(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009221
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】脳卒中患者の身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するための方法、及び、システム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/30 20180101AFI20250110BHJP
【FI】
G16H20/30
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112076
(22)【出願日】2023-07-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】508179637
【氏名又は名称】学校法人冬木学園
(74)【代理人】
【識別番号】100152700
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 透
(72)【発明者】
【氏名】大住 倫弘
(72)【発明者】
【氏名】冬木 正紀
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】脳卒中患者のリハビリテーション実施前後の痛みの性質と程度の主観的データを蓄積し、脳卒中後疼痛の予後についての予測値を算出するシステムを提供する。
【解決手段】システムは、複数の対象患者の個別の痛みごとのリハビリテーション前の痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、リハビリテーション後のNRS値とに基づいて、複数の対照患者と新規患者の類似度から、新規患者のリハビリテーション後の、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値を算出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、
痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するための方法であって、
x種類の個別の痛みごとの、
リハビリテーション前のNPI値をb(before)1~bxとし、
リハビリテーション前のNRS値をPb(Pain before)とし、
リハビリテーション後のNRS値をPa(Pain after)とし、
対照患者Cの総数をn人としたときの、i番目の対照患者C(i)の、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記PbをCPb(i)とし、
前記PaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとし、
リハビリテーション前のNRS値をNPbとし、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度をSim(i)とした場合において、
すべての対照患者Cの前記Sim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(all)を
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出する方法。
【請求項2】
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、
痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するための方法であって、
x種類の個別の痛みごとの、
リハビリテーション前のNPI値をb(before)1~bxとし、
リハビリテーション前のNRS値をPb(Pain before)とし、
リハビリテーション後のNRS値をPa(Pain after)とし、
対照患者Cの総数をn人としたときの、i番目の対照患者C(i)の、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記PbをCPb(i)とし、
前記PaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとし、
リハビリテーション前のNRS値をNPbとし、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度をSim(i)とし、
さらに、
前記Sim(i)が上位である対照患者Cを絞り込む比率としての任意の値をxとして、
標準正規分布表のxに対応する値を基準Z値zとした場合において、
すべての対照患者Cの前記CVb(i)と前記NVbとの類似度Sim(i=1~n)の平均値であるSim(ave)と標準偏差とを計算する第1ステップと、
前記Sim(ave)と標準偏差とからzに該当する基準類似度SimZを算出して、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者c(人数はm人)を抽出する第2ステップと、
対照患者c(i)(i=1~m)の前記Sim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(lim)を
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出する第3ステップと、
からなる方法。
【請求項3】
前記第2ステップにおいて抽出したSimZ以上のSim(i)を有する対照患者cのうち、Sim(i)が最も小さな対照患者のSim(i)について、
θ(i)=10*[1-cos-1(Sim(i))/ (π/2)]
の数式により算出したθ(i)の値を、前記NPa(lim)の信頼度としたこと
を特徴とする、
請求項2に記載の、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するための方法。
【請求項4】
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、
前記システムは、少なくともデータベースと、情報処理装置と、ソフトウェアと、入出力端末とからなり、
前記データベースは、少なくとも
総数n人の前記対照患者Cのそれぞれについての、
リハビリテーション前のNPI値であるCb(before)1~bxと、
リハビリテーション前のNRS値であるCPb(Pain before)と、
リハビリテーション後のNRS値であるCPa(Pain after)と
を記憶しており、
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記入出力端末からの、
新規患者N(new patient)の、
リハビリテーション前のNPI値であるNb(before)1~Nbxと、
リハビリテーション前のNRS値であるNPb(Pain before)
の入力を受けて、
i番目の対照患者C(i)の、
前記Cb1~Cbxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記CPbをCPb(i)とし、
前記CPaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記Nb1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとして、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度Sim(i)を算出し、
すべての対照患者CのSim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(all)を
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出して、前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とするシステム。
【請求項5】
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、
前記システムは、少なくともデータベースと、情報処理装置と、ソフトウェアと、入出力端末とからなり、
前記データベースは、少なくとも
総数n人の前記対照患者Cのそれぞれについての、
リハビリテーション前のNPI値であるCb(before)1~bxと、
リハビリテーション前のNRS値であるCPb(Pain before)と、
リハビリテーション後のNRS値であるCPa(Pain after)と
を記憶しており、
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記入出力端末からの、
新規患者N(new patient)の、
リハビリテーション前のNPI値であるNb(before)1~Nbxと、
リハビリテーション前のNRS値であるNPb(Pain before)
の入力を受けて、
i番目の対照患者C(i)の、
前記Cb1~Cbxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記CPbをCPb(i)とし、
前記CPaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記Nb1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとして、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度Sim(i)を算出し、
さらに、
前記入出力端末からの前記Sim(i)が上位である対照患者Cを絞り込む比率としての任意の値であるxの入力を受けて、
標準正規分布表のxに対応する値を基準Z値zとし、
すべての対照患者Cの前記CVb(i)と前記NVbとの類似度Sim(i=1~n)の平均値であるSim(ave)と標準偏差とを計算し、
前記Sim(ave)と標準偏差とからzに該当する基準類似度SimZを算出して、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者c(人数はm人)を抽出し、
対照患者c(i)(i=1~m)の前記Sim(i)と前記NPbとから、
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(lim)を算出して、
前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とするシステム。
【請求項6】
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記SimZ以上のSim(i)を有する対照患者cのうち、Sim(i)が最も小さい対象患者のSim(i)について、
θ(i)=10*[1-cos-1(Sim(i))/ (π/2)]
の数式により算出したθ(i)の値を前記NVa(lim)の信頼度として、
前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とする、
請求項5に記載の新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳卒中患者の予後の身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するための方法、及び、システムに関する。より詳細には、過去にリハビリテーションを実施済の対照患者群へのアンケート調査による、リハビリテーション実施前の身体の痛みを主観的に指数化させた回答データと、リハビリテーション実施前の新規患者の同様の回答データとの類似度に基づき、新規患者のリハビリテーション実施後の総合的な痛みの指数の予測値を算出することで、患者にとって負担の大きなリハビリテーションの実施の適否を検討する際の目安を、理学療法士等の医療従事者に提供可能とするための方法、及び、システムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中を発症すると、後遺症として運動麻痺が出現するほか、「痛み(=脳卒中後疼痛)」が生じることがあり、これが運動麻痺のリハビリテーションにとっての障害となる場合が多い。そのため、脳卒中後疼痛を緩和させるためのリハビリテーションも重要となる。
【0003】
一般的なリハビリテーションの基本的な手続では、症例(患者)に出現している症状を評価して、それぞれの症状の予後を推定し、これに基づいて最も適切なリハビリテーションのブログラムを立案して計画的に実行する必要がある。しかし、脳卒中後に出現する痛みのリハビリテーションの場合、患者ごとに予後が大きく異なるため、理学療法士等の医療従事者も、過去の経験と新規患者の主観的な痛みの訴えに基づいて、手探りでリハビリプログラムを立案しているのが現状である。
【0004】
また、身体の痛みを改善するための療法としては、第一にリハビリテーションを中心とする理学療法、第二に神経作用薬物による薬物療法、第三に手術等の外科的手法があるが、リハビリテーションは患者の負担も大きいため、効果が期待できない場合は、薬物療法や外科的手法を選択することが望ましい。そのため、新規患者について、事前にリハビリテーションの効果や実施の適否について、ある程度の目安が得られれば、患者と医療機関の双方にとって極めて有益である。
【0005】
ここで、人間が感じる身体の痛みを把握・分析するための先行技術としては、特許文献1に開示されている「トレンド分析を利用した痛みの判別」のような、患者の脳波に基づいて疼痛をモニターして判別するモデルを生成する方法が提案されている。また、患者の症状や状態に応じて適切なリハビリテーションの計画を提供するための先行技術としては、特許文献2に開示されている「リハビリテーション取り組み提案方法」などが提案されている。しかし、前者は、対象患者の生体信号のトレンド分析を利用して疼痛の質及び量を客観的に判別可能とするものではあるものの、リハビリテーションの効果や適否の予測を提供するものではない。また、後者も、対象患者の身体の現状とリハビリテーションの希望についての情報を入力することで、適切なリハビリテーション計画を提供可能とするものではあるものの、やはり、リハビリテーション自体の効果や適否の予測を提供するものではない。
【特許文献1】再公表特許公報第2019/009420号
【特許文献2】特開2022-87965号公開公報
【0006】
脳卒中後疼痛の予後は、痛みが出現している背景にある個々の病態によって左右される。過去の研究では、脳の損傷部位を特定する脳画像解析データ、痛覚経路の異常所見を明確にする電気生理学的データなどが、脳卒中後疼痛の予後を推定する材料になると考えられてきた。例えば、視床枕という脳領域の損傷があって、痛覚刺激によって出現する脳電位の振幅低下が組み合わさると、87%の確率で脳卒中後疼痛の予後が悪いことが報告されている(Vartiainen N et al. Brain. 2016)。
【0007】
このような臨床評価およびデータ解析によれば脳卒中後疼痛の予後を推定できる可能性はあるが、このような大掛かりな臨床評価を多忙なリハビリテーションの現場で実行することは現実的には不可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、患部や病因の特定が難しい脳卒中後の身体の痛みについて、これまでは、客観的な生理学的データを重視して、その判別や解析が試みられてきたが、その原因特定は容易ではなく、まして、新たな患者に対するリハビリテーションの効果の予測や適否については、目安を提供することすら困難であるのが実情であった。
【0009】
一方、脳卒中後疼痛では、「ひきつるような」、「灼けるような」といった多岐にわたる痛みの性質が日常的に訴えられている。しかし、リハビリテーションの現場では、これまで「主観は当てにならない」という理由で、このような主訴は、患者とのコミュニケーションを成立させるためだけの傾聴に留まっていた。
【0010】
ただ、過去の研究を振り返ると、脳の損傷領域によって痛みの性質が異なっていることや(Klit H et al. Pain.2011)、筋肉や関節のトラブルに特異的な痛みの性質が存在することが伺える(Choi-Kwon S et al. Acta Neurol Scand. 2017 Apr;135(4):419-425.)。このように、主観データと病態メカニズムとの間に相関関係が存在しているとするならば、この主観データを活かして脳卒中後疼痛の予後を推定することも可能ではないかと考えられる。
【0011】
本発明は、かかる観点から、リハビリテーション実施済みの患者が訴える、リハビリテーション前の痛みの性質と程度という主観的データを蓄積しておき、リハビリテーション実施前の新規患者の主観的データとの類似度についての統計的処理によって、脳卒中後疼痛の予後についての予測値を算出することで、リハビリテーションの効果や適否について、患者と医療従者に目安を提供可能な方法、及び、システムを提供することを課題とするものである。
【0012】
前記課題を解決するため、本願の請求項1に記載した発明は、
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の痛みの種類別の指数を示すNPI(NeuropathiCPain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するための方法であって、
x種類の個別の痛みごとの、
リハビリテーション前のNPI値をb(before)1~bxとし、
リハビリテーション前のNRS値をPb(Pain before)とし、
リハビリテーション後のNRS値をPa(Pain after)とし、
対照患者Cの総数をn人としたときの、i番目の対照患者C(i)の、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記PbをCPb(i)とし、
前記PaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとし、
リハビリテーション前のNRS値をNPbとし、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度をSim(i)とした場合において、
すべての対照患者Cの前記Sim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(all)を
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出する方法である。
【0013】
痛みの種類別の指数を示すNPI(NeuropathiCPain Inventory)値は、神経障害性疼痛(NP)の重症度を評価するために用いられる、神経障害性疼痛重症度評価ツール(NeuropathiCPain Symptom Inventory)を用いた患者へのアンケート調査から得られる指数であり、たとえば、
図1に示すように「Q1 焼け付くような痛み」から「Q10 ピリピリと痺れるような痛み」までの10種類の痛みのそれぞれについて、患者に「0 痛みがない」から「10 想像できる最大の痛み」までの11段階のいずれかで答えて貰って得られる指数である。なお、神経障害性疼痛の評価ツールには幾つかの種類があり、設問対象とする痛みの種類やその数はツールによって異なるため、痛みの種類は必ずしも10個に限られるものではない。
【0014】
一方、NRS値は、痛みの種類を特に問わずに、患者に全体的な痛みの程度を、やはり11段階(0~10)で主観的に選んで貰って得られる指数である。本発明では、リハビリテーション実施済の対照患者Cとリハビリテーション実施前の新規患者Nのリハビリテーション実施前の痛みの種類別の指数を示すNPI値の類似度と、対照患者Cのリハビリテーション実施前後のNRS値の比率(改善度)とから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出し、これをリハビリテーション実施前のNRS値と比較することで、リハビリテーション実施の適否や改善の期待度を判断する目安(判断基準)とするものである。
【0015】
前述のように、脳の損傷領域と痛みの種類との間に相関関係が認められることから、痛みの種類ごとのNPI値の傾向が類似している脳卒中患者は、その症因も近似していることが推定でき、症因が近似していればリハビリテーションの効果(リハビリテーション前後のNRS値の比率)にも一定の相関関係が存在することが期待される。
【0016】
一方、個々の種類の痛みと全体的な痛みの程度とが相関するわけではなく、必ずしも複数種類の痛みの総和が全体的な痛みの程度に反映されるものでもない。患者によっては、個別の種類の痛みのNPI値がいずれも小さいにも関わらずNRS値が大きく示される場合があるし、逆に、極端に高いNPI値を示す痛みがあるにも関わらず、NRS値がさほど高く示されない場合や、NPI値が0でないにも関わらずNRS値が1以上となる場合もあり、これらはNPI値、NRS値のいずれもが、あくまで患者の主観的な認知による指数である以上、当然といえる。
【0017】
そこで本発明の請求項1に係る方法では、対照患者群Cの患者のリハビリテーション前のNPI値と、新規患者Nのリハビリテーション前のNPI値を、それぞれ痛みの種類の数の次元数のベクトルに置き換えて、すべての対照患者Cと新規患者Nのリハビリテーション前のベクトル同士の類似度と、対照患者CのNRS値のリハビリテーション前後の変化率とから算出した係数を新規患者Nのリハビリテーション前のNRS値に乗じることで、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するように構成している。
【0018】
なお、NPI値をベクトルとして類似度を算出する方法にはコサイン類似度を採用している。コサイン類似度の計算は、cos(θ) = A・B / (||A|| ||B||) の公式により行うが、ここで、A・BはベクトルAとベクトルBのドット積(内積)、||A||と||B||はそれぞれベクトルAとベクトルBの大きさ(ノルム)を示している。
【0019】
コサイン類似度は、主に高次元データの取り扱いに使用される類似度の計算手法であり、文書間の類似性の計算などの自然言語処理に適している、計算結果がベクトルの大さに影響されない、といった特徴がある。そのため、回答者(患者)の主観に基づく指数であるNPI値のように、人によって数値のばらつきの大きなデータの類似度の計算に適していると考えられる。ただし、類似度の算出方法はコサイン類似度に限られるものではなく、同様の特徴を有する他の計算方法の採用を排除するものではない。
【0020】
次に、本願の請求項2に記載した発明は、
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、痛みの種類別の指数を示すNPI(NeuropathiCPain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するための方法であって、
x種類の個別の痛みごとの、
リハビリテーション前のNPI値をb(before)1~bxとし、
リハビリテーション前のNRS値をPb(Pain before)とし、
リハビリテーション後のNRS値をPa(Pain after)とし、
対照患者Cの総数をn人としたときの、i番目の対照患者C(i)の、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記PbをCPb(i)とし、
前記PaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとし、
リハビリテーション前のNRS値をNPbとし、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度をSim(i)とし、
さらに、
前記Sim(i)が上位である対照患者Cを絞り込む比率としての任意の値をxとして、
標準正規分布表のxに対応する値を基準Z値zとした場合において、
すべての対照患者Cの前記CVb(i)と前記NVbとの類似度Sim(i=1~n)の平均値であるSim(ave)と標準偏差とを計算する第1ステップと、
前記Sim(ave)と標準偏差とからzに該当する基準類似度SimZを算出して、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者c(人数はm人)を抽出する第2ステップと、
対照患者c(i)(i=1~m)の前記Sim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(lim)を
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出する第3ステップと、
からなる方法である。
【0021】
請求項2に記載の発明に係るリハビリテーション後のNRS値の予測値算出の方法は、すべての対照患者群Cの中から、任意の値xによってリハビリテーション前のNPI値のベクトルの類似度が新規患者Nと近い上位の対照患者cを抽出した上で、請求項1に記載の発明と同じ方法により予測値を算出する方法である。
【0022】
NPI値は、患者の主観的な回答に基づく指数であるものの、前述のとおり、脳の損傷領域と痛みの種類との間に相関関係が認められることを踏まえれば、リハビリテーションの効果についても一定の相関関係が期待できる。そのため、対照患者群Cの数が十分に大きい場合には、予測値算出のために使用するデータを、リハビリテーション前のNPI値のベクトルが新規患者Nと類似度の大きな対照患者cのデータのみに絞り込むことで、より精度の高い予測値の算出が可能となる。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のリハビリテーション後のNRS値の予測値算出の方法であって、前記第2ステップにおいて抽出したSimZ以上のSim(i)を有する対照患者cのうち、Sim(i)が最も小さな対照患者のSim(i)について、
θ(i)=10*[1-cos-1(Sim(i))/ (π/2)]
の数式により算出したθ(i)の値を、前記NPa(lim)の信頼度としたこと、を特徴とする。
【0024】
本発明では、請求項2に記載の予測値算出方法で絞り込んだ対照患者cのうち、最も類似度が小さい対照患者の類似度を上記の式で信頼度に変換することにより、算出した予測値に最低でも前記θの値の信頼度が見込めることを示し、新規患者Nへのリハビリテーションの適否判断の目安とするものである。
【0025】
次に、請求項4に係る発明は、
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、痛みの種類別の指数を示すNPI(NeuropathiCPain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、
前記システムは、少なくともデータベースと、情報処理装置と、ソフトウェアと、入出力端末とからなり、
前記データベースは、少なくとも
総数n人の前記対照患者Cのそれぞれについての、
リハビリテーション前のNPI値であるCb(before)1~bxと、
リハビリテーション前のNRS値であるCPb(Pain before)と、
リハビリテーション後のNRS値であるCPa(Pain after)と
を記憶しており、
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記入出力端末からの、
新規患者N(new patient)の、
リハビリテーション前のNPI値であるNb(before)1~Nbxと、
リハビリテーション前のNRS値であるNPb(Pain before)
の入力を受けて、
i番目の対照患者C(i)の、
前記Cb1~Cbxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記CPbをCPb(i)とし、
前記CPaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記Nb1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとして、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度Sim(i)を算出し、
すべての対照患者CのSim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(all)を
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出して、前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とする。
【0026】
また、請求項5に係る発明は、
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、痛みの種類別の指数を示すNPI(NeuropathiCPain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、
前記システムは、少なくともデータベースと、情報処理装置と、ソフトウェアと、入出力端末とからなり、
前記データベースは、少なくとも
総数n人の前記対照患者Cのそれぞれについての、
リハビリテーション前のNPI値であるCb(before)1~bxと、
リハビリテーション前のNRS値であるCPb(Pain before)と、
リハビリテーション後のNRS値であるCPa(Pain after)と
を記憶しており、
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記入出力端末からの、
新規患者N(new patient)の、
リハビリテーション前のNPI値であるNb(before)1~Nbxと、
リハビリテーション前のNRS値であるNPb(Pain before)
の入力を受けて、
i番目の対照患者C(i)の、
前記Cb1~Cbxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記CPbをCPb(i)とし、
前記CPaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記Nb1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとして、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度Sim(i)を算出し、
さらに、
前記入出力端末からの前記Sim(i)が上位である対照患者Cを絞り込む比率としての任意の値であるxの入力を受けて、
標準正規分布表のxに対応する値を基準Z値zとし、
すべての対照患者Cの前記CVb(i)と前記NVbとの類似度Sim(i=1~n)の平均値であるSim(ave)と標準偏差とを計算し、
前記Sim(ave)と標準偏差とからzに該当する基準類似度SimZを算出して、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者c(人数はm人)を抽出し、
対照患者c(i)(i=1~m)の前記Sim(i)と前記NPbとから、
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(lim)を算出して、
前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とする。
【0027】
最後に、請求項6に係る発明は、
請求項5に記載の新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記SimZ以上のSim(i)を有する対照患者cのうち、Sim(i)が最も小さい対象患者のSim(i)について、
θ(i)=10*[1-cos-1(Sim(i))/ (π/2)]
の数式により算出したθ(i)の値を前記NVa(lim)の信頼度として、
前記入出力端末から出力可能としたこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る方法、及び、該方法を実装したシステムによれば、脳卒中後疼痛を訴える新規患者へのリハビリテーション実施に先立ち、理学療法士等の医療従事者にリハビリテーションの効果についての予測値を提供することができる。これにより、従来は医療従事者の経験や患者の訴えのみを頼りに行っていたリハビリテーションの適否の判断や計画立案に数値的な裏付けを提供することが可能となり、適切な療法の選択による治療効果の向上や、患者及び医療従事者の負担軽減が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る、新規の脳卒中患者のリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出する方法を実行可能なシステムの実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0030】
図2は、本発明の一つの実施形態に係るシステム(以下、「本システム1」という。)のシステム構成図である。本システム1は、大きく分けて、本発明に係るNRS値の予測値を算出する方法を実行可能なソフトウェアSを実装した情報処理装置Pと、データベースDと、入出力端末Tとからなり、相互にデータ通信を可能としている。ただし、これらのシステム構成は例示であり、各構成が物理的に独立しているものに限られない。たとえば、情報処理装置Pと入出力端末Tが情報処理端末として一体化しており、インストールされたソフトウェアSがネットワーク回線を通じてデータベースDと通信可能に構成してもよいし、サーバ内に情報処理装置P及びデータベースDを設け、入出力端末Tからネットワーク回線を通じてソフトウェアSを実行可能とするASP方式に構成してもよい。
【0031】
図3は、実施形態に係る本システム1のデータベース内のデータ構成を例示したものである。データベースDには、対照患者C(総数をn人とする)の一人ひとりについて、アンケート調査(本実施形態では、聴き取り対象の痛みの種類を10種類としている。)で得たリハビリテーション実施前の10個のNPI値の数列からなる10次元ベクトル(CVb)と、リハビリテーション実施前後のNRS値(CPa、CPb)の、合計12個のデータが記憶されている。
【0032】
図4及び
図5は、本発明に係るシステムにおけるデータの入出力及び処理の概略のフローを示したものである。また、
図6は、本願発明の請求項4に係る本システム1の第一実施形態におけるデータ処理の工程を、より詳細なステップに細分して説明したフローチャートである。
【0033】
(第一実施形態)
第一実施形態に係る本システム1は、
図4に示すように、入出力端末Tから、特定の新規患者Nに対するリハビリテーション実施前のNPI値の数列からなる10次元ベクトルNVb、及び、同じくリハビリテーション実施前のNRS値NPbを、入出力端末Tから情報処理装置Pへと入力することにより、ソフトウェアSが、データベースDに記憶された対象患者群Cのデータ(CVb、CPa、CPb)を参照し、すべての対照患者Cのデータに基づいて計算した新規患者Nのリハビリテーション実施後のNRS値であるNPa(all) を算出して、入出力端末Tに出力可能としている。なお、以下では、対照患者Cの総数はn人としている。
【0034】
図6では、最初に、「10 システム起動・初期化」のフローでは、ステップ101においてシステム起動を行うと、ステップ102において、それ以前のデータ処理において設定された全変数が初期化され、新たなデータ処理のフローを開始する。
【0035】
まず、「11 対照患者データ読込」のフローでは、ステップ111において、データベースD内のn人の対照患者Cの12×n個のデータであるCVb、及び、CPb、CPaを順に読み込んで、それぞれ参照値(1)~参照値(12n)とする。たとえば、i番目の対照患者C(i)のCVb(i)は、リハビリテーション実施前の10個のNPI値(b1~b10)と、リハビリテーション実施前後のNRS値であるCPb(i)、CPa(i)の合計12個の値である。このとき、たとえば参照値(1)は、対照患者Cのi番目の患者のb1を表し、参照値(12n)は、n番目の患者のCPaを表している。
【0036】
次に、ステップ112において、i=1、2、3・・・nとした場合に、すべての対照患者Cの参照値(1+12(i-1))から参照値(10+12(i-1))までの数列をCVb(i)とする。このCVb(i)は、i番目の対照患者のNPI値を成分要素とするベクトルを表している。上記の数値操作は、n人×12個の値の中から、i番目の対照患者(i)のデータを特定するためのものである。
【0037】
次に、ステップ113で、i番目の対照患者Cのリハビリテーション開始前のNRS値である参照値(11+12(i-1))が「0」であるか否かを判断する。「0」でない場合は、ステップ115で、リハビリテーション実施後のNRS値である参照値(12+12(i-1))を当該参照値(11+(12i-1)で除してNRS比(i)とする。一方、参照値(12i-1)が「0」の場合は、ステップ114でこれを「1」とした上で、ステップ115でNRS比(i)を算出する。このNRS比(i)は、i番目の対照患者(i)のリハビリテーション前後のNRS値の変化、すなわち、痛みの改善度合いを示す。なお、ステップ113及び114の工程は、前述のように対照患者Cの中には、NPI値のいずれかが「1」以上であるにも関わらず、NRS値を「0」と回答するケースも存在する場合があるため、主観的回答によるかかる一見不合理な指数を補正するためのものである。
【0038】
次に、ステップ116では、数式
により計算を行い、ベクトルサイズ(i)を算出する。ベクトルサイズ(i)は前記10次元ベクトルCVb(i)の大きさを示す。ここで「a」は、i番目の対照患者(i)へのアンケート調査で得たNPI値の順番を表す。以上で「11 参照患者データ読込」のフローは終了し、「12 新規患データ入力」のフローへと進む。
【0039】
次に、「12 新規患者データ入力」のフローでは、ステップ121において、入出力端末Tから新規患者NのNVb(NVbはリハビリテーション実施前のアンケート調査で得た10個のNPI値(b1~b10)である。)及びNPb(NRS値)の、合計11個の値を入力する。
【0040】
次に、「13 NPa(all)算出」のフローに進む。ステップ131では、ステップ121で入力されたデータのうち、NVb(10個のNPI値)を入力値(1)~入力値(10)とし、NRS値であるNPbを入力値(11)とする。
【0041】
次に、ステップ132では、入力値(1)~入力値(11)の数列をDS(n+1)として、ステップ133において、数式
により計算を行い、計算結果をベクトルサイズ(n+1)とする。
【0042】
次に、ステップ134では、ベクトルサイズ(i)及び、ベクトルサイズ(n+1)の値が「0」か否かを判断する。前述のとおり、ベクトルサイズ(i)はi番目の対照患者Cのリハビリテーション実施前のNPI値を10次元ベクトルとしたCVb(i)の大きさであり、ベクトルサイズ(n+1)は新規患者Nの、やはりリハビリテーション実施前のNPI値を10次元ベクトルとしたNVbの大きさである。ここで、ベクトルサイズ(i)とベクトルサイズ(n+1)が共に「0」でない場合は、ベクトル同士の類似度が計算可能であるので、両者のコサイン類似度をSim(i)とすることができる。一方、共に「0」である場合は両者の間に違いはないので、コサイン類似度Sim(i)=1 とする。そして、いずれか一方のみが「0」である場合は、ベクトル同士の類似度は計算不能であるため、コサイン類似度Sim(i)=0 とする。
【0043】
次に、ステップ135では、数式
により、データベース内のすべての対照患者C(n人)のCVbと新規患者NのNVbのベクトル同士の類似度を合算したSim合計を算出し、さらに、次のステップ136において、数式
によりNRS比(all)を算出する。この計算によって得たNRS比(all)が、すべての対照患者C(n人)のCVbと新規患者NのNVbとの類似度に基づくNRSの改善度合いを予測する係数となる。そして、最後のステップ137で、新規患者Nのリハビリテーション前のNRS値であるNPbにNRS比(all)を乗じることで、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値であるNPa(all)が得られる。
【0044】
なお、NRS値は「1」~「10」の整数の指数であるため、本実施形態ではここで得られた予測値の小数点以下を四捨五入して整数化し、また、11以上の予測値が算出された場合はこれを「10」とした上で、「14 NPa(all)出力」において、入出力端末TからNPa(all)を出力して処理を完了する。以上のデータ処理を統合した数式が
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
である。
【0045】
(第二実施形態)
図7から
図8にかけては、請求項5及び請求項6に係る本システムの第二実施形態におけるデータ処理の工程を、より詳細なステップに細分して説明したフローチャートである。なお、
図7に示した工程「20 システム起動・初期化」から工程「23 NPa(all)算出」までは、基本的に、
図5に示した第一実施形態のフローチャートと同じであるため、詳細な説明は割愛する。
【0046】
第二実施形態に係る本システムでは、対照患者C(n人)のうち、新規患者NとNPI値から得られる10次元ベクトルのコサイン類似度が大きな上位の患者(m人)に絞り込む処理を行った上で、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値NPa(lim)を計算する。これに新規患者NのNRS値であるNPbを乗じることで、より精度の高いリハビリテーション実施後のNRS値であるNPa(lim)を算出し、さらに、該NPa(lim)の信頼度も算出する。
【0047】
第二実施形態では、
図7のフローチャートの最後のステップ237で新規患者NのNPa(all)を算出した後、続いて
図8のフローチャートに進み、工程「24 x値入力」のステップ241において、入出力端末Tから、任意の変数xを入力する。変数xは、対照患者C(n人)のうち、リハビリテーション実施前のNPI値からなる10次元ベクトルであるCVbとNVbのコサイン類似度であるSim(i)が大きい順の上位x%の患者(m人)に絞り込むための係数である。
【0048】
次に、「25 NPa(lim)算出」の工程に進む。ステップ251では、変数xに対応するZ値を標準正規分布表から探し、これを「基準Z値z」とする。Z値とは、平均値からの距離を標準偏差の倍数で表した単位のことで、統計において、個々のデータが全体の平均からどの程度離れているかを示す尺度である。
【0049】
次に、ステップ252では、Sim合計/nをSim(ave)とし、ステップ253において、数式
によってSim標準偏差を算出する。
【0050】
次に、ステップ254において、z×Sim標準偏差+Sim(ave)を基準類似度SimZとする。その後、ステップ255において、Sim(i)-SimZが「0」以上であるか否かを判断し、「yes(0以上)」である場合は、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者C(人数はm人)を抽出する。この「m」は、SimZ以上の類似度を持つ対照患者Cの人数を示すための整数である。
【0051】
ここで「m=m+1」とし、Sim上位(m)=Sim(i)とし、NRS比上位(m)=NRS比(i)した上で、Sim上位(m)-Sim上位最低が「0」以下であるかを判断し、「yes(0以下)」である場合は、Sim上位(m)=Sim上位最低とする。ちなみに、変数の初期設定において、Sim上位(i)=0(i=1,2…n)であり、Sim上位最低(SimZ以上のSim(i)の中で最も小さいSim(i)の値)=1である。また、NRS比上位(i)=0(i=1,2…m)となる。すなわち、おのおのn個用意したSim上位(i)とNRS比上位(i)のうち、本ステップ255以降の計算で使用するのはSimZ以上の類似度を有する対照患者Cの人数分だけであることを意味している。なお、ステップ255内の2つの分岐において「no」の場合は、特になにもしない。
【0052】
次に、ステップ256では、数式
により、抽出された基準類似度以上の類似度を有する対照患者Cの全員についてのSim上位要素(i)を合算してSim上位合計とし、ステップ257において、数式
により、NRS比(lim)を計算する。「NRS比上位」は、ステップ236にてすべての対照患者Cについてリハビリテーション前後のNRS値の比率(すなわち痛みの改善度合い)NRS(all)を算出したのと同じ計算を、抽出された基準類似度以上の類似度を有する対照患者Cについて行うものである。
【0053】
そして、第一実施形態と同様に、ステップ258において、新規患者Nの入力値(11)すなわちリハビリテーション実施前のNRS値にNRS比上位を乗じることで、抽出された類似度の高い対照患者Cのデータに基づく新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値であるNPa(lim)が算出される。なお、NRS値は「1」~「10」の整数の指数であるため、第一実施形態と同様に、得られた予測値の小数点以下を四捨五入して整数化し、また、11以上の予測値が算出された場合はこれを「10」とし、処理を完了する。以上の第二実施形態におけるデータ処理を統合した数式が
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
である。
【0054】
次に、「26 NPa(lim)の信頼度算出」のフローに進む。ステップ261では、数式
により、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値であるNPa(lim)の信頼度の下限値を算出する。ここで「Sim上位最低」とは、ステップ255において算出した「Sim上位最低」、すなわち、SimZ以上のSim(i)の中で最も小さいSim(i)の値を、NPa(lim)の信頼度に変換した値である。この値は「0」から「10」までの値を取り得るが、数値が大きいほど信頼性が高くなる。
【0055】
最後に、「27 NPa(all)、NPa(lim)、NPa(lim)の信頼度出力」では、以上までのフローで算出したNPa(all)、NPa(lim)、及び、NPa(lim)の信頼度の下限値の各数値を、入出力端末Tにまとめて出力表示し、第二実施形態に係るシステムの全工程を終了する。
【0056】
理学療法士等の医療従事者は、新規患者Nについて本システムで算出したNPa(lim)の値が同患者のリハビリテーション実施前のNRS値よりも大きい場合には、リハビリテーションの効果が期待できず、むしろ悪化させる可能性があると判断して、リハビリテーションを行わずに他の療法を選択することができる。逆に、リハビリテーション実施前のNRS値よりも十分に小さなNPa(lim)が算出され、しかも、信頼度の下限値が高い場合には、リハビリテーションに効果が期待できると判断して、実施を選択することができる。
【0057】
以上、本発明に係る新規の脳卒中患者のリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するシステムの具体的な構成について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内において改良又は変更が可能であり、それらは本発明の技術的範囲に属するものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る方法を実行可能なシステムによれば、医師や理学療法士等の医療従事者が、脳卒中性疼痛を訴える新規患者への治療に先立って、リハビリテーションによる治療の効果の予測値を計算することができ、リハビリテーション実施の可否についての判断の一定の目安を得ることができる。そのため、リハビリテーションの実施における患者と医療従事者の心理的な不安や負担を低減でき、また、リハビリテーションの効果が期待できない新規患者への不要な負担を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】神経障害性疼痛重症度評価ツールのアンケート項目
【
図4】第一実施形態に係る本システムのデータ処理工程の概略フロー
【
図5】第二実施形態に係る本システムのデータ処理工程の概略フロー
【
図6】第一実施形態に係る本システムのデータ処理工程の詳細フローチャート
【
図7】第二実施形態に係る本システムのデータ処理工程の詳細フローチャート(前半)
【
図8】第二実施形態に係る本システムのデータ処理工程の詳細フローチャート(後半)
【符号の説明】
【0060】
D データベース
P 情報処理装置
S ソフトウェア
T 入出力端末
【手続補正書】
【提出日】2023-09-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、
痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのソフトウェアによる情報処理方法であって、
少なくともデータベースと、入出力端末とに接続された情報処理装置に実装されたソフトウェアにおいて、
データベースに予め記憶された、対照患者Cのx種類の個別の痛みごとの、
リハビリテーション前のNPI値であるb(before)1~bxと
リハビリテーション前のNRS値であるPb(Pain before)と
リハビリテーション後のNRS値であるPa(Pain after)とから、
対照患者Cの総数をn人としたときの、i番目の対照患者C(i)の、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記PbをCPb(i)とし、
前記PaをCPa(i)とし、
入出力端末から入力された新規患者Nの、
b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとし、
リハビリテーション前のNRS値をNPbとし、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度をSim(i)とする処理を行った上で、
すべての対照患者Cの前記Sim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(all)を
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出し、入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とするソフトウェアによる情報処理方法。
【請求項2】
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、
痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのソフトウェアによる情報処理方法であって、
少なくともデータベースと、入出力端末とに接続された情報処理装置に実装されたソフトウェアにおいて、
データベースに予め記憶された、対照患者Cのx種類の個別の痛みごとの、
リハビリテーション前のNPI値であるb(before)1~bxと
リハビリテーション前のNRS値であるPb(Pain before)と
リハビリテーション後のNRS値であるPa(Pain after)とから、
対照患者Cの総数をn人としたときの、i番目の対照患者C(i)の、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記PbをCPb(i)とし、
前記PaをCPa(i)とし、
入出力端末から入力された新規患者Nの、
b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとし、
リハビリテーション前のNRS値をNPbとし、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度をSim(i)とする処理を行った上で、
さらに、
前記Sim(i)が上位である対照患者Cを絞り込む比率として入出力端末から入力された任意の値をxとして、
標準正規分布表のxに対応する値を基準Z値zとした場合において、
すべての対照患者Cの前記CVb(i)と前記NVbとの類似度Sim(i=1~n)の平均値であるSim(ave)と標準偏差とを計算する第1ステップと、
前記Sim(ave)と標準偏差とからzに該当する基準類似度SimZを算出して、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者c(人数はm人)を抽出する第2ステップと、
対照患者c(i)(i=1~m)の前記Sim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(lim)を
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出する第3ステップと、
によりNPa(lim)を算出し、入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とするソフトウェアによる情報処理方法。
【請求項3】
前記第2ステップにおいて抽出したSimZ以上のSim(i)を有する対照患者cのうち、Sim(i)が最も小さな対照患者のSim(i)について、
θ(i)=10*[1-cos-1(Sim(i))/ (π/2)]
の数式により算出したθ(i)の値を、前記NPa(lim)の信頼度として入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とする請求項2に記載のソフトウェアによる情報処理方法。
【請求項4】
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、
前記システムは、少なくともデータベースと、情報処理装置と、ソフトウェアと、入出力端末とからなり、
前記データベースは、少なくとも
総数n人の前記対照患者Cのそれぞれについての、
リハビリテーション前のNPI値であるCb(before)1~bxと、
リハビリテーション前のNRS値であるCPb(Pain before)と、
リハビリテーション後のNRS値であるCPa(Pain after)と
を記憶しており、
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記入出力端末からの、
新規患者N(new patient)の、
リハビリテーション前のNPI値であるNb(before)1~Nbxと、
リハビリテーション前のNRS値であるNPb(Pain before)
の入力を受けて、
i番目の対照患者C(i)の、
前記Cb1~Cbxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記CPbをCPb(i)とし、
前記CPaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記Nb1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとして、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度Sim(i)を算出し、
すべての対照患者CのSim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(all)を
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出して、前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とするシステム。
【請求項5】
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、
前記システムは、少なくともデータベースと、情報処理装置と、ソフトウェアと、入出力端末とからなり、
前記データベースは、少なくとも
総数n人の前記対照患者Cのそれぞれについての、
リハビリテーション前のNPI値であるCb(before)1~bxと、
リハビリテーション前のNRS値であるCPb(Pain before)と、
リハビリテーション後のNRS値であるCPa(Pain after)と
を記憶しており、
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記入出力端末からの、
新規患者N(new patient)の、
リハビリテーション前のNPI値であるNb(before)1~Nbxと、
リハビリテーション前のNRS値であるNPb(Pain before)
の入力を受けて、
i番目の対照患者C(i)の、
前記Cb1~Cbxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記CPbをCPb(i)とし、
前記CPaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記Nb1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとして、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度Sim(i)を算出し、
さらに、
前記入出力端末からの前記Sim(i)が上位である対照患者Cを絞り込む比率としての任意の値であるxの入力を受けて、
標準正規分布表のxに対応する値を基準Z値zとし、
すべての対照患者Cの前記CVb(i)と前記NVbとの類似度Sim(i=1~n)の平均値であるSim(ave)と標準偏差とを計算し、
前記Sim(ave)と標準偏差とからzに該当する基準類似度SimZを算出して、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者c(人数はm人)を抽出し、
対照患者c(i)(i=1~m)の前記Sim(i)と前記NPbとから、
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(lim)を算出して、
前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とするシステム。
【請求項6】
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記SimZ以上のSim(i)を有する対照患者cのうち、Sim(i)が最も小さい対象患者のSim(i)について、
θ(i)=10*[1-cos-1(Sim(i))/ (π/2)]
の数式により算出したθ(i)の値を前記NVa(lim)の信頼度として、
前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とする、
請求項5に記載の新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳卒中患者の予後の身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するための方法、及び、システムに関する。より詳細には、過去にリハビリテーションを実施済の対照患者群へのアンケート調査による、リハビリテーション実施前の身体の痛みを主観的に指数化させた回答データと、リハビリテーション実施前の新規患者の同様の回答データとの類似度に基づき、新規患者のリハビリテーション実施後の総合的な痛みの指数の予測値を算出することで、患者にとって負担の大きなリハビリテーションの実施の適否を検討する際の目安を、理学療法士等の医療従事者に提供可能とするための方法、及び、システムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中を発症すると、後遺症として運動麻痺が出現するほか、「痛み(=脳卒中後疼痛)」が生じることがあり、これが運動麻痺のリハビリテーションにとっての障害となる場合が多い。そのため、脳卒中後疼痛を緩和させるためのリハビリテーションも重要となる。
【0003】
一般的なリハビリテーションの基本的な手続では、症例(患者)に出現している症状を評価して、それぞれの症状の予後を推定し、これに基づいて最も適切なリハビリテーションのブログラムを立案して計画的に実行する必要がある。しかし、脳卒中後に出現する痛みのリハビリテーションの場合、患者ごとに予後が大きく異なるため、理学療法士等の医療従事者も、過去の経験と新規患者の主観的な痛みの訴えに基づいて、手探りでリハビリプログラムを立案しているのが現状である。
【0004】
また、身体の痛みを改善するための療法としては、第一にリハビリテーションを中心とする理学療法、第二に神経作用薬物による薬物療法、第三に手術等の外科的手法があるが、リハビリテーションは患者の負担も大きいため、効果が期待できない場合は、薬物療法や外科的手法を選択することが望ましい。そのため、新規患者について、事前にリハビリテーションの効果や実施の適否について、ある程度の目安が得られれば、患者と医療機関の双方にとって極めて有益である。
【0005】
ここで、人間が感じる身体の痛みを把握・分析するための先行技術としては、特許文献1に開示されている「トレンド分析を利用した痛みの判別」のような、患者の脳波に基づいて疼痛をモニターして判別するモデルを生成する方法が提案されている。また、患者の症状や状態に応じて適切なリハビリテーションの計画を提供するための先行技術としては、特許文献2に開示されている「リハビリテーション取り組み提案方法」などが提案されている。しかし、前者は、対象患者の生体信号のトレンド分析を利用して疼痛の質及び量を客観的に判別可能とするものではあるものの、リハビリテーションの効果や適否の予測を提供するものではない。また、後者も、対象患者の身体の現状とリハビリテーションの希望についての情報を入力することで、適切なリハビリテーション計画を提供可能とするものではあるものの、やはり、リハビリテーション自体の効果や適否の予測を提供するものではない。
【特許文献1】再公表特許公報第2019/009420号
【特許文献2】特開2022-87965号公開公報
【0006】
脳卒中後疼痛の予後は、痛みが出現している背景にある個々の病態によって左右される。過去の研究では、脳の損傷部位を特定する脳画像解析データ、痛覚経路の異常所見を明確にする電気生理学的データなどが、脳卒中後疼痛の予後を推定する材料になると考えられてきた。例えば、視床枕という脳領域の損傷があって、痛覚刺激によって出現する脳電位の振幅低下が組み合わさると、87%の確率で脳卒中後疼痛の予後が悪いことが報告されている(Vartiainen N et al. Brain. 2016)。
【0007】
このような臨床評価およびデータ解析によれば脳卒中後疼痛の予後を推定できる可能性はあるが、このような大掛かりな臨床評価を多忙なリハビリテーションの現場で実行することは現実的には不可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、患部や病因の特定が難しい脳卒中後の身体の痛みについて、これまでは、客観的な生理学的データを重視して、その判別や解析が試みられてきたが、その原因特定は容易ではなく、まして、新たな患者に対するリハビリテーションの効果の予測や適否については、目安を提供することすら困難であるのが実情であった。
【0009】
一方、脳卒中後疼痛では、「ひきつるような」、「灼けるような」といった多岐にわたる痛みの性質が日常的に訴えられている。しかし、リハビリテーションの現場では、これまで「主観は当てにならない」という理由で、このような主訴は、患者とのコミュニケーションを成立させるためだけの傾聴に留まっていた。
【0010】
ただ、過去の研究を振り返ると、脳の損傷領域によって痛みの性質が異なっていることや(Klit H et al. Pain.2011)、筋肉や関節のトラブルに特異的な痛みの性質が存在することが伺える(Choi-Kwon S et al. Acta Neurol Scand. 2017 Apr;135(4):419-425.)。このように、主観データと病態メカニズムとの間に相関関係が存在しているとするならば、この主観データを活かして脳卒中後疼痛の予後を推定することも可能ではないかと考えられる。
【0011】
本発明は、かかる観点から、リハビリテーション実施済みの患者が訴える、リハビリテーション前の痛みの性質と程度という主観的データを蓄積しておき、リハビリテーション実施前の新規患者の主観的データとの類似度についての統計的処理によって、脳卒中後疼痛の予後についての予測値を算出することで、リハビリテーションの効果や適否について、患者と医療従者に目安を提供可能なソフトウェアによる情報処理方法、及び、システムを提供することを課題とするものである。
【0012】
前記課題を解決するため、本願の請求項1に記載した発明は、
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、
痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのソフトウェアによる情報処理方法であって、
少なくともデータベースと、入出力端末とに接続された情報処理装置に実装されたソフトウェアにおいて、
データベースに予め記憶された、対照患者Cのx種類の個別の痛みごとの、
リハビリテーション前のNPI値であるb(before)1~bxと
リハビリテーション前のNRS値であるPb(Pain before)と
リハビリテーション後のNRS値であるPa(Pain after)とから、
対照患者Cの総数をn人としたときの、i番目の対照患者C(i)の、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記PbをCPb(i)とし、
前記PaをCPa(i)とし、
入出力端末から入力された新規患者Nの、
b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとし、
リハビリテーション前のNRS値をNPbとし、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度をSim(i)とする処理を行った上で、
すべての対照患者Cの前記Sim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(all)を
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出し、入出力端末から出力可能としたこと、を特徴とする。
【0013】
痛みの種類別の指数を示すNPI(NeuropathiCPain Inventory)値は、神経障害性疼痛(NP)の重症度を評価するために用いられる、神経障害性疼痛重症度評価ツール(NeuropathiCPain Symptom Inventory)を用いた患者へのアンケート調査から得られる指数であり、たとえば、
図1に示すように「Q1 焼け付くような痛み」から「Q10 ピリピリと痺れるような痛み」までの10種類の痛みのそれぞれについて、患者に「0 痛みがない」から「10 想像できる最大の痛み」までの11段階のいずれかで答えて貰って得られる指数である。なお、神経障害性疼痛の評価ツールには幾つかの種類があり、設問対象とする痛みの種類やその数はツールによって異なるため、痛みの種類は必ずしも10個に限られるものではない。
【0014】
一方、NRS値は、痛みの種類を特に問わずに、患者に全体的な痛みの程度を、やはり11段階(0~10)で主観的に選んで貰って得られる指数である。本発明では、リハビリテーション実施済の対照患者Cとリハビリテーション実施前の新規患者Nのリハビリテーション実施前の痛みの種類別の指数を示すNPI値の類似度と、対照患者Cのリハビリテーション実施前後のNRS値の比率(改善度)とから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出し、これをリハビリテーション実施前のNRS値と比較することで、リハビリテーション実施の適否や改善の期待度を判断する目安(判断基準)とするものである。
【0015】
前述のように、脳の損傷領域と痛みの種類との間に相関関係が認められることから、痛みの種類ごとのNPI値の傾向が類似している脳卒中患者は、その症因も近似していることが推定でき、症因が近似していればリハビリテーションの効果(リハビリテーション前後のNRS値の比率)にも一定の相関関係が存在することが期待される。
【0016】
一方、個々の種類の痛みと全体的な痛みの程度とが相関するわけではなく、必ずしも複数種類の痛みの総和が全体的な痛みの程度に反映されるものでもない。患者によっては、個別の種類の痛みのNPI値がいずれも小さいにも関わらずNRS値が大きく示される場合があるし、逆に、極端に高いNPI値を示す痛みがあるにも関わらず、NRS値がさほど高く示されない場合や、NPI値が0でないにも関わらずNRS値が1以上となる場合もあり、これらはNPI値、NRS値のいずれもが、あくまで患者の主観的な認知による指数である以上、当然といえる。
【0017】
そこで本発明の請求項1に係るソフトウェアによる情報処理方法では、対照患者群Cの患者のリハビリテーション前のNPI値と、新規患者Nのリハビリテーション前のNPI値を、それぞれ痛みの種類の数の次元数のベクトルに置き換えて、すべての対照患者Cと新規患者Nのリハビリテーション前のベクトル同士の類似度と、対照患者CのNRS値のリハビリテーション前後の変化率とから算出した係数を新規患者Nのリハビリテーション前のNRS値に乗じることで、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するように構成している。
【0018】
なお、NPI値をベクトルとして類似度を算出する方法にはコサイン類似度を採用している。コサイン類似度の計算は、cos(θ) = A・B / (||A|| ||B||) の公式により行うが、ここで、A・BはベクトルAとベクトルBのドット積(内積)、||A||と||B||はそれぞれベクトルAとベクトルBの大きさ(ノルム)を示している。
【0019】
コサイン類似度は、主に高次元データの取り扱いに使用される類似度の計算手法であり、文書間の類似性の計算などの自然言語処理に適している、計算結果がベクトルの大さに影響されない、といった特徴がある。そのため、回答者(患者)の主観に基づく指数であるNPI値のように、人によって数値のばらつきの大きなデータの類似度の計算に適していると考えられる。ただし、類似度の算出方法はコサイン類似度に限られるものではなく、同様の特徴を有する他の計算方法の採用を排除するものではない。
【0020】
次に、本願の請求項2に記載した発明は、
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、
リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、
痛みの種類別の指数を示すNPI(Neuropathic Pain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、
痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、
リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、
新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのソフトウェアによる情報処理方法であって、
少なくともデータベースと、入出力端末とに接続された情報処理装置に実装されたソフトウェアにおいて、
データベースに予め記憶された、対照患者Cのx種類の個別の痛みごとの、
リハビリテーション前のNPI値であるb(before)1~bxと
リハビリテーション前のNRS値であるPb(Pain before)と
リハビリテーション後のNRS値であるPa(Pain after)とから、
対照患者Cの総数をn人としたときの、i番目の対照患者C(i)の、
前記b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記PbをCPb(i)とし、
前記PaをCPa(i)とし、
入出力端末から入力された新規患者Nの、
b1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとし、
リハビリテーション前のNRS値をNPbとし、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度をSim(i)とする処理を行った上で、
さらに、
前記Sim(i)が上位である対照患者Cを絞り込む比率として入出力端末から入力された任意の値をxとして、
標準正規分布表のxに対応する値を基準Z値zとした場合において、
すべての対照患者Cの前記CVb(i)と前記NVbとの類似度Sim(i=1~n)の平均値であるSim(ave)と標準偏差とを計算する第1ステップと、
前記Sim(ave)と標準偏差とからzに該当する基準類似度SimZを算出して、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者c(人数はm人)を抽出する第2ステップと、
対照患者c(i)(i=1~m)の前記Sim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(lim)を
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出する第3ステップと、
によりNPa(lim)を算出し、入出力端末から出力可能としたこと、を特徴とするソフトウェアによる情報処理方法である。
【0021】
請求項2に記載の発明に係るリハビリテーション後のNRS値の予測値算出のソフトウェアによる情報処理方法は、すべての対照患者群Cの中から、任意の値xによってリハビリテーション前のNPI値のベクトルの類似度が新規患者Nと近い上位の対照患者cを抽出した上で、請求項1に記載の発明と同じ処理により予測値を算出し出力可能としている。
【0022】
NPI値は、患者の主観的な回答に基づく指数であるものの、前述のとおり、脳の損傷領域と痛みの種類との間に相関関係が認められることを踏まえれば、リハビリテーションの効果についても一定の相関関係が期待できる。そのため、対照患者群Cの数が十分に大きい場合には、予測値算出のために使用するデータを、リハビリテーション前のNPI値のベクトルが新規患者Nと類似度の大きな対照患者cのデータのみに絞り込むことで、より精度の高い予測値の算出が可能となる。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のリハビリテーション後のNRS値の予測値算出のソフトウェアによる情報処理方法であって、前記第2ステップにおいて抽出したSimZ以上のSim(i)を有する対照患者cのうち、Sim(i)が最も小さな対照患者のSim(i)について、
θ(i)=10*[1-cos-1(Sim(i))/ (π/2)]
の数式により算出したθ(i)の値を、前記NPa(lim)の信頼度として入出力端末から出力可能としたこと、を特徴とする。
【0024】
本発明では、請求項2に記載のソフトウェアによる情報処理の工程で絞り込んだ対照患者cのうち、最も類似度が小さい対照患者の類似度を上記の式で信頼度に変換することにより、算出した予測値に最低でも前記θの値の信頼度が見込めることを示し、新規患者Nへのリハビリテーションの適否判断の目安とするものである。
【0025】
次に、請求項4に係る発明は、
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、痛みの種類別の指数を示すNPI(NeuropathiCPain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、
前記システムは、少なくともデータベースと、情報処理装置と、ソフトウェアと、入出力端末とからなり、
前記データベースは、少なくとも
総数n人の前記対照患者Cのそれぞれについての、
リハビリテーション前のNPI値であるCb(before)1~bxと、
リハビリテーション前のNRS値であるCPb(Pain before)と、
リハビリテーション後のNRS値であるCPa(Pain after)と
を記憶しており、
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記入出力端末からの、
新規患者N(new patient)の、
リハビリテーション前のNPI値であるNb(before)1~Nbxと、
リハビリテーション前のNRS値であるNPb(Pain before)
の入力を受けて、
i番目の対照患者C(i)の、
前記Cb1~Cbxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記CPbをCPb(i)とし、
前記CPaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記Nb1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとして、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度Sim(i)を算出し、
すべての対照患者CのSim(i)と前記NPbとから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(all)を
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって算出して、前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とする。
【0026】
また、請求項5に係る発明は、
脳卒中に起因する身体の痛みの改善を目的とするリハビリテーションの効果を予測するために、リハビリテーション実施済の対照患者C(control patient)群のリハビリテーション前の、痛みの種類別の指数を示すNPI(NeuropathiCPain Inventory)値(NPIは0~10のいずれかの値とする)と、痛みの種類を問わない全体的な痛みの指数を示すNRS(Numeric Rating Scale)値と、リハビリテーション実施前の新規患者N(new patient)のNPI値との類似度とから、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、
前記システムは、少なくともデータベースと、情報処理装置と、ソフトウェアと、入出力端末とからなり、
前記データベースは、少なくとも
総数n人の前記対照患者Cのそれぞれについての、
リハビリテーション前のNPI値であるCb(before)1~bxと、
リハビリテーション前のNRS値であるCPb(Pain before)と、
リハビリテーション後のNRS値であるCPa(Pain after)と
を記憶しており、
前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記入出力端末からの、
新規患者N(new patient)の、
リハビリテーション前のNPI値であるNb(before)1~Nbxと、
リハビリテーション前のNRS値であるNPb(Pain before)
の入力を受けて、
i番目の対照患者C(i)の、
前記Cb1~Cbxの数列からなるx次元ベクトルをCVb(i)とし、
前記CPbをCPb(i)とし、
前記CPaをCPa(i)とし、
新規患者Nの、
前記Nb1~bxの数列からなるx次元ベクトルをNVbとして、
前記CVb(i)と前記NVbとの間のコサイン類似度Sim(i)を算出し、
さらに、
前記入出力端末からの前記Sim(i)が上位である対照患者Cを絞り込む比率としての任意の値であるxの入力を受けて、
標準正規分布表のxに対応する値を基準Z値zとし、
すべての対照患者Cの前記CVb(i)と前記NVbとの類似度Sim(i=1~n)の平均値であるSim(ave)と標準偏差とを計算し、
前記Sim(ave)と標準偏差とからzに該当する基準類似度SimZを算出して、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者c(人数はm人)を抽出し、
対照患者c(i)(i=1~m)の前記Sim(i)と前記NPbとから、
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
の数式によって、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値であるNPa(lim)を算出して、
前記入出力端末から出力可能としたこと、
を特徴とする。
【0027】
最後に、請求項6に係る発明は、
請求項5に記載の新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するためのシステムであって、前記ソフトウェアは、前記情報処理装置において、
前記SimZ以上のSim(i)を有する対照患者cのうち、Sim(i)が最も小さい対象患者のSim(i)について、
θ(i)=10*[1-cos-1(Sim(i))/ (π/2)]
の数式により算出したθ(i)の値を前記NVa(lim)の信頼度として、
前記入出力端末から出力可能としたこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るソフトウェアによる情報処理方法、及び、該ソフトウェアを実装したシステムによれば、脳卒中後疼痛を訴える新規患者へのリハビリテーション実施に先立ち、理学療法士等の医療従事者にリハビリテーションの効果についての予測値を提供することができる。これにより、従来は医療従事者の経験や患者の訴えのみを頼りに行っていたリハビリテーションの適否の判断や計画立案に数値的な裏付けを提供することが可能となり、適切な療法の選択による治療効果の向上や、患者及び医療従事者の負担軽減が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る、新規の脳卒中患者のリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するソフトウェアを実装したシステムの実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0030】
図2は、本発明の一つの実施形態に係るシステム(以下、「本システム1」という。)のシステム構成図である。本システム1は、大きく分けて、本発明に係るNRS値の予測値を算出する方法を実行可能なソフトウェアSを実装した情報処理装置Pと、データベースDと、入出力端末Tとからなり、相互にデータ通信を可能としている。ただし、これらのシステム構成は例示であり、各構成が物理的に独立しているものに限られない。たとえば、情報処理装置Pと入出力端末Tが情報処理端末として一体化しており、インストールされたソフトウェアSがネットワーク回線を通じてデータベースDと通信可能に構成してもよいし、サーバ内に情報処理装置P及びデータベースDを設け、入出力端末Tからネットワーク回線を通じてソフトウェアSを実行可能とするASP方式に構成してもよい。
【0031】
図3は、実施形態に係る本システム1のデータベース内のデータ構成を例示したものである。データベースDには、対照患者C(総数をn人とする)の一人ひとりについて、アンケート調査(本実施形態では、聴き取り対象の痛みの種類を10種類としている。)で得たリハビリテーション実施前の10個のNPI値の数列からなる10次元ベクトル(CVb)と、リハビリテーション実施前後のNRS値(CPa、CPb)の、合計12個のデータが記憶されている。
【0032】
図4及び
図5は、本発明に係るシステムにおけるデータの入出力及び処理の概略のフローを示したものである。また、
図6は、本願発明の請求項4に係る本システム1の第一実施形態におけるデータ処理の工程を、より詳細なステップに細分して説明したフローチャートである。
【0033】
(第一実施形態)
第一実施形態に係る本システム1は、
図4に示すように、入出力端末Tから、特定の新規患者Nに対するリハビリテーション実施前のNPI値の数列からなる10次元ベクトルNVb、及び、同じくリハビリテーション実施前のNRS値NPbを、入出力端末Tから情報処理装置Pへと入力することにより、ソフトウェアSが、データベースDに記憶された対象患者群Cのデータ(CVb、CPa、CPb)を参照し、すべての対照患者Cのデータに基づいて計算した新規患者Nのリハビリテーション実施後のNRS値であるNPa(all) を算出して、入出力端末Tに出力可能としている。なお、以下では、対照患者Cの総数はn人としている。
【0034】
図6では、最初に、「10 システム起動・初期化」のフローでは、ステップ101においてシステム起動を行うと、ステップ102において、それ以前のデータ処理において設定された全変数が初期化され、新たなデータ処理のフローを開始する。
【0035】
まず、「11 対照患者データ読込」のフローでは、ステップ111において、データベースD内のn人の対照患者Cの12×n個のデータであるCVb、及び、CPb、CPaを順に読み込んで、それぞれ参照値(1)~参照値(12n)とする。たとえば、i番目の対照患者C(i)のCVb(i)は、リハビリテーション実施前の10個のNPI値(b1~b10)と、リハビリテーション実施前後のNRS値であるCPb(i)、CPa(i)の合計12個の値である。このとき、たとえば参照値(1)は、対照患者Cのi番目の患者のb1を表し、参照値(12n)は、n番目の患者のCPaを表している。
【0036】
次に、ステップ112において、i=1、2、3・・・nとした場合に、すべての対照患者Cの参照値(1+12(i-1))から参照値(10+12(i-1))までの数列をCVb(i)とする。このCVb(i)は、i番目の対照患者のNPI値を成分要素とするベクトルを表している。上記の数値操作は、n人×12個の値の中から、i番目の対照患者(i)のデータを特定するためのものである。
【0037】
次に、ステップ113で、i番目の対照患者Cのリハビリテーション開始前のNRS値である参照値(11+12(i-1))が「0」であるか否かを判断する。「0」でない場合は、ステップ115で、リハビリテーション実施後のNRS値である参照値(12+12(i-1))を当該参照値(11+(12i-1)で除してNRS比(i)とする。一方、参照値(12i-1)が「0」の場合は、ステップ114でこれを「1」とした上で、ステップ115でNRS比(i)を算出する。このNRS比(i)は、i番目の対照患者(i)のリハビリテーション前後のNRS値の変化、すなわち、痛みの改善度合いを示す。なお、ステップ113及び114の工程は、前述のように対照患者Cの中には、NPI値のいずれかが「1」以上であるにも関わらず、NRS値を「0」と回答するケースも存在する場合があるため、主観的回答によるかかる一見不合理な指数を補正するためのものである。
【0038】
次に、ステップ116では、数式
により計算を行い、ベクトルサイズ(i)を算出する。ベクトルサイズ(i)は前記10次元ベクトルCVb(i)の大きさを示す。ここで「a」は、i番目の対照患者(i)へのアンケート調査で得たNPI値の順番を表す。以上で「11 参照患者データ読込」のフローは終了し、「12 新規患データ入力」のフローへと進む。
【0039】
次に、「12 新規患者データ入力」のフローでは、ステップ121において、入出力端末Tから新規患者NのNVb(NVbはリハビリテーション実施前のアンケート調査で得た10個のNPI値(b1~b10)である。)及びNPb(NRS値)の、合計11個の値を入力する。
【0040】
次に、「13 NPa(all)算出」のフローに進む。ステップ131では、ステップ121で入力されたデータのうち、NVb(10個のNPI値)を入力値(1)~入力値(10)とし、NRS値であるNPbを入力値(11)とする。
【0041】
次に、ステップ132では、入力値(1)~入力値(11)の数列をDS(n+1)として、ステップ133において、数式
により計算を行い、計算結果をベクトルサイズ(n+1)とする。
【0042】
次に、ステップ134では、ベクトルサイズ(i)及び、ベクトルサイズ(n+1)の値が「0」か否かを判断する。前述のとおり、ベクトルサイズ(i)はi番目の対照患者Cのリハビリテーション実施前のNPI値を10次元ベクトルとしたCVb(i)の大きさであり、ベクトルサイズ(n+1)は新規患者Nの、やはりリハビリテーション実施前のNPI値を10次元ベクトルとしたNVbの大きさである。ここで、ベクトルサイズ(i)とベクトルサイズ(n+1)が共に「0」でない場合は、ベクトル同士の類似度が計算可能であるので、両者のコサイン類似度をSim(i)とすることができる。一方、共に「0」である場合は両者の間に違いはないので、コサイン類似度Sim(i)=1 とする。そして、いずれか一方のみが「0」である場合は、ベクトル同士の類似度は計算不能であるため、コサイン類似度Sim(i)=0 とする。
【0043】
次に、ステップ135では、数式
により、データベース内のすべての対照患者C(n人)のCVbと新規患者NのNVbのベクトル同士の類似度を合算したSim合計を算出し、さらに、次のステップ136において、数式
によりNRS比(all)を算出する。この計算によって得たNRS比(all)が、すべての対照患者C(n人)のCVbと新規患者NのNVbとの類似度に基づくNRSの改善度合いを予測する係数となる。そして、最後のステップ137で、新規患者Nのリハビリテーション前のNRS値であるNPbにNRS比(all)を乗じることで、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値であるNPa(all)が得られる。
【0044】
なお、NRS値は「1」~「10」の整数の指数であるため、本実施形態ではここで得られた予測値の小数点以下を四捨五入して整数化し、また、11以上の予測値が算出された場合はこれを「10」とした上で、「14 NPa(all)出力」において、入出力端末TからNPa(all)を出力して処理を完了する。以上のデータ処理を統合した数式が
NPa(all)=NPb×{(Σ(i=1 to n)[(Sim(i)/Σ(i=1 to n)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
である。
【0045】
(第二実施形態)
図7から
図8にかけては、請求項5及び請求項6に係る本システムの第二実施形態におけるデータ処理の工程を、より詳細なステップに細分して説明したフローチャートである。なお、
図7に示した工程「20 システム起動・初期化」から工程「23 NPa(all)算出」までは、基本的に、
図5に示した第一実施形態のフローチャートと同じであるため、詳細な説明は割愛する。
【0046】
第二実施形態に係る本システムでは、対照患者C(n人)のうち、新規患者NとNPI値から得られる10次元ベクトルのコサイン類似度が大きな上位の患者(m人)に絞り込む処理を行った上で、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値NPa(lim)を計算する。これに新規患者NのNRS値であるNPbを乗じることで、より精度の高いリハビリテーション実施後のNRS値であるNPa(lim)を算出し、さらに、該NPa(lim)の信頼度も算出する。
【0047】
第二実施形態では、
図7のフローチャートの最後のステップ237で新規患者NのNPa(all)を算出した後、続いて
図8のフローチャートに進み、工程「24 x値入力」のステップ241において、入出力端末Tから、任意の変数xを入力する。変数xは、対照患者C(n人)のうち、リハビリテーション実施前のNPI値からなる10次元ベクトルであるCVbとNVbのコサイン類似度であるSim(i)が大きい順の上位x%の患者(m人)に絞り込むための係数である。
【0048】
次に、「25 NPa(lim)算出」の工程に進む。ステップ251では、変数xに対応するZ値を標準正規分布表から探し、これを「基準Z値z」とする。Z値とは、平均値からの距離を標準偏差の倍数で表した単位のことで、統計において、個々のデータが全体の平均からどの程度離れているかを示す尺度である。
【0049】
次に、ステップ252では、Sim合計/nをSim(ave)とし、ステップ253において、数式
によってSim標準偏差を算出する。
【0050】
次に、ステップ254において、z×Sim標準偏差+Sim(ave)を基準類似度SimZとする。その後、ステップ255において、Sim(i)-SimZが「0」以上であるか否かを判断し、「yes(0以上)」である場合は、SimZ以上のSim(i)を有する対照患者C(人数はm人)を抽出する。この「m」は、SimZ以上の類似度を持つ対照患者Cの人数を示すための整数である。
【0051】
ここで「m=m+1」とし、Sim上位(m)=Sim(i)とし、NRS比上位(m)=NRS比(i)した上で、Sim上位(m)-Sim上位最低が「0」以下であるかを判断し、「yes(0以下)」である場合は、Sim上位(m)=Sim上位最低とする。ちなみに、変数の初期設定において、Sim上位(i)=0(i=1,2…n)であり、Sim上位最低(SimZ以上のSim(i)の中で最も小さいSim(i)の値)=1である。また、NRS比上位(i)=0(i=1,2…m)となる。すなわち、おのおのn個用意したSim上位(i)とNRS比上位(i)のうち、本ステップ255以降の計算で使用するのはSimZ以上の類似度を有する対照患者Cの人数分だけであることを意味している。なお、ステップ255内の2つの分岐において「no」の場合は、特になにもしない。
【0052】
次に、ステップ256では、数式
により、抽出された基準類似度以上の類似度を有する対照患者Cの全員についてのSim上位要素(i)を合算してSim上位合計とし、ステップ257において、数式
により、NRS比(lim)を計算する。「NRS比上位」は、ステップ236にてすべての対照患者Cについてリハビリテーション前後のNRS値の比率(すなわち痛みの改善度合い)NRS(all)を算出したのと同じ計算を、抽出された基準類似度以上の類似度を有する対照患者Cについて行うものである。
【0053】
そして、第一実施形態と同様に、ステップ258において、新規患者Nの入力値(11)すなわちリハビリテーション実施前のNRS値にNRS比上位を乗じることで、抽出された類似度の高い対照患者Cのデータに基づく新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値であるNPa(lim)が算出される。なお、NRS値は「1」~「10」の整数の指数であるため、第一実施形態と同様に、得られた予測値の小数点以下を四捨五入して整数化し、また、11以上の予測値が算出された場合はこれを「10」とし、処理を完了する。以上の第二実施形態におけるデータ処理を統合した数式が
NPa(lim)=NPb×{(Σ(i=1 to m)[(Sim(i)/Σ(i=1 to m)Sim(i))×(CPa(i)/CPb(i))]}
である。
【0054】
次に、「26 NPa(lim)の信頼度算出」のフローに進む。ステップ261では、数式
により、新規患者Nのリハビリテーション後のNRS値の予測値であるNPa(lim)の信頼度の下限値を算出する。ここで「Sim上位最低」とは、ステップ255において算出した「Sim上位最低」、すなわち、SimZ以上のSim(i)の中で最も小さいSim(i)の値を、NPa(lim)の信頼度に変換した値である。この値は「0」から「10」までの値を取り得るが、数値が大きいほど信頼性が高くなる。
【0055】
最後に、「27 NPa(all)、NPa(lim)、NPa(lim)の信頼度出力」では、以上までのフローで算出したNPa(all)、NPa(lim)、及び、NPa(lim)の信頼度の下限値の各数値を、入出力端末Tにまとめて出力表示し、第二実施形態に係るシステムの全工程を終了する。
【0056】
理学療法士等の医療従事者は、新規患者Nについて本システムで算出したNPa(lim)の値が同患者のリハビリテーション実施前のNRS値よりも大きい場合には、リハビリテーションの効果が期待できず、むしろ悪化させる可能性があると判断して、リハビリテーションを行わずに他の療法を選択することができる。逆に、リハビリテーション実施前のNRS値よりも十分に小さなNPa(lim)が算出され、しかも、信頼度の下限値が高い場合には、リハビリテーションに効果が期待できると判断して、実施を選択することができる。
【0057】
以上、本発明に係る新規の脳卒中患者のリハビリテーション後のNRS値の予測値を算出するシステムの具体的な構成について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内において改良又は変更が可能であり、それらは本発明の技術的範囲に属するものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係るソフトウェアを実装したシステムによれば、医師や理学療法士等の医療従事者が、脳卒中性疼痛を訴える新規患者への治療に先立って、リハビリテーションによる治療の効果の予測値を計算することができ、リハビリテーション実施の可否についての判断の一定の目安を得ることができる。そのため、リハビリテーションの実施における患者と医療従事者の心理的な不安や負担を低減でき、また、リハビリテーションの効果が期待できない新規患者への不要な負担を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】神経障害性疼痛重症度評価ツールのアンケート項目
【
図4】第一実施形態に係る本システムのデータ処理工程の概略フロー
【
図5】第二実施形態に係る本システムのデータ処理工程の概略フロー
【
図6】第一実施形態に係る本システムのデータ処理工程の詳細フローチャート
【
図7】第二実施形態に係る本システムのデータ処理工程の詳細フローチャート(前半)
【
図8】第二実施形態に係る本システムのデータ処理工程の詳細フローチャート(後半)
【符号の説明】
【0060】
D データベース
P 情報処理装置
S ソフトウェア
T 入出力端末