(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009338
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】エポキシ系絶縁材料用処理剤
(51)【国際特許分類】
C09D 9/00 20060101AFI20250110BHJP
【FI】
C09D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112270
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃平
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038RA02
4J038RA04
4J038RA13
4J038RA16
(57)【要約】
【課題】一態様において、エポキシ系絶縁材料の除去加工性に優れる処理剤を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、有機溶剤(成分A)を含有し、成分Aのハンセン溶解度パラメータ値(HSP値)がδD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径10MPa0.5の球の範囲内である、エポキシ系絶縁材料用処理剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤(成分A)を含有し、
成分Aのハンセン溶解度パラメータ値(HSP値)がδD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径10MPa0.5の球の範囲内である、エポキシ系絶縁材料用処理剤。
【請求項2】
成分Aが、混合有機溶剤であり、前記混合有機溶剤は、HSP値がδD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径10MPa0.5の球の範囲外である化合物を含む、請求項1に記載の処理剤。
【請求項3】
成分AのHSP値がδD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径5MPa0.5の球の範囲内である、請求項1又は2に記載の処理剤。
【請求項4】
成分Aは、アミド類、ケトン類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から3のいずれかに記載の処理剤。
【請求項5】
成分Aは、環状アミド類、環状ケトン類及びジアルキルグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から4のいずれかに記載の処理剤。
【請求項6】
成分Aは、N-メチル-2-ピロリドン及びイソホロンの少なくとも一方を含む、請求項1から5のいずれかに記載の処理剤。
【請求項7】
水(成分B)をさらに含有し、
成分Bの含有量は、2質量%以上25質量%以下である、請求項1から6のいずれかに記載の処理剤。
【請求項8】
エポキシ系絶縁材料を有する基板からエポキシ系絶縁材料の少なくとも一部を除去及び/又は加工することを含む処理方法であって、
エポキシ系絶縁材料を有する基板に請求項1から7のいずれかに記載の処理剤を接触させることを含む処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エポキシ系絶縁材料用処理剤及びこれを用いる処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや各種電子デバイスにおいては、低消費電力化、処理速度の高速化、小型化が進み、これらに搭載されるパッケージ基板などの配線は年々微細化が進んでいる。
このような微細配線並びにピラーやバンプといった接続端子形成にはこれまでメタルマスク法が主に用いられてきたが、汎用性が低いことや配線等の微細化への対応が困難になってきたことから、他の新たな方法へと変わりつつある。
新たな方法の一つとして、ドライフィルムレジストをメタルマスクに代えて厚膜樹脂マスクとして使用する方法が知られている。この樹脂マスクは最終的に剥離・除去されるが、その際にアルカリ性の剥離用洗浄剤が使用される。
【0003】
半導体素子は、半導体基板上にレジストを塗布し、露光・現像によりパターンを形成し、次いで該レジストパターンをマスクとし非マスク領域の半導体基板のエッチングを行い、微細回路を形成した後、上記フォトレジストを半導体基板上から剥離して、あるいは同様にして微細回路を形成した後、アッシングを行い残存するレジスト残渣物を半導体基板上から剥離することにより得られる。
例えば、特許文献1には、有機膜パターン(レジストパターン)の加工処理を行う基板処理方法が提案されている。同文献(請求項55等)には、加熱処理後の有機膜パターンを、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種を含む有機溶液を用いて溶解変形処理することが記載されている。
特許文献2には、ポリシランを含有するレジストを使用したパターン形成方法が提案されている。同文献(請求項10等)には、加熱処理後の有機珪素化合物膜を有機溶媒で溶解除去することが記載されている。
特許文献3には、非感光性ポリイミド前駆体とアクリル系モノマーと光開始剤とを含む感光性樹脂を露光、現像して絶縁膜パターンを形成する方法が提案されている。同文献(請求項2等)には、現像にはN-メチル-2-ピロリドン等を含む現像液を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-72059号公報
【特許文献2】特開平9-15864号公報
【特許文献3】特開平7-84373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体パッケージの高密度化及び高性能化が進んでおり、基板上に絶縁層と金属層とを交互に積層した多層基板が用いられるようになってきている。多層基板の製造過程において、未硬化(硬化前)の絶縁層を加工処理することがある。多層基板には複数層の絶縁層が含まれているため、絶縁層を加工しやすい処理剤が望まれる。また、近年では、絶縁層にエポキシ系絶縁材料が使用されるようになってきており、エポキシ系絶縁材料を効率よく除去して加工しやすい処理剤、とりわけ、未硬化(硬化前)のエポキシ系絶縁材料の除去加工性に優れた処理剤が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、エポキシ系絶縁材料の除去加工性に優れる処理剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、有機溶剤(成分A)を含有し、成分Aのハンセン溶解度パラメータ値(HSP値)がδD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径10MPa0.5の球の範囲内である、エポキシ系絶縁材料用処理剤に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、本開示の処理剤を用いて、エポキシ系絶縁材料を有する基板からエポキシ系絶縁材料の少なくとも一部を除去及び/又は加工することを含む処理方法であって、エポキシ系絶縁材料を有する基板に本開示の処理剤を接触させることを含む処理方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、エポキシ系絶縁材料の除去加工性に優れる処理剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、特定のHSP値を有する有機溶剤を用いることで、基板上のエポキシ系絶縁材料を効率よく除去でき、エポキシ系絶縁材料の加工がしやすくなるという知見に基づく。
【0011】
本開示は、一態様において、有機溶剤(成分A)を含有し、成分Aのハンセン溶解度パラメータ値(HSP値)がδD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径10MPa0.5の球の範囲内である、エポキシ系絶縁材料用処理剤(以下、「本開示の処理剤」ともいう)に関する。
本開示において、エポキシ系絶縁材料の処理とは、エポキシ系絶縁材料、好ましくは未硬化(硬化前)のエポキシ系絶縁材料の除去及び/又は加工のしやすさを向上することを含む。本開示において、処理対象のエポキシ系絶縁材料は、一又は複数の実施形態において、未硬化(硬化前)のエポキシ系絶縁材料である。
【0012】
本開示によれば、エポキシ系絶縁材料の除去加工性に優れる処理剤を提供できる。そして、本開示の処理剤を用いることで、高品質の半導体素子回路の製造が可能になる。
【0013】
本開示の効果発現の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。
本開示では、特定のHSP値を有する有機溶剤(成分A)が、エポキシ系絶縁材料の内部に浸透することで、表面や内部の乱反射が抑制されて透明化すると考えられる。エポキシ系絶縁材料は、特定のHSP値を有する有機溶剤(成分A)が浸透した状態になると、超音波照射などの機械力で容易に分散可能になり、エポキシ系絶縁材料の除去加工性が高まると考えられる。また、硬化前のエポキシ系絶縁材料の方が、硬化後のエポキシ系絶縁材料よりも有機溶剤(成分A)の浸透が有利であり、機械力での分散性、除去加工性が高くなると考えられる。
但し、本開示はこのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
[成分A:有機溶剤]
本開示の処理剤は、有機溶剤(以下、「成分A」ともいう)を含有する。成分Aは1種でもよいし、2種以上の組合せ(混合有機溶剤)でもよい。
【0015】
成分Aのハンセン溶解度パラメータ値(HSP値)は、δD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径10MPa0.5の球の範囲内である。成分AのHSP値は、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、δD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とし、好ましくは半径5MPa0.5の球の範囲内、より好ましくは半径3MPa0.5の球の範囲内、更に好ましくは半径1MPa0.5の球の範囲内である。
【0016】
ここで、ハンセン溶解度パラメータ (Hansen solubility parameter)(HSP)とは、Charles M. Hansenが1967年に発表した、物質の溶解性の予測に用いられる値であって、「分子間の相互作用が似ている2つの物質は、互いに溶解しやすい」との考えに基づくパラメータである。HSPは以下の3つのパラメータ(単位:MPa0.5)で構成されている。
δD:分子間の分散力によるエネルギー
δP:分子間の双極子相互作用によるエネルギー
δH:分子間の水素結合によるエネルギー
これら3つのパラメータは3次元空間(ハンセン空間)における座標とみなすことができ、2つの物質のHSPをハンセン空間内に置いたとき、2点間の距離が近ければ近いほど互いに溶解しやすいことを示している。化学工業2010年3月号(化学工業社)等に詳細な説明があり、パソコン用ソフト「HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice」等を用いることで各種物質のハンセン溶解度パラメータを得ることができる。本開示は、このパソコン用ソフト「HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice」を用いて得られたハンセン溶解度パラメータを用いている。成分Aが2種以上の混合有機溶剤である場合、混合有機溶剤としてのHSPの距離については、「HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice」の混合有機溶剤のHSP算出機能を用いて算出できる。
本開示における成分AのHSPの座標は、下記のように表現することもできる。すなわち、成分AのHSPの座標を(δDA、δPA、δHA)としたとき、該成分AのHSPの座標(δDA、δPA、δHA)と成分座標X(δD=17.0、δP=9.0、δH=7.5)との距離R(単位:MPa0.5)が下記式を満たすものとすることができる。
距離R=[4(δDA-17.0)2+(δPA-9.0)2+(δHA-7.5)2]0.5
≦10MPa0.5
【0017】
上記HSP値を有する有機溶剤としては、例えば、上記HSP値を有する、アミド類、ケトン類、グリコールエーテル類、アルコール類、含硫黄化合物、及び、含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
上記HSP値を有するアミド類としては、例えば、上記HSP値を有する環状アミド類が挙げられる。上記環状アミド類としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)(距離R:3.87MPa0.5)等が挙げられる。
上記HSP値を有するケトン類としては、例えば、上記HSP値を有する環状ケトン類が挙げられる。上記環状ケトン類としては、例えば、イソホロン(距離R:2.69MPa0.5)が挙げられる。
上記HSP値を有するグリコールエーテル類としては、例えば、上記HSP値を有するモノアルキルグリコールエーテル、上記HSP値を有するジアルキルグリコールエーテル等が挙げられる。上記モノアルキルグリコールエーテルとしては、例えば、フェニルトリグリコール(トリエチレングリコールモノフェニルエーテル)(距離R:3.68MPa0.5)、ヘキシルジグリコール(ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル)(距離R:4.39MPa0.5)等が挙げられる。上記ジアルキルグリコールエーテルとしては、例えば、ジブチルジグリコール(ジエチレングリコールジブチルエーテル)(距離R:5.82MPa0.5)等が挙げられる。
上記HSP値を有するアルコール類としては、例えば、上記HSP値を有する芳香族アルコールが挙げられる。上記HSP値を有する芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール(距離R:7.32MPa0.5)等が挙げられる。
上記HSP値を有する含硫黄化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)(距離R:8.36MPa0.5)等が挙げられる。
【0018】
成分Aは、一又は複数の実施形態において、上記HSP値を有する、アミド類、ケトン類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、上記HSP値を有する、環状アミド類、環状ケトン類及びジアルキルグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、上記HSP値を有する、環状アミド類及び環状ケトン類から選ばれる少なくとも1種を含むことが更に好ましく、NMP(距離R:3.87MPa0.5)及びイソホロン(距離R:2.69MPa0.5)の少なくとも一方を含むことが更に好ましい。
【0019】
本開示における成分Aは、一又は複数の実施形態において、上記HSP値を有する有機溶剤を2種以上組み合わせた混合有機溶剤である。
本開示における成分Aは、その他の一又は複数の実施形態において、上記HSP値を有する有機溶剤と、上記HSP値を有する有機溶剤以外の有機溶剤とを含む混合有機溶剤である。成分Aが上記HSP値を有する有機溶剤以外の有機溶剤を含んでいても、混合有機溶剤全体のHSP値が上述した範囲内であれば、本開示の効果は発揮されうる。上記HSP値を有する有機溶剤以外の有機溶剤としては、例えば、トリエチレングリコール(距離R:11.81MPa0.5)、N-メチルジエタノールアミン(距離R:10.13MPa0.5)等が挙げられる。
成分Aが混合有機溶剤である場合、混合有機溶剤のHSP値は、混合有機溶剤を構成する各有機溶剤のHSP値と混合比率とから算出できる。
【0020】
本開示の実施形態において、成分Aは混合有機溶剤であり、前記混合有機溶剤は、HSP値がδD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径10MPa0.5の球の範囲外である化合物を含むことが好ましい。その様に混合して使用することによってそれ自体では有機溶剤として有効に利用できなかった化合物をも有機溶剤(成分A)の成分として利用できる。
【0021】
成分A中の上記HSP値を有する有機溶剤の含有量は、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、そして、引火性抑制の観点から、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、成分A中の上記HSP値を有する有機溶剤の含有量は、60質量%以上95質量%以下が好ましく、70質量%以上93質量%以下がより好ましく、80質量%以上90質量%以下が更に好ましい。
成分Aが上記HSP値を有するアミド類、ケトン類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種を含む場合、本開示の処理剤中の上記HSP値を有するアミド類の含有量は、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、そして、引火性抑制の観点から、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の処理剤中の上記HSP値を有するアミド類の含有量は、30質量%以上95質量%以下が好ましく、50質量%以上93質量%以下がより好ましく、70質量%以上90質量%以下が更に好ましい。
成分Aが上記HSP値を有するアミド類、ケトン類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種を含む場合、本開示の処理剤中の上記HSP値を有するケトン類の含有量は、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましく、そして、引火性抑制の観点から、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の処理剤中の上記HSP値を有するケトン類の含有量は、30質量%以上95質量%以下が好ましく、40質量%以上93質量%以下がより好ましく、50質量%以上90質量%以下が更に好ましい。
成分Aが上記HSP値を有するアミド類、ケトン類及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種を含む場合、本開示の処理剤中の上記HSP値を有するグリコールエーテル類の含有量は、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、そして、引火性抑制の観点から、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の処理剤中の上記HSP値を有するグリコールエーテル類の含有量は、5質量%以上95質量%以下が好ましく、10質量%以上93質量%以下がより好ましく、15質量%以上90質量%以下が更に好ましい。
【0022】
本開示の処理剤中の成分Aの含有量は、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、そして、引火性抑制の観点から、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の処理剤中の成分Aの含有量は、60質量%以上95質量%以下が好ましく、70質量%以上93質量%以下がより好ましく、80質量%以上90質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せである場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0023】
本開示において「処理剤中の各成分の含有量」とは、使用時、すなわち、エポキシ系絶縁材料の処理への使用を開始する時点での処理剤中の各成分の含有量することができる。
本開示の処理剤中の各成分の含有量は、一又は複数の実施形態において、本開示の処理剤中の各成分の配合量とみなすことができる。
【0024】
[成分B:水]
本開示の処理剤は、一又は複数の実施形態において、水(以下、「成分B」ともいう)をさらに含有してもよいし、その他の一又は複数の実施形態において、水を含有しなくてもよい。成分Bとしては、一又は複数の実施形態において、イオン交換水、RO水、蒸留水、純水、超純水等が挙げられる。
【0025】
本開示の処理剤が成分Bを含有する場合、本開示の処理剤中の成分Bの含有量は、成分A及び任意成分(後述するその他の成分)を除いた残余とすることができる。
本開示の処理剤が成分Bを含有する場合、本開示の処理剤中の成分Bの含有量は、引火性などの安全性の観点から、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、そして、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、25質量%以下が好ましく、23質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の処理剤中の成分Bの含有量は、2質量%以上25質量%以下が好ましく、5質量%以上23質量%以下がより好ましく、10質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0026】
[その他の成分]
本開示の処理剤は、一又は複数の実施形態において、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分をさらに含有することができる。その他の成分としては、例えば、成分A以外の溶剤、防食剤、安定化剤、pH調整剤、粘度調整剤等が挙げられる。
【0027】
[処理剤の製造方法]
本開示の処理剤は、一又は複数の実施形態において、成分A及び必要に応じて上述の任意成分(成分Bその他の成分)を公知の方法で配合することにより製造できる。例えば、本開示の処理剤は、少なくとも前記成分Aを配合してなるものとすることができる。したがって、本開示は、少なくとも前記成分Aを配合する工程を含む、処理剤の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A及び必要に応じて上述した任意成分(成分B、その他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。成分Aが2種以上の有機溶剤(混合有機溶剤)からなる場合、各有機溶剤は同時に又はそれぞれ別々に配合できる。本開示の処理剤の製造方法において、各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の処理剤の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0028】
[被処理物]
本開示の処理剤は、一又は複数の実施形態において、エポキシ系絶縁材料を有する基板(被処理物)からエポキシ系絶縁材料の少なくとも一部を除去及び/又は加工するために使用される。
被処理物としては、一又は複数の実施形態において、表面にエポキシ系絶縁材料層を有する基板、表面に金属層及びエポキシ系絶縁材料層を有する基板等が挙げられる。
前記エポキシ系絶縁材料層は、一又は複数の実施形態において、エポキシ系絶縁材料を含む絶縁層であればよい。エポキシ系絶縁材料層の厚みは、例えば、10~100μmが挙げられる。エポキシ系絶縁材料層は、一又は複数の実施形態において、未硬化(加熱処理されていない)のエポキシ系絶縁材料層である。
前記基板としては、例えば、フィルム基材(フィルム基板)が挙げられ、フィルム基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート基板(PET基板)等が挙げられる。金属層を有する基板としては、例えば、金属層のパターンが形成された基板等が挙げられる。
前記金属層は、一又は複数の実施形態において、銅めっき層である。銅めっき層は、例えば、無電解銅めっき法により形成することができる。前記金属層の厚さとしては、例えば、3μm以上30μm以下が挙げられる。
【0029】
被処理物としては、例えば、エポキシ系絶縁材料を有する電子部品及びその製造中間物が挙げられる。電子部品としては、例えば、プリント基板、ウエハ、銅板及びアルミニウム板等の金属板から選ばれる少なくとも1つの部品が挙げられる。前記製造中間物は、電子部品の製造工程における中間製造物である。
【0030】
[処理方法]
本開示は、一態様において、エポキシ系絶縁材料を有する基板(被処理物)からエポキシ系絶縁材料の少なくとも一部を除去及び/又は加工することを含む処理方法であって、エポキシ系絶縁材料を有する基板(被処理物)に本開示の処理剤を接触させることを含む処理方法(以下、「本開示の処理方法」ともいう)に関する。被処理物としては、上述した被処理物を挙げることができる。本開示の処理方法によれば、エポキシ系絶縁材料の除去加工性を向上できる。
【0031】
本開示の処理剤を用いて被処理物からエポキシ系絶縁材料の少なくとも一部を除去及び/又は加工する方法、又は、被処理物に本開示の処理剤を接触させる方法としては、例えば、処理剤を入れた浴槽内へ浸漬することで接触させる方法、処理剤をスプレー照射する方法が挙げられる。
浸漬条件及びスプレー照射条件としては、例えば、浸漬又はスプレー照射するときの処理剤の温度は、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、40℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましく、そして、臭気等の使用性の観点から、70℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、60℃以下が更に好ましい。浸漬時間及びスプレー照射時間は、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、15秒以上が好ましく、20秒以上がより好ましく、30秒以上が更に好ましく、そして、生産効率の観点から、5分以下が好ましく、3分以下がより好ましく、1分以下が更に好ましい。スプレー照射するときのスプレー圧力は、エポキシ系絶縁材料への浸透性向上、及びエポキシ系絶縁材料の除去加工性向上の観点から、例えば、0.05MPa以上0.3MPa以下が挙げられる。
【0032】
本開示の処理方法は、本開示の処理剤の除去処理力(除去加工性)が発揮されやすい点から、本開示の処理剤と被処理物との接触時に超音波を照射することが好ましく、その超音波は比較的高周波数であることがより好ましい。前記超音波の照射条件は、同様の観点から、例えば、26~72kHz、80~1500Wが好ましく、36~72kHz、80~1500Wがより好ましい。
【0033】
本開示の処理方法は、一又は複数の実施形態において、処理剤に被処理物を接触させた後、水又はアルコールでリンスし、乾燥する工程を含むことができる。本開示の処理方法は、一又は複数の実施形態において、処理剤に被処理物を接触させた後、水又はアルコールですすぐ工程を含むことができる。
【実施例0034】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0035】
1.有機溶剤の物性(HSP座標及び距離)について
有機溶剤のHSPの座標(δD1、δP1、δH1)は、パソコン用ソフトウエア「HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice」を用いて算出した。そして、有機溶剤のHSP座標(δD1、δP1、δH1)と成分座標(δD=17.0、δP=9.0、δH=7.5)との距離Rを下記式により算出した。結果を表1に示す。
距離R=[4(δD1-17.0)2+(δP1-9.0)2+(δH1-7.5)2]0.5
【0036】
【0037】
2.実施例1~7及び比較例1の処理剤の調製
表2~4に示す各成分を表2~4に記載の配合量(質量%、有効分)で配合し、それを攪拌して混合することにより、実施例1~7及び比較例1の処理剤を調製した。
【0038】
実施例1~7及び比較例1の処理剤の調製には、下記のものを使用した。
(成分A)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)[富士フィルム和光純薬株式会社]
イソホロン[富士フィルム和光純薬株式会社]
ジブチルジグリコール[日本乳化剤株式会社]
ベンジルアルコール[富士フィルム和光純薬株式会社]
ジメチルスルホキシド(DMSO)[富士フィルム和光純薬株式会社]
フェニルトリグリコール[日本乳化剤株式会社]
ヘキシルジグリコール[日本乳化剤株式会社]
N-メチルジエタノールアミン[日本乳化剤株式会社]
トリエチレングリコール[富士フィルム和光純薬株式会社]
(成分B)
水[オルガノ株式会社製純水装置G-10DSTSETで製造した1μS/cm以下の純水]
【0039】
3.処理剤の評価
調製した実施例1~7及び比較例1の処理剤について下記評価を行った。
【0040】
[評価用テストピース]
テストピースは、50mm×50mmのサイズで、フィルム基材(ポリエチレンテレフタレート基板)上に未硬化(硬化前)のエポキシ系絶縁材料層(厚み:25μm)が形成されたもの(未硬化のエポキシ系絶縁材料層を有する基板)である。
【0041】
[浸透性評価]
テストピースを60℃に加熱した処理剤に浸漬しながら目視観察を行い、以下の基準で評価した。結果を表2~4に示した。
<評価基準>
A:エポキシ系絶縁材料が30秒未満で透明になる
B:エポキシ系絶縁材料が30秒以上60秒未満で透明になる
C:エポキシ系絶縁材料が60秒以上でも透明にならないが、30秒未満で半透明になる
D:エポキシ系絶縁材料が60秒以上でも透明にならず、30秒以上でも半透明にすらならない
【0042】
[除去加工性評価]
テストピースを50℃に加熱した処理剤に40kHz、360Wの超音波を照射しながら30秒間浸漬した後、エタノールを5秒間かけ流してリンス、静置乾燥を行い、以下の基準で評価した。結果を表2に示した。
<評価基準>
A:8割以上の面積のエポキシ系絶縁材料が除去される
B:5割以上、8割未満の面積のエポキシ系絶縁材料が除去される
C:2割以上、5割未満の面積のエポキシ系絶縁材料が除去される
D:エポキシ系絶縁材料が2割未満しか除去されない
【0043】
[引火点評価]
JIS K2265-4で規定された方法にて試験を行い、引火点の有無を評価した。結果を表4に示した。
【0044】
【0045】
表2に示すとおり、有機溶剤のHSP値がδD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径10MPa0.5の球の範囲内である実施例1は、有機溶剤のHSP値がδD=17.0、δP=9.0、δH=7.5を中心とする半径10MPa0.5の球の範囲内ではない比較例1に比べて、浸透性に優れ、除去加工性に優れていることがわかった。
【0046】
【0047】
表3に示すとおり、NMP又はイソホロンを含む実施例2~3は、NMP又はイソホロンを含まない実施例4~5に比べて、浸透性がより優れていたことから、NMP及びイソホロンの少なくとも一方を含む処理剤は除去加工性がより優れていると考えられる。
【0048】
【0049】
表4に示すとおり、水(成分B)を含有する実施例7は、引火点がなく、水(成分B)を含有しない実施例6に比べて、安全性に優れている。