(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025092213
(43)【公開日】2025-06-19
(54)【発明の名称】電子システムおよび高速広帯域信号センシング方法
(51)【国際特許分類】
G08C 25/00 20060101AFI20250612BHJP
H01J 40/06 20060101ALI20250612BHJP
G08C 19/04 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
G08C25/00 B
H01J40/06
G08C19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207952
(22)【出願日】2023-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 豊
(72)【発明者】
【氏名】西元 琢真
(72)【発明者】
【氏名】李 ウェン
【テーマコード(参考)】
2F073
【Fターム(参考)】
2F073AA02
2F073AA40
2F073AB01
2F073AB04
2F073AB12
2F073AB14
2F073BB04
2F073BC01
2F073CC01
2F073CD01
2F073DD01
2F073EF07
2F073FF12
2F073GG01
2F073GG07
2F073GG09
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は,高速広帯域信号をセンシングする際に,広帯域にわたってノイズを抑圧し,信号のダイナミックレンジを改善することにある。
【解決手段】
本発明の好適な一側面は,センシング素子からの物理量出力を電気信号に変換し,プリアンプにより増幅し,差動出力をするプリアンプ基板と,前記プリアンプ基板からの信号を情報処理する情報処理基板と,前記プリアンプ基板と情報処理基板間を差動信号伝送する2本の同軸ケーブルからなる電子システムにおいて,前記2本の同軸ケーブルをツイストし,該ツイストするツイストピッチは前記電気信号の最大周波数の信号の波長の4分の1より小さいことを特徴とする電子システムである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センシング素子からの物理量出力を電気信号に変換し,プリアンプにより増幅し,差動出力をするプリアンプ基板と,
前記プリアンプ基板からの信号を情報処理する情報処理基板と,
前記プリアンプ基板と情報処理基板間を差動信号伝送する2本の同軸ケーブルからなる電子システムにおいて,
前記2本の同軸ケーブルをツイストし,該ツイストするツイストピッチは前記電気信号の最大周波数の信号の波長の4分の1より小さいことを特徴とする電子システム。
【請求項2】
前記電気信号は,直流から25MHzの帯域を有する,
請求項1記載の電子システム。
【請求項3】
前記電気信号は,直流から100MHzの帯域を有する,
請求項1記載の電子システム。
【請求項4】
前記同軸ケーブルが,0.5m以上の長さを有する,
請求項1記載の電子システム。
【請求項5】
前記同軸ケーブルが,5m以上の長さを有する,
請求項1記載の電子システム。
【請求項6】
前記同軸ケーブルは,内側から内部導体,該内部導体を被覆する誘電体,該誘電体を被覆する外部導体,および該外部導体を被覆するシースの積層構造を備える,
請求項1記載の電子システム。
【請求項7】
前記同軸ケーブルは,内側から内部導体,該内部導体を被覆する誘電体,該誘電体を被覆する外部導体,の積層構造を備え,
ツイストした前記同軸ケーブルを,シースで被覆する,
請求項1記載の電子システム。
【請求項8】
前記同軸ケーブルは,内側から内部導体,該内部導体を被覆する誘電体,該誘電体を被覆する外部導体,の積層構造を備え,
ツイストした前記同軸ケーブルを,シールドで被覆し,該シールドをさらにシースで被覆する,
請求項1記載の電子システム。
【請求項9】
前記センシング素子は光電子増倍管であることを特徴とする,
請求項1記載の電子システム。
【請求項10】
センシング素子からの物理量出力を電気信号に変換し,プリアンプにより増幅し,差動出力をするプリアンプ基板と,前記プリアンプ基板からの信号を情報処理する情報処理基板と,前記プリアンプ基板と情報処理基板間を差動信号伝送する2本の同軸ケーブルからなる電子システムを用いる高速広帯域信号センシング方法であって,
前記2本の同軸ケーブルをツイストし,該ツイストするツイストピッチは前記電気信号の最大周波数の信号の波長の4分の1より小さいことを特徴とする高速広帯域信号センシング方法。
【請求項11】
前記電気信号は,直流から10MHzの帯域を有する,
請求項10記載の高速広帯域信号センシング方法。
【請求項12】
前記電気信号は,直流から100MHzの帯域を有する,
請求項10記載の高速広帯域信号センシング方法。
【請求項13】
前記同軸ケーブルが,0.5m以上の長さを有する,
請求項10記載の高速広帯域信号センシング方法。
【請求項14】
前記同軸ケーブルが,5m以上の長さを有する,
請求項10記載の高速広帯域信号センシング方法。
【請求項15】
前記センシング素子は光電子増倍管であることを特徴とする,
請求項10記載の高速広帯域信号センシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,外来雑音の影響を抑圧し,高ダイナミックレンジな電子システムを構築することができる高速広帯域信号センシング手法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,モビリティや産業装置分野において,長期利用・運用に向けて,電子システムの高信頼化を図り安定稼働させることが重要となっている。電子システムは,その応用装置に必須の各種センシング素子からの物理量出力を電気信号に変換し,プリアンプにより低雑音増幅し,情報処理装置により所望データを収集する。情報処理装置は多くの場合,アナログ・デジタル変換回路が搭載され,デジタル信号処理により所望の情報を算出する。プリアンプからの出力はケーブルにより情報処理装置に接続される。電子システムの高度化により,光センサなどの直流を含む高速広帯域信号をケーブルにより長距離差動伝送する必要性が増加している。
【0003】
ここでは,直流を含む高速広帯域信号(例えば周波数0~25MHz)を単に高速広帯域信号と呼ぶ。高速広帯域信号出力を最大電力で伝送するためにはインピーダンス整合が必要であり,プリアンプの出力インピーダンス,ケーブルの特性インピーダンス,処理装置の入力インピーダンスを全所望周波数帯域で一致させる必要がある。一般に特性インピーダンスは50Ωや75Ωである。また,電子システムの特性検証をする測定器へは同じ特性インピーダンスで接続する。
【0004】
ケーブルには同軸ケーブルを用いる。同軸ケーブルは,外部導体と内部導体が同心円状に配置され,また,外部導体と内部導体の間には誘電体がある。外部導体はアルミ箔や編組線などが用いられている。外部導体の外側には絶縁などの目的での外部被覆がある。
【0005】
同軸ケーブルの外部導体によるシールド効果は低周波帯域では効果がない。また,同軸ケーブルによるシールドは非磁性体により実現されるので,磁界により外来雑音が信号へ重畳する効果を低減させることはできない。このため,差動信号として伝送することにより外来雑音を抑圧する。
【0006】
音声信号や温度センサなどの低周波信号はシールドを施したツイストペアケーブル等が用いられるが,ケーブルを曲げた時なども含めて複数の銅線に均一な位置関係を保証する構造ではないため,高速広帯域信号を伝送するために必要な帯域内における特性インピーダンスの一様化が難しく,挿入損失が大きい。
【0007】
ケーブルテレビや低電流センシングには三重同軸ケーブルが用いられているが,特殊なコネクタが必用となる。電子システム基板の検証の際も高速広帯域信号を計測する測定器は,一般的に50ΩのSMAタイプやNタイプのコネクタを介して,測定信号を入出力する構造である。このため,その接続に変換コネクタが必要となり,不要な変換ロスの発生による測定誤差の影響があり,これら対策に要する工数増大などの課題がある。また,同軸ケーブルの外側に金属ダクト等を用いてシールド構造を追加することも可能であるが,これは,電子システム設計当初から筐体設計の一部として考慮する必要があり,また,部材費も上昇するので製造コストが増大する。
【0008】
高速広帯域信号の外来雑音耐性を高める手段として,例えば,特許文献1ではケーブルを差動化し活用するシステム構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高速広帯域信号を同軸ケーブル2本により差動伝送すると,ノイズ源とプラス側の信号同軸ケーブル,マイナス側の信号同軸ケーブルの距離差により打消しできない外来雑音が信号に重畳する。また,プラス側の信号同軸ケーブル,マイナス側の信号同軸ケーブルで形成されるループアンテナにより,外来雑音が磁界により信号に重畳する。特にケーブル長が高速広帯域信号の最大周波数の波長λの0.25倍程度より長くなると,外来雑音に感度の高い帯域が信号帯域内に生ずる。逆にケーブル長が短い場合は,外来雑音に感度の高い帯域が信号帯域外になる。
【0011】
たとえば,100MHzの信号は,同軸ケーブル内で波長短縮率66%を考慮すると約2mの波長をもつ。よってケーブル長が2×0.25=50cmより短ければ,外来雑音に感度の高い帯域は信号帯域外になる。しかし,例えばセンサで取得した信号を伝送する場合,近年センシングするべき対象の大型化・複雑化により,要求される信号伝送の伝送距離は長くなる傾向がある。
【0012】
以上の状況により,例えばケーブル長が0.5mより長くなると,所定の用途では外来雑音の問題が無視できなくなる。では5mの同軸ケーブルで外来雑音に感度の高い帯域が信号帯域外となる最大周波数を求めると,
同軸ケーブル長
=同軸ケーブル内の波長×0.25
=光速/最大周波数/0.66×0.25
であるから、雑音の影響を受けない最大周波数は約25MHzとなる。このため,通常の同軸ケーブルで周波数0~100MHzの高速広帯域信号を伝送する場合,雑音の影響を受けることになる。
【0013】
図1は、高速広帯域信号をアンプ(AMP)に入力し測定器で測定する,実験装置の配置図である。
図1に示すように,特性インピーダンス50Ωの同軸ケーブルをある実験室に配置し,ケーブル長さ5mの同軸ケーブル1本の場合と,同軸ケーブル2本の場合(プラス側CP,マイナス側CM)とで比較する。測定機としてスペクトラムアナライザを用いてアンプの出力を計測した。その結果を以下に示す。
【0014】
図2Aは,は同軸ケーブル1本の場合における外来雑音のレベルを示すグラフである。横軸に周波数,縦軸に雑音レベルを示す。
【0015】
図2Bは,同軸ケーブル2本(差動伝送)時における外来雑音のレベルである。横軸に周波数,縦軸に雑音レベルを示す。使用した差動増幅回路は株式会社 エヌエフ回路設計ブロック社 SA-420F5 (帯域1kHz~70MHz,Gain 46dB)であるので,横軸は70MHzまでとしている。ここで最大周波数を100MHzとしたときの波長λは,300,000(km/sec)/100,000,000(Hz)=3mとなる。
【0016】
ここでは,
図2Aの構成をシングル,
図2Bの構成をストレートペアと呼ぶ。シングルは差動増幅回路の一方の入力を50Ω終端し,用いていないので,測定結果に6dB加算している。このため,フロア雑音が上昇しているように見えるが,ここでは,ピークレベルに注目する。
【0017】
同軸ケーブルにはシールドがあるが,先に説明したように低周波帯域でのシールド効果が低く,磁界により外来雑音抑圧には十分な効果がない。
図2Aに示すようにシングルでの雑音レベルの高さはこれを反映している。
【0018】
一方,
図2Bに示すように,差動伝送の効果により,低周波帯域も含め,磁界により外来雑音抑圧には効果があることがわかる。しかし,点線の円で示した20MHz帯と40MHz帯の外来雑音はほとんど抑圧されていない。これは,波長短縮率(本実験で用いたケーブルは66%)を考慮すると同軸ケーブル内を伝送する信号の0.25倍,0.25×2=0.5倍の周波数に相当する。
【0019】
測定対象のサイズが大きく,多部位をセンシングする必要がある電子システムであればケーブルが長くなる。所望の信号対雑音比を確保するために,これら外来雑音の影響がないレベルまでプリアンプで信号増幅する必要があるが,プリアンプで出力可能な最大振幅レベルは上限があるため,電子システムの信号ダイナミックレンジが制約される。
【0020】
そこで本発明の目的は,高速広帯域信号をセンシングする際に,広帯域にわたってノイズを抑圧し,信号のダイナミックレンジを改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の好適な一側面は,センシング素子からの物理量出力を電気信号に変換し,プリアンプにより増幅し,差動出力をするプリアンプ基板と,前記プリアンプ基板からの信号を情報処理する情報処理基板と,前記プリアンプ基板と情報処理基板間を差動信号伝送する2本の同軸ケーブルからなる電子システムにおいて,前記2本の同軸ケーブルをツイストし,該ツイストするツイストピッチは前記電気信号の最大周波数の信号の波長の4分の1より小さいことを特徴とする電子システムである。
【0022】
本発明の好適な他の一側面は,センシング素子からの物理量出力を電気信号に変換し,プリアンプにより増幅し,差動出力をするプリアンプ基板と,前記プリアンプ基板からの信号を情報処理する情報処理基板と,前記プリアンプ基板と情報処理基板間を差動信号伝送する2本の同軸ケーブルからなる電子システムを用いる高速広帯域信号センシング方法であって,前記2本の同軸ケーブルをツイストし,該ツイストするツイストピッチは前記電気信号の最大周波数の信号の波長の4分の1より小さいことを特徴とする高速広帯域信号センシング方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば,高速広帯域信号をセンシングする際に,広帯域にわたってノイズを抑圧し,信号のダイナミックレンジを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】高速広帯域信号をアンプに入力し測定器で測定する,実験装置の配置図。
【
図2A】同軸ケーブル1本の場合における外来雑音のレベルを示すグラフ図。
【
図2B】同軸ケーブル2本(差動伝送)時における外来雑音のレベルを示すグラフ図。
【
図3】実施例1における電子システムのブロック図。
【
図4】実施例1における同軸ケーブルの緒元を示す表図。
【
図5】実施例1における同軸ケーブルを3本空気中に配置した構成図。
【
図6】実施例1の同軸ケーブルのツイスト例を示す斜視図。
【
図7】実施例1のシミュレーション結果を示すグラフ図。
【
図8】λ/4のN倍の周波数帯でのS21ピーク値をまとめたグラフ図。
【
図9】実施例2における電子システムのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下,本発明の実施例につき,図面を用いて説明する。なお,実施例を説明するための各図において,同一の構成要素には同一の名称,符号を付して,その繰り返しの説明を省略する。
【0026】
本明細書等における「第1」,「第2」,「第3」などの表記は,構成要素を識別するために付するものであり,必ずしも,数または順序を限定するものではない。また,構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ,一つの文脈で用いた番号が,他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また,ある番号で識別された構成要素が,他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0027】
実施例で説明される構成の一例を示すと,センシング素子からの物理量出力を高速広帯域電気信号に変換し,プリアンプにより低雑音増幅し,差動出力をするプリアンプ基板と,前記プリアンプ基板からの信号を情報処理する情報処理基板と,前記プリアンプ基板と情報処理基板間を差動信号伝送する2本の同軸ケーブルからなる電子システムにおいて,前記2本の同軸ケーブルをツイストし,該ツイストするツイストピッチは該高速広帯域電気信号の最大周波数の信号波長×0.25より小さいことが有用である。
【実施例0028】
図3は実施例1における電子システムのブロック図である。
図3において,測定対象10からセンサ100が所望の物理量を測定し,信号に変えてプリアンプ基板110に伝達する。プリアンプ基板110と情報処理基板140は,ケーブル120と同軸ケーブル130で接続されている。測定対象10としては、例えば自動車や電車の各部の温度や加速度等があるが、特に制限されるものではない。
【0029】
測定対象10の所望物理量をセンサ100を用いてセンシングし,電気信号に変換する。この電気信号はプリアンプ基板110により出力の信号対雑音比が最大となるように低雑音増幅され,差動信号に変換される。この差動信号は直流も含む高速広帯域信号となる。
【0030】
たとえば,センサ100で光を検出し,光電子増倍管で電気信号に変換した場合,直流から数十~百MHzの帯域を有する。ここでは,前述したように直流を含む高速広帯域信号を単に高速広帯域信号と呼ぶ。高速広帯域信号を伝送するには同軸ケーブルを用いる。高速広帯域信号出力を最大電力で伝送するためにはインピーダンス整合が必要であり,プリアンプの出力インピーダンス,ケーブルの特性インピーダンス,処理装置の入力インピーダンスを全所望周波数帯域で一致させる必要がある。一般的に特性インピーダンスは50Ωや75Ωである。また,電子システムの特性検証をする測定器には同じ特性インピーダンスで接続する。
【0031】
同軸ケーブルによるシールド効果は低周波帯域では効果がない。また,同軸ケーブルによるシールドは非磁性体により実現されるので,磁界により外来雑音が信号へ重畳する効果を低減させることはできない。このため,差動信号として伝送することにより外来雑音を抑圧する。
【0032】
差動信号を伝送するために,音声信号や温度センサなどの低周波信号はシールドを施したツイストペアケーブル等が用いられるが,ケーブルを曲げた時なども含めて複数の銅線に均一な位置関係を保証する構造ではないため,高速広帯域信号を伝送するために必要な帯域内における特性インピーダンスの一様化が難しく,挿入損失が大きい。
【0033】
高速広帯域信号を同軸ケーブル2本により差動伝送すると,ノイズ源とプラス側の信号同軸ケーブル,マイナス側の信号同軸ケーブルの距離差により打消しできない外来雑音が信号に重畳する。また,プラス側の信号同軸ケーブル,マイナス側の信号同軸ケーブルで形成されるループアンテナにより,外来雑音が磁界により信号に重畳する。特にケーブル長が高速広帯域信号の最大周波数の波長λの0.25倍程度より長くなると,外来雑音に感度の高い帯域が信号帯域内に生ずる。測定対象のサイズが大きく,多部位をセンシングする必要がある電子システムであればよりケーブルが長くなる。
【0034】
図4に示す緒元の特性インピーダンス50Ωの同軸ケーブル5mを用いて,シミュレーションを行った。同軸ケーブルの構造は,中心に半径0.255mmの内部導体があり,その外側を誘電体,外部導体,シースが順に被覆している。それぞれの半径は
図4に示すとおりである。
【0035】
図5に示すように,
図4の構造の同軸ケーブルを3本空気中に配置(各同軸ケーブルは50Ω終端)し電磁界シミュレーションを行う。CPとCMが差動信号伝送用の同軸ケーブル,CAはノイズ源となる同軸ケーブルとする。同軸ケーブルCAと同軸ケーブルCPの間隔は5mm,同軸ケーブルCPと同軸ケーブルCMの間隔は3.2mmとしている。ここでは,ポート1から入力された雑音が,ポート2にどれだけ漏洩するかを評価する。
【0036】
S21を計算することにより同軸ケーブルCAから同軸ケーブルCPとCMへの外来雑音結合度を評価できる。S21の物理的な意味は、信号を入力端子に入力したときに、出力端子に通過してくる信号である。シミュレータはAnsys社HFSSであり,内部導体,外部導体共に一様な金属としてモデリングするが,外部導体のみ導体内部も計算対象とした。ここで,ツイストペアはツイストして5mとなるようにモデリングする。
【0037】
図6に同軸ケーブルのツイスト例を示す。ツイストピッチはプラス側,またはマイナス側の同軸ケーブルが1ターンする距離である。
【0038】
図7にシミュレーション結果を示す。横軸が周波数,縦軸はS21を示す。特定の周波数帯にS21のピークが存在し,これは結合度の大きい周波数帯である。結合度の大きい周波数帯は20MHz近辺とそのN倍周波数であり,これは,波長短縮率(0.66)を考慮すると,λ/4のN倍の周波数帯である。このように,同軸ケーブルの長さという物理的な寸法に関与するのが波長λであり,λ/4から計算される周波数帯の整数倍の周波数帯で雑音への感度が高くなる。
【0039】
図8に,λ/4のN倍の周波数帯でのS21ピーク値をまとめたグラフを示す。Tで示すのはツイスト回数である。ツイスト回数は,ケーブルが360°よじれて元に戻ることを1Tとする。
【0040】
4Tは,同軸ケーブルを4回ツイストしたケーブル,即ち,ケーブル長5mの場合はツイストピッチが1.25mとなるが,ツイストペアはツイストピッチ毎に一回交差する。
【0041】
すなわち,
ツイストピッチ×0.5
=同軸ケーブル内の波長×0.25
=光速/最大周波数/0.66×0.25
なので,
1.25×0.5
≒300,000(km/sec)/80,000,000(Hz)/0.66×0.25
よって,ツイストピッチから計算されるλ/4のN倍の周波数が,80MHz以上になる。
図8に見られるように,ストレートペアと4Tを比較すると4dBほどの抑圧効果がある。
【0042】
5Tは,同軸ケーブルを5回ツイストしたケーブル,即ち,ケーブル長5mの場合はツイストピッチが1mとなるが,ツイストピッチから計算されるλ/4のN倍の周波数が,100MHz以上になり,
図8に見られるように,ストレートペアと5Tを比較すると,20dBほどの抑圧効果がある。本シミュレーション結果から2本の同軸ケーブルのツイストピッチは高速広帯域信号の最大周波数の波長の4分の1より小さければ十分な抑圧効果を得ることができる。
【0043】
通常,同軸ケーブルのシールドは編組やアルミ箔であり,通常のツイストペアケーブルのように数cmのツイストピッチでのツイストは困難であるが,本実施例により,より広いツイストピッチでも十分な外来雑音抑圧度が得られる。これにより本実施例の電子システムはプリアンプの利得を20dB程度下げることができるので,所望信号の最大振幅が20dB程度上がることによりダイナミックレンジが20dB向上する。
【0044】
本実施例を用い,例えば,多数のプリアンプ基板を測定対象の多部位に設置し,多点のセンシング情報を収集する際にも,各プリアンプ基板から情報処理基板までの同軸ケーブル経由で信号へ重畳する外来雑音だけでなく,他のプリアンプ基板からの信号干渉も低減し,高信頼データを収集することが可能となる。
プリアンプ基板110は,センサ100から受信する電気信号に対して,増幅回路A1,増幅回路A2,終端抵抗R1,終端抵抗R2を備える。情報処理基板140は,増幅回路A3,終端抵抗R3,終端抵抗R4を備える。
測定対象10の所望物理量をセンサ100を用いてセンシングし,電気信号に変換する。この電気信号はプリアンプ基板110により出力の信号対雑音比が最大となるように低雑音増幅される。具体的には増幅回路A1により低雑音増幅され,増幅回路A2によりさらに増幅する。
実施例1では増幅回路A2により差動信号に変換されるが,実施例2はシングル伝送になっている。このシングル信号は直流も含む高速広帯域信号となる。たとえば,光を検出し,光電子増倍管で電気信号に変換した場合,直流から数十~百MHzの帯域を有する。ここでは,前述したように直流を含む高速広帯域信号を単に高速広帯域信号と呼ぶ。
高速広帯域信号を伝送するには同軸ケーブルを用いる。高速広帯域信号出力を最大電力で伝送するためにはインピーダンス整合が必要であり,プリアンプの出力インピーダンス,ケーブルの特性インピーダンス,処理装置の入力インピーダンスを全所望周波数帯域で一致させる必要がある。一般的に特性インピーダンスは50Ωや75Ωである。また,電子システムの特性検証をする測定器には同じ特性インピーダンスで接続する。
同軸ケーブルによるシールド効果は低周波帯域では効果がない。また,同軸ケーブルによるシールドは非磁性体により実現されるので,磁界により外来雑音が信号へ重畳する効果を低減させることはできない。実施例1では差動信号として伝送することにより外来雑音を抑圧したが,実施例2ではプリアンプ基板110側と情報処理基板140側をそれぞれ終端抵抗R2,R4で終端した同軸ケーブルを設けそれを信号伝送用同軸ケーブルとツイストすることにより外来雑音を抑圧する。
ツイストピッチは実施例1で説明したように,高速広帯域信号の最大周波数の波長の4分の1より小さくする。信号はシングルであるが,外来雑音はツイストした同軸ケーブルにバランスして重畳するので,差動増幅回路である増幅回路A3により相殺される。
通常,同軸ケーブルのシールドは編組やアルミ箔であり,通常のツイストペアケーブルのように数cmのツイストピッチでのツイストは困難であるが,本実施例により,より広いツイストピッチでも十分な外来雑音抑圧度が得られる。これにより本実施例の電子システムはプリアンプの利得を20dB程度下げることができるので,所望信号の最大振幅が20dB程度上がることによりダイナミックレンジが20dB向上する。
本実施例を用い,例えば,多数のプリアンプ基板を測定対象の多部位に設置し,多点のセンシング情報を収集する際にも,各プリアンプ基板から情報処理基板までの同軸ケーブル経由で信号へ重畳する外来雑音だけでなく,他のプリアンプ基板からの信号干渉も低減し,高信頼データを収集することが可能となる。