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  • -排水処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025092812
(43)【公開日】2025-06-23
(54)【発明の名称】排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20250616BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20250616BHJP
   B01D 61/16 20060101ALI20250616BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
C02F1/44 E
B01D61/14 500
B01D61/16
B01D65/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208133
(22)【出願日】2023-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中西 彩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史崇
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 久好
(72)【発明者】
【氏名】岩永 匡紀
(72)【発明者】
【氏名】西田 高志
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006KA01
4D006KA03
4D006KB13
4D006KB21
4D006KB30
4D006KC16
4D006KD03
4D006KD08
4D006KD12
4D006KD15
4D006KD24
4D006PA01
4D006PB08
4D006PB27
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】本発明は、重金属含有排水から重金属を除去する排水処理方法において、膜閉塞が抑制された効率のよい排水処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、重金属含有排水に重量平均分子量が2000以下のキレート剤を添加し、重金属含有汚泥を得る工程と、重金属含有汚泥を分離除去するろ過処理工程とを含む、排水処理方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属含有排水に重量平均分子量が2000以下のキレート剤を添加し、重金属含有汚泥を得る工程と、
前記重金属含有汚泥を分離除去するろ過処理工程とを含む、排水処理方法。
【請求項2】
前記ろ過処理工程が、精密ろ過膜又は限外ろ過膜を用いたろ過処理工程である、請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記精密ろ過膜又は前記限外ろ過膜が、クエン酸、次亜塩素酸及び塩酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む洗浄液で定期洗浄されたものである、請求項2の排水処理方法。
【請求項4】
前記重金属含有排水が、カドミウムを含む、請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項5】
前記重金属含有排水が、火力発電所の排煙脱硫排水である、請求項4に記載の排水処理方法。
【請求項6】
前記キレート剤がピペラジン系ジチオカルバミン酸塩である、請求項1に記載の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法に関する。具体的には、本発明は、重金属含有排水から重金属を除去するための排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水資源を守るために、上水、排水、廃水、汚水などの様々な水から不純物成分を除去し、浄化水を得る水処理が求められている。例えば、イタイイタイ病の原因物質であるカドミウムのように、金属工業、非鉄金属第1次製錬・精製業、非鉄金属第2次製錬・精製業、溶融めっき業、水産食料品製造業の排水に含まれる重金属成分は、人の健康に影響を及ぼす可能性がある。このため、国連機関や日本国を含む各国で重金属に関する環境基準や排出基準が定められている。カドミウムは、国連機関による耐容摂取量の設定を受け、水質汚濁防止法の排水基準が0.03mg/L以下に強化された(非特許文献1)。
【0003】
重金属含有排水の処理方法としては、キレート剤を用いた処理方法が知られている。例えば、特許文献1には、重金属含有排水にキレート系重金属処理剤を加えて該排水中の重金属成分を除去するための該キレート系重金属処理剤の必要添加量を決定する方法において、該重金属含有排水のpHを、pH6~8の中性付近でpHの変動幅を±0.5以内に抑えながら該排水にキレート系重金属処理剤を添加し、このキレート系重金属処理剤の添加量と、このキレート系重金属処理剤の添加前後の該排水の酸化還元電位の変化量を測定し、この測定結果に基いて、前記必要添加量を決定する方法であって、前記キレート系重金属処理剤の添加量に対して、該酸化還元電位の変化量が最大となる時のキレート系重金属処理剤の添加量を必要添加量とすることを特徴とするキレート系重金属処理剤の必要添加量の決定方法が開示されている。また、特許文献2には、水産加工排水である原水を生物処理することによりCODが160mg/L以下の処理水を得る一次処理手段と、前記一次処理手段の下流に配置される前記処理水に無機凝集剤およびキレート剤を添加する手段と、前記無機凝集剤およびキレート剤を添加する手段の下流に配置される前記処理水に対して精密ろ過膜又は限外ろ過膜を用いたろ過である物理処理を行う手段を有し、前記一次処理手段の下流かつ前記物理処理を行う手段の上流に、前記処理水のpHを6から8に調整する手段を有する水処理システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4811899号公報
【特許文献2】特許第6015841号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】環境省「水質汚濁防止法に基づく排出水の排出、地下浸透水の浸透等の規制に係る項目の許容限度等の見直しについて(報告案)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高分子成分を含有するキレート剤は下流で行われるろ過処理において膜閉塞の原因となる場合があり問題となっていた。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、重金属含有排水から重金属を除去する排水処理方法において、膜閉塞が抑制された効率のよい排水処理方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の具体的な態様の例を以下に示す。
【0009】
[1] 重金属含有排水に重量平均分子量が2000以下のキレート剤を添加し、重金属含有汚泥を得る工程と、
重金属含有汚泥を分離除去するろ過処理工程とを含む、排水処理方法。
[2] ろ過処理工程が、精密ろ過膜又は限外ろ過膜を用いたろ過処理工程である、[1]に記載の排水処理方法。
[3] 精密ろ過膜又は限外ろ過膜が、クエン酸、次亜塩素酸及び塩酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む洗浄液で定期洗浄されたものである、[2]の排水処理方法。
[4] 重金属含有排水が、カドミウムを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の排水処理方法。
[5] 重金属含有排水が、火力発電所の排煙脱硫排水である、[1]~[4]のいずれかに記載の排水処理方法。
[6] キレート剤がピペラジン系ジチオカルバミン酸塩である、[1]~[5]のいずれかに記載の排水処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、重金属含有排水から重金属を除去する排水処理方法において、膜閉塞を抑制することができる。これにより、排水処理方法のコストを抑えつつ、効率良く排水処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態の排水処理方法におけるフローを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(排水処理方法)
本実施形態は、重金属含有排水に重量平均分子量が2000以下のキレート剤を添加し、重金属含有汚泥を得る工程と、重金属含有汚泥を分離除去するろ過処理工程とを含む、排水処理方法に関する。
本実施形態において、キレート剤は、排水に含まれる重金属を捕集する剤であり、重金属を捕集したキレート剤を適切に除去することで浄化水を得ることができる。
【0014】
本実施形態の排水処理方法では、重金属含有排水に重量平均分子量が2000以下のキレート剤を添加しているため、下流で行われるろ過処理において膜が閉塞することを抑制することができる。これにより、排水処理方法のコストを抑えつつ、排水処理効率を高めることができる。
【0015】
また、本実施形態の排水処理方法では、高濃度で重金属を含む排水を用いた場合であっても、最終的に得られる浄化水の不純物濃度を非常に低くすることができる。特に、カドミウムを高濃度(0.1mg/L以上)含む重金属含有排水を用いた場合であっても、確実に水質汚濁防止法の放流規制値(0.03mg/L)未満のカドミウム濃度の浄化水を得ることができる。
【0016】
キレート剤の重量平均分子量は、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、700以下であることが一層好ましく、500以下であることが特に好ましい。なお、キレート剤の重量平均分子量は、100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましい。キレート剤の重量平均分子量を上記範囲内とすることにより、下流で行われるろ過処理において膜が閉塞することをより効果的に抑制することができる。これにより、排水処理方法のコストを抑えつつ、排水処理効率を高めることができる。キレート剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)により測定した標準PEG/PEOを用いて換算した値である。
<GPC条件>
・装置:HLC-8320GPC(東ソー製)
・検出器:RI検出器polarity(+)
・カラム:TSKgel guardcolumn SuperAW-H(4.6mmI.D.×3.5cm)+TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本(東ソー製)
・溶離液:ジメチルホルムアミド(DMF)+10mM-LiBr+30mM-トリエチルアミン
・流速:0.6L/min
・温度:40℃
【0017】
本実施形態で使用されるキレート剤としては、ジアルキルジチオカルバミン酸、ピペラジン、ピペラジン系ジチオカルバミン酸、シクロアルキルジチオカルバミン酸、ジチオカルバミン酸、ピロリジンジチオカルバミン酸及びこれらの塩を挙げることができる。これらの化合物及びこれらの塩は錯体形成性の官能基を有しているため、排水に含まれる重金属を捕集することができる。中でも、キレート剤は、ピペラジン、ピペラジン系ジチオカルバミン酸及びピペラジン系ジチオカルバミン酸塩から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ピペラジン系ジチオカルバミン酸塩であることが特に好ましい。
【0018】
本実施形態は、排水処理方法を実施するための排水処理装置に関するものであってもよい。図1は、本実施形態の排水処理方法を実施するための排水処理装置(排水処理システム)の一例を示す概略図である。図1に示す排水処理装置は、排水にキレート剤を添加する手段を備えることが好ましい。前処理槽では、排水の水質(例えば、排水中のカドミウムなどの重金属濃度)を測定する手段が設けられていることが好ましい。そこで測定されたカドミウム濃度に応じて、キレート剤を添加する手段におけるキレート剤の添加量が算出されることになる。
【0019】
前処理槽やその上流では、キレート剤の添加効果が最大限に得られるように、予備的処理(一次処理手段)を行うことができる。例えば、重金属含有排水にタンパクや油脂が多く含まれると、キレート剤と重金属の反応を阻害するなどの不具合が発生する場合がある。前処理槽では、例えば、タンパクや油脂等の成分を除去することが好ましい。本明細書では、予備的処理(一次処理手段)を経た排水を処理水ともいう。なお、一次処理手段が設けられない場合、重金属含有排水と図1で言う前処理槽の上流における排水の水質は同様である。
【0020】
排水処理装置は、前処理槽の下流にろ過処理工程が設けられる。ろ過処理工程では、キレート剤を添加する工程で得られた重金属含有汚泥を分離除去する。
【0021】
排水処理装置は、処理水の少なくとも一部を返送処理水として前処理層に戻す手段(不図示。例えば、任意のポンプなど)を含んでいてもよい。処理水のカドミウム濃度やその他の成分の濃度(例えば、COD、BOD、SS濃度、濁度等)が所定値未満でない場合に、処理水の少なくとも一部を返送処理水として前処理層に戻してもよい。また、ろ過処理工程を通過した処理水の少なくとも一部を返送処理水として前処理層に戻してもよい。
【0022】
<重金属含有排水>
重金属含有排水としては、例えば工場排水(水産加工排水や自動車工場、非鉄金属業やメッキ工場、半導体工場から排出される排水等)、火力発電所排水、汚水などを挙げることができる。本実施形態において処理する重金属含有排水はカドミウムを含む排水であることが好適であるが、カドミウムの他に、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)といった重金属が含まれていてもよい。
【0023】
重金属含有排水としては、例えば水産加工排水が挙げられる。水産加工排水とは、水産加工事業所から排出される排水であり、主に、魚類、貝類及び魚卵由来の有機物や重金属を含む排水である。特に、ホタテの中腸腺やイカの肝臓、カニの内臓にはカドミウムが含まれることから、これら軟体動物や甲殻動物を加工する水産加工場からはカドミウムを含む排水が排出される。水産加工排水は、通常、BOD濃度が10~5000mg/L、COD濃度が30~3000mg/L、塩分濃度が0~20%、カドミウム濃度が0~3mg/L、亜鉛濃度が0~30mg/L、鉄濃度が0~30mg/Lである。
【0024】
また、本実施形態では、重金属含有排水として火力発電所の排水を用いることが好ましく、特にCOD成分、重金属類、フッ素等を含有する火力発電所の排煙脱硫排水を処理する方法として好適である。火力発電所の排煙脱硫排水はカドミウムを多く含有する排水であり、特に夏場は排水温度が50℃程度にまで上昇する。火力発電所の排煙脱硫排水は、通常、COD濃度が10~300mg/L、カドミウム濃度が0.1~0.5mg/L、フッ素濃度が10~2000mg/Lである。
【0025】
重金属含有排水として火力発電所の排煙脱硫排水を用いる場合、重金属含有排水の年間の最高水温と最低水温との差が好ましくは10℃以上、年間の最高水温が好ましくは40℃以上である。本実施形態の排水処理方法は、重金属含有排水の年間の最高水温と最低水温との差が10℃以上、年間の最高水温が40℃以上であっても、年間を通して排水中のカドミウム濃度がほぼ一定して推移するため、キレート剤の添加量を適切な量にコントロールすることができ、また、排水処理工程においてキレート剤の添加量の制御が容易である。このため、一年を通して排水処理方法のコストを抑えることができる、排水処理効率をより効果的に高めることができる。
【0026】
本実施形態の排水処理方法において処理し得る重金属含有排水の量は特に制限されず、多量の重金属含有排水を処理することが可能である。具体的には、一日当たり500m以上の重金属含有排水を処理することも可能である。
【0027】
<一次処理工程>
重金属含有排水中に有機物(例えば、タンパクや油脂)が含まれている場合には、キレート剤と重金属の反応を阻害することがあり、その結果としてキレート剤の添加量が増えることが懸念される。また、有機物は後述する膜処理等を行う場合には、膜表面に付着してろ過を妨げたり、重金属含有排水の粘性を上げてろ過膜の通過抵抗を大きくし、膜の逆洗頻度が上昇したり、必要な膜面積が増加するなど種々の不具合の原因となる。このため、本実施形態の排水処理方法では、重金属含有排水にキレート剤を添加する前に一次処理(前処理)を行ってもよい。このような一次処理工程は、凝集沈殿処理および加圧浮上処理などの物理化学処理、および活性汚泥処理および生物膜ろ過処理および生物膜処理および嫌気性生物処理などの生物処理のいずれか、もしくは複数の処理方法を組み合わせて実施することが可能である。適切な処理方法を選択し、組み合わせることで、費用対効果に優れた処理が可能となる。
【0028】
<キレート剤を添加する工程>
キレート剤を添加する工程では、重金属含有排水もしくは一次処理工程を経て得られた処理水に重量平均分子量が2000以下のキレート剤を添加する。重金属含有排水もしくは一次処理工程を経て得られた処理水にキレート剤を添加することで、重金属含有汚泥が得られる。
【0029】
キレート剤を添加する工程では、キレート剤を添加した後に、適切な混合時間でよく混合することが好ましい。
【0030】
キレート剤を添加する工程では、キレート剤に加えて無機凝集剤を添加してもよい。無機凝集剤を添加するタイミングは、キレート剤の添加前が好ましい。無機凝集剤としては、例えば、PAC(ポリ塩化アルミニウム)または硫酸バンドのアルミ系凝集剤またはポリ鉄または塩化第一鉄または塩化第二鉄の鉄系凝集剤等が挙げられる。また、高分子凝集剤としては、例えば、アニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤などが挙げられ、より具体的には、ポリアクリルアミド、2-アクリロイルアミノ-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等が挙げられる。無機凝集剤や高分子凝集剤を添加することで、カドミウム以外の重金属やその他の成分についても効果的に除去することもできる。なお、後述する重金属を分離する工程が精密ろ過膜(MF膜)や限外ろ過膜(UF膜)を用いたろ過処理工程である場合、膜の閉塞を抑制する観点から、高分子凝集剤を添加しないことが好ましい。
【0031】
キレート剤を添加する工程では、必要に応じて、重金属含有排水もしくは一次処理工程を経て得られた処理水のpHを調整してもよい。例えば、図1に示されるように、pHを調整する手段14を設けてもよい。図1に示されるように、pHを調整する手段14は、キレート剤を添加する手段13と同時に設けられてもよく、キレート剤を添加する手段13の上流もしくは下流に設けられてもよい。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0032】
キレート剤を添加する工程における金属含有排水もしくは一次処理工程を経て得られた処理水のpHは、4から10であることが好ましく、5から9であることがより好ましく、6から8であることがさらに好ましい。金属含有排水もしくは一次処理工程を経て得られた処理水のpHを上記範囲内とすることにより、キレート剤による重金属の捕集効果を高めることができる。
【0033】
<ろ過処理工程>
本実施形態の排水処理方法では、キレート剤を添加する工程の後に、ろ過処理工程をさらに有することが好ましい。ろ過処理工程では、キレート剤を添加する工程で得られた重金属含有汚泥を分離除去する。
【0034】
ろ過処理工程は、精密ろ過膜(MF膜)又は限外ろ過膜(UF膜)を用いたろ過処理工程であることが好ましい。精密ろ過膜(MF膜)や限外ろ過膜(UF膜)を用いたろ過処理工程を採用することで、大腸菌などの細菌類を重金属含有排水から完全に除去し、無菌水を得ることも可能となる。また、フロックの形成状態によって浮上する等して、不溶化された重金属が処理水へ流出することを抑えることができる。膜の形態は中空糸もしくは平膜とし、クロスフロー方式もしくはデッドエンド方式で重金属含有排水を処理する。省エネの観点からデッドエンド方式を採用することが好ましい。
【0035】
上述した精密ろ過膜(MF膜)や限外ろ過膜(UF膜)を用いたろ過処理工程を得て得られた浄化水3はナノろ過膜(NF膜)もしくは逆浸透膜(RO膜)でそのまま処理することが可能であり、容易に脱塩水が得られる。
【0036】
本実施形態では、精密ろ過膜又は限外ろ過膜が、クエン酸、次亜塩素酸及び塩酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む洗浄液で定期洗浄されたものであることが好ましい。例えば、ろ過方式がデッドエンド方式の場合、5から120分に1回の頻度で膜表面の洗浄を行うのが望ましく、洗浄頻度は10から60分に1回がさらに望ましく、20から40分に1回が最も望ましい。なお、洗浄装置としては特に制限はないが、酸、次亜塩素酸等を含む洗浄廃液がカドミウム捕捉に悪影響を及ぼす虞があることから、洗浄装置は排水処理装置とラインを分けることが好ましい。
【0037】
<洗浄工程>
洗浄工程では、物理洗浄として、膜表面の洗浄、あるいは逆洗する工程を行うのが好ましい。洗浄の頻度は5分から120分に1回、10分から60分に1回がより好ましく、20分から40分に1回がさらに好ましい。薬品洗浄として、ろ過膜はクエン酸、次亜塩素酸および塩酸よりなる群から選択される少なくとも1種で薬品洗浄してもよい。この場合の洗浄頻度は、24時間に1回以上の頻度で含むことが好ましく、より好ましくは1時間から48時間に1回、さらに好ましくは6時間から36時間に1回、特に好ましくは12時間から24時間に1回実施することが好ましい。薬品濃度は、選択する薬品により適宜設定すればよく、ろ過膜を傷めない観点から0.1~0.5質量%程度で実施するのが好ましい。
【実施例0038】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0039】
(実施例)
火力発電所から排出された重金属含有排水を原水とし、25℃に液温を調整した。図1に示される処理フローに従い15日間排水を連続して処理し、膜入口と膜出口の圧力差を経時的に測定した。図1における混和槽では、キレート剤として王子エンジニアリング(株)製のOJI-FLOCK CH-140(重量平均分子量315)を20mg/Lとなるように添加した。
【0040】
(比較例)
キレート剤をミヨシ油脂(株)製のエポフロックL-1(重量平均分子量3400)に変更した以外は実施例と同様にして、15日間排水を連続して処理し、膜入口と膜出口の圧力差を経時的に測定した。
【0041】
測定結果から1日目の差圧変動(kPa)(ろ過膜出口圧力-濾過膜入口圧力)(単位:kPa)と15日目の差圧変動(kPa)(ろ過膜出口圧力-濾過膜入口圧力)(単位:kPa)を求め、15日目の差圧変動(kPa)と1日目の差圧変動(kPa)の差分を求めることで差圧変動幅を算出した。差圧変動幅は表1に示すとおりであった。また、物理洗浄を40分に1回実施し、クエン酸、次亜塩素酸および塩酸よりなる薬品洗浄を24時間に1回実施し、80日間排水を連続して処理した以外は実施例と同様に測定した結果、表1の差圧変動幅を超えることなく、長期間の安定運転が可能であった。
【0042】
【表1】
図1