(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025093044
(43)【公開日】2025-06-23
(54)【発明の名称】炉心溶融物の冷却装置および原子力設備
(51)【国際特許分類】
G21C 9/016 20060101AFI20250616BHJP
G21C 13/00 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
G21C9/016
G21C13/00 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208522
(22)【出願日】2023-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 千弘
【テーマコード(参考)】
2G002
【Fターム(参考)】
2G002AA04
2G002BA07
(57)【要約】
【課題】原子炉容器から流出した炉心溶融物を早期に冷却することを可能とする。
【解決手段】原子炉格納容器の基礎部に設置された構造物により原子炉が支持され、原子炉容器の下部から落下する炉心溶融物を冷却する炉心溶融物の冷却装置において、原子炉容器の下方に設けられて冷却水を貯留する貯水槽と、貯水槽の内部に配置されて側部に冷却水流入部が設けられる炉心溶融物受部材と、炉心溶融物受部材を支持すると共に炉心溶融物の有無に応じて上昇位置と下降位置とに移動自在に支持する支持部材と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器の基礎部に設置された構造物により原子炉が支持され、原子炉容器の下部から落下する炉心溶融物を冷却する炉心溶融物の冷却装置において、
前記原子炉容器の下方に設けられて冷却水を貯留する貯水槽と、
前記貯水槽の内部に配置されて側部に冷却水流入部が設けられる炉心溶融物受部材と、
前記炉心溶融物受部材を支持すると共に前記炉心溶融物の有無に応じて上昇位置と下降位置とに移動自在に支持する支持部材と、
を備える炉心溶融物の冷却装置。
【請求項2】
前記支持部材は、前記炉心溶融物受部材が前記炉心溶融物を受け止めていないとき、前記炉心溶融物受部材を前記冷却水流入部から冷却水が流入しない前記上昇位置に支持し、前記炉心溶融物受部材が前記炉心溶融物を受け止めたとき、前記炉心溶融物受部材を前記冷却水流入部から冷却水が流入する前記下降位置に支持する、
請求項1に記載の炉心溶融物の冷却装置。
【請求項3】
前記支持部材は、前記炉心溶融物受部材の下方に配置され、前記炉心溶融物受部材が前記炉心溶融物を受け止めることで変形するクラッシャブルビームを有する、
請求項2に記載の炉心溶融物の冷却装置。
【請求項4】
前記貯水槽に対して前記炉心溶融物受部材を鉛直方向に沿って移動自在に支持するガイド機構が設けられる、
請求項1に記載の炉心溶融物の冷却装置。
【請求項5】
前記炉心溶融物受部材の内部に犠牲材が配置される、
請求項1に記載の炉心溶融物の冷却装置。
【請求項6】
前記冷却水流入部は、前記炉心溶融物受部材の側部に設けられる冷却水流入孔または冷却水流入切欠を有する、
請求項1に記載の炉心溶融物の冷却装置。
【請求項7】
前記貯水槽に冷却水を補充する冷却水補充機構が設けられる、
請求項1に記載の炉心溶融物の冷却装置。
【請求項8】
原子炉格納容器と、
前記原子炉格納容器の内部に配置される原子炉と、
請求項1に記載の炉心溶融物の冷却装置と、
を備える原子力設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炉心溶融物の冷却装置および原子力設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉格納容器は、岩盤等の堅固な地盤上に立設され、内部に原子炉が配置される。原子炉は、原子炉格納容器の基礎部に設けられたコンクリート構造物により支持される。原子力設備では、シビアアクシデントとして、炉心溶融物が原子炉容器から流出する事故が想定される。炉心溶融物は、原子炉容器の下部を溶融して下方に落下することから、原子炉容器の下方にキャビティを設け、キャビティにより炉心溶融物を受け止め、冷却水により炉心溶融物を冷却する。このような原子力設備としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の原子力設備では、炉心溶融物が原子炉容器から流出する事故が発生すると、ポンプを作動することで、キャビティに落下した炉心溶融物に対して冷却水を供給して冷却している。ところが、原子力設備における電源が喪失した場合、ポンプを作動することができず、早期に炉心溶融物を冷却することができないおそれがある。また、特許文献1に記載された冷却装置は、炉心溶融物を非直接接触冷却するものであり、炉心溶融物を早期に冷却することが困難である。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、原子炉容器から流出した炉心溶融物を早期に冷却することを可能とする炉心溶融物の冷却装置および原子力設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の炉心溶融物の冷却装置は、原子炉格納容器の基礎部に設置された構造物により原子炉が支持され、原子炉容器の下部から落下する炉心溶融物を冷却する炉心溶融物の冷却装置において、前記原子炉容器の下方に設けられて冷却水を貯留する貯水槽と、前記貯水槽の内部に配置されて側部に冷却水流入部が設けられる炉心溶融物受部材と、前記炉心溶融物受部材を支持すると共に前記炉心溶融物の有無に応じて上昇位置と下降位置とに移動自在に支持する支持部材と、を備える。
【0007】
また、本開示の原子力設備は、前記原子炉格納容器の内部に配置される原子炉と、前記炉心溶融物の冷却装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の炉心溶融物の冷却装置および原子力設備によれば、原子炉容器から流出した炉心溶融物を早期に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態の原子力設備を表す概略図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の炉心溶融物の冷却装置を表す概略図である。
【
図3】
図3は、炉心溶融物の冷却装置の作用を表す概略図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態の炉心溶融物の冷却装置を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
[第1実施形態]
<原子力設備>
図1は、第1実施形態の原子力設備を表す概略図である。
【0012】
図1に示すように、原子力設備10は、原子力発電プラントに適用される。本実施形態の原子力設備10は、軽水を原子炉冷却材および中性子減速材として使用し、一次系全体にわたって沸騰しない高温高圧水とし、高温高圧水を蒸気発生器に送って熱交換により蒸気を発生させ、蒸気をタービン発電機へ送って発電する加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)を備える。但し、原子炉は、加圧水型原子炉に限定されるものではなく、沸騰型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)などのその他の原子炉に適用することもできる。
【0013】
原子炉格納容器11は、岩盤等の堅固な地盤G上に配置される。原子炉格納容器11は、基礎部12と、格納容器本体13とを備える。基礎部12は、地盤G上に設置され、格納容器本体13は、基礎部12に立設される。基礎部12と格納容器本体13は、一体構造をなす。格納容器本体13は、内部に鉄筋コンクリートなどにより構築される構造物14が設けられる。構造物14は、基礎部12の上部で、格納容器本体13の内部に配置される。
【0014】
原子炉格納容器11は、中央部に原子炉15が配置される。構造物14は、原子炉格納容器11の中央部に円柱形状をなす空間部16が区画され、原子炉15は、空間部16に配置され、空間部16の内壁部を形成する構造物14により吊り下げ支持される。原子炉格納容器11は、原子炉15の周囲に複数の蒸気発生器17が配置される。複数の蒸気発生器17は、構造物14に支持される。原子炉15と複数の蒸気発生器17は、冷却水配管18により連結される。
【0015】
原子炉格納容器11は、原子炉15の下方にキャビティ19が区画形成される。キャビティ19は、原子炉15から落下する炉心溶融物を受け止めて冷却する。原子炉格納容器11は、基礎部12に冷却水を貯留する冷却水ピット20が設けられ、格納容器本体13の上部に冷却水噴射装置21が設けられる。冷却水ピット20は、冷却水経路22により冷却水噴射装置21に連結され、冷却水経路22に冷却水ポンプ23が設けられる。
【0016】
原子炉15は、原子炉容器24の内部に炉心25が配置されて構成される。原子炉容器24は、原子炉容器本体の上部に原子炉容器蓋が着脱自在に設けられて構成される。原子炉容器24は、上側部に一次冷却水としての軽水(冷却材)を供給する入口ノズルと、軽水を排出する出口ノズルが設けられる。原子炉容器24は、入口ノズルと出口ノズルに蒸気発生器17からの冷却水配管18がそれぞれ連結される。原子炉容器24の内部に配置される炉心25は、複数の燃料集合体により構成される。燃料集合体は、多数の燃料棒が支持格子により格子状に束ねられて構成される。なお、炉心25は、多数の燃料棒と共に原子炉15の出力を制御する複数の制御棒が配置される。
【0017】
原子炉15は、炉心25を構成する原子燃料が核分裂することで中性子を放出し、減速材および一次冷却水としての軽水が、放出された高速中性子の運動エネルギを低下させて熱中性子とし、新たな核分裂を起こしやすくすると共に、発生した熱を奪って冷却する。このとき、炉心25に制御棒を挿入することで、炉心25内で生成される中性子数を調整することで、原子炉15の出力が調整される。
【0018】
蒸気発生器17は、原子炉格納容器11の外部に設けられた蒸気タービンに蒸気配管を介して連結される。蒸気タービンは、発電機が連結される。蒸気発生器17は、原子炉15から供給される高温の一次冷却水と二次冷却水との間で熱交換を行うことで、蒸気を生成する。生成された蒸気は、蒸気タービンに送られて駆動し、発電機による発電を行う。蒸気タービンを駆動した蒸気は、冷却された後に蒸気発生器17に戻される。
【0019】
<炉心溶融物の冷却装置>
図2は、第2実施形態の炉心溶融物の冷却装置を表す概略図、
図3は、炉心溶融物の冷却装置の作用を表す概略図である。
【0020】
図1および
図2に示すように、原子力設備10は、炉心溶融物の冷却装置30を備える。炉心溶融物の冷却装置30は、原子炉格納容器11の基礎部12に設置された構造物14により原子炉15が支持され、原子炉15を構成する原子炉容器24の下部から落下する炉心溶融物を冷却するものである。炉心溶融物の冷却装置30は、キャビティ(貯水槽)19と、炉心溶融物受部材31と、支持部材32とを備える。
【0021】
キャビティ19は、原子炉15の下方に位置する基礎部12に上方が開口した凹部形状をなして設けられ、原子炉15の中心部の下方に対向した位置に配置される。キャビティ19は、内部に所定量の冷却水を貯留する。
【0022】
炉心溶融物受部材31は、キャビティ19の内部に配置される。炉心溶融物受部材31は、外形寸法がキャビティ19の内形寸法より小さい。すなわち、炉心溶融物受部材31がキャビティ19の内部に配置されたとき、炉心溶融物受部材31の外面とキャビティ19の内面との間に隙間が確保される。炉心溶融物受部材31は、炉心溶融物を受け止めることができる受皿形状をなす。本実施形態にて、炉心溶融物受部材31は、上方が開口する正方形の箱型形状であるが、形状は限定されない。炉心溶融物受部材31は、上方が開口していればよく、例えば、長方形の箱型形状、下部が水平方向の外側に広がるフラスコ形状、水平方向に長い船体形状などであってもよい。
【0023】
炉心溶融物受部材31は、四方の側部31aと、底部31bとを有する。側部31aは、鉛直方向に沿って配置され、底部31bは、水平方向に沿って配置され、各側部31aの下部に一体に設けられる。この場合、底部31bは、上面が平面であることが好ましいが、平面でなくてもよい。炉心溶融物受部材31は、各側部31aに複数の冷却水流入孔(冷却水流入部)41が設けられる。複数の冷却水流入孔41は、炉心溶融物受部材31における各側部31aの上部に設けられる。冷却水流入孔41は、炉心溶融物受部材31の側部31aの外面と内面を貫通する円形の貫通孔である。
【0024】
なお、本実施形態では、炉心溶融物受部材31は、各側部31aの上部に複数の冷却水流入孔41を水平方向に間隔を空けて1列設けたが、2列以上設けてもよい。また、冷却水流入孔41の内径寸法、形状、数なども限定されない。さらに、炉心溶融物受部材31の側部31aに設けられる冷却水流入孔41は、冷却水流入切欠(冷却水流入部)42であってもよい。この場合、冷却水流入切欠42は、炉心溶融物受部材31における各側部31aの上端部に設けられる。
【0025】
支持部材32は、キャビティ19の内部で炉心溶融物受部材31を支持する。支持部材32は、炉心溶融物の有無に応じて炉心溶融物受部材31を上昇位置と下降位置とに移動自在に支持する。本実施形態にて、支持部材32は、炉心溶融物受部材31の下方に配置されるクラッシャブルビームである。支持部材32としてのクラッシャブルビームは、炉心溶融物受部材31が炉心溶融物25Aを受け止めることで変形可能である。支持部材32としてのクラッシャブルビームは、鉛直方向に沿って配置されると共に、水平方向に間隔を空けて複数配置される。支持部材32としてのクラッシャブルビームは、上端部が炉心溶融物受部材31の底部31bの下面に連結され、下端部がキャビティ19の内部の底面に連結される。
【0026】
支持部材32は、炉心溶融物受部材31が炉心溶融物を受け止めていないとき、炉心溶融物受部材31を冷却水流入孔41から冷却水が流入しない上昇位置(
図2)に支持する。また、支持部材32は、炉心溶融物受部材31が炉心溶融物を受け止めたとき、炉心溶融物受部材31を冷却水流入孔41から冷却水が流入する下降位置(
図3)に支持する。
【0027】
すなわち、
図2に示すように、支持部材32は、炉心溶融物受部材31が炉心溶融物を受け止めておらず、重量(荷重)が作用していないとき、炉心溶融物受部材31を上昇位置に支持する。炉心溶融物受部材31は、支持部材32により上昇位置に支持されたとき、冷却水流入孔41は、キャビティ19に貯留された冷却水の水面より上方に位置する。そのため、炉心溶融物受部材31は、キャビティ19の冷却水が冷却水流入孔41から内部に流入することはない。
【0028】
一方、
図3に示すように、支持部材32は、炉心溶融物受部材31が炉心溶融物25Aを受け止めると、重量(荷重)が作用して変形(破損)することで、炉心溶融物受部材31が下降する。炉心溶融物受部材31は、支持部材32が変形して下降位置に支持されたとき、冷却水流入孔41は、キャビティ19に貯留された冷却水の水面より下方に位置する。そのため、炉心溶融物受部材31は、キャビティ19の冷却水が冷却水流入孔41から内部に流入する。
【0029】
なお、本実施形態にて、支持部材32を炉心溶融物受部材31が受け止めた炉心溶融物25Aの重量(荷重)により変形可能なクラッシャブルビームとしたが、この構成に限定されるものではない。例えば、支持部材32を炉心溶融物受部材31が受け止めた炉心溶融物の熱により変形可能なクラッシャブルビームとしてもよい。また、支持部材32をキャビティ19に対して炉心溶融物受部材31を吊り下げ支持する構成とし、支持部材32が受け止めた炉心溶融物25Aの重量(荷重)などにより変形(破損)可能なクラッシャブルビームとしてもよい。
【0030】
<炉心溶融物の冷却方法>
図1に示すように、原子力設備10にて、例えば、シビアアクシデントが発生し、炉心溶融による炉心損傷事故が発生することが想定される。このとき、
図1および
図2に示すように、原子炉15は、原子炉容器24の下部が破損し、炉心25が溶融した炉心溶融物25Aが流出する。原子炉容器24の下部から流出した炉心溶融物25Aは、原子炉容器24の下方に設けられた炉心溶融物受部材31の内部に落下する。
【0031】
原子炉容器24の下部から流出した炉心溶融物25Aが炉心溶融物受部材31の内部に落下する前、炉心溶融物受部材31が炉心溶融物25Aを受け止めておらず、重量(荷重)が作用していないため、支持部材32は、変形せずに炉心溶融物受部材31を上昇位置に支持する。このとき、炉心溶融物受部材31は、冷却水流入孔41がキャビティ19に貯留された冷却水の水面より上方に位置するため、冷却水流入孔41から冷却水が流入しない。
【0032】
図3に示すように、原子炉容器24の下部から流出した炉心溶融物25Aが炉心溶融物受部材31の内部に落下すると、炉心溶融物受部材31が炉心溶融物25Aを受け止めることとなり、支持部材32は、重量(荷重)が作用して変形(破損)し、炉心溶融物受部材31が下降する。すると、炉心溶融物受部材31は、下降位置に移動し、冷却水流入孔41がキャビティ19に貯留された冷却水の水面より下方に位置するため、冷却水流入孔41から冷却水が流入する。
【0033】
炉心溶融物受部材31の内部に落下した炉心溶融物25Aは、各冷却水流入孔41から流入した冷却水により冷却される。すなわち、炉心溶融物受部材31の炉心溶融物25Aは、各冷却水流入孔41から流入した冷却水が接触し、炉心溶融物受部材31の内部に冷却水が貯留されることでゆっくりと冷却される。そのため、水蒸気爆発が発生しにくい。
【0034】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態の原子力設備を表す概略図である。なお、第2実施形態の基本的な構成は、上述した第1実施形態と同様であり、
図1を用いて説明し、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0035】
図1および
図4に示すように、原子力設備10は、炉心溶融物の冷却装置30Aを備える。炉心溶融物の冷却装置30Aは、キャビティ19と、炉心溶融物受部材31Aと、支持部材33とを備える。
【0036】
炉心溶融物受部材31Aは、キャビティ19の内部に配置される。炉心溶融物受部材31Aは、各側部31aに複数の冷却水流入孔(冷却水流入部)41,43が設けられる。複数の冷却水流入孔41,43は、炉心溶融物受部材31Aにおける各側部31aの上部に設けられる。冷却水流入孔41,43は、炉心溶融物受部材31Aの側部31aの外面と内面を貫通する円形の貫通孔である。
【0037】
冷却水流入孔41は、炉心溶融物受部材31における各側部31aの上部に水平方向に間隔を空けて複数設けられる。冷却水流入孔43は、炉心溶融物受部材31における各側部31aの上部であって、冷却水流入孔41の下方に水平方向に間隔を空けて複数設けられる。冷却水流入孔43の内径は、冷却水流入孔43の内径より大径である。
【0038】
また、炉心溶融物受部材31Aは、ガイド機構51によりキャビティ19に対して鉛直方向に沿って移動自在に支持される。ガイド機構51は、例えば、キャビティ19の内面の縦壁部に設けられるガイドレールである。ガイドレールは、キャビティ19の縦壁部に鉛直方向に沿って設けられると共に、水平方向に間隔を空けて複数設けられる。炉心溶融物受部材31Aは、各側部31aの外面がガイド機構51を構成する複数のガイドレールによりキャビティ19に対して鉛直方向に沿って移動自在に支持される。
【0039】
さらに、炉心溶融物受部材31Aは、底部31bの上面に犠牲材コンクリート(犠牲材)52が設けられる。犠牲材コンクリート52は、炉心溶融物25Aの融点を低下させて低粘性化させる犠牲材であり、コンクリートで限定されるものではない。
【0040】
支持部材33は、キャビティ19の内部で炉心溶融物受部材31Aを支持する。支持部材33は、炉心溶融物の有無に応じて炉心溶融物受部材31Aを上昇位置と下降位置とに移動自在に支持する。本実施形態にて、支持部材33は、炉心溶融物受部材31の下方に配置されるクラッシャブルビームである。支持部材33としてのクラッシャブルビームは、炉心溶融物受部材31Aが炉心溶融物を受け止めることで変形可能である。支持部材33としてのクラッシャブルビームは、ガイド機構51を構成するガイドレールに固定される。
【0041】
支持部材33は、炉心溶融物受部材31Aが炉心溶融物を受け止めていないとき、炉心溶融物受部材31Aを冷却水流入孔41,43から冷却水が流入しない上昇位置に支持する。また、支持部材33は、炉心溶融物受部材31Aが炉心溶融物を受け止めたとき、炉心溶融物受部材31Aを冷却水流入孔41,43から冷却水が流入する下降位置に支持する。
【0042】
すなわち、支持部材33は、炉心溶融物受部材31Aが炉心溶融物を受け止めておらず、重量(荷重)が作用していないとき、炉心溶融物受部材31Aを上昇位置に支持する。炉心溶融物受部材31Aは、支持部材33により上昇位置に支持されたとき、冷却水流入孔41,43は、キャビティ19に貯留された冷却水の水面より上方に位置する。そのため、炉心溶融物受部材31Aは、キャビティ19の冷却水が冷却水流入孔41,43から内部に流入することはない。
【0043】
一方、支持部材33は、炉心溶融物受部材31Aが炉心溶融物を受け止めると、重量(荷重)が作用して変形(破損)することで、炉心溶融物受部材31Aが下降する。炉心溶融物受部材31Aは、支持部材33が変形して下降位置に支持されたとき、冷却水流入孔41,43は、キャビティ19に貯留された冷却水の水面より下方に位置する。そのため、炉心溶融物受部材31Aは、キャビティ19の冷却水が冷却水流入孔41,43から内部に流入する。
【0044】
また、炉心溶融物の冷却装置30Aは、キャビティ19に冷却水を補充する冷却水補充機構53が設けられる。すなわち、キャビティ19よりも鉛直方向の上方に補充タンク54を配置し、キャビティ19と補充タンク54を補充経路55により連結し、補充経路55に開閉弁56を設ける。この場合、開閉弁56は、手動式とすることが好ましい。冷却水補充機構53は、開閉弁56を開放することで、補充タンク54の冷却水を自由落下により補充経路55からキャビティ19に補充することができる。なお、冷却水補充機構53は、この構成に限定されるものではない。例えば、冷却水補充機構53は、電源が使用できる場合や電源が復旧した場合、遠隔操作できるように、電動開閉弁57と電動ポンプ58とを有するものであってもよく、両者を併設してもよい。
【0045】
原子炉15は、原子炉容器24の下部が破損すると、炉心25が溶融した炉心溶融物25Aが流出する。原子炉容器24の下部から流出した炉心溶融物25Aは、原子炉容器24の下方に設けられた炉心溶融物受部材31Aの内部に落下する。
【0046】
原子炉容器24の下部から流出した炉心溶融物25Aが炉心溶融物受部材31Aの内部に落下すると、炉心溶融物受部材31Aが炉心溶融物25Aを受け止めることとなり、支持部材33は、重量(荷重)が作用して変形(破損)し、炉心溶融物受部材31Aが下降する。すると、炉心溶融物受部材31Aは、下降位置に移動し、冷却水流入孔41,43がキャビティ19に貯留された冷却水の水面より下方に位置するため、冷却水流入孔41,43から冷却水が流入する。
【0047】
炉心溶融物受部材31の内部に落下した炉心溶融物25Aは、各冷却水流入孔41,43から流入した冷却水により冷却される。すなわち、炉心溶融物受部材31Aの炉心溶融物25Aは、各冷却水流入孔41,43から流入した冷却水が接触し、炉心溶融物受部材31Aの内部に冷却水が貯留されることでゆっくりと冷却される。そのため、水蒸気爆発が発生しにくい。
【0048】
なお、炉心溶融物受部材31の内部に犠牲材コンクリート52が設けられていることで、炉心溶融物受部材31に落下した炉心溶融物25Aは、犠牲材コンクリート52に接触し、溶融混合することで融点が低下して低粘性化する。
【0049】
また、炉心溶融物25Aは、数1000℃であることから、炉心溶融物受部材31の炉心溶融物25Aを冷却した冷却水は、気化してキャビティ19の冷却水が減少する。このとき、作業者または検出器がキャビティ19における冷却水の減少を検出し、冷却水補充機構53を作動させることで、キャビティ19に冷却水を補充する。
【0050】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る炉心溶融物の冷却装置は、原子炉格納容器11の基礎部12に設置された構造物14により原子炉15が支持され、原子炉容器24の下部から落下する炉心溶融物25Aを冷却する炉心溶融物の冷却装置30において、原子炉容器24の下方に設けられて冷却水を貯留するキャビティ(貯水槽)19と、キャビティ19の内部に配置されて側部31aに冷却水流入部としての冷却水流入孔41,43または冷却水流入切欠42が設けられる炉心溶融物受部材31,31Aと、炉心溶融物受部材31,31Aを支持すると共に炉心溶融物25Aの有無に応じて上昇位置と下降位置とに移動自在に支持する支持部材32,33とを備える。
【0051】
第1の態様に係る炉心溶融物の冷却装置によれば、原子炉容器24の下部が破損し、炉心25が溶融した炉心溶融物25Aが落下すると、炉心溶融物25Aは、キャビティ19の内部に配置された炉心溶融物受部材31,31Aに落下する。炉心溶融物受部材31,31Aに炉心溶融物25Aが落下すると、支持部材32,33が変形して炉心溶融物受部材31、31Aが下降する。すると、炉心溶融物受部材31,31Aは、冷却水流入孔41,43または冷却水流入切欠42から冷却水が流入し、炉心溶融物25Aが冷却される。その結果、原子力設備10における電源が喪失した場合であっても、原子炉容器24から流出した炉心溶融物25Aを早期に冷却することができる。
【0052】
また、炉心溶融物の冷却装置によれば、炉心溶融物受部材31,31Aに落下した炉心溶融物25Aに対して冷却水流入孔41,43または冷却水流入切欠42から冷却水が流入して冷却することで、炉心溶融物25Aと大量の冷却水との接触による水蒸気爆発の発生を抑制することができる。さらに、キャビティ19に支持部材32,33により炉心溶融物受部材31,31Aを支持させるだけであり、構造の複雑化を抑制して製造コストの増加を抑制することができる。
【0053】
第2の態様に係る炉心溶融物の冷却装置は、第1の態様に係る炉心溶融物の冷却装置であって、さらに、支持部材32,33は、炉心溶融物受部材31,31Aが炉心溶融物25Aを受け止めていないとき、炉心溶融物受部材31,31Aを冷却水流入孔41,43または冷却水流入切欠42から冷却水が流入しない上昇位置に支持し、炉心溶融物受部材31,31Aが炉心溶融物25Aを受け止めたとき、炉心溶融物受部材31,31Aを冷却水流入孔41,43または冷却水流入切欠42から冷却水が流入する下降位置に支持する。これにより、炉心溶融物受部材31,31Aを上昇位置と下降位置との間で移動することで、容易に冷却水の流入と停止を切り替えることができる。
【0054】
第3の態様に係る炉心溶融物の冷却装置は、第2の態様に係る炉心溶融物の冷却装置であって、さらに、支持部材32,33は、炉心溶融物受部材31,31Aの下方に配置され、炉心溶融物受部材31,31Aが炉心溶融物25Aを受け止めることで変形するクラッシャブルビームを有する。これにより、構造の簡素化を図ることができる。
【0055】
第4の態様に係る炉心溶融物の冷却装置は、第1の態様から第3の態様のいずれか一つに係る炉心溶融物の冷却装置であって、さらに、キャビティ19に対して炉心溶融物受部材31,31Aを鉛直方向に沿って移動自在に支持するガイド機構51が設けられる。これにより、キャビティ19に対して炉心溶融物受部材31,31Aの傾きや転倒を抑制することができ、炉心溶融物受部材31,31Aにより炉心溶融物25Aを適切に保持することができる。
【0056】
第5の態様に係る炉心溶融物の冷却装置は、第1の態様から第4の態様のいずれか一つに係る炉心溶融物の冷却装置であって、さらに、炉心溶融物受部材31,31Aの内部に犠牲材コンクリート(犠牲材)52が配置される。これにより、炉心溶融物受部材31,31Aに落下した炉心溶融物25Aは、犠牲材コンクリート52に受け止められて溶融混合することで、融点を低下して低粘性化することとなり、早期に冷却することができる。
【0057】
第6の態様に係る炉心溶融物の冷却装置は、第1の態様から第5の態様のいずれか一つに係る炉心溶融物の冷却装置であって、さらに、冷却水流入部は、炉心溶融物受部材31,31Aの側部31aに設けられる冷却水流入孔41,43または冷却水流入切欠42を有する。これにより、構造の簡素化を図ることができる。
【0058】
第7の態様に係る炉心溶融物の冷却装置は、第1の態様から第6の態様のいずれか一つに係る炉心溶融物の冷却装置であって、さらに、キャビティ19に冷却水を補充する冷却水補充機構53が設けられる。これにより、キャビティ19に常時冷却水を確保することができ、炉心溶融物25Aを所定期間にわたって適切に冷却することができる。
【0059】
第8の態様に係る原子力設備は、原子炉格納容器11と、原子炉格納容器11の内部に配置される原子炉15と、第1の態様から第7の態様のいずれか一つに係る炉心溶融物の冷却装置30,30Aとを備える。これにより、炉心溶融物の冷却装置30,30Aは、原子力設備10における電源が喪失した場合であっても、原子炉容器24から流出した炉心溶融物25Aを早期に冷却することができ、安全性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 原子力設備
11 原子炉格納容器
12 基礎部
13 格納容器本体
14 構造物
15 原子炉
16 空間部
17 蒸気発生器
18 冷却水配管
19 キャビティ(貯水槽)
20 冷却水ピット
21 冷却水噴射装置
22 冷却水経路
23 冷却水ポンプ
24 原子炉容器
25 炉心
25A 炉心溶融物
30,30A 炉心溶融物の冷却装置
31,31A 炉心溶融物受部材
32,33 支持部材
41,43 冷却水流入孔(冷却水流入部)
42 冷却水流入切欠(冷却水流入部)
51 ガイド機構
52 犠牲材コンクリート(犠牲材)
53 冷却水補充機構
54 補充タンク
55 補充経路
56 開閉弁