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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009175
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 19/14 20060101AFI20250110BHJP
   D05B 19/16 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
D05B19/14
D05B19/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111993
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】110003476
【氏名又は名称】弁理士法人瑛彩知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】井川 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】真船 潤
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA07
3B150CE01
3B150CE23
3B150CE24
3B150CE27
3B150JA02
3B150JA07
3B150LA07
3B150LA85
3B150NA07
3B150NA72
3B150NB02
3B150NC02
3B150NC06
3B150QA06
3B150QA07
(57)【要約】
【課題】ミシンの操作性を改善する。
【解決手段】ミシンは、被縫製物の移動量を検出する移動検出装置7と、針を動作させる駆動モータ2と、駆動モータ2の駆動を制御する制御装置100と、記憶装置102と、を備え、記憶装置102は縫製速度及び縫いピッチを記憶しており、制御装置100は、移動検出装置7による検出値が所定の第1閾値を越えた場合に、記憶されている縫製速度で駆動モータ2を制御する第1制御モードと、移動検出装置7による検出値が所定の第2閾値を超えた場合に、移動検出装置7による検出値を基に、記憶されている縫いピッチで縫製が行われるように、駆動モータ2を制御する第2制御モードと、を実行可能であり、これら制御装置100の第1制御モードと第2制御モードとを切り替え可能である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンであって、
被縫製物の移動量を検出する移動検出装置と、
針を動作させる駆動モータと、
前記駆動モータの駆動を制御する制御装置と、
記憶装置と、を備え、
前記記憶装置は縫製速度及び縫いピッチを記憶しており、
前記制御装置は、
前記移動検出装置による検出値が所定の第1閾値を越えた場合に、記憶されている前記縫製速度で前記駆動モータを制御する第1制御モードと、
前記移動検出装置による検出値が所定の第2閾値を超えた場合に、前記移動検出装置による検出値を基に、記憶されている前記縫いピッチで縫製が行われるように、前記駆動モータを制御する第2制御モードと、を実行可能であり、
前記制御装置の前記第1制御モードと前記第2制御モードとを切り替え可能である、ミシン。
【請求項2】
前記第1閾値と前記第2閾値とが同一である、請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
針左右方向揺動機構と、該針左右方向揺動機構を駆動する振幅モータと、使用者により操作される操作装置と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記操作装置の操作量に基づいて前記振幅モータを制御する、請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記記憶装置が、前記振幅モータの駆動量に基づく上限縫製速度を記憶しており、
前記制御装置は、前記上限縫製速度が、前記縫製速度より低い場合には、前記上限縫製速度で前記駆動モータを制御する、請求項3に記載のミシン。
【請求項5】
前記記憶装置が、縫製開始速度と所定の加速時間とを記憶しており、
前記制御装置は、前記第1制御モードにおいて、前記移動検出装置により検出された検出値が前記第1閾値を超えた場合に、前記縫製開始速度で前記駆動モータの制御を開始し、前記加速時間経過時に、記憶されている前記縫製速度に到達するように前記駆動モータを制御する、請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のミシンの前記制御装置で実行可能なプログラムであって、前記制御装置で実行されると、該制御装置に前記第1制御モード又は前記第2制御モードを実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1を参照すると、布の移動量を検出する手段(該公報では距離測定手段)を設けて布の移動速度を検出し、その移動速度に応じた縫製速度(ミシン駆動モータ回転速度)に制御することで、等間隔の縫いピッチで縫製することを可能としたミシンが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-292175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のミシンのように、布の移動速度に応じた縫製速度に制御されてしまうということが、縫製の種類(例えば、あえて縫いピッチを変えつつ縫製するバリアブルジグザグ縫い)や使用者のスキル、好みによっては、むしろ作業性を低下させるおそれがあった。一方、それらの作業性のために縫製速度を使用者が調整することについては、操作の煩雑性という問題が生じることがあった。
本発明は、様々な縫製の種類や使用者のスキル、好みに対しても、作業性を低下させることなく煩雑性を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する構成や方法を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、ミシンに関する。このミシンは、少なくとも、被縫製物の移動量を検出する移動検出装置と、針を動作させる駆動モータと、駆動モータの駆動を制御する制御装置と、記憶装置と、を含む。記憶装置は縫製速度及び縫いピッチを記憶しており、制御装置は、移動検出装置による検出値が所定の第1閾値を越えた場合に、記憶されている縫製速度で駆動モータを制御する第1制御モードと、移動検出装置による検出値が所定の第2閾値を超えた場合に、移動検出装置による検出値を基に、記憶されている縫いピッチで縫製が行われるように、駆動モータを制御する第2制御モードと、を実行可能であり、これら制御装置の第1制御モードと第2制御モードとが切り替え可能である。
【発明の効果】
【0006】
このミシンによれば、縫製の種類などに応じて制御モードを切り替えられるので、作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ミシンの実施例を示す外観図の例である。
図2】押さえ周辺の部分を拡大して示す一部断面を含んだ外観図の例である。
図3】ミシンの別の実施例を示す外観図の例である。
図4】制御装置と周辺装置の実施例を示すブロック図の例である。
図5】第1制御モードによる縫製速度制御を説明する図の例である。
図6】制御装置が実行する第1制御モードの実施例1を説明するフローチャートの例である。
図7】第2制御モードによる縫製速度制御を説明する図の例である。
図8】制御装置が実行する第2制御モードの実施例1を説明するフローチャートの例である。
図9】制御装置が実行する第1制御モードの実施例2を説明するフローチャートの例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施する形態に関し、具体的な実施例を例示して説明する。
【0009】
図1は、ミシンの実施例を示している。ミシン1は、内蔵された駆動モータ2から周知のリンク機構(図示せず)を介して針3を動作させ、押さえ4により押さえた被縫製物(図示せず)が使用者により移動させられるとこれに同調して縫い動作を実行する(フリーモーション縫いの場合)。縫い動作により上糸と下糸と(図示せず)を交差させて被縫製物に縫い目を形成する。上糸は糸コマ(図示せず)から提供され針3に通される。下糸はボビン(図示せず)に収納されてミシン1の内部に収容される。被縫製物(例えば布)は、押さえ4と針板5とにより挟持される。駆動モータ2の駆動により針3が下降し、被縫製物を貫通してボビンに近接する。釜(図示せず)の働きにより上糸と下糸とが絡まり、針3が上昇して被縫製物から抜けると縫い目が形成される。フリーモーションではない、通常縫いの場合は、自動送り機構(図示せず)の働きにより被縫製物が自動的に所定量前方へ送られ、同様にして次の縫い目が形成される。この動作の繰り返しにより、所定間隔で縫い目のある直線状の連続した縫製パターンが被縫製物に施される。縫いピッチとはその縫い目と縫い目との間隔のことである。
【0010】
フリーモーション縫いは、曲線など使用者任意の縫製パターンを得るために、ミシン1の上記自動送り機構を使用せずに、使用者が手で被縫製物を動かしながらミシン1の縫い動作を実行する手法である。図1に示す押さえ4は、このフリーモーション縫いに適した押えとなっている。図2に、本例における押さえ4の部分を拡大して示してある(ハッチング部分は断面)。
【0011】
押さえ4には、円状の孔を有する押さえ部4aが設けられている。この押さえ部4aと針板5との間に被縫製物が置かれ、押さえ部4aの孔を通って針3が被縫製物に刺さる。押さえ部4aは針3の上下動を阻害せず、且つ、針3の刺さる場所周辺の被縫製物の上に位置しているため、針3の上下動による被縫製物の上下のバタツキを抑制し、確実な縫い目の形成を支援する。押さえ4は、針3の動作に合わせて上下動可能な押さえ棒6に取り付けられている。なお、押さえ4は着脱可能であり、通常縫い用の押さえと交換することができる。ミシン1のモードを通常縫いとフリーモーション縫いとで切り替えるときに適切な押さえに交換可能である。
【0012】
この押さえ4に、図2中の断面に示すとおり、移動検出装置7のセンサが組み込まれている。被縫製物の移動量を検出するための移動検出装置7は、例えばイメージセンサを使用して構成されており、イメージセンサにより被縫製物の表面を撮像して得られるイメージデータを画像処理することにより、被縫製物の移動に関する情報を取得する。他にも、移動検出装置7のセンサとして光学式センサを使用することもでき、光学式センサは、可視光線や赤外線などを使用して被縫製物の表面形状を読み取り、被縫製物の移動量を検知する。さらに例をあげれば、被縫製物と接触するトラックボールを組み込んで、被縫製物の移動に従って動くトラックボールの回転動から被縫製物の移動量を検知する移動検出装置も可能である。
【0013】
本例では、移動検出装置7を着脱式の押さえ4に組み込んであるが、センサを含む移動検出装置7は、ミシン1の本体部に設ける例も可能である。さらに、被縫製物の上側にセンサを設ける例を示しているが、被縫製物の下側(例えば針板周辺)に移動検出装置7のセンサを設ける例も可能である。また、ミシン1とは別体とし、使用者の手や腕に装着して使用者の手や腕の動きを検出することで間接的に被縫製物の移動を検出する移動検出装置も可能である。他にも、被縫製物に装着して被縫製物の動きを検出する移動検出装置、スマートフォンやダブレット端末などのカメラを利用して使用者の手や被縫製物の動きを検出するアプリと連動する移動検出装置なども可能である。
【0014】
ミシン1は、使用者から操作し易い位置に、スタートストップキー8、スピードコントローラ9、タッチパネル式の表示装置10を備えている。スタートストップキー8は縫い動作の開始/停止操作を行うためのもので、本例では押しボタンとして構成されている。スピードコントローラ9は、本例ではスライドつまみで、使用者がつまみを左右にスライドさせた位置に応じて出力が変化するアナログデバイスである。一例としてスライドつまみを示しているが、回転つまみなどとしてもよい。また、入力をデジタル信号で処理するデジタルデバイスで実装してもよい。表示装置10は、一例として、タッチパネル式で、液晶パネルディスプレイを用いて実装され、ミシン1の機能や動作状態を表示し、また、設定画面などで各種パラメータをタッチ入力するために使用される。例えば、使用者は、設定画面を表示した表示装置10の所定領域をタッチすることで縫製速度や縫いピッチの設定入力を行うことができる。
【0015】
このミシン1は、針3を左右方向に揺動(振幅運動)させる針左右方向揺動機構20(針振り機構とも呼ばれる)を備えている。針左右方向揺動機構20による針3の振幅運動を、上述の縫い動作及び送り動作と組み合わせることで、例えば図1中の部分拡大図αに示すように、縫い幅(振幅)Wのジグザグの縫い目を形成することができる(ジグザグ縫い)。そして、フリーモーション縫いで縫い幅Wを変更しながらジグザグ縫いを行えるようにしたフリーモーションのバリアブルジグザグ縫いが可能である。
【0016】
針左右方向揺動機構20は、例えばステッピングモータである振幅モータ21により作動する。具体的には、針左右方向揺動機構20は、振幅モータ21のギヤと噛み合うギアを有し、振幅モータ21の回転角度に従って回動軸22を軸にして揺動する。この振幅モータ21の回転角度、本例の場合はステッピングモータのステップ角度、が振幅モータ21の駆動量として制御される。針左右方向揺動機構20は、上下方向に延びる針棒23を保持しており、針左右方向揺動機構20の揺動に従って針棒23が振幅運動することにより、針棒23に取り付けられた針3が振幅運動する。したがって、振幅モータ21の駆動量を制御することにより、針3の振幅量、すなわち縫い幅Wが制御される。
【0017】
ミシン1は、使用者により操作される操作装置の1つとして膝操作装置(ここではニーリフタと呼ぶ)30を備えている。ニーリフタ30は、座った使用者が膝(図示の例では右膝になる)でパッド31を押すことで操作を行うように設けられた操作装置で、使用者の操作に従い操作軸32を軸にして回動し、その回動量が操作量としてエンコーダ33により検出され、アナログ信号又はデジタル信号として後述の制御装置へ送られる。パッド31は戻りばね(図示せず)により初期位置へ付勢されており、使用者はこの付勢力に逆らってパッド31を操作し、使用者が膝を離せばパッド31は付勢力により初期位置へ戻る。ニーリフタ30は手による操作を必要としないので、使用者は縫製中でも操作することができる。したがって使用者は、例えば、フリーモーション縫いの最中にジグザグ縫いの縫い幅Wをニーリフタ30の操作により変更するといった制御を行うことが可能である。
【0018】
さらに、ミシン1には、図3に示すように、操作装置の1つである足操作装置(ここではフットコントローラと呼ぶ)40を入出力端子を通して接続することもできる。フットコントローラ40は、ベース41に、揺動できるように踏板42を軸支した構造をもち、この踏板42が足を離すと戻るように付勢してあって、付勢力に逆らって踏板42を踏み込むことで出力が生じる。フットコントローラ40には、ベース41内にエンコーダ43が内蔵してあり、踏板42の踏み込み量に応じた出力が得られる。出力はアナログ信号であってもよいし、デジタルの情報であってもよい。フットコントローラ40を踏み込むことで縫い動作開始、離すことで縫い動作停止、踏み込み量に応じて縫製速度調節、を行うこともできる。
【0019】
例えば、バリアブルジグザグ縫いで縫製中、使用者は、上記のニーリフタ30やフットコントローラ40を操作するうえに、被縫製物に手を添えて縫製方向に移動操作する必要がある。さらに、縫製開始時や縫製終了時には別途、スタートストップキー8などの操作装置を操作する必要もある。このため、バリアブルジグザグ縫いは、操作全体として煩雑であり、操作性について改善の余地がある。
【0020】
[制御装置の実施例]
図4に、ミシン1に搭載され、縫い動作を制御するように構成された制御装置100とその周辺装置の実施例をブロック図で示す。制御装置100は、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)、PLC(Programmable Logic Controller)により構成されるプロセッサ(CPU)であり、外部又は内部のメモリに記憶されたコンピュータプログラムを実行して縫い動作を制御する。
【0021】
制御装置100は、操作装置101及び表示装置10を制御し、操作装置101及び表示装置10から出力される信号を受信する。操作装置101は、上述のスタートストップキー8、スピードコントローラ9、ニーリフタ30、及びフットコントローラ40を含む。制御装置100には、さらに、記憶装置102が接続される。この記憶装置102は、後述する縫製速度Rset(設定値)、移動検出装置7による検出値の第1閾値Vh1、第2閾値Vh2、及び第3閾値Vh3(本実施例の場合、それぞれ被縫製物の移動速度Vの閾値に相当)、加速時間T、そして上限縫製速度Rlimitと縫製開始速度Rstartを記憶する領域を有する。それぞれの領域を縫製速度設定装置、閾値設定装置、加速時間設定装置、及び上限/開始縫製速度設定装置と呼ぶこともある。別の実施例では、記憶装置102とは別に、縫製速度設定装置、閾値設定装置、加速時間設定装置、及び上限/開始縫製速度設定装置をハードウェアモジュール又はソフトウェアモジュールとして別途用意してあってもよい。また、それぞれの「装置」を「部」「ユニット」「モジュール」「デバイス」と呼ぶこともある。
【0022】
制御装置100には、後述する縫いピッチを設定する縫いピッチ設定装置(図示せず)も接続され得る。縫いピッチは、表示装置10を通した使用者の入力に従い縫いピッチ設定装置により設定される。縫いピッチの設定値は、記憶装置102の一領域に記憶する構成でもよい。また、この領域自体をピッチ設定装置と呼ぶこともある。
【0023】
制御装置100は、これらの装置と連携して、駆動モータ2及び振幅モータ21の駆動を制御する。なお、記憶装置102や縫いピッチ設定装置などは、制御装置100におけるハードウェアモジュールとして構成することもできるし、制御装置100とは別にしたデバイスとして設けることもできる。
【0024】
[第1制御モード]
制御装置100は、上述のバリアブルジグザグ縫いを含むフリーモーション縫いの制御モードにおいて、図5に示すように駆動モータ2の制御を実行する。まず、使用者により被縫製物がミシン1の所定位置、すなわち、針板5と押さえ4との間で且つ縫い始め位置が針3の直下、に配置され、そして使用者によりスピードコントローラ9が操作されて縫製速度Rsetが決まる。スピードコントローラ9の位置に応じた縫製速度Rsetは記憶装置102に記憶されている。このときにミシン1は未だ停止中である。
【0025】
続いてスタートストップキー8が使用者により操作されると、ミシン1は待機状態に切り替わり、移動検出装置7による被縫製物の動き検出が開始される。使用者が被縫製物を動かし始める前、つまり移動検出装置7が縫製物の移動を検出しない間は、駆動モータ2は停止で、針3は動作しない。使用者が被縫製物を動かし始めても、移動検出装置7による検出値が、記憶装置102に記憶されている所定の第1閾値Vh1を越える前は、駆動モータ2の停止が維持される。この後に、移動検出装置7による検出値が第1閾値Vh1以上になると、駆動モータ2は縫製速度Rsetに基づいて駆動制御され、自動的に縫製動作が開始される。本実施例において、移動検出装置7による検出値は、移動検出装置7の出力に基づいて得られる単位時間当たりの被縫製物の移動量から算出される被縫製物の移動速度Vに相当する。また、縫製速度は、駆動モータ2の回転速度に相当する。移動検出装置7による検出値は、この他にも、被縫製物の移動量であってもよいし、移動量から算出される移動加速度であってもよい。
【0026】
例えば縫製が終わって、被縫製物の移動が止まるときは、移動検出装置7による検出値が第1閾値Vh1を下回ったところで駆動モータ2が停止とされ、縫製動作が自動停止されてミシン1は待機状態となる。そして、使用者により再びスタートストップキー8が操作されることで待機状態は終了し、ミシン1は停止状態となって縫製が終了する。
【0027】
移動検出装置7による検出値が第1閾値Vh1以上となった後の縫製動作中、使用者が上述のニーリフタ30を操作すれば、ジグザグ縫いが実行され、そしてジグザグ縫いの縫い幅Wを適宜変更することができる。
【0028】
すなわち、第1制御モードにおいて、縫製速度Rsetに基づき駆動モータ2の回転速度を制御してフリーモーション縫いを実行しているときに、ニーリフタ30が操作されると、制御装置100は、そのニーリフタ30の操作量に基づいて振幅モータ21の駆動量を変更する。これにより、使用者の望む縫い幅Wを提供することができる、バリアブルジグザグ縫いが実行される。
【0029】
このバリアブルジグザグ縫いにおいて、縫い幅Wを大きくしたときに縫製速度が速いと縫い目が乱れる可能性があるので、縫製を確実にするため、制御装置100が縫製速度を制限する場合がある。このための上限縫製速度Rlimitが、縫い幅Wに対応させて、すなわち振幅モータ21の駆動量(又はニーリフタ30の操作量)に対応させて、記憶装置102に記憶されている。制御装置100は、振幅モータ21の現在の駆動量に対応する上限縫製速度Rlimitと縫製速度Rsetとを比較し、上限縫製速度Rlimitの方が低くなる場合は、上限縫製速度Rlimitで駆動モータ2を制御する。なお、この制御において、上限縫製速度Rlimitは駆動モータ2の上限回転速度に相当する。
【0030】
以上の第1制御モードにおいて、第1閾値Vh1はゼロとすることも可能であるが、ゼロ以外の閾値を適用してあることにより、使用者が被縫製物を動かし始めて駆動モータ2が駆動を開始するまで、つまり針3が動作を開始するまでに、「遊び」ができ、安全マージンが設けられる。また、第1閾値Vh1は、操作装置101又は表示装置10を通じて使用者がその数値を変更できるようにしてあってもよい。
【0031】
[第1制御モードの実施例1]
プログラムに従って制御装置100が実行する第1制御モードの実施例1について、図6に示すフローチャートに沿って説明する。
【0032】
開始:ミシン1の電源が入れられるが、使用者がフリーモーション縫いの運転開始操作をする前で、ミシン1は停止状態にある。
【0033】
次に、制御装置100は、操作装置101の例えばスタートストップキー8が使用者により操作されるなど、運転開始操作の有無を監視する(S601)。操作装置101の運転開始操作は、ボタンをプッシュするスタートストップキー8の操作以外にも、例えば、フットコントローラ40の踏み込みを運転開始操作として検知する例もある。このような運転開始操作がなければ(いいえ)、S601のステップが繰り返される。
【0034】
操作装置101による運転開始操作があると(はい)、制御装置100は、移動検出装置7による被縫製物の移動検出を開始し、ミシン1を待機状態に切り換える(S602)。このS602のステップにおいては、ミシン1の運転を開始できる状態であるが、使用者は未だ被縫製物を動かしておらず、駆動モータ2は停止している。
【0035】
制御装置100は、次に、移動検出装置7により被縫製物の移動を監視する(S603)。移動検出装置7により被縫製物の移動が検出されなければ(いいえ)、制御装置100は、駆動モータ2を停止とする(S604)。一方、使用者が被縫製物を動かし始めることで移動検出装置7により被縫製物の移動が検出されると(はい)、制御装置100は、移動検出装置7の出力から単位時間当りの被縫製物の移動量を取得し、この移動量に基づいて被縫製物の移動速度Vを算出する(S605)。
【0036】
続いて制御装置100は、算出した移動速度Vを、記憶装置102に記憶されている第1閾値Vh1と比較する(S606)。比較の結果、移動速度Vが第1閾値Vh1に達していなければ(V<Vh1)、制御装置100は、駆動モータ2を停止とする(S604)。
【0037】
一方、移動速度Vが第1閾値Vh1以上に達していれば(V≧Vh1)、制御装置100は、記憶装置102に記憶されている縫製速度Rsetに基づいて駆動モータ2の回転速度を制御する(S607)。このステップで、フリーモーション縫いが実行され、バリアブルジグザグ縫いも可能になる。
【0038】
S604のステップで駆動モータ2を停止とした後、あるいは、S607のステップで縫製速度Rsetで駆動モータ2を制御した後、制御装置100は、使用者による操作装置101の運転停止操作があるか否かを監視する(S608)。操作装置101の運転停止操作は、例えば、スタートストップキー8の操作(ボタンのプッシュ)や、フットコントローラ40の開放などがある。運転停止操作がなければ(いいえ)、制御装置100は、S603以降のプロセスを繰り返す。運転停止操作があった場合(はい)、制御装置100は、駆動モータ2を停止させ、また、待機状態を終了させる制御を行う(S609)。
【0039】
[第2制御モード]
制御装置100は、フリーモーション縫いについて、上記の第1制御モードと違う第2制御モードも実行可能であり、例えば表示装置10による使用者の入力に応じてこれらモードを切り替えて実行できる構成である。上記の実施例1に係る第1制御モードにおいて、針3の動作は言わば定速制御であるが、以下に述べる第2制御モードにおいては、移動検出装置7による検出値、本実施例では被縫製物の移動速度V、に比例した縫製速度Rverbで駆動モータ2を制御することにより、所定の長さの(一定の)縫い目を得ることができる。この第2制御モードを図7を参照して説明する。
【0040】
スピードコントローラ9の位置に応じて最大縫製速度Rmaxが決められ、スタートストップキー8が使用者により操作されると、移動検出装置7による被縫製物の動き検出が開始される。また、上述した縫いピッチ設定装置により使用者の望む縫いピッチが設定される。最大縫製速度Rmaxは、例えば記憶装置102の一領域に記憶されており、この領域を最大縫製速度設定装置と呼ぶこともある。別の実施例では、記憶装置102とは別に、最大縫製速度設定装置をハードウェアモジュール又はソフトウェアモジュールとして別途用意してあってもよい。
【0041】
使用者が被縫製物を動かし始めると、移動検出装置7による検出値、本実施例では被縫製物の移動速度Vが、記憶装置102に記憶されている第2閾値Vh2を越える前は、駆動モータ2の停止が維持される。移動速度Vが第2閾値Vh2以上になると、制御装置100が駆動モータ2の駆動を開始し、そして、設定された縫いピッチ量で縫製が実行されるように、制御装置100は、移動速度Vに比例した縫製速度Rverbで駆動モータ2を制御する(図7の比例領域)。つまり制御装置100は、設定された縫いピッチ量と移動速度Vとから縫製速度Rverbを算出する。
【0042】
使用者が移動させる被縫製物の移動速度Vがさらに上昇し、記憶装置102に記憶されている第3閾値Vh3に達すると、制御装置100は、最大縫製速度Rmaxで駆動モータ2を制御する。このときの最大縫製速度Rmaxは、駆動モータ2の回転速度の最大値に相当する。
【0043】
第2制御モードにおける第2閾値Vh2は基本的に第1制御モードの第1閾値Vh1と同じ値とする(第2閾値Vh2として第1閾値Vh1を使用可能である)が、両者を違う値に設定することもできる。第3閾値Vh3は、第2閾値Vh2よりも大きい値である。
【0044】
[第2制御モードの実施例1]
プログラムに従って制御装置100が実行する第2制御モードの実施例1について、図8に示すフローチャートに沿って説明する。
【0045】
上記第1制御モードの実施例1と同様に開始後、図6中と同じ符号で示したS601~S605、S608及びS609のステップは、第1制御モードの実施例1の制御と同じである。したがって、異なっているS801~S804のステップを中心に説明する。
【0046】
制御装置100は、被縫製物の移動量に基づいて被縫製物の移動速度Vを算出(S605)した後、その移動速度Vを第2閾値Vh2と比較する(S801)。比較の結果、移動速度Vが第2閾値Vh2に達していなければ(V<Vh2)、制御装置100は、駆動モータ2を停止とする(S604)。一方、移動速度Vが第2閾値Vh2以上に達していれば(V≧Vh2)、制御装置100は、移動速度Vを第3閾値Vh3と比較する(S802)。
【0047】
比較の結果、移動速度Vが第3閾値Vh3以下であれば(V≦Vh3)、制御装置100は、縫いピッチ設定装置により設定されている縫いピッチで縫製が実施されるように、移動速度Vに比例した縫製速度Rverbで駆動モータ2を制御する(S803)。一方、移動速度Vが第3閾値Vh3を越えていれば(V>Vh3)、制御装置100は、最大縫製速度Rmaxで駆動モータ2を制御する(S804)。この最大縫製速度Rmaxは、フリーモーション縫いの上限速度であり、例えば、駆動モータ2のハード的に上限(応答性能など)の回転速度として予め記憶装置102に記憶されていてもよいし、あるいは、使用者のスキル等を考慮し、予め使用者により設定された最大回転速度でもよい。
【0048】
[第1制御モードの実施例2]
プログラムに従って制御装置100が実行する第1制御モードの実施例2について、図9に示すフローチャートに沿って説明する。
【0049】
上記第1制御モードの実施例1と同様に開始後、実施例1と同じ符号で示したS601~S606及びS607~S609のステップは、実施例1の制御と同じである。したがって、第1制御モードの実施例2は、実施例1と異なるS901及びS902のステップを中心に説明する。
【0050】
この実施例2において、記憶装置102は、縫製開始速度Rstartと加速時間Tとを記憶している。移動速度Vが第1閾値Vh1以上に達すると(S606)、制御装置100は、記憶装置102に記憶されている縫製開始速度Rstartに基づいて駆動モータ2の回転速度を制御し、駆動を開始する(S901)。続いて制御装置100は、記憶装置102に記憶されている加速時間Tの間、駆動モータ2の回転速度を上げていく、つまり加速制御する(S902)。加速時間Tが過ぎると、制御装置100は、縫製速度Rsetに基づいて駆動モータ2の回転速度を制御する(S607)。いきなり縫製速度Rsetで針3の動作が始まるのではなくて、加速時間Tにおいて縫製速度が漸増するため、針3の始動がゆっくりとなり、より安心感を得られる。
【0051】
上記実施例を例示して説明した実施の形態によれば、ミシン1において、縫製の種類や好みなどに応じて第1制御モードと第2制御モードとを切り替えられるので、作業性が向上する。また、ミシン1は、使用者による被縫製物の移動の開始と停止を検出し、この開始と停止に応じて自動的に縫製動作の開始と停止とが制御されるので、操作性が向上する、という利点もある。
なお、第1制御モードと第2制御モードとを切り替え可能なタイミングとしては、ミシン停止中(運転開始操作前)であっても良いし、ミシン待機中であっても良い。
【0052】
本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本発明には様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるわけではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除する、他の構成を追加・置換することなどが可能である。
【0053】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク(HDD)やSSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に記録することができる。
【0054】
接続線、制御線、情報線などは説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全てのものを示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0055】
上述の実施例は少なくとも以下の形態を開示する。
[1]
ミシン1は、
被縫製物の移動量を検出する移動検出装置7と、
針を動作させる駆動モータ2と、
駆動モータ2の駆動を制御する制御装置100と、
記憶装置102と、を備え、
記憶装置102は縫製速度Rset及び縫いピッチを記憶しており、
制御装置100は、
移動検出装置7による検出値が所定の第1閾値Vh1を越えた場合に、記憶されている縫製速度Rsetで駆動モータ2を制御する第1制御モードと、
移動検出装置7による検出値が所定の第2閾値Vh2を超えた場合に、移動検出装置7による検出値を基に、記憶されている縫いピッチで縫製が行われるように、駆動モータ2を制御する第2制御モードと、を実行可能であり、
制御装置100のこれら第1制御モードと第2制御モードとを切り替え可能である。
[2]
第1制御モードの第1閾値と第2制御モードの第2閾値とが同一である。
[3]
ミシン1は、針左右方向揺動機構20と、針左右方向揺動機構20を駆動する振幅モータ21と、使用者により操作される操作装置101と、をさらに備え、
制御装置100が、操作装置101の操作量に基づいて振幅モータ21を制御する。
[4]
記憶装置102が、振幅モータ21の駆動量に基づく上限縫製速度Rlimitを記憶しており、
制御装置100は、上限縫製速度Rlimitが、縫製速度Rsetより低い場合には、上限縫製速度Rlimitで駆動モータ2を制御する。
[5]
記憶装置102が、縫製開始速度Rstartと所定の加速時間Tとを記憶しており、
制御装置100は、第1制御モードにおいて、移動検出装置7により検出された検出値が第1閾値Vh1を超えた場合に、縫製開始速度Rstartで駆動モータ2の制御を開始し、加速時間T経過時に、記憶されている縫製速度Rsetに到達するように駆動モータ2を制御する。
[6]
上記[1]~[5]のいずれかに係るミシン1の制御装置100で実行可能なプログラムであって、制御装置100で実行されると、制御装置100に第1制御モード又は第2制御モードを実行させる、プログラム。
【0056】
以上、本発明に関し、いくつかの実施例を示し説明した。しかし、当該実施例以外にも、以上の説明で理解される本発明の思想に基づいて種々の実施形態を想到し得る。
【符号の説明】
【0057】
1 ミシン
2 駆動モータ
3 針
4 押さえ
5 針板
6 押さえ棒
7 移動検出装置
8 スタートストップキー
9 スピードコントローラ
10 表示装置
20 針左右方向揺動機構
21 振幅モータ
22 回動軸
23 針棒
30 ニーリフタ
31 パッド
32 操作軸
33 エンコーダ
40 フットコントローラ
41 ベース
42 踏板
43 エンコーダ
100 制御装置
101 操作装置
102 記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9