(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025093559
(43)【公開日】2025-06-24
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 1/00 20060101AFI20250617BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20250617BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20250617BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20250617BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250617BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
B60C1/00 A
C08L9/06
C08L15/00
C08K3/36
C08L101/00
B60C11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209282
(22)【出願日】2023-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 由真
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131AA04
3D131BB01
3D131BC12
3D131BC15
3D131BC19
3D131EA02U
3D131EA10U
3D131LA28
4J002AA014
4J002AC08W
4J002AC11X
4J002AE053
4J002AF024
4J002BA014
4J002BC034
4J002BC044
4J002BC084
4J002BC094
4J002BK004
4J002CE004
4J002DJ016
4J002FD016
4J002FD023
4J002FD027
(57)【要約】
【課題】摩耗後におけるウェットグリップ性能の保持率が高いタイヤを提供する。
【解決手段】実施形態に係るタイヤは、キャップゴムとベースゴムとを有するトレッドゴムを備えるタイヤである。キャップゴムは、ジエン系ゴム、シリカ、及び20℃で液状である分子量1000以下の軟化剤を含むゴム組成物Aにより形成される。ベースゴムは、ジエン系ゴムを含み、かつ20℃で液状である分子量1000以下の軟化剤を含むか又は含まないゴム組成物Bにより形成される。ゴム組成物Aのジエン系ゴムは、変性スチレンブタジエンゴム及び未変性スチレンブタジエンゴムを含む。ゴム組成物A100体積%中の軟化剤の量をa(体積%)、ゴム組成物B100体積%中の軟化剤の量をb(体積%)として、0≦a-b≦15.0を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップゴムと前記キャップゴムの内側に配されたベースゴムとを有するトレッドゴムを備えるタイヤであって、
前記キャップゴムは、ジエン系ゴム、シリカ、及び20℃で液状である分子量1000以下の軟化剤を含むゴム組成物Aにより形成され、
前記ベースゴムは、ジエン系ゴムを含み、かつ20℃で液状である分子量1000以下の軟化剤を含むか又は含まないゴム組成物Bにより形成され、
前記ゴム組成物Aのジエン系ゴムは、変性スチレンブタジエンゴム及び未変性スチレンブタジエンゴムを含み、
前記ゴム組成物A100体積%中の軟化剤の量をa(体積%)、前記ゴム組成物B100体積%中の軟化剤の量をb(体積%)として、0≦a-b≦15.0を満たす、タイヤ。
【請求項2】
前記ゴム組成物Aは、ジエン系ゴム100質量部に対してシリカを105~200質量部含む、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム組成物Bのジエン系ゴム100質量部は、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴム50~100質量部及びブタジエンゴム0~50質量部を含む、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物Aは、ジエン系ゴム100質量部に対して、重量平均分子量が1000~30000である熱可塑性樹脂3~50質量部を含む、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤには湿潤路面におけるグリップ性能であるウェットグリップ性能が求められており、当該性能に優れるシリカがトレッドゴムに配合されている。一般に、タイヤのトレッドゴムは、タイヤ踏面側のキャップゴムと、その内側に配されたベースゴムとの2層構造(キャップ/ベース構造)を持つ。近年、ウェットグリップ性能の要求が高まるにつれ、シリカ量を多くした高充填シリカ配合のゴム組成物がキャップゴムに多く採用されている。このようにシリカ量を多くすることによりウェットグリップ性能は高まる一方、加工性が悪化する。そこで、高充填シリカ配合においては、軟化剤を多く配合することにより加工性の悪化度合いが抑制されている。
【0003】
特許文献1には、キャップゴムを高充填シリカ配合のゴム組成物で形成し、当該ゴム組成物に含まれるスチレンブタジエンゴムのスチレン量を少なくすることにより、高速走行時の熱劣化を抑制してウェットグリップ性能を向上することが記載されている。特許文献1には、また、キャップゴムにおいて軟化剤の量を示す指標となるアセトン抽出分を多くすることにより、ウェットグリップ性能を安定して発揮させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7321429号公報
【特許文献2】特開2015-129238号公報
【特許文献3】特開2008-120940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャップ/ベース構造を持つトレッドゴムにおいて、キャップゴム中の軟化剤の量が多く、ベースゴム中の軟化剤の量が少ないと、軟化剤の成分濃度差によりキャップゴム中の軟化剤がベースゴムに移行する。これにより、キャップゴムにおいて、その表層に近い部分とベースゴムの界面に近い部分との間で、軟化剤の濃度差が生じる。すなわち、軟化剤がキャップゴムからベースゴムに移行しやすい場合、キャップゴムは、ベースゴムに近い部分においてゴムの柔らかさが減少する。そのため、トレッドゴムが当該ベースゴムに近い部分までの摩耗した段階において、ウェットグリップ性能が新品時から大きく低下する。よって、このような摩耗によるウェットグリップ性能の低下をできるだけ抑えること、すなわち、摩耗後のウェットグリップ性能の保持率を高くすることが求められる。
【0006】
なお、特許文献1には、上記のように、キャップゴムにおける軟化剤の量を多くすることでウェットグリップ性能を向上することは記載されている。特許文献2には、キャップゴムからベースゴムへの軟化剤の移動を抑制するために、キャップゴム中の軟化剤含有量をベースゴム中の軟化剤含有量よりも少なくし、それにより経年による硬度変化を抑制することが記載されている。特許文献3には、キャップゴムに軟化剤として液状ポリマーを含有させることにより、ベースゴムへの老化防止剤やワックスの移行を抑制して耐候性を向上させることが記載されている。しかしながら、キャップゴムに特定のジエン系ゴムを用いながら、キャップゴム中の軟化剤の量とベースゴム中の軟化剤の量を特定の関係とすることにより、摩耗後のウェットグリップ性能の保持率を改善できることは知られていなかった。
【0007】
本発明の実施形態は、摩耗後におけるウェットグリップ性能の保持率が高いタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] キャップゴムと前記キャップゴムの内側に配されたベースゴムとを有するトレッドゴムを備えるタイヤであって、前記キャップゴムは、ジエン系ゴム、シリカ、及び20℃で液状である分子量1000以下の軟化剤を含むゴム組成物Aにより形成され、前記ベースゴムは、ジエン系ゴムを含み、かつ20℃で液状である分子量1000以下の軟化剤を含むか又は含まないゴム組成物Bにより形成され、前記ゴム組成物Aのジエン系ゴムは、変性スチレンブタジエンゴム及び未変性スチレンブタジエンゴムを含み、前記ゴム組成物A100体積%中の軟化剤の量をa(体積%)、前記ゴム組成物B100体積%中の軟化剤の量をb(体積%)として、0≦a-b≦15.0を満たす、タイヤ。
[2] 前記ゴム組成物Aは、ジエン系ゴム100質量部に対してシリカを105~200質量部含む、[1]に記載のタイヤ。
[3] 前記ゴム組成物Bのジエン系ゴム100質量部は、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴム50~100質量部及びブタジエンゴム0~50質量部を含む、[1]又は[2]に記載のタイヤ。
[4] 前記ゴム組成物Aは、ジエン系ゴム100質量部に対して、重量平均分子量が1000~30000である熱可塑性樹脂3~50質量部を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、摩耗後におけるウェットグリップ性能の保持率が高いタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、一実施形態に係るタイヤ1を示したものである。タイヤ1は、リム組される一対のビード部4と、ビード部4からタイヤ半径方向外側に延びる一対のサイドウォール3と、該一対のサイドウォール3間をつなぐトレッド2とを備える空気入りタイヤである。タイヤ1は、一対のビード部4に夫々埋設されたビードコア5の周りにラジアル方向に配された有機繊維コードからなるカーカスプライを折り返して係止されたカーカス6と、トレッド2におけるカーカス6の外周に配されたスチールコードからなる2枚の交差ベルトプライからなるベルト7と、ベルト7の外周に配された有機繊維コードからなるキャッププライ8とを備えるラジアルタイヤである。
【0012】
トレッド2におけるキャッププライ8の外周には、路面に接地するトレッドゴム9が設けられている。トレッドゴム9は、タイヤ踏面側のキャップゴム91と、該キャップゴム91の内側に配されたベースゴム92とを含む2層構造を持ち、いわゆるキャップ/ベース構造である。
【0013】
キャップゴム91及びベースゴム92は、それぞれ、ジエン系ゴムを含むゴム組成物により形成されている。ここで、キャップゴム91を形成するゴム組成物を「ゴム組成物A」とし、ベースゴム92を形成するゴム組成物を「ゴム組成物B」とする。
【0014】
本実施形態に係るトレッドゴムは、キャップゴム中の軟化剤の量とベースゴム中の軟化剤の量が特定の関係を満たすものである。すなわち、キャップゴムのゴム組成物A100体積%中の軟化剤の量をa(体積%)とし、ベースゴムのゴム組成物B100体積%中の軟化剤の量をb(体積%)として、両者の差(a-b)が下記式(1)を満たす。
式(1): 0≦a-b≦15.0
【0015】
このようにキャップゴム中の軟化剤量a(体積%)をベースゴム中の軟化剤量b(体積%)以上としたうえで、その差(a-b)を15.0体積%以下とすることにより、キャップゴムからベースゴムへの軟化剤の移行が少なくなり、摩耗後におけるウェットグリップ性能の保持率を高めることができる。この軟化剤量の差(a-b)は、3.0~14.0体積%であることが好ましく、より好ましくは3.5~12.0体積%であり、更に好ましくは4.0~10.0体積%である。
【0016】
本明細書において、軟化剤量a,b(体積%)は下記式により算出される。
軟化剤量(体積%)={(軟化剤量(質量部)/軟化剤比重)/(ゴム組成物の全配合量(質量部)/ゴム組成物の配合比重)}×100
ここで、ゴム組成物の配合比重は、各成分の量(質量部)と比重から算出されるゴム組成物としての比重である。比重は標準気圧における4℃の水を基準物質とする。
【0017】
[ゴム組成物A]
キャップゴムを形成するゴム組成物Aは、ゴム成分としてのジエン系ゴムと、シリカと、20℃で液状である分子量1000以下の軟化剤と、を含む。
【0018】
ジエン系ゴムとは、共役二重結合を持つジエンモノマーに対応する繰り返し単位を持つゴムをいい、ポリマーの主鎖に炭素-炭素二重結合を含む。ジエン系ゴムとしては、通常、固形状ジエン系ゴムが用いられる。本明細書において、「固形状」とは常温20℃において流動性を有しないことをいう。
【0019】
本実施形態では、ゴム組成物Aのジエン系ゴムとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)が用いられ、詳細には、変性スチレンブタジエンゴム(以下、「変性SBR」ともいう。)と未変性スチレンブタジエンゴム(以下、「未変性SBR」ともいう。)が併用される。変性SBRは、シリカの分散性を向上させてウェットグリップ性能に有利である。その一方で、ゴム組成物Aに変性SBRが含まれていると、変性SBRと軟化剤との極性差などの影響により、軟化剤がキャップゴムからベースゴムに移行しやすくなる。これに対し、未変性SBRであると、このような軟化剤のベースゴムへの移行を抑制することができる。そのため、変性SBRと未変性SBRとを併用することで、上記の軟化剤量の差(a-b)の設定と相俟って、摩耗後におけるウェットグリップ性能の保持率を高めることができる。
【0020】
スチレンブタジエンゴムとしては、溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)でもよく、乳化重合スチレンブタジエンゴム(ESBR)でもよい。変性SBRは、このようなSBRにおいてその末端及び/又は主鎖が変性されたものであり、未変性SBRは、変性されていないものである。
【0021】
変性SBRとしては、シリカと相互作用する官能基が末端及び/又は主鎖に導入されることで、当該官能基により変性されたSBRが用いられる。官能基としては、酸素原子及び/又は窒素原子を含むものが好ましく、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、アミド基、アルコキシ基、シリル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、及びカルボキシ基からなる群から選択された少なくとも1種が挙げられる。このような官能基を含む変性SBRを用いることにより、シリカの分散性を向上することができる。
【0022】
ゴム組成物Aのジエン系ゴムは、変性SBR及び未変性SBRのみでもよいが、これらとともに他のジエン系ゴムを含んでもよい。他のジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。これらの中でも他のジエン系ゴムとしては、NR、IR及びBRからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
ゴム組成物Aのジエン系ゴム100質量部は、変性SBRを10~90質量部と未変性SBRを10~90質量部含んでもよく、好ましくは変性SBRを20~80質量部と未変性SBRを20~80質量部含むことであり、より好ましくは変性SBRを30~70質量部と未変性SBRを30~70質量部含むことである。
【0024】
一実施形態において、ゴム組成物Aのジエン系ゴム100質量部は、変性SBRを10~50質量部と未変性SBRを20~60質量部とBRを10~50質量部含むことが好ましく、より好ましくは変性SBRを20~40質量部と未変性SBRを30~50質量部とBRを20~40質量部含むことである。他の実施形態において、ゴム組成物Aのジエン系ゴム100質量部は、変性SBRを40~70質量部と未変性SBRを25~55質量部とNR及び/又はIRを5~25質量部含むことが好ましく、より好ましくは変性SBRを45~65質量部と未変性SBRを30~50質量部とNR及び/又はIRを5~20質量部含むことである。
【0025】
ゴム組成物Aには補強性充填剤としてシリカが配合される。シリカとしては、例えば湿式シリカ、乾式シリカが挙げられる。好ましくは、湿式沈降法シリカ、湿式ゲル化法シリカなどの湿式シリカを用いることが好ましい。
【0026】
シリカの窒素吸着比表面積(BET)は、特に限定されず、例えば100~300m2/gでもよく、150~250m2/gでもよく、160~220m2/gでもよい。シリカの窒素吸着比表面積は、JIS K6430:2008に記載のBET法に準じて測定されるBET比表面積である。
【0027】
シリカの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して105~200質量部であることが好ましく、ウェットグリップ性能を向上することができる。シリカの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、より好ましくは110~180質量部であり、より好ましくは115~150質量部であり、更に好ましくは120~140質量部である。
【0028】
ゴム組成物Aにおいて、補強性充填剤としては、シリカ単独でもよいが、シリカとともにカーボンブラックを用いてもよい。カーボンブラックの含有量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して、1~30質量部でもよく、2~20質量部でもよく、3~10質量部でもよい。
【0029】
ゴム組成物Aは、シランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤を含むことによりシリカの分散性が向上する。そのため、上記式(1)を満たすためにゴム組成物Aにおいて軟化剤の量を減らした場合であっても、加工性を維持しやすくなる。シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、2~20質量部であることが好ましく、より好ましくは5~15質量部である。
【0030】
シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシランカップリング剤、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシランカップリング剤、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシランなどのチオエステル基含有シランカップリング剤が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
ゴム組成物Aには、軟化剤が配合される。軟化剤は、配合ゴムに柔らかさを付与して可塑性・加工性を高めるための配合剤であり、本明細書では、常温で液状である分子量1000以下のものが用いられる。そのため、例えばシランカップリング剤のように硫黄を含むものは、常温で液状かつ低分子量であっても軟化剤には含まれない。本明細書において、「常温で液状」とは、20℃において流動性を有することをいう。また、分子量は、軟化剤が重合体の場合は重量平均分子量(Mw)を意味する。
【0032】
軟化剤の具体例としては、ポリオレフィン系油、ナフテン系油、パラフィン系油、留出芳香族抽出物(Distillate Aromatic Extracts(DAE))油、中度抽出溶媒和物(Medium Extracted Solvates(MES))油、処理留出芳香族抽出物(Treated Distillate Aromatic Extracts(TDAE))油、残留芳香族抽出物(Residual Aromatic Extracts(RAE))油、処理残留芳香族抽出物(Treated Residual Aromatic Extracts(TRAE))油、安全残留芳香族抽出物(Safety Residual Aromatic Extracts(SRAE))油、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、リン酸エステル可塑剤、スルホナート可塑剤、液体ジエンポリマー、及びこれらのいずれか2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン系油、ナフテン系油、パラフィン系油、アロマ系油、鉱油などの炭化水素油が好ましい。
【0033】
ゴム組成物Aにおいて、軟化剤の含有量は、上記式(1)を満たす限り特に限定されない。例えば、軟化剤の量(質量部)としては、ジエン系ゴム100質量部に対して、10~55質量部でもよく、好ましくは15~50質量部であり、より好ましくは20~45質量部である。また、軟化剤の量a(体積%)としては、例えば、5.0~22.0体積%でもよく、好ましくは7.0~20.0体積%であり、より好ましくは8.0~19.5体積%であり、更に好ましくは8.5~17.0体積%である。なお、軟化剤の量には、ジエン系ゴムとして油展ゴムを用いた場合、当該油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0034】
ゴム組成物Aは、重量平均分子量(Mw)が1000~30000である熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。該熱可塑性樹脂は、常温で固形状であり、ゴム組成物Aの混練時の加熱で可塑化する。そのため、上記式(1)を満たすためにゴム組成物Aにおいて軟化剤の量を減らした場合であっても、加工性の低下を抑制することができる。
【0035】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、より好ましくは1000より大きく20000以下であり、より好ましくは1100~10000であり、より好ましくは1500~8000であり、更に好ましくは2000~5000である。
【0036】
本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算にて求められる。詳細には、下記実施例では、試料10mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解させたものを測定対象とした。該測定対象をフィルター透過後、(株)島津製作所製「Nexera」を使用し、温度40℃、流量1.0mL/分でカラム(アジレント・テクノロジー社製、PLgel GUARD 5μm 50×7.5mm+PLgel 50Å 5μm 300×7.5mm+PLgel 100Å 5μm 300×7.5mm+PLgel 500Å 5μm 300×7.5mm)を通し、示差屈折率検出器で検出し、市販の標準ポリスチレンを用いたポリスチレン換算で分子量を算出した。
【0037】
熱可塑性樹脂の具体例としては、テルペン系樹脂、スチレン系樹脂、石油樹脂、ロジン系樹脂、クマロン系樹脂などが挙げられ、これらをいずれか1種又は2種以上併用してもよい。これらの中でも、ジエン系ゴムとの相溶性の観点から、スチレン系樹脂などの芳香族ユニット(芳香環を持つ構成単位)を持つ樹脂が好ましい。
【0038】
テルペン系樹脂は、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテンなどのテルペンモノマーを重合してなる樹脂であり、テルペンモノマーのみを使用して生産されるポリテルペン樹脂の他、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂などが例示される。ポリテルペン樹脂としては、例えばα-ピネン/β-ピネン混合樹脂が好ましい。
【0039】
スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、α-メチルスチレン単独重合体、スチレン/α-メチルスチレン共重合体、スチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合体、α-メチルスチレン/脂肪族系モノマー共重合体、スチレン系モノマー/α-メチルスチレン/脂肪族系モノマー共重合体などが挙げられる。
【0040】
石油樹脂としては、例えば、脂肪族系石油樹脂(C5系石油樹脂)、芳香族系石油樹脂(C9系石油樹脂)、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂(C5/C9系石油樹脂。)が挙げられる。C5系石油樹脂は、炭素数4~5個相当の石油留分(C5留分)であるイソプレンやシクロペンタジエンなどの不飽和モノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂であり、水添したものであってもよい。C9系石油樹脂は、炭素数8~10個相当の石油留分(C9留分)であるビニルトルエン、アルキルスチレン、インデンなどのモノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂であり、水添したものであってもよい。C/C9系石油樹脂は、C5留分とC9留分とをカチオン重合により共重合して得られる樹脂であり、水添したものであってもよい。
【0041】
ロジン系樹脂としては、例えば、天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化などで変性したロジン変性樹脂(例えば、ロジン変性マレイン酸樹脂)などが挙げられる。
【0042】
クマロン系樹脂は、クマロンを主成分とする樹脂であり、例えば、クマロン樹脂、クマロン-インデン樹脂、クマロンとインデンとスチレンを主成分とする共重合樹脂などが挙げられる。
【0043】
熱可塑性樹脂の軟化点は特に限定されず、例えば40~160℃でもよく、60~140℃でもよく、80~130℃でもよい。熱可塑性樹脂の軟化点は、JIS K6220-1:2001に準拠して、環球式軟化点測定装置を用いて測定される。
【0044】
ゴム組成物Aにおいて、上記熱可塑性樹脂の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、3~50質量部であることが好ましく、より好ましくは5~40質量部であり、より好ましくは8~35質量部であり、更に好ましくは10~30質量部である。
【0045】
ゴム組成物Aにおいて、上記軟化剤と熱可塑性樹脂との合計量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して、25~70質量部であることが好ましく、より好ましくは30~65質量部であり、より好ましくは35~60質量部であり、更に好ましくは40~55質量部である。
【0046】
ゴム組成物Aには、上記成分の他に、任意成分として、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤が配合されてもよい。
【0047】
酸化亜鉛の含有量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0048】
ステアリン酸の含有量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0049】
老化防止剤としては、例えば、アミン-ケトン系、芳香族第二級アミン系、モノフェノール系、ビスフェノール系、ベンズイミダゾール系などの各種老化防止剤が挙げられ、いずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の含有量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0~10質量部でもよく、1~5質量部でもよい。
【0050】
ワックスの含有量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0051】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の含有量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~3質量部でもよい。
【0052】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、及びチアゾール系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の含有量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、1~4質量部でもよい。
【0053】
[ゴム組成物B]
ベースゴムを形成するゴム組成物Bは、ゴム成分としてのジエン系ゴムを含む。ゴム組成物Bのジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。これらの中でも、NR、IR、BR及びSBRからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0054】
一実施形態において、ゴム組成物Bのジエン系ゴム100質量部は、NR及び/又はIRを50~100質量部とBRを0~50質量部含むことが好ましい(これにはBRを含まない態様も含まれる)。より好ましくは、ジエン系ゴム100質量部は、NR及び/又はIRを55~100質量部とBRを0~45質量部含むことであり、NR及び/又はIRを60~80質量部とBRを20~40質量部含んでもよい。
【0055】
ゴム組成物Bには、20℃で液状である分子量1000以下の軟化剤が含まれてもよく、含まれなくてもよい。好ましくは、ゴム組成物Bは、該軟化剤を、ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上含むことである。ゴム組成物Bにおいて、軟化剤の含有量は、上記式(1)を満たす範囲で調整することができる。例えば、軟化剤の量(質量部)としては、ジエン系ゴム100質量部に対して、2~30質量部であることが好ましく、より好ましくは3~20質量部であり、より好ましくは4~15質量部であり、更に好ましくは5~10質量部である。また、軟化剤の量b(体積%)としては、例えば、0~15.0体積%でもよく、好ましくは1.0~12.0体積%であり、より好ましくは2.0~10.0体積%であり、更に好ましくは3.0~8.0体積%である。
【0056】
ゴム組成物Bにおいて、軟化剤の定義や具体例などの詳細については、ゴム組成物Aと同様であり、そのため、軟化剤としては、ポリオレフィン系油、ナフテン系油、パラフィン系油、アロマ系油、鉱油などの炭化水素油が好ましい。ゴム組成物Aの軟化剤とゴム組成物Bの軟化剤とは、同じものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。
【0057】
ゴム組成物Bには補強性充填剤が配合される。ゴム組成物Bの補強性充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカが用いられ、好ましくはカーボンブラックを用いることである。補強性充填剤の含有量は特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して10~80質量部でもよく、15~60質量部でもよく、20~50質量部でもよい。カーボンブラックの含有量も特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して10~80質量部でもよく、15~60質量部でもよく、20~50質量部でもよい。
【0058】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。具体的には、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)が挙げられる。これら各グレードのカーボンブラックは、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0059】
ゴム組成物Bには、上記成分の他に、任意成分として、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤が配合されてもよい。これらの具体例及び含有量については、ゴム組成物Aと同様であり、説明は省略する。
【0060】
[ゴム組成物の調製方法]
上記のゴム組成物A及びBは、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロールなどの混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ジエン系ゴムに対し、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤が添加混合される。次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤が添加混合される。これにより、未加硫のゴム組成物A及びBをそれぞれ調製することができる。
【0061】
[タイヤ]
一実施形態としての空気入りタイヤは、次のようにして製造することができる。ゴム組成物Aを用いてゴム用押し出し機により未加硫のキャップゴム部材を作製する。また、ゴム組成物Bを用いてゴム用押し出し機により未加硫のベースゴム部材を作製する。これら未加硫のキャップゴム部材とベースゴム部材を積層して未加硫のトレッドゴム部材を作製するとともに、他のタイヤ部材と組み合わせて、未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)を成形する。その後、該未加硫タイヤを用いて、常法に従い、例えば140~180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【0062】
実施形態に係るタイヤの種類は、特に限定されず、例えば、乗用車用タイヤ、トラックやバスの大型タイヤなど、各種用途・各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。
【実施例0063】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
・BR:UBE(株)製「BR150B」(比重:0.91、Tg:-104℃)
・SBR1:未変性ESBR、(株)ENEOSマテリアル製「SBR1723」(ゴム分100質量部に対して37.5質量部の油展品、比重:油展品として0.93(オイルの比重は0.94)、Tg:-53℃、)
・SBR2:アルコキシル基及びアミノ基末端変性溶液重合SBR、(株)ENEOSマテリアル製「HPR355」(比重:0.93、Tg:-24℃)
・NR:RSS#3(比重:0.92)
【0065】
・カーボンブラック:HAF、東海カーボン(株)製「シースト3」(比重:1.8)
・シリカ:エボニックインダストリーズ社製「Ultrasil VN3」(BET:180m2/g、比重:1.95)
・シランカップリング剤1:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックインダストリーズ社製「Si69」(比重:1.1)
・シランカップリング剤2:3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「NXT」(比重:0.97)
・軟化剤:プロセスオイル、重量平均分子量:700、ENEOS(株)製「プロセスNC-140」(比重:0.94)
【0066】
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛2種」(比重:5.6)
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」(比重:0.85)
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」(比重:1.09)
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」(比重:0.9)
・樹脂1:α-ピネン/β-ピネン混合樹脂、クレイトン社製「SYLVATRAXX4150」(重量平均分子量:2110、軟化点:115℃、比重:0.98)
・樹脂2:スチレン系樹脂、クレイトン社製「SYLVATRAXX4401」(重量平均分子量:1200、軟化点:85℃、比重:1.06)
・樹脂3:スチレン系樹脂、三井化学(株)製「FTR2120」(重量平均分子量:2600、軟化点:125℃、比重:1.07)
【0067】
・硫黄:鶴見化学工業(株)「粉末硫黄」(比重:2)
・加硫促進剤CZ:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」(比重:1.29)
・加硫促進剤DPG:大内新興化学(株)製「ノクセラーD」(比重:1.2)
【0068】
実施例及び比較例における評価方法は以下のとおりである。
(1)初期ウェットグリップ性能
摩耗前の試作タイヤ4本を乗用車に装着し、2~3mmの水深で水をまいた路面上を走行し、時速100kmにて摩擦係数を測定し、ウェットグリップ性能を評価した。表2では比較例1の摩擦係数を、表3では比較例11の摩擦係数を、それぞれ100として指数表示した。数値が大きいほど新品時のウェットグリップ性能が高く良好であることを示す。
【0069】
(2)摩耗後ウェットグリップ性能
タイヤ研磨装置(有限会社エー・アイ・エス製「けんま君」)を用いて、試作タイヤのトレッド表面をトレッド溝底からのトレッド厚さが2mm±0.4mmとなるように切削し、摩耗後タイヤを作製した。すなわち、摩耗後タイヤは、トレッドの溝深さが2mmとなるようにキャップゴムが削られたものである。摩耗後タイヤ4本を用いて、上記の初期ウェットグリップ性能と同様の評価を行い、表2では比較例1の摩耗係数を、表3では比較例11の摩擦係数を、それぞれ100として指数表示した。数値が大きいほど摩耗後のウェットグリップ性能が高く良好であることを示す。
【0070】
(3)摩耗後のウェットグリップ性能保持率
上記の初期ウェットグリップ性能評価における摩擦係数を「初期摩擦係数」とし、摩耗後ウェットグリップ性能評価における摩擦係数を「摩耗後摩擦係数」として、下記式により、摩耗後のウェットグリップ性能保持率(保持率)を算出した。数値が高いほど、初期のウェットグリップ性能に対する摩耗後のウェットグリップ性能の低下が小さく、良好であることを示す。
保持率(%)=(摩耗後摩擦係数/初期摩擦係数)×100
【0071】
[ベースゴム用ゴム組成物Bの調製]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ベースゴムのためのゴム組成物BとしてBASE(1)~(4)を調製した。
【0072】
表1において、軟化剤量b(体積%)は下記式により算出した。表2及び表3の軟化剤量a(体積%)についても同様である。
軟化剤量(体積%)={(軟化剤量(質量部)/軟化剤比重)/(ゴム組成物の全配合量(質量部)/ゴム組成物の配合比重)}×100
ここで、ゴム組成物の配合比重は、各成分の量(質量部)と比重から算出されるゴム組成物としての比重であり、表1~3中に「配合比重」として示す。比重は、通常の通りの、標準気圧における4℃の水を基準物質とする。
【0073】
【0074】
[第1実験例]
(キャップゴム用ゴム組成物Aの調製)
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、キャップゴムのためのゴム組成物Aを調製した。
【0075】
表2中の「SBR1」の量について、括弧内は油展分としてのオイル(軟化剤)の質量部であり、残部はゴム分の量である。また、表2中の「軟化剤」の配合量には、SBR1の油展分のオイル量は含まれない。これらは下記の表3についても同様である。
【0076】
(タイヤの作製)
表2に従い、ゴム組成物Aをキャップゴムに、ゴム組成物Bをベースゴムにそれぞれ用いて、常法に従い加硫成形することにより、空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ:215/45ZR17)を作製した。その際、キャップゴム及びベースゴムの各層の厚さについては、トレッドセンターリブでのキャップゴムの厚さを13mm、ベースゴムの厚さを2mmとした。得られた試作タイヤについて、初期ウェットグリップ性能、摩耗後ウェットグリップ性能、及び、摩耗後のウェットグリップ性能保持率を評価した。結果を表2に示す。
【0077】
【0078】
比較例1は、キャップゴムとベースゴムとの軟化剤量の差(a-b)が15.0体積%を超える例であり、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が低く、67%であった。比較例2は、該軟化剤量の差(a-b)が比較例1よりも更に大きい例である。比較例2では、比較例1に比べて、キャップゴムとベースゴムとの間での軟化剤の濃度が大きいため、ベースゴムへの軟化剤の移行が多く、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が更に悪化した。
【0079】
比較例3では、該軟化剤量の差(a-b)は15.0体積%以下であるが、キャップゴムのSBRとして変性SBRのみを用い、未変性SBRと併用していない。そのため、初期のウェットグリップ性能には優れるものの、摩耗後のウェットグリップ性能保持率は比較例1よりも劣っていた。
【0080】
これに対し、実施例1~6であると、キャップゴムとベースゴムとの軟化剤量の差(a-b)が15.0体積%以下であり、比較例1に比べて、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が高かった。実施例1~3に示されるように、軟化剤量の差(a-b)が小さいほど、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が高く、良好であった。
【0081】
軟化剤と併用する熱可塑性樹脂について、スチレン系樹脂(樹脂2,3)は、テルペン系樹脂(樹脂1)に比べてSBRとの相溶性が高いため、ベースゴムへの移行が少なく、そのため、実施例4~6では、実施例3に比べて、摩耗後のウェットグリップ性能保持率に優れていた。また、スチレン系樹脂でも分子量がより高い樹脂3を用いた実施例6であると、樹脂2を用いた実施例5に比べて、摩耗後のウェットグリップ性能保持率に優れていた。
【0082】
[第2実験例]
(キャップゴム用ゴム組成物Aの調製)
バンバリーミキサーを使用し、下記表3に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、キャップゴムのためのゴム組成物Aを調製した。
【0083】
(タイヤの作製)
表3に従い、ゴム組成物Aをキャップゴムに、ゴム組成物Bをベースゴムにそれぞれ用いて、第1実験例と同様にして、空気入りラジアルタイヤを作製した。得られた試作タイヤについて、初期ウェットグリップ性能、摩耗後ウェットグリップ性能、及び、摩耗後のウェットグリップ性能保持率を評価した。結果を表3に示す。
【0084】
【0085】
比較例11は、キャップゴムとベースゴムとの軟化剤量の差(a-b)が15.0体積%を超える例であり、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が低く、66%であった。比較例12は、該軟化剤量の差(a-b)が比較例11よりも大きく、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が更に悪化した。比較例13では、キャップゴムにおいて変性SBRと未変性SBRと併用していないので、初期のウェットグリップ性能には優れるものの、摩耗後のウェットグリップ性能保持率に劣っていた。
【0086】
これに対し、実施例11~15であると、キャップゴムとベースゴムとの軟化剤量の差(a-b)が15.0体積%以下であり、比較例11に比べて、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が高かった。実施例11~13に示されるように、軟化剤量の差(a-b)が小さいほど、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が良好であった。
【0087】
実施例14は、ベースゴムのジエン系ゴムを天然ゴムのみとした例であるが、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が、実施例13と同様に高い値であった。実施例15は、ベースゴムのジエン系ゴムとしてBRを多く含む例である。実施例15では、ジエン系ゴムの過半数がBRであるため、分子運動性の高いBRが海相となることによってベースゴムに軟化剤が取り込まれやすくなり、そのため、摩耗後のウェットグリップ性能保持率が、比較例11に対しては優れていたものの、実施例11に比べて低下していた。
【0088】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
1…タイヤ、2…トレッド、3…サイドウォール、4…ビード部、5…ビードコア、6…カーカス、7…ベルト、8…キャッププライ、9…トレッドゴム、91…キャップゴム、92…ベースゴム