(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025091863
(43)【公開日】2025-06-19
(54)【発明の名称】移動規制装置及び移動規制装置を備えた支承構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20250612BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F15/02 D
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207383
(22)【出願日】2023-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】林 圭介
(72)【発明者】
【氏名】松井 伸仁
(72)【発明者】
【氏名】長峰 洋一
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA21
2E139CB04
3J048AD11
3J048BG04
3J048CB30
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】下部構造物に対する上部構造物の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる移動規制装置及び移動規制装置を備えた支承構造を提供すること。
【解決手段】上部構造物100及び下部構造物110の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10と、上部構造物100と下部構造物110との相対移動を規制する移動規制装置40とが配置された支承構造1の移動規制装置40は、上部構造物100の底面に固定された上沓50と、下部構造物110の上面に固定された下沓60とを有するとともに、移動規制装置40による相対移動規制を解消する固定ボルトBが設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物及び下部構造物の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置と、前記上部構造物と前記下部構造物との相対移動を規制する移動規制装置とが配置され、
前記移動規制装置は、
前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分において、他方に向かって突出する凸状部及び前記凸状部を前記対向部分に固定する凸状固定部を有する凸状部材と、
前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における他方の対向部分において、前記凸状部材の前記滑り方向の相対移動を規制する規制構成部及び前記規制構成部を前記対向部分に固定する規制固定部を有する規制部材と、
前記移動規制装置における相対移動規制を解消する規制解消機構とが設けられた
支承構造。
【請求項2】
前記規制構成部は、
前記凸状部材の前記滑り方向の相対移動に加えて、前記凸状部材の回転を規制する
請求項1に記載の支承構造。
【請求項3】
前記規制構成部及び前記凸状部材の一方は、多角形状の凸状部分を有し、
前記規制構成部及び前記凸状部材の他方は、前記凸状部分を収容する多角形状の凹状部分を有する
請求項2に記載の支承構造。
【請求項4】
前記移動規制装置は、複数備えられた
請求項1に記載の支承構造。
【請求項5】
前記滑り方向の相対移動を規制する前記規制構成部は、前記凸状部材の回転を許容する
請求項4に記載の支承構造。
【請求項6】
前記上部構造物の前記対向部分に固定された上沓と、前記下部構造物の前記対向部分に固定された下沓とが備えられ、前記移動規制装置は回転のみを許容する構成であり、
前記凸状部材は、前記上沓と前記下沓の一方であり、前記規制部材は前記上沓と前記下沓の他方である
請求項5に記載の支承構造。
【請求項7】
複数備えられた前記移動規制装置のうちひとつの前記移動規制装置は、二つの滑り前記支承装置の間に配置された
請求項6に記載の支承構造。
【請求項8】
前記規制構成部は、
前記規制固定部に固定された本体部と、
前記凸状部の一部を囲繞し、前記滑り方向の移動を規制する囲繞規制部とが設けられた
請求項1から請求項7のうちいずれかに記載の支承構造。
【請求項9】
前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方に、前記対向部分に固定する固定手段が設けられ、
前記規制解消機構は、前記対向部分に対する前記固定手段による固定を解消する
請求項8に記載の支承構造。
【請求項10】
前記囲繞規制部は前記本体部に対して脱着可能に構成され、
前記規制解消機構は、前記本体部に対して取り外せる前記囲繞規制部である
請求項8に記載の支承構造。
【請求項11】
少なくとも、前記滑り方向の相対移動規制が前記規制解消機構によって解消されていない状態において、
前記上沓と前記下沓の対向面同士の間に隙間が形成された
請求項1から請求項7のうちいずれかに記載の支承構造。
【請求項12】
摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置とともに、上部構造物及び下部構造物の間に配置され、前記上部構造物と前記下部構造物との相対移動を規制し、
前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分において、他方に向かって突出する凸状部及び前記凸状部を前記対向部分に固定する凸状固定部を有する凸状部材と、
前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における他方の対向部分において、前記凸状部材の前記滑り方向の相対移動を規制する規制構成部及び前記規制構成部を前記対向部分に固定する規制固定部を有する規制部材と、
前記移動規制装置における相対移動規制を解消する規制解消機構とが設けられた
移動規制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、上部構造物と下部構造物との間に配置し、下部構造物で上部構造物を支持する支承構造及び支承構造に用いる移動規制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、免震構造物、橋梁、あるいは固定構造物同士を接続する接続部分等の振動や相対変位が生じる構造物において、上部構造物に固定された上沓と、下部構造物に固定された下沓との境界面、つまり摺動面が摺動して可動支持する滑り支承装置があり、上部構造物と下部構造物との間に滑り支承装置を配置した支承構造がある。
【0003】
例えば、特許文献1に示すように、上部構造物と下部構造物との間に支承装置を配置した支承構造において、摺動面に沿って全方向や所定の方向に摺動可能な滑り支承装置と、摺動面方向に沿う摺動は規制され、回転だけが許容されたピン支承装置とを併用する場合がある。
【0004】
このように構成された支承構造では、上部構造物が、ピン支承装置を回転中心として回転移動し、他の滑り支承装置が当該回転移動に追従して摺動面に沿って摺動して、下部構造物で回転移動する上部構造物を支持することができる。
【0005】
しかしながら、このような支承構造では、回転移動する上部構造物を下部構造物で支持できるものの、例えば、構造物の状況変化や用途変化等によって、下部構造物に対して上部構造物の相対移動を規制した支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態とに対応することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、下部構造物に対する上部構造物の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる移動規制装置及び移動規制装置を備えた支承構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上部構造物及び下部構造物の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置と、前記上部構造物と前記下部構造物との相対移動を規制する移動規制装置とが配置され、前記移動規制装置は、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分において、他方に向かって突出する凸状部及び前記凸状部を前記対向部分に固定する凸状固定部を有する凸状部材と、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における他方の対向部分において、前記凸状部材の前記滑り方向の相対移動を規制する規制構成部及び前記規制構成部を前記対向部分に固定する規制固定部を有する規制部材と、前記移動規制装置における相対移動規制を解消する規制解消機構とが設けられた支承構造であることを特徴とする。
【0009】
またこの発明は、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置とともに、上部構造物及び下部構造物の間に配置され、前記上部構造物と前記下部構造物との相対移動を規制し、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分において、他方に向かって突出する凸状部及び前記凸状部を前記対向部分に固定する凸状固定部を有する凸状部材と、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における他方の対向部分において、前記凸状部材の前記滑り方向の相対移動を規制する規制構成部及び前記規制構成部を前記対向部分に固定する規制固定部を有する規制部材と、前記移動規制装置における相対移動規制を解消する規制解消機構とが設けられた移動規制装置であることを特徴とする。
【0010】
上述の上部構造物及び下部構造物は、例えば、ビルを上部構造物とし、基礎構造を下部構造物とする建造物、橋脚を下部構造物とし、主桁を上部構造物とする橋梁、ビルを下部構造物とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を上部構造物とする連絡通路、柱を下部構造物とし、トラス屋根を上部構造物とする屋根構造、あるいは、ビルを下部構造物とし、別のビルを上部構造物とするエキスパンション構造における構造物としてもよい。
【0011】
上記滑り支承装置は、剛滑り支承、弾性滑り支承など様々な構造の滑り支承装置が含まれる。
上記移動規制装置は、ひとつの前記移動規制装置で相対回転を含む相対移動を規制する構成であってもよいし、相対回転を許容するが、相対移動を規制する前記移動規制装置が複数で協働して相対回転を含む相対移動を規制する構成であってもよい。
【0012】
この発明により、下部構造物に対する上部構造物の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
詳述すると、上部構造物及び下部構造物の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置とともに配置された移動規制装置は、前記上部構造物と前記下部構造物との相対移動を規制する。そして、前記移動規制装置は、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分に設ける凸状部材と、他方の対向部分に設ける規制部材とが設けられている。
【0013】
また、規制部材は、一方の対向部分に設けられた前記凸状部材の前記凸状部の前記滑り方向の相対移動を規制する規制構成部を有している。そのため、支承構造は、移動規制装置により下部構造物に対する上部構造物の相対移動を規制する支承状態の支承構造を構成することができる。
【0014】
また、前記規制部材に、前記滑り方向の相対移動規制を解消する規制解消機構が設けられている。そのため、移動規制装置における前記凸状部材の滑り方向の相対移動規制が解消され、上部構造物及び下部構造物の間に設けられた摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置によって下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態の支承構造を構成することができる。
【0015】
このように、前記凸状部材と規制部材とを有する移動規制装置において、規制部材による移動規制と、規制解消機構による規制解除とにより、下部構造物に対する上部構造物の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0016】
この発明の態様として、前記規制構成部は、前記凸状部材の前記滑り方向の相対移動に加えて、前記凸状部材の回転を規制してもよい。
この発明により、移動規制装置を構成し、前記凸状部材の前記滑り方向の相対移動に加えて、前記凸状部材の回転を規制する前記規制構成部によって、下部構造物に対する上部構造物の相対移動を規制することができる。
【0017】
またこの発明の態様として、前記規制構成部及び前記凸状部材の一方は、多角形状の凸状部分を有し、前記規制構成部及び前記凸状部材の他方は、前記凸状部分を収容する多角形状の凹状部分を有してもよい。
この発明により、簡易な構造で前記規制構成部によって前記凸状部材の回転を規制することができる。
【0018】
なお、上述の前記規制構成部及び前記凸状部材の一方の多角形状の凸状部分、及び前記規制構成部及び前記凸状部材の他方の前記凸状部分を収容する多角形状の凹状部分は、三角形や四角形など様々な多角形を含み、凸状部分と凹状部分が相似形の多角形であっても、異なる多角形であってもよい。
【0019】
またこの発明の態様として、前記移動規制装置は、複数備えられてもよい。
この発明により、ひとつの前記移動規制装置において回転を規制しなくても、複数の前記移動規制装置によって前記下部構造物に対する前記上部構造物の相対移動を規制することができる。
【0020】
またこの発明の態様として、前記滑り方向の相対移動を規制する前記規制構成部は、前記凸状部材の回転を許容してもよい。
この発明により、前記滑り方向の相対移動を規制するとともに、前記凸状部材の回転を許容する前記規制構成部によって構成された複数の前記移動規制装置によって前記下部構造物に対する前記上部構造物の相対回転及び相対移動を規制することができる。
【0021】
またこの発明の態様として、前記上部構造物の前記対向部分に固定された上沓と、前記下部構造物の前記対向部分に固定された下沓とが備えられ、前記移動規制装置は回転のみを許容する構成であり、前記凸状部材は、前記上沓と前記下沓の一方であり、前記規制部材は前記上沓と前記下沓の他方であってもよい。
この発明により、前記移動規制装置を確実に構成することができる。
【0022】
またこの発明の態様として、複数備えられた前記移動規制装置のうちひとつの前記移動規制装置は、二つの滑り前記支承装置の間に配置されてもよい。
この発明により、前記滑り方向の相対移動を規制するとともに、前記凸状部材の回転を許容する前記規制構成部によって構成された複数の前記移動規制装置によって前記下部構造物に対する前記上部構造物の相対回転及び相対移動を規制することができる。また、複数の前記移動規制装置のうち二つの滑り前記支承装置の間に配置されていない前記移動規制装置の規制を解除することで、二つの滑り前記支承装置の間に配置された前記移動規制装置が回転中心となって、当該移動規制装置を中心として、前記下部構造物に対して前記上部構造物は水平方向の移動は規制されるものの、回転可能な支承状態を構成することができる。さらに、二つの滑り前記支承装置の間に配置された前記移動規制装置の規制を解除することで、前記下部構造物に対して前記上部構造物は水平方向の移動可能な支承状態を構成することができる。
【0023】
またこの発明の態様として、前記規制構成部は、前記規制固定部に固定された本体部と、前記凸状部の一部を囲繞し、前記滑り方向の移動を規制する囲繞規制部とが設けられてもよい。
この発明により、本体部に装着した前記囲繞規制部により、前記凸状部の滑り方向の移動を囲繞して確実に規制することができる。
【0024】
またこの発明の態様として、前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方に、前記対向部分に固定する固定手段が設けられ、前記規制解消機構は、前記対向部分に対する前記固定手段による固定を解消してもよい。
【0025】
この発明により、前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方を、前記対向部分に対して固定手段で固定することができる。そして、固定手段の固定を解消することで、前記対向部分に対して前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方の固定を容易に解消することができる。そのため、上部構造物と下部構造物との対向部分のそれぞれに前記凸状部材と前記規制部材とが固定されていることで機能する相対移動規制を解消することができる。
【0026】
なお、固定手段としては、前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方を、前記対向部分に対して螺合固定する締結手段や、単なる棒状部材で固定するように構成されたものも含まれる。また、前記固定手段が、前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方を、前記対向部分に対して螺合固定する締結手段である場合、螺合固定を解消する締結手段が前記規制解消機構として機能することとなる。
【0027】
またこの発明の態様として、前記囲繞規制部は前記本体部に対して脱着可能に構成され、前記規制解消機構は、前記本体部に対して取り外せる前記囲繞規制部であってもよい。
この発明により、前記凸状部の回転を許容しながら滑り方向の移動を囲繞して確実に規制する前記囲繞規制部を本体部から取り外すことで、前記囲繞規制部が前記規制解消機構として機能し、移動規制装置における前記凸状部材の滑り方向の相対移動規制を容易に解消することができる。
【0028】
またこの発明の態様として、少なくとも、前記滑り方向の相対移動規制が前記規制解消機構によって解消されていない状態において、前記上沓と前記下沓の対向面同士の間に隙間が形成されてもよい。
この発明により、下部構造物に対する上部構造物の相対移動を規制する支承状態において、よりスムーズに回転移動させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、下部構造物に対する上部構造物の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる前記移動規制装置及び移動規制装置を備えた支承構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図5】規制解除状態の支承構造の正面方向からの概略図。
【
図7】別の態様の移動規制装置における下沓の説明図。
【
図10】別の実施形態の回転可動した状態のA-A線概略図。
【
図11】別の実施形態の可動した規制解除状態のA-A線概略図。
【
図12】別の態様の移動規制装置における下沓の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は支承構造1の正面方向からの概略図を示し、
図2は
図1のA-A線概略図を示し、
図3は滑り支承装置10の分解斜視図を示し、
図4は移動規制装置40の分解斜視図を示し、
図5は規制解除状態の支承構造1の正面方向からの概略図を示し、
図6は可動した規制解除状態のA-A線概略図を示している。
【0032】
なお、
図2及び
図6において、上部構造物100、上部構造物100に取り付けられた滑り支承装置10の滑り上沓20、及び移動規制装置40の上沓50を透過状態で図示している。
また、
図1及び
図5において、滑り支承装置10及び移動規制装置40は、左右方向における左側を正面図で図示し、右側を断面図で図示している。
【0033】
さらに、
図3及び
図4において滑り支承装置10の滑り下沓30及び移動規制装置40の構成する要素についてその形状を明確にするため、手前側の一部を切り欠いて図示するとともに、
図3における滑り上沓20及び
図4におけるアッパープレート51を透過状態で図示している。また、上部構造物100及び下部構造物110は、理解を容易にするため簡略化して図示している。
【0034】
支承構造1は、二つの滑り支承装置10とひとつの移動規制装置40とを有し、下部構造物110で上部構造物100を支承する構造であり、下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0035】
詳述すると、支承構造1は、上部構造物100及び下部構造物120の間に、二つの滑り支承装置10と、ひとつの移動規制装置40とを備え、二つの滑り支承装置10の間に移動規制装置40を配置している。
滑り支承装置10は、平面視方向から視て、全方向への摺動を許容する滑り支承装置であり、全方向滑り支承装置ともいう。
【0036】
滑り支承装置10は、上部構造物100の底面に固定する滑り上沓20と、下部構造物110の上面に固定する滑り下沓30とを備えている。
滑り上沓20は、上部構造物100の底面に固定されるソールプレート21と、ソールプレート21の底面に装着されたスライドプレート22とを備えている。ソールプレート21は、適宜の方法で下部構造物110の上面に固定されるように構成している。なお、スライドプレート22は、ステンレス板で構成し、スライドプレート22の底面で、滑り下沓30の摺動面と摺動する摺動面を構成している。
【0037】
滑り下沓30は、
図3に示すように、固定リング31、ベアリング32、ピストン33、シールリング34、シム35、弾性プレート36、ダストシール37及びベースポット38を備えている。
固定リング31は、後述する装着凹部381に装着したピストン33等の抜け出しを防止する金属製リング状板材であり、図示省略するボルトでベースポット38の上面に対して脱着可能に装着される。
【0038】
滑り部材であるベアリング32は、自己潤滑性を有する、ポリアミド樹脂、またはポリ四フッ化エチレン樹脂で平面視円形に形成されている。ベアリング32の上面は、滑り上沓20のスライドプレート22の底面である摺動面と摺動する摺動面を構成する。
【0039】
ピストン33は、ステンレス製の略円柱形状であり、シールリング34を嵌合できる円形凹部331を底面の外周縁に沿って形成している。また、ピストン33の上面にベアリング32を装着し、固定している。
シールリング34は、径外側が垂直面となり、径内側が下方に向かって径外側に傾斜する傾斜面である片断面台形状の円形リングであり、ピストン33の円形凹部331に装着される。
【0040】
シム35は、シールリング34の外径と同じ径の平面視円形形状で形成したフッ素樹脂製の薄板である。
【0041】
弾性プレート36は、シム35と同じ径の平面視円形のゴム製のプレートである。
【0042】
ダストシール37は、ベースポット38の上面に設けた装着溝382に装着され、滑り支承装置10において滑り上沓20のスライドプレート22の底面に当接して、滑り上沓20と滑り下沓30との摺動面の周囲を囲繞するシール材であり、リング状に形成している。
【0043】
ベースポット38は、下部構造物110の上面に固定される鋼製の円柱状体であり、上面の平面視中央に円柱状空間を形成する装着凹部381と、その外周に平面視円形となる装着溝382とを備え、適宜の方法で下部構造物110の上面に固定されるように構成している。
【0044】
そして、ベースポット38の装着凹部381に、下から順に、弾性プレート36、シム35、及び円形凹部331にシールリング34を装着し、上面にベアリング32を固定したピストン33を装着する。その上から固定リング31をベースポット38の上面に固定するとともに、装着溝382にダストシール37を装着して、上述のように各要素を構成した滑り下沓30を組み付ける。
【0045】
このように構成した滑り上沓20のソールプレート21を上部構造物100の底面に固定するとともに、滑り下沓30のベースポット38を下部構造物110の上面に固定することで滑り支承装置10を構成することができる。このように構成した滑り支承装置10は、下部構造物110に対して上部構造物100が摺動面に沿う方向に移動すると、上部構造物100の底面に固定した滑り上沓20のスライドプレート22の底面と、下部構造物110の上面に固定した滑り下沓30のベアリング32の上面とが、それぞれ摺動面として摺動することができる。
【0046】
移動規制装置40は、平面視方向から視た摺動(以下において平面視方向の移動という)を規制する装置である。
移動規制装置40は、
図4に示すように、上部構造物100の底面に固定する上沓50と、下部構造物110の上面に固定する下沓60とを備えている。
【0047】
上沓50は、上部構造物100の底面に固定するアッパープレート51と、アッパープレート51の底面に固定された略円柱状の円柱状部52とを有し、一体に構成している。
アッパープレート51は、平面視四角形で、適宜の厚みを有する鋼製の板材であり、外周縁に沿って、固定ボルトBを挿通するボルト孔511を複数設けている。
【0048】
円柱状部52は、径より高さの低い略円筒状の鋼材であり、下端に径外側に広がる四角形部521を備えている。円柱状部52は、アッパープレート51の底面より下方に突出するアッパープレート51の底面における平面視中央に備えられている。
【0049】
四角形部521は、円柱状部52の下端において、底面視正方形に形成している。四角形部521の辺長は、円柱状部52の直径と略同じ長さで形成している。そのため、底面視正方形状に形成した四角形部521の角部が円柱状部52より径外側に張り出すように形成されている。
【0050】
下沓60は、下部構造物110の上面に固定するベースプレート61と、ベースプレート61の上面に固定されたベースポット62とを有し、一体に構成している。
ベースプレート61は、平面視四角形で、適宜の厚みを有する鋼製の板材であり、適宜の方法で下部構造物110の上面に固定されるように構成している。
【0051】
ベースポット62は、平面視四角形状であり、適宜の高さを有する略四角柱状であり、上面の平面視中央に、円柱状部52及び四角形部521が挿入可能な空間を形成する装着凹部621を設けるとともに、装着凹部621の底面に円形のベアリング65を備えている。
【0052】
装着凹部621は、円柱状部52よりわずかに大径の開口622とその下方に四角形部521を収容可能な平面視正方形状の収容空間623とを有する空間である。
四角形部521を収容可能な収容空間623は、四角形部521の底面視形状よりわずかに大きな平面視正方形、かつ、四角形部521の高さよりひと回り高い高さを有する正方形柱状の空間である。
【0053】
そして、収容空間623の上方において、収容空間623を形成する側壁の上縁より径内側に突出するとともに、円柱状部52よりわずかに大径の開口622を形成する張出部624を設けている。張出部624は、四角形部521の外径より小径であり、円柱状部52の外径より大径である内径で形成している。なお、ベースポット62の上部において、張出部624を有する装着凹部621を形成する部分を囲繞規制部63とし、その下部を本体部64としている。
【0054】
装着凹部621の底面に備えたベアリング65は、装着凹部621の底面に形成した平面視円形の円形溝に装着される平面視円形状のプレートであり、上述の滑り支承装置10の滑り下沓30のベアリング32と同様に、自己潤滑性を有する、ポリアミド樹脂、またはポリ四フッ化エチレン樹脂で平面視円形に形成されている。
【0055】
上沓50のアッパープレート51を上部構造物100の底面に固定し、下沓60のベースプレート61を下部構造物110の上面に固定するとともに、装着凹部621の底面にベアリング65が装着されたベースポット62の装着凹部621の収容空間623に四角形部521を収容するとともに、適宜の方法で円柱状部52の先端部分を開口622に通過させて、装着して上沓50と下沓60とを組み付けて移動規制装置40を構成することができる。
なお、上沓50の滑り支承装置10の底面に対する固定は、
図4に示すように、アッパープレート51に設けたボルト孔511に固定ボルトBを挿通し、上部構造物100に対して螺合して行われる。
【0056】
このように構成された滑り支承装置10及び移動規制装置40で構成する支承構造1では、
図1のa部拡大図に示すように、移動規制装置40において、上沓50の円柱状部52における四角形部521の底面と、下沓60における装着凹部621の底面に設けたベアリング65の上面との間に隙間sが設定されている。つまり、下沓60におけるベアリング65の上面と上沓50の四角形部521の底面とは接触していない。
【0057】
このように構成した支承構造1を設けたことにより、地震動等の外力が作用すると、下部構造物110に対して上部構造物100が相対移動しようとする。
しかしながら、支承構造1は、二つの滑り支承装置10の間に移動規制装置40を配置しているため、下部構造物110に対する上部構造物100の摺動面に沿う平面視方向の移動は移動規制装置40によって規制される。
【0058】
これに対し、移動規制装置40における上沓50のアッパープレート51を上部構造物100の底面にして固定する固定ボルトBの螺合を解消すると、
図5に示すように、上部構造物100に対して上沓50は分離される。当初状態では四角形部521の底面とベアリング65の上面との間に隙間sが形成されていたが、この分離状態では上部構造物100の底面と上沓50のアッパープレート51の上面との間に隙間sが形成されることとなる。
【0059】
つまり、この上部構造物100に対する上沓50の分離は、移動規制装置40による平面視方向の移動規制が解消され、滑り支承装置10により下部構造物110で上部構造物100を支持した状態、平面視方向の変位を許容する支承状態となる。そのため、
図6に示すように、地震動等の外力が作用すると、二つの滑り支承装置10において上部構造物100の底面に固定された滑り上沓20の摺動面と、下部構造物110の上面に固定された滑り下沓30の摺動面とが摺動して、下部構造物110に対して上部構造物100が摺動面に沿う平面視方向において移動することができる。
【0060】
上述したように、支承構造1は、上部構造物100及び下部構造物110の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10と、上部構造物100と下部構造物110との相対移動を規制する移動規制装置40とが配置され、移動規制装置40は、上部構造物100の底面において、下部構造物110に向かって突出する円柱状部52及び円柱状部52を対向部分に固定するアッパープレート51を有する上沓50と、下部構造物110の上面において、上沓50の滑り方向の相対移動を規制するベースポット62及びベースポット62を対向部分に固定するベースプレート61を有する下沓60と、移動規制装置40の相対移動規制を解消する固定ボルトBとが設けられている。
【0061】
また、移動規制装置40は、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10とともに、上部構造物100及び下部構造物110の間に配置され、上部構造物100と下部構造物110との相対移動を規制し、上部構造物100の底面において、下部構造物110に向かって突出する円柱状部52及び円柱状部52を対向部分に固定するアッパープレート51を有する上沓50と、下部構造物110の上面において、上沓50の滑り方向の相対移動を規制するベースポット62及びベースポット62を対向部分に固定するベースプレート61を有する下沓60と、移動規制装置40の相対移動規制を解消する固定ボルトBとが設けられている。
【0062】
そのため、支承構造1では、下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0063】
詳述すると、上部構造物100及び下部構造物110の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10とともに配置された移動規制装置40は、滑り支承装置10によって下部構造物110で上部構造物100を支持した状態で、上部構造物100と下部構造物110との相対移動を規制する。そして、移動規制装置40は、上部構造物100の底面に設ける上沓50と、下部構造物110の上面に設ける下沓60とが設けられている。
【0064】
また、下沓60は、上部構造物100の底面に設けられた上沓50の円柱状部52の滑り方向の相対移動を規制するベースポット62を有している。そのため、支承構造1は、移動規制装置40により下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制する支承状態を構成することができる。
【0065】
また、滑り方向の相対移動規制を解消する固定ボルトBが設けられている。固定ボルトBの螺合を解消することで、移動規制装置40における上沓50の滑り方向の相対移動規制が解消され、上部構造物100及び下部構造物110の間に設けられた摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10によって下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態の支承構造1を構成することができる。
【0066】
このように、上沓50と下沓60とを有する移動規制装置40において、移動規制と、固定ボルトBによる規制解除とにより、下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0067】
また、ベースポット62は、四角形部521を収容する装着凹部621によって上沓50の滑り方向の相対移動に加えて、上沓50の回転を規制しているため、移動規制装置40を構成し、上沓50の滑り方向の相対移動に加えて、上沓50の回転を規制するベースポット62によって、下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制することができる。
【0068】
また、上沓50は、四角形状の四角形部521を有する円柱状部52を有し、ベースポット62は、円柱状部52の四角形部521を収容する四角形状の装着凹部621を有しているため、簡易な構造でベースポット62によって上沓50の回転を規制することができる。
【0069】
また、ベースポット62は、ベースプレート61に固定された本体部64と、円柱状部52の四角形部521を囲繞し、滑り方向の移動を規制する囲繞規制部63とが設けられているため、本体部64に設けた囲繞規制部63により、円柱状部52の滑り方向の移動を囲繞して確実に規制することができる。
【0070】
また、アッパープレート51に、対向部分に螺合固定する固定ボルトBが設けられ、固定ボルトBは、上部構造物100の底面に対する螺合固定を解消することができる。そのため、アッパープレート51を、上部構造物100の底面に対して固定ボルトBで螺合固定することができる。そして、固定ボルトBの螺合を解消することで、上部構造物100の底面に対してアッパープレート51の螺合固定を容易に解消することができる。そのため、上部構造物100の底面に上沓50が固定され、下部構造物110の上面に下沓60が固定されていることで機能する相対移動規制を解消することができる。
【0071】
また、滑り方向の相対移動規制が固定ボルトBによって解消されていない状態において、上沓50と下沓60の対向面同士の間に隙間sが形成されているため、下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制する支承状態において、よりスムーズに回転移動させることができる。
【0072】
なお、上述の説明では、円柱状部52の四角形部521は底面視四角形状であり、及び円柱状部52の四角形部521を収容する装着凹部621は、底面視正方形状であったが、三角形や五角形など様々な多角形を含み、装着凹部621に四角形部521が収容できれば四角形部521と装着凹部621が異なる多角形であってもよい。
【0073】
さらには、上述の説明では、上部構造物100に対して下沓60の固定を固定ボルトBの螺合を解消して、上部構造物100と下沓60とを分離して、支承構造1における平面視方向における変位を規制する支承状態から平面視方向における変位を許容する支承状態に切り替えた。これに対して、例えば、
図7に示すように、移動規制装置40において、上沓50に対する下沓60の規制を解消して、支承構造1における平面視方向における変位を許容する支承状態に切り替えてもよい。
【0074】
なお、
図7は、別の態様の移動規制装置40における下沓60の説明図を示している。詳しくは、
図7(a)は手前側の一部を切り欠いた状態の下沓60の斜視図を示し、
図7(b)は本体部64に対して囲繞規制部63を取り外した状態の下沓60の斜視図を示している。
【0075】
具体的には、
図7に示すように、ベースポット62における装着凹部621を構成するとともに、移動規制装置40における四角形部521を囲繞する囲繞規制部63を、ベースポット62の本体部64から分離可能に構成する。そして、支承構造1における平面視方向の変位を許容する支承状態に切り替える際に、ベースポット62の本体部64から囲繞規制部63を分離することで、上沓50に対する下沓60の規制を解消することができる。
【0076】
なお、このように構成した下沓60において、本体部64に対して囲繞規制部63を取り付けた状態で、側方から本体部64に対して囲繞規制部63をボルトで螺合固定できるように構成すると、上部構造物100と下部構造物110との間において、囲繞規制部63を分離する際の作業性が向上するため好ましい。
【0077】
このように、囲繞規制部63は本体部64に対して脱着可能に構成され、円柱状部52の四角形部521を装着凹部621に収容することで回転及び平面視方向の移動を確実に規制する囲繞規制部63を本体部64から取り外すことで、囲繞規制部63が規制解消機構として機能し、移動規制装置40における上沓50の円柱状部52の平面視方向の相対移動規制を容易に解消することができる。
【0078】
続いて別の実施形態の支承構造1aについて
図8から
図11とともに説明する。
図8は支承構造1aのA-A線概略図(
図1におけるA-A線と同じ位置)を示し、
図9はピン支承装置70の分解斜視図を示し、
図10は回転可動した状態のA-A線概略図を示し、
図11は可動した規制解除状態のA-A線概略図を示している。
なお、
図8、
図10及び
図11において、上部構造物100、上部構造物100に取り付けられた滑り支承装置10の滑り上沓20、及びピン支承装置70の上沓80を透過状態で図示している。
【0079】
さらに、
図9において、ピン支承装置70の構成する要素についてその形状を明確にするため、手前側の一部を切り欠いて図示するとともに、
図9におけるアッパープレート81を透過状態で図示している。また、上部構造物100及び下部構造物110は、理解を容易にするため簡略化して図示している。
なお、以下の支承構造1aの説明において、上述の支承構造1における構造と同じ構造については、同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0080】
支承構造1aは、二つの滑り支承装置10と二つのピン支承装置70とを有し、下部構造物110で上部構造物100を支承する構造であり、下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制する状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の回転移動のみを許容する支承状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0081】
詳述すると、支承構造1aは、上部構造物100及び下部構造物120の間に、二つの滑り支承装置10と、二つのピン支承装置70とを備えている。
滑り支承装置10は、上述の支承構造1の滑り支承装置10と同じ構成であるため、説明を省略する。
【0082】
ピン支承装置70は、平面視方向の移動は規制するものの、回転を許容する滑り支承装置であり、固定支承装置ともいう。
ピン支承装置70は、
図9に示すように、上部構造物100の底面に固定する上沓80と、下部構造物110の上面に固定する下沓90とを備えている。
【0083】
上沓80は、移動規制装置40の上沓50と同様に、上部構造物100の底面に固定するアッパープレート81と、アッパープレート81の底面に固定された略円柱状の円柱状部82とを有し、一体に構成している。
【0084】
アッパープレート81は、上沓50のアッパープレート51と同様の構成であり、外周縁に沿って、固定ボルトBを挿通するボルト孔811を複数設けている。
円柱状部82は、上沓50の円柱状部52と同様に径より高さの低いステンレス製の略円筒状である。
【0085】
下沓90は、移動規制装置40の下沓60と同様に、下部構造物110の上面に固定するベースプレート91と、ベースプレート91の上面に固定されたベースポット92とを有し、一体に構成している。
ベースプレート91は、下沓60のベースプレート61と同様の構成である。
【0086】
ベースポット92は、下沓60のベースポット62と同様の構成であり、平面視四角形状であり、適宜の高さを有する略四角柱状であるが、下沓60の開口622と異なり、上面の平面視中央に、円柱状部82が挿入可能な円柱状空間を形成する装着凹部921を設けている。そして、装着凹部921の底面に円形のベアリング65を備えている。
【0087】
装着凹部921は、円柱状部82よりわずかに大径の略円柱状の空間である。なお、ベースポット92の上部において、装着凹部921を形成する部分を囲繞規制部93とし、その下部を本体部94としている。
装着凹部921の底面に備えたベアリング65は、上述の支承構造1における下沓60の装着凹部621に装着したベアリング65と同じ構成であるため、その説明を省略する。
【0088】
このように構成されたピン支承装置70は、上述したように二つ設けられており、
図8に示すように、そのひとつが二つの滑り支承装置10の間に配置され、もうひとつが二つの滑り支承装置10の間から外れた位置に配置されている。
【0089】
なお、二つ設けられてたピン支承装置70のうち、二つの滑り支承装置10の間に配置されたものを第1ピン支承装置70aとし、二つの滑り支承装置10の間から外れた位置に配置されたものを第2ピン支承装置70bとしている。
【0090】
また、本実施形態において、二つの滑り支承装置10の間から外れた位置に配置された第2ピン支承装置70bは、第1ピン支承装置70aと第2ピン支承装置70bとを結ぶ仮想の直線が、二つの滑り支承装置10を結ぶ仮想の直線と直行するような位置に配置しているが、二つの滑り支承装置10を結ぶ仮想の直線上において、二つの滑り支承装置10の一方に対して第1ピン支承装置70aと反対側に第2ピン支承装置70bを配置するなど、第2ピン支承装置70bは適宜の位置に配置すればよい。
【0091】
上述のように構成したピン支承装置70(70a,70b)の上沓80のアッパープレート81を上部構造物100の底面における所定位置に固定し、上述のように構成した下沓90のベースプレート91を下部構造物110の上面における所定位置に固定する。そして、装着凹部921の底面の円形溝にベアリング65が装着されたベースポット92の装着凹部921に、適宜の方法で円柱状部82の先端部分を装着して上沓80と下沓90とを組み付けてピン支承装置70を構成することができる。
なお、上沓80の滑り支承装置10の底面に対する固定は、上述の上沓50の固定と同様に、アッパープレート81に設けたボルト孔811に固定ボルトBを挿通し、上部構造物100に対して螺合して行われる。
【0092】
このように構成された滑り支承装置10及びピン支承装置70で構成する支承構造1aでは、支承構造1と同様に、ピン支承装置70において、上沓80の円柱状部82の底面と、下沓90における装着凹部921の底面に設けたベアリング65の上面との間に隙間sが設定されている。つまり、下沓90におけるベアリング65の上面と上沓80の円柱状部82の底面とは接触していない。
【0093】
このように構成した支承構造1aを設けたことにより、地震動等の外力が作用すると、下部構造物110に対して上部構造物100が相対移動しようとする。
しかしながら、支承構造1aは、二つのピン支承装置70を配置しているため、下部構造物110に対する上部構造物100の摺動面に沿う平面視方向の移動はピン支承装置70によって規制される。つまり、支承構造1aは、ふたつの滑り支承装置10によって下部構造物110で上部構造物100を支持するとともに、ピン支承装置70によって平面視方向の移動が規制された状態となる。
【0094】
ここで、第2ピン支承装置70bにおける上沓80のアッパープレート81を上部構造物100の底面にして固定する固定ボルトBの螺合を解消すると、
図10に示すように、上部構造物100に対して第2ピン支承装置70bの上沓80は分離される。当初状態では第2ピン支承装置70bの円柱状部82の底面とベアリング65の上面との間に隙間sが形成されていたが、この分離状態では上部構造物100の底面と第2ピン支承装置70bの上沓80のアッパープレート81の上面との間に隙間sが形成されることとなる。
【0095】
しかしながら、二つの滑り支承装置10の間に配置した第1ピン支承装置70aは当初の状態のままであるため、つまり上部構造物100に対して第1ピン支承装置70aの上沓80は固定されたままの状態である。
【0096】
そのため、
図10に示すように、第1ピン支承装置70aを中心として、二つの滑り支承装置10において上部構造物100の底面に固定された滑り上沓20の摺動面と、下部構造物110の上面に固定された滑り下沓30の摺動面とが摺動して、下部構造物110に対して上部構造物100は回転移動することとなる。つまり、支承構造1aは、第1ピン支承装置70aによって平面視方向の移動が規制されるが、回転移動が可能な支承状態となる。
【0097】
さらに、第1ピン支承装置70aにおける上沓80のアッパープレート81を上部構造物100の底面にして固定する固定ボルトBの螺合を解消すると、
図11に示すように、上部構造物100に対して第1ピン支承装置70aの上沓80は分離される。当初状態では円柱状部82の底面とベアリング65の上面との間に隙間sが形成されていたが、この分離状態では上部構造物100の底面と第1ピン支承装置70aの上沓80のアッパープレート81の上面との間に隙間sが形成されることとなる。
【0098】
つまり、この上部構造物100に対する第1ピン支承装置70aの上沓80の分離は、第1ピン支承装置70aによる平面視方向の移動規制が解消された状態、平面視方向の変位を許容する支承状態となる。そのため、
図11に示すように、地震動等の外力が作用すると、二つの滑り支承装置10において上部構造物100の底面に固定された滑り上沓20の摺動面と、下部構造物110の上面に固定された滑り下沓30の摺動面とが摺動して、下部構造物110に対して上部構造物100が摺動面に沿う平面視方向において移動することができる。
【0099】
上述したように、支承構造1aは、上部構造物100及び下部構造物110の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10と、上部構造物100と下部構造物110との相対移動を規制するピン支承装置70(70a,70b)とが配置され、ピン支承装置70は、上部構造物100の底面において、下部構造物110に向かって突出する円柱状部82と、円柱状部82を上部構造物100の底面に固定するアッパープレート81を有する上沓80と、下部構造物110の上面において、上沓80の滑り方向の相対移動を規制するベースポット92及びベースポット92を下部構造物110の上面に固定するベースプレート91を有する下沓90と、ピン支承装置70の相対移動規制を解消する固定ボルトBとが設けられている。
【0100】
また、ピン支承装置70は、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10とともに、上部構造物100及び下部構造物110の間に配置され、上部構造物100と下部構造物110との相対移動を規制し、上部構造物100の底面において、下部構造物110に向かって突出する円柱状部82と、円柱状部82を対向部分に固定するアッパープレート81を有する上沓80と、下部構造物110の上面において、上沓80の滑り方向の相対移動を規制するベースポット92及びベースポット92を下部構造物110の上面に固定するベースプレート91を有する下沓90と、ピン支承装置70の相対移動規制を解消する固定ボルトBとが設けられている。
【0101】
そのため、支承構造1a及びピン支承装置70は、下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0102】
詳述すると、上部構造物100及び下部構造物110の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10とともに配置されたピン支承装置70は、上部構造物100と下部構造物110との相対移動を規制する。そして、ピン支承装置70は、上部構造物100の底面に設ける上沓80と、下部構造物110の上面に設ける下沓90とが設けられている。
【0103】
また、下沓90は、上部構造物100の底面に設けられた上沓80の円柱状部82の滑り方向の相対移動を規制するベースポット92を有している。そのため、支承構造1aは、ピン支承装置70により下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制する支承状態を構成することができる。
【0104】
また、滑り方向の相対移動規制を解消する固定ボルトBが設けられているため、ピン支承装置70における上沓80の滑り方向の相対移動規制が解消され、上部構造物100及び下部構造物110の間に設けられた摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10によって下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態の支承構造1aを構成することができる。
【0105】
このように、上沓80と下沓90とを有するピン支承装置70において、移動規制と、固定ボルトBによる規制解除とにより、下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制する支承状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0106】
また、ピン支承装置70は、2つ備えられているため、ひとつのピン支承装置70において回転を規制しなくても、2つのピン支承装置70が協働して下部構造物110に対する上部構造物100の相対移動を規制することができる。
【0107】
また、滑り方向の相対移動を規制するベースポット92は、上沓80の回転を許容しているため、滑り方向の相対移動を規制するとともに、上沓80の回転を許容するベースポット92によって構成された二つのピン支承装置70によって下部構造物110に対する上部構造物100の相対回転及び相対移動を規制することができる。
【0108】
また、上部構造物100の底面に固定された上沓80と、下部構造物110の上面に固定された下沓90とが備えられ、回転のみを許容するピン支承装置70であるため、ピン支承装置70を確実に構成することができる。
【0109】
また、複数備えられたピン支承装置70(70a,70b)のうちひとつの第1ピン支承装置70aは、二つの滑り支承装置10の間に配置されている。そのため、滑り方向の相対移動を規制するとともに、上沓80の回転を許容するベースポット92によって構成された二つのピン支承装置70によって下部構造物110に対する上部構造物100の相対回転及び相対移動を規制することができる。また、二つのピン支承装置70のうち二つの滑り支承装置10の間に配置されていない第2ピン支承装置70bの規制を解除することで、二つの滑り支承装置10の間に配置された第1ピン支承装置70aが回転中心となって、第1ピン支承装置70aを中心として、下部構造物110に対して上部構造物100は水平方向の移動は規制されるものの、回転可能な支承状態を構成することができる。
【0110】
また、ベースポット92は、ベースプレート91に固定された本体部94と、円柱状部82の一部を囲繞し、滑り方向の移動を規制する囲繞規制部93とが設けられているため、本体部94に設けた囲繞規制部93により、円柱状部82の滑り方向の移動を囲繞して確実に規制することができる。
【0111】
また、アッパープレート81に、対向部分に螺合固定する固定ボルトBが設けられ、固定ボルトBは、上部構造物100の底面に対する螺合固定を解消できる。そのため、アッパープレート81を、上部構造物100の底面に対して固定ボルトBで螺合固定することができる。そして、固定ボルトBの螺合を解消することで、上部構造物100の底面に対してアッパープレート81の螺合固定を容易に解消することができる。そのため、上部構造物100の底面に上沓80が固定され、下部構造物110との上面に下沓90が固定されていることで機能する相対移動規制を解消することができる。
【0112】
例えば、上述の説明においては、上部構造物100と下部構造物110との間に設けたピン支承装置70において、上沓80の円柱状部82の底面と、下沓90における装着凹部921の底面に設けたベアリング65の上面との間に隙間sを設定したが、下沓90にベアリング65を設けず、装着凹部921の底面と円柱状部82の底面との間に隙間sが形成されるように構成してもよい。また、当初状態において上沓80の円柱状部82の底面と、下沓90における装着凹部921の底面に設けたベアリング65の上面とが接するように構成してもよい。
【0113】
さらには、上述の説明では、上部構造物100に対して下沓90の固定を固定ボルトBの螺合を解消して、上部構造物100と下沓90とを分離して、支承構造1aにおける平面視方向における変位を規制する支承状態から平面視方向における変位を許容する支承状態に切り替えた。これに対して、例えば、
図12に示すように、ピン支承装置70において、上沓80に対する下沓90の規制を解消して、支承構造1aにおける平面視方向における変位を許容する支承状態に切り替えてもよい。
【0114】
なお、
図12は、別の態様のピン支承装置70における下沓90の説明図を示している。詳しくは、
図12(a)は手前側の一部を切り欠いた状態の下沓90の斜視図を示し、
図12(b)は本体部94に対して囲繞規制部93を取り外した状態の下沓90の斜視図を示している。
【0115】
具体的には、
図12に示すように、ベースポット92における装着凹部921を構成するとともに、ピン支承装置70における太径部821の先端を囲繞する囲繞規制部93を、ベースポット92の本体部94から分離可能に構成する。そして、支承構造1aにおける平面視方向の変位を許容する支承状態に切り替える際に、ベースポット92の本体部94から囲繞規制部93を分離することで、上沓80に対する下沓90の規制を解消することができる。
【0116】
なお、このように構成した下沓90において、本体部94に対して囲繞規制部93を取り付けた状態で、側方から本体部94に対して囲繞規制部93をボルトで螺合固定できるように構成すると、上部構造物100と下部構造物110との間において、囲繞規制部93を分離する際の作業性が向上するため好ましい。
【0117】
このように、囲繞規制部93は本体部94に対して脱着可能に構成され、円柱状部82の回転を許容しながら平面視方向の移動を囲繞して確実に規制する囲繞規制部93を本体部94から取り外すことで、囲繞規制部93が規制解消機構として機能し、ピン支承装置70における上沓80の円柱状部82の平面視方向の相対移動規制を容易に解消することができる。
【0118】
以上、本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、本発明の上部構造物は上部構造物100に対応し、
以下同様に、
下部構造物は下部構造物110に対応し、
滑り支承装置は滑り支承装置10に対応し、
移動規制装置は移動規制装置40、ピン支承装置70に対応し、
凸状部は円柱状部52,82に対応し、
凸状固定部はアッパープレート51,81に対応し、
凸状部材及び上沓は上沓50,80に対応し、
規制構成部はベースポット62,92に対応し、
規制固定部はベースプレート61,91に対応し、
規制部材及び下沓は下沓60,90に対応し、
規制解消機構は固定ボルトBに対応し、
支承構造は支承構造1,1aに対応し、
本体部は本体部64,94に対応し、
囲繞規制部は囲繞規制部63,93に対応し、
固定手段は固定ボルトBに対応し、
ピン支承装置はピン支承装置70に対応し、
隙間は隙間sに対応するも、上記実施形態に限定するものではない。
【0119】
例えば、上述の説明においては、上部構造物100と下部構造物110との間に設けた移動規制装置40(ピン支承装置70)において、上沓50の四角形部521(上沓80)の底面と、下沓60(90)における装着凹部621(装着凹部921)の底面に設けたベアリング65の上面との間に隙間sを設定したが、下沓60(90)にベアリング65を設けず、装着凹部621(装着凹部921)の底面と上沓50の四角形部521(上沓80)の底面との間に隙間sが形成されるように構成してもよい。また、当初状態において上沓50の四角形部521(上沓80)の底面と、下沓60(90)における装着凹部621(装着凹部921)の底面に設けたベアリング65の上面とが接するように構成してもよい。
【0120】
上述の上部構造物100及び下部構造物110は、例えば、ビルを上部構造物100とし、基礎構造を下部構造物110とする建造物、橋脚を下部構造物110とし、主桁を上部構造物100とする橋梁、ビルを下部構造物110とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を上部構造物100とする連絡通路、柱を下部構造物110とし、トラス屋根を上部構造物100とする屋根構造、あるいは、ビルを下部構造物110とし、別のビルを上部構造物100とするエキスパンション構造における構造物としてもよい。
【0121】
上記滑り支承装置10は、剛滑り支承承など様々な構造の滑り支承装置で構成してもよい。
さらには、上述の説明では、上部構造物100の底面に滑り支承装置10の滑り上沓20及び移動規制装置40(ピン支承装置70)の上沓50(80)を取り付け、下部構造物110の上面に滑り支承装置10の滑り下沓30及び移動規制装置40(ピン支承装置70)の下沓60(90)を取り付けて支承構造1(1a)を構成した。これに対し、上部構造物100の底面に滑り支承装置10の滑り下沓30及び移動規制装置40(ピン支承装置70)の下沓60(90)を取り付け、下部構造物110の上面に滑り支承装置10の滑り上沓20及び移動規制装置40(ピン支承装置70)の上沓50(80)を取り付けて支承構造1(1a)を構成してもよい。
【0122】
また、上述の説明では、上部構造物100の底面に対して、固定ボルトBで上沓50(80)を螺合固定し、固定ボルトBによる螺合固定を解消して、平面視方向の変位を許容する支承状態に切り替えた。これに対し、下部構造物110に対する下沓60(90)の固定を解消して、平面視方向の変位を許容する支承状態に切り替えてもよいし、上沓50(80)と下沓60(90)の両方の固定を解消して、平面視方向の変位を許容する支承状態に切り替えてもよい。
【0123】
なお、上述の説明では、上部構造物100の底面に対して固定ボルトBでアッパープレート81を螺合固定し、固定ボルトBの螺合を解消することで、上部構造物100の底面に対するアッパープレート81の螺合固定を解消した。これに対し、例えば、固定ボルトBの代わりに、単なる棒状部材で上部構造物100の底面に対してアッパープレート81を固定してもよい。
【符号の説明】
【0124】
1,1a…支承構造
10…滑り支承装置
40…移動規制装置
50…上沓
51…アッパープレート
52…円柱状部
60…下沓
61…ベースプレート
62…ベースポット
63…囲繞規制部
64…本体部
70…ピン支承装置
80…上沓
81…アッパープレート
82…円柱状部
90…下沓
91…ベースプレート
92…ベースポット
93…囲繞規制部
94…本体部
100…上部構造物
110…下部構造物
B…固定ボルト
s…隙間