(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025093184
(43)【公開日】2025-06-23
(54)【発明の名称】締結部品
(51)【国際特許分類】
F16B 35/00 20060101AFI20250616BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
F16B35/00 P
F16B37/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208768
(22)【出願日】2023-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小椋 友裕
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 英治
(57)【要約】
【課題】重量の増加を抑制しつつ締結を強固にすることが可能な締結部材を提供する。
【解決手段】締結部材10,50は、ねじ形成部11,51と、被締結部材40に当接する座面12a,52aを形成する座面形成部12,52と、を備え、座面形成部12,52のうち座面12a,52a側の部位には、径方向外側に拡がる形状を有し、被締結部材40に圧縮力を作用させるフランジ部122,522が形成されており、フランジ部122,522のうち座面12a,52aとは反対側の面は、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて座面12a,52a側に近づくように傾斜する傾斜面122c,122dを形成しており、傾斜面122c,122dは、径方向内側寄りに位置する内側傾斜面122cと、内側傾斜面122cよりも径方向外側に位置し、座面12a,52aに対する傾斜角度が内側傾斜面122cよりも大きい外側傾斜面122dと、を有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじ(11a)または雌ねじ(51a)が形成されたねじ形成部(11,51)と、
被締結部材(40)に当接する座面(12a,52a)を形成する座面形成部(12,52)と、を備え、
前記座面形成部のうち前記座面側の部位には、径方向外側に拡がる形状を有し、前記被締結部材に圧縮力を作用させるフランジ部(122,522)が形成されており、
前記フランジ部のうち前記座面とは反対側の面は、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて前記座面側に近づくように傾斜する傾斜面(122c,122d)を形成しており、
前記傾斜面は、
径方向内側寄りに位置する内側傾斜面(122c)と、
前記内側傾斜面よりも径方向外側に位置し、前記座面に対する傾斜角度が前記内側傾斜面よりも大きい外側傾斜面(122d)と、を有している、締結部材(10,50)。
【請求項2】
前記内側傾斜面と前記外側傾斜面との間で前記傾斜角度が変化する部位は、前記座面のうち最も径方向外側で前記被締結部材と当接する部位である最外当接部(122a)よりも径方向内側に位置している、請求項1に記載の締結部材。
【請求項3】
前記内側傾斜面における前記傾斜角度は20°~30°であり、
前記外側傾斜面における前記傾斜角度は35°~50°である、請求項1に記載の締結部材。
【請求項4】
前記フランジ部は、前記座面とは反対側の面のうち前記内側傾斜面と前記外側傾斜面との間に凹状に形成された凹部(122e,122k)を有しており、
前記凹部は、前記座面のうち最も径方向外側で前記被締結部材と当接する部位である最外当接部(122a)よりも径方向内側に位置している、請求項1に記載の締結部材。
【請求項5】
前記凹部は、段差を構成しており、前記フランジ部のうち前記座面とは反対側の面を断面L字状に切り欠いた形状を有している、請求項4に記載の締結部材。
【請求項6】
前記凹部は、最も外径側の部位において前記座面に最も近くなる形状を有している、請求項4に記載の締結部材。
【請求項7】
前記凹部は、径方向においては前記フランジ部のうち最も内径側の部位である最内径部(122i)と前記最外当接部との間に位置し、軸方向においては前記フランジ部のうち最も外径側の部位である最外径部(122f)と前記最内径部との間に位置している、請求項4に記載の締結部材。
【請求項8】
前記凹部は、前記最内径部と前記最外当接部との間の径方向距離を二等分し且つ軸方向と平行な仮想線(L1)と重合する位置に配置されている、請求項7に記載の締結部材。
【請求項9】
前記内側傾斜面および前記外側傾斜面は、軸方向断面において直線状をなすテーパ形状に形成される、請求項1~8の何れか1項に記載の締結部材。
【請求項10】
雄ねじ(11a)または雌ねじ(51a)が形成されたねじ形成部(11,51)と、
被締結部材(40)に当接する座面(12a,52a)を形成する座面形成部(12,52)を備え、
前記座面形成部のうち前記座面側の部位には、径方向外側に拡がる形状を有し、前記被締結部材に圧縮力を作用させるフランジ部(122,522)が形成されており、
前記フランジ部は、前記座面とは反対側の面に凹状に形成された凹部(122e,122k)を有し、
前記凹部は、最も外径側の部位において前記座面に最も近くなる形状を有している、締結部材(10,50)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、車両部品と車両構造体との締結部に用いられるワッシャに環状の溝を設けることによって締結を強固にして車両の操縦安定性を向上させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術によると、締結部にワッシャを追加することになるので車両重量が増加してしまう。ワッシャを用いずに締結を強固にする手段として、フランジ付きの締結部材(例えば、フランジ付きボルトやフランジ付きナット)を用いることが考えられるが、締結をより強固にするためにフランジ付きボルトの剛性を高めようとするとフランジ部の肉厚を大きくする必要があるのでフランジ付きボルトの重量が増加してしまう。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、重量の増加を抑制しつつ締結を強固にすることが可能な締結部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、雄ねじまたは雌ねじが形成されたねじ形成部と、
被締結部材に当接する座面を形成する座面形成部と、を備え、
前記座面形成部のうち前記座面側の部位には、径方向外側に拡がる形状を有し、前記被締結部材に圧縮力を作用させるフランジ部が形成されており、
前記フランジ部のうち前記座面とは反対側の面は、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて前記座面側に近づくように傾斜する傾斜面を形成しており、
前記傾斜面は、
径方向内側寄りに位置する内側傾斜面と、
前記内側傾斜面よりも径方向外側に位置し、前記座面に対する傾斜角度が前記内側傾斜面よりも大きい外側傾斜面と、を有している、締結部材にある。
【0007】
本発明の他の態様は、雄ねじまたは雌ねじが形成されたねじ形成部と、
被締結部材に当接する座面を形成する座面形成部を備え、
前記座面形成部のうち前記座面側の部位には、径方向外側に拡がる形状を有し、前記被締結部材に圧縮力を作用させるフランジ部が形成されており、
前記フランジ部は、前記座面とは反対側の面に凹状に形成された凹部を有し、
前記凹部は、最も外径側の部位において前記座面に最も近くなる形状を有している、締結部材にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、傾斜角度が内側傾斜面よりも大きい外側傾斜面を、内側傾斜面よりも径方向外側に有しているので、フランジ部のうち剛性への寄与度が大きい径方向内側部位の肉厚を大きくしてフランジ部の剛性を高めつつ、フランジ部のうち軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を抑制して締結部材の重量増加を抑制することができる。
【0009】
本発明の他の態様によれば、フランジ部のうち座面とは反対側の面に凹部が形成されているので、締結した時のフランジ部の内部応力の起点を凹部に作り出すことができる。そのため、フランジ部の内部応力の起点がフランジ部の最内径部のみである場合と比較して締結を強固にすることができる。しかも、凹部は、最も外径側の部位において座面に最も近くなる形状を有しているので、凹部の形成に伴うフランジ部の剛性の低下を極力抑えることができる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、重量の増加を抑制しつつ締結を強固にすることが可能な締結部材を提供することができる。
【0011】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1における、締結構造を示す軸方向断面図。
【
図4】実施形態2における、締結構造のフランジ部を示す軸方向断面図。
【
図5】実施形態3における、締結構造のフランジ部を示す軸方向断面図。
【
図6】実施形態4における、締結構造を示す軸方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
締結部材は、ねじ形成部と、座面形成部と、を備え、座面形成部のうち座面側の部位には、座面とは反対側の部位よりも径方向外側に拡がる形状を有し、被締結部材に圧縮力を作用させるフランジ部が形成されており、フランジ部のうち座面とは反対側の面は、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて座面側に近づくように傾斜する傾斜面を形成しており、傾斜面は、径方向内側寄りに位置する内側傾斜面と、内側傾斜面よりも径方向外側に位置し、座面に対する傾斜角度が内側傾斜面よりも大きい外側傾斜面と、を有している。
【0014】
締結部材において、内側傾斜面と外側傾斜面との間で傾斜角度が変化する部位は、座面のうち最も径方向外側で被締結部材と当接する部位である最外当接部よりも径方向内側に位置している。これにより、フランジ部のうち、軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を効果的に抑制できる。
【0015】
締結部材において、内側傾斜面における傾斜角度は20°~30°であり、外側傾斜面における傾斜角度は35°~50°である。これにより、フランジ部のうち、剛性への寄与度が大きい径方向内側の部位の肉厚を効果的に大きくできるとともに、フランジ部のうち、軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を効果的に抑制できる。
【0016】
締結部材において、フランジ部は、座面とは反対側の面のうち内側傾斜面と外側傾斜面との間に凹状に形成された凹部を有している。これにより、締結した時のフランジ部の内部応力の起点を凹部に作り出すことができるので、フランジ部の内部応力の起点がフランジ部の最内径部のみである場合と比較して締結を強固にすることができる。
【0017】
締結部材において、凹部は、座面のうち最も径方向外側で被締結部材と当接する部位である最外当接部よりも径方向内側に位置している。これにより、凹部によって作り出された内部応力の起点によって被締結部材に軸方向応力を効果的に作用させることができるので、締結をより強固にすることができる。
【0018】
締結部材において、凹部は、段差を構成しており、フランジ部のうち座面とは反対側の面を断面L字状に切り欠いた形状を有している。これにより、凹部によるフランジ部の剛性低下を抑制できるとともに、締結した時のフランジ部の内部応力の起点を凹部に効果的に作り出すことができる。
【0019】
締結部材において、凹部は、最も外径側の部位において座面に最も近くなる形状を有している。これにより、凹部によるフランジ部の剛性低下を抑制できる。
【0020】
締結部材において、凹部は、径方向においてはフランジ部のうち最も内径側の部位である最内径部と、当接面のうち最も径方向外側で被締結部材と当接する部位である最外当接部との間に位置し、軸方向においてはフランジ部のうち最も外径側の部位である最外径部と、フランジ部のうち最も内径側の部位である最内径部との間に位置している。これにより、凹部によるフランジ部の剛性低下を抑制できるとともに、締結した時のフランジ部の内部応力の起点を凹部に効果的に作り出すことができる。
【0021】
締結部材において、凹部は、最内径部と最外当接部との間の径方向距離を二等分し且つ軸方向と平行な仮想線と重合する位置に配置されている。これにより、凹部によるフランジ部の剛性低下を抑制できるとともに、締結した時のフランジ部の内部応力の起点を凹部に効果的に作り出すことができる。
【0022】
締結部材において、内側傾斜面および外側傾斜面は、軸方向断面において直線状をなすテーパ形状に形成される。これにより、フランジ部のうち、剛性への寄与度が大きい径方向内側の部位の肉厚を効果的に大きくできるとともに、フランジ部のうち、軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を効果的に抑制できる。
【0023】
(実施形態1)
1.締結構造1の構成
実施形態1における締結構造1について、
図1~
図3を参照して説明する。締結構造1は、第1締結部材10を用いて、自動車の足回り部品を構成するリヤアブソーバを自動車のボデーに締結する構造である。
【0024】
本実施形態における締結構造1は、
図1に示すように、第1締結部材10、第2締結部材20、第1被締結部材30、および第2被締結部材40を備える。締結構造1は、第1締結部材10と第2締結部材20とを用いて、第1被締結部材30と第2被締結部材40とを締結する。本実施形態においては、第1被締結部材30は、自動車のボデーを構成する鋼板であり、第2被締結部材40は、自動車のリヤアブソーバを自動車のボデーに固定するためのブラケットである。
【0025】
図1に示すように、第1締結部材10は、ねじ形成部11と座面形成部12とを有するボルトである。本実施形態においては、第1締結部材10は、ねじ径(呼び径)が10mmのボルトである。ねじ形成部11は、雄ねじ11aが形成された軸状の軸部である。座面形成部12は、ボルトの頭部であり、第2被締結部材40に当接する座面12aを有している。座面形成部12は、ねじ形成部11と同軸状に配置されており、ねじ形成部11よりも径方向寸法が大きくなっている。ねじ形成部11の雄ねじ11aは、
図1に示すように、ねじ形成部11の中間部のみに形成されるようにしても良いし、図示しないが、ねじ形成部11の全長に亘って形成されるようにしても良い。
【0026】
第1締結部材10は、フランジ付きボルトである。すなわち、第1締結部材10の座面形成部12は、フランジ付き頭部である。具体的には、座面形成部12は、頭部本体121とフランジ部122とを備える。本実施形態においては、頭部本体121は、六角頭部を構成しているが、頭部本体121は、六角形以外の形状としても良いし、穴付頭部を構成しても良い。フランジ部122は、座面形成部12のうち座面12a側の部位から全周に亘って径方向外側に拡がる形状を有し、第2被締結部材40に圧縮力を作用させる。座面形成部12の座面12aは、頭部本体121の底面およびフランジ部122の底面によって連続的に構成されている。
【0027】
本実施形態においては、座面形成部12の頭部本体121の二面幅(頭部本体121の内接円の直径)が、ねじ形成部11の直径よりも大きい。また、座面形成部12のフランジ部122の直径が、ねじ形成部11の直径および頭部本体121の二面幅よりも大きい。
【0028】
第2締結部材20は、第1締結部材10の雄ねじ11aに螺合する雌ねじが形成されたナットである。本実施形態においては、第2締結部材20は、第1被締結部材30に予め溶接にて固定されるウェルドナットである。第2締結部材20として、第1被締結部材30とは別体のフランジ付きナットや、第1被締結部材30とは別体のフランジのないナット等が用いられていてもよい。
【0029】
2.第1締結部材10の座面形成部12の詳細構成
以下では、座面形成部12の座面12aのうち最も径方向外側で第2被締結部材40と当接する部位を最外当接部122aと言う。
図2に示すように、フランジ部122のうち座面12a側の部位であって、最外当接部122aよりも径方向外側の部位は、第1締結部材10を鋳造成形する際に形成される面取部122bとなっている。
【0030】
フランジ部122のうち座面12aとは反対側の面は、全体として、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて座面12a側に近づくように傾斜している。以下では、フランジ部122のうち座面12aとは反対側の面を傾斜面と言う。
【0031】
フランジ部122の傾斜面には、内側傾斜面122c、外側傾斜面122dおよび凹部122eが形成されている。内側傾斜面122cは、頭部本体121に接続されている。外側傾斜面122dは、内側傾斜面122cよりも径方向外側に位置している。つまり、内側傾斜面122cは、フランジ部122の傾斜面において径方向内側の部位を構成し、外側傾斜面122dは、フランジ部122の傾斜面において径方向外側の部位を構成している。
【0032】
以下では、座面12aに対する傾斜角度であって鋭角である角度を、単に傾斜角度と言う。外側傾斜面122dの傾斜角度は、内側傾斜面122cの傾斜角度よりも大きくなっている。内側傾斜面122cの傾斜角度は20°~30°が好ましく、外側傾斜面122dの傾斜角度は35°~50°が好ましい。本実施形態においては、内側傾斜面122cの傾斜角度は25°であり、外側傾斜面122dの傾斜角度は40°である。
【0033】
本実施形態においては、外側傾斜面122dはフランジ部122の最外径部122fまで形成されている。フランジ部122の最外径部122fと座面12aとの間には所定の厚みt1が設けられている。
【0034】
外側傾斜面122dの傾斜角度を内側傾斜面122cの傾斜角度よりも大きくすることで、フランジ部122のうち、剛性への寄与度が大きい頭部本体121側の部位の肉厚を大きくしてフランジ部122の剛性を高めつつ、フランジ部122のうち、軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を抑制して第1締結部材10の重量増加を抑制することができる。
【0035】
凹部122eは、フランジ部122の傾斜面に凹状に形成されている。凹部122eは、フランジ部122の全周に亘って環状に形成されている。本実施形態においては、凹部122eは、内側傾斜面122cと外側傾斜面122dとの境界部に配置されている。換言すれば、凹部122eは、径方向内側において内側傾斜面122cに接続され、径方向外側において外側傾斜面122dに接続されている。
【0036】
本実施形態においては、凹部122eは、フランジ部122の傾斜面に段差状に形成されている。凹部122eは、フランジ部122の傾斜面を断面L字状に切り欠いた形状を有している。具体的には、凹部122eは、内側傾斜面122cとの接続部122gから第1締結部材10の軸方向Yと略平行に延びる壁面と、外側傾斜面122dとの接続部122hから第1締結部材10の軸方向Yと略直交する方向に延びる底面とで構成されている。これにより、凹部122eは、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて座面12aに近づき、最も外径側の部位において座面12aに最も近くなっている。
【0037】
凹部122eは、
図2において、二点鎖線で示す仮想矩形S1の内側の領域に配置されている。具体的には、凹部122eは、第1締結部材10の径方向においては、フランジ部122の最内径部122iと最外当接部122aとの間に配置され、第1締結部材10の軸方向Yにおいては、フランジ部122の最内径部122iと最外径部122fとの間に配置されている。
【0038】
本実施形態においては、凹部122eは、フランジ部122の最内径部122iと最外当接部122aとの間の径方向距離を二等分し且つ軸方向Yと平行な仮想線L1と重合する位置に配置されている。
【0039】
フランジ部122に凹部122eを形成することで、第1締結部材10と第2締結部材20とで第1被締結部材30と第2被締結部材40とを締結した時のフランジ部122の内部応力の起点を凹部122eに作り出すことができる。これにより、フランジ部122の内部応力の起点がフランジ部122の最内径部122iのみにある場合と比較して、第2被締結部材40を第1被締結部材30から引き剥がそうとする外力が第2被締結部材40の最外径部に作用したときのモーメントを小さくすることができる。そのため、第1締結部材10と第2締結部材20とによる第1被締結部材30と第2被締結部材40との締結を強固にすることができる。
【0040】
3.締結構造1の解析
締結構造1に関する解析について、
図3を参照して説明する。本実施形態に対応する解析例1の解析結果を
図3(a)に示し、解析例2の解析結果を
図3(b)に示し、解析例3の解析結果を
図3(c)に示す。
【0041】
解析例1~3で用いられた解析モデルは、第1締結部材10と第1被締結部材30と第2被締結部材40とを含む3次元モデルである。
【0042】
図3(a)に示す解析例1では、内側傾斜面122cの傾斜角度が25°であり、外側傾斜面122dの傾斜角度が40°であり、凹部122eが形成されている解析モデルが用いられている。
【0043】
図3(b)に示す解析例2では、フランジ部122の傾斜面の傾斜角度が変化することなく25°で一定であり、フランジ部122に本実施形態の凹部122eが形成されていない解析モデルが用いられている。
【0044】
図3(c)に示す解析例3では、フランジ部122の傾斜面の傾斜角度が変化することなく25°で一定であり、フランジ部122に本実施形態と同様の凹部122eが形成されている解析モデルが用いられている。
【0045】
解析例1~3で用いた解析モデルでは、第1被締結部材30を構造用鋼とし、第2被締結部材40をアルミ合金とし、第1締結部材10についてはヤング率を206GPaとし、ポアソン比を0.3とし、降伏応力を1017MPaとしている。
【0046】
図3(a)~(c)に示す解析例1~3の解析結果は、これらの解析モデルにおいて、第1締結部材10が発生する軸力を38.6kNとし、第2被締結部材40の最外径部に、第2被締結部材40を第1被締結部材30から引き剥がそうとする方向の8.4kNの荷重を付与した場合における軸方向応力のコンター図で示されており、応力が大きいほど濃い色で表されている。
【0047】
図3(b)に示す解析例2と
図3(c)に示す解析例3とを比較することにより、凹部122eによる軸方向応力に対する作用効果がわかる。
図3(c)に示す解析例3と
図3(a)に示す解析例1とを比較することにより、外側傾斜面122dの傾斜角度を内側傾斜面122cの傾斜角度よりも大きくすることの作用効果がわかる。
【0048】
図3(b)に示す解析例2では、フランジ部122において軸方向応力の起点がフランジ部122の最内径部122iに形成されているが、フランジ部122の径方向外側部位に伝えられる軸方向応力は小さくなっている。
【0049】
これに対し、
図3(c)に示す解析例3では、凹部122eが形成されていることによって、フランジ部122において軸方向応力の起点がフランジ部122の最内径部122iのみならず凹部122eにも形成されているので、解析例2と比較してフランジ部122の径方向外側部位に伝えられる軸方向応力が大きくなっている。しかしながら、
図3(c)に示す解析例3では、凹部122eよりも径方向外側では、フランジ部122の傾斜面の近傍に伝えられる軸方向応力は解析例2と比較してほぼ変化がなく小さいままである。
【0050】
そこで、
図3(a)に示す解析例1では、外側傾斜面122dの傾斜角度を内側傾斜面122cの傾斜角度よりも大きくすることによって、凹部122eよりも径方向外側において軸方向応力が小さい部分を除肉して軽量化を図っている。以上のことから、本実施形態に対応する解析例1によると、重量を極力増加させることなく第1被締結部材30と第2被締結部材40との締結を強固にすることができることがわかる。
【0051】
4.作用効果
本実施形態における第1締結部材10によれば、第1締結部材10のフランジ部122の外側傾斜面122dは内側傾斜面122cよりも傾斜角度が大きくなっているので、フランジ部122のうち剛性への寄与度が大きい頭部本体121側の部位の肉厚を大きくしてフランジ部122の剛性を高めつつ、フランジ部122のうち軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を抑制して第1締結部材10の重量増加を抑制することができる。したがって、第1締結部材10の重量の増加を抑制しつつ第1締結部材10による締結を強固にすることができる。
【0052】
本実施形態における第1締結部材10によれば、内側傾斜面122cと外側傾斜面122dとの間で傾斜角度が変化する部位は、最外当接部122aよりも径方向内側に位置している。これにより、フランジ部122のうち軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を効果的に抑制できる。
【0053】
本実施形態における第1締結部材10によれば、内側傾斜面122cにおける傾斜角度は20°~30°であり、外側傾斜面122dにおける傾斜角度は35°~50°である。これにより、フランジ部122のうち剛性への寄与度が大きい頭部本体121側の部位の肉厚を効果的に大きくできるとともに、フランジ部122のうち軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を効果的に抑制できる。
【0054】
本実施形態における第1締結部材10によれば、フランジ部122の傾斜面に凹部122eが形成されているので、締結した時のフランジ部122の内部応力の起点を凹部122eに作り出すことができる。そのため、フランジ部122の内部応力の起点がフランジ部122の最内径部122iのみである場合と比較して締結を強固にすることができる。
【0055】
本実施形態における第1締結部材10によれば、凹部122eは、フランジ部122の最外当接部122aよりも径方向内側に位置している。これにより、凹部122eによって作り出された内部応力の起点によって第2被締結部材40に軸方向応力を効果的に作用させることができるので、締結をより強固にすることができる。
【0056】
本実施形態における第1締結部材10によれば、凹部122eは、段差を構成しており、フランジ部122の傾斜面を断面L字状に切り欠いた形状を有している。これにより、凹部122eによるフランジ部122の剛性低下を抑制できるとともに、締結した時のフランジ部122の内部応力の起点を凹部122eに効果的に作り出すことができる。
【0057】
本実施形態における第1締結部材10によれば、凹部122eは、最も外径側の部位において座面12aに最も近くなる形状を有している。これにより、凹部122eによるフランジ部122の剛性低下を抑制できる。
【0058】
本実施形態における第1締結部材10によれば、凹部122eは、径方向においてはフランジ部122の最内径部122iと最外当接部122aとの間に位置し、軸方向においてはフランジ部122の最外径部122fと最内径部122iとの間に位置している。これにより、凹部122eによるフランジ部122の剛性低下を抑制できるとともに、締結した時のフランジ部122の内部応力の起点を凹部122eに効果的に作り出すことができる。
【0059】
本実施形態における第1締結部材10によれば、凹部122eは、最内径部122iと最外当接部122aとの間の径方向距離を二等分し且つ軸方向と平行な仮想線L1と重合する位置に配置されている。これにより、凹部122eによるフランジ部122の剛性低下を抑制できるとともに、締結した時のフランジ部122の内部応力の起点を凹部122eに効果的に作り出すことができる。
【0060】
本実施形態における第1締結部材10によれば、内側傾斜面122cおよび外側傾斜面122dは、軸方向断面において直線状をなすテーパ形状に形成される。これにより、フランジ部122のうち、剛性への寄与度が大きい径方向内側の部位の肉厚を効果的に大きくできるとともに、フランジ部122のうち、軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を効果的に抑制できる。
【0061】
(実施形態2)
上記実施形態1では、凹部122eは、フランジ部122の傾斜面を断面L字状に切り欠いた形状を有しているが、本実施形態2では、
図4に示すように、フランジ部122の傾斜面に形成された凹部122kは、フランジ部122の傾斜面を円弧状に切り欠いた形状を有している。
【0062】
フランジ部122の軸方向断面において、外側傾斜面122dとの接続部122hにおける凹部122kの接線(図示せず)は座面12aと平行になっている。これにより、凹部122kは、径方向内側から径方向外側に向かうにつれて座面12aに近づき、最も外径側の部位において座面12aに最も近くなっている。
【0063】
本実施形態2においても、上記実施形態1と同様に、フランジ部122の傾斜面に凹部122kが形成されているので、締結した時のフランジ部122の内部応力の起点を凹部122kに作り出すことができる。そのため、フランジ部122の内部応力の起点がフランジ部122の最内径部122iのみである場合と比較して締結を強固にすることができる。
【0064】
(実施形態3)
上記実施形態1~2では、フランジ部122の傾斜面に内側傾斜面122c、外側傾斜面122dおよび凹部122e、122kが形成されているが、本実施形態3では、
図5に示すように、フランジ部122の傾斜面には凹部122e、122kが形成されておらず内側傾斜面122cおよび外側傾斜面122dのみが形成されている。
【0065】
本実施形態においても、上記実施形態と同様に、内側傾斜面122cおよび外側傾斜面122dによる作用効果を奏することができる。すなわち、フランジ部122の外側傾斜面122dは内側傾斜面122cよりも傾斜角度が大きくなっているので、フランジ部122のうち剛性への寄与度が大きい頭部本体121側の部位の肉厚を大きくしてフランジ部122の剛性を高めつつ、フランジ部122のうち軸方向応力が小さい径方向外側部位の肉厚の増加を抑制して第1締結部材10の重量増加を抑制することができる。したがって、第1締結部材10の重量の増加を抑制しつつ第1締結部材10による締結を強固にすることができる。
【0066】
(実施形態4)
上記実施形態1では、第1締結部材10はフランジ付きボルトであり、第2締結部材20はナットであり、第1締結部材10のフランジ部122の傾斜面に内側傾斜面122c、外側傾斜面122dおよび凹部122eが形成されている。これに対し、本実施形態4では、
図6に示すように、第1締結部材50はフランジ付きナットであり、第2締結部材60はボルトであり、第1締結部材50のフランジ部522の傾斜面に、実施形態1と同様の内側傾斜面、外側傾斜面および凹部が形成されている。
【0067】
第2締結部材60は、第1被締結部材30に予め溶接にて固定されるウェルドボルトであってもよいし、第1被締結部材30とは別体のフランジ付きボルトや、第1被締結部材30とは別体のフランジのないボルト等が用いられていてもよい。
【0068】
第1締結部材50は、ねじ形成部51と座面形成部52とを有する。ねじ形成部51は第1締結部材50のうち中心軸側の部位を構成している。ねじ形成部51には、雌ねじ51aが形成されている。座面形成部52は、第1締結部材50のうち外周側の部位を構成している。座面形成部52には、第2被締結部材40に当接する座面52aが形成されている。座面形成部52は、ナット本体521とフランジ部522とを備える。本実施形態においては、ナット本体521は六角柱形状を有している。
【0069】
フランジ部522は、座面形成部52のうち座面52a側の部位から全周に亘って径方向外側に拡がる形状を有し、第2被締結部材40に圧縮力を作用させる。座面形成部52の座面52aは、ナット本体521の底面およびフランジ部522の底面によって連続的に構成されている。
【0070】
フランジ部522のうち座面52aとは反対側の面には、実施形態1と同様に内側傾斜面、外側傾斜面および凹部が形成されている。内側傾斜面、外側傾斜面および凹部の具体的構成は実施形態1と同様であるので詳細説明を省略する。
【0071】
本実施形態4においても、第1締結部材50のフランジ部522に実施形態1と同様の内側傾斜面、外側傾斜面および凹部が形成されているので、実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0072】
(他の実施形態)
上記実施形態では、第1締結部材および第2締結部材のうち第1締結部材のみに内側傾斜面、外側傾斜面および凹部が形成されているが、第1締結部材および第2締結部材の両方に内側傾斜面、外側傾斜面および凹部が形成されていてもよい。
【0073】
上記実施形態では、フランジ部の傾斜面に内側傾斜面および外側傾斜面が形成されていてフランジ部の傾斜面の傾斜角度が径方向内側から径方向外側に向かうにつれて2段階に変化するが、フランジ部の傾斜面の傾斜角度が3段階以上に変化しても良い。フランジ部の傾斜面の傾斜角度が3段階以上である場合、凹部の両隣に位置する2つの傾斜面の傾斜角度は必ずしも互いに異なっている必要はなく、凹部の両隣に位置する2つの傾斜面の傾斜角度は互いに同じになっていても良い。
【0074】
上記実施形態では、フランジ部の内側傾斜面および外側傾斜面の傾斜角度がそれぞれ一定であり、軸方向断面で見ると内側傾斜面および外側傾斜面が直線状であるが、内側傾斜面および外側傾斜面の少なくとも一方の傾斜角度が一定でなく変化していても良い。すなわち、軸方向断面で見たときに内側傾斜面および外側傾斜面の少なくとも一方が曲線状であっても良い。
【符号の説明】
【0075】
10,50 第1締結部材
11,51 ねじ形成部
12,52 座面形成部
12a,52a 座面
122,522 フランジ部
122a 最外当接部
122c 内側傾斜面
122d 外側傾斜面
122e,122k 凹部
122f 最外径部
122i 最内径部
40 第2被締結部材(被締結部材)
L1 仮想線