(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025093195
(43)【公開日】2025-06-23
(54)【発明の名称】ブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 29/08 20060101AFI20250616BHJP
【FI】
H02K29/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208784
(22)【出願日】2023-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 知弘
【テーマコード(参考)】
5H019
【Fターム(参考)】
5H019BB01
5H019BB05
5H019BB15
5H019BB20
5H019BB22
5H019CC03
(57)【要約】
【課題】磁気センサによる回転角度検出精度が向上し、且つ、磁気誘導部材を支持する部材が不要となるブラシレスモータを提供する。
【解決手段】ロータ40は、ロータコア41、及び、ロータコア41の周方向に極性が交互となる複数の磁極を構成する複数のロータマグネット48を有する。ロータ40は、コイル26への通電によって発生する回転磁界によりシャフト14を中心として回転する。磁気センサ31は、ロータコア41の端面からロータ40の軸方向に離れた位置でステータ20に対し固定された基板33に設けられ、ロータマグネット48の磁気の変化に基づきロータ40の回転角度を検出する。磁気誘導部材501は、ロータコア41の端面に当接する底部52、及び、底部52から磁気センサ31に向かって立設された軸方向延長部55pを有する。磁気誘導部材55pは、ロータマグネット48の磁気を磁気センサ31に誘導する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に配置された複数のティース(24)にコイル(26)が巻回されてなり、隣接する前記ティースの間にスロット(25)が形成されているステータ(20)と、
ロータコア(41)、及び、前記ロータコアの周方向に極性が交互となる複数の磁極を構成する複数のロータマグネット(48)を有し、前記コイルへの通電によって発生する回転磁界によりシャフト(14)を中心として回転するロータ(40)と、
前記ロータコアの端面から前記ロータの軸方向に離れた位置で前記ステータに対し固定された基板(33)に設けられ、前記ロータマグネットの磁気の変化に基づき前記ロータの回転角度を検出する一つ以上の磁気センサ(31、32)と、
前記ロータコアの端面に当接する底部(52)、及び、前記底部から前記磁気センサに向かって立設された軸方向延長部(55p、55c)を有し、前記ロータマグネットの磁気を前記磁気センサに誘導する磁気誘導部材(501~508)と、
を備えるブラシレスモータ。
【請求項2】
前記磁気誘導部材は、前記底部と前記軸方向延長部とが一体に形成されている請求項1に記載のブラシレスモータ。
【請求項3】
前記磁気誘導部材は、前記底部または前記軸方向延長部の少なくとも一方において、周方向に隣接する前記ロータマグネット同士の間に、複数の極間スリット(54、56)が形成されている請求項1に記載のブラシレスモータ。
【請求項4】
前記磁気誘導部材は、前記底部において前記ロータマグネットの端面に重なる部分の少なくとも一部に、複数のマグネットスリット(53)が形成されている請求項1に記載のブラシレスモータ。
【請求項5】
前記磁気誘導部材の前記軸方向延長部は、前記ロータマグネットの数と等しい側面を有する多角柱状に形成されている請求項1に記載のブラシレスモータ。
【請求項6】
前記ロータの周方向をロータ周方向と定義し、前記ロータの径方向をロータ径方向と定義すると、
ロータ周方向における前記ロータマグネットの中心を通る仮想平面(Smc)において、前記磁気センサの中心(Cs)は、前記磁気誘導部材の前記軸方向延長部に対し、ロータ径方向における前記ステータとは反対側に配置されている請求項1~5のいずれか一項に記載のブラシレスモータ。
【請求項7】
少なくとも一つの前記磁気センサは、前記ステータの周方向における前記スロットの中心を含む仮想平面(Ssc)にまたがって配置されている請求項1~5のいずれか一項に記載のブラシレスモータ。
【請求項8】
前記ステータのコイルに3相電流が通電されるブラシレスモータにおいて、複数の前記磁気センサが設けられており、第2の前記磁気センサ(32)は、第1の前記磁気センサ(31)に対し電気角120°または240°の位置に配置されている請求項1~5のいずれか一項に記載のブラシレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ回転に伴うロータマグネットの磁気変化を磁気センサにより検出することで、回転角度を検出するブラシレスモータが知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されたブラシレスモータは、ロータマグネット側から磁気センサ側へ延び、ロータマグネットから発生する磁気を基板に実装された磁気センサに誘導する棒状の磁気誘導部材を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のブラシレスモータは、棒状の磁気誘導部材がロータの径方向においてステータのコイルに重なって配置されている。そのため、誘導される磁気がコイル通電時に発生する磁界の影響を受け、回転角度検出精度が低下するという問題がある。また、磁気誘導部材を支持する別部材が必要なため、部品点数が増加しコストが増加する。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、磁気センサによる回転角度検出精度が向上し、且つ、磁気誘導部材を支持する部材が不要となるブラシレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるブラシレスモータは、ステータ(20)と、ロータ(40)と、一つ以上の磁気センサ(31、32)と、磁気誘導部材(501~508)と、を備える。ステータは、周方向に配置された複数のティース(24)にコイル(26)が巻回されてなり、隣接するティースの間にスロット(25)が形成されている。
【0008】
ロータは、ロータコア(41)、及び、ロータコアの周方向に極性が交互となる複数の磁極を構成する複数のロータマグネット(48)を有する。ロータは、コイルへの通電によって発生する回転磁界によりシャフト(14)を中心として回転する。
【0009】
磁気センサは、ロータコアの端面からロータの軸方向に離れた位置でステータに対し固定された基板(33)に設けられ、ロータマグネットの磁気の変化に基づきロータの回転角度を検出する。
【0010】
磁気誘導部材は、ロータコアの端面に当接する底部(52)、及び、底部から磁気センサに向かって立設された軸方向延長部(55p、55c)を有する。磁気誘導部材は、ロータマグネットの磁気を磁気センサに誘導する。
【0011】
本発明では、磁気誘導部材の軸方向延長部はロータの径方向においてステータから離れて配置されるため、コイルの通電時に発生する磁界の影響を受けにくい。したがって、磁気センサによる回転角度検出精度が向上する。また、磁気誘導部材の底部がロータコアの端面に当接して固定されるため、磁気誘導部材を支持する別部材が不要となり、部品点数及びコストが低減する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態のブラシレスモータの軸方向全体断面図。
【
図2】
図1のII-II線(機械角360°範囲)の模式平面図。
【
図3】
図2のIII部(機械角90°範囲)を拡大した模式平面図。
【
図7】比較例のブラシレスモータの軸方向模式断面図。
【
図8】第2実施形態のブラシレスモータの模式平面図。
【
図9】第3実施形態のブラシレスモータの模式平面図。
【
図10】第4実施形態のブラシレスモータの、磁気センサを記した模式平面図。
【
図12】第5実施形態のブラシレスモータの模式平面図。
【
図14】第6実施形態のブラシレスモータの軸方向模式断面図。
【
図15】その他の実施形態(1)の軸方向模式断面図。
【
図16】その他の実施形態(2)の軸方向模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ブラシレスモータの複数の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の第1~第6実施形態を包括して「本実施形態」という。本実施形態のブラシレスモータは、車両の補機等に適用され、磁気センサにより回転角度が検出される。
【0014】
(第1実施形態)
図1~
図6を参照し、第1実施形態のブラシレスモータ101の構成及び作用効果について説明する。最初に
図1、
図2を参照し、ブラシレスモータ101の全体構成について説明する。
図1に、ブラシレスモータ101の軸方向断面を示す。
図1の紙面上方を上と表すと、
図1には軸方向断面の上部のみを示し、下部を省略する。
図2は
図1の断面図に相当するが、本明細書では
図2及び
図3に類する以下の各図を、ロータ40の端面上方から視た平面図とみなし、「模式平面図」と記す。
【0015】
ブラシレスモータ101は、ステータ20と、ステータ20の径方向内側でシャフト14を中心として回転するロータ40とを備えるインナーロータ式モータである。ブラシレスモータ101の外郭は、上プレート11及び筒状のケース12で構成されている。上プレート11に固定されたベアリング13は、シャフト14の上部を回転可能に支持する。なお、シャフト14の下部は、図示しない別のベアリングにより回転可能に支持される。
【0016】
ステータ20及びロータ40は、シャフト14の回転軸Oに対して同軸に設けられている。ステータ20の外壁はケース12の内壁に固定されている。ロータ40はシャフト14に固定され、シャフト14と一体に回転する。ブラシレスモータ101の駆動を制御する素子等が実装された基板33は、例えば上プレート11の下面に固定されている。したがって、基板33は、間接的にステータ20に対して固定されている。
【0017】
ステータ20のステータコア21は、環状のバックヨーク23と、周方向に配置され、バックヨーク23から径方向内側に突出する複数のティース24とを有する。ステータコア21は、例えば薄板状の磁性鋼板が積層されて形成されている。ステータ20は、複数のティース24にコイル26が巻回されてなる。隣接するティース24の間にはスロット25が形成されている。
【0018】
本実施形態のステータ20は、12個のティース24を有し、各ティース間に12個のスロット25が形成されている。ステータ20のコイル26には3相電流が通電される。つまり、U相、V相、W相の3相巻線が巻回された3個1組のティース24が周方向に4組設けられている。
【0019】
ロータ40は、ロータコア41、及び、ロータコア41の周方向に極性が交互となる複数の磁極を構成する複数のロータマグネット48を有する。ロータコア41は、例えば薄板状の磁性鋼板が積層されて形成されている。ロータコア41の外壁とティース24の先端部の内壁との間にはエアギャップδが設けられている。ロータ40は、コイル26への通電によって発生する回転磁界によりシャフト14を中心として回転する。
【0020】
詳しくは、ロータ40は、直方体状のロータマグネット48がロータコア41の角孔に埋め込まれたIPM構造をなしている。周方向に隣接するロータマグネット48の間には突極部44が形成されている。本実施形態のロータ40は、8個のロータマグネット48を有している。つまり、本実施形態で例示されるブラシレスモータ101は「8極(4極対)12スロット」のIPMモータである。
【0021】
また、ブラシレスモータ101は、基板33に設けられた一つ以上の磁気センサ31を備える。
図1に示されるのは第1の磁気センサ31である。ただし、
図5を参照して後述するように本実施形態では基本的に二つの磁気センサ31、32が設けられる。基板33は、ロータコア41の端面からロータ40の軸方向に離れた位置でステータ20に対し固定されている。磁気センサ31、32は、ロータマグネット48の磁気の変化に基づきロータ40の回転角度を検出する。
【0022】
詳しくは、各磁気センサ31、32は、一対の磁極対につき一周期の正弦波を基本波とするセンサ信号をマイコン等の信号処理装置に出力する。信号処理装置は、磁気センサ31、32のセンサ信号に基づき、ロータ40の回転角度を演算する。しかし、磁気センサ31、32がロータマグネット48の磁気を十分に検知できないと、回転角度検出精度が低下する。そこでブラシレスモータ101は、ロータマグネット48の磁気を磁気センサ31、32に誘導する磁気誘導部材501を備える。
【0023】
ところで、磁気を磁気センサに誘導する磁気誘導部材は、特許文献1(特開2017-143727号公報)に開示されている。しかし、特許文献1の従来技術では、棒状の磁気誘導部材がロータの径方向においてステータのコイルに重なって配置されている。そのため、誘導される磁気がコイル通電時に発生する磁界の影響を受け、回転角度検出精度が低下するという問題がある。また、磁気誘導部材を支持する別部材が必要なため、部品点数が増加しコストが増加する。
【0024】
そこで本実施形態では、コイル26の通電時に発生する磁界の影響を磁気センサ31、32が受けにくい構成とすることで、回転角度検出精度の向上を図る。また、磁気誘導部材501を支持する部材を不要とすることで、部品点数やコストの低減を図る。そのための構成として、磁気誘導部材501は、底部52及び軸方向延長部55pを有する。
【0025】
続いて
図3~
図6を参照し、磁気誘導部材501の詳細な構成及び作用効果について説明する。
図3に、
図2のIII部に相当する機械角90°範囲の模式平面図を示す。第2~第6実施形態では、
図3の書式が援用される。また、
図3のIV視方向の周方向展開図を
図4に示す。
【0026】
磁気誘導部材501は、ロータコア41の端面42に当接する底部52、及び、底部52から磁気センサ31、32に向かって立設された軸方向延長部55pを有する。ロータマグネット48の磁気の一部は、磁気センサ31、32に向かって空気中を直接伝播し、他の一部は、軸方向延長部55pに誘導され、軸方向延長部55pの先端から磁気センサ31、32に伝播する。
【0027】
底部52と軸方向延長部55pとは、磁性鋼板等の材料で、例えばプレス加工により一体に形成されている。底部52の中心には、シャフト14の外径に締まり嵌めで嵌合する内径を有する孔が空いている。底部52の中心孔がシャフト14に圧入されることで、磁気誘導部材501はロータコア41に固定される。なお、他の実施形態ではシャフト14への圧入に限らず、ロータコア41の端面42への加締め等によって磁気誘導部材501がロータコア41に固定されてもよい。
【0028】
本実施形態では、磁気誘導部材501の軸方向延長部559はロータ40の径方向においてステータ20から離れて配置されるため、コイル26の通電時に発生する磁界の影響を受けにくい。したがって、磁気センサ31、32による回転角度検出精度が向上する。また、磁気誘導部材501の底部52がロータコア41の端面42に当接して固定されるため、磁気誘導部材を支持する別部材が不要となり、部品点数及びコストが低減する。
【0029】
磁気誘導部材501の軸方向延長部55pは、ロータマグネット48の数と等しい側面を有する多角柱状に形成されている。多角柱状の軸方向延長部55pはプレス加工等での製作が容易である。8個のロータマグネット48を有する本実施形態のロータ40では、軸方向延長部55pは八角柱状に形成されている。実質的に軸方向延長部55pは、各辺の長さが等しく、各辺の中心角が45°である正八角柱状に形成されている。軸方向延長部55pにおける八角柱の一つの側面をなす平板部を「軸方向延長部55pの単位板」という。軸方向延長部55pの各単位板は、ロータマグネット48の端面における長辺に沿って配置されている。
【0030】
底部52において、周方向に隣接するロータマグネット48同士の間に、複数の極間スリット54が形成されている。また、軸方向延長部55pにおいて、周方向に隣接するロータマグネット48同士の間に、複数の極間スリット56が形成されている。極間スリット56が軸方向延長部55pの上端から下端まで形成されることで、各単位板は互いに隔離して配置される。極間スリット54、56は、回転軸Oを中心とする放射線に沿って形成されている。これにより、周方向に隣接する極性が異なる磁極間での漏れ磁束が低減されるため、より多くの磁気を磁気センサ31、32に誘導することができる。よって、回転角度検出精度が向上する。
【0031】
なお、他の実施形態では、底部52の極間スリット54、又は、軸方向延長部55pの極間スリット56のうち少なくとも一方が形成されればよい。底部52または軸方向延長部55pの少なくとも一方において磁極間での漏れ磁束が低減されることで、多少なりとも多くの磁気を磁気センサ31、32に誘導することができる。
【0032】
さらに第1実施形態では、底部52の極間スリット54は、折れ点Fより径方向内側では幅が一定であり、折れ点Fより径方向外側では回転軸Oから離れるほど幅が広がる拡幅部54wをなしている。極間スリット54の最小幅は、ロータコア41とティース24とのエアギャップδよりも大きい。拡幅部54wの内壁は、ロータマグネット48の短辺に平行である。8極構成での拡幅部54wは、中心線Mに対し片側22.5°、両側45°の傾きで広がる。
【0033】
軸方向延長部55pの単位板の周方向幅W1は、ロータマグネット48の長辺の長さaに両端のマージンd×2を加えた値となる(W1=a+d×2)。後述する第2実施形態に比べて軸方向延長部55pの単位板の周方向幅が短くなるため、軸方向延長部55pの径方向位置をロータコア41の外径に近づけることができ、設計自由度が高まる。
【0034】
また、底部52においてロータマグネット48の端面に重なる部分に、複数のマグネットスリット53が形成されている。ロータマグネット48の端面は、マグネットスリット53を通して露出する。これにより、磁気誘導部材501での漏れ磁束が少なくなるため、より多くの磁気を磁気センサ31、32に誘導することができる。よって、回転角度検出精度が向上する。
【0035】
図示の都合上、ロータマグネット48の輪郭(隠線)を表す破線とマグネットスリット53の輪郭を表す実線とは僅かにずらして記載されている。実際には、マグネットスリット53の輪郭がロータマグネット48の輪郭に一致するように、同形状に形成されることが好ましい。ただし、必ずしもロータマグネット48の端面に重なる部分の全部でなく、ロータマグネット48の端面に重なる部分の少なくとも一部にマグネットスリット53が形成されてもよい。なお、ロータマグネット48の長手方向の両端に図示された破線は、角孔の逃がしとなる空隙を表している。
【0036】
次に
図5、
図6を参照し、基板33に実装された磁気センサ31、32の配置について説明する。
図5には、第1の磁気センサ31及び第2の磁気センサ32を模式的に丸印で示すが、実際の形状を示すものではない。第1の磁気センサ31を基準として、第2の磁気センサ32は、実線で示す位置、又は、破線で示す位置のいずれか一方に配置される。
【0037】
ここで、ステータ20の周方向におけるスロット25の中心を含む仮想平面をスロット中心平面Sscと定義する。また、ロータ40の周方向(以下「ロータ周方向」)におけるロータマグネット48の中心を通る仮想平面をロータマグネット中心平面Smcと定義する。8極12スロットの構成では、機械角30°毎にスロット中心平面Sscが現れ、機械角45°毎にロータマグネット中心平面Smcが現れる。
図5に示すロータ回転位置では、一部のスロット中心平面Sscと一部のロータマグネット中心平面Smcとが一致している。
【0038】
ステータ20の周方向において、第1の磁気センサ31及び第2の磁気センサ32は、それぞれスロット中心平面Sscにまたがって配置されている。好ましくは、各磁気センサ31、32の周方向の中心がスロット中心平面Ssc上にあるように配置されている。これにより、磁気センサ31、32とコイル26との周方向距離が大きくなるため、磁気センサ31、32に誘導される磁気の歪みが小さくなり、回転角度検出精度が向上する。
【0039】
また、磁気センサ31、32の相対配置について、第2の磁気センサ32は、第1の磁気センサ31に対し電気角120°の位置に配置されている。磁極数8、すなわち極対数4の場合、機械角90°(=360°/4)が電気角360°に相当し、電気角120°は機械角30°に相当する。電気角の正負の方向は任意に定義されるものとし、第2の磁気センサ32は、第1の磁気センサ31に対し時計回り方向又は反時計回り方向のどちら側に配置されてもよい。また、第2の磁気センサ32は、第1の磁気センサ31に対し電気角240°すなわち機械角60°の位置に配置されてもよい。
【0040】
コイル26に3相電流が通電されるブラシレスモータでは、磁気センサ31、32のセンサ信号の基本波に3n次高調波成分(nは整数)が重畳する。そこで、電気角120°又は240°位相がずれた二つの磁気センサ31、32のセンサ信号の差分を取ることで、3n次高調波成分をキャンセルすることができる。この技術は、例えば特開2019-158374号公報に開示されている。また、磁気センサ31、32から信号処理装置への信号ラインにノイズが入った場合でも、二つのセンサ信号の差分を取ることで、ラインノイズを低減することができる。
【0041】
図6に、ロータマグネット中心平面Smcでの軸方向模式断面を示す。以下の軸方向模式断面図には第1の磁気センサ31を図示し、明細書の説明では「磁気センサ31」として記載する。ただし、磁気センサ31、32は、回転軸Oを中心とする同一円周上に配置されているため、第2の磁気センサ32に対しても同様に適用される。
【0042】
ロータマグネット中心平面Smcにおいて、軸方向延長部55pは、回転軸Oとの距離が最短となる。言い換えれば、軸方向延長部55pは最も径方向内側に位置する。この位置において、磁気センサ31の中心Csは、磁気誘導部材501の軸方向延長部55pの位置Exに対し、ロータ40の径方向(以下「ロータ径方向」)における「ステータ20とは反対側」に配置されている。インナーロータ式モータでは、磁気センサ31の中心Csは、軸方向延長部55pの位置Exに対し径方向内側に配置される。
【0043】
磁気センサ31をコイル26から遠ざけることで、コイル26の通電時に発生する磁界の影響を磁気センサ31が受けにくくなる。したがって、磁気センサ31に誘導される磁気の歪みが小さくなり、回転角度検出精度が向上する。なお、磁気センサ31を径方向内側に寄せすぎると、軸方向延長部55pからの磁気を検出できなくなる。そのため、コイル26からの影響をなるべく受けずに磁気を検出可能な最適位置に磁気センサ31が配置されることが好ましい。
【0044】
以上のように第1実施形態のブラシレスモータ101は、ロータマグネット48の磁気を磁気センサ31、32に誘導する磁気誘導部材501を備えることで、コイル26の磁界による磁気歪みの影響を小さくし、回転角度検出精度が向上する。
【0045】
また、磁気誘導部材501が軸方向延長部55pを有することで、磁気センサ31、32の軸方向位置の自由度が向上し、表面実装型の磁気センサを使用可能となる。
図7に、磁気誘導部材を用いない比較例のブラシレスモータ109の磁気センサ取付構造を示す。比較例では、磁気センサ39は、支持部材であるホルダ38を介して基板33に挿入実装されている。ホルダ38の部品点数が増加し、組付工数がかかり、磁気センサ39の取付位置もばらつく。
【0046】
比較例に対し第1実施形態では、表面実装型の磁気センサを使用することで、部品点数及びコストが低減し、基板33への実装が容易となり、磁気センサ31、32の取付位置のばらつきも抑制される。したがって、回転角度検出精度及びコストの点で優位となる。
【0047】
続いて、第1実施形態に対し、磁気誘導部材の形状や磁気センサの配置等が異なる複数の実施形態について、主に第1実施形態との相違点を中心に説明する。各実施形態のブラシレスモータの符号は、「10」に続く3桁目、磁気誘導部材の符号は、「50」に続く3桁目にそれぞれ実施形態の番号を付す。複数の実施形態で第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
(第2実施形態)
図8に、第2実施形態のブラシレスモータ102の模式平面図を示す。第2実施形態の磁気誘導部材502は、第1実施形態に対し、底部52の極間スリット54に拡幅部54wが無く、極間スリット54が一定幅のストレート状に形成されている。そのため、第2実施形態の軸方向延長部55pの単位板の周方向幅W2は、第1実施形態の軸方向延長部55pの単位板の周方向幅W1よりも大きい(W2>W1)。第2実施形態では極間スリット54の加工が第1実施形態よりも単純になる。
【0049】
(第3実施形態)
図9に、第3実施形態のブラシレスモータ103の模式平面図を示す。第3実施形態の磁気誘導部材503は、第1実施形態に対し、底部52にマグネットスリット53が形成されていない。底部52の下側に隠れるロータマグネット48は破線で示される。ロータマグネット48の磁気は、磁性体で形成された底部52に伝達され、底部52から空気中又は軸方向延長部55pを経由して磁気センサ31、32に誘導される。例えば底部52の板厚が薄く、底部52での漏れ磁束が僅かである場合、このような構成としてもよい。
【0050】
(第4実施形態)
図10、
図11に、第4実施形態のブラシレスモータ104の模式平面図及び軸方向模式断面図を示す。第4実施形態の磁気誘導部材504は、底部52、及び、円柱状の軸方向延長部55cを有する。
図6と同様に
図11には、ロータ周方向におけるロータマグネット中心平面Smcでの断面を示すが、軸方向延長部55cが円柱状であるため、ロータ周方向の位置にかかわらず、軸方向延長部55cの位置Exは一定となる。磁気センサ31の中心Csは、磁気誘導部材504の軸方向延長部55cの位置Exに対し、ロータ径方向における「ステータ20とは反対側」に配置されている。よって、第1実施形態と同様に、コイル26の磁界による磁気センサ31への影響を低減することができ、回転角度検出精度が向上する。
【0051】
図10の例では、底部52にマグネットスリット53が形成されているが、底部52の極間スリット54、及び、軸方向延長部55cの極間スリット56は形成されていない。この例の他、円柱状の軸方向延長部55cを有する磁気誘導部材において、マグネットスリット53又は極間スリット54、56の有無によるバリエーションを設定可能である。
【0052】
(第5実施形態)
図12、
図13に、第5実施形態のブラシレスモータ105の模式平面図及び周方向展開図を示す。第4実施形態に対し第5実施形態では、磁気誘導部材505の底部52に極間スリット54が形成されており、且つ、軸方向延長部55cに極間スリット56が形成されている。軸方向延長部55cの極間スリット56は上端に開放されておらず、上部が連結部565により連結されている。
【0053】
第5実施形態では第1~第3実施形態と同様に、隣接するロータマグネット48間の漏れ磁束を極間スリット54、56により低減し、より多くの磁気を磁気センサ31、32に誘導することができる。また、極間スリット56の上部を連結することで、漏れ磁束の低減効果は多少犠牲になるものの、プレス加工時や組付時における軸方向延長部55cの変形が抑制され、作業性が向上する。
【0054】
(第6実施形態)
図14に、第6実施形態のブラシレスモータ106の軸方向模式断面図を示す。
図6に示す第1実施形態に対し第6実施形態では、ロータマグネット中心平面Smcにおいて、磁気センサ31の中心Csは、磁気誘導部材506の軸方向延長部55pの位置Exに対し、ロータ径方向におけるステータ20側に配置されている。インナーロータ式モータでは、磁気センサ31の中心Csは、軸方向延長部55pの位置Exに対し径方向外側に配置される。例えばコイル26と磁気センサ31との軸方向距離が比較的大きく、磁気センサ31がコイル26の磁気の影響を受けにくい場合、このように構成されてもよい。
【0055】
(その他の実施形態)
(a)
図15、
図16に、磁気誘導部材の形状に関するその他の形態を示す。
図15、
図16には円柱状の軸方向延長部55cを例示する。また、図示の形態に限らず、一部品で形成されても、複数の部品が組み合わされて構成されてもよい。
【0056】
図15に示すその他の実施形態(1)のブラシレスモータ107では、磁気誘導部材507は、底部52に設けられた突起部52cがロータコア41の表面に形成された凹部41pに加締められることによりロータコア41に固定される。そのため、底部52の内縁はシャフト14の外周に当接しなくてもよい。また磁気誘導部材507は、軸方向延長部55cの上端部から磁気センサ31に向かって径方向に延びる径方向延長部57をさらに有する。
【0057】
(b)
図16に示すその他の実施形態(2)のブラシレスモータ108では、磁気誘導部材508は、軸方向延長部55cに加えて第2の軸方向延長部58を有する。第2の軸方向延長部58は、ロータマグネット48の径方向内側で底部52から立設する有する。ロータマグネット48の磁気は、二つの軸方向延長部55c、58を経由して磁気センサ31に誘導される。磁気誘導部材508は、例えば軸方向断面がL字状の2種類のプレス部品が溶接されて形成される。
【0058】
(c)軸方向延長部55p、55cは、各軸方向断面図に示されるようにシャフト14と平行に、すなわち底部52から垂直に立設されるとは限らず、シャフト14に対して傾斜して立設されもよい。
【0059】
(d)上記実施形態に例示した8極12スロットの他、ブラシレスモータの磁極数及びスロット数はいくつでもよい。また、3相以外の多相モータに適用されてもよい。磁気センサ31、32の検出信号に重畳される3次以外のk次高調波成分をキャンセルしたい場合、二つの磁気センサ31、32は、電気角(360/k)°の倍数の位置に配置されることが好ましい。
【0060】
(e)3n次高調波成分の重畳が許容される場合等、一つの磁気センサ31のみを備える構成としてもよい。また、磁気センサの故障に対する信頼性を高めるため、三つ以上の磁気センサが冗長的に備えられてもよい。
【0061】
(f)本発明のブラシレスモータは、インナーロータ式に限らず、アウターロータ式モータにも適用可能である。ロータマグネット中心平面Smcにおける磁気センサの中心Csと軸方向延長部55p、55cとのロータ径方向の位置関係(
図6、
図14等参照)について、アウターロータ式モータでは、径方向内側がステータ側に相当し、径方向外側が「ステータとは反対側」に相当する。
【0062】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0063】
「前記磁気誘導部材は、前記底部または前記軸方向延長部の少なくとも一方において、周方向に隣接する前記ロータマグネット同士の間に、複数の極間スリット(54、56)が形成されているブラシレスモータ。」についての開示は、それ以前に記載されたどのブラシレスモータについての開示と組み合わされてもよい。
【0064】
「前記磁気誘導部材は、前記底部において前記ロータマグネットの端面に重なる部分の少なくとも一部に、複数のマグネットスリット(53)が形成されているブラシレスモータ。」についての開示は、それ以前に記載されたどのブラシレスモータについての開示と組み合わされてもよい。
【0065】
「前記磁気誘導部材の前記軸方向延長部は、前記ロータマグネットの数と等しい側面を有する多角柱状に形成されているブラシレスモータ。」についての開示は、それ以前に記載されたどのブラシレスモータについての開示と組み合わされてもよい。
【0066】
「少なくとも一つの前記磁気センサは、前記ステータの周方向における前記スロットの中心を含む仮想平面(Ssc)にまたがって配置されているブラシレスモータ。」についての開示、及び、「前記ステータのコイルに3相電流が通電されるブラシレスモータにおいて、複数の前記磁気センサが設けられており、第2の前記磁気センサ(32)は、第1の前記磁気センサ(31)に対し電気角120°または240°の位置に配置されているブラシレスモータ。」についての開示は、「前記ロータの周方向をロータ周方向と定義し、前記ロータの径方向をロータ径方向と定義すると、ロータ周方向における前記ロータマグネットの中心を通る仮想平面(Smc)において、前記磁気センサの中心(Cs)は、前記磁気誘導部材の前記軸方向延長部に対し、ロータ径方向における前記ステータとは反対側に配置されているブラシレスモータ。」についての開示と組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0067】
101~108・・・ブラシレスモータ、 14・・・シャフト、
20・・・ステータ、 24・・・ティース、 25・・・スロット、
26・・・コイル、
31・・・(第1の)磁気センサ、 32・・・(第2の)磁気センサ、
33・・・基板、
40・・・ロータ、 48・・・ロータマグネット、
501~508・・・磁気誘導部材、
52・・・底部、 55p、55c・・・軸方向延長部。