(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025091890
(43)【公開日】2025-06-19
(54)【発明の名称】インペラ、及び磁気浮上式ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 13/06 20060101AFI20250612BHJP
F04D 29/048 20060101ALI20250612BHJP
F04D 29/42 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
F04D13/06 D
F04D29/048
F04D29/42 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207419
(22)【出願日】2023-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】中川 健人
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA02
3H130AB22
3H130AB46
3H130AC01
3H130BA97A
3H130BA97C
3H130BA98A
3H130BA98C
3H130CB01
3H130DB10X
3H130EA07A
3H130EA07C
3H130EA08A
3H130EA08C
3H130ED02A
3H130ED02C
(57)【要約】
【課題】軸方向の位置復元力が作用するインペラを低コストで製作することができる技術を提供する。
【解決手段】本開示のインペラは、移送流体の流入口及び流出口を有するハウジング内において、軸線回りに回転可能に配置されるインペラであって、軸方向に貫通するバランスホールが径方向内側に形成された円柱状のインペラ本体と、前記バランスホールにおける前記流入口に近い側となる軸方向一方側の開口に対して、前記軸方向一方側に間隔をあけて対向する円板状の仕切板と、前記仕切板よりも径方向外側において、前記仕切板の周方向に沿って配置された複数の羽根と、を備え、複数の前記羽根は、それぞれ前記仕切板の外周面に対して前記径方向外側に隙間をあけて配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送流体の流入口及び流出口を有するハウジング内において、軸線回りに回転可能に配置されるインペラであって、
軸方向に貫通するバランスホールが径方向内側に形成された円柱状のインペラ本体と、
前記バランスホールにおける前記流入口に近い側となる軸方向一方側の開口に対して、前記軸方向一方側に間隔をあけて対向する円板状の仕切板と、
前記仕切板よりも径方向外側において、前記仕切板の周方向に沿って配置された複数の羽根と、を備え、
複数の前記羽根は、それぞれ前記仕切板の外周面に対して前記径方向外側に隙間をあけて配置されている、インペラ。
【請求項2】
前記仕切板の外径をA、複数の前記羽根それぞれにおける前記仕切板との最近接端に外接する仮想外接円の直径をBとしたとき、0.89≦A/B<1.00の関係を満たす、請求項1に記載のインペラ。
【請求項3】
前記間隔の軸方向の寸法をC、前記羽根の軸方向の最小寸法をDとしたとき、0.2≦C/D≦0.6の関係を満たす、請求項1又は請求項2に記載のインペラ。
【請求項4】
移送流体の流入口及び流出口を有するハウジングと、
前記ハウジング内に配置される、請求項1又は請求項2に記載のインペラと、
前記インペラを回転駆動するモータと、
回転中の前記インペラを非接触で支持する磁気軸受部と、を備える磁気浮上式ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラ、及び磁気浮上式ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気浮上式ポンプは、ハウジングに対してインペラを、磁気により浮上させて非接触で支持しながら回転させる。インペラは、その回転中に軸方向へ移動すると、ハウジングに接触して破損するおそれがある。このため、磁気浮上式ポンプのインペラには、軸方向一方側へ移動したときに軸方向他方側へ押し戻すための位置復元力を作用させる仕組みが必要となる(例えば特許文献1の
図2参照)。
【0003】
特許文献1に記載された磁気浮上式ポンプのインペラ(rotor)は、複数のバランスホール(relief bore)を有するインペラ本体と、円板状の仕切板(partition element)と、仕切板の外周に固定された複数の羽根と、を備える。各羽根は、仕切板より上側の第1羽根部(first vanes)と、仕切板より下側の第2羽根部(second vanes)と、を有する。
【0004】
第1羽根部は、仕切板より上側において、インペラの回転に伴う遠心力により、ハウジングの入口から出口への移送流体の流れ(主流)を発生させる。この主流により、インペラには、軸方向上側へ引っ張られる荷重が作用する。第2羽根部は、仕切板より下側において、インペラ本体の内周側(バランスホール)と外周側との間で移送流体が循環する流れ(循環流)を発生させる。この循環流により、インペラには、軸方向下側へ引っ張られる逆荷重が作用する。
【0005】
磁気浮上式ポンプの運転中は、軸方向上側への荷重と軸方向下側への逆荷重とが均衡することで、インペラは軸方向の所定位置に保持される。この状態からインペラが外力によって軸方向下側へ移動すると、循環流の流量が減少して軸方向下側への逆荷重が小さくなる。これにより、インペラには、軸方向上側への荷重が位置復元力として優位に働く。逆にインペラが外力によって軸方向上側へ移動すると、循環流の流量が増加して軸方向下側への逆荷重が大きくなる。これにより、インペラには、前記逆荷重が位置復元力として優位に働く。これらの位置復元力によって、前記所定位置から軸方向両側へのインペラの移動が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の磁気浮上式ポンプのインペラを製作する際に、例えば羽根を溶着により仕切板の外周に固定する場合、複数の羽根をそれぞれ仕切板に溶着する必要がある。このため、インペラの製作に必要な工数が多くなり、製作コストが増大するという問題がある。
【0008】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、軸方向の位置復元力が作用するインペラを低コストで製作することができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示インペラは、移送流体の流入口及び流出口を有するハウジング内において、軸線回りに回転可能に配置されるインペラであって、軸方向に貫通するバランスホールが径方向内側に形成された円柱状のインペラ本体と、前記バランスホールにおける前記流入口に近い側となる軸方向一方側の開口に対して、前記軸方向一方側に間隔をあけて対向する円板状の仕切板と、前記仕切板よりも径方向外側において、前記仕切板の周方向に沿って配置された複数の羽根と、を備え、複数の前記羽根は、それぞれ前記仕切板の外周面に対して前記径方向外側に隙間をあけて配置されている。
【0010】
インペラに対して軸方向の位置復元力を作用させるためには、仕切板の軸方向両側に発生する主流と循環流を完全に分離させればよいと考えるのが一般的である。主流と循環流を完全に分離させるためには、仕切板の外周に複数の羽根を固定して一体化させる必要がある。これに対して、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、上記のような一般的な考えに反して、複数の羽根を仕切板から切り離した場合であっても、インペラに対して軸方向の位置復元力が作用することを見出した。その結果、上記(1)に係る発明が得られた。
【0011】
本開示のインペラによれば、複数の羽根が仕切板の外周面に対して径方向外側に隙間をあけて配置される。このため、複数の羽根それぞれを仕切板に溶着等により固定する必要がないので、インペラの製作に必要な工数を大幅に低減することができる。また、上記のように複数の羽根が仕切板に固定されなくても、インペラには軸方向の位置復元力が作用する。したがって、軸方向の位置復元力が作用するインペラを低コストで製作することができる。
【0012】
(2)前記(1)のインペラにおいて、前記仕切板の外径をA、複数の前記羽根それぞれにおける前記仕切板との最近接端に外接する仮想外接円の直径をBとしたとき、0.89≦A/B<1.00の関係を満たすのが好ましい。
本願発明者は、さらに鋭意研究を重ねた結果、複数の羽根の前記仮想外接円の直径Bに対する仕切板の外径Aの割合(A/B)が所定範囲内であるときに、インペラに軸方向の位置復元力が適切に作用することを見出し、かかる知見に基づいて上記(2)に係る発明を完成させた。上記(2)に係る発明によれば、インペラに軸方向の位置復元力を適切に作用させることができるので、インペラがハウジングに接触して破損するのを効果的に抑制することができる。
【0013】
(3)前記(1)又は(2)のインペラにおいて、前記間隔の軸方向の寸法をC、前記羽根の軸方向の最小寸法をDとしたとき、0.2≦C/D≦0.6の関係を満たすのが好ましい。
本願発明者は、さらに鋭意研究を重ねた結果、羽根の軸方向の最小寸法Dに対する、バランスホールの軸方向一方側の開口と仕切板との軸方向の間隔Cの割合(C/D)が所定範囲内であるときに、流体移送特性(ハウジングの流入口と流出口との差圧)の低減を抑制できることを見出し、かかる知見に基づいて上記(3)に係る発明を完成させた。上記(3)に係る発明によれば、磁気浮上式ポンプの流体移送特性が低減するのを抑制することができる。
【0014】
(4)本開示の磁気浮上式ポンプは、移送流体の流入口及び流出口を有するハウジングと、前記ハウジング内に配置される、前記(1)から(3)のいずれかに記載のインペラと、前記インペラを回転駆動するモータと、回転中の前記インペラを非接触で支持する磁気軸受部と、を備える。
上記磁気浮上式ポンプによれば、上記インペラと同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、軸方向の位置復元力が作用するインペラを低コストで製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の実施形態に係る磁気浮上式ポンプを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[全体構成]
図1は、本開示の実施形態に係る磁気浮上式ポンプ1を示す概略断面図である。
図1において、本実施形態の磁気浮上式ポンプ1(以下、単に「ポンプ1」ともいう)は、遠心ポンプからなる。ポンプ1は、ハウジング2、インペラ3、モータ4、及び磁気軸受部5を備える。
【0018】
以下、本開示では、ポンプ1の軸線Xに沿う方向は、ポンプ1の軸方向であり、単に「軸方向」と称する。また、軸線Xに直交する方向は、ポンプ1の径方向であり、単に「径方向」と称する。軸線Xを中心として回転する方向は、ポンプ1の周方向であり、単に「周方向」と称する。
【0019】
ハウジング2は、円筒状のハウジング本体21と、ハウジング本体21の軸方向上側に設けられた天壁22と、ハウジング本体21の軸方向下側に設けられた底壁23と、を有する。ハウジング本体21は、軸線Xを中心として円筒状に形成されている。天壁22は、略円すい板状に形成され、ハウジング本体21の軸方向上側の開口を塞いでいる。底壁23は、円板状に形成され、ハウジング本体21の軸方向下側の開口を塞いでいる。
【0020】
ハウジング2は、移送流体が流入する流入口24と、移送流体が流出する流出口25と、をさらに有する。流入口24は、天壁22の中央部に形成されている。流出口25は、ハウジング本体21の外周の軸方向上側に形成されている。
【0021】
インペラ3は、ハウジング2内において、軸線X回りに回転可能に配置される。インペラ3が回転すると、移送流体は、流入口24からハウジング2内に流入し、遠心力によって流出口25からハウジング2外に流出するようになっている。インペラ3の詳細については後述する。
【0022】
モータ4は、インペラ3を回転駆動する。モータ4は、ハウジング2の外側に配置された固定子11と、インペラ3に設けられた回転子12と、を有する。固定子11は、鉄等の磁性体からなる固定磁性部11aと、固定磁性部11aに巻回された巻線11bと、を有する。回転子12は、インペラ3内に設けられた永久磁石12aを有する。ポンプ1を運転させる際には、固定子11の巻線11bに電流を付与する。これにより、回転磁界が発生することで、回転子12は、インペラ3と共に軸線X回りに回転する。
【0023】
磁気軸受部5は、回転中のインペラ3を非接触で支持する。磁気軸受部5は、ハウジング2の外側に配置された磁気発生部5aと、インペラ3に設けられた回転側磁性体5bと、を有する。本実施形態では、モータ4が、磁気軸受部5を兼ねている。具体的には、モータ4の固定子11が磁気発生部5aを兼ね、モータ4の回転子12が回転側磁性体5bを兼ねている。磁気発生部5aと回転側磁性体5bとによって生じる磁気により、インペラ3は、非接触で支持されながら回転する。
【0024】
[インペラ]
図2は、インペラ3を示す拡大断面図である。
図2では、モータ4の回転子12の図示を省略している。
図3は、
図1のI-I矢視断面である。
図2及び
図3において、インペラ3は、インペラ本体31、仕切板32、複数の羽根33、及び蓋板34を有する。
【0025】
インペラ本体31は、軸線Xを中心として円柱状に形成されている。磁気軸受部5によりインペラ3が非接触で支持された状態で、インペラ本体31の外周面31aとハウジング本体21の内周面21aとの間には、環状の第1空間S1が形成される。また、インペラ3が非接触で支持された状態で、インペラ本体31の軸方向下側の端面31bと、底壁23との間には、第2空間S2が形成される。
【0026】
インペラ本体31の径方向内側には、軸方向に貫通する複数のバランスホール35が形成されている。本実施形態のインペラ本体31には、軸線Xを中心として周方向に8つのバランスホール35が形成されている。各バランスホール35は、例えば断面円形である。各バランスホール35には、移送流体の一部が通過する。インペラ本体31内には、複数のバランスホール35よりも径方向外側に上記永久磁石12aが設けられている(
図1参照)。
【0027】
仕切板32は、軸線Xを中心として円板状に形成されている。仕切板32は、軸方向の厚みが相対的に大きい厚肉部321と、軸方向の厚みが相対的に小さい薄肉部322と、を有する。厚肉部321は、薄肉部322よりも軸方向下側に突出している。厚肉部321は、インペラ本体31の軸方向上側の端面31cにおいて、複数のバランスホール35よりも径方向内側の位置に、溶着等により固定されている。薄肉部322は、厚肉部321の径方向外側において環状に形成されている。薄肉部322は、各バランスホール35における流入口24に近い側となる軸方向上側(軸方向一方側)の開口に対して、軸方向上側に間隔E1をあけて対向している。
【0028】
複数の羽根33は、仕切板32よりも径方向外側において、仕切板32の周方向に沿って等間隔に配置されている。複数の羽根33は、それぞれ仕切板32の外周面32aに対して、径方向外側に隙間E2をあけて配置されている。この隙間E2は、各羽根33の最近接端33d(後述)と仕切板32の外周面32aとの径方向の隙間である。各羽根33は、インペラ本体31の軸方向上側の端面31cに載置された状態で固定されている。
【0029】
各羽根33は、例えば平面視において略三角形状に形成されている。各羽根33は、第1側面33a、第2側面33b、及び外面33cを有する。各羽根33の第1側面33a及び第2側面33bは、インペラ本体31の端面31cに対して垂直な面であり、インペラ本体31の中心側から径方向外側に向かって湾曲しながら延びている。第2側面33bの湾曲長さは、第1側面33aの湾曲長さよりも長い。
【0030】
各羽根33は、仕切板32の外周面32aに最も近接する最近接端33dを有する。本実施形態における各羽根33の最近接端33dは、第1側面33aと第2側面33bとの接続端である。各羽根33の外面33cは、インペラ本体31の外周面31aと同一の曲率半径からなる円弧面である。なお、各羽根33の形状は、本実施形態の形状に限定されない。
【0031】
蓋板34は、軸線Xを中心として環状に形成されている。蓋板34は、各羽根33の軸方向上側の端面に固定されている。蓋板34の内周孔は、移送流体がインペラ3内に導入される導入孔36とされている。インペラ本体31と蓋板34との間において、周方向に隣接する羽根33同士の間には、インペラ3内の移送流体が径方向内側から径方向外側に向かって流れる流路37が形成されている。
【0032】
ポンプ1を運転させてインペラ3が軸線X回りに回転すると、ハウジング2の流入口24から、導入孔36を通過してインペラ3内に移送流体が導入される。インペラ3内に導入された移送流体は、インペラ3の回転に伴う遠心力により、仕切板32の軸方向上側の表面に沿って径方向外側へ放射状に流れ、隣接する羽根33同士の間の流路37を通過し、インペラ3外へ送り出される。インペラ3外へ送り出された移送流体の大部分は、ハウジング2の流出口25からハウジング2外へ流出する。したがって、回転中のインペラ3内では、仕切板32よりも軸方向上側において、ハウジング2の流入口24から流出口25への移送流体の流れが発生する。以下、この流れを「主流」という。
【0033】
インペラ3外へ送り出された移送流体の残りの一部は、第1空間S1及び第2空間S2をこの順に通過し、インペラ本体31の軸方向下側からバランスホール35内に流れ込む。バランスホール35内に流れ込んだ移送流体は、バランスホール35内を軸方向上側の開口から、インペラ本体31の端面31cと仕切板32の薄肉部322との間隔E1内に流れ込む。間隔E1内に流れ込んだ移送流体は、上記遠心力によって径方向外側へ放射状に流れ、隣接する羽根33同士の間の流路37を通過し、再びインペラ3外へ送り出される。 したがって、回転中のインペラ3内では、仕切板32(薄肉部322)よりも軸方向下側において、インペラ本体31の径方向内側(バランスホール35)と径方向外側(第1空間S1)との間で移送流体が循環する流れが発生する。以下、この流れを「循環流」という。
[位置復元力]
【0034】
インペラ3には、主流により、軸方向上側へ引っ張られる荷重F1が作用する。具体的には、主流の途中において、仕切板32の上記表面に沿って径方向内側から径方向外側に向かって移送流体が流れることで、仕切板32の中心部において負圧が発生する。この負圧によって、インペラ3に対して軸方向上側への荷重F1が作用する。以下、この荷重F1を「上方向荷重F1」ともいう。
【0035】
インペラ3には、循環流により、軸方向下側へ引っ張られる荷重F2が作用する。具体的には、循環流の途中において、インペラ本体31の軸方向下側(第2空間S2)から複数のバランスホール35内に移送流体が流れ込むことで、インペラ本体31の端面31bの中心部において負圧が発生する。この負圧によって、インペラ3に対して軸方向下側への荷重F2が作用する。以下、この荷重F2を「下方向荷重F2」ともいう。
【0036】
ポンプ1の運転中は、上方向荷重F1と下方向荷重F2とが均衡することで、インペラ3は軸方向の所定位置(
図2に示す位置)に保持される。本実施形態のポンプ1では、遠心ポンプの構造上、上方向荷重F1よりも下方向荷重F2のほうが大きくなることで、両荷重F1,F2が均衡する。この均衡状態から、インペラ3が外力によって軸方向下側へ移動すると、第2空間S2が狭くなることで、循環流の流量が減少する。これにより、下方向荷重F2が小さくなるので、下方向荷重F2よりも上方向荷重F1のほうがインペラ3に対して優位に働く。したがって、軸方向下側へ移動したインペラ3は、上方向荷重F1が位置復元力として作用することで、所定位置に向かって軸方向上側へ押し戻される。
【0037】
一方、荷重F1,F2の均衡状態から、インペラ3が外力によって軸方向上側へ移動すると、第2空間S2が広くなることで、循環流の流量が増加する。これにより、下方向荷重F2が大きくなるので、上方向荷重F1よりも下方向荷重F2のほうがインペラ3に対して優位に働く。したがって、軸方向上側へ移動したインペラ3は、下方向荷重F2が位置復元力として作用することで、所定位置に向かって軸方向下側へ押し戻される。以上より、上方向荷重F1及び下方向荷重F2のいずれか一方が軸方向の位置復元力としてインペラ3に作用する。
【0038】
図3において、インペラ3に対して軸方向の位置復元力を適切に作用させるためには、仕切板32及び複数の羽根33は、下記の式(1)の関係を満たすのが好ましい。本実施形態のA/Bは、例えば0.95である。
0.89≦A/B<1.00 ・・・(1)
Aは、仕切板32の外径である。Bは、複数の羽根33それぞれにおける仕切板32との最近接端33dに外接する仮想外接円(
図3の2点鎖線で示す円)の直径である。なお、各羽根33の最近接端33dと仕切板32の外周面32aとの隙間E2は、(B-A)/2となる。
【0039】
図1において、ポンプ1の流体移送特性(ハウジング2の流入口24と流出口25との差圧)が低減するのを抑制するためには、仕切板32及び複数の羽根33は、さらに下記の式(2)の関係を満たすのが好ましい。本実施形態のC/Dは、例えば0.43である。
0.2≦C/D≦0.6 ・・・(2)
Cは、インペラ本体31の端面31cと仕切板32の薄肉部322との間隔E1の軸方向の寸法である。Dは、羽根33の軸方向の最小寸法である。
【0040】
[検証試験1]
本実施形態のポンプ1について、インペラ3に対して軸方向の位置復元力が適切に作用するか否かについて検証試験1を行った。
図4は、検証試験1の説明図である。
図4において、検証試験1では、上方向荷重F1と下方向荷重F2とが均衡した状態から、インペラ3をY方向(軸方向)へ移動させて回転させたときに、インペラ3に作用するY方向の荷重(位置復元力)を、流体解析ソフトウェアにより算出した。Y方向の原点は、両荷重F1,F2が均衡した状態におけるインペラ本体31の軸方向上側の端面31c上の位置とした。
【0041】
図5は、検証試験1の結果を示す表である。
図5に示すように、インペラ3を原点(Y=0mm)からY方向正側の上限位置(Y=+2mm)まで移動させた状態で回転させると、Y方向負側に作用する荷重(下方向荷重F2)は大きくなることが確認された。すなわち、インペラ3がY方向正側へ移動すると、Y方向正側の上方向荷重F1よりもY方向負側の下方向荷重F2のほうが優位に働くことが確認された。
【0042】
一方、インペラ3を原点(Y=0mm)からY方向負側の下限位置(Y=-3mm)へ移動させるにしたがって、Y方向正側に作用する荷重(上方向荷重F1)は徐々に大きくなることが確認された。すなわち、インペラ3がY方向負側へ移動すると、Y方向負側の下方向荷重F2よりもY方向正側の上方向荷重F1のほうが優位に働くことが確認された。
【0043】
[検証試験2]
次に、仕切板32及び複数の羽根33が上記式(1)の関係を満たすことで、インペラ3に対して軸方向の位置復元力が適切に作用するか否かについて検証試験2を行った。検証試験2では、インペラ3を
図4の上限位置(Y=+2mm)に固定した状態で、A/Bの値を変更したときに、インペラ3に作用するY方向の荷重(位置復元力)を、流体解析ソフトウェアにより算出した。A/Bの値の変更では、仮想外接円の直径Bを不変値(26.4mm)とし、仕切板32の外径Aを17.4mmから25.4mmまでの間で段階的に変更した。
【0044】
図6は、検証試験2の結果を示す表である。検証試験2において、上限位置にあるインペラ3に作用させる位置復元力は、下方向荷重F2(
図4参照)である。したがって、
図6に示すY方向の荷重が負の値になっていれば、インペラ3に対して軸方向の位置復元力が適切に作用していると考えることができる。
図6の試験結果では、Y方向の荷重が負の値となる場合のA/Bの最小値は、0.89であり、上記式(1)の下限値と同じ値であることが確認された。
【0045】
[作用効果]
本実施形態の磁気浮上式ポンプ1及びインペラ3によれば、複数の羽根33が仕切板32の外周面32aに対して径方向外側に隙間E2をあけて配置される。このため、複数の羽根33それぞれを仕切板32に溶着等により固定する必要がないので、インペラ3の製作に必要な工数を大幅に低減することができる。また、複数の羽根33が仕切板32に固定されなくても、インペラ3には軸方向の位置復元力が作用する。したがって、軸方向の位置復元力が作用するインペラ3を低コストで製作することができる。
【0046】
仕切板32の外径A、及び複数の羽根33の最近接端33dに外接する仮想外接円の直径Bは、上記式(1)の関係を満たしている。これにより、インペラ3に軸方向の位置復元力を適切に作用させることができるので、インペラ3がハウジング2に接触して破損するのを効果的に抑制することができる。
【0047】
インペラ本体31の端面31cと仕切板32の薄肉部322との間隔E1の軸方向の寸法C、及び羽根33の軸方向の最小寸法Dは、上記式(2)の関係を満たしている。これにより、磁気浮上式ポンプ1の流体移送特性が低減するのを抑制することができる。
【0048】
[その他]
本実施形態の磁気浮上式ポンプ1では、モータ4が磁気軸受部5を兼ねているが、モータ4と別体に固定磁性部11aが設けられてもよい。インペラ3は、軸方向の位置復元力が作用すれば、上記の式(1)の関係を満たさなくてもよいし、上記の式(2)の関係を満たさなくてもよい。バランスホール35の個数は、本実施形態に限定されない。
【0049】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1 磁気浮上式ポンプ
2 ハウジング
3 インペラ
4 モータ
5 磁気軸受部
24 流入口
25 流出口
31 インペラ本体
32 仕切板
32a 外周面
33 羽根
33d 最近接端
35 バランスホール
E1 間隔
E2 隙間
X 軸線