(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009305
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイドモノフィラメントからなるドラム状パッケージ
(51)【国際特許分類】
B65H 75/10 20060101AFI20250110BHJP
D01F 6/76 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
B65H75/10
D01F6/76 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112218
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森岡 要
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 正幸
(72)【発明者】
【氏名】河野 健明
【テーマコード(参考)】
3F058
4L035
【Fターム(参考)】
3F058AA01
3F058AA03
3F058AB03
3F058AC01
3F058DA04
3F058DB03
3F058DB05
4L035AA02
4L035AA05
4L035BB33
4L035BB55
4L035BB61
4L035BB77
4L035BB89
4L035BB91
4L035DD14
4L035EE20
4L035FF01
4L035MF02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】PPSモノフィラメントのパッケージからの解舒不良に着目し、その解舒不良を改良することで、従来技術では困難であった高次工程通過性と最終製品品位の両者に優れたPPSモノフィラメントからなるパッケージを提供する。
【解決手段】解舒張力が0.2cN/dtex以下であって、かつ、解舒張力バラツキが変動係数(CV値)で10%以下である、PPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージ1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解舒張力が0.2cN/dtex以下であって、かつ、解舒張力バラツキが変動係数(CV値)で10%以下である、ポリフェニレンサルファイドモノフィラメントからなるドラム状パッケージ。
【請求項2】
ポリフェニレンサルファイドモノフィラメントの伸度が23%~40%である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドモノフィラメントからなるドラム状パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略す)モノフィラメントからなるドラム状パッケージに関するものであり、更に詳しくは、高次工程通過性と最終製品品位に優れたPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
PPSは耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性等に優れ、機械的強度や成型加工性にも優れることから、金属代替材料や極限環境下に耐え得る材料として広く使用されている。
PPS繊維についてもこれらの特性を利用して、フィルター、ブラシ用毛材、抄紙ドライヤーカンバス、電気絶縁紙等の産業用資材や基材に使用することが提案されている。
特に、化学、電気・電子、自動車、食品、精密機器、医薬・医療等の製造現場で用いられるフィルター用途でSUS鋼線の代替として、PPSモノフィラメントの検討が盛んに行われている。
【0003】
更に近年では、フィルターの高精密化も市場要求も多くなってきており、高品質なPPSモノフィラメントが望まれている。
このため、PPSモノフィラメントの品質改良技術が数多く提案されている。
例えば、延伸方法を改良することで繊度均一性と高強度を実現した細繊度PPSモノフィラメント(特許文献1)や、擦過張力を規定することで高精密フィルターに加工した際の開口変動率が小さくなるPPSモノフィラメント(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-68149号公報
【特許文献2】特開2017-101365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のPPSモノフィラメントは、延伸方法を適切に制御することで繊度均一性と強度の両者に優れたものとなっているが、実施例で例示されているパーン形状のパッケージは、巻き幅が長いことから、パッケージからPPSモノフィラメントを解舒する時、パーン端面間での解舒張力差が大きくなり、高精密フィルター等の最終製品に加工した際、いわゆるパーンヒケと呼ばれるパーン端面周期に起因する品質異常が発生する。
【0006】
特許文献2に記載のPPSモノフィラメントは、高次加工での糸道ガイドによる擦過張力を最適化したものであり、確かに過張力によって生じる開口変動ムラによるタテスジやヨコヒケは改良されるものの、擦過張力を下げることに注力していることから糸摩擦が低くなり、パッケージにした際、パーン形状、ドラム形状どちらともパッケージの形成が困難となる。特にドラム形状はドラム端面からの糸落ちや輪抜けによる解舒不良が発生し、高次工程通過性が劣るPPSモノフィラメントとなる。
【0007】
本発明は、PPSモノフィラメントのパッケージからの解舒不良に着目し、従来技術では困難であった高次工程通過性と最終製品品位の両者に優れたPPSモノフィラメントからなるパッケージを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の形態を取る。
(1)解舒張力が0.2cN/dtex以下であって、かつ、解舒張力バラツキが変動係数(CV値)で10%以下である、PPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージ。
(2)PPSモノフィラメントの伸度が23%~40%である、前記(1)に記載のPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高次工程通過性と最終製品品位の両者に優れたPPSモノフィラメントからなるパッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、解舒張力測定方法を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、給油ローラー上部の随伴気流を整流化させるため、給油ローラーをボックス状に囲んだ概略図(正面図)である。
【
図3】
図3は、給油ローラー上部の随伴気流を整流化させるため、給油ローラーをボックス状に囲んだ概略図(
図2側面図)である。
【
図4】
図4は、給油ローラー上部の随伴気流を整流化させるため、板状のカバーを給油ローラー上部に斜めに配した概略図(正面図)である。
【
図5】
図5は、給油ローラー上部の随伴気流を整流化させるため、板状のカバーを給油ローラー上部に斜めに配した概略図(
図4側面図)である。
【
図6】
図6は、ドラム状パッケージの表層部の耳立ち量(サドル)を算出方法するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明におけるPPSは、p-フェニレンサルファイドを繰り返し構造単位とするものであり、他の共重合構造単位を含有しても良い。
例えば共重合構造単位としては、m-フェニレンサルファイド等の芳香族サルファイド、またこれらのアルキル置換体、ハロゲン置換体等が挙げられる。
また、混合紡糸や複合紡糸等により他のポリマーを添加しても良く、他のポリマーとしては、ポリエステルやポリアミド、ポリオレフィン、ポリイミド等が挙げられる。
【0012】
共重合成分量、ポリマー添加量は3重量%以下が好ましく、この範囲であると良好な耐熱性、耐薬品性を保持することができる。より好ましい共重合成分量、ポリマー添加量は1重量%以下であり、更に好ましくは添加しないことである。
【0013】
本発明のPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージは、解舒張力を適切に制御することが高次工程通過性と最終製品品位の両者の観点から重要である。
本発明でいう解舒張力とは、整経や製織工程等におけるパッケージからPPSモノフィラメントを解舒する時の張力であり、
図1を用いて測定方法を説明する。
【0014】
PPSモノフィラメントのドラム状パッケージ1の端面から糸道ガイド3までの距離L(解舒距離)を30cmとし、解舒速度は250m/分とする。解舒張力は、糸道ガイド3を通過した後の張力(張力計4)を示す。解舒張力の値は、1分間に得られる値の平均値を繊度で割り返した数値とする。
【0015】
また、解舒張力のバラツキは、サンプリングした数値の標準偏差を算出し、平均値で割り返した値に100を乗じた値とした。
【0016】
本発明のPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージは、解舒張力が0.2cN/dtex以下である。かかる範囲とすることで、パッケージから解舒をする際に、パッケージ端面でのPPSモノフィラメントの引っかかりがなくなり、パーンヒケの品質異常を低減できる。また、輪抜けによる解舒不良も抑制できる。解舒張力が0.2cN/dtexを超える場合、パーンヒケの品質異常や輪抜けの解舒不良が増加する。
【0017】
本発明のPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージは、解舒張力バラツキが変動係数(CV値)で10%以下であり、好ましくは8%以下である。かかる範囲とすることで、整経や製織工程等における解舒張力の変動が小さくなってPPSモノフィラメントの解舒走行が安定することから、開口変動ムラによるタテスジやヨコヒケ等の品質異常を低減できる。解舒張力バラツキが変動係数(CV値)で10%を超える場合、整経や製織工程等における解舒張力の変動が大きくなり、開口変動ムラによるタテスジやヨコヒケ等の品質異常が増加する。
【0018】
本発明のPPSモノフィラメントからなるパッケージはドラム形状である。本発明でいうドラム形状とは、特許文献1の実施例で例示されているパーン形状とは異なり、文字通り楽器のドラムのような形状をいい、PPSモノフィラメントの巻き幅やテーパー角の有無、綾角によって区分される。本発明のドラム形状のパッケージとは、200mm以下の巻き幅で巻き上げたパッケージであり、好ましくは150mm以下の巻き幅、更に好ましくは130mm以下の巻き幅で巻き上げたパッケージである。また、テーパー部を実質的に有することなく、かつテーパー角は180°、パッケージを形成する綾角は3°以上の角度で巻き上げたパッケージである。パッケージの形状をドラム形状とすることで、パーンビケと呼ばれるパーン端面周期に起因する品質異常を抑制できる。巻き幅は、本発明の効果を損なわない限りにおいては小さい方がもちろん良いが、安定したドラムパッケージの形成性を鑑みた場合、60mm以上が好ましい。
【0019】
本発明におけるPPSモノフィラメントの伸度は、23%~40%であることが好ましい。更に好ましい伸度は25%~30%である。伸度が23%以上であると、PPSモノフィラメントの柔性を維持できるため、紡糸工程や高次工程での糸道ガイドでの擦過等が軽減され、より安定した紡糸や高次加工が可能となる。伸度が40%以下であると、PPSモノフィラメントの強度が高くなるため、高精密フィルターに加工した際の実用耐久性を維持しやすくなるばかりか、目ずれ等の変形にも強くなる。
【0020】
本発明におけるPPSモノフィラメントの強度は、3.0cN/dtex以上であることが好ましく、更に好ましくは3.8cN/dtex以上である。強度が3.0cN/dtex以上であると、高精密フィルターに加工した際の実用耐久性を維持しやすくなる。
【0021】
本発明におけるPPSモノフィラメントの正量繊度は、10dtex~33dtexが好ましく、更に好ましくは22dtex~33dtexである。正量繊度が10dtex以上であると、PPSモノフィラメントの強力を維持しやすくなるため、高精密フィルターに加工した際の実用耐久性を維持しやすくなる。正量繊度は、本発明の効果を損なわない限りにおいては高い方がもちろん良いが、安定したPPSモノフィラメントの製造過程を鑑みた場合、33dtex以下が好ましい。
【0022】
本発明におけるPPSモノフィラメントは、公知の方法に従い製織、製編可能である。また、織編物の組織は限定されるものではないが、高次加工方法を例示すると、整経機により目的とするオープニングとなるように整経し、レピア織機やウォータージェット織機等で緯打ち込後、任意の形状にカットし、フィルターとする。このフィルターの用途としては、例えば自動車エンジンのインジェクションフィルターや医療現場等の高精密フィルターとして好ましくは用いられる。
【0023】
以下、本発明のPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージの製造方法について説明する。
本発明のPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージは、解舒張力が適切に制御されている。解舒張力が適切に制御されたドラム状パッケージを得るには、ドラムのサドル(耳立ち)と巻硬度の制御が重要であり、これらを制御する観点から直接紡糸延伸法を用いることが好ましい。直接紡糸延伸法とは、紡糸と延伸を連続する製造方法であり、紡糸口金から吐出した糸を一旦巻き取ることなくそのまま延伸する方法であり、以下直接紡糸延伸法を例に製造方法を説明する。
【0024】
PPSを溶融するに際し、プレッシャーメルター法あるいはエクストルーダー法が挙げられ、特に限定されるものではない。溶融温度は、PPS樹脂の融点を考慮して適宜決定して良いが、好ましい溶融温度としては、融点より20℃~60℃高い温度である。紡糸温度についても溶融温度と同じで、PPS樹脂の融点を考慮して適宜決定して良い。なお、ここでいう紡糸温度とは、ポリマー配管、計量ポンプ、紡糸口金等を保温しているいわゆる保温温度(スピンブロック温度)である。
【0025】
溶融したPPS樹脂は計量後、紡糸口金に供給し、PPSモノフィラメントとして吐出する。吐出したPPSモノフィラメントは、出てくる気体状の低重合物成分を吸引除去した後(MO吸引)、チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹きあてることにより糸条を室温まで冷却後、給油装置で給油する。
【0026】
給油は、PPSモノフィラメントへの均一給油の観点から、ガイド給油ではなくローラー給油である。この時、PPSモノフィラメントの走行によって生じる不均一な随伴気流が給油ローラー表面にあたることで、給油ローラー上での油剤拡展性が低下したり、給油ローラー上でPPSモノフィラメントが大きく揺れたりする可能性がある。
これにより均一給油が阻害され、給油不良によってドラム状パッケージからの解舒張力のムラが発生する可能性が高くなる。このため、給油ローラー上部の随伴気流を整流化することが好ましく、例えば給油ローラー周り(前後左右)をボックス状に囲ったり(
図2、
図3)、給油ローラー上部に板状のカバーを斜めに配したり(
図4、
図5)して、給油ローラー表面にあたる随伴気流を整流化することが好ましい。
特許文献2に記載されている好ましい態様の対面給油も確かに均一給油の観点から有効ではあるが、紡糸張力の損失が非常に大きく、安定した紡糸性としては劣位である。
【0027】
本発明に用いる紡糸油剤は、エマルジョン系、ストレート系等、溶融紡糸に通常用いられる油剤のいずれでも用いることができる。ドラム状パッケージからの解舒張力のムラを低減せしめる点でストレート系油剤が好ましい。ストレート系油剤としては、n-パラフィン系に代表される鉱物油で希釈した油剤であり、希釈率は鉱物油の添加率で30重量%~80重量%が好ましい。
【0028】
本発明におけるPPSモノフィラメントの前記紡糸油剤の油分付着量は、PPSモノフィラメントの重量に対して0.4重量%~1.3重量%が好ましく、更に好ましくは0.6重量%~1.0重量%である。油分付着量が0.4重量%以上であると、高次加工工程での静電気、擦過等による加工糸切れを抑制できる。油分付着量が1.3重量%以下であると、高次加工工程での糸道ガイド汚れ(油剤カス等)を抑制できる。
【0029】
給油されたPPSモノフィラメントは、適切な紡糸ドラフトを受け、延伸ローラーを通過する際は引取ローラーと延伸ローラーの速度の比に従って適切に延伸する。ここで、優れた物理特性を得るために、引取ローラー速度は500m/分~2000m/分が好ましく、更に好ましくは1000m/分~1500m/分である。また、延伸倍率は2.0倍~5.0倍が好ましく、更に好ましくは3.0倍~4.0倍である。
【0030】
延伸に際しては、PPSモノフィラメントのガラス転移温度が約90℃と高いことから加熱延伸することが好ましく、引取ローラーの加熱温度は80℃~120℃が好ましく、更に好ましくは90℃~120℃である。延伸後の熱セットも好ましく、延伸ローラーの加熱温度は100℃~120℃が好ましい。
【0031】
巻き取りは、公知の巻取機を用いることができ、巻取形状としてはドラム形状である。安定した紡糸性より、巻取速度は3000m/分~4500m/分が好ましく、更に好ましくは3500m/分~4300m/分である。
【0032】
本発明におけるPPSモノフィラメントは、ナイロンモノフィラメントやポリエステルモノフィラメントと比較して柔性が低く、直接紡糸延伸法における装置への糸掛けが非常に難しい。ここでいう糸掛けとは、紡糸口金から吐出したPPSモノフィラメントを、サクションガン等を用いて、給油ローラー、引取ローラー、延伸ローラー、巻取機の順に糸を掛けていく、製造スタート時に必要な操作である。一般的には、引取ローラー速度、延伸ローラー速度、巻取速度ともに製造条件と同じ速度に設定して糸掛けする。糸掛けが難しい場合は、糸掛け時は各ローラーの速度を低く設定して、糸掛け後に巻取張力(延伸ローラーから巻取機の間の張力)を高めて、徐々に引取ローラー速度、延伸ローラー速度を製造条件と同じ速度に上げていく方法(ランプアップ方式)を採用する。
【0033】
PPSモノフィラメントは柔性が低く、糸掛け後の巻取張力を高めると糸道ガイドでの擦過により糸切れが発生し易い。
そこで、PPSモノフィラメントを糸掛けする場合は、引取ローラー速度は製造条件の速度よりも100m/分~300m/分の範囲で速い速度、より好ましくは150m/分~250m/分の範囲で速い速度に設定して糸掛けした後、引取ローラー速度を製造条件の速度に下げていく方法(ランプダウン方式)を採用し、延伸ローラー速度は前記のランプアップ方式を採用することが好ましい。
この方法は、糸掛け時は延伸倍率が下がるのでPPSモノフィラメントの柔性を上げることができ、糸道ガイドでの擦過による糸切れを軽減できる。
【0034】
本発明のPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージは、解舒張力を適切に制御するため、ドラムのサドル(耳立ち)は2mm以下、より好ましくは1mm以下とする。サドルとは、ドラム表層部の耳立ちの量(高さ)であり、
図6に示すドラム中央部の巻厚をA1、ドラム端面部の巻厚をA2とした時、サドル(mm)=(A2-A1)/2 で示される。
サドルを制御することで、パッケージから解舒して行う整経や製織工程等において、パッケージ端面でのPPSモノフィラメントの引っかかりが少なくなり、パーンヒケといった品質異常を低減できる。また、輪抜けによる解舒不良も抑制できる。
【0035】
本発明のPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージは、解舒張力を適切に制御するため、巻硬度を65ポイント~78ポイント、好ましくは68ポイント~73ポイントとする。巻硬度とは、パッケージ表層部をデュロメーター(タイプC型)を用いて計測した値である。巻硬度をかかる範囲とすることで、輪抜けせず、かつ、巻密度が高すぎず解舒張力バラツキを抑制できる。
【0036】
ドラムのサドル(耳立ち)と巻硬度を制御するには、以下の巻取張力と巻取面圧が好ましい。巻取張力は延伸ローラーから巻取機の間の張力であり、0.08cN/dtex~0.15cN/dtexが好ましく、より好ましくは0.10cN/dtex~0.13cN/dtexである。かかる範囲にすることで、巻き取り中の延伸ローラーへの巻き付き(糸取られ)を抑制しつつ、ドラムが締まり固くなりすぎることもなく、適切なドラムの巻硬度が得られる。ドラム表層部でモノフィラメント同士の引っかかりを低減して解舒張力を制御して、パーンヒケ等の品質異常や輪抜け等の解舒不良を抑制する。
巻取面圧は、ドラム巻き取り中に巻取機ローラーベールからドラム表層部にかかる接触重量であり、ドラム1個あたり10N~25Nであり、好ましくはドラム1個あたり13N~20Nである。かかる範囲にすることで、輪抜けせず、ドラム端面部の耳立ちを抑制できる。
【実施例0037】
次に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における測定方法は次の通りである。
【0038】
A.解舒張力、解舒張力バラツキ(CV値)
解舒張力は、
図1に示す測定方法にて測定した。PPSモノフィラメントパッケージ1の端面から糸道ガイド3までの距離L(解舒距離)を30cmとし、糸道ガイド3(湯浅(株)社製クロムガイド 型番A208003-R)から30cmの位置に張力計4(東レエンジニアリング社製型番TTM-101)を配置し、鏡面ローラー5にPPSモノフィラメントを周回させつつ、走行速度を250m/分に制御しながら解舒を1分間行った。解舒張力は張力計4で計測し、その出力をYOKOGAWA製ペーパーレスレコーダGP10を用いて張力の平均値を読み取った。(解舒張力データ数=600個)。解舒張力は600個のデータの平均値を後述の正量繊度で割り返した値とした。
解舒張力バラツキは変動係数(CV値)で計算され、600個のデータから標準偏差を算出し、それを解舒張力の平均値で割り返した値に100を乗じた値とした。
【0039】
B.正量繊度
JIS L 1013(2021)8.3.1 A法に準じて算出した。
なお、PPSの公定水分率は0.2%とした。
【0040】
C.強度、伸度
エーアンドアイ社製引張試験機(型番RTG-1210)でJIS L 1013:2021(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じて測定した。なお、つかみ間隔は50cm、引張速度は50cm/分とした。強度は、最大点応力を正量繊度で除した値とした。伸度は、最大点応力を示した際の引っ張り長を50cmで除した値に100を乗じた値とした。強度、伸度とも、測定回数は3回とし、その平均値を算出した。
【0041】
D.サドル
ドラム表層部の耳立ちの量(高さ)であり、ドラム中央部の巻厚をA1、ドラム端面部の巻厚をA2とした時、下記式にて算出した(
図3参照)。
サドル(mm)=(A2-A1)/2 。
【0042】
E.巻硬度
デュロメーターとして、ASKER(高分子計器株式会社)製 RUBBER TESTER(TypeC)を用いて、パッケージ表層部に押し当てて3回測定した値の平均値を求めた。
【0043】
F.整経糸切れ率
整経機にPPSモノフィラメントパッケージを仕掛け、整経速度250m/分で1000万mの糸長をビームへ整経する際の糸切れ(解舒不良による整経機停止含む)回数を以下の4段階で評価した。
S:糸切れ回数2回以下
A:糸切れ回数3回~5回
B:糸切れ回数6回~10回
C:糸切れ回数11回以上 。
【0044】
G.布帛の品位評価
整経機にてPPSモノフィラメントを整経し、レピア織機にて380本/2.54cmとなるように製織した。得られた布帛をタテ/ヨコ 100cm/50cmの長さにカットして、ヒケやタテスジ、目ずれ等を、川上製作所製検反機IR-1800を用いて、以下の3段階で目視評価した。
A:ヒケやタテスジ、目ずれが6ヶ所以下である。
B:ヒケやタテスジ、目ずれが7か所~11ケ所ある。
C:ヒケやタテスジ、目ずれが12ヶ所以上ある。
【0045】
実施例1~5、9、10、比較例2~4
PPSポリマーとして、東レ(株)製E2280(融点285℃)を乾燥し、ポリマーの水分率を1300ppmに調湿した。
これを、紡糸温度、溶融温度ともに310℃としてプレッシャーメルターで溶融した。
溶融後、ギヤポンプにて計量、輸送し、孔数3孔の紡糸口金から吐出した。
そして、ユニフローチムニーで糸条を室温まで冷却固化し、給油ローラーを用いて、ストレート系油剤(n-パラフィンからなる鉱物油での希釈率60%)を、油分付着量が0.8重量%となるように給油を行った。
なお、給油ローラー7周りは、随伴気流を整流化すべく、給油ローラーの前後左右を給油ローラーから10cmの間隔をあけてボックス状整流板6で囲った(
図2、
図3参照)。
給油後、温度90℃の引取ローラーにて表1に示す速度で引き取って、温度110℃の延伸ローラーにて表1に示す速度、延伸倍率にて延伸した。
巻き取りは、表1に示すパッケージ外観となるように、表1に示す巻取張力、巻取面圧、巻取速度は3800m/分として巻き取り、約33dtexのPPSモノフィラメントパッケージを得た。
【0046】
得られたPPSモノフィラメントパッケージの解舒張力、解舒張力バラツキ(CV値)、サドル、巻硬度について測定した。
また、PPSモノフィラメントの正量繊度、強度、伸度、これらを整経、製織した際の整経糸切れ回数、布帛の品位評価もあわせて行った。
これらの結果を表1に示す。
【0047】
なお、糸掛け時の各ローラー速度については、引取ローラー速度を表1に示す製造条件の引取ローラー速度よりも200m/分速い速度、延伸ローラー速度を表1に示す製造条件の延伸ローラー速度よりも200m/分遅い速度に設定し、糸掛け後に1分かけて引取ローラー速度を製造条件の引取ローラー速度に下げていきつつ(ランプダウン方式)、
同時に、延伸ローラー速度を製造条件の延伸ローラー速度に上げていく(ランプアップ方式)方法を採用した結果、いずれの実施例、比較例においても糸掛け失敗はなかった。
【0048】
実施例6
給油ローラー7上部に整流板9のカバーを斜めに配して給油ローラー表面にあたる随伴気流を整流化する(
図4、
図5)以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約33dtexのPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージを得た。
得られたPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージの解舒張力、解舒張力バラツキ(CV値)、サドル、巻硬度について測定した。また、PPSモノフィラメントの正量繊度、強度、伸度、PPSモノフィラメントを整経、製織した際の整経糸切れ回数、布帛の品位評価もあわせて行った。これらの結果を表1に示す。
【0049】
なお、糸掛けについても、実施例1と同様に引取ローラーはランプダウン、延伸ローラーはランプアップの方式を採用して行った結果、糸掛け失敗はなかった。
【0050】
実施例7
図2、
図3に示すような給油ローラー上部の随伴気流整流化を行わない以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約33dtexのPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージを得た。
得られたPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージの解舒張力、解舒張力バラツキ(CV値)、サドル、巻硬度について測定した。また、PPSモノフィラメントの正量繊度、強度、伸度、PPSモノフィラメントを整経、製織した際の整経糸切れ回数、布帛の品位評価もあわせて行った。これらの結果を表1に示す。
【0051】
なお、糸掛けについても、実施例1と同様に引取ローラーはランプダウン、延伸ローラーはランプアップの方式を採用して行った結果、糸掛け失敗はなかった。
【0052】
比較例5
給油方法をガイド給油とする以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、約33dtexのPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージを得た。
得られたPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージの解舒張力、解舒張力バラツキ(CV値)、サドル、巻硬度について測定した。また、PPSモノフィラメントの正量繊度、強度、伸度、PPSモノフィラメントを整経、製織した際の整経糸切れ回数、布帛の品位評価もあわせて行った。これらの結果を表1に示す。
【0053】
なお、糸掛けについても、実施例1と同様に引取ローラーはランプダウン、延伸ローラーはランプアップの方式を採用して行った結果、糸掛け失敗はなかった。
【0054】
実施例8、比較例1
実施例1で得られたPPSモノフィラメントを、表1に示す巻き幅、サドル、巻硬度になるように巻き返した。
巻き返したPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージの解舒張力、解舒張力バラツキ(CV値)について測定した。また、PPSモノフィラメントの正量繊度、強度、伸度、PPSモノフィラメントを整経、製織した際の整経糸切れ回数、布帛の品位評価もあわせて行った。これらの結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1の結果から明らかなように、本発明のPPSモノフィラメントからなるドラム状パッケージは、従来のPPSモノフィラメントからなるパッケージと比較して、高次工程通過性と最終製品品位の両者に優れる。