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特開2025-93455地絡保護継電器の動作電圧自動整定装置
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  • 特開-地絡保護継電器の動作電圧自動整定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025093455
(43)【公開日】2025-06-24
(54)【発明の名称】地絡保護継電器の動作電圧自動整定装置
(51)【国際特許分類】
   H02H 3/34 20060101AFI20250617BHJP
   H02H 7/26 20060101ALI20250617BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
H02H3/34 M
H02H7/26 B
H02J13/00 301A
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209113
(22)【出願日】2023-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英成
【テーマコード(参考)】
5G064
【Fターム(参考)】
5G064AC09
5G064AC10
5G064CB07
5G064CB11
5G064DA03
(57)【要約】
【課題】 対地静電容量Cの計算から地絡継電器の動作電圧整定値の最適化までを自動で行うことのできる地絡保護継電器の動作電圧自動整定装置を提供する。
【解決手段】 地絡電流を検出した際、配電系統の遮断器を開路して系統を保護する地絡継電器において、当該地絡継電器の動作電圧整定値を系統が切り替わる都度、自動計算して変更する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統に設置された遠制子局と電力会社の支社等に設置された親局装置を通信線で結び、前記親局装置からの遠隔監視によって、前記遠制子局を介した系統状態の把握や配電設備の遠隔制御を行う配電線自動化システムと連携し、配電系統に設置した区分開閉器の開閉状態を前記遠制子局で監視することで、前記系統の切り換えを前記親局装置で検出し、系統切換情報の通知を前記親局装置から受信することにより、配電系統に設置されて、地絡事故を検出した際、配電系統の遮断器を開路して系統を保護する地絡継電器の動作電圧整定値を自動計算することを特徴とする地絡継電器の動作電圧自動整定装置。
【請求項2】
前記地絡継電器の動作電圧整定値を計算する都度、地絡継電器に記憶された動作電圧整定値を書き換えることを特徴とする請求項1記載の地絡保護継電器の動作電圧自動整定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、系統を保護する地絡継電器の動作電圧整定値を自動的に計算し、変更することのできる動作電圧自動整定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配電線に地絡事故が発生した場合、事故発生を即時検出し、事故区間を切り離すことで、系統の保護を図る必要がある。地絡事故の検出には、配電系統に設置した地絡継電器が利用される。地絡継電器によって地絡事故を検出した場合、事故が発生した配電線に接続される遮断器を開路することにより、系統を保護している(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58-186332
【0004】
地絡継電器による地絡事故の判定方法としては、例えば、事故電圧が地絡継電器にあらかじめ設定した動作電圧整定値以上となった場合に地絡事故が発生したものと判定するものが知られている。
【0005】
動作電圧整定値は、バンク毎の充電電流や、対地静電容量を測定することにより計算することができ、定期的に動作電圧整定値を計算して、地絡継電器の動作電圧整定値を書き換えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記整定値の書き換えは、地絡継電器が設置された変電所に出向いて行う必要があり、作業負担およびコストがかかってしまう。また、前記整定値は対地静電容量Cの値によって変化し、対地静電容量Cは系統の接続状況によって変動するため、系統の切換えタイミングで整定値を書き換える必要があり、定期的な書き換えでは対応できない。
【0007】
地絡保護継電器の動作電圧整定値が配電系統の現状に合った正しい値に書き換えられていない場合、地絡継電器によって地絡事故を検出することができず、遮断器の開路動作が図れない事態が生じる。
【0008】
遮断器の開路がなされず地絡事故を放置すると、火災や感電、その他の災害の発生原因となる。
【0009】
本発明は上記問題点を解決するために、対地静電容量Cの計算から地絡継電器の動作電圧整定値の最適化までを自動で行うことのできる地絡保護継電器の動作電圧自動整定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、配電系統に設置された遠制子局と電力会社の営業所等に設置された親局装置を通信線で結び、前記親局装置からの遠隔監視によって、前記遠制子局を介した系統状態の把握や配電設備の遠隔制御を行う配電線自動化システムと連携し、配電系統に設置した区分開閉器の開閉状態を前記遠制子局で監視することで、前記系統の切り換えを前記親局装置で検出し、系統切換情報の通知を前記親局装置から受信することにより、配電系統に設置されて、地絡事故を検出した際、配電系統の遮断器を開路して系統を保護する地絡継電器の動作電圧整定値を自動計算することを特徴とする地絡継電器の動作電圧自動整定装置。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の地絡継電器の動作電圧整定値を計算する都度、地絡継電器に設定(メモリに記憶)された以前の動作電圧整定値を書き換えることを特徴とする地絡保護継電器の動作電圧自動整定装置。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、系統の切換えタイミングで整定値を自動的に書き換えることができる。また、既設の配電自動化システムを利用することで、系統の切り換えを配電自動化システムの親局装置で検出することができるので、新規のシステムを導入する必要がない。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、地絡継電器の動作電圧整定値を計算する都度、地絡継電器の動作電圧整定値を書き換えることができるので、常に最適な動作整定値で地絡継電器を動作させることができ、地絡事故から系統を確実に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る地絡継電器の動作電圧整定装置を設置した系統を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図1により説明する。図1は本発明に係る地絡継電器の動作電圧自動整定装置を設置した系統を示している。図1において、1は配電用変電所Aに設置される配電用変圧器であり、2は配電母線を示している。
【0016】
3は配電母線2に設置される変電所遮断器であり、4は配電母線2から分岐する配電線4である。5は配電線4に設置される配電線遮断器であり、6a,6b,6c…は配電線4に設置され、配電線4を各区間に分割する区分開閉器である。
【0017】
7a,7b,7c…は、区分開閉器6a,6b,6c…によって分割される配電線4の各区間において、停電がないことを確認し、また、区分開閉器6a,6b,6c…の入り切り状態を監視することを主な目的として、配電線4の電圧電流を検出する電圧電流センサであり、8a,8b,8c…は、電柱に取り付けられ、区分開閉器6a,6b,6c…の開閉指令や、配電線4の電圧、電流、故障の監視を行う遠制子局を示している。
【0018】
遠制子局8a,8b,8c…には、高調波の発生源の探索や配電線4の地絡短絡事故を検出する機能を持たせる目的から、配電線4の高調波や地絡短絡リレー動作状態、基本波の電圧や電流などの状態量を計測するための各種計測装置、当該各種計測装置で計測した状態量を格納するためのメモリ等が具備されている。
【0019】
9は遠制子局8a,8b,8c…から各種の計測データを収集して配電線路を自動的に監視制御するための親局装置を示しており、電力会社の支社等(支社又は営業所)に設置される操作卓9aと主計算機装置9bから概略構成される。親局装置9と遠制子局8a,8b,8c…は、例えば、専用のネットワーク10によって通信可能に接続されている。親局装置9と遠制子局8a,8b,8c…によって配電自動化システムは構成され、配電系統の運転業務の省力化および効率化や、供給信頼度の向上を図っている。
【0020】
C1,C2,C3,C4…は、区分開閉器6a,6b,6c…で分割される各配電線4と地面間の対地静電容量を示している。
【0021】
12は地絡事故時に地絡継電器11に地絡電圧を入力するための接地形計器用変圧器(EVT)であり、13は本発明に係る地絡継電器11の動作電圧自動整定装置である。地絡継電器11、接地形計器用変圧器12、動作電圧整定装置13は、何れも配電用変電所Aに設置されている。
【0022】
図1に示す配電自動化システムは、前述したとおり、配電系統を監視、制御するシステムである。各電柱に取り付けられた遠制子局8a,8b,8c…と親局装置9が通信可能に接続され、遠制子局8a,8b,8c…を介して電柱上の区分開閉器6a,6b,6c…が開閉制御される。
【0023】
親局装置9は遠制子局8a,8b,8c…を介して、配電線4の運用状態を常時監視し、例えば、地絡事故等の配電線事故が発生した場合、事故箇所を特定して、事故箇所を含む区間を挟む区分開閉器を開路することによって、健全区間から切り離す。区分開閉器6a,6b,6c…の開(閉)操作は、親局装置9の操作卓9aを操作、あるいは、自動で実行可能である。事故区間を健全区間から切り離したら、健全区間に給電する。健全区間への給電は、例えば、配電用変電所Aからの送電のみならず、図示しない別の配電用変電所Bからの逆送電によっても実現される。
【0024】
事故区間の特定は、例えば、地絡事故等の配電線事故が発生した場合、まず配電線遮断器5を開路し、故障箇所を無電圧とする。次に配電線遮断器5を再閉路するとともに、電源側の区分開閉器6a,6b,6c…から順次投入して健全区間に再送電を行う。そして、再送電が故障区間に至った時、配電線遮断器5が再び開路される。このようにして、故障区間を区分する区分開閉器を特定することで、配電線遮断器5を再々閉路するときには、故障区間を区分する区分開閉器を開路状態にロックして、故障区間を健全区間から分離することができる。
【0025】
なお、上記配電自動化システムは、配電線の故障対応のみならず、配電用変電所の事故(瞬時電圧低下など)による停電が発生した場合に、親局装置9の操作卓9aの操作、あるいは、自動によって、停電が発生した地域に対して周辺の配電用変電所から給電する等、配電系統の電力供給信頼度の向上を図っている。
【0026】
上述のごとく、配電線4に地絡事故等の故障が発生した場合、故障箇所を無電圧とするため、配電線遮断器5を開路するのであるが、地絡事故の発生は、図1に示す地絡継電器11にて検出される。
【0027】
具体的には、地絡継電器11にはあらかじめ、バンク毎の充電電流や対地静電容量を測定することで計算した動作電圧整定値(整定値Vo)が設定(メモリに格納)されている。そして、地絡事故が発生した時の配電線電圧(事故時Vo)がこの動作電圧整定値以上(整定値Vo≦事故時Vo)となったときに、地絡事故が発生したと判定し、配電線遮断器5を開路する。
【0028】
ここで、上記零相電圧Voを、零相電流IoとアドミタンスYによってあらわすと、(数式1)Vo=Io/Yとなる。また、アドミタンスYを簡単のために、線路抵抗、リアクタンスを省略してあらわすと、(数式2)Y=jω≡となる。したがって、零相電圧は、(数式3)Vo=Io/jω≡とあらわされる。
【0029】
そのため、前述したように、配電自動化システムによって、区分開閉器6a,6b,6c…が開閉路されると、その都度、対地静電容量Cの値が変化する。例えば、図1に示す区分開閉器6a,6b,6c…が全て投入され閉路した状態では、対地静電容量Cは、C=C1+C2+C3+…の値をとるが、区分開閉器2が開路されると、対地静電容量Cは、C=C1+C2の値をとるため、対地静電容量が小さくなる。対地静電容量Cが小さくなると、上記(数式3)より、事故時電圧Voの値は想定していた値より大きくなる。事故時Voの値が想定していた値より大きくなると、地絡継電器11が不要に動作する誤動作を起こしてしまう。
【0030】
逆に、区分開閉器2が開路された状態から閉路されると、対地静電容量Cは、C=C1+C2の値からC=C1+C2+C3+…の値へと変化し、対地静電容量が大きくなる。対地静電容量Cが大きくなると、上記(数式3)より、事故時電圧Voの値が想定していた値より小さくなる。事故時Voの値が想定していた値より小さくなると、地絡継電器11が不動作状態となり、系統を地絡事故から保護できない事態が発生する。
【0031】
このように、対地静電容量Cの値によって、事故時Voの値が変化するので、正しい動作電圧整定値を導くためには、対地静電容量Cの正確な把握が必須となる。そこで、本発明では、配電用変電所に、地絡継電器11の動作電圧自動整定装置13を設置し、当該整定装置13によって動作電圧整定値を自動計算し、地絡継電器11に格納されている動作電圧整定値を自動的に書き換える構成とした。
【0032】
これにより、従前のように、定期的にバンク毎の充電電流や対地静電容量を測定して計算し、作業員が地絡継電器11が設置されている変電所に出向き、整定値の書き換え作業を行う必要を無くした。
【0033】
また、動作電圧自動整定装置13による整定値の自動計算は、前述した配電自動化システムと連係し、区分開閉器6a,6b,6c…や配電線遮断器5の開閉動作がなされた際に、親局装置9から、どの区分開閉器が開閉動作したのかの情報(系統切換情報)を動作電圧自動整定装置13に通知することにより、当該自動整定装置13において、正確な対地静電容量Cの把握を可能とした。
【0034】
これにより、自動整定装置13は、正しい整定値を計算することができ、常に正確な整定値を地絡継電器11に設定することが可能となる。この結果、地絡継電器11による配電線遮断器5の誤動作や不動作を確実に防止することができ、系統を地絡事故から確実に保護することが可能となる。
【0035】
以上説明したように、本発明の動作電圧自動整定装置によれば、地絡継電器の動作電圧整定値を自動計算できるので、作業者が当該整定値をバンク毎の充電電流や対地静電容量を測定して計算する必要がない。
【0036】
また、系統が切り替わる都度、動作電圧自動整定装置によって、前記整定値を自動計算して、地絡継電器の整定値を書き換えるので、常に正しい整定値を地絡継電器に設定することができ、配電線遮断器の誤動作や不動作を確実に防止できる。
【0037】
さらに、地絡継電器の整定値の書き換えに、作業者が地絡継電器が設置された変電所まで出向く必要がないので、当該書き換え作業に要する作業者の負担やコストを飛躍的に低減できる。
【0038】
そのうえ、系統の切り替わりを、既設の配電自動化システムと連携して把握することができるので、新規のシステムの導入が必要なく、本装置の導入のハードルを下げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、地絡継電器の動作電圧整定値の設定に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 配電用変圧器
2 配電母線
3 変電所遮断器
4 配電線
5 配電線遮断器
6a,6b,6c… 区分開閉器
7a,7b,7c… 電圧電流センサ
8a,8b,8c… 遠制子局
9 親局装置
9a 操作卓
9b 主計算機装置
10 専用のネットワーク
11 地絡継電器
12 接地形計器用変圧器(EVT)
13 動作電圧自動整定装置
A,B 配電用変電所
図1