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  • 特開-溶接制御装置及び溶接制御方法 図1
  • 特開-溶接制御装置及び溶接制御方法 図2
  • 特開-溶接制御装置及び溶接制御方法 図3
  • 特開-溶接制御装置及び溶接制御方法 図4
  • 特開-溶接制御装置及び溶接制御方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025093063
(43)【公開日】2025-06-23
(54)【発明の名称】溶接制御装置及び溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/127 20060101AFI20250616BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
B23K9/127 508D
B23K9/095 515A
B23K9/127 509F
B23K9/095 501H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208556
(22)【出願日】2023-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】川上 達彦
(72)【発明者】
【氏名】西水 亮
(72)【発明者】
【氏名】多羅沢 湘
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 考紀
(57)【要約】
【課題】溶接対象物の溶接ビードの縁部を従来に比べて安定に検出することで、前層ビードの縁部に対する電極、ワイヤの位置を適正に維持した溶接を実現することが可能な溶接制御装置及び溶接制御方法を提供する。
【解決手段】被溶接材3の溶接中の領域を含む領域の画像を撮影する撮影手段10と、撮影手段10により撮影された溶接中の溶接画像51から抽出した溶接ビード8と前層ビード9との境界64に基づき、電極2とワイヤ5との位置いずれか一方以上の位置を制御する処理部11と、を備え、処理部11は、撮影時刻の異なる複数の溶接画像51から溶融池7から離れた領域を時系列順に並べた時系列画像52から溶接ビード8と前層ビード9との境界64を算出し、算出した溶接ビード8と前層ビード9との境界64から一定時間経過後における溶接ビード8と前層ビード9との境界64の移動量を算出する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接材の溶接中の領域を含む領域の画像を撮影する撮影部と、
前記撮影部により撮影された溶接中の撮影画像から抽出した特徴量に基づき、電極とワイヤとの位置いずれか一方以上の位置を制御する処理部と、を備え、
前記処理部は、撮影時刻の異なる複数の溶接画像から溶融池から離れた領域を時系列順に並べた時系列画像から特徴量を算出し、算出した前記特徴量から一定時間経過後における特徴量移動量を算出する
溶接制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接制御装置において、
前記処理部は、前記撮影時刻の異なる複数の溶接画像における前記特徴量の位置に基づき、一定時間経過後における前記特徴量移動量を推定する
溶接制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接制御装置において、
前記撮影部と前記被溶接材のうちいずれか一方以上の位置情報を取得する位置取得部を更に備え、
前記処理部は、前記位置取得部により取得された前記位置情報に基づき、一定時間経過後における前記特徴量移動量を算出する
溶接制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の溶接制御装置において、
前記溶融池から離れた領域を、溶接進行方向の前方側の領域とする
溶接制御装置。
【請求項5】
被溶接材の溶接中の領域を含む領域の画像を撮影する撮影ステップと、
前記撮影ステップにおいて撮影された溶接中の撮影画像から抽出した特徴量に基づき、電極とワイヤとの位置いずれか一方以上の位置を制御する処理ステップと、を有し、
前記処理ステップでは、撮影時刻の異なる複数の溶接画像から溶融池から離れた領域を時系列順に並べた時系列画像から特徴量を算出し、算出した前記特徴量から一定時間経過後における特徴量移動量を算出する
溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接制御装置及び溶接制御方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
溶接対象物への溶接施工を電極の姿勢や溶接対象の形状に応じて制御する溶接制御装置の一例として、特許文献1には、溶接対象物の溶接に用いられる溶接ワイヤ、又は溶接ワイヤを溶融させるための電極の少なくとも一方を含む位置制御対象を制御するように構成された溶接制御装置であって、少なくとも位置制御対象を含むように撮影した画像から検出される溶接特徴量であって、溶接ワイヤのワイヤ位置または電極の電極位置の少なくとも一方を含む溶接特徴量に基づいて位置制御対象の実位置を決定するように構成された第1決定部と、溶接対象物を溶接する際の電極の姿勢情報または溶接対象物の形状情報の少なくとも一方を含む入力条件に基づいて、入力条件に応じた実位置の目標である目標位置を決定するように構成された第2決定部と、実位置を目標位置にするための位置制御対象の位置制御を実行するように構成された制御部と、を備える、ことが記載されている。
【0003】
溶融池の立体形状及び溶融池の開先内における位置、及び移動方向に基づいて溶融欠陥の発生を予測し、溶接条件を変更して、溶接欠陥の発生を未然に防止する溶接装置の一例として、特許文献2には、被溶接部材の開先内に溶接トーチにより形成される溶融池及びその前方の開先形状を撮像し、溶融池の形状,移動方向及び移動速度を求めると共に、溶融池の進行方向の前方直前の位置にあって溶接ビードの幅方向両端と開先面との接合縁上の点の座標を求め、距離,移動速度から予測されるt時間後の溶融池の領域内に点が片寄りなく略均一な溶け込み深さで含まれるか否かを予測し、溶接欠陥の発生の有無を判断する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7116006号
【特許文献2】特開平9-29435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アーク溶接の能率向上、高品質化のために、溶接制御を自動化する装置について、様々な提案がされている。例えば、特許文献1や特許文献2に開示されている技術が知られている。
【0006】
溶接ワイヤを溶融池に連続的に供給しながら非消耗式電極を用いて施工する自動TIG溶接では、溶接条件の変動によって電極、ワイヤの位置が適正な溶融状態からずれるため、作業者が監視、調整する必要がある。
【0007】
特に、二層以上の複数の層の溶接ビードを重ねて溶接する多層溶接では、前層ビードの縁部を完全に溶融するように電極、ワイヤの位置を適正に維持することが重要である。
【0008】
前層ビードの縁部は凸形状をしており、局所的な形状変化によって前層ビードの縁部と溶融池の距離が変わり、溶融状態が変動する場合がある。そのため、作業者は、前層ビードの縁部に対する電極、ワイヤの位置を監視し、適正位置からずれた場合には、その調整のための介入操作を行う。このような電極、ワイヤの位置調整作業を自動化して作業者の負担を軽減するために、前層ビードの縁部の位置を自動で検出する方法が求められている。
【0009】
特許文献1に開示された装置は、画像処理で得られた溶接対象物の開先位置または溶融池位置に基づいて、位置制御対象の電極、ワイヤの目標位置を決定することで、溶接士が行う場合と同等の溶接品質のアーク溶接を自動で行うことができる。しかしながら、多層溶接に関しては記載がなく、開先よりも複雑な形状を有する前層ビードの縁部を安定に検出することが難しい、という課題があった。
【0010】
特許文献2に開示された装置は、溶融池の進行方向の前方の位置にあって溶接ビードの幅方向の両縁上にある点の座標を求め、所定時間後に溶融池内に含まれることとなるかを予測演算し、溶接条件を制御する。しかしながら、溶接時に取得される画像はアーク光を抑制するフィルタにより輝度が低下するため、溶融池の進行方向の前方の位置では画像が不鮮明となり、前層ビードの縁部を安定に検出することが難しい、という課題があった。
【0011】
そこで、本発明は、溶接対象物の溶接ビードの縁部を従来に比べて安定に検出することで、前層ビードの縁部に対する電極、ワイヤの位置を適正に維持した溶接を実現することが可能な溶接制御装置及び溶接制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、被溶接材の溶接中の領域を含む領域の画像を撮影する撮影部と、前記撮影部により撮影された溶接中の撮影画像から抽出した特徴量に基づき、電極とワイヤとの位置いずれか一方以上の位置を制御する処理部と、を備え、前記処理部は、撮影時刻の異なる複数の溶接画像から溶融池から離れた領域を時系列順に並べた時系列画像から特徴量を算出し、算出した前記特徴量から一定時間経過後における特徴量移動量を算出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶接対象物の溶接ビードの縁部を従来に比べて安定に検出することで、前層ビードの縁部に対する電極、ワイヤの位置を適正に維持した溶接を実現することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1に関する溶接制御装置を含むTIG溶接の概要を示す図。
図2】多層肉盛溶接の模式図。
図3】溶接電極、溶融池と溶接ワイヤを撮影した画像の模式図。
図4】本発明の実施例1に関する溶接制御装置での画像処理を説明する図。
図5】本発明の実施例2に関する溶接制御装置を含むTIG溶接の概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の溶接制御装置及び溶接制御方法の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0016】
<実施例1>
本発明の溶接制御装置及び溶接制御方法の実施例1について図1乃至図4を用いて説明する。図1は本実施例1に関する溶接制御装置を含むTIG溶接の概要を示す図、図2は多層肉盛溶接の模式図、図3は溶接電極、溶融池と溶接ワイヤを撮影した画像の模式図、図4は本実施例1に関する溶接制御装置での処理の画用を説明する図である。
【0017】
本実施例は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接を対象とする。TIG溶接は、溶接トーチに保持されたタングステン電極と母材の間にアークを発生させ、その周囲をアルゴンなどの不活性ガスで包んで、溶加材である溶接ワイヤを補給しながら溶接を行う方法である。溶接ワイヤに通電してジュール熱を発生させ、ホットワイヤTIG溶接としてもよい。ホットワイヤTIG溶接では、高温の溶接ワイヤを溶融プール内に供給することにより、ワイヤ溶着量を増加させることができる。
【0018】
最初に、被溶接材3の自動TIG溶接の様子について図1を用いて説明する。図1には溶接機を省略しているが、溶接機は、溶接トーチ1にアークを発生させるための電力を供給する。
【0019】
アークは溶接トーチ1の電極2と被溶接材3の間に点弧される。ワイヤ5は溶接トーチ1の前方より送給される。アークによりワイヤ5が溶融し、母材へと移行する。電極2の直下には溶融池7が発生し、溶接ビード8を形成する。
【0020】
多層溶接の二層目以降では、前層ビード9の上に重ねて溶接する。
【0021】
図2は多層肉盛溶接の模式図である。多層肉盛溶接では、前層ビード9の上に溶接ビード8を重ねていく。このとき、溶け込み不良が発生しないように、前層ビード9の縁部が完全に溶融するように電極2とワイヤ5のうちいずれか一方、あるいはいずれもの位置を適正な位置に調整する必要がある。
【0022】
図1に戻り、溶接トーチ1は、移動台車に搭載する、あるいはトーチスタンドに固定したターンテーブルと組み合わせることで被溶接材3との相対位置を変更することができる。ワイヤ5はワイヤ供給装置6によって自動で供給される。溶接トーチ1とワイヤ供給装置6の間には撮影手段10が設置される。
【0023】
溶接開始直前は、溶接士が溶接トーチ1を溶接開始位置に設定する。溶接開始直後は、ワイヤ5を安定に溶融池7に送給するように、溶接士はワイヤ駆動機構12によるワイヤ5の送給位置を調整する。溶接施工が安定してからは、溶接士がワイヤ駆動機構12を自動監視モードに切り替えて溶接を行う。溶接途中でも自動監視モードから手動溶接モードに切り替えることができる。
【0024】
図1中、溶接制御装置100は、撮影手段10及び処理部11で構成される。
【0025】
撮影手段10は、被溶接材3の溶接中の領域を含む領域の画像を撮影するためのカメラで構成される。この撮影手段が、好適には被溶接材の溶接中の領域を含む領域の画像を撮影する撮影ステップの実行主体となる。
【0026】
例えば、撮影手段10は、デジタルカメラなどの光学カメラである。溶接中でアークが点弧している箇所から高輝度の光が発せられるため、溶接作業の動作や溶接現象などの計測対象に応じて最適な計測装置を選定する必要がある。アーク光の特性を考慮すると、可視光領域から赤外領域の波長まで含めた光を受光できるセンサを搭載したカメラとすることが望ましい。また、アーク光によって画像内の輝度が飽和するハレーションの発生を防止するため、ダイナミックレンジが大きく、露光調整が可能なカメラとすることが望ましい。
【0027】
また、撮影手段10は、溶接アークの強い光の影響を一定程度に抑制するために、遮光フィルタを設けることが望ましい。遮光フィルタを可動式とし、溶接アークの発生有無と連動するようにしてもよい。
【0028】
処理部11は、撮影手段10により撮影された溶接中の撮影画像(以後、溶接画像51と記載、図3参照)から抽出した溶接ビード8と前層ビード9との境界64(図3図4参照)に基づき、電極2とワイヤ5との位置いずれか一方以上の位置を制御する演算処理装置であり、好適には撮影ステップにおいて撮影された溶接中の撮影画像から抽出した特徴量に基づき、電極とワイヤとの位置いずれか一方以上の位置を制御する処理ステップの実行主体となる。
【0029】
この処理部11では、撮影手段10で取得した撮影時刻の異なる複数の溶接画像51から溶融池7から離れた領域を時系列順に並べた時系列画像52(図3参照)から溶接ビード8と前層ビード9との境界64を特徴量として算出する。更に、算出した特徴量(溶接ビード8と前層ビード9との境界64)から一定時間経過後における溶接ビード8と前層ビード9との境界64の移動量を算出する。そのうえで、制御対象である電極2とワイヤ5とのいずれか一方以上の位置を決定し、ワイヤ駆動機構12に入力する。
【0030】
ここで、処理部11は、撮影時刻の異なる複数の溶接画像51における溶接ビード8と前層ビード9との境界64の位置に基づき、一定時間経過後における溶接ビード8と前層ビード9との境界64の移動量を推定することが望ましい。その詳細は後述する。
【0031】
ワイヤ駆動機構12は、処理部11が決定した電極2またはワイヤ5の位置に制御するための制御信号を電極2またはワイヤ5の駆動部に送信し、電極2またはワイヤ5を駆動する。
【0032】
図3は、撮影手段10で電極2、溶融池7とワイヤ5を撮影した画像の模式図である。処理部11は、電極2の先端位置61、ワイヤ5の先端位置62、前層ビード9の縁部位置63を抽出する。
【0033】
ここで、電極2の先端位置61はアークによるハレーションがあるため、溶接画像51から直接検出することは難しいが、電極2の特徴点61a,61b,61c,61dから推定することができる。同時に、前層ビード9の縁部位置63と、溶接ビード8と前層ビード9の境界64の位置を検出する。
【0034】
処理部11は、電極2の先端位置61とワイヤ5の先端位置62とのずれ量、電極2の先端位置61と前層ビード9の縁部位置63とのずれ量、電極2の先端位置61と溶接ビード8と前層ビード9の境界64とのずれ量、溶接ビード8の幅を算出し、それらの特徴量に基づき、処理部11は、制御対象である電極2、ワイヤ5の位置を決定する。例えば、電極2の先端位置61と前層ビード9の縁部位置63とのずれ量が目標範囲を逸脱した場合に、ずれ量が目標値に近づくように電極2とワイヤ5のうちいずれか一方以上の位置を変更する。
【0035】
前層ビード9の縁部位置63の抽出方法について、図4を用いて説明する。この例では、時刻Tにおける前層ビード9の縁部位置63の位置を算出するため、時間間隔ΔTで時刻Tより前に撮影したN+1枚の画像を用いる。
【0036】
時刻T-NΔTから時刻Tの各画像において、溶融池7から溶接方向の前方にあって、溶融池から離れた抽出領域53を切り出す。このように、溶融池7から離れた領域として、溶接進行方向の前方側の領域とすることができる。
【0037】
次に、抽出領域53の画素を時系列順に並べた時系列画像52を生成する。時系列画像52は、画像の空間的に連続した画素を時系列順に並べた画像である。したがって、時系列画像52の横方向は空間の連続性、縦方向は時間の連続性を表す。
【0038】
まず、処理部11では、先に生成した時系列画像52を画像解析して時刻Tにおける前層ビード9の縁部位置63を検出する。また、この時系列画像52から溶接ビード8と前層ビード9の境界64を検出する。
【0039】
そのうえで、処理部11は、この検出した溶接ビード8と前層ビード9の境界64が完全に溶融するように、電極2とワイヤ5のうちいずれか一方、あるいはいずれもの位置を適正な位置に調整するためのワイヤ供給装置6や移動台車、ターンテーブル等のパラメータを求め、ワイヤ駆動機構12に出力する。
【0040】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0041】
上述した本発明の実施例1の溶接制御装置100は、被溶接材3の溶接中の領域を含む領域の画像を撮影する撮影手段10と、撮影手段10により撮影された溶接中の撮影画像から抽出した溶接ビード8と前層ビード9との境界64に基づき、電極2とワイヤ5との位置いずれか一方以上の位置を制御する処理部11と、を備え、処理部11は、撮影時刻の異なる複数の溶接画像51から溶融池7から離れた領域を時系列順に並べた時系列画像52から溶接ビード8と前層ビード9との境界64を算出し、算出した溶接ビード8と前層ビード9との境界64から一定時間経過後における溶接ビード8と前層ビード9との境界64の移動量を算出する。
【0042】
これによって、多層溶接における前層ビード9の縁部を従来の方法に比べて安定に検出することができることから、適正な施工条件範囲(溶接ビード8と前層ビード9の境界64を完全に溶融させる条件)からの逸脱が従来に比べて非常に少ない高精度な溶接を実現することができる。すなわち、本発明に係る溶接制御装置によれば、多層溶接における前層ビード9の縁部を安定に検出し、適正な施工条件範囲からの逸脱がない溶接を実現することができる。
【0043】
また、処理部11は、撮影時刻の異なる複数の溶接画像51における溶接ビード8と前層ビード9との境界64の位置に基づき、一定時間経過後における溶接ビード8と前層ビード9との境界64の移動量を推定するため、より高い精度で溶接ビード8と前層ビード9との境界64を検出することができる。
【0044】
更に、溶融池7から離れた領域を、溶接進行方向の前方側の領域とすることで、間もなく溶接される箇所の溶接ビード8と前層ビード9との境界64を検出することができる。
【0045】
<実施例2>
本発明の実施例2の溶接制御装置及び溶接制御方法について図5を用いて説明する。図5は本実施例2に関する溶接制御装置を含むTIG溶接の概要を示す図である。
【0046】
図5に示す本実施例の溶接制御装置100Aは、実施例1の溶接制御装置100の構成(撮影手段10、処理部11A)に加えて、被溶接材3と撮影手段10のうちいずれか一方以上の位置情報を取得する位置取得部13を更に備えている。
【0047】
位置取得部13は、例えば、被溶接材3や撮影手段10を駆動するモータに設置されたエンコーダである。また、位置取得部13は、被溶接材3や撮影手段10に設置したレーザ変位計等の変位センサであってもよい。
【0048】
また、処理部11Aでは、位置取得部13により取得された位置情報に基づき、一定時間経過後における溶接ビード8と前層ビード9との境界64の移動量を算出する。
【0049】
溶接中に被溶接材3や撮影手段10が動くと、被溶接材3と撮影手段10との相対位置が変わる。それに伴い、溶接画像51の特徴量の位置も変化する。そのため、溶接画像51から検出された特徴量の変化が電極2、ワイヤ5の動きに起因するのか、あるいは被溶接材3や撮影手段10の動きに起因するのかを切り分けることは難しい。
【0050】
そこで、溶接制御装置100Aの処理部11Aでは、位置取得部13で取得した被溶接材3または撮影手段10の位置情報に基づき、一定時間経過後における特徴量の移動量を算出する。
【0051】
その他の構成・動作は前述した実施例1の溶接制御装置及び溶接制御方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0052】
本発明の実施例2の溶接制御装置及び溶接制御方法においても、前述した実施例1の溶接制御装置及び溶接制御方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0053】
また、撮影手段10と被溶接材3のうちいずれか一方以上の位置情報を取得する位置取得部13を更に備え、処理部11Aは、位置取得部13により取得された位置情報に基づき、一定時間経過後における溶接ビード8と前層ビード9との境界64の移動量を算出することにより、被溶接材3または撮影手段10の位置がずれた場合には、位置取得部13で取得した被溶接材3または撮影手段10の位置情報が変化するため、被溶接材3または撮影手段10の動きを検出することができる。したがって、被溶接材3または撮影手段10が動く場合においても、電極2、ワイヤ5、前層ビード9の縁部の位置を高精度かつ安定に検出することができるため、適正な施工条件範囲からの逸脱がない溶接を実現することができる。
【0054】
<その他>
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、さまざまな変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0055】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。また、前記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、または、IC(Integrated Circuit)カード、SDカード、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に置くことができる。
【0056】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…溶接トーチ
2…電極
3…被溶接材
5…ワイヤ
6…ワイヤ供給装置
7…溶融池
8…溶接ビード
9…前層ビード
10…撮影手段(撮影部)
11,11A…処理部
12…ワイヤ駆動機構
13…位置取得部
17…被溶接材の壁面
51…溶接画像(撮影画像)
52…時系列画像
53…抽出領域
61…先端位置
61a,61b,61c,61d…特徴点
62…先端位置
63…縁部位置
64…境界(特徴量)
100,100A…溶接制御装置
図1
図2
図3
図4
図5