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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009310
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】燃料電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0247 20160101AFI20250110BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20250110BHJP
   H01M 8/0284 20160101ALI20250110BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20250110BHJP
【FI】
H01M8/0247
H01M8/0273
H01M8/0284
H01M8/0258
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112225
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】522195954
【氏名又は名称】株式会社水素パワー
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 出穂
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA08
5H126AA12
5H126AA15
5H126DD02
5H126DD05
5H126EE11
5H126EE31
5H126JJ03
5H126JJ09
(57)【要約】
【課題】厚さを抑えつつ拡散部での流路の閉塞を抑制することができる燃料電池セルを提供する。
【解決手段】燃料電池セル10は、コアシート22とセパレータ20を有する。コアシート22は電解質膜24aと電極層24bを有するMEA24と、枠状シート23と、を有する。セパレータ20は、第一ガスが導入される第一入口部50aと、第一ガスが排出される第一出口部60aと、第二ガスが導入される第二入口部50bと、第二ガスが排出される第二出口部60bと、を有する。第一入口部50a、第二入口部50b、第一出口部60a、第二出口部60bの少なくとも一つは、枠状シート23に向かって突出して枠状シート23を支持する複数の凸部100を有する。凸部100は、枠状シート23に突き当てられて枠状シート23の面方向の変位を抑制している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシートと、
前記コアシートの外側に設けられた、セパレータを有し、
前記コアシートは
電解質膜と、前記電解質膜の外側に設けられた電極層と、を有するMEAと、
前記MEAを支持する樹脂製の枠状シートと、を有し、
前記セパレータは、入口部と、出口部と、を有し、
前記入口部は、第一ガスが導入される第一入口部と、第二ガスが導入される第二入口部と、を有し、
前記出口部は、前記第一ガスが排出される第一出口部と、前記第二ガスが排出される第二出口部と、を有し、
前記第一入口部と前記第二入口部、前記第一出口部と前記第二出口部の少なくとも一つは、前記枠状シートに向かって突出し、前記枠状シートを支持する複数の凸部を有し、
前記凸部は、前記枠状シートに突き当てられて前記枠状シートの面方向の変位を抑制している、燃料電池セル。
【請求項2】
前記凸部は、前記枠状シートに向かって突き出すディンプルである、請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記凸部は前記枠状シートに突き当てられる平坦部を有し、前記平坦部と前記枠状シートは面接触する、請求項1または2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記第一ガスは水素ガスであり、前記第二ガスは空気である、請求項1または2に記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記第一ガスと前記第二ガスは互いに逆向きに流れるように構成され、
前記凸部は、少なくとも前記出口部に設けられる、請求項1または2に記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記入口部は入口孔を有し、
前記出口部は出口孔を有し、
前記入口部または前記出口部における複数の前記凸部同士の離間距離は、前記入口孔及び前記出口孔からの距離に応じて変化している、請求項1または2に記載の燃料電池セル。
【請求項7】
前記入口部における前記離間距離は、前記入口孔に近いほど小さくなり、前記出口部における前記離間距離は前記出口孔に近いほど小さくなる、請求項6に記載の燃料電池セル。
【請求項8】
前記入口部は入口孔を有し、
前記出口部は出口孔を有し、
前記枠状シートの曲げ剛性は、前記入口孔に近いほど大きくなり、前記出口部における前記枠状シートの曲げ剛性は、前記出口孔に近いほど大きくなる、請求項1または2に記載の燃料電池セル。
【請求項9】
隣り合う任意の一組の前記凸部の間でたわむ前記枠状シートの最大たわみ量δについて、
前記第一ガスと前記第二ガスの差圧をP、
前記枠状シートの厚さをh、前記枠状シートの弾性率をE、
前記凸部の高さをD、
隣り合う前記凸部のそれぞれの前記枠状シートとの接触部同士の距離をL、としたときに以下の式が成り立つ、請求項1または2に記載の燃料電池セル。
【数1】
【請求項10】
請求項1または2に記載の燃料電池セルを用いる燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の燃料電池においては、中間層としてカーボン多孔体及び金属多孔体を設けることによって、電解質膜に加わる応力を緩和することができる燃料電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-196884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した態様において、ガス拡散部において、アノードとカソードとの間の差圧発生等の要因により、枠状シートが変形して流路を塞いでしまうという問題がある。枠状シートを厚くしたり、あるいは、金属板で枠状シートを支持したりすることで変形を抑えることができるものの、そのような構造は燃料電池セルの厚肉化を招き、燃料電池の大型化を招いてしまう。
【0005】
本開示は、厚さを抑えつつ拡散部での流路の閉塞を抑制することができる燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る燃料電池セルは、
コアシートと、
前記コアシートの外側に設けられた、セパレータを有し、
前記コアシートは
電解質膜と、前記電解質膜の外側に設けられた電極層と、を有するMEAと、
前記MEAを支持する樹脂製の枠状シートと、を有し、
前記セパレータは、入口部と、出口部と、を有し、
前記入口部は、第一ガスが導入される第一入口部と、第二ガスが導入される第二入口部と、を有し、
前記出口部は、前記第一ガスが排出される第一出口部と、前記第二ガスが排出される第二出口部と、を有し、
前記第一入口部と前記第二入口部、前記第一出口部と前記第二出口部の少なくとも一つは、前記枠状シートに向かって突出し、前記枠状シートを支持する複数の凸部を有し、
前記凸部は、前記枠状シートに突き当てられて前記枠状シートの面方向の変位を抑制している。
【発明の効果】
【0007】
上記によれば、厚さを抑えつつ拡散部での流路の閉塞を抑制することができる燃料電池セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示に係る燃料電池セルを用いた燃料電池の斜視図である。
図2図2は、本実施形態に係る燃料電池セルの分解斜視図である。
図3図3は、本実施形態に係るセパレータの正面図である。
図4図4は、本開示に係るセパレータを重ね合わせて示した正面図である。
図5図5は、本実施形態に係る燃料電池セルにおけるガスの流れ方を示した図である。
図6A図6Aは、図5において丸で囲んだ部分Aを拡大した図である。
図6B図6Bは、図6Aにおける拡散部のB-B断面矢視図である。
図7図7は、燃料電池セルにおいて、アノード側セパレータの第一入口側拡散部と、カソード側セパレータの第二出口側収集部が、面方向投影図において重なる部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る燃料電池セル10の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0010】
なお、図1等に示すU、D、F、B、R、Lは燃料電池セル10における方向を示すものであり、Uは上方、Dは下方、Fは前方、Bは後方、Rは右方、Lは左方である。以降の説明では、右方、左方を区別なく呼ぶ場合は、単に「側方」と呼ぶことがある。
【0011】
図1は、本開示に係る燃料電池セル10を用いた燃料電池1の斜視図である。
図1に示すように、燃料電池1は燃料電池セル10を一枚以上積層して構成される。燃料電池1は、積層した燃料電池セル10の両端に設けられたエンドプレート、燃料電池セルで生じた電気を取り出す電極、および図1破線で示したケースを有している。以降の説明においては、燃料電池セル10のことを単に「セル」と呼称することがある。
エンドプレートの片方には、各流体のスタックへの出入口が設けられ、それぞれ、第一ガス入口2、第一ガス出口3、第二ガス入口4、第二ガス出口5、冷却水入口6、冷却水出口7となっている。
【0012】
図2図4を用いて燃料電池セル10の構成について説明する。図2は本実施形態に係る燃料電池セル10の分解斜視図である。図2に示すように、燃料電池セル10は、セパレータ20と、コアシート22を有する。二枚のセパレータ20がコアシート22を挟んで燃料電池セル10を構成する。燃料電池セル10は、セパレータ20とコアシート22との間にガスを流入させることができる。セパレータ20とコアシート22との間には流路を異として、第一ガスと第二ガスの二種類のガスが流れる。
【0013】
図2に示すようにコアシート22は、側面視で略矩形状の部材である。コアシート22は、枠状シート23と、MEA(Membrane Electrode Assembly)24を有する。MEA24は、一対の電極層24b(触媒層とガス拡散層を含む)と、一対の電極層24bに挟まれた電解質膜24aを有する。MEA24は電解質膜24aと電極層24bによって、セパレータ20とコアシート22との間に流れる第一ガスと第二ガスを反応させ、電気を取り出すことができる。
枠状シート23は、MEA24を支持する樹脂製の薄い、枠状のシートである。二枚の枠状シート23が、MEA24の外周端部を挟みこむようにしてMEA24を支持している。枠状シート23の中央の開口部からは、MEA24が露出されている。
【0014】
セパレータ20は、カーボン材料や、金属材料等で構成された薄板状の部材である。セパレータ20はアノード側セパレータ20aとカソード側セパレータ20bを有する。以降の説明においては、アノード側セパレータ20aとカソード側セパレータ20bを総称して「セパレータ20」と呼称することがある。アノード側セパレータ20aとコアシート22との間にはガスとして第一ガスが導入される。カソード側セパレータ20bとコアシートとの間にはガスとして第二ガスが導入される。冷却水は、隣接する燃料電池セル10の間に形成された流路を通る。
【0015】
図2に示すように、セパレータ20は、ガス流路溝21と、入口部50と、出口部60を有する。セパレータ20は、コアシート22との間に、ガスが導通可能なガス流路を形成している。ガス流路溝21は入口部50から出口部60まで形成されている。本実施形態におけるガス流路溝21は、セパレータ20の表面に構成された、入口部50から出口部60まで延びる波状の凹凸形状である。ガス流路溝21によって、コアシート22との間には微細な複数の流路が形成される。なお図2では、ガス流路溝21をセパレータ20の一部に描いているが、実際には、電極層24bと向かい合うセパレータ20の全面に設けられている。
入口部50はセパレータ20とコアシート22との間にガスを導入することができる。セパレータ20は、コアシート22との間に、入口部50としての空間を形成している。
出口部60は、セパレータ20とコアシート22との間に導入されたガスを排出することができる。入口部50および出口部60は、セパレータ20の、ガス流路溝21が延びる方向の端部に設けられている。
【0016】
本実施形態において、アノード側セパレータ20aには、ガス流路溝21として第一ガス流路溝21aが設けられている。また、アノード側セパレータ20aには、入口部50と出口部60として、第一入口部50aと、第一出口部60aが設けられている。
本実施形態において、カソード側セパレータ20bには、ガス流路溝21として第二ガス流路溝21bが設けられている。また、カソード側セパレータ20bには、入口部50と出口部60として、第二入口部50bと、第二出口部60bが設けられている。本実施形態においては、第一ガスと第二ガスをそれぞれ対向方向から燃料電池セル10内に流すクロスフロー方式を採用しているため、アノード側セパレータ20aとカソード側セパレータ20bでは、入口部50と、出口部60の位置が異なることに留意されたい。
【0017】
図3は本実施形態に係るアノード側セパレータ20a、カソード側セパレータ20bそれぞれの正面図(F側から見た図)である。本図において、第一ガスはアノード側セパレータ20aの裏面(紙面反対側)と、非図示のコアシートの間を流れる。第二ガスはカソード側セパレータ20bの表面と、非図示のコアシートの間を流れる。図3に示すように、入口部50は、入口孔51と、拡散部52を有する。
【0018】
入口孔51は、図1に示した第一ガス入口2、第二ガス入口4から取り込まれたガスを、セル内に取り込むための孔で、入口孔51からガスがセル内に導入される。入口孔51から導入されたガスは拡散部52内で拡散され、拡散部52内に作用するガス圧によりガスはガス流路溝21に導かれる。出口部60は、出口孔61と、収集部62を有する。出口孔61はセパレータ20とコアシート22との間に導入されたガスを排出させるために設けられている。ガス流路溝21から流れ出たガスは収集部62で出口孔61に向かって集められ、出口孔61からセル外部に排出される。
本実施形態において、入口孔51と出口孔61は、セパレータ20における対角の角に設けられている。
以降の説明においては、入口孔51と、出口孔61を総称して「孔部」と呼称することがある。また以降の説明においては、拡散部52と、収集部62を総称して「拡散収集部」と呼称することがある。
なお本実施例には図示していないが、セパレータ20とコアシート22の間において、各ガスが通過する入口孔51、拡散部52、ガス流路溝21、収集部62、出口孔61には、それらを包絡するシール構造が設けられている。また、燃料電池セル10同士の間に形成される冷却水流路も同様のシール構造を有するため、各流体はお互いが混ざり合うことなく流れることができる。
【0019】
図4は、本開示に係る燃料電池セル10の正面図である。図4の紙面手前側にアノード側セパレータ20aが位置し、図4の紙面奥側にカソード側セパレータ20bが位置している。図4は、F側から、アノード側セパレータ20aとカソード側セパレータ20bとを透視的に見た状態を描いている。
本実施形態において、アノード側セパレータ20aは、第一ガス入口孔51aと、第一ガス拡散部52aと、第一ガス流路溝21aと、第一ガス出口孔61aと、第一ガス収集部62aで構成される第一流路を有する。
また、カソード側セパレータ20bは、第二ガス入口孔51bと、第二ガス拡散部52bと、第二ガス流路溝21bと、第二ガス出口孔61bと、第二ガス収集部62bで構成される第二流路を有する。
図4に示すように、本実施形態に係る単一の燃料電池セル10において、それぞれの入口出口部は、燃料電池セル10の側面から透視的に見たときに重なっていない。また、本実施形態に係る単一の燃料電池セル10を側方から透視的に見たときに、第一ガス拡散部52aは第二ガス収集部62bと重なり、また、第一ガス収集部62aは第二ガス拡散部52bと重なっている。
【0020】
次に、図5を用いてセパレータ20の間にガスが流れる態様について説明する。図5は本実施形態に係る燃料電池セル10におけるガスの流れ方を示した図である。図5(a)は燃料電池セル10をF側から見た時の、アノード側セパレータ20aとコアシート22の間に形成される第一流路を説明するための図である。図5(b)は、燃料電池セル10をF側から見た時の、カソード側セパレータ20bとコアシート22の間に形成される第二流路を説明するための図である。
【0021】
図5(a)および図5(b)に示したように、本実施形態において、第一ガスは、アノード側セパレータ20aとコアシート22との間に、第一ガス入口孔51aから導入される。第一ガスは第一ガス入口孔51aから導入された後、第一ガス拡散部52aによって、第一ガス流路溝21aの上下方向に拡散した後、第一ガス出口孔61aが設けられているR方向に流れる。第二ガスは、カソード側セパレータ20bとコアシート22との間で、第一ガスとは異なる方向に、第一ガスと同様に流れる。つまり、燃料電池セル10に第一ガスと第二ガスが導入されている場合、第一ガスと第二ガスはコアシート22を挟んで交差する方向に流れる。本実施形態において、第一ガスは水素ガスであり、第二ガスは空気である。
このように本実施形態においては、第一ガスが流れる方向と第二ガスが流れる方向を異ならせるクロスフロー型(カウンターフロー型)の燃料電池セル10を説明するが、本開示はこれに限られない。例えば第一ガスと第二ガスを同方向に流すパラレルフロー型の燃料電池セルであってもよい。
【0022】
次に図6A図6Bを用いて拡散収集部について詳述する。図6A図5(b)における部分VIを拡大した図である。図6B図6Aにおける収集部のB-B断面を示す矢視図である。以降の説明においては、カソード側セパレータ20bの第二ガス収集部62bについて詳述するが、第二ガス収集部62b以外の拡散収集部においても同様の構成を有していてもよい。
【0023】
図6Aに示すように拡散収集部は凸部100とベース部101を有する。ベース部101は、例えばカソード側セパレータ20bのベース面と面一に構成された部位である。凸部100は、ベース部101から枠状シート23に対して突き当てられるように加工された凸状部である。より詳しくは、凸部100は、アノード側セパレータ20aとカソード側セパレータ20bで挟み込んだ枠状シート23に向かって突き出している。
図6Bに示すように、凸部100はその先端に平坦部102を有する。平坦部102は、枠状シート23に面接触可能に構成されている。隣り合う一対の凸部100と、枠状シート23と、ベース部101と、によってガス導通路Rが形成されている。
【0024】
図6Aに示したように、第二ガス収集部62bに設けられた凸部100同士の離間距離は、第一ガス入口孔51aからの距離に応じて変化している。図6Aに示すように、凸部100aと凸部100bとの離間距離S1は、凸部100aと凸部100bよりも第一ガス入口孔51aから遠い位置に設けられている凸部100cと凸部100dの離間距離S2よりも小さい。第一ガス入口孔51a近傍は、枠状シート23を挟んで対面側の第一ガス圧が最大であるのに対し、第二ガス収集部62bはガス流路の中で下流に位置するため、圧力低下が大きい。これにより、第一ガス入口孔51a近傍は、第一ガスと第二ガスの差圧が最も大きくなる場所となる。そのため、第一ガス入口孔51a近傍においては、差圧による枠状シート23の変形を防ぐために、凸部100による枠状シート23の支持間隔を他の場所と比較して小さくしている。
【0025】
次に図7を用いて本開示における凸部100の作用を詳述する。図7は、アノード側セパレータ20aの第一ガス拡散部52aと、カソード側セパレータ20bの第二ガス収集部62bとが枠状シート23を挟み込む部分を示す断面図である。図7において、紙面の上部にアノード側セパレータ20aが位置し、紙面の下部にカソード側セパレータ20bが位置している。
【0026】
上述したように、第一ガス拡散部52aには、凸部100eによって枠状シート23とアノード側セパレータ20aの間にガス導通路R1が形成されている。第二ガス収集部62bには、凸部100fによって枠状シート23とカソード側セパレータ20bの間にガス導通路R2が形成されている。本実施形態において、ガス導通路R1には第一ガスとして水素ガスが流れる。ガス導通路R2には第二ガスとして空気が流れる。
【0027】
ガス導通路R1およびガス導通路R2にガスが導入されると、枠状シート23は第一ガスおよび第二ガスの双方から圧力を受ける。当該状況において、枠状シート23が圧力により変形すると、ガス導通路R1およびガス導通路R2を塞いでしまう可能性がある。
より詳細には、ガス導通路Rを流れるガスの圧力は、流路内部の圧力損失により、入口孔51近傍で最も高くなり、出口孔61近傍で最も低くなる。このため、第一ガス拡散部52aのガス導通路R1内の圧力は、第二ガス収集部62bのガス導通路R2内の圧力よりも高くなりやすい。特に本実施形態のように第一ガスが水素ガス、第二ガスが空気の場合、空気の圧力損失は水素ガスよりも高いので、第一ガス拡散部52aのガス導通路R1内の圧力は、第二ガス収集部62bのガス導通路R2内の圧力よりも高くなる。
ガス導通路R1とガス導通路R2は変形容易な樹脂製の枠状シート23によって仕切られている。ガス導通路R1内の圧力とガス導通路R2内の圧力の差圧により、ガス導通路R1とガス導通路R2とを仕切る枠状シート23は変形する恐れがある。具体的には、枠状シート23はガス導通路R2を閉塞するようにカソード側セパレータ20bのベース部101fに向かって凸状に膨らむ恐れがある。
差圧による枠状シート23の変形量は、差圧の大きさ、枠状シート23の曲げ剛性、枠状シート23を支持する凸部100同士の離間距離により定まる。本開示に係る燃料電池セル10によれば、枠状シート23の板厚が薄く、曲げ剛性が低い場合でも、枠状シート23を支持する凸部100同士の間隔を枠状シート23の剛性に合わせて小さくすることにより、枠状シート23の厚さを抑えつつ、差圧による枠状シート23の変形を、流路を閉塞しない程度に抑制することができる。
【0028】
具体的には、隣り合う任意の一組の凸部100の間でたわむ枠状シート23に差圧Pが負荷した時の最大たわみ量δは、両端を拘束支持された両持ち梁に分布荷重が負荷した時の最大変位として近似計算できる。すなわち、第一ガスと第二ガスの差圧をP、枠状シート23の厚さをh、枠状シート23の弾性率をE、凸部100の高さをD、隣り合う凸部100のそれぞれの枠状シート23との接触部200同士の距離をL、とすると、最大たわみ量δは次式で表される。
【数1】

上式から、枠状シート23の厚さhが薄い場合でも凸部100と枠状シート23との接触部200同士の距離Lを小さくすることにより、たわみ量δの値を小さく抑えられることがわかる。
最大たわみ量δが流路を閉塞しないための一つの目安としては、枠状シート23のたわみ量δが凸部高さD、すなわち流路高さの1/3を超えないことが挙げられる。数式で表すと、次式の通りとなる。
【数2】

上記式を満たすように燃料電池セル10を構成することで、枠状シート23の変形によるガス導通路Rの閉塞を抑制することができる。例えば、枠状シート23の厚さhと、弾性率Eと、に応じた、ガス導通路Rを塞がないための凸部100の高さの指標とすることができる。また、凸部100の高さDに応じた、枠状シート23の厚さhと、弾性率Eの決定の指標とすることができる。
図7に示す実施例において、凸部100fの高さDは、ベース部101fから平坦部102fが枠状シート23と接触している接触部200までの距離である。また、隣り合う凸部100同士の距離Lは、隣り合う凸部100それぞれが枠状シート23と接触する、接触部200間の距離である。
【0029】
図7に示す実施例においては、拡散部に設けられた凸部100e及び凸部100fが枠状シート23に突き当てられ、枠状シート23の面方向の変位を抑制している。また、凸部100eは平坦部102eを有し、凸部100fは平坦部102fを有する。平坦部102eおよび平坦部102fは、枠状シート23に対して面接触が可能であり、枠状シート23にかかる面圧を分散させることができる。
【0030】
ガス導通路Rに流れるガスから、枠状シート23に対してかかる圧力は入口孔51近傍で最も高くなり、出口孔61近傍で最も低くなる。このため、拡散部のうち、入口孔51および出口孔61が設けられる近傍部分は、アノード側のガス導通路Rが枠状シート23に与える圧力と、カソード側のガス導通路Rが枠状シート23に与える圧力の差(差圧)が大きい。よって、入口孔51と出口孔61の付近は、枠状シート23が特に変形しやすい環境となっている。
【0031】
本開示に係る燃料電池セルによれば、凸部100同士の、入口部50における離間距離は入口孔51に近いほど小さくなり、出口部60における離間距離は出口孔61に近いほど小さくなる。これにより、凸部100は枠状シート23における差圧が高い箇所を効果的に支持することができ、枠状シート23の変形を抑制することができる燃料電池セル10を提供することができる。
また、本実施例では入口孔出口孔からの距離に応じて凸部100同士の離間距離を変更したが、凸部100同士の離間距離を変更する代わりに、前記枠状シート23の曲げ剛性を変更しても良い。すなわち、入口孔出口孔に近いほど前記枠状シート23の曲げ剛性を増大させる(例えば板厚を増加させる)ことにより、差圧のより大きな部位での枠状シートの変形を抑制することができる。
【0032】
また、本開示に係る燃料電池セル10において、凸部100は枠状シート23に向かって突き出すディンプルであってもよい。当該構成によれば、ガス導通路Rの流路面積を大きくとりやすい。
【0033】
以上、本開示の実施形態について説明をしたが、本開示の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本開示の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0034】
1 燃料電池
2 第一ガス入口
3 第一ガス出口
4 第二ガス入口
5 第二ガス出口
6 冷却水入口
7 冷却水出口
10 燃料電池セル
20 セパレータ
20a アノード側セパレータ
20b カソード側セパレータ
21 ガス流路溝
21a 第一ガス流路溝
21b 第二ガス流路溝
22 コアシート
23 枠状シート
24 MEA
24a 電解質膜
24b 電極層
50 入口部
50a 第一入口部
50b 第二入口部
51 入口孔
51a 第一ガス入口孔
51b 第二ガス入口孔
52 拡散部
52a 第一ガス拡散部
52b 第二ガス拡散部
60 出口部
60a 第一出口部
60b 第二出口部
61 出口孔
61a 第一ガス出口孔
61b 第二ガス出口孔
62 収集部
62a 第一ガス収集部
62b 第二ガス収集部
100,100a,100b,100c,100d,100e,100f 凸部
101,101e,101f ベース部
102,102e,102f 平坦部
200 接触部
R,R1,R2 ガス導通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7