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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009300
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ゴム組成物、ゴム架橋物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20250110BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20250110BHJP
   C08K 5/3445 20060101ALI20250110BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20250110BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20250110BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K5/092
C08K5/3445
C08G59/50
C08G59/42
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112211
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩地 大輝
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131AA06
3D131AA10
3D131BA02
3D131BB01
3D131BB03
4J002AA051
4J002AC021
4J002EF107
4J002EU106
4J002FD147
4J002FD156
4J002GN01
4J036CD04
4J036DB18
4J036DC41
4J036JA15
(57)【要約】
【課題】再結合性のある結合で架橋されたジエン系ゴムの強度を改良する。
【解決手段】ゴム架橋物は、一般式(1)で表されるジカルボン酸と一般式(2)で表されるイミダゾールとで架橋されたエポキシ基を有するジエン系ゴムを含む。式(1)中のRは、1個以上のヘテロ原子で中断されていてもよい、炭素原子数3~50の二価の炭化水素基を表す。式(2)中のRは水素原子又はメチル基を表す。
HOOC-R-COOH (1)
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有するジエン系ゴムと、下記一般式(1)で表されるジカルボン酸と、下記一般式(2)で表されるイミダゾールと、を含むゴム組成物であって、
HOOC-R-COOH (1)
式(1)中、Rは、1個以上のヘテロ原子で中断されていてもよい、炭素原子数3~50の二価の炭化水素基を表し、
【化1】
式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す、
ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記ジカルボン酸の量が0.2~20質量部である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記イミダゾールの量が0.5~15質量部である、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
下記一般式(1)で表されるジカルボン酸と下記一般式(2)で表されるイミダゾールとで架橋されたエポキシ基を有するジエン系ゴムを含む、ゴム架橋物であって、
HOOC-R-COOH (1)
式(1)中、Rは、1個以上のヘテロ原子で中断されていてもよい、炭素原子数3~50の二価の炭化水素基を表し、
【化2】
式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す、
ゴム架橋物。
【請求項5】
請求項4に記載のゴム架橋物を含む、タイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、ゴム架橋物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にゴムは硫黄により架橋されている。近年、ゴムのマテリアルリサイクルの重要性が高まってきているが、硫黄架橋の架橋点は元に戻らないため、硫黄架橋されたゴムのリサイクルは難しい。
【0003】
ゴムのマテリアルリサイクルを実現する手法としては主に2つ考えられる。一つは脱硫処理である。しかしながら、脱硫処理では、一般に硫黄結合の選択的切断が難しく、主鎖の切断も伴うため物性が低下する。もう一つは硫黄架橋の代替であり、硫黄架橋を可逆性の架橋に変更することでマテリアルリサイクルを実現する手法である。
【0004】
硫黄架橋の代替技術として、特許文献1には、ポリカルボン酸で架橋したエポキシドエラストマーを含むゴム組成物が開示されている。特許文献1では、エポキシド官能基を含むジエンエラストマーを、2種類の特定のポリカルボン酸及び特定のイミダゾール化合物を含む架橋系と混合することにより、ポリカルボン酸で架橋したジエンエラストマーが調製されている。具体的に、特許文献1には、エポキシ化天然ゴムにドデカン二酸とポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)ジカルボキシ末端と1-ベンジル-2-メチルイミダゾールを配合したゴム組成物が開示されているが、イオン結合により架橋可能なイミダゾールを用いることは開示されていない。
【0005】
一方、非特許文献1には、エポキシ化天然ゴムに1H-イミダゾールをグラフト化させることによりアイオノマーを形成して、エポキシ化天然ゴムにイオン結合による架橋(すなわち、イオン架橋)を導入することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2016-501941号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Mandal他、”Transformation of Epoxidized Natural Rubber into Ionomers byGrafting of 1H-Imidazolium Ion and Development of a Dynamic ReversibleNetwork”, Applied Polymer Materials, 2022, 4, 9, 6612-6622
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エポキシ基を持つジエン系ゴムをジカルボン酸で架橋することにより、エポキシ基とカルボキシ基が反応し、エステル結合が形成される。エステル結合はエステル交換反応により組み替え可能であるため、再結合性のある結合であり、自己修復性、再加工性を示す。しかしながら、ジカルボン酸による架橋では強度が必ずしも十分でない場合があり、強度の改良が求められる。
【0009】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、ジカルボン酸で架橋されたゴム架橋物の強度を改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、硫黄架橋の代替技術について鋭意検討していくなかで、ジカルボン酸によるエステル結合の架橋に加えて、イミダゾールによるイオン架橋を導入することで、ゴム架橋物の強度を改良することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] エポキシ基を有するジエン系ゴムと、下記一般式(1)で表されるジカルボン酸と、下記一般式(2)で表されるイミダゾールと、を含むゴム組成物。
HOOC-R-COOH (1)
(式(1)中、Rは、1個以上のヘテロ原子で中断されていてもよい、炭素原子数3~50の二価の炭化水素基を表す。)
【化1】
(式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。)
[2] 前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記ジカルボン酸の量が0.2~20質量部である、[1]に記載のゴム組成物。
[3] 前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記イミダゾールの量が0.5~15質量部である、[1]又は[2]に記載のゴム組成物。
[4] 上記一般式(1)で表されるジカルボン酸と上記一般式(2)で表されるイミダゾールとで架橋されたエポキシ基を有するジエン系ゴムを含む、ゴム架橋物。
[5] [4]に記載のゴム架橋物を含む、タイヤ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、ジカルボン酸で架橋されたゴム架橋物の強度を改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係るゴム組成物は、エポキシ基を有するジエン系ゴムと、一般式(1)で表されるジカルボン酸と、一般式(2)で表されるイミダゾールと、を含む。これらは、各成分間で反応せずに混ざり合った混合物として含まれてもよく、少なくとも一部が反応してなる生成物として含まれてもよく、未反応のものと反応したものが混在してもよい。
【0014】
エポキシを有するジエン系ゴム(以下、エポキシ化ジエン系ゴムという。)は、ジエン系ゴムの炭素-炭素二重結合の一部がエポキシ化されたものである。ジエン系ゴムとは、共役二重結合を持つジエンモノマーに対応する繰り返し単位を持つゴムをいい、ポリマーの主鎖に炭素-炭素二重結合を含む。エポキシ化ジエン系ゴムのベースとなるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。
【0015】
エポキシ化ジエン系ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、エポキシ化合成イソプレンゴム、エポキシ化ポリブタジエンゴム、及び、エポキシ化スチレンブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。より好ましくはエポキシ化天然ゴムである。
【0016】
エポキシ化天然ゴムは、天然ゴムをエポキシ化することで得られるものであり、例えば、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法等によりエポキシ化したものを用いることができる。
【0017】
エポキシ化ジエン系ゴムのエポキシ化率は、特に限定されず、例えば1~80モル%でもよく、5~70モル%でもよく、10~60モル%でもよく、20~55モル%でもよい。エポキシ化率は、エポキシ化前のジエン系ゴムの全二重結合の数のうち、エポキシ化された二重結合の数の比率であり、フーリエ変換核磁気共鳴分光法により測定することができる。
【0018】
エポキシ化ジエン系ゴムの分子量は特に限定されず、常温(25℃)で固体であるものを好ましく用いることができる。
【0019】
実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分はエポキシ化ジエン系ゴムのみでもよいが、エポキシ化ジエン系ゴムとともに、エポキシ基を有さない非エポキシ化ゴムを含んでもよい。該非エポキシ化ゴムとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等が挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
ゴム成分はエポキシ化ジエン系ゴムを主成分とすることが好ましく、ゴム成分100質量%におけるエポキシ化ジエン系ゴムの量は50~100質量%であることが好ましく、より好ましくは70~100質量%であり、更に好ましくは80~100質量%であり、特に好ましくは100質量%である。
【0021】
上記ジカルボン酸は、下記一般式(1)で表される化合物であり、エポキシ化ジエン系ゴムを架橋する成分である。該ジカルボン酸としては、式(1)で表される化合物をいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。該ジカルボン酸の2つのカルボキシ基がエポキシ化ジエン系ゴムのエポキシ基とそれぞれ反応してエステル結合が形成される。そのため、エポキシ化ジエン系ゴムのポリマー鎖間がジカルボン酸を介して架橋される。エステル結合はエステル交換反応により組み替え可能である。このように再結合性のある結合であるため、自己修復性、再加工性があり、マテリアルリサイクルを実現することができる。
【0022】
HOOC-R-COOH (1)
式(1)において、Rは、1個以上のヘテロ原子で中断されていてもよい、炭素原子数3~50の二価の炭化水素基を表す。
【0023】
該二価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基でもよく、芳香族炭化水素基でもよい。脂肪族炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよく、また、直鎖でも分岐鎖を有してもよく、脂環式構造を含むもの(即ち、脂環式炭化水素基)でもよい。好ましくは、分岐鎖及び/又は脂環式構造を有してもよい、飽和又は不飽和の二価の脂肪族炭化水素基(好ましくはアルカンジイル基又はアルケンジイル基)である。
【0024】
の炭素原子数は6~45個であることが好ましく、より好ましくは8~40個であり、更に好ましくは15~40個である。ジカルボン酸の2つのカルボキシ基間を直鎖状につなぐ炭素鎖における炭素原子数Ncは、3~30個であることが好ましく、より好ましくは6~25個であり、更に好ましくは10~20個である。ここで、該炭素原子数Ncは、架橋鎖の長さの指標となるものであり、後述する実施例におけるダイマー酸DFAの場合は16個であり、セバシン酸の場合は8個である。
【0025】
の炭化水素基は、例えば酸素、窒素及び硫黄から選択される少なくとも1個のヘテロ原子によって中断されていてもよく、好ましくは酸素原子によって中断されていてもよく、即ちエーテル結合を含んでいてもよい。
【0026】
上記ジカルボン酸の具体例としては、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、水素化ダイマー酸等が挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
上記ジカルボン酸の量は、エポキシ化ジエン系ゴム100質量部に対して、0.2~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~15質量部であり、更に好ましくは0.8~10質量部であり、更に好ましくは1~5質量部である。
【0028】
上記イミダゾールは、下記一般式(2)で表される化合物であり、エポキシ化ジエン系ゴムを架橋する成分である。詳細には、該イミダゾールは1位の窒素原子に水素原子を持つことにより、エポキシ化ジエン系ゴムのエポキシ基と反応してエポキシ化ジエン系ゴムに結合する。結合したイミダゾール環に別のエポキシ化ジエン系ゴムのエポキシ基が反応することで、エポキシ化ジエン系ゴムのポリマー鎖同士がイミダゾールを介して結合され、正に帯電したイミダゾール環とともに酸素原子の負イオン(O)が生じる。これによりイミダゾリウムイオンが中性の繰り返し単位となってエポキシ化ジエン系ゴムがアイオノマーを形成し、エポキシ化ジエン系ゴムにイオン結合よる架橋(イオン架橋)が導入される(非特許文献1参照)。このようにイミダゾールによるイオン架橋を追加で導入することにより、ゴム架橋物の強度を向上することができる。その理由は、特に限定されるものではないが、イオン架橋が系内で犠牲結合として機能するためと推測される。すなわち、イオン架橋が犠牲結合として破壊エネルギーを分散しながら優先的に破壊されることで、系全体の強度を増加させると考えられる。
【0029】
【化2】
式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。そのため、該イミダゾールは、1H-イミダゾール、又は2-メチル-1H-イミダゾールであり、これらはそれぞれ単独で用いても併用してもよい。
【0030】
上記イミダゾールの量は、エポキシ化ジエン系ゴム100質量部に対して、0.5~15質量部であることが好ましく、より好ましくは1~10質量部であり、更に好ましくは1.5~8質量部であり、更に好ましくは2~5質量部である。
【0031】
本実施形態に係るゴム組成物は、エポキシ化ジエン系ゴムに対する上記ジカルボン酸のエステル反応を促進するために、金属塩及び/又はN-置換イミダゾールを含んでもよい。これらはエステル反応を促進する成分であるため、エポキシ化ジエン系ゴムには結合せず、架橋する成分とはならない。
【0032】
金属塩としては、特に限定されず、例えば、亜鉛塩(例えば、酢酸亜鉛、塩化亜鉛)、マンガン塩(例えば、酢酸マンガン)等の重金属塩、カルシウム塩(例えば、酢酸カルシウム)、マグネシウム塩(例えば、酢酸マグネシウム)等のアルカリ土類金属塩等が挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
金属塩の量は、特に限定されず、エポキシ化ジエン系ゴム100質量部に対して、1~20質量部でもよく、2~15質量部でもよい。
【0034】
N-置換イミダゾールとしては、イミダゾール環の1位の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基等で置換されたイミダゾールを用いることができる。N-置換イミダゾールの具体例としては、1-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ブチルイミダゾール、1-プロピルイミダゾール等が挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0035】
N-置換イミダゾールの量は、特に限定されず、エポキシ化ジエン系ゴム100質量部に対して、1~20質量部でもよく、3~10質量部でもよい。
【0036】
本実施形態に係るゴム組成物は、充填剤を含んでもよい。充填剤としては、例えば、カーボンブラック及び/又はシリカが好ましい。カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。シリカとしても、特に限定されず、湿式シリカ、乾式シリカ等が挙げられ、好ましくは、湿式沈降法シリカ、湿式ゲル化法シリカなどの湿式シリカを用いることである。
【0037】
充填剤の量は、特に限定されず、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、ゴム成分100質量部に対して10~200質量部でもよく、30~100質量部でもよい。
【0038】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、オイルなど、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤が配合されてもよい。
【0039】
本実施形態に係るゴム組成物は、硫黄等の加硫剤と加硫促進剤を実質的に含まないことが好ましい。すなわち、該ゴム組成物は、硫黄等の加硫剤及び加硫促進剤を含まないか、含む場合でも、加硫剤及び加硫促進剤の合計量がゴム成分100質量部に対して1質量部未満であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部未満であり、更に好ましくは0.2質量部未満である。
【0040】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて混合することにより作製することができる。混合手順は特に限定されず、例えば、(A)エポキシ化ジエン系ゴムに対して上記ジカルボン酸と上記イミダゾールを一度に加えて混合してもよく、(B)エポキシ化ジエン系ゴムに上記ジカルボン酸を加えて混合し、次いで得られた混合物に上記イミダゾールを加えて混合してもよく、あるいは、(C)エポキシ化ジエン系ゴムに上記イミダゾールを加えて混合し、次いで得られた混合物に上記ジカルボン酸を加えて混合してもよい。その際、充填剤等の添加剤は、上記ジカルボン酸及び上記イミダゾールの混合に先立って予めエポキシ化ジエン系ゴムに添加し混合してもよく、あるいは、上記ジカルボン酸及び上記イミダゾールのいずれか一方又は両方をエポキシ化ジエン系ゴムに添加し混合してから得られた混合物に添加し混合してもよい。
【0041】
このようにして得られたゴム組成物は、更に熱を加えて架橋を完了させることによりゴム架橋物を得ることができる。
【0042】
実施形態に係るゴム架橋物は、上記式(1)で表されるジカルボン酸と上記式(2)で表されるイミダゾールとで架橋されたエポキシ化ジエン系ゴムを含むものであり、上記ゴム組成物を架橋することにより得られる。ゴム架橋物において、エポキシ化ジエン系ゴムは、上記ジカルボン酸によるエステル結合の架橋に加えて、上記イミダゾールによるイオン架橋が導入されており、強度が改良されている。これらの架橋は再結合性のある結合であるため、自己修復性、再加工性があり、そのため、マテリアルリサイクルを実現しながら強度を改良することができる。
【0043】
実施形態に係るゴム組成物ないしゴム架橋物は、タイヤ、防振ゴム、コンベアベルトなどの各種ゴム部材に用いることができる。好ましくはタイヤ用である。すなわち、好ましい実施形態に係るタイヤは、上記ゴム架橋物を含むものである。タイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、各種サイズの空気入りタイヤが挙げられ、それらのトレッド、サイドウォール、ビード部などの各部位に適用することができる。
【実施例0044】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例及び比較例では使用したENR、DFAは以下のとおりである。
・ENR:エポキシ化天然ゴム、Muang Mai Guthrie Public Company Limited製「Epoxyrene50」(エポキシ化率:50モル%)
・DFA:下記式で表されるダイマー酸、Sigma-Aldrich製「Dimer acid, hydrogenated」
【化3】
【0046】
実施例及び比較例における調製方法X、Y、Zは以下のとおりである。
・調製方法X:バンバリーミキサー(東洋精機製作所製「ラボプラストミル 10S100」)を用いて、ENRに、酢酸亜鉛、1,2-ジメチルイミダゾール及びジカルボン酸を添加し、60℃、100rpmの条件で10分間混合した。次いで、該バンバリーミキサーを用いて、得られた混合物に1H-イミダゾールを添加し、60℃、100rpmの条件で3分間混合した。次いで、得られた混合物を厚み1mmのシート状に成形し、170℃で60分間加熱してシート状のゴム架橋物を得た。
【0047】
・調製方法Y:バンバリーミキサー(東洋精機製作所製「ラボプラストミル 10S100」)を用いて、ENRに、1H-イミダゾールを添加し、60℃、100rpmの条件で3分間混合した。次いで、該バンバリーミキサーを用いて、得られた混合物に酢酸亜鉛、1,2-ジメチルイミダゾール及びジカルボン酸を添加し、60℃、100rpmの条件で10分間混合した。次いで、得られた混合物を厚み1mmのシート状に成形し、170℃で60分間加熱してシート状のゴム架橋物を得た。
【0048】
・調製方法Z:バンバリーミキサー(東洋精機製作所製「ラボプラストミル 10S100」)を用いて、ENRに、酢酸亜鉛、1,2-ジメチルイミダゾール及びジカルボン酸を添加し、60℃、100rpmの条件で10分間混合した。次いで、得られた混合物を厚み1mmのシート状に成形し、170℃で60分間加熱してシート状のゴム架橋物を得た。
【0049】
実施例及び比較例におけるゴム架橋物の評価方法は以下のとおりである。
・100%伸長時応力:JIS K6251:2017に準拠した引張試験(ダンベル状7号形、厚み1mm)を行い、25℃における100%伸長時の引張応力(MPa)を測定した。得られた引張応力について、表1では比較例1の値、表2では比較例3の値、表3では比較例4の値を、それぞれを100とした指数で表示した。指数が大きいほど100%伸長時の引張応力が大きく、破壊特性(機械強度)に優れることを示す。
【0050】
[第1実験例]
下記表1に示す配合(質量部)及び調製方法に従い、比較例1~2及び実施例1~6のゴム架橋物を調製した。得られたゴム架橋物について100%伸長時応力を評価した。
【0051】
【表1】
【0052】
結果は表1に示すとおりである。比較例1,2はジカルボン酸としてDFAを用いたエステル結合による架橋構造を導入した例である。実施例1~6は、DFAによるエステル結合に加えて1H-イミダゾールによるイオン架橋を導入した例であり、該イオン架橋を導入することにより、比較例1,2に比べて強度が大幅に改良された。実施例3と実施例4との対比により、調製方法としては、先にエステル結合による架橋構造を導入した実施例4よりも、先にイオン架橋を導入した実施例3の方が強度の改良効果により優れていた。1H-イミダゾールの量を増やした実施例5と実施例6との対比でも、同様の結果であった。
【0053】
[第2実験例]
下記表2に示す配合(質量部)及び調製方法に従い、比較例3及び実施例7~10のゴム架橋物を調製した。得られたゴム架橋物について100%伸長時応力を評価した。
【0054】
【表2】
【0055】
結果は表2に示すとおりである。ジカルボン酸をDFAからセバシン酸に変更しても、エステル結合に加えて1H-イミダゾールによるイオン架橋を導入した実施例7~10であると、エステル結合のみの比較例3に比べて強度が改良された。但し、改良幅としては、DFAに比べて小さかった。その理由は明らかではないが、セバシン酸はDFAに比べて架橋鎖の長さが短いため、イオン架橋によるイオン会合体に入り込み、イオン会合体の一部を破壊していると推測される。あるいはまた、セバシン酸はDFAと比較して反応性が低いことも要因として挙げられる。
【0056】
[第3実験例]
下記表3に示す配合(質量部)及び調製方法に従い、比較例4~8のゴム架橋物を調製した。得られたゴム架橋物について100%伸長時応力を評価した。
【0057】
【表3】
【0058】
結果は表3に示すとおりである。ジカルボン酸をマロン酸に変更したところ、エステル結合に加えて1H-イミダゾールによるイオン架橋を導入しても、比較例5~8に示すように、強度の改良効果は認められず、むしろ強度が低下した。マロン酸はセバシン酸よりも更に架橋鎖の長さが短く、反応性も低いことが要因であると考えられる。
【0059】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。