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特開2025-9269電池缶用板状鋼板、電池缶、筒形電池、電池缶用板状鋼板の製造方法、電池缶の製造方法及び筒形電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009269
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】電池缶用板状鋼板、電池缶、筒形電池、電池缶用板状鋼板の製造方法、電池缶の製造方法及び筒形電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/124 20210101AFI20250110BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20250110BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20250110BHJP
   H01M 50/129 20210101ALI20250110BHJP
【FI】
H01M50/124
H01M50/119
H01M50/107
H01M50/129
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112148
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
【テーマコード(参考)】
5H011
【Fターム(参考)】
5H011AA03
5H011AA09
5H011CC06
5H011CC10
5H011DD18
5H011DD21
5H011DD22
(57)【要約】
【課題】絶縁部品の使用が抑えられ且つ性能に優れた筒形電池を実現する。
【解決手段】筒形電池1の電池缶10に用いられる電池缶用板状鋼板40は、板状の鋼板20と、電着塗布層30とを含む。鋼板20は、第1面21と、それとは反対側の第2面22とを有する。電着塗布層30は、鋼板20の第1面21側及び第2面22側のうち、第1面21側のみを覆うように設けられる。電着塗布層30により、電池缶用板状鋼板40に絶縁機能が付加される。絶縁機能が付加された電池缶用板状鋼板40が用いられ、電池缶10及びそれを用いた筒形電池1が実現される。外装ラベル30a等の絶縁部品を不要とし、電池缶10の外径寸法拡大、それによる電池容量増大を可能とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形電池の電池缶に用いる電池缶用板状鋼板であって、
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有する、板状の鋼板と、
前記鋼板の前記第1面側及び前記第2面側のうち、前記第1面側のみを覆うように設けられた電着塗布層と、
を含む、電池缶用板状鋼板。
【請求項2】
前記鋼板が前記第1面側にメッキ層を有し、
前記メッキ層を覆うように前記電着塗布層が設けられる、請求項1に記載の電池缶用板状鋼板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電池缶用板状鋼板を用いた筒形電池の電池缶であって、
前記電池缶用板状鋼板が、前記電着塗布層が設けられる前記第1面側が有底円筒状の外周側となるように加工された電池缶。
【請求項4】
前記電着塗布層を覆うように設けられた表面処理層を更に含む、請求項3に記載の電池缶。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の電池缶を用いた筒形電池。
【請求項6】
筒形電池の電池缶に用いる電池缶用板状鋼板の製造方法であって、
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有する、板状の鋼板を準備する工程と、
前記鋼板の前記第1面側及び前記第2面側のうち、前記第1面側のみを覆うように電着塗布層を形成する工程と、
を含む、電池缶用板状鋼板の製造方法。
【請求項7】
筒形電池の電池缶の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の電池缶用板状鋼板を、前記電着塗布層が設けられる前記第1面側が有底円筒状の外周側となるように加工する工程を含む、電池缶の製造方法。
【請求項8】
前記電池缶用板状鋼板を加工する工程後に、前記電着塗布層を覆う表面処理層を形成する工程を更に含む、請求項7に記載の電池缶の製造方法。
【請求項9】
筒形電池の製造方法であって、
請求項3又は4に記載の電池缶を用いた筒形電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池缶用板状鋼板、電池缶、筒形電池、電池缶用板状鋼板の製造方法、電池缶の製造方法及び筒形電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の発電要素が収納される外装缶として、有底筒状に成型された鋼板の外周面に、焼き付け塗装により絶縁性樹脂層が形成されたものを用いる技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、Niめっき冷延鋼板の表面に化成処理皮膜を介して導電剤含有樹脂塗膜を形成し、当該塗膜面を内側にして加工する技術が知られている(特許文献2)。
また、鋼板を有底筒状に成形した鋼製外装ケース本体の外面に、クラウド式静電塗装法等を用いて合成樹脂粉体を塗着する技術が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-149908号公報
【特許文献2】特開平8-287885号公報
【特許文献3】特開2002-367575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
筒形電池に関し、電池缶の外周に絶縁性の外装ラベルを貼り付け、電池缶と隣接する端子との絶縁のために絶縁ワッシャーを取り付ける技術が知られている。
一方、筒形電池の外径寸法は、その筒形電池の仕様によって定められるが、電池缶の外周に設けられる上記のような外装ラベルの厚みも含めた寸法となる。そのため、筒形電池の電池缶の最大外径寸法は、外装ラベルの厚み分の制約を受ける。電池缶の外径寸法を大きくすると、その内容積を大きくし、電池容量を高めることが可能になる。しかし、電池缶の外周に外装ラベルを設ける構成では、その厚み分の制約を受けるため、電池缶の外径寸法の拡大、それによる電池容量の増大が制限されてしまい、筒形電池の更なる性能向上が図れない場合がある。
【0006】
また、筒形電池の絶縁確保のために使用される外装ラベルや絶縁ワッシャーのような絶縁部品には、プラスチックが用いられる。昨今プラスチックの削減が求められる中にあって、プラスチック部品及びその生産過程で発生するプラスチック廃棄物を削減することは社会的課題の1つである。
【0007】
1つの側面では、本発明は、絶縁部品の使用が抑えられ且つ性能に優れた筒形電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、筒形電池の電池缶に用いる電池缶用板状鋼板であって、第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有する、板状の鋼板と、前記鋼板の前記第1面側及び前記第2面側のうち、前記第1面側のみを覆うように設けられた電着塗布層と、を含む、電池缶用板状鋼板が提供される。
【0009】
また、別の態様では、電池缶用板状鋼板を用いた電池缶、電池缶を用いた筒形電池が提供される。
また、更に別の態様では、電池缶用板状鋼板の製造方法、電池缶用板状鋼板を用いた電池缶の製造方法、電池缶を用いた筒形電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、絶縁機能が付加された電池缶用板状鋼板が実現される。そのような電池缶用板状鋼板が用いられ、筒形電池の電池缶、当該電池缶を用いた筒形電池が実現される。
【0011】
絶縁機能が付加された電池缶用板状鋼板を用いることで、絶縁部品の使用が抑えられ且つ性能に優れた筒形電池を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】筒形電池の構成例について説明する図である。
図2】電池缶用板状鋼板加工後の表面処理層形成について説明する図である。
図3】筒形電池の例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
筒形電池として、例えば、アルカリ電池、マンガン電池、リチウム電池、ニッケルカドミウム電池等の一次電池や、リチウムイオン電池等の二次電池が知られている。従来、筒型電池には、その発電要素が収容される有底円筒状の電池缶の外周にPET(ポリエチレンテレフタレート)やPVC(ポリ塩化ビニル)等を用いた絶縁性の外装ラベルが貼り付けられ、電池缶と隣接する端子との絶縁には絶縁ワッシャーを取り付けることが一般的である。筒型電池は電池缶全体が金属であり導電性を持つため、これらの絶縁部品がないと、筒形電池が適用される機器との接触端子面以外の場所で導通して短絡してしまうことが起こり得る。短絡は電池そのものの特性を失うとともに、発熱や漏液、破裂等、使用者にとっての危険源となる。そのため、従来の筒形電池では、所定部位の絶縁確保のために、外装ラベルや絶縁ワッシャーのような絶縁部品が使用されている。
【0014】
一方、筒形電池の電池容量は、専ら筒形電池の内容積に比例しており、高容量電池の開発には、内容積を増大させることが有効となる。筒形電池の長さ方向は、筒形電池が適用される機器との端子接触のために、ある程度規定されるため、内容積増大のためには、外径方向への拡大が極めて有効な手段となる。
【0015】
ところが、筒形電池の内容積増大のために、電池缶をその外径方向に拡大しようとしても、外周に設けられる上記のような外装ラベルの厚み分の制限がかかる。即ち、筒形電池の外径寸法は、その筒形電池の仕様によって定められるが、電池缶の外周に設けられる外装ラベルの厚みも含めた寸法となる。そのため、筒形電池の電池缶の最大外径寸法は、外装ラベルの厚み分の制約を受ける。筒形電池の外径寸法は、その電池缶の外径寸法に外装ラベル2枚分の厚みを加えた寸法、外装ラベルの端の重ね合わせ部分では外装ラベル3枚分の厚みを加えた寸法(これが筒形電池の最大外径寸法)となる。
【0016】
このように、電池缶の外周に外装ラベルを設ける構成では、その厚み分の制約を受けるため、電池缶の外径寸法の拡大、それによる電池容量の増大が制限されてしまい、筒形電池の更なる性能向上が図れない場合がある。
【0017】
また、外装ラベルや絶縁ワッシャーのような絶縁部品には、プラスチックが用いられる。このような絶縁部品を生産するためには、ラベル台紙や樹脂ランナー等の廃棄物が発生することも知られている。昨今プラスチックの使用量や廃棄量の削減が求められる中にあって、プラスチック部品及びその生産過程で発生するプラスチック廃棄物を削減することは社会的課題の1つである。
【0018】
以上のような点に鑑み、ここでは以下に実施形態として述べるような構成を採用し、絶縁部品の使用が抑えられ且つ性能に優れた筒形電池を実現する。
図1は筒形電池の構成例について説明する図である。図1には、従来例及び実施形態に係る2種類の筒形電池の各電池缶及びその表面層の要部断面図を模式的に示している。
【0019】
まず、図1に示す一方の筒形電池1a(左側)について説明する。
この筒形電池1aは、従来例に係る筒形電池の一例である。筒形電池1aは、鋼板20a、例えば、表面にニッケル等のメッキが施されたメッキ鋼板によって形成される電池缶10aを含む。図1には便宜上、鋼板20aにメッキ鋼板が用いられる場合の、その表面に形成されるメッキ層を、メッキ層23aとして点線で図示している。ここでは図示を省略するが、電池缶10aは有底円筒状とされ、電池缶10aの内周側に、発電要素、例えば、正極層及び負極層とそれらの間に介在されるセパレータ並びに電解液を含む発電要素が収容される。
【0020】
筒形電池1aでは、電池缶10aの外周側、即ち、鋼板20aの表面に、表面層として絶縁性の外装ラベル30aが設けられる。外装ラベル30aにより、筒形電池1aが適用される機器との接触端子面以外の場所で導通して短絡してしまうことが回避される。外装ラベル30aには、例えば、160μm程度の厚みを有するPETやPVC等のフィルムが用いられる。
【0021】
尚、従来例に係る筒形電池1aは、例えば、次のような方法を用いて製造される。まず、板状の鋼板20aが準備される。準備された鋼板20aが、プレス加工によって有底円筒状に加工され、電池缶10a(例えば正極)が製造される。製造された電池缶10aの内周側に、発電要素が収容され、電池缶10aの開口部が封口体(例えば負極)で封口される。一例として、発電要素の正極層が電池缶10aと電気的に接続され、発電要素の負極層が封口体と電気的に接続される。そして、電池缶10aの外周側に、外装ラベル30aが貼り付けられる。例えば、このような方法が用いられ、筒形電池1aが製造される。図1の筒形電池1a(左側)には、このようにして製造される筒形電池1aの電池缶10a及びその表面層である外装ラベル30aの一部の断面図を模式的に示している。
【0022】
次に、図1に示すもう一方の筒形電池1(右側)について説明する。
この筒形電池1は、実施形態に係る筒形電池の一例である。筒形電池1は、電池缶用板状鋼板40によって形成される電池缶10を含む。ここでは図示を省略するが、電池缶10は有底円筒状とされ、電池缶10の内周側に、発電要素、例えば、正極層及び負極層とそれらの間に介在されるセパレータ並びに電解液を含む発電要素が収容される。
【0023】
電池缶用板状鋼板40は、鋼板20と、その表面に設けられた電着塗布層30とを含む。
電池缶用板状鋼板40の鋼板20には、例えば、表面にニッケル等のメッキが施されたメッキ鋼板が用いられる。尚、図1には便宜上、鋼板20にメッキ鋼板が用いられる場合の、その表面に形成されるメッキ層を、メッキ層23として点線で図示している。鋼板20は、第1面21と、第1面21とは反対側の第2面22とを有する。鋼板20の第1面21は、筒形電池1の電池缶10の外周側となる面であり、鋼板20の第2面22は、筒形電池1の電池缶10の内周側となる面である。鋼板20の第1面21側及び第2面22側のうち、第1面21側のみを覆うように、電着塗布層30が設けられる。鋼板20としてメッキ鋼板が用いられる場合には、その表面のメッキ層23を覆うように、電着塗布層30が設けられる。
【0024】
電池缶用板状鋼板40の電着塗布層30は、電着塗装法を用いて鋼板20の第1面21側に塗布される層である。電着塗布層30の形成には、例えば、カチオン電着塗装法が用いられる。電気を通す水溶性の電着塗料が貯留された槽に、第2面22側を保護した鋼板20を浸漬し、通電することで、第1面21側のみに電着塗料が塗布された状態を得る。塗布された電着塗料の乾燥、焼き付けを行うことで、鋼板20の第1面21側に電着塗布層30が形成された電池缶用板状鋼板40を得る。鋼板20の第1面21側に形成される電着塗布層30は、絶縁性を有する。鋼板20の第1面21側に形成される電着塗布層30の厚みは、例えば、1.0μmから5.0μmの範囲に設定される。
【0025】
尚、電気化学反応を利用する電着塗装法によれば、鋼板20の第1面21側に、均一に反応を起こさせることができ、絶縁性樹脂を塗布して形成される絶縁層等に比べて、厚みの均一性の高い絶縁層、即ち、電着塗布層30を形成することができる。
【0026】
電池缶10の電池缶用板状鋼板40の表面には、表面処理層50が設けられてよい。表面処理層50は、絶縁性を有する。ここでは表面処理層50として、電着塗布層30の表面に形成される印刷層51と、印刷層51を覆うコート層52とを含む表面処理層50を例示している。印刷層51は、筒形電池1の外装デザインが印刷により形成される層である。印刷層51の厚みは、例えば、数μmから数十μm程度に設定される。コート層52は、UV(紫外線)コート等、印刷層51を外部から保護する層である。コート層52の厚みは、例えば、40μm程度に設定される。印刷層51及びコート層52は、絶縁性を有する。尚、印刷層51及びコート層52は一例であって、表面処理層50としては、印刷層51及びコート層52と共に、或いは、印刷層51及びコート層52に代えて、絶縁性を有する他の層が形成されてもよい。
【0027】
尚、実施形態に係る筒形電池1は、例えば、次のような方法を用いて製造される。まず、板状の鋼板20が準備され、その第1面21側及び第2面22側のうち、第1面21側のみに電着塗布層30が形成され、電池缶用板状鋼板40が製造される。製造された電池缶用板状鋼板40が、プレス加工によって有底円筒状に加工され、電池缶10が製造される。この時、電池缶用板状鋼板40は、電着塗布層30が設けられる第1面21側が有底円筒状の外周側となるように加工される。これにより、外周側に電着塗布層30が設けられる有底円筒状の電池缶10(例えば正極)が製造される。加工後の電池缶10の外周側に、表面処理層50、例えば、印刷層51及びコート層52が形成される。加工され、表面処理層50が形成された電池缶10の内周側に、発電要素が収容され、電池缶10の開口部が封口体(例えば負極)で封口される。一例として、発電要素の正極層が電池缶10と電気的に接続され、発電要素の負極層が封口体と電気的に接続される。例えば、このような方法が用いられ、筒形電池1が製造される。図1の筒形電池1(右側)には、このようにして製造される筒形電池1の電池缶10の電池缶用板状鋼板40(鋼板20と電着塗布層30)及びその表面層である表面処理層50(印刷層51とコート層52)の一部の断面図を模式的に示している。
【0028】
上記のように、図1に示す筒形電池1a及び筒形電池1のうち、従来例に係る筒形電池1aでは、その電池缶10aの外周側となる鋼板20aの表面に、比較的厚い外装ラベル30aが設けられる。筒形電池1aの外径寸法は、その電池缶10aの外径寸法に、外装ラベル30aの厚みを加えた寸法となる。即ち、筒形電池1aの外径寸法は、外装ラベル30aの2枚分の厚みを加えた寸法、外装ラベル30aの端の重ね合わせ部分では3枚分の厚みを加えた寸法となる。
【0029】
これに対し、実施形態に係る筒形電池1では、その電池缶10の外周側となる鋼板20の第1面21側に、外装ラベル30aに比べて極めて薄い数μmオーダーの厚みの電着塗布層30が設けられる。鋼板20と電着塗布層30とを含む電池缶用板状鋼板40が用いられ、電池缶10が形成される。電着塗布層30は、絶縁性を有する。そのため、電着塗布層30により、鋼板20の第1面21側について、その絶縁性を確保することができる。即ち、電着塗布層30により、鋼板20の第1面21側に絶縁機能が付加される。従って、筒形電池1では、上記筒形電池1aで用いられるような外装ラベル30aを不要とすることができる。
【0030】
このように実施形態に係る筒形電池1では、電着塗布層30が用いられることで、絶縁確保のために電池缶10の外周側に設ける絶縁材を薄くすることができる。筒形電池1では、電池缶10の外周側に設ける絶縁材の厚みを、電着塗布層30の厚みに、その表面に設けられる表面処理層50(印刷層51及びコート層52)の厚みを加えても、外装ラベル30aの厚みよりも薄くすることができる。筒形電池1では、電池缶10の外周側に設ける絶縁材の厚みを薄くすることができるので、その電池缶10の外径寸法を、図1に示す電池缶外径拡大しろ100に示す分、外装ラベル30aを用いる筒形電池1aの電池缶10aの外径寸法よりも拡大することが可能になる。
【0031】
従って、電着塗布層30を用いる筒形電池1では、外装ラベル30aを用いる筒形電池1aに比べて、電池缶10の内容積を増大させることが可能になる。電池缶10の内容積を増大させることで、内部に収容される発電要素を大容量化し、電池容量を増大させることが可能になり、性能に優れた筒形電池1を実現することが可能になる。更に、電着塗布層30を用いる筒形電池1では、プラスチック製の絶縁部品の1つである外装ラベル30aを不要とすることで、外装ラベル30aに用いられるプラスチック材料及びその生産過程で発生するプラスチック廃棄物を削減することが可能になる。よって、電着塗布層30を用いる筒形電池1では、プラスチック部品の生産に要するコストの削減、及び、環境負荷の低減を図ることが可能になる。
【0032】
更に、電着塗布層30を用いる筒形電池1では、その電池缶10(電池缶用板状鋼板40)の電着塗布層30によって絶縁性が確保されるため、電池缶10と他部品との短絡回避のための絶縁ワッシャーのようなプラスチック製の絶縁部品を不要とすることもできる。従って、絶縁ワッシャーに用いられるプラスチック材料及びその生産過程で発生するプラスチック廃棄物を削減することが可能になり、プラスチック部品の生産に要するコストの削減、及び、環境負荷の低減を図ることが可能になる。
【0033】
鋼板20とその第1面21側に設けられる電着塗布層30とを含む電池缶用板状鋼板40を用いて電池缶10を得ることで、絶縁部品の使用が抑えられ且つ性能に優れた筒形電池1が実現される。
【0034】
ところで、筒形電池1の製造では、板状の鋼板20の第1面21側に電着塗布層30が設けられた電池缶用板状鋼板40が、例えば、多段階深絞り加工によるプレス加工によって加工され、電池缶10が製造される。電池缶用板状鋼板40がこのように加工されて製造された電池缶10の外周側に、表面処理層50が形成される。
【0035】
ここで、図2は電池缶用板状鋼板加工後の表面処理層形成について説明する図である。図2(A)には、加工前の電池缶用板状鋼板の要部断面を模式的に示している。図2(B)には、加工後の電池缶用板状鋼板の要部断面を模式的に示している。図2(C)には、加工後の電池缶用板状鋼板及びその表面に形成された表面処理層の要部断面を模式的に示している。
【0036】
図2(A)に示すような電池缶用板状鋼板40に対し、深絞り加工によるプレス加工を行うと、図2(B)に示すように、深絞り加工された電池缶用板状鋼板40の表層部に、電着塗布層30を貫通して鋼板20に達する谷間41が形成され得る。例えば、鋼板20にメッキ鋼板が用いられる場合には、その表面のメッキ層に達する谷間41、或いは、当該メッキ層を貫通し更にその下地の鋼板まで達する谷間41が形成され得る。谷間41の形成は、絶縁性の電着塗布層30で覆われずに導電性の鋼板20が露出してしまう部位の発生を招く。谷間41による鋼板20の部分的な露出は、外部との短絡を引き起こすリスクを高める恐れがある。
【0037】
筒形電池1の製造では、このように深絞り加工によって電池缶用板状鋼板40に谷間41が形成される場合にも、深絞り加工後の電池缶用板状鋼板40の表面に、図2(C)に示すように、表面処理層50が形成される。即ち、深絞り加工後の、谷間41が形成された電池缶用板状鋼板40の電着塗布層30上に、絶縁性の表面処理層50が形成される。これにより、深絞り加工によって電池缶用板状鋼板40に形成された谷間41が、絶縁性の表面処理層50(その印刷層51又はコート層52)で覆われる。よって、谷間41による鋼板20の部分的な露出が抑えられ、外部との短絡を引き起こすリスクが低減される。電池缶用板状鋼板40では、電着塗布層30のほか、表面処理層50によっても、鋼板20の第1面21側に絶縁機能が付加される。
【0038】
このような観点から、表面処理層50は、電池缶用板状鋼板40の深絞り加工前よりも、深絞り加工後に、その表面に形成されることが好ましい。
続いて、筒形電池の例について説明する。
【0039】
図3は筒形電池の例について説明する図である。図3(A)には、素電池の一例を模式的に示している。図3(B)には、従来例に係る筒形電池の一例を模式的に示している。図3(C)には、実施形態に係る筒形電池の一例を模式的に示している。
【0040】
図3(A)は、従来例に係る筒形電池1a(図3(B))の、外装ラベル30a及び絶縁ワッシャー90を設ける前の素電池1bの外観を、その内部構造の一部と共に模式的に示したものである。素電池1bは、板状の鋼板20aをプレス加工によって有底円筒状に加工することで製造される電池缶10a(正極)の内周側に、発電要素60が収容され、電池缶10aの開口部が封口体70a(負極)で封口される。
【0041】
ここで、電池缶10aは、外側に突出する正極端子2a、及び、内周側に凹む凹部11a(ビーディング部)を有するように、深絞り加工によるプレス加工によって製造される。封口体70aは、外側に突出する負極端子3aを有する。電池缶10aの内周側に、発電要素60が収容され、凹部11aを座にして封口体70aが設けられ、電池缶10aの開口部が封口される。電池缶10aと封口体70aとの間は、絶縁性のガスケット(図示せず)によって絶縁されて密閉される。発電要素60は、正極層61及び負極層62と、それらの間に介在されるセパレータ63及びそれに浸み込ませた電解液(図示せず)を含む。発電要素60の正極層61が電池缶10aと電気的に接続され、発電要素60の負極層62がそれに差し込まれる炭素棒等の集電体80を通じて封口体70と電気的に接続される。
【0042】
図3(B)は、従来例に係る筒形電池1aの外観を模式的に図示したものであって、図3(A)に示した素電池1bの外周に外装ラベル30aを設け、負極端子3a側の面に絶縁ワッシャー90を設けたものである。図3(B)には便宜上、素電池1bに相当する部分を点線で模式的に図示している。更に、図3(B)には便宜上、電池缶10a(鋼板20a)及びその外周に設けられた外装ラベル30aの一部の断面を抜き出して模式的に図示している。図3(B)に示す筒形電池1aでは、外周に外装ラベル30aが設けられる分、図3(A)に示す素電池1bよりも外径が大きくなる。
【0043】
図3(C)は、実施形態に係る筒形電池1の外観を模式的に図示したものである。図3(C)には便宜上、素電池(図3(A)の素電池1bとは異なる)に相当する部分を点線で模式的に図示している。更に、図3(C)には便宜上、電池缶10(電池缶用板状鋼板40の鋼板20と電着塗布層30)及びその外周に設けられた表面処理層50の一部の断面を抜き出して模式的に図示している。
【0044】
図3(C)に示す筒形電池1では、板状の鋼板20の第1面21側のみに電着塗布層30を形成して製造された電池缶用板状鋼板40を、その電着塗布層30が外周側となるように、プレス加工によって有底円筒状に加工することで、電池缶10が製造される。そして、上記素電池1b(図3(A))の例に従い、製造された電池缶10(正極)の内周側に、発電要素(上記発電要素60と同様の構成を有するもの)が収容され、電池缶10の開口部が封口体70(負極)で封口される。
【0045】
ここで、電池缶10は、外側に突出する正極端子2、及び、内周側に凹む凹部11(ビーディング部)を有するように、深絞り加工によるプレス加工によって製造される。電池缶10の、正極端子2となる部分の表面の電着塗布層30は除去される。加工後の電池缶10の外周側に、表面処理層50が形成される。プレス加工によって製造される電池缶10に、上記のような鋼板20が露出する谷間41が形成されている場合でも、その谷間41が表面処理層50で覆われ、鋼板20の露出が抑えられる。即ち、電池缶10の外周の絶縁性が確保される。表面処理層50が形成された電池缶10の内周側に、発電要素が収容され、電池缶10の開口部が、凹部11を座にして設けられる封口体70で封口される。封口体70は、外側に突出する負極端子3を有する。封口体70は、電池缶10と同様に、板状の鋼板20の第1面21側のみに形成された電着塗布層30を有する電池缶用板状鋼板40を、プレス加工によって加工することで製造されてよい。この場合、負極端子3となる部分の表面の電着塗布層30は除去される。封口体70の、負極端子3となる部分以外の表面には、表面処理層50が形成されてよい。電池缶10と封口体70との間は、絶縁性のガスケット(図示せず)によって絶縁されて密閉される。上記素電池1b(図3(A))の例に従い、発電要素の正極層が電池缶10と電気的に接続され、発電要素の負極層が炭素棒等の集電体を通じて封口体70と電気的に接続される。
【0046】
図3(C)に示す筒形電池1では、電池缶用板状鋼板40に設けられる電着塗布層30、或いは更にその表面に設けられる表面処理層50によって、鋼板20の第1面21側に絶縁機能が付加される。
【0047】
図3(C)に示す筒形電池1では、その電池缶10に、鋼板20の第1面21側に薄い電着塗布層30が設けられた電池缶用板状鋼板40が用いられることで、厚い外装ラベル30a(図3(B))を不要とすることができる。そのため、電池缶10の外径寸法を拡大することが可能になる。これにより、電池缶10の内容積を増大させ、電池容量を増大させることが可能になる。更に、図3(C)に示す筒形電池1では、プラスチック製の絶縁部品である外装ラベル30aのほか絶縁ワッシャー90を不要とすることができる。これにより、プラスチック材料及びその生産過程で発生するプラスチック廃棄物を削減することが可能になる。電池缶用板状鋼板40が用いられることで、絶縁部品の使用が抑えられ且つ性能に優れた筒形電池1が実現される。
【0048】
続いて、各種筒形電池の性能を評価した結果について述べる。
<筒形電池>
筒形電池として、下記従来例、比較例1-2及び実施例1-5の単3形アルカリ電池を準備した。
【0049】
〔従来例〕
板状の鋼板に多段階深絞り加工によるプレス加工を施して得られる電池缶(正極)の内周側に発電要素を収容し、開口部を封口体(負極)で封口し、電池缶の外周側に外装ラベル(外装)として厚さ160μmのPETラベルを設け、封口体側に厚さ200μmの絶縁ワッシャー(外装)を設け、従来例の単3形アルカリ電池を得た。
【0050】
〔比較例1〕
板状の鋼板に多段階深絞り加工によるプレス加工を施し、従来例の外装ラベルを設ける単3形アルカリ電池の外径寸法(外装ラベルを含む)と同等の外径寸法、即ち、拡大した外形寸法を有する電池缶(正極)を得た。得られた電池缶の内周側に、従来例に比べてより大型の発電要素を収容し、開口部を封口体(負極)で封口し、比較例1の単3形アルカリ電池を得た。比較例1の単3形アルカリ電池は、比較例2及び実施例1-5の単3形アルカリ電池の素電池に相当する。
【0051】
〔比較例2〕
板状の鋼板の一面側のみにカチオン電着塗装法を用いて厚さ1.0μmの電着塗布層(外装)を設けた電池缶用板状鋼板に、当該電着塗布層が外周側となるように多段階深絞り加工によるプレス加工を施し、比較例1と同等の外径寸法を有する電池缶(正極)を得た。得られた電池缶の内周側に、従来例に比べてより大型の発電要素を収容し、開口部を封口体(負極)で封口し、比較例2の単3形アルカリ電池を得た。
【0052】
〔実施例1〕
板状の鋼板の一面側のみにカチオン電着塗装法を用いて厚さ1.0μmの電着塗布層(外装)を設けた電池缶用板状鋼板に、当該電着塗布層が外周側となるように多段階深絞り加工によるプレス加工を施し、比較例1-2と同等の外径寸法を有する電池缶(正極)を得た。得られた電池缶の外周側に、UV樹脂を噴霧して固めたUVコート(厚さ40μm程度)を形成した。UVコート形成後の電池缶の内周側に、従来例に比べてより大型の発電要素を収容し、開口部を封口体(負極)で封口し、実施例1の単3形アルカリ電池を得た。
【0053】
〔実施例2〕
板状の鋼板の一面側のみにカチオン電着塗装法を用いて厚さ2.0μmの電着塗布層(外装)を設けた電池缶用板状鋼板を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例2の単3形アルカリ電池を得た。
【0054】
〔実施例3〕
板状の鋼板の一面側のみにカチオン電着塗装法を用いて厚さ3.0μmの電着塗布層(外装)を設けた電池缶用板状鋼板を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例3の単3形アルカリ電池を得た。
【0055】
〔実施例4〕
板状の鋼板の一面側のみにカチオン電着塗装法を用いて厚さ4.0μmの電着塗布層(外装)を設けた電池缶用板状鋼板を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例4の単3形アルカリ電池を得た。
【0056】
〔実施例5〕
板状の鋼板の一面側のみにカチオン電着塗装法を用いて厚さ5.0μmの電着塗布層(外装)を設けた電池缶用板状鋼板を用いること以外は、実施例1と同様にして、実施例5の単3形アルカリ電池を得た。
【0057】
<性能評価>
上記従来例、比較例1-2及び実施例1-5の単3形アルカリ電池(筒形電池)について、下記試験1-3を実施し、性能評価を行った。
【0058】
〔試験1〕
外部短絡試験(並列配置)
ここでは、電池側面部の導通により、電池電圧の低下又は発熱が生じないかを確認した。試験には、電池を4本使用する電池ケースを想定し、電池群を横並びにしてテープで固定し、24時間放置する方法を採用した。表1では、電圧低下及び発熱なしのものを「〇」とし、電圧低下又は発熱ありのものを「×」としている。
【0059】
〔試験2〕
外部短絡試験(機器からの取り出し)
機器への挿入及び取り出しにより、電池側面部にキズや剥がれが生じないか、それに起因して導通が生じないかを確認した。試験には、機器に対する30回の挿入と取り出しを繰り返し、電池側面部のキズや剥がれ又はそれに起因する外部短絡がないかを確認する方法を採用した。表1では、キズ及び剥がれなしのものを「〇」とし、キズ若しくは剥がれ又はそれに起因する外部短絡ありのものを「×」としている。
【0060】
〔試験3〕
電池容量測定
放電容量測定により、電池容量を比較した。試験には、定電流連続放電によって放電容量を測定する方法を採用した。表1では、従来例の電池容量を100%とし、それに対する比較例1-2及び実施例1-5の電池容量の比率を示している。
【0061】
従来例、比較例1-2及び実施例1-5の単3形アルカリ電池について実施した試験1-3の結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
外装及びUVコートが設けられない比較例1の単3形アルカリ電池では、電池缶の外径寸法の拡大、収容する発電要素の大型化により、従来例の単3形アルカリ電池よりも電池容量が高められた。但し、試験1の外部短絡試験(並列配置)では、電圧低下又は発熱ありと判定され、試験2の外部短絡試験(取り出し)では、キズ若しくは剥がれ又はそれに起因する外部短絡ありと判定された。
【0064】
外装として厚さ1.0μmの電着塗布層が設けられ、UVコートが設けられない比較例2の単3形アルカリ電池では、電池缶の外径寸法の拡大、収容する発電要素の大型化により、従来例の単3形アルカリ電池よりも電池容量が高められた。試験1の外部短絡試験(並列配置)では、電圧低下及び発熱なしと判定された。但し、試験2の外部短絡試験(取り出し)では、キズ若しくは剥がれ又はそれに起因する外部短絡ありと判定された。
【0065】
外装として厚さ1.0μmの電着塗布層が設けられ、更にUVコートが設けられる実施例1の単3形アルカリ電池では、電池缶の外径寸法の拡大、収容する発電要素の大型化により、従来例の単3形アルカリ電池よりも電池容量が高められた。試験1の外部短絡試験(並列配置)では、電圧低下及び発熱なしと判定され、試験2の外部短絡試験(取り出し)では、キズ及び剥がれなしと判定された。
【0066】
外装として厚さ2.0μm-5.0μmの電着塗布層が設けられ、更にUVコートが設けられる実施例2-5の単3形アルカリ電池についても、実施例1と同様の結果が得られた。即ち、従来例の単3形アルカリ電池よりも電池容量は高められ、試験1の外部短絡試験(並列配置)では電圧低下及び発熱なしと判定され、試験2の外部短絡試験(取り出し)ではキズ及び剥がれなしと判定された。
【0067】
表1の実施例1-5の結果より、電着塗布層を設けた電池缶用板状鋼板を用いて外形寸法を大型化した電池缶を得ること、更に、得られた電池缶にUVコートを設けることで、電池容量が高く、外部短絡が効果的に抑えられる単3形アルカリ電池を得ることができることが確認された。尚、ここでは電池缶にUVコートが設けられないものを比較例2としたが、比較例2の単3形アルカリ電池でも、電池容量向上効果を得ることができ、一定程度の外部短絡抑制効果は得ることができる。
【符号の説明】
【0068】
1、1a 筒形電池
1b 素電池
2、2a 正極端子
3、3a 負極端子
10、10a 電池缶
11、11a 凹部
20、20a 鋼板
21 第1面
22 第2面
23、23a メッキ層
30 電着塗布層
30a 外装ラベル
40 電池缶用板状鋼板
41 谷間
50 表面処理層
51 印刷層
52 コート層
60 発電要素
61 正極層
62 負極層
63 セパレータ
70、70a 封口体
80 集電体
90 絶縁ワッシャー
100 電池缶外径拡大しろ
図1
図2
図3