傷画像1302における検査体表面形状(接触媒質領域)
1306 探傷画像1302における検査体底面エコー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15