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  • 特開-樹脂巻き転がり軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025092912
(43)【公開日】2025-06-23
(54)【発明の名称】樹脂巻き転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/073 20060101AFI20250616BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20250616BHJP
   F16C 23/06 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
F16C35/073
F16C19/06
F16C23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208317
(22)【出願日】2023-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】笠原 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】相原 成明
(72)【発明者】
【氏名】矢部 俊一
(72)【発明者】
【氏名】本多 信太郎
【テーマコード(参考)】
3J012
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J012AB03
3J012BB01
3J012CB10
3J012DB12
3J117AA02
3J117CA06
3J117DA02
3J117DB09
3J117DB10
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701BA77
3J701FA33
3J701FA35
(57)【要約】
【課題】石油由来成分のみでバイオ度が0%であったポリアセタールコポリマーに比べて、環境にやさしく、かつ、軸受外径と、ハウジング、又はレールとの間の滑り、及び軸受内径と、シャフトとの間の滑り、が生じない、また、軸受の温度が上がり過ぎることを防止できる樹脂巻き転がり軸受を提供できる。
【解決手段】内輪2の内径面2aに樹脂巻き部を有する樹脂巻き転がり軸受1において、樹脂巻き部5を、バイオメタノールを原料とするポリアセタールコポリマーで形成されており、内輪2は、樹脂巻き部5との接触部(内径面2a、端面2b、2c又は、内輪2の外径面2d)には、凹凸表面、化成表面、あるいはフェノール系接着剤の接着剤層形が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪の内径側に樹脂巻き部を有する樹脂巻き転がり軸受において、
前記樹脂巻き部は、バイオメタノールを原料とするポリアセタールコポリマーで形成されており、
前記内輪の樹脂巻き部との接触部には、凹凸表面、化成処理面、あるいはフェノール系接着剤の接着剤層が設けられていることを特徴とする樹脂巻き転がり軸受。
【請求項2】
前記樹脂巻き部との接触部は、少なくとも前記内輪の内径面、端面、又は外径面であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂巻き転がり軸受。
【請求項3】
ポリアセタールコポリマーのバイオ度を、90.9~99.99%としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂巻き転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、特に、内輪の内径面に樹脂部を設けた樹脂巻き転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種のガイド部に用いられる、外輪の外径面に樹脂巻き部を設けた樹脂巻き転がり軸受は、ガイド対象物が動くたびに、軸受に断続的、若しくは非安定的な荷重が加わる。この様な負荷が軸受に作用すると軸受寿命に影響を及ぼすことが懸念されるため、軸受を構成する部品である樹脂巻き部にも耐衝撃性が要求されている。また、外輪とハウジング間で生じるクリープにより樹脂巻き部が摩耗し、摩耗が進行すると異音が発生する恐れも懸念されるため、樹脂巻き部の摺動特性も要求されている。また、当該樹脂巻き部に耐衝撃性や摺動特性が要求されることから、外輪樹脂の材質にポリアセタールコポリマーが多く使用されてきた。
【0003】
また、特許文献1の転がり軸受は、内輪と外輪の間に転動体を介在させた玉軸受からなり、当該外輪の外周に互いに内外に重なる内側樹脂層及び外側樹脂層を設けた樹脂巻き軸受である。当該外側樹脂層の樹脂としては、石油系の樹脂層の樹脂例で、ポリアセタールが開示されている。
【0004】
また、特許文献2の転がり軸受は、内輪と外輪との間に、転動体としての玉が介装してあり、当該軸受の外輪外径に非金属材を巻き付けた非金属材巻き軸受である。その非金属材の樹脂例として、石油系のポリアセタールを開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-51063号公報
【特許文献2】特許第4784200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来からのポリアセタールコポリマーは、主原料のメタノールを含めて、全て石油由来のものであり、環境に考慮したものではなかった。また、特許文献1及び2に開示のポリアセタールは自己潤滑性が高い特性を持つため、内輪回転荷重軸受の取り付けにおいて推奨される、外輪すきまばめ、かつ、内輪しまりばめ、の環境で、外輪の外径面に樹脂巻き部を設けた軸受では、軸受の外径面と、ハウジングやレール部との間で、滑りが生じ、異音や振動が発生する課題があった。
【0007】
さらに、転がり軸受は、回転時に発熱するが、その熱を外輪の外径側のハウジング、あるいは、内輪の内径側のシャフトを通して放熱することで、軸受の温度が高くなり過ぎないように保たれている。特に、外輪の外径側の方は、体積が大きい、すなわち、熱容量も大きいため、放熱性も必要な機能である。しかし、樹脂は、軸受外輪やハウジングに用いられる金属材料より熱伝導性が低いため、外輪の外径面に樹脂巻き部を設けると、放熱性に影響を与えることが懸念される。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、ポリアセタールコポリマーの主原料であるメタノールを植物由来のバイオメタノールを採用し、環境にやさしいバイオマスプラスチックのポリアセタールコポリマーで樹脂巻き部とした。また、本発明は、樹脂巻き部を、内輪の内径側に形成することで、前記滑りの発生を防止するとともに、樹脂巻き部が、内輪しまりばめにより、内輪と、シャフトとの間で締めつけられることで、内輪の内径面と、シャフトとの間の滑りも生じない構造とする。さらに、このように熱容量が大きなハウジング側への熱伝導を、樹脂巻き部によって妨げない構造となるため、軸受の温度が高くなり過ぎることを解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、第1の本発明は、内輪の内径側に樹脂巻き部を有する樹脂巻き転がり軸受において、前記樹脂巻き部は、バイオメタノールを原料とするポリアセタールコポリマーで形成されており、
前記内輪の樹脂巻き部との接触部には、凹凸表面、化成処理面、あるいはフェノール系接着剤の接着剤層が設けられていることを特徴とする。
【0010】
第2の本発明は、第1の本発明において、前記樹脂巻き部との接触部は、少なくとも前記内輪の内径面、端面、又は外径面であることを特徴とする。
第3の本発明は、第1の本発明又は第2の本発明において、ポリアセタールコポリマーのバイオ度を、90.9~99.99%としたことを特徴とする。
本発明のポリアセタールコポリマーはバイオ度が90.9~99.99%であることから、従来の石油由来成分のみでバイオ度が0%であったポリアセタールコポリマーに比べて、環境にやさしく、かつ、軸受外径と、ハウジング、又はレールとの間の滑り、及び軸受内径と、シャフトとの間の滑りが生じない、又は軸受の温度が上がり過ぎることを防止できる樹脂巻き転がり軸受を提供できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂巻き転がり軸受によれば、従来の石油由来成分のみでバイオ度が0%であったポリアセタールコポリマーに比べて、環境にやさしく、かつ、軸受外径と、ハウジング、又はレールとの間の滑り、及び軸受内径と、シャフトとの間の滑り、が生じない、また、軸受の温度が上がり過ぎることを防止できる。
また、本発明のバイオ度が高いポリアセタールコポリマーは、化学的組成は変わらないことから、従来の石油化学由来原料のみから製造されたポリアセタールコポリマーと比べて、機械的物性や耐熱性等の特性に差異はない。さらに、ポリアセタールコポリマーは、ポリアセタールホモポリマーに比べて、分子構造の差から、熱安定性が高く、樹脂巻き転がり軸受に求められるクリープ破壊寿命等の長期特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一実施形態に係る樹脂巻き転がり軸受の部分断面である。
図2】(a)から(e)は、本発明の第二実施形態にかかる樹脂巻き転がり軸受の部分断面図である。
図3】(a)から(c)は、本発明の第三実施形態にかかる樹脂巻き転がり軸受の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、内輪の内径面に樹脂巻き部を有する樹脂巻き転がり軸受であって、樹脂巻き部は、バイオメタノールを原料とするポリアセタールコポリマーで形成されており、内輪の樹脂巻き部との接触部には、凹凸表面、化成処理面、あるいはフェノール系接着剤の接着剤層が設けられている形態である。
【0014】
このような樹脂巻き転がり軸受は、石油由来成分のみのポリアセタールコポリマーに比べて、環境にやさしく、かつ、軸受外径と、ハウジング、又はレールとの間の滑り、及び軸受内径と、シャフトとの間の滑りが生じない、また、熱容量が大きなハウジング側への熱伝導を、樹脂巻き部によって妨げない構造となるため、軸受の温度が高くなり過ぎることを防止できる。加えて、外輪の外径面への樹脂巻きと比べて、内輪の内径面への樹脂巻きでは、樹脂の使用量も減るため、より環境にやさしい樹脂巻き転がり軸受となる。
以下、本発明の第一実施形態から第四実施形態について説明する。なお、これらの実施形態は、本発明の一実施形態に過ぎず何等限定解釈されるものではなく本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。
【0015】
[第一実施形態]
図1に示すように、本実施形態の樹脂巻き転がり軸受1は、内輪2と外輪3の間に転動体4を介在させた玉軸受で、内輪2の内径面2aに沿った形状に加えて、両端面2b、2cの接触部を樹脂巻き部5で覆った形状としている。また、図1において、樹脂巻き部5の両端の角が丸みを帯びてないように図示されているが、実際には角取りがなされている(以下、図2図3も同じ。)。
【0016】
具体的には、内輪2の内径面2aの軸方向全体で径方向の所定の厚みt1で樹脂を巻いた樹脂巻き部5を形成している。また、両端面2b、2cの全体を軸方向の所定の厚みt3で径方向の所定の厚みt2の樹脂で覆っている。これらの厚みは、樹脂巻き転がり軸受1の大きさ等によって適切に決められる。
【0017】
樹脂巻き部5は、バイオメタノールを原料とするポリアセタールコポリマーを射出成形(インサート成形)で形成した部材とし、内輪2は、樹脂巻き部5との接触部である内径面2a、両端面2b、2cにおいて、リン酸亜鉛皮膜又はシランカップリング剤による化成表面処理、あるいはフェノール系接着剤の焼付による接着剤層形成処理のいずれかを施している。リン酸亜鉛皮膜はプライマー層として形成され、シランカップリング剤は接着剤の密着性を向上させる。
【0018】
また、本実施形態は、メタノールを植物由来のバイオメタノールに変更し、環境にやさしいポリアセタールコポリマーに変更し、かつ、樹脂巻き部5との接触部を内輪2の内径面2a、両端面2b、2cについて形成することで、軸受の外径をすきまばめで用いられる用途における、軸受外径とハウジング、又はレールとの間の滑りが生じ難く、かつ、軸受のハウジング側への放熱を妨げない構造にしている。このバイオマスプラスチックとなった、バイオメタノールを原料としたポリアセタールコポリマーは、バイオメタノールの使用割合から、バイオ度が、90.9~99.99%であり、非常に環境にやさしいものとなっている。
【0019】
次に、樹脂巻き部5の接着剤層における製造過程を説明する。内輪2の内径面内径面2a、両端面2b、2cにポリアセタール層を射出成形(インサート成形)で製造するためには、インサート成形前の内輪2の内径面2a、端面2b、2c、又はリン酸亜鉛皮膜やシランカップリング剤などによる化成処理、あるいは、フェノール系接着剤の焼付などの接着剤層の形成を施すことを必須とする。
その理由は、内輪2の内径面2a等にこれらを形成しておかないと、射出成形で生じる樹脂の成形収縮により、樹脂層が内輪2の内径面2aから剥がれ落ちる、あるいは、離型時に割れる問題が生じるからである。
【0020】
なお、内輪2の内径面2aに沿った形状に加えて、両端面2b、2cの接触部を樹脂巻き部5で覆った形状とは異なる形態について、内輪2の外径面2dに、射出した樹脂を固定するための溝、あるいは、微細な凹凸の加工処理を施す実施例については、第三実施形態で説明する。
【0021】
また、樹脂巻き部5を形成するベース樹脂として、バイオマスプラスチックのポリアセタールコポリマーを使用することができる。このポリアセタールコポリマーは、植物由来のバイオメタノールから得られたトリオキサン(ホルムアルデヒドの三量体)を主原料として、コモノマー成分にエチレンオキサイドもしくは1,3-ジオキサンのような少なくとも2個の隣接炭素原子を有する環状エーテルをトリオキサンに対して、0.1~10モル%添加して重合することで製造される。
【0022】
このポリアセタールコポリマーは、上記の添加割合から、バイオ度(バイオ比率)は、90.9~99.99%である。
ポリアセタールコポリマーは、ポリアセタールホモポリマーに比べて、分子構造の差から、熱安定性が高く、樹脂巻き転がり軸受に求められるクリープ破壊寿命等の長期特性に優れている。
【0023】
以上のとおり説明したように、ポリアセタールコポリマーの分子量は、射出成形できる範囲、具体的には数平均分子量で13000~28000、より好ましくは、耐疲労性、成形性を考慮すると、数平均分子量で18000~26000の範囲である。数平均分子量が13000未満の場合は分子量が低すぎて耐疲労性が悪く、実用性が低い。それに対して数平均分子量が28000を越える場合は、溶融粘度が高くなりすぎ、樹脂巻き部を精度良く射出成形(インサート成形)で製造することが難しくなり、好ましくない。
【0024】
このようなベース樹脂は、樹脂単独でも一定以上の耐久性を示し、樹脂巻き部が接触する可能性がある相手部材(シャフト部)の摩耗に対して有利に働き、軸受部品として十分に機能する。しかしながら、より過酷な使用条件で使用されると、樹脂巻き部が破損、変形、摩耗することも想定されるため、信頼性をより高めるために、強化材を配合しても構わない。
【0025】
また、強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、上記に挙げたポリアミド樹脂との接着性を考慮してシランカップリング剤等で表面処理したものが更に好ましい。また、これらの強化材は複数種を組み合わせて使用することができる。衝撃強度を考慮すると、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状物を配合することが好ましく、更に相手材の損傷を考慮するとウィスカー状物を繊維状物と組み合わせて配合することが好ましい。なお、混合使用する場合の混合比は、繊維状物及びウィスカー状物の種類により異なり、衝撃強度や相手材の損傷等を考慮して適宜選択される。
【0026】
また、ガラス繊維としては、一般的な平均繊維径である10~13μmのものの他、少ない含有量で高強度化と耐摩耗性の改善が可能な平均繊維径が5~7μmのもの、あるいは異形断面のものがより好適である。
【0027】
さらに、炭素繊維としては、強度を優先するのであれば、PAN系のものが好適であるが、コスト面で有利なピッチ系もものの使用可能である。平均繊維径としては、5~15μmのものが好適である。炭素繊維は、繊維自体の強度、弾性率が高いため、ガラス繊維に比べて、保持器の高強度化、高弾性率化が可能である。
【0028】
アラミド繊維としては、強化性に優れるパラ系アラミド繊維を好適に使用することが可能である。平均繊維径としては、5~15μmのものが好適である。アラミド繊維は、ガラス繊維及び炭素繊維のように、鉄鋼材料を傷つけることはないので、保持器が接触する相手部材の表面状態を悪くすることがないので、樹脂巻き転がり軸受の音響特性等を重視する場合は、更に好適である。
【0029】
これらの強化材を含有させる場合は、全体の10~40重量%、特に15~30重量%の割合で配合することが好ましい。強化材の配合量が10重量%未満の場合には、機械的強度の改善が少なく好ましくない。強化材の配合量が40重量%を超える場合には、成形性が低下すると共に、強化材の種類によっては、相手材への傷つけ性が高くなるので好ましくない。
【0030】
さらに、添加剤として樹脂に、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、ヨウ化物系熱安定剤やアミン系酸化防止剤を、それぞれ単独あるいは併用して添加することが好ましい。
【0031】
また、ポリアセタールは成形収縮率が大きいという課題がある。具体的には、ポリアミド66(PA66)で0.8~1.5、ポリフェニレンサルファイド(PPS)で0.6~0.8に対して、ポリアセタールは2.0~2.5である。そのため、ポリアセタールを内輪内径側に射出成形で形成すると、取り出し時、若しくは取り出し後に内輪内径部から外れてしまうおそれがある。
【0032】
そこで、前記樹脂巻き部との接触部に、溝、あるいは、微細な凹凸の加工、リン酸亜鉛皮膜やシランカップリング剤などによる化成処理、あるいは、フェノール系接着剤の焼付などの接着剤層を形成している。
この点について、以下の第二実施形態及び第三実施形態において、樹脂巻き部との接触部に、溝、あるいは、微細な凹凸の加工を施した実施例について詳細に説明する。
【0033】
[第二実施形態]
図2(a)は、各々この発明における第二実施形態を示している。本実施形態の樹脂巻き転がり軸受1は、内輪2と外輪3の間に転動体4を介在させた玉軸受で、内輪2の内径面2aのみを樹脂巻き部5との接触部として樹脂巻き部5で覆っている形状としている。なお、図1に付されている符号において、図2と共通する符号はそのまま付しているが、第一実施形態とは、内輪2の内径面2aのみを樹脂巻き部5との接触部として樹脂巻き部5で覆っている形状が相違しているだけであり、同一の構成部材についての説明は省略する。
【0034】
このように、熱容量が大きなハウジング側への熱伝導を、樹脂巻き部5によって妨げない構造となるため、軸受の温度が高くなり過ぎる課題も解決できる。加えて、外輪3の外径面への樹脂巻きと比べて、内輪2の内径面への樹脂巻きでは、樹脂の使用量も減る、より環境にやさしい樹脂巻き転がり軸受を提供できる。
【0035】
さらに、図2(b)及び図2(c)に示すように、第一実施形態と同じく内径面2a側を樹脂巻き部で覆い形成されることで、滑りの発生を防止するとともに、樹脂巻き部5が内輪しまりばめにより、内輪2と、シャフトとの間で締めつけられることで、内輪2の内径面2aと、シャフトとの間の滑りも生じない構造となる。また、熱容量が大きなハウジング側への熱伝導を、樹脂巻き部5によって妨げない構造となるため、軸受の温度が高くなり過ぎることも解決することができる。
【0036】
また、樹脂巻き部5がバイオメタノールを原料とするポリアセタールコポリマーを射出成形(インサート成形)で形成した部材とし、内輪2が樹脂巻き部5との接触部において、樹脂巻きがリン酸亜鉛皮膜又はシランカップリング剤による化成表面処理、あるいはフェノール系接着剤の焼付による接着剤層形成処理のいずれかを施している。
【0037】
図2(a)は、樹脂巻き部5との接触部が内輪2の内径面2aだけ覆う形状である。具体的には、内輪2の内径面2aの軸方向全体を径方向の所定の厚みt1で樹脂巻きによる樹脂巻き部5を形成している。図1の第一実施形態と対比して、樹脂巻き部5が端面2b、2cを覆っていない構成である。これらの厚みは、樹脂巻き転がり軸受1の大きさ等によって適切に決められる。
【0038】
図2(b)は、樹脂巻き部5との接触部が内輪2の内径面2aと端面2b、2cの一部を覆う形状である。具体的には、内輪2の内径面2aの軸方向全体を径方向に所定の厚みt1で樹脂巻きし樹脂巻き部5を形成し、かつ、両端面2b、2cの一部(図2(b)では約半分)を図1のように軸方向の所定の厚みt3で覆い、さらに図2(b)のように径方向の所定の厚みt4で樹脂巻きによる樹脂巻き部5を形成している。
【0039】
この樹脂巻き部5は、図1の第一実施形態の樹脂巻き部5のように、端面2b、2cを全てではなく内径側の一部を覆っている構成である。これらの厚みは、樹脂巻き転がり軸受1の大きさ等によって適切に決められる。
このように、端面2b、2cを全てではなく内径側の一部を覆うだけでも、樹脂巻き部5との接触部接着面が大きくなるため軸受への振動に対し樹脂巻き部5の接着がより強固となる。
【0040】
図2(c)は、樹脂巻き部5との接触部が内輪2の内径面2a、端面2b、2c及び内輪2の外径面2dの一部を覆う形状である。具体的には図1のように内輪2の内径面2aの軸方向全体で径方向の所定の厚みt1で樹脂巻きし、両端面2b、2cの全体を軸方向の所定の厚みt3で径方向の所定の厚みt5の樹脂で覆い、さらに外径面2d側に軸方向の所定の厚みt6の樹脂で覆っている。これらの厚みは、樹脂巻き転がり軸受1の大きさ等によって適切に決められる。
このように、外径面2d側に軸方向の所定の厚みt6の樹脂で覆うことにより、樹脂巻き部5との接触部との接着面が大きくなるため軸受への振動があっても樹脂巻き部5の接着がより強固となる。
【0041】
[第三実施形態]
図3(a)から(e)は、各々この発明における第三実施形態を示しており、本実施形態の樹脂巻き転がり軸受1は、内輪2と外輪3の間に転動体4を介在させた玉軸受で、内輪2の内径面2a、端面2b、2c、外径面2dを樹脂巻き部5との接触部として樹脂巻き部5で覆っている形状とし、内径面2a側の樹脂巻き部5を薄肉と肉厚からなる凹凸表面加工処理等を種々施している。
【0042】
なお、図3に付されている符号において、図1、2と共通する符号はそのまま付しあり、同一の構成部材についての説明は省略する。また、符号2a、2b、2c、2dについて、図を分かり易くするためその記載を省いている。第三実施形態は、図1のように、内輪2の内径面2aのみを樹脂巻き部5との接触部として樹脂巻き部5で覆うだけではなく、さらに樹脂巻き部5の形状が加工処理され相違している。具体的には、内輪2が樹脂巻き部5との接触部である内径面2aにおいて、凹凸等の表面加工処理を施している。
【0043】
このように、熱容量が大きなハウジング側への熱伝導を、樹脂巻き部によって妨げない構造となるため、軸受の温度が高くなり過ぎる課題も解決できる。加えて、外輪の外径面への樹脂巻きと比べて、内輪の内径面への樹脂巻きでは、樹脂の使用量も減る、より環境にやさしい樹脂巻き転がり軸受を提供できる。
【0044】
さらに、内径面2a側の凹凸等の表面加工処理等を種々施し樹脂巻き部を、内輪の内径側に種々の形状で形成されることで、滑りの発生を防止するとともに、樹脂巻き部が内輪しまりばめにより、内輪と、シャフトとの間で締めるけられることで、内輪の内径面と、シャフトとの間の滑りも生じない構造となる。また、熱容量が大きなハウジング側への熱伝導を、樹脂巻き部によって妨げない構造となるため、軸受の温度が高くなり過ぎることも解決することができる。
【0045】
また、樹脂巻き部5がバイオメタノールを原料とするポリアセタールコポリマーを射出成形(インサート成形)で形成した部材とし、内輪2が樹脂巻き部5との接触部において、樹脂巻きがリン酸亜鉛皮膜又はシランカップリング剤による化成表面処理、あるいはフェノール系接着剤の焼付による接着剤層形成処理のいずれかを施している。
【0046】
図3(a)は、樹脂巻き部5との接触部が内輪2の内径側の形状が、内輪2の内径面2aに沿った形状ではなく断面視フランジ構造である。具体的には、内輪2の内径面2aの軸方向全体で径方向に所定の厚みt1で樹脂巻きし、両端面2b、2cの全体を軸方向の所定の厚みt3で覆い、また、径方向に所定の厚みt2の樹脂で覆い、かつ、径方向に所定の厚みが図面に向かって右側の所定の厚み(高さ)t1の面から径方向の所定の厚み(高さ)t7まで形成された軸方向片側が突出したL字形状のフランジが備えられている。なお、そのフランジの形成位置は左右逆であっても構わない。これらの所定の厚みは、樹脂巻き転がり軸受1の大きさ等によって適切に決められる。
【0047】
図3(b)は、樹脂巻き部5との接触部が内輪2の内径側の形状が、図3(a)のように段差を設ける形状ではなく傾斜を設けた断面視テーパー構造である。具体的には、内輪2の内径面2aの軸方向全体で径方向に所定の厚みt1で樹脂巻きし、両端面2b、2cの全体を軸方向に所定の厚みt3で覆い、径方向に所定の厚み(高さ)がt1から所定の厚み(高さ)t8へと傾斜が次第に高くなる(肉厚になる)ような樹脂で覆っている。図3(b)では、径方向に所定の厚みが図面に向かって左側のt2から右側のt8へと傾斜が高くなるような樹脂で覆っているが、左右逆であっても構わない。これらの厚みは、樹脂巻き転がり軸受1の大きさ等によって適切に決められる。
【0048】
図3(c)は、樹脂巻き部5との接触部が内輪2の内径側の形状が、図3(a)のような片側に段差や図3(b)のようにテーパーを設けた形状ではなく、中央が半円形に溝を設けた断面視U溝構造である。具体的には、内輪2の内径面2aの所定の厚み(高さ)t1底部分から両端の所定の厚み(高さ)t9とする断面視U溝構造の樹脂巻きし樹脂巻き部5を形成している。これらの厚みは、樹脂巻き転がり軸受1の大きさ等によって適切に決められる。
【0049】
図3(d)は、樹脂巻き部5との接触部が内輪2の内径側の形状が、図3(c)のような断面視U溝構造の形状ではなく、中央に鋭角の溝を設けた断面視V溝構造である。具体的には、内輪2の内径面2aの所定の厚み(高さ)t1底部分から両端の所定の厚み(高さ)t10とする断面視V溝構造の樹脂巻きし樹脂巻き部5を形成している。これらの厚みは、樹脂巻き転がり軸受1の大きさ等によって適切に決められる。
【0050】
図3(e)は、樹脂巻き部5との接触部が内輪2の内径側の形状が、図3(a)から図3(d)のような単純な形状ではなく断面視凹凸が多数有する特殊形状である。具体的には、内輪2の内径面2aの凹部の所定の厚み(高さ)t1から軸方向全体で径方向に突出する凸部の所定の厚み(高さ)t11で樹脂巻きし樹脂巻き部5を形成している。また、図3(e)では、突出部が半円状の丸みを帯びた4個の凸が形成されているが、その凸部の個数及びこれらの凹凸厚みは、樹脂巻き転がり軸受1の大きさ等によって適切に決められる。
【0051】
[第四実施形態]
第四実施形態は、図に示さないが、第二実施形態と第三実施形態の実施例を組み合わせた樹脂巻き転がり軸受1である。具体的には、第三実施形態の図3(a)から(e)の樹脂巻き部5は、第二実施形態の図2(b)の樹脂巻き部5との組み合わせの実施例であるように、第二実施形態の図2(a)の樹脂巻き部5と第三実施形態の図3(a)から(e)の樹脂巻き部5との組み合わせの実施例である。
【0052】
また、第二実施形態の図2(c)の樹脂巻き部5と第三実施形態の図3(a)から(e)の樹脂巻き部5との組み合わせの実施例である。第二実施形態と第三実施形態のそれぞれ同一の構成を用いているためここでの説明は省略する。
このような組み合わせの実施例にすることにより、第二実施形態と第三実施形態の相乗効果が得られる。
【符号の説明】
【0053】
1 樹脂巻き転がり軸受
2 内輪
2a 内径面
2b、2c 端面
2d 外径面
3 外輪
4 転動体
5 樹脂巻き部
図1
図2
図3