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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009339
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】防汚性繊維構造物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 14/04 20060101AFI20250110BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20250110BHJP
   D06M 15/267 20060101ALI20250110BHJP
   D06M 15/27 20060101ALI20250110BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20250110BHJP
【FI】
D06M14/04
D06M15/263
D06M15/267
D06M15/27
D06M101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112271
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】田儀 陽一
(72)【発明者】
【氏名】荘司 拓海
(72)【発明者】
【氏名】谷嶋 美保
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広賢
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA02
4L033AB04
4L033AC04
4L033AC15
4L033CA18
4L033CA19
4L033CA20
(57)【要約】
【課題】CPB(濃厚ポリマーブラシ)の機能が付与された、付着した汚染物質を容易に除去しうる防汚性に優れた防汚性繊維構造物を提供する。
【解決手段】水酸基を有する多数の繊維で構成される繊維基材と、その片末端が前記繊維の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートを含む、繊維の表面に設けられたポリマー層と、を備え、ポリメタクリレートが、メタクリル酸アルカリ金属塩等のメタクリレートモノマーに由来する構成単位を有し、ポリマー層の平均厚さが、10~2,000nmであり、繊維の表面積に占める、ポリメタクリレートの断面積の割合が、10%以上であり、ポリメタクリレートの数平均分子量が10,000~3,000,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1~1.8であり、ポリマー層の表面の25℃における水との接触角が、90°未満である防汚性繊維構造物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有する多数の繊維で構成される繊維基材と、
その片末端が前記繊維の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートを含む、前記繊維の表面に設けられたポリマー層と、を備え、
前記ポリメタクリレートが、メタクリル酸アルカリ金属塩、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、第4級アンモニウム塩基含有メタクリレート、ベタイン構造含有メタクリレート、及びヒドロキシアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のメタクリレートモノマーに由来する構成単位を有し、
前記ポリマー層の平均厚さが、10~2,000nmであり、
前記繊維の表面積に占める、前記ポリメタクリレートの断面積の割合が、10%以上であり、
前記ポリメタクリレートの数平均分子量が10,000~3,000,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1~1.8であり、
前記ポリマー層の表面の25℃における水との接触角が、90°未満である防汚性繊維構造物。
【請求項2】
前記繊維が、セルロース系繊維である請求項1に記載の防汚性繊維構造物。
【請求項3】
前記ポリマー層の表面の25℃における水との接触角が、60°以下である請求項1に記載の防汚性繊維構造物。
【請求項4】
前記メタクリレートモノマーが、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートである請求項1に記載の防汚性繊維構造物。
【請求項5】
前記ポリマー層が、水性媒体を含有している請求項1に記載の防汚性繊維構造物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の防汚性繊維構造物の製造方法であって、
前記繊維基材に2-ブロモイソ酪酸ブロミド又は2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランを反応させ、前記繊維の表面に2-ブロモイソ酪酸エステル基を導入して開始基含有基材を得る工程と、
前記開始基含有基材の存在下、常圧~1,000MPaの圧力条件で前記メタクリレートモノマーを表面開始リビングラジカル重合して、その片末端が前記繊維の表面に結合してグラフト化した前記ポリメタクリレートを含む前記ポリマー層を前記繊維の表面に設ける工程と、
を有する防汚性繊維構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性繊維構造物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の改質方法として、基材と吸着又は反応しうる基をその末端に有するポリマーを基材に作用させることで、物理的又は化学的に結合したポリマー層を基材表面に設ける方法が知られている。また、基材表面に付与した重合性基を起点としてモノマーを重合させることで、基材表面からグラフトしたポリマー層を設ける方法も知られている。
【0003】
近年、1990年代に発展したリビングラジカル重合の技術を利用して基材上に高密度にグラフトされる、いわゆる「濃厚ポリマーブラシ」が研究されている。この濃厚ポリマーブラシ(以下、単に「CPB」とも記す)では、ビニル系モノマーを用いて形成されたポリマーの分子鎖が、1~4nm間隔の高密度で基板上にグラフトされている。すなわち、基材表面1nm当たりに0.1分子鎖以上のポリマーの末端が結合している。このようなCPBによって基材表面を改質したり、ポリマーの良溶剤でCPBを膨潤させたりすることによって、低摩擦性、タンパク質吸着抑制、非血液凝固性、生物付着防止性、サイズ排除特性、超親水性、超撥水性、過冷却特性、及び触感改良特性等の特徴的なCPBの機能が発揮され、これらの機能を基材に付与することができる。
【0004】
例えば、無機材料、プラスチック、及びフィルム等の工業製品を基材とし、これらの基材表面にCPBを付与することが検討されている(特許文献1及び2)。また、複数の単量体を含有する重合用の液体組成物を繊維布帛に付与して重合することによって得られる機能性繊維布帛が提案されている(特許文献3)。さらに、布帛を構成する糸にラジカル重合性モノマーをグラフトした、ガス消臭機能が付与された機能性布帛が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/198876号
【特許文献2】特開2019-65787号公報
【特許文献3】特開2006-45686号公報
【特許文献4】特開2013-155464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CPBは極低摩擦性を示すことから、トライボロジー分野において、摩擦によるエネルギーロスの削減等の省エネ化及び二酸化炭素削減等の環境問題への対応が期待される。また、CPBは低摩擦性、サイズ排除特性、タンパク質付着防止性、非血液凝固防止性、超親水性、及び超撥水性等の特定を示すことから、高性能な医療機器や高感度な診断薬等の提供が期待される。しかしながら、血液、タンパク質、及び動植物油脂等をはじめとする各種の汚染物質(汚れ)が付着したとしても、付着した汚染物質を容易に除去しうる、防汚性に優れた繊維構造物はこれまでに存在していなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、CPB(濃厚ポリマーブラシ)の機能が付与された、付着した汚染物質を容易に除去しうる防汚性に優れた防汚性繊維構造物を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の防汚性繊維構造物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す防汚性繊維構造物が提供される。
[1]水酸基を有する多数の繊維で構成される繊維基材と、その片末端が前記繊維の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートを含む、前記繊維の表面に設けられたポリマー層と、を備え、前記ポリメタクリレートが、メタクリル酸アルカリ金属塩、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、第4級アンモニウム塩基含有メタクリレート、ベタイン構造含有メタクリレート、及びヒドロキシアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のメタクリレートモノマーに由来する構成単位を有し、前記ポリマー層の平均厚さが、10~2,000nmであり、前記繊維の表面積に占める、前記ポリメタクリレートの断面積の割合が、10%以上であり、前記ポリメタクリレートの数平均分子量が10,000~3,000,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1~1.8であり、前記ポリマー層の表面の25℃における水との接触角が、90°未満である防汚性繊維構造物。
[2]前記繊維が、セルロース系繊維である前記[1]に記載の防汚性繊維構造物。
[3]前記ポリマー層の表面の25℃における水との接触角が、60°以下である前記[1]又は[2]に記載の防汚性繊維構造物。
[4]前記メタクリレートモノマーが、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートである前記[1]~[3]のいずれかに記載の防汚性繊維構造物。
[5]前記ポリマー層が、水性媒体を含有している前記[1]~[4]のいずれかに記載の防汚性繊維構造物。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す防汚性繊維構造物の製造方法が提供される。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の防汚性繊維構造物の製造方法であって、前記繊維基材に2-ブロモイソ酪酸ブロミド又は2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランを反応させ、前記繊維の表面に2-ブロモイソ酪酸エステル基を導入して開始基含有基材を得る工程と、前記開始基含有基材の存在下、常圧~1,000MPaの圧力条件で前記メタクリレートモノマーを表面開始リビングラジカル重合して、その片末端が前記繊維の表面に結合してグラフト化した前記ポリメタクリレートを含む前記ポリマー層を前記繊維の表面に設ける工程と、を有する防汚性繊維構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、CPB(濃厚ポリマーブラシ)の機能が付与された、付着した汚染物質を容易に除去しうる防汚性に優れた防汚性繊維構造物を提供することができる。また、本発明によれば、上記の防汚性繊維構造物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の防汚性繊維構造物の一実施形態は、水酸基を有する多数の繊維で構成される繊維基材と、その片末端が繊維の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートを含む、繊維の表面に設けられたポリマー層とを備える繊維構造物である。ポリメタクリレートは、メタクリル酸アルカリ金属塩、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、第4級アンモニウム塩基含有メタクリレート、ベタイン構造含有メタクリレート、及びヒドロキシアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のメタクリレートモノマーに由来する構成単位を有する。ポリマー層の平均厚さは、10~2,000nmであり、繊維の表面積に占める、ポリメタクリレートの断面積の割合(専有面積率σ*)は、10%以上である。ポリメタクリレートの数平均分子量は10,000~3,000,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.1~1.8である。そして、ポリマー層の表面の25℃における水との接触角が、90°未満である。以下、本実施形態の防汚性繊維構造物の詳細について説明する。
【0012】
(繊維基材)
繊維基材は、CPBであるポリマー層がその表面に配設される繊維状の基材であり、水酸基を有する多数の繊維で構成されている。繊維としては、有機質繊維及び無機質繊維を挙げることができる。有機質繊維としては、セルロース繊維系、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、エチレンビニルアルコール系繊維、及びポリオレフィン系繊維等を挙げることができる。無機質繊維としては、ガラス繊維等を挙げることができる。これらの繊維や繊維基材は、表面処理されていてもよい。また、これらの繊維や繊維基材をプラズマ処理等することで、繊維に水酸基を付与してもよい。
【0013】
繊維基材を構成する水酸基を有する繊維は、セルロース系繊維であることが好ましい。すなわち、繊維基材は、多数のセルロース系繊維で構成されるセルロース系の繊維構造物であることが好ましい。セルロースは構造由来の水酸基を有するため、プラズマ処理等の処理を施さなくてもそのまま用いることが可能であり、工程簡略化及び品質均一化の観点で好ましい。また、セルロースは天然材料であるため、入手が容易であるとともに環境分解性でもあることから、カーボンニュートラルに寄与することができる。さらに、セルロースの表面には水酸基が多量に存在するため、ポリマーをより濃密に形成することができる。
【0014】
セルロース系繊維は、セルロースやセルロース誘導体で構成される繊維であり、植物繊維、再生繊維、及びアセテート等を挙げることができる。具体的には、綿や麻等の植物繊維;レーヨン、キュプラ、及びリヨセル等の再生繊維;セルロースを部分的にアセチル化したアセテート;等を用いることができる。また、セルロースを解繊して得られるセルロースファィバー、セルロースマイクロファィバー、及びセルロースナノファィバー等の極細繊維を用いることもできる。
【0015】
繊維の太さ、繊度、長さ、及び比重等の物性は特に限定されない。繊維の平均径は、1~100μmであることが好ましく、2~50μmであることがさらに好ましい。繊維の平均径が1μm以未満であると、形成されるポリマー層に対して細すぎることがあり、繊維構造物としての性能が維持されにくくなる場合がある。一方、繊維の平均径が100μm超であると、繊維構造物の風合いが損なわれやすくなることがある。繊維の断面形状は、円状、凹凸状、及び不定形状等のいずれであってもよい。
【0016】
繊維基材の形態としては、織物、編物、及び不織布等を挙げることができる。繊維基材の組織は、平、ツイル、サテン、及びオックス等の織物や、カノコ、インターループ、ハーフ、デンビー、ポンチ、天竺、フライス、及びスムース等の編物であってもよい。不織布としては、乾式不織布、湿式不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、及びケミカルボンド不織布等を挙げることができる。繊維基材の目開き、面密度等は特に限定されない。繊維基材の面密度は、例えば、5~100g/cm程度であればよい。
【0017】
(ポリマー層)
繊維基材を構成する多数の繊維の表面には、ポリマー層が設けられている。このポリマー層は、その片末端が繊維の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートを含む。なお、ポリマー層は、その片末端が繊維の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートのみで実質的に構成されていることが好ましい。
【0018】
ポリメタクリレートは、メタクリレートモノマーに由来する構成単位を有するポリマーである。メタクリレートモノマーは、メタクリル酸アルカリ金属塩、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、第4級アンモニウム塩基含有メタクリレート、ベタイン構造含有メタクリレート、及びヒドロキシアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である。これらのメタクリレートモノマーに由来する構成単位を有するポリメタクリレートで形成されたポリマー層は、水、有機溶剤、及びイオン液体などの各種の液媒体で膨潤させることができるとともに、表面の25℃における水との接触角が90°未満である。このため、特定のメタクリレートモノマーに由来する構成単位を有するポリメタクリレートで形成されたポリマー層を繊維の表面に設けるとともに、必要に応じてポリマー層を液媒体で膨潤させることで、低摩擦性や耐摩耗性等の他、高度な防汚性(付着した汚れが落ちやすい性質)が付与された繊維構造物とすることができる。
【0019】
メタクリル酸アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、及びカリウム等を挙げることができる。メタクリル酸アルカリ金属塩はイオン解離しうるモノマーであるため、メタクリル酸アルカリ金属塩に由来する構成単位を有するポリメタクリレートは親水性が高い。したがって、メタクリル酸アルカリ金属塩に由来する構成単位を有するポリメタクリレートを含むポリマー層は、水、又は水と水溶性有機溶剤を含有する水性媒体が良溶剤となって膨潤させることができるとともに、親水性膜としての機能が発揮される。なお、カルボキシ基を保護基で保護したメタクリル酸を重合した後、保護基を脱離させることで、メタクリル酸アルカリ金属塩に由来する構成単位を有するポリメタクリレートを形成してもよい。カルボキシ基を保護基で保護したメタクリル酸としては、t-ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、トリメチルシリルメタクリレート、及びメタクリル酸のビニルエーテル保護物などを挙げることができる。
【0020】
エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレートを構成するアルキル基の炭素数は、1~4であることが好ましい。エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレートとしては、エチレングリコールモノメチルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノn-プロピルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノn-ブチルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノsec-ブチルエーテルモノメタクリレート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルモノメタクリレート、及びエチレングリコールモノtert-ブチルエーテルモノメタクリレート等を挙げることができる。エチレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレートに由来する構成単位を有するポリメタクリレートを含むポリマー層は、前述の水性媒体で膨潤させることができるとともに、親水性膜としての機能が発揮される。さらに、生体適合性を示すことから、タンパク質付着防止や血液凝固防止等の医療分野に適用しうる機能が発揮される。
【0021】
ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートとしては、繰り返し単位数2~100のエチレングリコールユニットを有するモノアルキルエーテルメタクリレートを用いることができる。ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートを構成するアルキル基の炭素数は、1~4であることが好ましい。ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートとしては、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノn-プロピルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノイソプロピルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノn-ブチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノsec-ブチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノイソブチルエーテルメタクリレート、及びポリエチレングリコールモノtert-ブチルエーテルメタクリレート等を挙げることができる。ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレートに由来する構成単位を有するポリメタクリレートを含むポリマー層は、前述の水性媒体で膨潤させることができるとともに、親水性膜としての機能が発揮される。さらに、生体適合性を示すことから、タンパク質付着防止や血液凝固防止等の医療分野に適用しうる機能が発揮される。
【0022】
ジアルキルアミノエチルメタクリレートを構成するアルキル基の炭素数は、1又は2であることが好ましい。ジアルキルアミノエチルメタクリレートとしては、ジメチルアミノエチルメタクリレート及びジエチルアミノエチルメタクリレートを挙げることができる。ジアルキルアミノエチルメタクリレートに由来する構成単位を有するポリメタクリレートを含むポリマー層は、前述の水性媒体で膨潤させることができる。また、塩基性の構成単位であることから、酸性物質の補足等の機能が発揮される。なお、これらのメタクリレートモノマーを重合した後、塩化ベンジル等のハロゲン化物を反応させて第4級アンモニウム塩基を形成してもよい。さらに、1,3-プロパンスルトン等を反応させてベタイン構造を形成してもよい。
【0023】
第4級アンモニウム塩基含有メタクリレートとしては、メタクリロイルオキシコリンクロライド、メタクリロイルオキシコリンビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、2-(メタクリロイルオキシ)-N-ベンジル-N,N-ジメチルアンモニウムクロライド、2-(メタクリロイルオキシ)-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルスルフェイト、N-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]-N,N-ジエチルエタン-1-アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、及びN-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]-N,N-ジメチルブタン-1-アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド等を挙げることができる。第4級アンモニウム塩基含有メタクリレートに由来する構成単位を有するポリメタクリレートを含むポリマー層は、前述の水性媒体で膨潤させることができる。さらに、良溶媒で膨潤させることで、超親水性膜とすることができるとともに、防汚性だけでなく抗菌性も発現させることができる。
【0024】
ベタイン構造含有メタクリレートとしては、2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、4-[[2-((メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]ブタン-1-スルホネート、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホネート、2-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]アセタート、及び3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロピオナート等を挙げることができる。ベタイン構造含有メタクリレートに由来する構成単位を有するポリメタクリレートを含むポリマー層は、前述の水性媒体で膨潤させることができる。さらに、良溶媒で膨潤させることで、超親水性膜とすることができるとともに、生体適合性を示すことから医療分野に適用しうる機能が発揮される。
【0025】
ヒドロキシアルキルメタクリレートを構成するヒドロキシアルキル基の炭素数は、2~4であることが好ましい。ヒドロキシアルキルメタクリレートとしては、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレート等を挙げることができる。ヒドロキシアルキルメタクリレートに由来する構成単位を有するポリメタクリレートを含むポリマー層は、前述の水性媒体で膨潤させることができる。また、水酸基と反応しうる化合物を反応させることで、疎水性/親水性を制御したり、特性を変換したりすることができる。
【0026】
ポリメタクリレートは、単独重合体であってもよく、ランダム構造又はブロック構造を有する共重合体であってもよい。ポリメタクリレートは、必要に応じて、上述のメタクリレートモノマーに由来する構成単位以外のその他の構成単位をさらに有してもよい。その他の構成単位を構成するモノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;トリフルオロメチルメタクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルメタクリレート等のフルオロアルキルメタクリレート;1~100ユニットのポリジメチルシロキサン鎖を有するポリジメチルシロキサン含有メタクリレート;等を挙げることができる。
【0027】
ポリメタクリレートの数平均分子量(Mn)は、10,000~3,000,000であり、好ましくは50,000~3,000,000、さらに好ましくは100,000~1,000,000である。ポリメタクリレートのMnが10,000未満であると、ポリマー層の厚さが不足する。一方、Mnが3,000,000超のポリメタクリレートを重合することは困難であるとともに、ポリマー層が過剰に厚くなる場合がある。なお、本明細書におけるポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分使用(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GC)により測定されるポリメチルメタクリレート換算の値である。
【0028】
ポリメタクリレートの分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.1~1.8であり、好ましくは1.2~1.6である。すなわち、ポリマー層は、その分子量が比較的揃ったポリメタクリレートで実質的に形成されている。ポリメタクリレートのPDIが1.8超であると、前述の範囲外の分子量のポリマーを多く含んでしまい、分子量が大きすぎるポリマー鎖がポリマー層の表面から出やすくなって、所望とする性能が発揮されなくなる場合がある。
【0029】
ポリマー層の平均厚さ(膜厚)は10~2,000nmであり、好ましくは50~1,000nm、さらに好ましくは100~800nmである。本明細書におけるポリマー層の平均厚さ(膜厚)は、ポリマー層を液媒体で膨潤させていない乾燥時の平均厚さを意味する。本実施形態の防汚性繊維構造物を構成するポリマー層は、ポリマー層を形成するポリメタクリレートの良溶媒で膨潤させることで、膜厚が1.5~3倍程度に増大し、防汚性、低摩擦性、及び耐摩耗性等の特性が向上する。ポリマー層の平均厚さが10nm未満であると、液媒体で膨潤させても膨潤量が少なく、特性を向上させる効果が不十分になる。一方、ポリマー層の平均厚さが2,000nm超であると、ポリメタクリレートの性状に応じて繊維構造物の風合いが変化しやすく、べたついたり、逆に硬くなったりする場合がある。
【0030】
繊維基材を構成する多数の繊維の表面積に占める、ポリメタクリレートの断面積の割合(以下、「専有面積率σ*」とも記す)は、10%以上であり、好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。専有面積率σ*が10%以上となるようにポリメタクリレートが濃密にグラフトしてポリマー層を形成していることで、防汚性、低摩擦性、及び耐摩耗性等の特性を発揮させることができる。なお、専有面積率σ*の理論上の上限(最密充填)は100%である。専有面積率σ*は、例えば70%以下、好ましくは60%以下である。
【0031】
専有面積率σ*は、下記式(1)により算出される「グラフト密度σ(本/nm)」を用いて、下記式(2)にしたがって算出することができる。
σ=dLNAMn ・・・(1)
σ*=σS×100 ・・・(2)
d:ポリマー(ポリメタクリレート)の密度
L:ポリマー層の厚さ
NA:アボガドロ数
Mn:ポリマー(ポリメタクリレート)の数平均分子量
S:ポリマー(ポリメタクリレート)の断面積
【0032】
ポリマー層の厚さは、例えば、エリプソメータ、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を使用し、従来公知の方法にしたがって測定することができる。ポリマーの密度は、従来公知の文献に記載された値や、JIS K 7112:1999等に記載された方法にしたがって測定した値を用いることができる。ポリマーの断面積は、ポリマーの伸びきり形態における繰り返し単位長さ、及びポリマーのバルク密度より求めることができる。
【0033】
ポリマー層の表面の25℃における水との接触角は90°未満であり、好ましくは60°以下、さらに好ましくは30°以下である。ポリマー層は親水性が高く、水を吸収して膨潤しやすいため、付着した汚れが速やかに除去される。25℃における水との接触角は、JIS R 3257:1999の静滴法に準拠し、接触角計等を使用して測定される物性値である。接触角計としては、例えば、商品名「LSE-ME」シリーズ(ニック社製);商品系「DropMaster」シリーズ(協和界面科学社製)等を使用することができる。なお、ポリマー層を形成する際(重合時)のシリコン基板を共存させ、シリコン基板の表面に形成したポリマー層の表面の接触角を測定する。そして、得られた接触角の値を、防汚性繊維構造物のポリマー層の表面の水との接触角と見積もることができる。
【0034】
ポリマー層が、水性媒体を含有していることが好ましい。すなわち、ポリマー層は水性媒体を含有して膨潤していることが好ましい。水性媒体は、水、又は、水と水溶性有機溶剤の混合溶媒である。水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリン等のアルコール系溶剤;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、及びN-メチルカプロラクタム等の有機極性アミド系溶剤;テトラヒドロフラン及びジオキサン等のエーテル化合物溶剤;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン系化合物溶剤;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル化合物溶剤;イオン液体;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、酢酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等の無機塩を溶解させた溶媒;等を挙げることができる。
【0035】
本実施形態の防汚性繊維構造物は、親水性のポリマー層を有するため、汚れ(汚染物質)が付着したとしても、水洗等することで付着した汚染物質を容易に除去することができる。汚染物質としては、食塩、糖分、及び血液等の水溶性汚れ;色素及び変性タンパク質等の難溶性の水溶性汚れ;脂肪酸等の強極性の油性汚れ;動植物油脂等の中極性の油性汚れ;鉱油等の無極性の油性汚れ;泥、酸化鉄、及び炭酸カルシウム等の親水性固体汚れ;カーボンブラック等の疎水性固体汚れ;等を挙げることができる。なかでも、血液、タンパク質、及び動植物油脂等の汚染物質を容易に除去することができる。タンパク質としては、アルブミン、グロブミン、グルテリン、ケラチン、コラーゲン、及びフィブロイン等の単純タンパク質;糖、リン、色素、及び核タンパク質等の複合タンパク質;等を挙げることができる。動植物油脂としては、よう素価130以上のエノ油及びアマニ油等の乾性油;よう素価100~130のごま油及び大豆油等の半乾性油;よう素価100以下のオリーブ油及びひまし油等の不乾性油;等を挙げることができる。
【0036】
防汚性は、通常、SG性、SR性、及びSGR性の三種類に大別される。「SG性が高い(優れている)」とは、フッ素系樹脂加工等の撥水・撥油加工が施されることで親水性及び親油性の汚れが付着しにくくなった状態を意味する。「SR性が高い(優れている)」とは、繊維表面の親水化加工が施されることで洗濯により汚れが落ちやすくなった状態を意味する。また、「SGR性が高い(優れている)」とは、汚れが付きにくく落ちやすい状態を意味する。本実施形態の防汚性繊維構造物は、主として「SR性が高い(優れている)」ものである。すなわち、本実施形態の防汚性繊維構造物は、表面に汚染物質が付着したとしても、水性媒体に浸漬する、又は水性媒体を含んだ布等で拭き取ることにより、汚染物質を容易に除去することができる。
【0037】
本実施形態の防汚性繊維構造物は、特徴的な性質を示すポリマー層が設けられたものであることから、例えば、医療・衛生用途、生活資材用途、衣料用途、及びインテリア・寝具用途等の様々な分野への応用展開が期待される。
【0038】
<防汚性繊維構造物の製造方法>
本発明の防汚性繊維構造物の製造方法の一実施形態は、前述の防汚性繊維構造物の製造方法であり、開始基含有基材を得る工程(工程(1))と、ポリマー層を繊維の表面に設ける工程(工程(2))と、を有する。工程(1)では、繊維基材に2-ブロモイソ酪酸ブロミド又は2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランを反応させ、繊維の表面に2-ブロモイソ酪酸エステル基を導入して開始基含有基材を得る。工程(2)では、得られた開始基含有基材の存在下、常圧~1,000MPaの圧力条件でメタクリレートモノマーを表面開始リビングラジカル重合する。これにより、その片末端が繊維の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートを含むポリマー層を繊維の表面に設ける。
【0039】
2-ブロモイソ酪酸ブロミド又は2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランを繊維基材に反応させることで、繊維基材を構成する繊維の表面に重合開始基である2-ブロモイソ酪酸エステル基が導入され、開始基含有基材を得ることができる。なかでも、繊維がセルロース系繊維である場合、その表面に重合開始基が高濃度に導入された開始基含有基材を得ることができる。
【0040】
2-ブロモイソ酪酸ブロミドを繊維基材に反応させる方法としては、有機溶剤で希釈した2-ブロモイソ酪酸ブロミドに繊維基材を浸漬させる方法を挙げることができる。反応液中にはピリジンなどの塩基を共存させてもよい。また、塩基を溶解させて有機溶剤中に繊維基材を浸漬させ、2-ブロモイソ酪酸ブロミドを滴下して反応させてもよい。さらに、2-ブロモイソ酪酸ブロミドの蒸気を繊維基材に浴びせてもよい。
【0041】
また、ガラス繊維などで構成される繊維基材を用いる場合には、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランを反応させることが好ましい。2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランを反応させることで、脱アルコール及び脱水によって、繊維の表面に重合開始基を導入することができる。2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランとしては、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリエトキシシラン、及び2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルジメトキシエトキシシラン等を用いることができる。
【0042】
2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランを繊維基材に反応させる方法としては、2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランを繊維基材にスプレーを用いて吹き付けた後、乾燥させる方法等を挙げることができる。また、エタノール等の溶媒に2-ブロモ-2-メチルプロピオニルオキシプロピルトリアルキルシランを溶解させた反応液に繊維基材を浸漬してもよい。この反応液は、アンモニア水溶液を添加して塩基性としてもよく、酢酸や塩酸を添加して酸性としてもよい。
【0043】
開始基含有基材の存在下、メタクリレートモノマーを表面開始リビングラジカル重合することで、その片末端が繊維の表面に結合してグラフト化したポリメタクリレートを含むポリマー層を繊維の表面に設けて、目的とする防汚性繊維構造物を得ることができる。表面開始リビングラジカル重合としては、銅やルテニウムの金属錯体を触媒として酸化還元で行う原子移動ラジカル重合(ATRP法);ヨウ化第4級アンモニウム塩等を使用してハロゲン交換し、第4級アンモニウム塩が触媒となって重合が進行する可逆的触媒媒介重合(ハロゲン交換RCMP法);等がある。すなわち、重合開始基を繊維の表面に導入された重合開始基を起点としてリビングラジカル重合することで、ポリマーが濃密にグラフトしたポリマー層を繊維の表面に形成することができる。
【0044】
ATRP法では、金属錯体を用いてモノマーを重合する。金属錯体としては、周期律表第7族~第11族元素を中心金属とする金属錯体が用いられる。具体的には、一価の銅、二価の銅、二価のルテニウム、二価の鉄、又は二価のニッケルを含む金属錯体を挙げることができる。なかでも、安価で容易に入手可能な一価の銅又は二価の銅を含む金属錯体を用いることが好ましい。より具体的には、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、及びヨウ化第二銅等を挙げることができる。これらの銅の金属錯体を重合触媒として用いる場合には、錯体を形成させるポリアミンをリガンドとして用いる。リガンドとしては、2,2-ビピリジン、ジノニルビピリジン、フェナントロリン、トリジメチルアミノエチルアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン、トリス(2-ピコリル)アミン、及びN,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン等を挙げることができる。モノマー100質量部に対する金属触媒の量は、0.001~0.1質量部とすることが好ましい。
【0045】
重合時には、触媒の失活を防ぐために還元剤を用いてもよい。還元剤としては、ジラウリン酸スズ及びアスコルビン酸などを挙げることができる。また、重合を促進すべく、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤を添加してもよい。
【0046】
ATRP法は、バルク重合であってもよく、有機溶剤等を用いる溶液重合であってもよい。有機溶剤としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、エーテル系溶剤、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、尿素系溶剤、及びイオン液体等を用いることができる。なかでも、重合速度を向上させるとともに、ポリマー層の厚さをより厚くすることができるため、イオン液体等の極性の高い溶媒を用いることが好ましい。イオン液体としては、4級アンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、4級ホスホニウム塩、及びグアジニウム塩等のイオン液体を挙げることができる。
【0047】
ハロゲン交換RCMP法では、ヨウ化第4級アンモニウム塩、ヨウ化ホスホニウム塩、及びヨウ化アルカリ金属塩等の塩化合物を用いる。ハロゲン交換RCMP法は、市販の有機材料や安価な無機塩を用いる方法であるため、コスト面及び環境負荷を軽減する観点から好ましく、また、金属を除去する必要がなく、工程を簡略化することができるために好ましい。ハロゲン交換RCMP法では、重合開始基が塩化合物とハロゲン交換し、2-アイオドイソ酪酸エステル基が形成される。次いで、塩化合物が触媒となってヨウ素がラジカルとなって脱離した後、炭素ラジカルにモノマーが挿入されて重合する。そして、脱離したヨウ素が直ちに結合して停止反応を防止し、リビング的に重合が進行する。
【0048】
塩化合物のうち、ヨウ化第4級アンモニウム塩としては、ヨウ化ベンジルテトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラオクチルアンモニウム、ヨウ化デドシルトリメチルアンモニウム、ヨウ化オクタデシルトリメチルアンモニウム、及びヨウ化トリオクダデシルメチルアンモニウム等を挙げることができる。活性度を高めるとともに、より濃厚で高分子量のポリマーを得る観点から、重合開始基に対する塩化合物の量は当モル以上とすることが好ましく、10倍モル以上とすることがさらに好ましく、100倍モル以上とすることが特に好ましい。
【0049】
重合時の温度は、60℃以上とすることが好ましい。また、有機溶媒の存在下で重合することが好ましい。有機溶媒は、塩を溶解する有機溶媒であることが好ましく、アルコール系、グリコール系、アミド系、尿素系、スルホキシド系、及びイオン液体等の極性が高い有機溶媒を用いることが好ましい。
【0050】
工程(2)では、常圧~1,000MPa、好ましくは10~1,000MPaの圧力条件でメタクリレートモノマーを表面開始リビングラジカル重合する。水等の液媒体を通じて重合容器内部まで圧力を伝えて重合することで、停止反応を抑制し、より分子量の大きいポリメタクリレートを形成することができる。ポリメタクリレートの分子量が大きくなると、形成されるポリマー層の厚さが増大する。より厚いポリマー層を形成することで、これまでにない性質を繊維基材に付与することができる。
【0051】
重合は、重合容器内で実施すればよい。重合容器としては、高圧に耐えうる密閉可能な容器を用いることが好ましい。重合容器としては、ポリエチレン製の瓶、ペットボトル、レトルトパウチ、及びブリスター容器等を用いることができる。また、加温又は加熱条件下で重合することを考慮し、耐熱性を有する素材でできた重合容器を用いることが好ましい。さらに、耐薬品性や耐溶剤性等の性質を有する素材でできた重合容器を用いることが好ましい。そのような素材としては、ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリアミド、及びエンジニアプラスチック等を挙げることができる。
【0052】
重合容器に重合溶液を仕込む場合には、大きな空間が形成されないこと、すなわち重合容器内に気体が入りこまないようにすることが好ましい。具体的には、容器容量の90%以上に重合溶液を仕込むことが好ましい。
【0053】
ポリマー層を形成するポリマー(ポリメタクリレート)の分子量は、加水分解等の手法によって防汚性繊維構造物から切り出したポリマーを分析して測定することができる。また、重合開始基と同様の構造を有する2-ブロモイソ酪酸エチル等の化合物(フリー開始基化合物)を重合系中に添加した状態で表面開始リビングラジカル重合を行い、フリー開始基化合物の開始基から重合が進行して生成したフリーポリマーの分子量を測定する。このように測定してフリーポリマーの分子量を、ポリマー層を形成するポリマーの分子量と見積もることができる。
【0054】
重合系中におけるフリー開始基化合物の含有量は、0.01質量%以下とすることが好ましく、0.001質量%以下とすることがさらに好ましい。フリー開始基化合物の含有量が多すぎると、重合系の粘度が上昇しすぎることがある。このため、得られた防汚性繊維構造物を取り出しにくくなったり、洗浄に時間がかかったりする場合がある。
【実施例0055】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0056】
<繊維構造物の製造>
(実施例1及び比較例1)
A4サイズの不織布(コットン100%)を繊維基材として用意し、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)、及びメタノールで超音波洗浄した後、送風乾燥した。トルエン/2-ブロモイソ酪酸ブロミド/ピリジン(質量比=85/10/5)の混合溶液に繊維基材を1時間浸漬して反応させ、2-ブロモイソ酪酸エステル基を繊維表面に導入して開始基含有基材を得た。得られた開始基含有基材をメタノールで洗浄した後、送風乾燥した。赤外分光光度計を使用して赤外吸収を測定したところ、エステル基に由来する1,720cm-1の吸収が確認され、重合開始基である2-ブロモイソ酪酸エステル基が導入されたことを確認した。
【0057】
第一臭化銅0.08部、第二臭化銅0.004部、ジノニルビピリジン0.5部、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(商品名「PME-400」、日油社製)40部、アニソール59部、及び2-ブロモイソ酪酸エチル(EBIB)のアニソール溶液(EBIBの濃度:0.0008%)1部をガラスサンプル瓶に入れて均一化し、茶褐色の重合溶液を得た。開始基含有基材及びシリコン基板(1cm×2cm)をアルミパウチに入れ、重合溶液で満たして封止した。高圧装置(商品名「まるごとエキス」、東洋高圧社製)にアルミパウチを入れ、60℃、400MPaの条件で1時間重合した。アルミパウチ内には、粘性のポリマー溶液が生成していた。ポリマー溶液の一部をサンプリングし、ジメチルホルムアミド(DMF)を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて生成したポリマーの分子量を測定した。その結果、ポリマーの数平均分子量(Mn)は2,860,000であり、分子量分布(PDI)は1.17であった。
【0058】
アルミパウチの内容物を取り出し、THFに12時間浸漬させた。THFで超音波洗浄した後、送風乾燥して、繊維構造物(実施例1)及び処理済みシリコン基板を得た。得られた繊維構造物を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察し、形成されたポリマー層の任意の3点の膜厚を測定し、その平均値を「ポリマー層の膜厚」とした。その結果、ポリマー層の膜厚は515nmであった。また、前述の式(1)及び(2)より算出した、繊維の表面積に占める、ポリメタクリレートの断面積の割合(専有面積率σ*)は、36%であった。なお、未処理の不織布(繊維基材)を比較例1とした。
【0059】
処理済みシリコン基板に形成されていたポリマー層の膜厚は520nmであり、専有面積は36%であった。接触角計(商品名「DropMaster100」、協和界面科学社製)を使用して測定した、処理済みシリコン基板に形成されていたポリマー層の表面の25℃における水との接触角は35°であり、親水性であることを確認した。この処理済みシリコン基板を室温(25℃)、大気圧条件下で水に含浸させた。その後、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定したポリマー層の膜厚は1,200nmであり、ポリマー層が膨潤していることを確認した。
【0060】
(実施例2~7)
表1に示す条件としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、繊維構造物(実施例2~7)を得た。得られた繊維構造物の物性等を表1に示す。表1中の略号の意味は以下に示す通りである。
・DMAEMA:ジメチルアミノエチルメタクリレート
・HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
・MMA:メチルメタクリレート
・DEGBMA:ジエチレングリコールモノブチルエーテルメタクリレート
【0061】
【0062】
(比較例2)
A4サイズの不織布(レーヨン80%、PP20%)を繊維基材として用意し、前述の実施例1と同様にして、2-ブロモイソ酪酸エステル基を繊維表面に導入して開始基含有基材を得た。第一臭化銅0.08部、第二臭化銅0.004部、ジノニルビピリジン0.5部、メタクリル酸tert-ブチル(t-BuMA)40部、アニソール59部、及びEBIBのアニソール溶液(EBIBの濃度:0.0008%)1部をガラスサンプル瓶に入れて均一化し、茶褐色の重合溶液を得た。開始基含有基材及びシリコン基板(1cm×2cm)をアルミパウチに入れ、重合溶液で満たして封止した。高圧装置にアルミパウチを入れ、60℃、100MPaの条件で4時間重合した。アルミパウチ内には、粘性のポリマー溶液が生成していた。生成したポリマーのMnは210,000であり、PDIは1.19であった。アルミパウチの内容物を取り出し、THFに12時間浸漬させた。メタノール(MeOH)で超音波洗浄した後、送風乾燥して、繊維構造物(比較例2)を得た。得られた繊維構造物のポリマー層の膜厚は182nmであり、専有面積率σ*は42%であった。また、ポリマー層の表面の水との接触角は98°であった。
【0063】
(実施例8)
p-トルエンスルホン酸5部及びDMF95部をフラスコに入れ、p-トルエンスルホン酸を溶解させた。比較例2で得た開始基含有基材及びシリコン基板を浸漬し、80℃に加温して10時間反応させて、t-ブチルエステル基を脱保護した。冷却後に内容物を取り出し、MeOH及び純水で十分に洗浄した後、80℃の送風乾燥機で乾燥させて、繊維構造物を得た。表面IRを測定したところ、カルボキシ基に由来する1,700cm-1付近の吸収が確認された。ビーカーに5%水酸化ナトリウム水溶液を入れ、繊維構造物及び処理済みシリコン基板を浸漬させた。純水で十分に洗浄した後、80℃の送風乾燥機で乾燥させて、繊維構造物(実施例8)を得た。
【0064】
(実施例9)
塩化ベンジル(BzCl)12.2部及びアセトン100部をサンプル管に入れ、塩化ベンジルを溶解させた。実施例4で得た開始基含有基材の前駆体(前駆体モノマー:ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA))及びシリコン基板を浸漬し、常温で12時間反応させて、ポリマーを第4級アンモニウム塩化した。内容物を取り出し、MeOH及び純水で十分に洗浄した後、80℃の送風乾燥機で乾燥させて繊維構造物(実施例9)を得た。表面IRを測定したところ、フェニル基に由来する780cm-1付近の吸収が確認された。得られた繊維構造物のポリマー層の膜厚は840nmであった。
【0065】
(実施例10)
1,3-プロパンスルトン12.2部、アセトニトリル20部、及び水80部をサンプル管に入れ、1,3-プロパンスルトンを溶解させた。実施例4で得た開始基含有基材の前駆体(前駆体モノマー:DMAEMA)及びシリコン基板を浸漬し、60℃で12時間反応させて、ポリマーを双性イオン化させた。冷却後に内容物を取り出し、MeOH及び純水で十分に洗浄した後、80℃の送風乾燥機で乾燥させて繊維構造物(実施例10)を得た。表面IRを測定したところ、スルホニル基に由来する1,030cm-1付近の吸収が確認された。得られた繊維構造物のポリマー層の膜厚は920nmであった。
【0066】
実施例8~10の結果を纏めて表2に示す。
【0067】
【0068】
(比較例3、4)
表3に示す条件としたこと以外は、前述の比較例2と同様にして、繊維構造物(比較例3、4)を得た。得られた繊維構造物の物性等を表3に示す。表3中、「LMA」は「ラウリルメタクリレート」、「TFEMA」は「メタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル」をそれぞれ意味する。
【0069】
【0070】
(比較例5)
A4サイズの不織布(コットン100%)を繊維基材として用意し、MEK、THF、及びMeOHで超音波洗浄した後、送風乾燥した。トルエン/メタクリル酸ブロミド/ピリジン(質量比=85/10/5)の混合溶液に繊維基材を1時間浸漬して反応させ、メタクリル酸エステル基を繊維表面に導入して開始基含有基材を得た。得られた開始基含有基材をメタノールで洗浄した後、送風乾燥した。赤外分光光度計を使用して赤外吸収を測定したところ、エステル基に由来する1,720cm-1の吸収が確認され、重合開始基であるメタクリル酸エステル基が導入されたことを確認した。
【0071】
開始基含有基材、シリコン基板(1cm×2cm)、及びPME-400 100部をフラスコに入れた。65℃に加温して1時間窒素バブリングした後、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)0.1部を添加して24時間反応させた。フラスコ内には、粘性のポリマー溶液が生成していた。生成したポリマーのMnは450,000であり、PDIは2.50であった。フラスコの内容物を取り出し、THFに12時間浸漬させた後、送風乾燥して、繊維構造物(比較例5)を得た。得られた繊維構造物のポリマー層の膜厚は13nmであり、専有面積率σ*は6%であった。また、ポリマー層の表面の水との接触角は34°であった。
【0072】
(比較例6)
A4サイズの不織布(コットン100%)を繊維基材として用意し、MEK、THF、及びMeOHで超音波洗浄した後、送風乾燥した。PME-400 90部、及び2-イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)10部をフラスコに入れ、65℃で窒素を1時間バブリングした後、AIBN0.1部を添加して24時間反応させた。フラスコ内には粘性のポリマー溶液が生成していた。生成したポリマーのMnは350,000であり、PDIは2.34であった。ポリマー液に繊維基材を浸漬し、80℃で1時間反応させた。フラスコの内容物を取り出し、THFに12時間浸漬させた。THFで超音波洗浄した後、送風乾燥して、繊維構造物(比較例6)を得た。得られた繊維構造物のポリマー層の膜厚は11nmであり、専有面積率σ*は6%であった。また、ポリマー層の表面の水との接触角は35°であった。
【0073】
<評価>
(汚れ落ち性(1))
まず、以下の手順にしたがって「実用生活汚れに対する防汚性試験(ボーケン規格BQE A 039)」を行った。
[1]繊維構造物(実施例1、実施例2、及び比較例1)を適度な大きさにカットして得た試験片を平滑なガラス板の上に載置した。
[2]ラー油0.2gを試験片に滴下し、60秒間放置した。
[3]試験片を水に浸漬し、ラー油の遊離挙動を観察した。
【0074】
実施例1及び2の繊維構造物ではSR性に大幅な改善が認められた。これに対して、比較例1の繊維構造物では防汚効果が発現せず、繊維へのラー油の吸着が強かった。
【0075】
次いで、汚染物質を用いて汚れ落ち性を評価した。まず、オリーブ油(富士フイルム和光純薬社製)61.9部、オレイン酸(シグマアルドリッチジャパン社製)38.0部、及びオイルレッド(シグマアルドリッチジャパン社製)0.1部を混合して汚染物質を調製した。そして、調製した汚染物質を使用し、以下の手順にしたがって試験を行った。
[1]繊維構造物を8cm×8cmのサイズにカットして作製した試験片を平滑なガラス板の上に載置した。
[2]マイクロピペットを用いて汚染物質0.1mLを10cmの高さから滴下し、60秒間放置した。
[3]ろ紙を乗せて自重で汚れを吸い取った後、ろ紙の位置をずらし、ろ紙の汚れていない部分で再度汚れを吸い取った。ろ紙が汚れを吸い取らなくなるまでこの操作を繰り返した。ろ紙が汚染部分に触れない場合には、ろ紙の両端を持ち、なるべく加重をかけないようにろ紙と汚れを接触させて吸い取った。
[4]汚染した試験片を、汚染物質の滴下後1時間以内に純水に1時間浸漬させた。
[5]試験片を乾燥させた後、汚染物質を滴下する前の試験片と比較し、汚れの残りが多い順に「×」、「△」、「〇」、「◎」の順に評価した。結果を表4に示す。
【0076】
【0077】
(汚れ落ち性(2))
疑似血液(馬脱繊維血液(日本バイオテスト研究所社製)の粘度を8.0mPa・sに調整したもの)を用意した。そして、用意した疑似血液を使用し、以下の手順にしたがって試験を実施した。
[1]繊維構造物(実施例1、比較例1、比較例5、及び比較例6)を適度な大きさにカットして得た試験片を平滑なガラス板の上に載置した。
[2]疑似血液0.2gを試験片に滴下し、60秒間放置した。
[3]ろ紙を乗せて自重で汚れを吸い取った後、ろ紙の位置をずらし、ろ紙の汚れていない部分で再度汚れを吸い取った。ろ紙が汚れを吸い取らなくなるまでこの操作を繰り返した。ろ紙が汚染部分に触れない場合には、ろ紙の両端を持ち、なるべく加重をかけないようにろ紙と汚れを接触させて吸い取った。
[4]汚染した試験片を、疑似血液の滴下後1時間以内に純水に1時間浸漬させた。その後、試験片を目視にて観察し、血液汚れが落ちたものを「○」、落ちなかったものを「×」と評価した。結果を表5に示す。
【0078】
(洗浄後のタンパク質汚れ)
牛血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Albumin)3mgを純粋1mLに溶かしてタンパク質溶液を調製した。そして、調製したタンパク質溶液を使用し、以下の手順にしたがって試験を行った。
[1]繊維構造物(実施例1、比較例1、比較例5、及び比較例6)を適度な大きさにカットして得た試験片を平滑なガラス板の上に載置した。
[2]タンパク質溶液0.1mLを試験片に滴下し、60秒間放置した。
[3]ろ紙を乗せて自重で汚れを吸い取った後、ろ紙の位置をずらし、ろ紙の汚れていない部分で再度汚れを吸い取った。ろ紙が汚れを吸い取らなくなるまでこの操作を繰り返した。ろ紙が汚染部分に触れない場合には、ろ紙の両端を持ち、なるべく加重をかけないようにろ紙と汚れを接触させて吸い取った。
[4]汚染した試験片を、タンパク質溶液の滴下後1時間以内に純水に1時間浸漬させた。
[5]テトラブロモフェノールブルー(富士フィルム和光純薬社製)250mL、エタノール650mL、1mol/Lクエン酸100mL、及びグリセリン150mLを混合して黄色の検出液を調製した。調製した検出液02mLを試験片に滴下した後、試験片を目視にて観察し、変色しなかったものを「陰性」、緑色に変色したものを「陽性」と評価した。結果を表5に示す。
【0079】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の防汚性繊維構造物は、CPB材料由来の低摩擦性の他、タンパク質吸着抑制、非血液凝固性、及び生物付着防止性等を活用した用途での応用が期待される。なかでも、医療機器、診断薬、衛生用品、生活資材、衣料、農業資材、及びろ過・吸着用途などに用いられる材料として有用である。