(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009224
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ケイ素含有オリゴマー及び硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 77/52 20060101AFI20250110BHJP
C08F 299/08 20060101ALI20250110BHJP
C08F 299/02 20060101ALI20250110BHJP
C07F 7/18 20060101ALN20250110BHJP
【FI】
C08G77/52
C08F299/08
C08F299/02
C07F7/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112081
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 久尚
(72)【発明者】
【氏名】福岡 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】倉谷(原田) 美由紀
【テーマコード(参考)】
4H049
4J127
4J246
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP02
4H049VQ03
4H049VQ07
4H049VQ20
4H049VR23
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4H049VS12
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4H049VW01
4J127AA01
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4J246CA010
4J246CA01U
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4J246CA240
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4J246CA330
4J246CA33U
4J246CA340
4J246CA34E
4J246CA34U
4J246CA34X
(57)【要約】
【課題】耐加水分解性を有し、良好な硬化性を有するケイ素含有オリゴマーと、そのケイ素含有オリゴマーを含む硬化性樹脂組成物とを得る。
【解決手段】本発明のケイ素含有オリゴマーは、下記式(1)で表される化合物と、下記式(4)で表される化合物と、の反応により得られ、数平均分子量が700以上である。
【化1】
【化2】
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物と、下記式(4)で表される化合物と、の反応により得られ、数平均分子量が700以上である、ケイ素含有オリゴマー。
【化1】
(式(1)中、Q
1はそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキル基を示し、kはそれぞれ独立して0~5の整数を示し、A
1は下記式(2)又は下記式(3)の構造である。)
【化2】
(式(2)中、R
1はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基であり、m
1はそれぞれ独立して0~4の整数であり、2つのm
1のうち少なくとも1つは1以上の整数であり、A
2は直接結合及び下記式(i)~(vii)からなる群より選ばれる1つの構造を示す。)
【化3】
【化4】
(式(3)中、R
2はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を示し、m
2はそれぞれ独立して1~4の整数を示す。)
【化5】
(式(4)中、Q
2はそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキル基を示し、B
1は下記式(5)又は下記式(6)の構造である。)
【化6】
(式(5)中、R
3はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を示し、m
3はそれぞれ独立して0~4の整数を示し、B
2は直接結合又は-O-基を示す。)
【化7】
(式(6)中、R
4はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を示し、m
4は0~4の整数を示す。)。
【請求項2】
前記式(1)中のA
1が下記式(7)の構造又は下記式(8)の構造である、請求項1に記載のケイ素含有オリゴマー。
【化8】
(式(7)中、A
2は式(2)のA
2と同義である。)。
【化9】
【請求項3】
前記式(1)中のA
1が下記式(9)の構造である、請求項1に記載のケイ素含有オリゴマー。
【化10】
【請求項4】
前記式(4)で表される化合物が、下記式(13)で表される化合物又は下記式(14)で表される化合物である、請求項1に記載のケイ素含有オリゴマー。
【化11】
【化12】
【請求項5】
分子鎖の少なくとも1つの末端がビニル基である、請求項1に記載のケイ素含有オリゴマー。
【請求項6】
数平均分子量が2000以上である、請求項1に記載のケイ素含有オリゴマー。
【請求項7】
下記成分(A)及び下記(B)成分を含む、硬化性樹脂組成物。
(A):請求項1~6のいずれか一項に記載のケイ素含有オリゴマー
(B):重合開始剤
【請求項8】
前記重合開始剤が有機過酸化物である、請求項7に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
下記成分(C)を更に含む、請求項7に記載の硬化性樹脂組成物。
(C):有機溶剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素含有オリゴマー及び硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂などの架橋型プレポリマーは、例えば、耐熱性、絶縁性、及び接着性等に優れる。そのため、架橋型プレポリマーは、複合構造用途、及び電気電子用途等の材料として工業的に広く使用されている。
【0003】
しかし、架橋型プレポリマーには、脆弱であるという(以下、単に「脆性」とも称する)課題及びそれに伴い接着性が低下するという改善すべき課題がある。それらの課題を解決するために架橋型プレポリマーを改良すると、耐熱性、成型性、及び作業性などのその他の特性を犠牲にしてしまい、その使用が制限される場合がある。
【0004】
例えば、特許文献1では、架橋型プレポリマーとしてエポキシ樹脂の分子量が小さいほど硬化物の脆性が顕著となるので、エポキシ樹脂の分子量を高めて硬化物の機械強度を高める工夫がなされている。しかし、単にエポキシ樹脂の分子量を高めると、プレポリマーの粘度が高くなり作業性及び加工性が低下する。その上、硬化物の架橋間分子量が大きくなるため(即ち、架橋密度が低くなるため)、硬化物の耐熱性(Tg)が著しく低下するとの課題を有する。更に、エポキシ樹脂は、硬化反応に伴いヒドロキシ基が生成するので、硬化物の吸水性及び吸湿性が高くなり、その結果、誘電率及び誘電正接などの電気的特性が低下するとの課題も有する。
【0005】
エポキシ樹脂が有するそのような課題を克服するために、エポキシ基に代わる官能基としてビニルシリル基を使用する技術が報告されている(例えば、特許文献2、特許文献3、非特許文献1、及び非特許文献2)。
【0006】
それらの技術の中でも、特許文献2では、架橋型プレポリマーに柔軟なケイ素含有構造を導入することで、靭性が向上することが記載されている。しかし、特許文献2では、基本骨格と末端構造に結合安定性が低い-Si-O-Si-構造を有するため、合成段階、又は架橋(硬化)段階において、-Si-O-Si-結合の加水分解や開裂などが生じるとの工業的な課題を有する。この架橋型プレポリマーでは、基本骨格中に柔軟な-Si-O-Si-構造が多く含有されているため、硬化物の耐熱性と弾性率が著しく低くなるとの課題も有する。
【0007】
また、特許文献3には、両末端にジメチルビニルシリル基を導入したポリフェニレンエーテル樹脂が記載されている。そのポリフェニレンエーテル樹脂においては、上記のような-Si-O-Si-結合の加水分解が抑制され、化学的安定性が大幅に改善されている。しかし、主骨格がポリフェニレンエーテルという運動性の低い分子鎖で構成されているため、プレポリマー自体の溶融時の粘度が高くなり、適用できる配合プロセスや硬化プロセスが制限されるとの課題を有する。
【0008】
非特許文献1及び2には、ビニルシリル基を両末端に導入したモノマーと、そのモノマーと二官能SiH化合物とのヒドロシリル化によりケイ素を含有する架橋型ポリマー及び線状ポリマーについて記載されている。しかし、そのモノマー及びポリマーに含まれるビニルシリル基は、加水分解し易いため、モノマー及びポリマーは耐湿安定性が低く、合成段階、配合段階、硬化段階、及び実用化段階において容易に加水分解するとの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2021/79812号
【特許文献2】国際公開第2018/147010号
【特許文献3】国際公開第2022/239631号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Mollie B. Schear, et al., J. POLYM. SCI, A, 2014, 52, 523-526
【非特許文献2】Mollie B. Schear, et al., J. Appl. Polym. Sci. 2021, 138, e50053.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明においては、耐加水分解性を有し、良好な硬化性を有するケイ素含有オリゴマーと、そのケイ素含有オリゴマーを含む硬化性樹脂組成物とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の従来技術の課題を解決すべく鋭意研究した結果、シリル基の加水分解性をより抑制できる構造と、硬化時の硬化収縮がより小さく、靭性により優れる硬化物を好適に得ることができるケイ素含有オリゴマーの構造とを鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]下記式(1)で表される化合物と、下記式(4)で表される化合物と、の反応により得られ、数平均分子量が700以上である、ケイ素含有オリゴマー。
【0014】
【0015】
(式(1)中、Q1はそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキル基を示し、kはそれぞれ独立して0~5の整数を示し、A1は下記式(2)又は下記式(3)の構造である。)
【0016】
【0017】
(式(2)中、R1はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基であり、m1はそれぞれ独立して0~4の整数であり、2つのm1のうち少なくとも1つは1以上の整数であり、A2は直接結合及び下記式(i)~(vii)からなる群より選ばれる1つの構造を示す。)
【0018】
【0019】
【0020】
(式(3)中、R2はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を示し、m2はそれぞれ独立して1~4の整数を示す。)
【0021】
【0022】
(式(4)中、Q2はそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキル基を示し、B1は下記式(5)又は下記式(6)の構造である。)
【0023】
【0024】
(式(5)中、R3はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を示し、m3はそれぞれ独立して0~4の整数を示し、B2は直接結合又は-O-基を示す。)
【0025】
【0026】
(式(6)中、R4はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を示し、m4は0~4の整数を示す。)。
【0027】
[2]前記式(1)中のA1が下記式(7)の構造又は下記式(8)の構造である、[1]に記載のケイ素含有オリゴマー。
【0028】
【0029】
(式(7)中、A2は式(2)のA2と同義である。)。
【0030】
【0031】
[3]前記式(1)中のA1が下記式(9)の構造である、[1]又は[2]に記載のケイ素含有オリゴマー。
【0032】
【0033】
[4]前記式(4)で表される化合物が、下記式(13)で表される化合物又は下記式(14)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載のケイ素含有オリゴマー。
【0034】
【0035】
【0036】
[5]分子鎖の少なくとも1つの末端がビニル基である、[1]~[4]のいずれかに記載のケイ素含有オリゴマー。
【0037】
[6]数平均分子量が2000以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のケイ素含有オリゴマー。
【0038】
[7]下記成分(A)及び下記(B)成分を含む、硬化性樹脂組成物。
(A):[1]~[6]のいずれかに記載のケイ素含有オリゴマー
(B):重合開始剤
【0039】
[8]前記重合開始剤が有機過酸化物である、[7]に記載の硬化性樹脂組成物。
【0040】
[9]下記成分(C)を更に含む、[7]に記載の硬化性樹脂組成物。
(C):有機溶剤
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、耐加水分解性を有し、良好な硬化性を有するケイ素含有オリゴマーと、そのケイ素含有オリゴマーを含む硬化性樹脂組成物とが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】実施例1の精製したテトラメチルビフェニルのジアリル化物(VS-TMBP)のNMR測定結果を示す。
【
図2】実施例1のケイ素含有オリゴマーAのGPC測定による分子量分布を示す。
【
図3】実施例1のケイ素含有オリゴマーAのNMR測定結果を示す。
【
図4】比較例1の4,4’-[(ジメチルビニルシリル)オキシ]ビフェニルのNMR測定結果を示す。
【
図5】比較例1において、耐加水分解試験後の4,4’-[(ジメチルビニルシリル)オキシ]ビフェニルのNMR測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」とも称する)について、詳細に説明する。
以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は、この実施形態のみに限定されるものではなく、本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0044】
〔ケイ素含有オリゴマー〕
本実施形態のケイ素含有オリゴマーは、下記式(1)で表される化合物と、下記式(4)で表される化合物と、の反応により得られ、数平均分子量が700以上である。
【0045】
【0046】
【0047】
本実施形態のケイ素含有オリゴマーは、金属触媒の存在下又は不存在下で反応して得られることが好ましい。本実施形態のケイ素含有オリゴマーは、分子鎖の少なくとも1つの末端がビニル基であることが、より好ましい。
【0048】
<式(1)中のQ1>
式(1)中のQ1は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基である。
炭素数が大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸水率は低くなる傾向にある。また、炭素数が小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの粘度は低い傾向にある。そのような観点から、好ましい炭素数は1又は2であり、より好ましくは1である。
【0049】
<式(1)中のk>
式(1)中のkは、それぞれ独立して、0~5の整数である。
kが大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの粘度は低い傾向にある。また、kが小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の耐熱性は高くなる傾向にある。そのような観点から、好ましいkの値は0~3の整数であり、より好ましくは0又は1であり、更に好ましくは0である。
【0050】
<式(1)中のA1>
式(1)中のA1は、下記式(2)又は下記式(3)の構造である。
【0051】
【0052】
【0053】
<式(2)中のA2>
式(2)中のA2は、直接結合及び下記式(i)~(vii)からなる群より選ばれる1つの構造を示す。
【0054】
【0055】
式(1)中のA1の構造は、剛直性及び平面性が高いほど硬化物の耐熱性が高い傾向にある。そのような観点から、式(2)中のA2の構造は、直結するフェニレン基のπ電子が非局在化する傾向の高い構造が好ましく、直接結合、式(i)、(ii)、(iv)、及び(vii)からなる群より選ばれる1つの構造を示すことがより好ましく、直接結合を示すことが更に好ましい。
【0056】
<式(2)中のR1>
式(2)中のR1は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。
炭素数が小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の耐熱性は高くなる傾向にある。炭素数が大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸水率は低くなる傾向にある。そのような観点から、式(2)中のR1は、炭素数1~2のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1のアルキル基である。なお、フェニル基に結合するR1以外の基は、水素原子である。
【0057】
<式(2)中のm1>
式(2)中のm1は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、2つのm1のうち少なくとも1つは1以上の整数である。
一般にフェニル基と直結する-Si-O-結合はSiとOの間の結合が加水分解し易い傾向にある。しかし、フェニル基の少なくとも1箇所がアルキル基で置換されていると、-Si-O-結合の加水分解性がより抑制される傾向にある。-Si-O-結合に対してフェニル基のオルト位がアルキル基で置換されていると、耐加水分解性が顕著に向上する傾向にある。m1が小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの粘度が低くなる傾向にある。m1が大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸水率が低くなる傾向にある。そのような観点から、好ましいm1は1~3の整数である、より好ましくは2である。
【0058】
<式(3)中のR2>
式(3)中のR2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。
炭素数が小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の耐熱性が高くなる傾向にある。炭素数が大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸水率が低くなる傾向にある。そのような観点から、好ましいR1は炭素数1~2のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1のアルキル基である。なお、フェニル基に結合するR2以外の基は、水素原子である。
【0059】
<式(3)中のm2>
式(3)中のm2は、それぞれ独立して、1~4の整数である。
一般にフェニル基と直結する-Si-O-結合はSiとOの間の結合が加水分解し易い傾向にある。しかし、フェニル基の少なくとも1箇所がアルキル基で置換されていると、-Si-O-結合の加水分解性が顕著に抑制される傾向にある。m2が小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の耐熱性が高くなる傾向がある。m2が大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸水率が低くなる傾向にある。そのような観点から、好ましいm1は2~4の整数であり、より好ましくは3である。
【0060】
式(1)中のA1の構造は、A1と直結する-Si-O-結合のオルト位がより多くアルキル基で置換されていることが好ましい。そのような構造を有すると、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の高耐熱性と低吸水性とのバランスがより優れる傾向にある。
【0061】
そのような観点から、式(1)中のA1は、下記式(7)の構造又は下記式(8)の構造であることが好ましい。
【0062】
【0063】
式(7)中、A2は、式(2)のA2と同義である。
【0064】
【0065】
また、式(1)中のA1の構造は、A1と直結する-Si-O-結合のオルト位の全てがアルキル基で置換されている構造がより好ましい。そのような観点から、式(1)中のA1は、下記式(9)~(12)からなる群より選ばれる1つの構造を示すことが好ましく、式(9)の構造であることがより好ましい。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
<式(4)中のQ2>
式(4)中のQ2は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基を示す。
炭素数が大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸水率が低くなる傾向にある。炭素数が小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの粘度が低い傾向にある。そのような観点から、好ましい炭素数は1又は2であり、より好ましくは1である。式(4)中のQ2は、全てメチル基であることが更に好ましい。
【0071】
<式(4)中のB1>
式(4)中のB1は、下記式(5)又は下記式(6)の構造である。
【0072】
【0073】
【0074】
<式(5)中のB2>
式(5)中のB2は、直接結合又は-O-基を示す。
B2が直接結合であると、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の融点(Tg)が高くなる傾向にある。B2が-O-基であると、ケイ素含有オリゴマーの粘度が低くなり、硬化段階での作業性と成型性とにより優れる傾向にある。なお、本明細書において、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の融点(℃)は、例えば、DSC(示差走査熱量計)により測定することができる。
【0075】
<式(5)中のR3>
式(5)中のR3は、それぞれ独立して、炭素数1~4の炭化水素基を示す。
炭素数が少ないほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の融点(Tg)が高くなる傾向にある。炭素数が多いほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸湿性が低くなる傾向にある。そのような観点から、好ましいR3は、炭素数1~2であり、より好ましくは炭素数1である。なお、フェニル基に結合するR3以外の基は、水素原子である。
【0076】
<式(5)中のm3>
式(5)中のm3は、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。
m3が小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の融点(Tg)が高くなる傾向にある。m3が大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸湿性が低くなる傾向にある。そのような観点から、好ましいm3は0~2の整数であり、より好ましくは0又は1であり、更に好ましくは0である。
【0077】
<式(6)中のR4>
式(6)中のR4は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基を示す。
炭素数が少ないほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の融点(Tg)が高くなる傾向にある。炭素数が多いほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸湿性が低くなる傾向にある。そのような観点から、好ましいR4は炭素数1~2であり、より好ましくは炭素数1である。
【0078】
<式(6)中のm4>
式(6)中のm4は、それぞれ独立して、0~4の整数を示す。
m4が小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の融点(Tg)が高くなる傾向にある。m4が大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸湿性が低くなる傾向にある。そのような観点から、好ましいm4は0~2の整数であり、より好ましくは0又は1であり、更に好ましくは0である。
【0079】
以上の観点から、式(4)中のB1は、下記式(15)又は下記式(16)の構造であることが好ましい。
【0080】
【0081】
【0082】
また、式(4)で表される化合物は、下記式(13)で表される化合物又は下記式(14)で表される化合物であることが好ましい。式(4)で表される化合物がそのような化合物であると、ケイ素含有オリゴマーの粘度がより良好となり、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の吸水率、融点(Tg)、及び吸湿性にもより優れる傾向にある。
【0083】
【0084】
【0085】
<数平均分子量>
ケイ素含有オリゴマーの数平均分子量(Mn)は、700以上である。
数平均分子量が700未満であると、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の靭性が低くなる。数平均分子量が大きいほど、ケイ素含有オリゴマーの硬化物の硬化収縮が小さい傾向にある。数平均分子量が小さいほど、ケイ素含有オリゴマーの粘度が低く、成型性により優れる傾向にある。そのような観点から、数平均分子量は、好ましくは700~100,000であり、より好ましくは1,000~100,000であり、更に好ましくは2,000~60,000であり、更により好ましくは3,000~30,000であり、一層好ましくは5,000~10,000である。なお、本明細書において、Mwは重量平均分子量を示し、Mnは数平均分子量を示し、Mw/Mnは分子量分布を示す。Mw、Mn、及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法による、ポリスチレンスタンダード換算にて求めることができる。具体的な測定方法は、実施例を参照すればよい。
【0086】
<ケイ素含有オリゴマー>
本実施形態のケイ素含有オリゴマーは、下記式(17)で表される化合物、下記式(18)で表される化合物、及び下記式(19)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ケイ素含有オリゴマーは、下記式(17)で表される化合物を含むことがより好ましい。
【0087】
【0088】
式(17)中、Q1、k、及びA1は、式(1)のQ1、k、及びA1とそれぞれ同義である。式(17)中、Q2、及びB1は、式(4)のQ2、及びB1とそれぞれ同義である。式(17)中、lは、0より大きい実数を示す。lの範囲は、数平均分子量により定まるものであり具体的な分子骨格の化学構造により変動するが、概ね0.1~500であり、1~100であることが好ましく、10~50であることがより好ましい。
【0089】
【0090】
式(18)中、Q1、k、及びA1は、式(1)のQ1、k、及びA1とそれぞれ同義である。式(18)中、Q2、及びB1は、式(4)のQ2、及びB1とそれぞれ同義である。式(18)中、mは、0より大きい実数を示す。mの範囲は、数平均分子量により定まるものであり具体的な分子骨格の化学構造により変動するが、概ね0.1~500であり、1~100であることが好ましく、10~50であることがより好ましい。
【0091】
【0092】
式(19)中、Q1、k、及びA1は、式(1)のQ1、k、及びA1とそれぞれ同義である。式(19)中、Q2、及びB1は、式(4)のQ2、及びB1とそれぞれ同義である。式(19)中、nは、0より大きい実数を示す。nの範囲は、数平均分子量により定まるものであり具体的な分子骨格の化学構造により変動するが、概ね0.1~500であり、1~100であることが好ましく、10~50であることがより好ましい。
【0093】
式(17)中のl、式(18)中のm、及び式(19)中のnは、それぞれ繰り返し数を示し、各分子の分子構造においては、0より大きい実数を示す。これらの値は、生成するケイ素含有オリゴマーが種々の混合物から構成される観点から、数平均値の性格を持ち、数平均分子量により制限される。
【0094】
〔ケイ素含有オリゴマーの製造方法〕
(逐次重合反応)
<反応時のビニル基とSiHの比率>
本実施形態のケイ素含有オリゴマーは、上記式(1)で表される末端が炭素-炭素二重結合である化合物と、上記式(4)で表される末端がSiH基である化合物とを、金属触媒の存在下又は不存在下にて、逐次重合反応させることにより得ることができる。その時の炭素-炭素二重結合とSiH基とのモル比率r(r=SiH/二重結合(モル/モル))を適宜調整することにより、得られるケイ素含有オリゴマーの構造と数平均分子量とを制御することができる。
【0095】
モル比率rを1未満で反応させることにより、末端に炭素-炭素二重結合を有するケイ素含有オリゴマーをより確実に合成することができる。モル比率rを1より大きい比率で反応させることにより、末端にSiH基を有するケイ素含有オリゴマーをより確実に合成することができる。
【0096】
モル比率rが1に近いほど、より数平均分子量の大きなケイ素含有オリゴマーを得ることができる傾向にある。そのような観点から、好ましいモル比率rは0.5~2.0であり、より好ましくは0.7~1.4であり、更に好ましくは0.8~1.3であり、更により好ましくは0.9~1.1である。
【0097】
<金属触媒>
式(1)で表される化合物と、式(4)で表される化合物とを反応させるときに金属触媒を使用すると、副反応を抑制でき、純度の高いケイ素含有オリゴマーが得られる傾向にある。そのため、逐次重合反応には、金属触媒を用いることが好ましい。金属触媒としては、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、及びスズ(Sn)が挙げられる。金属触媒としては、より速やかに反応を進行させる傾向にあることから、Pt含有触媒が好ましい。
【0098】
そのようなPt含有触媒としては、例えば、白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、[1,3-Bis(cyclohexyl)imidazol-2-ylidene][1,3-divinyl-1,1,3,3-tetramethyldisiloxane]platinum(0)、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)プラチナ(IV)、[1,3-Bis(2,6-diisopropylphenyl)-imidazolidinylidene][1,3-divinyl-1,1,3,3-tetramethyldisiloxane]platinum(0)、及び[1,3-Bis(2,6-diisopropylphenyl)imidazol-2-ylidene][1,3-divinyl-1,1,3,3-tetramethyldisiloxane]platinum(0)が挙げられる。
【0099】
Pt含有触媒としては、白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、及び白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体と[1,3-Bis(2,6-diisopropylphenyl)imidazol-2-ylidene][1,3-divinyl-1,1,3,3-tetramethyldisiloxane]platinum(0)との下記式(20)で表される化合物が、副反応がより抑制され、高分子量化反応がより速やかに進行することから、好ましい。下記式(20)で表される化合物は、市販品を用いてもよく、公知の方法により製造された化合物を用いてもよい。そのような市販品としては、例えば、ユミコアジャパン(株)製HS425(商品名)が挙げられる。
【0100】
【0101】
<金属触媒の添加量>
金属触媒の添加量は、式(4)で示される化合物に対して、金属の重量換算で10ppm~1000ppmが好ましく、100ppm~300ppmがより好ましい。
【0102】
<逐次重合反応温度>
逐次重合反応の反応温度は、通常、室温~250℃の範囲で行われる。反応温度は、好ましくは40℃~120℃の範囲であり、50℃~100℃の範囲であることがより好ましい。
【0103】
<反応溶媒>
ケイ素含有オリゴマーを逐次重合反応により合成する際には、必要に応じて、反応溶媒として有機溶媒を使用することができる。そのような有機溶媒としては、例えば、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、及びヘプタン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、及び酢酸n-ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル類;ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミド等のアミド類;クロロホルム、塩化メチレン、及び四塩化炭素等のハロゲン化合物類;ジメチルスルホキシド、及びニトロベンゼン等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、反応がより円滑に進行し、より容易に溶媒を留去できる観点から、ジオキサン、及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、ジオキサンがより好ましい。
【0104】
〔硬化性樹脂組成物〕
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、下記成分(A)及び下記(B)成分を含む。
(A):本実施形態のケイ素含有オリゴマー
(B):重合開始剤
【0105】
(硬化反応)
<重合開始剤>
本実施形態の硬化性樹脂組成物には、重合開始剤を含有してもよい。
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、有機過酸化物、並びにPt、Pd、及びSnなどの金属触媒が挙げられる。重合開始剤としては、有機過酸化物であることが好ましい。
【0106】
重合開始剤として有機過酸化物を用いると、二重結合を末端とする成分比率の高いケイ素含有オリゴマーを重合させる場合においては、重合開始温度をより容易にコントロールできる傾向にある。重合開始剤として金属触媒を用いると、SiH基を末端とする成分比率の高いケイ素含有オリゴマーを重合させる場合においては、重合反応がより速やかに進行する傾向にある。
【0107】
硬化性樹脂組成物がより安定して保存でき、より好適な反応性を有する観点から、有機過酸化物としては、1分間半減期温度が155~180℃の範囲内にある有機過酸化物がより好ましい。そのような有機過酸化物としては、例えば、t-へキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(155.0℃)、t-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(166.0℃)、t-ブチルペルオキシラウレート(159.4℃)、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(158.8℃)、t-ブチルペルオキシ2-エチルへキシルモノカーボネート(161.4℃)、t-へキシルパーオキシベンゾエート(160.3℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(158.2℃)、t-ブチルペルオキシアセテート(159.9℃)、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン(159.9℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(166.8℃)、n-ブチル4,4-ジ-(t-ブチルペルオキシ)バレレート(172.5℃)、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(175.4℃)、ジクミルパーオキサイド(175.2℃)、ジ-t-へキシルパーオキサイド(176.7℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(179.8℃)、及びt-ブチルクミルパーオキサイド(173.3℃)が挙げられる。なお、有機過酸化物におけるカッコ内の温度は、1分間半減期温度を示す。
【0108】
それらの中でも、有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、及びt-ブチルクミルパーオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0109】
金属触媒としては、例えば、上記の式(1)で表される化合物と、式(4)で表される化合物を反応させるときに使用される金属触媒として例示したものが挙げられる。
【0110】
<重合開始剤の配合量>
硬化性樹脂組成物において、重合開始剤の配合量は、ケイ素含有オリゴマーを基準として、0.001~10.0phrであることが好ましい。重合開始剤の配合量が0.001phr以上であることで、重合開始剤としての効果がより充分に発揮され、硬化反応の進行をより促進することができ、硬化物の融点(Tg)をより高くできる傾向にある。重合開始剤の配合量が10.0phr以下であることで、硬化物への重合開始剤及びその分解物の残留をより少なくすることができる傾向にある。そのような観点から、重合開始剤の配合量は、より好ましくは0.1~5.0phrであり、更に好ましくは0.5~2.0phrである。
【0111】
<硬化温度>
ケイ素含有オリゴマーは、重合開始剤の存在下又は不存在下にて、加熱などすることにより硬化させることができる。硬化温度は、特に限定されないが、通常、室温~350℃の範囲で硬化することができる、硬化温度は、好ましくは100℃~250℃であり、より好ましくは120℃~230℃、更に好ましくは150℃~200℃である。
【0112】
<硬化時間>
硬化時間は、特に限定されないが、通常30分~10時間であり、好ましくは1時間~8時間であり、より好ましくは2時間~5時間である。
【0113】
<溶媒>
ケイ素含有オリゴマー及び硬化性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、有機溶媒又は無機溶媒を配合することができる。
【0114】
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、下記成分(C)を更に含むことが好ましい。
(C):有機溶媒
【0115】
有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、及び酢酸エチルが挙げられる。沸点がより低いため、樹脂組成物からより容易に蒸発除去し易く、かつ安全衛生面の観点から、有機溶媒としては、トルエン及びメチルエチルケトンが好ましい。
【0116】
<副資材>
ケイ素含有オリゴマー及び硬化性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、必要に応じて、無機充填剤などの添加剤を配合することができる。
【0117】
無機充填剤としては、例えば、球状あるいは破砕状の溶融シリカ、及び結晶シリカ等のシリカ粉末、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ、アスベスト、酸化マグネシウム、珪藻土、並びにグラファイトなどが挙げられる。
【0118】
その他の添加剤としては、例えば、微細シリカ粉末等のチクソ性付与剤、消泡剤、リン化合物及びハロゲン化合物等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、カーボンブラック、酸化鉄等の着色剤、変性ニトリルゴム、変性ポリブタジエン等のエラストマー、離型剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、並びに消泡剤が挙げられる。また、必要に応じて、ガラス繊維、ガラス布、及び炭素繊維等を含有させることができる。
【0119】
本実施形態に係る硬化方法によれば、架橋型プレポリマーの実用化に際して、脆性及び脆性に起因する接着性の課題を解決することができる。ケイ素含有オリゴマーの硬化物は、実用化に際して、より十分に高い融点(Tg)と、より高い靭性と、耐湿性、低吸水性、低硬化収縮性、寸法安定性、及び電気特性をより十分に発現する。
【実施例0120】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態について具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
【0121】
先ず、各物性の測定方法、評価方法について以下に述べる。
【0122】
(1)数平均分子量(Mn)
ケイ素含有オリゴマーの数平均分子量の測定装置として、(株)島津製作所製LC-10AD(商品名)を用い、標準ポリスチレンにより検量線を作成し、この検量線を利用して、後述する実施例及び比較例のケイ素含有オリゴマーの数平均分子量(Mn)の測定を行った。
標準ポリスチレンとしては、分子量が、580、1050、1200、1310,1990、2970、4490、5030,6180、6930、10700、16500、19800、55100、133000、288000、666000、1280000、及び2780000のものを用いた。
カラムは、(株)レゾナック社製Shodex(登録商標)LF-804(商品名)を2本直列につないだものを使用した。
溶剤は、THF(テトラヒドロフラン)を使用し、溶剤の流量は1.0mL/分、カラムの温度は40℃として測定した。
検出器は、示差屈折率検出器(RID-10A(商品名)、(株)島津製作所製)を使用した。
上記測定データに基づきGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により得られた分子量分布(Mw/Mn)を示す曲線に基づくピーク面積の割合から数平均分子量(Mn)を算出した。
【0123】
(2)NMR測定による化学構造の同定
ケイ素含有オリゴマーについて、1H-NMR測定により化学構造の同定を行った
測定装置 :超伝導フーリエ変換型核磁気共鳴測定装置
(JNM-EX400(商品名)、日本電子(株)製)
サンプル量:約1.0mg
測定溶媒 :重クロロホルム(CDCl3)、重ジメチルスルホキシド(DMSO)約5mL
内部標準 :テトラメチルシラン(TMS)
磁気強度 :400MHz
積算回数 :16回
【0124】
(3)耐加水分解性の評価
後述する実施例及び比較例のケイ素含有オリゴマーを評価サンプルとして、耐加水分解性は、その評価サンプルを用いて評価した。具体的には、15℃以上35℃以下、及び湿度30%以上80%以下の条件にて、評価サンプルを3日間保管し、その前後におけるビニル基の残存割合を1H-NMRを用いて測定した。次いで、その測定結果を用いて、下記の基準で耐加水分解性を評価した。
〔評価基準〕
A:ビニル基の残存割合が80%以上である。
B:ビニル基の残存割合が50%以上80%未満である。
C:ビニル基の残存割合が50%未満である。
【0125】
(4)強靭性評価
後述する実施例及び比較例のケイ素含有オリゴマー又はその硬化物を評価サンプルとして、強靭性は、それらの評価サンプルを用いて評価した。具体的には、下記の条件で引張特性試験を実施し、得られた応力-歪み曲線の下降面積から破壊エネルギーを求め、強靭性を評価した。なお、破壊エネルギーが大きいほど、強靭性により優れるケイ素含有オリゴマー又はその硬化物であることを示す。
〔引張特性試験の条件〕
試験装置:インストロン型引張試験機(AGS-J(商品名)、(株)島津製作所社製)
クロスヘッドスピード:2mm/min、最大荷重:100kgf
評価サンプル:1BB形試験片(1/5)サイズ、全長:30mm、幅:4mm、厚み:2mm
平行部の長さ:12mm、平行部の幅:2mm、丸みの半径:12mm
つかみ具間距離:24mm、標線間距離:10mm
【0126】
(5)接着強度の評価
後述する実施例及び比較例のケイ素含有オリゴマーを評価サンプルとして、接着強度は、その評価サンプルを用いて評価した。具体的には、JIS K6850:1999(ISO 4587:1995)に準拠して、下記の条件で引張せん断接着強さ試験を実施し、接着強度を評価した。なお、破断強度が大きいほど、接着性により優れる硬化物であることを示す。
なお、評価サンプルは、下記の方法で作製した。まず、3.2mm厚の軟鋼板をアセトンで洗浄し、その後、軟鋼板の表面を240番の研磨紙で研磨した。脱脂綿で、軟鋼板の表面に付着した研磨の粉などの汚れをふき取った。その後、軟鋼板の所定の面積に、後述する実施例及び比較例のケイ素含有オリゴマーを塗布し、クリップで固定して所定の条件で硬化した。その硬化物を評価サンプルとした。
次いで、その結果を用いて、下記の基準で接着強度を評価した。
〔引張せん断接着強さ試験〕
軟鋼板サイズ :長さ100±0.25mm×幅25.0±0.25mm×厚さ1.6±0.1mm
重ね長さ :12.5±0.25mm
推奨接着層厚さ:0.2mm
〔評価基準〕
【0127】
(6)破壊靭性の評価
後述する実施例及び比較例のケイ素含有オリゴマー又はその硬化物を評価サンプルとして、破壊靭性は、その評価サンプルを用いて評価した。具体的には、ASTM D5045に準拠して、三点曲げ試験にて評価サンプルを測定し、破壊靭性値を得て、破壊靭性を評価した。なお、破壊靭性値が大きいほど、破壊靭性により優れるケイ素含有オリゴマー又はその硬化物であることを示す。
【0128】
(7)硬化物のTg測定(DMA法)
ケイ素含有オリゴマーの硬化物のガラス転移温度(Tg)を、動的粘弾性測定にて下記の条件で測定した。
測定は、非共振強制振動型粘弾性測定解析装置(Rheogel-E4000(商品名)、(株)ユービーエム社製)を用い、引張りモードで行った。
この測定においてtanδのピーク温度を硬化物のガラス転移温度(Tg、℃)とした。
<測定条件>
サンプルサイズ:30mm×4.0mm×0.8mm
波形:正弦波
周波数:10Hz
変位振幅:5μm
測定温度:-150~250℃
昇温速度:2℃/min
【0129】
〔ケイ素含有オリゴマーA〕
(実施例1)
<テトラメチルビフェニルのジアリル化物(式(1)で表される化合物)の合成>
300mLのナスフラスコに、3,3',5,5'-テトラメチルビフェニル-4,4'-ジオール12.1g(5.0×10-2mol)を加え、1,4-ジオキサン120gを更に加えて、完全に溶解させた後、触媒としてトリエチルアミン24.2g(2.4×10-1mol)と、4-ジメチルアミノピリジン0.246g(2.0×10-3mol)とを加えて、混合液Aを得た。
【0130】
その後、クロロジメチルビニルシラン14.5g(1.2×10-1mol)と、1,4-ジオキサン14.6gとの混合溶液を、窒素雰囲気下(窒素の流量500mL/分)で15分かけて混合液Aに滴下し、窒素雰囲気下(窒素の流量500mL/分)にて60℃で2時間攪拌した。
攪拌後、未反応のクロロジメチルビニルシランをクエンチするためにメタノール3.85gを加えた。
【0131】
その後、吸引濾過を行い、得られた溶液を110℃でエバポレーターを用いて溶媒を除去し、収量18.1gで、収率88%のテトラメチルビフェニルのジアリル化物(VS-TMBP)を得た。
次いで、得られたVS-TMBP5gをヘキサン50gに溶解させ、その後、アセトニトリル20g加え、抽出を行った。抽出後、下層であるアセトニトリル溶液を除去した。この抽出操作を3回繰り返した。
【0132】
その後、得られたヘキサン溶液の溶媒をエバポレーターで除去し、下記式(21)に示す精製したVS-TMBPを得た。精製したVS-TMBPのNMR測定結果を
図1に示す。
【0133】
【0134】
<ケイ素含有オリゴマーAの合成>
次いで、100mLのナスフラスコに、精製したVS-TMBP2.06g(5.0×10-3mol)と、1,4-ジオキサン20gと、精製したVS-TMBPに対して0.9倍モル数の1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン0.87g(4.5×10-3mol)と、触媒として白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体の2%キシレン溶液1.46×10-2g(VS-TMBPに対して、白金の重量換算で140ppm)とを加えた。その後、窒素雰囲気下(窒素の流量500mL/分)にて90℃で3時間攪拌し、反応させた。攪拌後、反応液を150℃で1時間エバポレーターを用いて1,4-ジオキサンを除去し、収量2.80gで、収率96%のケイ素含有オリゴマーAを得た。
【0135】
GPC測定により、ケイ素含有オリゴマーAの数平均分子量は4850であることが分かった。なお、ケイ素含有オリゴマーAのGPC測定による分子量分布を
図2に示す。
また、ケイ素含有オリゴマーAのNMR測定結果を
図3に示す。
オリゴマーAの耐加水分解試験を行ったところ、ビニル基の残存率は95%以上であった。その結果から、耐加水分解性の評価結果はAであり、ケイ素含有オリゴマーAは耐加水分解性に優れていることが分かった。
【0136】
(応用実施例1)
ケイ素含有オリゴマーAを2gと、パーブチル(登録商標)P(商品名、日油(株)製、α,α-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン)を0.02gと、をアセトン中に溶解させた後、ロータリーエバポレーターを用いてアセトンを留去して、固形樹脂組成物Aを得た。固形樹脂組成物Aをメノウ乳鉢で粉砕後、アルミカップ(5mm×30mm)に入れた。真空チャンバー付きホットプレートにアルミカップを載せて、減圧下にて120℃で40分間加熱し、脱気処理を行うことで組成物Aを得た。その後、組成物Aを、180℃で1時間加熱し、更に220℃で1時間加熱し、300℃で1時間更に加熱することで、組成物Aを硬化させて硬化物Aを得た。
上記のDMA法により、硬化物AのTgを測定したところ、Tgは80℃であった。
【0137】
〔4,4’-[(ジメチルビニルシリル)オキシ]ビフェニル〕
(比較例1)
<4,4’-[(ジメチルビニルシリル)オキシ]ビフェニルの合成>
100mLのナスフラスコに、4,4’-ジヒドロキシビフェニル3.72g(2.0×10-2mol)を加え、1,4-ジオキサン37.2gを更に加えて、完全に溶解させた後、触媒としてトリエチルアミン9.70g(9.6×10-2mol)と、4-ジメチルアミノピリジン8.0×10-4molとを加えて、混合液aを得た。
【0138】
その後、クロロジメチルビニルシラン5.80g(4.8×10-2mol)と、1,4-ジオキサン5.93gとの混合溶液を、15分かけて混合液aに滴下し、室温で2時間攪拌した。その後、液温を60℃に上げて、その液温にて2時間更に攪拌した。
【0139】
攪拌後、未反応のクロロジメチルビニルシランをクエンチするためにメタノールを1.58g加えた。
【0140】
その後、吸引濾過を行い、得られた溶液を110℃で0.5時間エバポレーターを用いて溶媒を除去し、収量6.07gで、収率89%の褐色の液体を得た。
【0141】
その褐色の液体についてNMRを用いて測定を行ったところ、生成物は4,4’-[(ジメチルビニルシリル)オキシ]ビフェニルであることを確認した。4,4’-[(ジメチルビニルシリル)オキシ]ビフェニルのNMR測定結果を
図4に示す。
得られた4,4’-[(ジメチルビニルシリル)オキシ]ビフェニルの耐加水分解試験を行ったところ、ビニル基の残存率は48%であった。その結果から、耐加水分解性の評価結果はCであり、4,4’-[(ジメチルビニルシリル)オキシ]ビフェニルは耐加水分解性に劣っていることが分かった。
また、耐加水分解試験後の4,4’-[(ジメチルビニルシリル)オキシ]ビフェニルのNMR測定結果を
図5に示す。