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2025-9245オーディオ信号処理装置及び遠隔制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009245
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】オーディオ信号処理装置及び遠隔制御システム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20250110BHJP
【FI】
G10K11/178 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112110
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 友彦
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061FF02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡易な構成でオーディオ信号の騒音成分を除去するオーディオ信号処理装置及び遠隔制御システムを提供する。
【解決手段】オーディオ信号処理装置において、IFFTは、騒音要素音データに格納されたフーリエ係数を逆高速フーリエ変換して生成した参照音を適応フィルタに出力し、減算器234は、入力するオーディオ信号Sから適応フィルタが出力する騒音キャンセル音を減算し出力信号S’としてスピーカに出力し、適応フィルタは、入力した参照音にフィルタ処理を施して出力すると共に、出力信号S’をエラーとしてフィルタ係数の適応動作を行う。騒音要素音データには、オーディオ信号Sに含まれる聴取対象音成分の主たる周波数帯域を含まず、想定される騒音成分の周波数帯域を含む周波数帯域である除去対象周波数帯域内から所定周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音の周波数領域の情報を表すフーリエ係数が格納される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
聴取対象音成分と騒音成分とを含む入力信号の騒音成分を抑制して出力信号として出力するオーディオ信号処理装置であって、
合成音信号を出力する合成音出力手段と、
前記合成音出力手段が出力する合成音信号を入力とする適応フィルタと、
前記入力音信号から前記適応フィルタの出力信号を減じて前記出力音信号として出力する減算手段とを有し、
前記適応フィルタは、前記減算手段が出力する前記出力音信号をエラーとして適応動作を行い、
前記合成音出力手段は、当該オーディオ信号処理装置において抑制の対象とする騒音成分の周波数帯域である除去対象周波数帯域内から抽出した複数の周波数の純音の合成音の信号を前記合成音信号として出力することを特徴とするオーディオ信号処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のオーディオ信号処理装置であって、
前記合成音出力手段は、前記除去対象周波数帯域内から一定の周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音の信号を前記合成音信号として出力することを特徴とするオーディオ信号処理装置。
【請求項3】
請求項1記載のオーディオ信号処理装置であって、
前記合成音出力手段は、出力する前記合成音信号の周波数領域の情報を格納した情報格納手段と、
前記情報格納手段に格納された情報を前記合成音信号に変換する変換手段とを有することを特徴とするオーディオ信号処理装置。
【請求項4】
請求項3記載のオーディオ信号処理装置であって、
前記合成音信号の周波数領域の情報はフーリエ係数であり、
前記変換手段は逆高速フーリエ変換により前記合成音信号への変換を行うことを特徴とするオーディオ信号処理装置。
【請求項5】
請求項3記載のオーディオ信号処理装置であって、
前記合成音信号の周波数領域の情報はウェーブレット変換係数であり、
前記変換手段は逆ウェーブレット変換により前記合成音信号への変換を行うことを特徴とするオーディオ信号処理装置。
【請求項6】
聴取対象音成分と騒音成分とを含む入力信号の騒音成分を抑制して出力信号として出力するオーディオ信号処理装置であって、
前記入力音信号を当該入力音信号の周波数領域の情報である第1情報に変換する第1変換手段と、
当該オーディオ信号処理装置において抑制の対象とする騒音成分の周波数帯域である除去対象周波数帯域内から抽出した複数の周波数の純音の合成音の信号を合成音信号として、当該合成音信号の周波数領域の情報を第2情報として格納した情報格納手段と、
前記情報格納手段に格納された前記第2情報を入力とし、騒音キャンセル音の周波数領域の情報である第3情報を出力する適応フィルタと、
前記第1情報から前記第3情報を減じた周波数領域の情報を第4情報として出力する減算手段と、
前記第4情報を音信号に変換し前記出力音信号として出力する第2変換手段とを有し、
前記適応フィルタは、前記第4情報をエラーとして適応動作を行うことを特徴とするオーディオ信号処理装置。
【請求項7】
請求項6記載のオーディオ信号処理装置であって、
前記合成音信号は、前記除去対象周波数帯域内から一定の周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音の信号であることを特徴とするオーディオ信号処理装置。
【請求項8】
請求項6記載のオーディオ信号処理装置であって、
前記周波数領域の情報はフーリエ係数であり、
前記第1変換手段は、高速フーリエ変換を行って入力音信号を前記第1情報に変換し、
前記第2変換手段は、逆高速フーリエ変換を行って前記第4情報を前記出力音信号に変換することを特徴とするオーディオ信号処理装置。
【請求項9】
請求項6記載のオーディオ信号処理装置であって、
前記周波数領域の情報はウェーブレット変換係数であり、
前記第1変換手段は、ウェーブレット変換を行って入力音信号を前記第1情報に変換し、
前記第2変換手段は、逆ウェーブレット変換を行って前記第4情報を前記出力音信号に変換することを特徴とするオーディオ信号処理装置。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載のオーディオ信号処理装置を備えた遠隔制御システムであって、
車両に搭載される車両側システムと、
前記車両を遠隔から制御する制御側システムとを有し、
前記車両側システムは、
前記聴取対象音と前記騒音とが混合した音をピックアップし監視音信号として出力するマイクと、
前記マイクが出力する監視音信号を前記制御側システムに送信する送信手段とを備え、
前記制御側システムは、前記車両側システムから前記監視音信号を受信する受信手段と、
スピーカと、
前記オーディオ信号処理装置を備え、
当該オーディオ信号処理装置に、前記受信手段が受信した前記監視音信号が前記入力音信号として入力し、当該オーディオ信号処理装置から前記出力音信号が前記スピーカに出力されることを特徴とする遠隔制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ信号に含まれる未知の騒音成分のレベルを低減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオ信号に含まれる未知の騒音成分のレベルを低減する技術としては、複数の音源信号が混合した混合信号から各音源信号の独立性等を利用して個々の音源信号を分離するブラインド音源分離を用いて、オーディオ信号に含まれる未知の騒音成分を除去する技術が知られている(たとえば、特許文献1、2)。
【0003】
この技術では、騒音下において聴取の対象とする音声が発生する空間において複数のマイクで収音を行い、各マイクが出力するオーディオ信号の相関の評価を行って、聴取の対象とする音声成分のみを抽出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6966750号公報
【特許文献2】特許第4616529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したブラインド音源分離を用いて未知の騒音成分を除去する技術によれば、多数のマイクを配置することが必要となるため、聴取の対象とする音声が発生する空間に多数のマイクの配置場所を確保できない場合には適用することができない。また、多数のマイクの配置場所を確保できる場合であっても、多数のマイク配置の煩雑な作業やコストの増加が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、比較的に簡易な構成によって、オーディオ信号に含まれる未知の騒音成分のレベルを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題達成のために、本発明は、聴取対象音成分と騒音成分とを含む入力信号の騒音成分を抑制して出力信号として出力するオーディオ信号処理装置に、合成音信号を出力する合成音出力手段と、前記合成音出力手段が出力する合成音信号を入力とする適応フィルタと、前記入力音信号から前記適応フィルタの出力信号を減じて前記出力音信号として出力する減算手段とを備えたものである。ここで、前記適応フィルタは、前記減算手段が出力する前記出力音信号をエラーとして適応動作を行う。また、前記合成音出力手段は、当該オーディオ信号処理装置において抑制の対象とする騒音成分の周波数帯域である除去対象周波数帯域内から抽出した複数の周波数の純音の合成音の信号を前記合成音信号として出力する。
【0008】
ここで、このオーディオ信号処理装置は、前記合成音出力手段において、前記除去対象周波数帯域内から一定の周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音の信号を前記合成音信号として出力してもよい。
ここで、このオーディオ信号処理装置は、前記合成音出力手段を、出力する前記合成音信号の周波数領域の情報を格納した情報格納手段と、前記情報格納手段に格納された情報を前記合成音信号に変換する変換手段とより構成してもよい。
また、この場合、このオーディオ信号処理装置において、前記合成音信号の周波数領域の情報をフーリエ係数とし、前記変換手段において、逆高速フーリエ変換により前記合成音信号への変換を行うようにしてもよい。
または、この場合、このオーディオ信号処理装置において、前記合成音信号の周波数領域の情報をウェーブレット変換係数とし、前記変換手段において、逆ウェーブレット変換により前記合成音信号への変換を行ってもよい。
また、前記課題達成のために、本発明は、聴取対象音成分と騒音成分とを含む入力信号の騒音成分を抑制して出力信号として出力するオーディオ信号処理装置に、前記入力音信号を当該入力音信号の周波数領域の情報である第1情報に変換する第1変換手段と、当該オーディオ信号処理装置において抑制の対象とする騒音成分の周波数帯域である除去対象周波数帯域内から抽出した複数の周波数の純音の合成音の信号を合成音信号として、当該合成音信号の周波数領域の情報を第2情報として格納した情報格納手段と、前記情報格納手段に格納された前記第2情報を入力とし、騒音キャンセル音の周波数領域の情報である第3情報を出力する適応フィルタと、前記第1情報から前記第3情報を減じた周波数領域の情報を第4情報として出力する減算手段と、
前記第4情報を音信号に変換し前記出力音信号として出力する第2変換手段とを備えたものである。ここで、前記適応フィルタは、前記第4情報をエラーとして適応動作を行う。
【0009】
ここで、このようなオーディオ信号処理装置において、前記合成音信号は、前記除去対象周波数帯域内から一定の周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音の信号としてもよい。
また、このようなオーディオ信号処理装置において、前記周波数領域の情報をフーリエ係数とし、前記第1変換手段において、高速フーリエ変換を行って入力音信号を前記第1情報に変換し、前記第2変換手段において、逆高速フーリエ変換を行って前記第4情報を前記出力音信号に変換してもよい。
【0010】
または、このようなオーディオ信号処理装置において、前記周波数領域の情報をウェーブレット変換係数とし、前記第1変換手段において、ウェーブレット変換を行って入力音信号を前記第1情報に変換し、前記第2変換手段において、逆ウェーブレット変換を行って前記第4情報を前記出力音信号に変換してもよい。
【0011】
また、併せて、本発明は、以上のオーディオ信号処理装置を備えた遠隔制御システムを提供する。この遠隔制御システムは、車両に搭載される車両側システムと、前記車両を遠隔から制御する制御側システムとを有し、前記車両側システムは、前記聴取対象音と前記騒音とが混合した音をピックアップし監視音信号として出力するマイクと、前記マイクが出力する監視音信号を前記制御側システムに送信する送信手段とを備えている。また、前記制御側システムは、前記車両側システムから前記監視音信号を受信する受信手段と、スピーカと、前記オーディオ信号処理装置を備えており、当該オーディオ信号処理装置に、前記受信手段が受信した前記監視音信号が前記入力音信号として入力し、当該オーディオ信号処理装置から前記出力音信号が前記スピーカに出力される。
【0012】
以上のようなオーディオ信号処理装置によれば、複数のマイクを必要としない簡易な構成によって、入力音信号に含まれる未知の騒音成分のレベルを低減して出力音信号として出力することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、比較的に簡易な構成によって、オーディオ信号に含まれる未知の騒音成分のレベルを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る遠隔制御システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るオーディオ信号処理装置の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る参照音データを模式的に示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る騒音キャンセル音の例を示す図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るオーディオ信号処理装置の他の構成例を示すブロック図である。
図6】本発明の第3実施形態に係るオーディオ信号処理装置の他の構成例を示すブロック図である。
図7】本発明の第4実施形態に係るオーディオ信号処理装置の他の構成例を示すブロック図である。
図8】本発明の第5実施形態に係るオーディオ信号処理装置の他の構成例を示すブロッ
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について遠隔制御システムへの適用を例にとり説明する。
まず、第1の実施形態について説明する。
図1に、本第1実施形態に係る遠隔制御システムの構成を示す。
遠隔制御システムは、重機などの工事車両を遠隔制御するためのシステムであり、工事車両に搭載された車両システム1と、遠隔制御室に設置された遠隔制御室システム2を備えている。
車両システム1は、工事車両の動作を操作するアクチュエータ11、周辺や車室内などを撮影するカメラ12、工事車両や周辺の状態を検知するセンサ13、操作音や警告音など聴取対象音とエンジンノイズなどの騒音とが混合した音をピックアップするマイク14、制御装置15を備えている。
【0016】
そして、制御装置15は、カメラ12で撮影した映像や、センサ13で検知した状態や、マイク14でピックアップしたオーディオ信号を、ネットワーク3を介して遠隔制御室システム2に送信すると共に、遠隔制御室システム2から受信した制御信号に従ってアクチュエータ11を駆動して工事車両を動作させる。
【0017】
一方、遠隔制御室システム2は、コントローラ21、モニタ22、オーディオ信号処理装置23、スピーカ24、遠隔制御装置2を備えている。
遠隔制御装置25は、コントローラ21で受け付けたオペレータの操作に従った制御信号を、ネットワーク3を介して車両システム1に送信することにより工事車両の動作を制御する。また、遠隔制御装置25は、ネットワーク3を介して車両システム1から受信した映像や状態をモニタ22に表示すると共に、ネットワーク3を介して車両システム1から受信したオーディオ信号をオーディオ信号処理装置23に出力する。
【0018】
そして、オーディオ信号処理装置23は、遠隔制御装置25から出力されたオーディオ信号に、騒音成分を抑制する信号処理を施してスピーカ24に出力する。
以下、オーディオ信号処理装置23について説明する。
図2に、オーディオ信号処理装置23の構成を示す。
図示するように、オーディオ信号処理装置23は、騒音要素音データ231、逆高速フーリエ変換を行うIFFT232、適応フィルタ233、遠隔制御装置25から入力するオーディオ信号Sから適応フィルタ233の出力を減算し出力信号S’としてスピーカ24に出力する減算器234を備えている。
【0019】
騒音要素音データ231にはフーリエ係数が格納されており、IFFT232はフーリエ係数を逆高速フーリエ変換して生成した参照音を適応フィルタ233に出力する。
適応フィルタ233は、入力した参照音にフィルタ処理を施して減算器234に騒音キャンセル音として出力する。また、適応フィルタ233は、減算器234が出力する出力信号S’をエラーとして、エラーが最小となるようにLMSやNLMS等の適応アルゴリズムによって参照音に施すフィルタ処理のフィルタ係数(伝達関数、タップ係数)を適応させる。
【0020】
さて、騒音要素音データ231に格納されるフーリエ係数は、所定の周波数帯域である除去対象周波数帯域内から所定周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音を周波数領域の情報で表現したものである。
すなわち、騒音要素音データ231に格納されるフーリエ係数は、IFFT23で逆高速フーリエ変換した参照音が、除去対象周波数帯域内から所定周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音となるように決定している。
したがって、騒音要素音データ231とIFFT232は上記純音の合成音を出力する音源装置として機能する。
また、騒音要素音データ231に格納されるフーリエ係数は、たとえば、合成音をf(t)として下式1によって求めたF(ω)と等価となる。
また、騒音要素音データ231に格納されたフーリエ係数F(ω)を、たとえば式2によって逆高速フーリエ変換した音f(t)が参照音となる。
【0021】
【数1】
【0022】
各純音の周波数のフーリエ係数の値、すなわち、合成音に合成される複数の周波数の純音の大きさ(振幅やパワー)は、全て同じ大きさとする。ただし、周波数毎に大きさを変えるようにしてもよい。
除去対象周波数帯域は、オーディオ信号Sに含まれる聴取対象音成分の主たる周波数帯域を含まず、想定される騒音成分の周波数帯域を含むように設定する。
たとえば、想定される騒音成分がエンジンノイズであれば、図3aに合成音の周波数スペクトルによって示すように、低次高調波も考慮し、20Hz-800Hzの範囲を除去対象周波数帯域とし、純音の周波数間隔は5Hzとする。
なお、除去対象周波数帯域は、必ずしも20Hz-800Hzである必要はなく、20Hz-1kHz等の他の範囲の周波数帯域としてよい。
また、図3bに除去対象周波数帯域を二つ設定した場合を例示したように複数設定してもよい。
このようなオーディオ信号処理装置23によれば、フィルタ係数の適応により適応フィルタ233の出力する騒音キャンセル音とオーディオ信号Sとは、除去対象周波数帯域内の各周波数について、当該周波数の成分の大きさが近似したものとなる。
したがって、図4に20Hz-1kHzの帯域を除去対象周波数帯域とした場合について示したように、騒音キャンセル音は、オーディオ信号Sに含まれる除去対象周波数帯域の成分と近似したものとなり、結果、減算器234がスピーカ24に出力する出力信号S’は、オーディオ信号Sの騒音成分のレベルが低減されたものとなる。
【0023】
一方、オーディオ信号Sの除去対象周波数帯域外の周波数帯域に大きな影響を与えることはないので、オーディオ信号Sの聴取対象音成分はほぼ減衰せずに出力信号S’に含まれることとなり、オペレータは、スピーカ24の出力音から聴取対象音を良好に聴き取ることができる。
【0024】
以上、本発明の第1実施形態について説明した。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本第2実施形態は、第1実施形態のオーディオ信号処理装置23の動作と同等の信号処理を周波数領域で行うようにしたものであり、オーディオ信号処理装置23の構成のみが異なる。
図5に、第2実施形態に係るオーディオ信号処理装置23の構成を示す。
図示するように第2実施形態に係るオーディオ信号処理装置23は、騒音要素音データ531、周波数領域適応フィルタ532、FFT533、減算器534、IFFT535を備えている。
騒音要素音データ531には、第1実施形態の騒音要素音データ231と同じフーリエ係数が格納されている。
FFT533は、遠隔制御装置25から入力するオーディオ信号Sを高速フーリエ変換し、オーディオ信号Sの周波数領域の情報であるフーリエ係数を減算器534に出力する。
減算器534は、各周波数について、FFT533から入力するフーリエ係数から周波数領域適応フィルタ532の出力するフーリエ係数を減算して、周波数領域適応フィルタ532とIFFT535に出力する。
IFFT535は減算器534が出力したフーリエ係数を逆高速フーリエ変換して出力信号S’としてスピーカ24に出力する。
周波数領域適応フィルタ532は、騒音要素音データ531に格納されたフーリエ係数にフィルタ処理を施して減算器534に出力する。
また、周波数領域適応フィルタ532は、減算器534が出力するフーリエ係数をエラーとして、エラーが最小となるようにLMSやNLMS等の適応アルゴリズムによって、騒音要素音データ531に格納されたフーリエ係数に施すフィルタ処理のフィルタ係数を適応させる。
【0025】
このような第2実施形態によれば第1実施形態のオーディオ信号処理装置23の動作と同等の信号処理を周波数領域で行うことができ、第1実施形態と同様に、オーディオ信号Sからおおよそ騒音成分のみレベルを低減したオーディオ信号を出力信号S’として生成し、スピーカ24から出力することができる。
【0026】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本第3実施形態は、第1実施形態のオーディオ信号処理装置23の動作と同等の信号処理を、フーリエ変換に代えてウェーブレット変換を用いて行うようにしたものであり、オーディオ信号処理装置23の構成のみが異なる。
図6に、第3実施形態に係るオーディオ信号処理装置23の構成を示す。
図示するように、オーディオ信号処理装置23は、騒音要素音データ631、逆ウェーブレット変換を行う逆ウェーブレット変換部632、適応フィルタ633、遠隔制御装置25から入力するオーディオ信号Sから適応フィルタ633の出力を減算し出力信号S’としてスピーカ24に出力する減算器634を備えている。
【0027】
騒音要素音データ631にはウェーブレット変換係数が格納されており、逆ウェーブレット変換部632はウェーブレット変換係数を逆ウェーブレット変換して生成した参照音を適応フィルタ633に出力する。
適応フィルタ633は、入力した参照音にフィルタ処理を施して減算器634に出力する。また、適応フィルタ633は、減算器634が出力する出力信号S’をエラーとして、エラーが最小となるようにLMSやNLMS等の適応アルゴリズムによって参照音に施すフィルタ処理のフィルタ係数を適応させる。
【0028】
さて、騒音要素音データ631に格納されるウェーブレット変換係数は、第1実施形態と同様に、除去対象周波数帯域内から所定周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音を周波数領域の情報で表現したものである。
すなわち、騒音要素音データ631に格納されるウェーブレット変換係数は、逆ウェーブレットした参照音が、所定の周波数帯域である除去対象周波数帯域内から所定周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音となるように決定している。
したがって、騒音要素音データ631と逆ウェーブレット変換部632は上記純音の合成音を出力する音源装置として機能する。
ここで、ウェーブレット変換は、周波数領域の情報と時間領域の情報を得ることができるが、本第3実施形態で騒音要素音データ631に格納されるウェーブレット変換係数は、時間的変動は表さず、したがって、参照音に含まれる各周波数の純音の成分の大きさは時間的に変化しない。
【0029】
また、騒音要素音データ631に格納されるウェーブレット変換係数は、合成音をf(t)として、たとえば、下式3によって求めたT(a、b)と等価となる。
ここで、式中のaはスケールパラメータ、bはシフトパラメータ、Ψa、bはスケールaかつシフトbのウェーブレット、*は複素共役を表す。
また、騒音要素音データ631に格納されたウェーブレット変換係数T(a、b)を、たとえば式4によって逆ウェーブレット変換した音f(t)が参照音となる。ここで、式中のCΨはマザーウェーブレットの種類に対して定まる定数である。
【0030】
【数2】
【0031】
このような第3実施形態によれば第1実施形態のオーディオ信号処理装置23の動作と同等の信号処理をフーリエ変換に代えてウェーブレット変換を用いて行うことができ、第1実施形態と同様に、オーディオ信号Sからおおよそ騒音成分のレベルのみを低減したオーディオ信号を出力信号S’として生成し、スピーカ24から出力することができる。
【0032】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
本第4実施形態は、第3実施形態のオーディオ信号処理装置23の動作と同等の信号処理をウェーブレット変換係数領域で行うようにしたものであり、オーディオ信号処理装置23の構成のみが異なる。
図7に、第4実施形態に係るオーディオ信号処理装置23の構成を示す。
図示するように第2実施形態に係るオーディオ信号処理装置23は、騒音要素音データ731、ウェーブレット変換係数領域適応フィルタ732、ウェーブレット変換部733、減算器734、逆ウェーブレット変換部735を備えている。
騒音要素音データ731には、第3実施形態の騒音要素音データ631と同じウェーブレット変換係数が格納されている。
ウェーブレット変換部733は、遠隔制御装置25から入力するオーディオ信号Sをウェーブレット変換し、オーディオ信号Sを周波数領域の情報で表すウェーブレット変換係数を減算器734に出力する。
減算器734は、各ウェーブレットについて、ウェーブレット変換部733から入力するウェーブレット変換係数からウェーブレット変換係数領域適応フィルタ732の出力するウェーブレット変換係数を減算して、ウェーブレット変換係数領域適応フィルタ732と逆ウェーブレット変換部735に出力する。
【0033】
逆ウェーブレット変換部735は減算器734が出力したウェーブレット変換係数を逆ウェーブレット変換して出力信号S’としてスピーカ24に出力する。
ウェーブレット変換係数領域適応フィルタ732は、騒音要素音データ731に格納されたウェーブレット変換係数にフィルタ処理を施して減算器734に出力する。
フまた、ウェーブレット変換係数領域適応フィルタ732は、減算器734が出力するウェーブレット変換係数をエラーとして、エラーが最小となるようにLMSやNLMS等の適応アルゴリズムによって、騒音要素音データ731に格納されたウェーブレット変換係数に施すフィルタ処理のフィルタ係数を適応させる。
【0034】
このような第4実施形態によれば第3実施形態のオーディオ信号処理装置23の動作と同等の信号処理をウェーブレット変換係数領域で行うことができ、第3実施形態と同様に、オーディオ信号Sからおおよそ騒音成分のレベルのみを低減したオーディオ信号を出力信号S’として生成し、スピーカ24から出力することができる。
【0035】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
本第5実施形態は、第1実施形態のオーディオ信号処理装置23の動作と同等の信号処理を、フーリエ変換を用いずに行うようにしたものであり、オーディオ信号処理装置23の構成のみが異なる。
図8に、第5実施形態に係るオーディオ信号処理装置23の構成を示す。
図示するように、オーディオ信号処理装置23は、除去対象周波数帯域内から所定周波数間隔おきに抽出した複数の周波数の純音の合成音上述した純音の合成音のオーディオデータを設定した音源装置831、適応フィルタ832、遠隔制御装置25から入力するオーディオ信号Sから適応フィルタ832の出力を減算し出力信号S’としてスピーカ24に出力する減算器733を備えている。
【0036】
音源装置831は、設定されているオーディオデータを再生し参照音として適応フィルタ832に出力する。
適応フィルタ832は、入力した参照音にフィルタ処理を施して減算器833に出力する。また、適応フィルタ832は、減算器833が出力する出力信号S’をエラーとして、エラーが最小となるようにLMSやNLMS等の適応アルゴリズムによって参照音に施すフィルタ処理のフィルタ係数を適応させる。
【0037】
このような第5実施形態によれば、第1実施形態のオーディオ信号処理装置23の動作と同等の信号処理をフーリエ変換を用いずに行うことができ、第3実施形態と同様に、オーディオ信号Sからおおよそ騒音成分のレベルのみを低減したオーディオ信号を出力信号S’として生成し、スピーカ24から出力することができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明した。
以上に示してきたように各実施形態によれば、複数のマイクを必要としない簡易な構成によって、オーディオ信号Sに含まれる未知の騒音成分を抑制して出力信号S’として出力することができる。
ここで、ここまで遠隔制御システムへの適用を例にとり示したが、以上の各実施形態は、任意のシステムにおいて、マイク14でピックアップした聴取対象音と騒音とが混合した音から、騒音成分のレベルを低減するために用いることができる。
たとえば、以上の各実施形態をオンライン会議システムに適用すれば、乗り物の中から移動端末等でオンライン会議に参加している参加者から受信した受信音から騒音のレベルを低減して他の参加者の端末のスピーカ24に出力すること等が、移動端末のノイズキャンセルの機能や依存せずにできるようになる。
【符号の説明】
【0039】
1…車両システム、2…遠隔制御室システム、3…ネットワーク、11…アクチュエータ、12…カメラ、13…センサ、14…マイク、15…制御装置、21…コントローラ、22…モニタ、23…オーディオ信号処理装置、24…スピーカ、25…遠隔制御装置、231…騒音要素音データ、232…IFFT、233…適応フィルタ、234…減算器、531…騒音要素音データ、532…周波数領域適応フィルタ、533…FFT、534…減算器、535…IFFT、631…騒音要素音データ、632…逆ウェーブレット変換部、633…適応フィルタ、634…減算器、731…騒音要素音データ、732…ウェーブレット変換係数領域適応フィルタ、733…ウェーブレット変換部、734…減算器、735…逆ウェーブレット変換部、831…音源装置、832…適応フィルタ、833…減算器。
図1
図2
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図5
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図7
図8