(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009264
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】オンサイト封じ込め性能評価方法、及びラクトース検出キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/34 20060101AFI20250110BHJP
C12Q 1/32 20060101ALI20250110BHJP
C12Q 1/66 20060101ALI20250110BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20250110BHJP
C12N 9/38 20060101ALN20250110BHJP
【FI】
C12Q1/34
C12Q1/32
C12Q1/66
C12N9/04 D
C12N9/04 Z
C12N9/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112140
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】矢野 慧一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 勲
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ68
4B063QR02
4B063QR04
4B063QR57
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】薬剤代替試料を用いたオンサイト封じ込め性能評価方法を提供する。
【解決手段】評価対象空間中の粉体の飛散状態を評価するオンサイト封じ込め性能評価方法であって、評価対象空間中に前記粉体としてラクトースを発塵及び飛散させる工程と、前記評価対象空間の中及び外のうち少なくとも一方の所定位置で飛散したラクトースを捕集する工程と、捕集したラクトースと、水と、酵素とを含む捕集液を調製し、前記捕集液において前記ラクトースと前記酵素を接触させ、前記ラクトースを基質とする酵素基質反応を行い、前記酵素基質反応により生じる生成物を定量的または定性的に分析する工程と、を有するオンサイト封じ込め性能評価方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象空間中の粉体の飛散状態を評価するオンサイト封じ込め性能評価方法であって、
評価対象空間中に前記粉体としてラクトースを発塵及び飛散させる工程と、
前記評価対象空間の中及び外のうち少なくとも一方の所定位置で飛散したラクトースを捕集する工程と、
捕集したラクトースと、水と、酵素とを含む捕集液を調製し、前記捕集液において前記ラクトースと前記酵素を接触させ、前記ラクトースを基質とする酵素基質反応を行い、前記酵素基質反応により生じる生成物を定量的または定性的に分析する工程と、
を有するオンサイト封じ込め性能評価方法。
【請求項2】
前記酵素が、ラクターゼ、を含む、請求項1に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法。
【請求項3】
前記酵素が、さらに、グルコース脱水素酵素及びガラクトース脱水素酵素のうち、少なくとも一方を含む、請求項2に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法。
【請求項4】
前記酵素が、さらに、プロルシフェリンの還元酵素及びルシフェラーゼを含む、請求項3に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法。
【請求項5】
前記分析が、酵素基質反応開始時から2時間以内の期間内で行われる、請求項1に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法。
【請求項6】
請求項1に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法に使用されるラクトース検出キットであって、
前記捕集液中に含まれるラクトースを測定するための試薬を備え、
前記試薬は、前記酵素として、ラクターゼ、グルコース脱水素酵素、ガラクトース脱水素酵素、プロルシフェリンの還元酵素、及びルシフェラーゼから選択される1種以上を含む、ラクトース検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤代替試料を用いたオンサイト封じ込め性能評価方法、及びラクトース検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の製造においては、装置を共有化する場合が多く、その際、交差汚染や異物混入を防ぐために容器・装置や設備の洗浄作業が重要である。薬理活性物質のクロスコンタミネーションの防止、及び、作業従事者の労働安全衛生の観点から、粉体取扱い設備の封じ込め性能評価が実施されている。特に近年、ごく微量の曝露でも身体に影響を与えうる高薬理活性物質の取扱いが増加していることから、封じ込め性能評価はより一層重要性を増している。
【0003】
医薬品製造機器の粒子封じ込め性能評価の方法として、ISPE(国際製薬技術行協会)から技術規範ガイド「製薬機器の封じ込め(コンテインメント)性能評価」(SMEPAC:The Standardized Measurement of Equipment Particulate Airborne Concentration)が発行されている。2012年に第2版が発行され、ラクトースを代表とする代替試料を用いた封じ込め性能評価が推奨されている。
【0004】
ラクトースは医薬品の賦形剤としても利用される化合物であり、測定をしている人間に無害であり、交差汚染のリスクがなく、水に溶けやすい、安定性が良好、といった特徴を有する。
【0005】
封じ込め評価に用いる試料として、ラクトース等の代替試料のほかに、アデノシン5’-三リン酸(ATP)粉体を模擬粉体として利用すること(例えば特許文献1)が考えられる。そのほかには、ATPを添着したラクトース粉末(例えば特許文献2、特許文献3)や、リボフラビンを添着したラクトース粉末(例えば特許文献4)が提案されており、封じ込め性能評価及び粉体飛散状態評価が実施されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-276468号公報
【特許文献2】特開2014-221012号公報
【特許文献3】特開2014-222164号公報
【特許文献4】特開2015-194382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~4に記載されたアデノシン5’-三リン酸(ATP)粉体等の模擬粉体を用いて封じ込め性能評価等を実施すると、測定施設内におけるオンサイトでの封じ込め性能評価をすることができる。
【0008】
いずれの場合においても、SMEPACで推奨されるラクトースなどの代替試料そのものを利用したオンサイトでの封じ込め性能評価はされていない。模擬粉体を用いる際に生じる問題点としては、代替試料と比較して粒子密度や粒度分布、帯電性、水溶性が異なるため、残留性及び飛散性に違いがでることが挙げられる。ほかには、SMEPAC推奨外の試料であるため新たにリスクアセスメントが必要であること、模擬粉体を用いた封じ込め性能評価後に徹底的な洗浄が求められること、などが挙げられる。
【0009】
SMEPACで推奨されるラクトースを用いた封じ込め性能評価では、測定施設で採取した試料を、分析機関に輸送し、高速液体クロマトグラフなどの高価かつ大がかりな装置を用いてラクトースを定量分析する必要があった。このため、オンサイトで封じ込め性能を評価する技術が求められていた。
【0010】
本発明は、薬剤代替試料であるラクトースを用いた、測定施設内におけるオンサイトでの封じ込め性能評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は以下の構成を備える。
[1]
評価対象空間中の粉体の飛散状態を評価するオンサイト封じ込め性能評価方法であって、
前記評価対象空間中に前記粉体としてラクトースを発塵及び飛散させる工程と、
前記評価対象空間の中及び外のうち少なくとも一方の所定位置で飛散したラクトースを捕集する工程と、
捕集したラクトースと、水と、酵素とを含む捕集液を調製し、前記捕集液において前記ラクトースと前記酵素を接触させ、前記ラクトースを基質とする酵素基質反応を行い、前記酵素基質反応により生じる生成物を定量的または定性的に分析する工程と、
を有するオンサイト封じ込め性能評価方法。
[2]
前記酵素が、ラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)、を含む、[1]に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法。
[3]
前記酵素が、グルコース脱水素酵素及びガラクトース脱水素酵素のうち、少なくとも一方を含む、[1]または[2]に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法。
[4]
前記酵素が、プロルシフェリンの還元酵素を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法。
[5]
前記酵素が、ルシフェラーゼ、を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法。
[6]
前記分析が、酵素基質反応開始時から2時間以内の期間内で行われる、[1]~[5]のいずれか一項に記載のオンサイト封じ込め性能評価方法。
[7]
[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法に使用されるラクトース検出キットであって、前記捕集液中に含まれるラクトースを測定するための試薬を備え、
前記試薬は、ラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)、グルコース脱水素酵素、ガラクトース脱水素酵素、プロルシフェリン、プロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素、及びルシフェラーゼから選択される1種以上を含む、ラクトース検出キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薬剤代替試料であるラクトースを用いた、測定施設内におけるオンサイトでの封じ込め性能評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の測定工程で行う酵素反応工程1~7の反応経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第一態様は、薬剤代替試料であるラクトースを用いたオンサイト封じ込め性能評価方法(以下、単に「本発明の封じ込め性能評価方法」という場合がある。)である。以下、この実施の形態を説明するが、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
薬剤代替試料は、例えば、医薬品の製造施設や研究開発施設などの高薬理活性を有する粉体の取扱い施設において、この代替試料が飛散した際の飛散性や封じ込め性能を評価することで、高薬理活性を有する粉体の飛散状態を評価する目的で用いられる。また、高薬理活性医薬品の粉体に限らず、あらゆる対象粉体の飛散状態を評価するために適用可能である。
<封じ込め性能評価方法>
代替試料であるラクトースの飛散状態を評価する方法の一例を以下に説明する。
【0016】
本実施形態の評価方法は、医薬品等の対象粉体の代わりにラクトースの粉体(本明細書において、単に「ラクトース」という。)を用いて、対象粉体の飛散状態を評価する封じ込め性能評価方法であって、評価対象空間中にラクトースを発塵及び飛散させる工程(飛散工程)と、評価対象空間の中及び外のうち少なくとも一方の所定位置で飛散したラクトースを捕集し、回収する工程(捕集工程)と、回収したラクトースを定量的または定性的に分析する工程(測定工程)と、を有する。
【0017】
評価対象空間の中でラクトースを捕集した場合は、評価対象空間の中におけるラクトースの飛散状態を評価できる。評価対象空間の外でラクトースを捕集した場合は、評価対象空間から流出若しくは漏出したラクトースの飛散状態を評価できる。評価対象空間内にラクトースやこれに類する粉体を封じ込める意図がある場合、評価対象空間の外で捕集されるラクトースの量は少ないことが好ましい。
【0018】
飛散工程においてラクトースを発塵及び飛散させる方法としては、例えば、ラクトースをロータリードラムに入れて回転させる方法や、ホッパーからラクトースを放出する方法、あるいはエアブローを吹き付ける方法といった公知の方法を適用することができる。ラクトースを発塵及び飛散させる方法は、評価対象の空間の大きさや形態に応じて適宜選択することができる。
【0019】
評価対象の空間に飛散させたラクトースは、通常数分~数時間の間、評価対象の空間中に浮遊している。あらかじめ設定された捕集時間ごとに封じ込め性能評価対象である空間内外(すなわち捕集対象空間)に含まれるラクトースの粉体を逐次捕集する。捕集時間は任意に設定することができる。
【0020】
上記の評価対象の空間としては、例えば、医薬品製造工場における粉体取扱い室、粉体取扱いブース、クリーンブース、グローブボックス、粉体保管室等が挙げられる。
薬理活性の特に高い医薬品の許容曝露管理量(OEL:Occupational Exposure Limits)は通例1μg/m3以下とされている。本実施形態の粉体の飛散状態評価方法は、このような高薬理活性医薬品を対象とした施設(装置、設備)の評価に適用することができる。
【0021】
捕集工程におけるラクトース粒子の捕集方法としては、アクティブサンプリング法またはスワブ法を用いることができる。アクティブサンプリング法では、捕集対象空間内の空気を捕集材(例えば、SKC製IOMインハラブルダストサンプラー)に捕集し、捕集された粒子を捕集液に抽出する。スワブ法では、捕集対象空間内の床や壁面等の任意の表面の所定面積をスワブで拭き取った後、付着した粒子を捕集液に抽出する。スワブ材としては、例えば、アズワン製スマートチェックを用いることができる。捕集液としては、例えば、純水またはリン酸緩衝食塩水などの緩衝液を用いることができる。
【0022】
空間中に飛散されたラクトースの捕集方法は上記に限られることはない。捕集対象である空間内の空気を導入するとともに、導入した空気中に浮遊しているラクトースの粉体を含む空間中の空気(気体)をフィルタが備えられた捕集器に導いて、このフィルタで空間中に浮遊しているラクトースを捕集してもよい。また、あらかじめサンプリング用のシートを壁や床等に設置しておき、落下したラクトースを回収し、次いで、回収したラクトースを純水またはリン酸緩衝食塩水などの緩衝液等に溶解し、水溶液中にラクトースを捕集してもよい。上述のフィルタを備えた捕集器に替えて、ラクトースを溶解可能な溶媒が入ったインピンジャーを捕集器として使用することもできる。
【0023】
本実施形態の封じ込め性能評価方法により、例えば、評価対象の空間(第一空間)に隣接する空間(第二空間)に、ラクトース粒子が拡散しているか(漏出しているか)を評価することができる。第一空間及び第二空間において、上記の捕集方法により第一空間と第二空間におけるラクトース粒子の量または有無を確認し、第二空間で検出されたラクトースの量が、想定範囲内であるか否かを評価することができる。第二空間においてラクトースが検出されないまたは検出量が所定値よりも低ければ、第一空間におけるラクトースの封じ込め性能が良好であると判断できる。
【0024】
捕集したラクトースを定量的または定性的に分析することにより、着目した空間におけるラクトース粉体の飛散状態を評価することができる。ラクトースは、SMEPACで推奨される物質であることから、評価対象の空間で取り扱う実際の対象粉体(例えば、高薬理活性医薬品)の飛散性や残留性とラクトース粉体の飛散性や残留性が類似していると考えることができる。このため、ラクトース粉体の飛散状態から実際の対象粉体の飛散状態を知り、その封じ込め性能を評価することができる。すなわち、本実施形態の封じ込め性能評価においては、着目した箇所のラクトースの粉体を捕集し、分析するので、医薬品の粉体の飛散状態を直接的に評価できる。
【0025】
測定工程では、まず、捕集工程において取得したラクトースと、水と、酵素を含む捕集液を調製する。この捕集液を用い、下記の酵素反応工程1~7のいずれか1つ以上をこの順で、又はこれらの工程を一括して、行うことが好ましい。
酵素反応工程1は、捕集液中に含まれるラクトースと、ラクターゼ(βガラクトシダーゼ)との酵素反応により、ラクトースが加水分解し、ガラクトースとグルコースが生成される工程である。
酵素反応工程2は、酵素反応工程1で生じたD-グルコースと、グルコース脱水素酵素及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)との酵素反応により、D-グルコノラクトン及び還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)が生成される工程である。
酵素反応工程3は、酵素反応工程1で生じたD-ガラクトースと、ガラクトース脱水素酵素及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)との酵素反応により、D-ガラクトラクトン及び還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)が生成される工程である。
酵素反応工程4は、酵素反応工程2で生じた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)と、プロルシフェリン及びプロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素との酵素反応により、ルシフェリンが生成される工程である。
酵素反応工程5は、酵素反応工程3で生じた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)と、プロルシフェリン及びプロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素との酵素反応により、ルシフェリンが生成される工程である。
酵素反応工程6は、酵素反応工程4で生じたルシフェリンと、ルシフェラーゼ及びアデノシン5’-三リン酸(ATP)とが、マグネシウムイオン(Mg2+)と酸素の共存下で酵素反応することにより、生物発光を生じる工程である。
酵素反応工程7は、酵素反応工程5で生じたルシフェリンと、ルシフェラーゼ及びアデノシン5’-三リン酸(ATP)とが、マグネシウムイオン(Mg2+)と酸素の共存下で酵素反応することにより、生物発光を生じる工程である。
【0026】
酵素反応工程1~7では、ラクトース捕集液、ラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)、グルコース脱水素酵素、ガラクトース脱水素酵素、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、プロルシフェリン、プロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素、アデノシン5’-三リン酸(ATP)、マグネシウムイオン(Mg2+)、及びルシフェラーゼが水溶液中で接触すればよく、その添加順序は特に限定されない。
例えば、グルコース脱水素酵素及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を含む水溶液をあらかじめ調製し、そこに捕集工程において取得したラクトースを含む捕集液を添加することで、反応を開始することができる。
酵素反応工程はそれぞれの工程を個別に実施してもよいし、一部または全部をまとめて実施してもよく、それぞれの酵素工程に必要な試薬は同時に添加しても順次添加してもよい。
【0027】
酵素反応工程1~7の反応式をまとめて
図1に示す。
酵素反応工程1~7は、全ての工程を必ずしも実施する必要があるものではない。例えば、酵素反応工程1で生じたD-グルコースに対して、次なる酵素反応を行うことなく(D-グルコースとの酵素基質反応に必要なグルコース脱水素酵素及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)と接触させることなく)、酵素反応工程1で生じたD-ガラクトースにのみに対して、次なる酵素反応を行うことができる。すなわち、前述の場合は、酵素反応工程2及び4、6を実施することなく、酵素反応工程1及び3、5、7を実施することができる。また、酵素反応工程1及び2、4、6を実施してもよい。
酵素反応工程1~7は、公知の酵素基質反応方法に基づき実施することができる。
例えば、酵素反応工程1で生じたD-グルコースに対しての一連の反応は、グルコースアッセイキット(例えば、Promega製Glucose-Glo-Assay)を用いることができる。
【0028】
反応容器としては、それぞれの酵素反応工程において酵素反応が進むものであれば特別な限定はなく、酵素反応工程6及び酵素反応工程7においては、酵素反応の結果生じる生物発光を測定できるものであれば特別な限定はない。例えばガラス、金属、プラスチック等の反応容器が挙げられる。反応容器の形状には、特に制限はなく、例えばスライドガラス状、マイクロプレート状、円盤状等が挙げられる。
この中でも、多数の試料を測定することが可能であることから、マイクロプレート状であることが好ましい。マイクロプレートとしては、任意の数のウェルが配置されているものが挙げられる。ウェルの数としては、プレート1枚当たり、例えば、6、12、24、96、384、1,536個等が挙げられる。反応容器は、微細な流路を備えたマイクロ流路デバイスを構成していてもよい。反応容器のサイズは、使用する装置に適用できる範囲であれば構わない。
【0029】
酵素反応工程1では、捕集したラクトース水溶液と、ラクターゼ(βガラクトシダーゼ)とを接触させる。例えば、捕集したラクトース水溶液をマイクロプレートに所定量添加し、そこにラクターゼ(βガラクトシダーゼ)を所定量添加することで、両者を接触させることができる。
酵素反応工程1に用いるラクターゼ(βガラクトシダーゼ)としては、捕集工程において取得したラクトースの捕集液中に含まれるラクトースとの加水分解反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよい。例えば植物由来、酵母由来、細菌由来、のラクターゼ(βガラクトシダーゼ)が挙げられる。
酵素反応工程1を行う温度は、それぞれの酵素反応工程に係る酵素が触媒作用を示す限りにおいて特に限定されないが、ラクターゼの最適温度は48℃付近とされていることから、例えば、20~60℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。
【0030】
酵素反応工程2では、酵素反応工程1で生じたD-グルコースと、グルコース脱水素酵素及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)とを接触させる。例えば、酵素反応工程1を実施し、一定量のD-グルコースが生じたマイクロプレートのウェル中に、グルコース脱水素酵素及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を所定量添加することが挙げられる。
酵素反応工程2に用いるグルコース脱水素酵素としては、酵素反応工程1で生じたD-グルコースと酵素反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよく、例えば細菌由来のグルコース脱水素酵素が挙げられる。
酵素反応工程2での水溶液における、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の濃度は、特に限定されない。好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.2mM以上、さらに好ましくは0.5mM 以上である。また、上限は特に限定されないが、通常は5mM以下である。
【0031】
酵素反応工程3では、酵素反応工程1で生じたD-ガラクトースと、ガラクトース脱水素酵素及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)とを接触させる。例えば、酵素反応工程1を実施し、一定量のD-ガラクトースが生じたマイクロプレートのウェル中に、ガラクトース脱水素酵素及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を所定量添加することできる。ほかには、酵素反応工程1を実施し、D-グルコース及びD-ガラクトースが生じたマイクロプレートのウェル中に、グルコース脱水素酵素と、ガラクトース脱水素酵素と、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を所定量添加すること等が挙げられる。
酵素反応工程3に用いるガラクトース脱水素酵素としては、酵素反応工程1で生じたD-ガラクトースと酵素反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよく、例えば植物由来、細菌由来のガラクトース脱水素酵素が挙げられる。
酵素反応工程3での水溶液における、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の濃度は、特に限定されない。好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.2mM以上、さらに好ましくは0.5mM以上である。また、上限は特に限定されないが、通常は5mM以下である。
【0032】
酵素反応工程4では、酵素反応工程2で生じた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)と、プロルシフェリンと、プロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素と、を接触させる。
酵素反応工程4に用いるプロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素としては、酵素反応工程2及び3で生じた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とともに、プロルシフェリンの還元反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよい。例えば、植物由来、細菌由来のプロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素が挙げられる。
酵素反応工程4に用いるプロルシフェリンとしては、これをもとに生成されたルシフェリンが、ルシフェラーゼとの酵素反応により生物発光を生じるものではあれば、いかなる種類のプロルシフェリンを用いてもよい。例えば、D-Luciferin-6-O b-D-galactopyranoside、D-Luciferin-myo-inositol-1-phosphateといったプロルシフェリンを挙げることができる。
【0033】
酵素反応工程5では、酵素反応工程3で生じた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)と、プロルシフェリンと、プロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素と、を接触させる。
酵素反応工程5に用いるプロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素としては、酵素反応工程2及び3で生じた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とともに、プロルシフェリンの還元反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよい。例えば、植物由来、細菌由来のプロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素が挙げられる。
酵素反応工程5に用いるプロルシフェリンとしては、これをもとに生成されたルシフェリンが、ルシフェラーゼとの酵素反応により生物発光を生じるものではあれば、いかなる種類のプロルシフェリンを用いてもよい。例えば、D-Luciferin-6-O b-D-galactopyranoside、D-Luciferin-myo-inositol-1-phosphateといったプロルシフェリンを挙げることができる。
【0034】
酵素反応工程6では、酵素反応工程4で生じたルシフェリンと、ルシフェラーゼと、アデノシン5’-三リン酸(ATP)と、をマグネシウムイオン(Mg2+)と酸素の共存下で接触させる。
酵素反応工程6に用いるルシフェラーゼとしては、アデノシン5’-三リン酸(ATP)とともに、マグネシウムイオン(Mg2+)と酸素の共存下で酵素反応工程4及び5で生じたルシフェリンとの酵素反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよい。例えば、細菌由来、ホタル由来のルシフェラーゼが挙げられる。
酵素反応工程6での水溶液における、アデノシン5’-三リン酸(ATP)の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.2mM以上、さらに好ましくは0.5mM以上である。また、上限は特に限定されないが、通常は50mM以下である。
酵素反応工程6での水溶液における、マグネシウムイオン(Mg2+)の濃度は、特に限定されない。好ましくは0.1mM以上、より好ましく0.5mM以上、さらに好ましくは1mM以上である。また、上限は特に限定されないが、通常は50mM以下である。また、酵素反応工程6での水溶液における2価の金属イオンとして、ほかには例えば、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Mn2+等を用いることができる。2価の金属イオンを含む溶液としては、上記2価のカチオンを含む塩又は水和物等が溶解したものであればよく、特別な限定はない。さらに、生理食塩水等の緩衝液又は蒸留水等で希釈されたものであってもよい。溶液中の2価の金属イオンの濃度としては、例えば、0.1mM以上100mM以下であってよく、1mM以上50mM以下であってよく、5mM以上30mM以下であってよい。
【0035】
酵素反応工程7では、酵素反応工程5で生じたルシフェリンと、ルシフェラーゼと、アデノシン5’-三リン酸(ATP)と、をマグネシウムイオン(Mg2+)と酸素の共存下で接触させる。
酵素反応工程7に用いるルシフェラーゼとしては、アデノシン5’-三リン酸(ATP)とともに、マグネシウムイオン(Mg2+)と酸素の共存下で酵素反応工程4及び5で生じたルシフェリンとの酵素反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよい。例えば細菌由来、ホタル由来のルシフェラーゼが挙げられる。
酵素反応工程7での水溶液における、アデノシン5’-三リン酸(ATP)の濃度は、特に限定されない。好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.2mM以上、さらに好ましくは0.5mM以上である。また、上限は特に限定されないが、通常は50mM以下である。
酵素反応工程7での水溶液における、マグネシウムイオン(Mg2+)の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.1mM以上、より好ましく0.5mM以上、さらに好ましくは1mM以上である。また、上限は特に限定されないが、通常は50mM以下である。また、酵素反応工程7での水溶液における2価の金属イオンとして、ほかには例えば、カルシウムイオン(Ca2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、マンガンイオン(Mn2+)等を用いることができる。2価の金属イオンを含む溶液としては、上記2価のカチオンを含む塩又は水和物等が溶解したものであればよく、特別な限定はない。さらに、生理食塩水等の緩衝液又は蒸留水等で希釈されたものであってもよい。溶液中の2価の金属イオンの濃度としては、例えば、0.1mM以上100mM以下であってよく、1mM以上50mM以下であってよく、5mM以上30mM以下であってよい。
【0036】
酵素反応工程1~7での水溶液のpHの下限は6.0以上であり、好ましくは6.5以上であり、より好ましくは7.0以上である。また、上限は10以下であり、好ましくは9.5以下である。
なお、ここでpHは酵素反応工程のときの温度における数値とする。
一般にラクターゼの最適pHは6.5付近とされている。これらに比べて、上述の酵素反応工程1~7は、ラクターゼの至適pHから少し離れた高いpH領域(例えば、pH7.0~9.5)で行ってもよい。
これは、pH7.0以上9.5以下の範囲において、酵素反応生成物の光学特性値(例えば発光)を測定するときのバックグラウンドや反応時間の違いによるばらつきを抑えることができるためである。そうすると、測定可能濃度の下限値(定量限界)を下げることができ、光学特性値の測定の際のセル長が短くなりがちな少量の試料や、低濃度のフェノール類等の対象化合物を含む試料に対しても、精度よく簡便に定量を行うことができる。また、酵素反応時間を短くしても測定値の変動が生じにくいため、測定にかかる時間を短縮し、測定を含む検査全体を効率化することができる。
【0037】
上述の各酵素反応工程での水溶液のpH を所定の範囲に調整するには、当該水溶液に緩衝液を含有させればよい。緩衝剤の種類としては、特に限定されず、リン酸、Tris-HCl、CHES、MES、Bis-Tris、EDTA、TAPSO、Tricine、Bicine、TAPS、CAPS等を任意に用いることができる。
【0038】
上述の各酵素反応工程を行う温度は、それぞれの酵素反応工程に係る酵素が触媒作用を示す限りにおいて特に限定されないが、例えば10~60℃ が好ましく、20~40℃がより好ましい。
【0039】
酵素反応工程1~7における酵素と基質とを反応させる時間の長さは任意である。酵素反応の時間は、酵素と基質との接触による反応開始時(通常は、基質への酵素添加時または酵素への基質添加時)から、次の酵素反応工程の反応開始時までの時間、あるいは、任意の方法で酵素反応を停止させた時点までの時間であってもよい。また、酵素反応工程7においては、酵素と基質との接触による反応開始時から、光学物性値の測定時までの時間であってもよい。
【0040】
酵素反応工程に続いて、酵素反応工程で取得した試料の光学特性値を測定する測定工程を行う。光学特性値としては、例えば吸光度や反射率、透過率が挙げられ、測定の検出感度の高さから、酵素反応工程7で生じた生物発光の強度を分光蛍光光度計により測定することが好ましい。また、光学特性値としては、酵素反応生成物の呈色度合いであってもよく、酵素反応後の呈色度合いを目視等で測る比色法でもよい。比色法の場合は、水溶液の状態での呈色度合いを測定する態様であってもよいし、尿試験紙のように試験紙上で酵素反応を行い試験紙上での呈色度合いを測定する態様にも適用できる。
【0041】
測定工程は、酵素反応工程中または工程後に行われ、酵素反応工程開始時から好ましくは48時間以内、より好ましくは24時間以内、さらに好ましくは8時間以内、さらに好ましくは2時間以内の期間内で行われる。
測定工程を行う最短のタイミングは特に限定されず、反応開始(通常は、基質への酵素添加時または酵素への基質添加時) の直後であってもよい。反応系のpHを前述の範囲とすることで、酵素反応時間を短くしても測定値の変動が生じにくいため、酵素反応及び測定にかかる時間を短縮することができる。時間短縮の観点からは、ルシフェラーゼ及びルシフェリンを使用する発光反応の開始時から好ましくは2時間時点の測定値を用いて、試料に含まれるラクトース濃度、及び試料中に含まれるラクトース量を求めることが望ましい。
【0042】
次いで、測定工程で得た光学特性値の測定値から試料中のラクトース量を定量する定量工程を行う。定量工程は、通常、測定対象化合物を既知濃度で含む標準試料を用いて作成した検量線に基づいて、光学特性値の測定値を対象化合物濃度に換算することで行うことができる。例えば、酵素反応工程6あるいは酵素反応工程7における、ルシフェラーゼ及びルシフェリンを使用する発光反応により生じる生物発光を、分光蛍光光度計を用いて測定し、発光量とラクトース量の相関関係に基づいて高薬理活性医薬品などの模擬粉体を定量分析することができる。測定値の正確性、安定性の観点からは、ルシフェラーゼ及びルシフェリンを使用する発光反応の開始時から好ましくは2時間~48時間の期間内で測定が行われる。
【0043】
本実施形態の封じ込め性能評価方法において、試料中に含まれるラクトース量の定量は、発光または蛍光の検出強度の経時変化量に基づいて行うことができる。すなわち、酵素基質反応を開始して所定の時間経過した後、所定時間の間、発光または蛍光の検出強度を連続して測定する。この測定結果から検出強度の経時変化量を求める。あるいは、酵素基質反応を開始して所定の時間経過した後、所定時間の経過後の発光または蛍光の検出強度を測定する。この測定結果から検出強度の経時変化量を求める。
【0044】
例えば、濃度既知のラクトースを含むサンプル試料を用意し、このサンプル試料における酵素基質反応により生じる発光または蛍光の検出強度を上述のように連続して測定する。得られた測定結果に基づいて、測定時間および検出強度の関係(以下、時間特性ともいう)を示す特性線を作成し、この特性線に対して最小自乗法を施し、この特性線を直線に近似させる。この直線の傾きが、検出強度の経時変化量を示し、試料溶液中の酵素基質反応の状態、すなわち、試料溶液中の生体物質の量に依存する。従って、複数の濃度既知のサンプルを用いて、上記の時間特性の傾きと被測定物質の濃度との関係からなる検量線を作成し、未知量のラクトースを含有するサンプルの時間特性の傾きを測定して、検量線からサンプル中のラクトース量の定量を行うことができる。ほかには、既知濃度のラクトースを含む標準液を用いて作成した検量線に基づいて、生物発光強度の測定値から、試料に含まれるラクトース濃度、及び試料中に含まれるラクトース量を求めることができる。
【0045】
試料中に含まれるラクトースと酵素基質反応を行う酵素として、ラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)と、グルコース脱水素酵素と、ガラクトース脱水素酵素と、を含むことができる。1分子のラクトースに対するラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)を介した加水分解により、1分子のグルコースと1分子のガラクトースが生じる。生じた1分子のグルコースと1分子のガラクトースは、それぞれグルコース脱水素酵素あるいはガラクトース脱水素酵素と酵素基質反応を行うことができる。その結果、さらに続くそれぞれの酵素基質反応(酵素反応工程4及び6または酵素反応工程5及び7)を行うことができ、それぞれ生物発光を生じることができる。
つまり、グルコースとの酵素基質反応由来の生物発光と、ガラクトースとの酵素基質反応由来の生物発光と、の両者を測定することができる。このため、グルコースあるいはガラクトースいずれか一方のみを次反応(酵素反応工程2または3)の基質として酵素反応を行う場合と比べて、おおよそ2倍の検出感度を実現することができる。
すなわち、本実施形態によれば、より低濃度のラクトースを含む試料であっても、検出することができる。
【0046】
本実施形態によれば、従来手法(高速液体クロマトグラフ)と同等以上の測定感度を維持しながら、オンサイトで封じ込め性能を評価することができる。さらに、SMEPAC推奨の代替試料であるラクトース粉末を用いるという特徴を有することから、追加のリスクアセスメントや徹底的な洗浄が不要であり、従来通りの封じ込め性能評価と同じ手順で実施できる。
【0047】
試料中のラクトースの濃度は特に限定されず、低濃度でも測定することができ、例えば好ましくは1ng/mL以上、より好ましくは5ng/mL以上である。また、上限も特に限定されないが、好ましくは1μg/mL以下である。測定に供する試料中のラクトースの濃度が大きい場合等は希釈するなど、酵素反応を行う水溶液中での濃度は適宜調整してもよい。
【0048】
なお、本実施形態で測定する試料はラクトースを「含む可能性がある」ものであってよい。すなわち、測定前に含む疑いがあるだけで足り、測定した結果として対象化合物を含んでいないことが判明しても本実施形態の封じ込め性能評価方法の目的にかなう。
【0049】
本実施形態の評価方法は、粉体を取り扱う空間を備えた公知の粉体取扱い施設に適用可能であり、前記空間の大きさは特に限定されない。具体的な粉体取扱い施設としては、例えば、医薬品製造工場における粉体取扱い室、粉体取扱いブース、安全キャビネット、グローブボックス、粉体保管室等が挙げられる。
【0050】
本願発明の第二態様は、第一態様のオンサイト封じ込め性能評価方法に使用されるラクトース検出測定キット(以下、ラクトース測定キットという。)であって、前記測定方法で調製する前記捕集液に含まれるラクトースを定量的又は定性的に測定するための試薬を備える。前記試薬は、前記酵素としてラクターゼ(βガラクトシダーゼ)、グルコース脱水素酵素、ガラクトース脱水素酵素、プロルシフェリンの還元酵素、及びルシフェラーゼから選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0051】
本実施形態のラクトース測定キットは、さらに、基質として還元反応によりルシフェリンを生じるプロルシフェリンを含み、プロルシフェリンの還元反応に必要な還元酵素を含む、構成のものがより好ましい。
【0052】
本実施形態のラクトース測定キットは、さらに、酵素基質反応に使用する物質として、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)と、2価の金属イオンを含む、構成のものがさらに好ましい。
【0053】
本実施形態のラクトース測定キットは、上述した試薬のほかに、試料の前処理用試薬、標準試薬など測定法に応じた適当な試薬を適宜選択し、含んでいても良い。
【0054】
本実施形態のラクトース測定キットによれば、高感度かつ簡便に検体中のラクトース量を測定することができる。
【0055】
本実施形態のラクトース測定キットにおいて、ルシフェラーゼ及びルシフェリンを使用する発光反応に使用する2価の金属イオンとしては、マグネシウムイオン(Mg2+)を含む。ほかには、例えば、上述したものと同様のものが挙げられ、カルシウムイオン(Ca2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、マンガンイオン(Mn2+)等を用いることができる。
本実施形態のラクトース測定キットにおいて、マグネシウムイオン(Mg2+)の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.1mM以上、より好ましく0.5mM以上、さらに好ましくは1mM以上である。また、上限は特に限定されないが、通常は50mM以下である。
2価の金属イオンを含む溶液としては、上記2価のカチオンを含む塩又は水和物等が溶解したものであればよく、特別な限定はない。さらに、生理食塩水等の緩衝液又は蒸留水等で希釈されたものであってもよい。溶液中の2価の金属イオンの濃度としては、例えば、0.1mM以上100mM以下であってよく、1mM以上50mM以下であってよく、5mM以上30mM以下であってよい。
【0056】
本実施形態のラクトース測定キットにおいて、ラクトースは、基質としてラクターゼ(βガラクトシダーゼ)との酵素反応が可能であるものであれば、由来等に関して、特別な限定はないが、D-ラクトースであることが好ましい。また、ラクトースは、塩又は水和物であってもよい。さらに、ラクトースは粉末であってもよく、適用な溶媒(例えば、生理食塩水等の緩衝液、蒸留水等)等で希釈した溶液状であってもよい。
【0057】
本実施形態のラクトース測定キットの具体的な使用方法は、第一態様の測定工程で説明しているので、ここでは重複する説明を省略する。
【0058】
本実施形態のラクトース測定キットによれば、高速液体クロマトグラフ)と同等程度の測定感度でラクトース量を測定することができる。また、ラクトースはSMEPAC推奨の代替試料であることから、本実施形態のラクトース測定キットは、粉体を取り扱う空間を備えた公知の粉体取扱い施設での適用にも適している。具体的な粉体取扱い施設としては、例えば、医薬品製造工場における粉体取扱い室、粉体取扱いブース、安全キャビネット、グローブボックス、粉体保管室等が挙げられる。これら施設において、オンサイトでのラクトース濃度測定を実現し、追加のリスクアセスメントや徹底的な洗浄が不要であり、従来通りの封じ込め性能評価と同じ手順で実施できる。
【0059】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。