(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009372
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】人員配置計画システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/0631 20230101AFI20250110BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20250110BHJP
【FI】
G06Q10/0631
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112341
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】門井 優文
(72)【発明者】
【氏名】松本 健介
(72)【発明者】
【氏名】徳田 茂史
(72)【発明者】
【氏名】伴 拓実
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】ショウ アンビ
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英男
(72)【発明者】
【氏名】宮原 謙太
(72)【発明者】
【氏名】山内 慎祐
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L010AA06
5L049AA06
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】
【課題】個々の作業者の熟練度を考慮した人員配置を計画できるようにする。
【解決手段】人員配置計画システム100は、複数の作業者による作業によって目標処理計画が達成されるように、デジタルツインライン22を用いて人員配置を計画する。デジタルツインライン22は連携する複数の作業者によって構成されるリアルライン2をモデル化したものであって、複数の作業者のそれぞれの熟練度をパラメータとして有する。人員配置計画システム100は、人員配置計画の元で得られる作業経験に基づき、デジタルツインライン22で用いる複数の作業者のそれぞれの熟練度を更新する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連携する複数の作業者によって構成されるラインに対する人員配置を計画するシステムであって、
少なくとも一つのプロセッサと、
前記少なくとも一つのプロセッサと結合される或いは前記少なくとも一つのプロセッサに内蔵される少なくとも一つのメモリと、
前記少なくとも一つのメモリに記憶された前記少なくとも一つのプロセッサで実行可能な複数のインストラクションと、を備え、
前記複数のインストラクションは前記少なくとも一つのプロセッサに、
前記ラインに対する目標処理計画を受け付けることと、
前記複数の作業者による作業によって前記目標処理計画が達成されるように、前記ラインをモデル化したシミュレーションモデルであって、前記複数の作業者のそれぞれの熟練度をパラメータとして有するシミュレーションモデルを用いて人員配置計画を作成することと、
前記人員配置計画の元で得られる作業経験に基づき前記シミュレーションモデルで用いる前記複数の作業者のそれぞれの熟練度を更新することと、を実行させるように構成されている
ことを特徴とする人員配置計画システム。
【請求項2】
請求項1に記載の人員配置計画システムにおいて、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、前記複数の作業者の間における目標熟練度分布を受け付けること、をさらに実行させるように構成され、
前記人員配置計画を作成することは前記目標処理計画を達成しつつ所定期間内に前記目標熟練度分布を実現するための人員配置計画を前記シミュレーションモデルで探索することを含む
ことを特徴とする人員配置計画システム。
【請求項3】
請求項2に記載の人員配置計画システムにおいて、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、前記所定期間を目標値として受け付けること、をさらに実行させるように構成されている
ことを特徴とする人員配置計画システム。
【請求項4】
請求項1に記載の人員配置計画システムにおいて、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、作業者ごとに用意された熟練度成長曲線グラフに作業者ごとの累積作業経験を入力することによって前記複数の作業者のそれぞれの熟練度を更新させる、ように構成されている
ことを特徴とする人員配置計画システム。
【請求項5】
請求項4に記載の人員配置計画システムにおいて、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、
現実空間における前記複数の作業者のそれぞれの能力データを取得することと、
作業者ごとの能力データに基づき作業者ごとに前記熟練度成長曲線グラフを補正することと、をさらに実行させるように構成されている
ことを特徴とする人員配置計画システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生産ラインや物流ラインにおける人員の配置を計画するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-174098号公報には、製品に個別に仕様や納期が設定されている製造工程を対象とした作業計画の作成に関する従来技術が開示されている。この従来技術によれば、生産量や納期遵守率などの生産指標が定量的に予測される。そして、作業者のスキル不足で生産指標が悪化する場合、作業者の育成計画を考慮した上で作業者の割付計画を含めた製品の作業計画が作成される。
【0003】
製造工程における生産能力は個々の作業者の熟練度に依存する。作業者の熟練度は作業経験を積むことで向上し、熟練度が向上することでその作業者の生産能力は向上する。このことは物流工程において物品のハンドリング作業に従事している作業者にも共通することである。しかし、上記の従来技術では作業計画を作成する上で個々の作業者の熟練度については考慮されていない。
【0004】
本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、特開2012-174098号公報の他にも特開2010-244176号公報を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-174098号公報
【特許文献2】特開2010-244176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものである。本開示の一つの目的は、個々の作業者の熟練度を考慮した人員配置を計画できるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第一の側面は、連携する複数の作業者によって構成されるラインに対する人員配置を計画するシステムを含む。システムはプロセッサと、プロセッサと結合される或いはプロセッサに内蔵されるメモリと、メモリに記憶された複数のインストラクションとを含む。複数のインストラクションはプロセッサに以下の三つの処理を実行させる。第一の処理はラインに対する目標処理計画を受け付ける処理である。第二の処理は、作業者による作業によって目標処理計画が達成されるように、シミュレーションモデルを用いて人員配置計画を作成する処理である。シミュレーションモデルはラインをモデル化したものであって、作業者のそれぞれの熟練度をパラメータとして有する。そして、第三の処理は、人員配置計画の元で得られる作業経験に基づき、シミュレーションモデルで用いる作業者のそれぞれの熟練度を更新する処理である。個々の作業者の熟練度に応じた人員配置計画を作成し、その人員配置計画に従い作業が行われるたびに作業者ごとに熟練度を更新していくことによって、目標処理計画を達成する上で現在の作業者の熟練度に見合った人員配置計画を作成することが可能となる。
【0008】
上記第一の側面の第一の態様では、複数のインストラクションは、プロセッサに、作業者間における目標熟練度分布を受け付けさせてもよい。その場合、人員配置計画を作成することは、目標処理計画を達成しつつ所定期間内に目標熟練度分布を実現するための人員配置計画をシミュレーションモデルで探索することを含んでもよい。作業経験の差によって作業者間には熟練度のばらつきがある。また、全ての作業者の熟練度を上級レベルまで上げるには長い時間を要する。しかし、連携する複数の作業者によって構成されるラインでは、必ずしも全ての作業者の熟練度が上級レベルでなくとも、作業者間の熟練度の分布次第ではライン全体として高い作業能力が得られることが分かっている。ゆえに、本態様によれば、目標処理計画を達成しながら、所望の熟練度分布を実現することができる。
【0009】
上記第一の側面の上記第一の態様において、複数のインストラクションは、プロセッサに、目標熟練度分布を実現する期間を目標値として受け付けさせてもよい。そうすることで、所望の期間内で所望の熟練度分布を実現することが可能となる。
【0010】
上記第一の側面の第二の態様では、複数のインストラクションは、プロセッサに、作業者ごとに用意された熟練度成長曲線グラフに作業者ごとの累積作業経験を入力することによって作業者それぞれの熟練度を更新させてもよい。作業者ごとに用意された熟練度成長曲線グラフを用いることで、作業者ごとの熟練度を容易に求めることができる。
【0011】
上記第一の側面の上記第二の態様において、複数のインストラクションは、プロセッサに、現実空間における作業者それぞれの能力データを取得する処理と、作業者ごとの能力データに基づき作業者ごとに熟練度成長曲線グラフを補正する処理とをさらに実行させてもよい。現実空間において取得された作業者の能力データを熟練度成長曲線グラフに反映することによって熟練度成長曲線グラフを作業者ごとに個人化することができ、シミュレーションモデルで用いる熟練度の精度を高めることができる。
【0012】
本開示の第二の側面は連携する複数の作業者によって構成されるラインに対する人員配置を計画するシステムを含む。システムはプロセッサと、プロセッサと結合される或いはプロセッサに内蔵されるメモリと、メモリに記憶された複数のインストラクションとを含む。複数のインストラクションはプロセッサに以下の三つの処理を実行させる。第一の処理はラインに対する目標処理計画を受け付ける処理である。第二の処理は、作業者による作業によって目標処理計画が達成されるように、シミュレーションモデルを用いて人員配置計画を作成する処理である。シミュレーションモデルはラインをモデル化したものであって、作業者のそれぞれの作業内容ごとの熟練度をパラメータとして有する。そして、第三の処理は、人員配置計画の元で得られる作業内容ごとの作業経験に基づき、シミュレーションモデルで用いる作業者のそれぞれの熟練度を作業内容ごとに更新する処理である。作業者が異なる内容の複数の作業に従事した場合、作業内容ごとに経験を積み、作業内容ごとに熟練度が向上していく。個々の作業者の作業内容ごとの熟練度に応じた人員配置計画を作成し、その人員配置計画に従い作業が行われるたびに作業者ごと且つ作業内容ごとに熟練度を更新していくことによって、目標処理計画を達成する上で現在の作業者の作業内容ごとの熟練度に見合った人員配置計画を作成することが可能となる。
【0013】
上記第二の側面の第一の態様では、複数のインストラクションは、プロセッサに、作業者間における作業内容ごとの目標熟練度分布を受け付けさせてもよい。その場合、人員配置計画を作成することは、目標処理計画を達成しつつ所定期間内に作業内容ごとの目標熟練度分布を実現するための人員配置計画をシミュレーションモデルで探索することを含んでもよい。異なる内容の複数の作業が必要とされるラインでは、必ずしも全ての作業について作業者の熟練度が上級レベルでなくとも、作業者間の作業内容ごとの熟練度の分布次第ではライン全体として高い作業能力が得られることが分かっている。ゆえに、本態様によれば、目標処理計画を達成しながら、作業内容ごとに所望の熟練度分布を実現することができる。
【0014】
上記第二の側面の上記第一の態様において、複数のインストラクションは、プロセッサに、目標熟練度分布を実現する期間を目標値として受け付けさせてもよい。そうすることで、所望の期間内で作業内容ごとに所望の熟練度分布を実現することが可能となる。
【0015】
上記第二の側面の第二の態様では、複数のインストラクションは、プロセッサに、作業者ごと且つ作業内容ごとに用意された熟練度成長曲線グラフに作業者ごと且つ作業内容ごとの累積作業経験を入力することによって作業者それぞれの熟練度を作業内容ごとに更新させてもよい。作業者ごと且つ作業内容ごとに用意された熟練度成長曲線グラフを用いることで作業者ごとの熟練度を作業内容ごとに容易に求めることができる。
【0016】
上記第二の側面の上記第二の態様において、複数のインストラクションは、プロセッサに、現実空間における作業者それぞれの能力データを取得する処理と、作業者ごとの能力データに基づき作業者ごと且つ作業内容ごとに熟練度成長曲線グラフを補正する処理とをさらに実行させてもよい。現実空間において取得された作業者の能力データを熟練度成長曲線グラフに反映することによって熟練度成長曲線グラフを作業者ごと且つ作業内容ごとに個人化することができ、シミュレーションモデルで用いる熟練度の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本開示によれば、目標処理計画を達成する上で現在の作業者の熟練度に見合った人員配置を計画することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】人員配置計画システムの概要を示す図である。
【
図3】作業者ごとの熟練度成長曲線グラフの例を示す図である。
【
図4】シミュレーションによって得られる人員配置計画の例を示す図である。
【
図5】作業内容ごとの目標熟練度分布の例を示す図である。
【
図6】作業者ごと且つ作業内容ごとの熟練度成長曲線グラフの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.人員配置計画システムの概要
図1は本実施形態に係る人員配置計画システム100の概要の概要を示す図である。人員配置計画システム100は、現実世界における工場又は物流センタのライン(以下、リアルラインという)2に対する人員の配置を計画するシステムである。
【0020】
リアルライン2は複数の工程を含み、連携する複数の作業者によって構成されている。
図1に示す例では、リアルライン2は工程A、工程B、工程C、及び工程Dを含む。そして、工程Aには二人の作業員、工程Bには三人の作業員、工程Cには三人の作業員、工程Dには二人の作業員がそれぞれ配置されている。同一工程に配置された作業者は協働して作業を行う作業グループを構成する。
【0021】
人員配置計画システム100は計画作成装置10を備える。計画作成装置10はリアルライン2に対して提示する人員配置計画を作成する装置である。人員配置計画の作成のための情報として、計画作成装置10には目標処理計画TPP、目標熟練度分布TSD、及び目標育成期間TDPが入力される。目標処理計画TPPは設定期間におけるリアルライン2での処理量についての計画である。設定期間は例えば一日、一週間、一か月等の期間に設定される。目標熟練度分布TSDは、目標とする作業者の熟練度の分布である。例えば、作業者を熟練度別に上級者、中級者、及び初級者で分類した場合、それぞれの目標割合が目標熟練度分布TSDとして表される。目標育成期間TDPは、作業者を育成して目標熟練度分布TSDを達成するまでの目標期間である。目標育成期間TDPは、目標処理計画TPPの設定期間よりも長い期間、例えば、数か月、半年、一年等の期間に設定される。これら目標値の計画作成装置10への入力は、計画作成装置10に接続された図示しない入力装置から行うことができる。オペレータは任意の値を目標値として設定することができる。
【0022】
また、計画作成装置10には、人員配置計画の作成のための情報として、リアルライン2から取得したリアルデータRDが入力される。リアルデータRDは、工場又は物流センタに設置されたカメラや、個々の作業者が装着するウェアラブルデバイス等のセンサで取得される観測データを含む。また、リアルデータRDは、一日、一週間、一か月等の単位期間におけるリアルライン2の作業実績値を含む。計画作成装置10は、リアルライン2に設置されたデータ収集用のコンピュータとネットワークによって接続されている。リアルデータRDは、データの内容に応じてリアルタイムで計画作成装置10に送信されてもよいし、一定時間ごとに計画作成装置10に送信されてもよい。
【0023】
計画作成装置10はシミュレータ20を用いて人員配置計画のシミュレーションを行う。計画作成装置10は、取得した目標処理計画TPP、目標熟練度分布TSD、目標育成期間TDP、及びリアルデータRDをシミュレータ20に入力する。
【0024】
シミュレータ20は人員配置計画のシミュレーションにデジタルツインライン22を使用する。デジタルツインライン22はリアルライン2を仮想空間上に再現したシミュレーションモデルである。ゆえに、
図1に示す例では、デジタルツインライン22は工程A、工程B、工程C、及び工程Dを含み、工程Aには二人の作業員、工程Bには三人の作業員、工程Cには三人の作業員、工程Dには二人の作業員がそれぞれ配置されている。
【0025】
デジタルツインライン22のパラメータは作業者ごとの熟練度を含む。現実世界では作業者の熟練度には作業者ごとにばらつきがある。デジタルツインライン22上の作業者にもリアルライン2の作業者と同じく作業者ごとに熟練度が設定されている。各作業者の熟練度はシミュレーションにおいて更新される。熟練度の更新にはリアルライン2から取得されたリアルデータRDが利用される。例えば、リアルデータRDに含まれる作業者ごとの作業時間や作業実績によって作業者ごとに熟練度の上昇量が計算される。
【0026】
シミュレータ20はデジタルツインライン22を用いて目標を達成できる人員の配置パターンを探索する。つまり、目標処理計画TPPを達成し、且つ、目標育成期間TDP内に目標熟練度分布TSDを達成できる人員の配置パターンが探索される。シミュレータ20による配置パターンの探索には、例えば、遺伝的アルゴリズムが用いられる。シミュレータ20は、配置パターンの探索結果をシミュレーション結果SRとして計画作成装置10に出力する。
【0027】
計画作成装置10はシミュレーション結果SRに基づきリアルライン2の人員配置計画PAを作成する。作成された人員配置計画PAは、例えば、リアルライン2の管理コンピュータに送信される。管理コンピュータは人員配置計画PAに従って各作業員に対しリアルライン2上での作業位置を指示する。人員配置計画PAに従いリアルライン2上に作業員を配置することによって、目標処理計画を達成しつつ、目標育成期間内に目標熟練度分布を実現することが可能となる。
【0028】
なお、人員配置計画システム100は、少なくとも一つのプロセッサ(以下、単にプロセッサと表記する)と、プロセッサと結合された或いはプロセッサ12に内蔵された少なくとも一つのメモリ(以下、単にメモリと表記する)とを備える。メモリにはプロセッサにより実行可能なプログラムが記憶されている。プログラムは複数のインストラクションを含む。それらインストラクションには、プロセッサを計画作成装置10として機能させるインストラクションと、プロセッサをシミュレータ20として機能させるインストラクションが含まれている。なお、プログラムはコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶可能である。
【0029】
以下、人員配置計画システム100により行われる人員配置計画の二つの実施形態について説明する。
【0030】
2.第一実施形態の人員配置計画
第一実施形態は工程間で作業内容に大差がないラインを対象とする人員配置計画である。シミュレータ20のデジタルツインライン22には、作業員ごとの熟練度がパラメータとして設定されている。計画作成装置10は、シミュレータ20にリアルデータRDを入力し、連携する複数の作業者による作業によって目標処理計画TPPを達成しつつ、目標育成期間TDP内に目標熟練度分布TSDが実現される人員配置計画についてシミュレーションする。
【0031】
図2は第一実施形態で計画作成装置10に入力される目標熟練度分布の一例である。
図2に示す例では、全作業者を熟練度別に上級者、中級者、初級者に分類した場合に、全作業者に占める上級者の割合を30%、中級者の割合を40%、初級者の割合を30%とすることが目標として設定されている。目標熟練度分布は達成される度に更新されてもよい。例えば、
図2に示す目標熟練度分布が達成されたら、次は、上級者の割合を35%、中級者の割合を50%、初級者の割合を15%とすることが新たな目標として設定されてもよい。
【0032】
ただし、作業経験に対する熟練度の向上速度は熟練度が高くなるにつれて鈍る。また、作業者の交代によって上級者がラインから抜けて初級者が新たに入ってくることもある。このため、全ての作業者を上級者にすることは現実的には難しい。よって、結局のところ上級者、中級者、初級者のそれぞれが適度な割合で存在する熟練度分布が最終的な目標熟練度分布として設定される。
【0033】
各作業者の熟練度は
図3に示すような熟練度成長曲線グラフを用いて計算される。熟練度成長曲線グラフは作業者ごとに用意される。熟練度成長曲線グラフの横軸は作業経験の経験回数、すなわち、累積作業経験である。作業者が作業経験を積むたびに熟練度が更新される。作業経験が少ない間は熟練度の成長度合いは大きいが、ある程度作業経験を積むと熟練度の成長は鈍り飽和状態となる。
【0034】
熟練度成長曲線グラフは作業者ごとに異なる形状を有している。熟練度成長曲線グラフの初期形状は作業者間で共通でもよいし、各作業者の属性(年齢、性別、体格)や過去の職務経験によって異ならせてもよい。作業者がラインに立って作業経験を積み始めた後は、リアルライン2から取得したリアルデータRDに基づいて作業者ごとに熟練度成長曲線グラフが補正される。熟練度成長曲線グラフの補正には、リアルデーRDに含まれる処理速度や処理量などの作業者それぞれの能力データが用いられる。
【0035】
図4はシミュレータ20によるシミュレーションによって得られる人員配置計画の一例を示す。
図4において、黒色の人物は熟練度が高い上級者を示し、ハッチングされた人物は熟練度が中程度の中級者を示し、白色の人物は熟練度が低い初級者を示している。シミュレーションによって得られた人員配置のうち、上段は処理量を優先する人員配置であり、下段は初心者の育成を優先する人員配置である。
【0036】
処理量優先の人員配置では、工程間で処理能力が均一になるように作業者が配置されている。育成優先の人員配置では、初級者と上級者がペアになるように或いは複数の中級者以上のものと初級者がグループになるように作業者が配置されている。目標処理量が多い場合には処理量優先の人員配置を採用し、目標処理量が少ない場合には育成優先の人員配置にすることで、目標処理計画を達成しつつ作業者の育成も進めることができる。
【0037】
第一実施形態では、個々の作業者の熟練度に応じた人員配置計画が作成される。その人員配置計画に従い作業が行われるたびに作業者ごとに熟練度が更新されていくことによって、目標処理計画を達成する上で現在の各作業者の熟練度に見合った人員配置計画を作成することができる。
【0038】
3.第二実施形態の人員配置計画
第二実施形態は工程間で作業内容に大きな違いがあるラインを対象とする人員配置計画である。シミュレータ20のデジタルツインライン22には作業員ごと且つ作業内容ごとの熟練度がパラメータとして設定されている。計画作成装置10は、シミュレータ20にリアルデータRDを入力し、連携する複数の作業者による作業によって目標処理計画TPPを達成しつつ、目標育成期間TDP内に作業内容ごとの目標熟練度分布TSDが実現される人員配置計画についてシミュレーションする。
【0039】
図5は第二実施形態で計画作成装置10に入力される作業内容ごとの目標熟練度分布の一例である。
図5に示す例では、作業Aと作業Bのそれぞれについて、全作業者に占める上級者の目標割合、中級者の目標割合、初級者の目標割合が設定されている。目標熟練度分布の更新は作業内容ごとに行われてもよい。例えば、作業Aの目標熟練度分布が未達成であっても、作業Bの目標熟練度分布が達成された場合には、作業Bの目標熟練度分布のみ更新されてもよい。なお、
図5に示す例では作業Aと作業Bの二つの作業内容に対して目標熟練度分布が設定されているが、三つ以上の作業内容に対して目標熟練度分布が設定されてもよい。
【0040】
各作業者の作業内容ごとの熟練度は
図6に示すような熟練度成長曲線グラフを用いて計算される。熟練度成長曲線グラフは作業者ごと且つ作業内容ごとに用意される。熟練度成長曲線グラフは作業者ごと且つ作業内容ごとに異なる形状を有している。熟練度成長曲線グラフの初期形状は作業内容間で共通でもよいし、作業内容の難易度によって異ならせてもよい。また、作業者ごとに得意な作業と不得意な作業があるので、熟練度成長曲線グラフの初期形状は作業者ごと且つ作業内容ごとに異なる形状にしてもよい。作業者がラインに立って作業経験を積み始めた後は、リアルライン2から取得したリアルデータRDに基づいて作業者ごと且つ作業内容ごとに熟練度成長曲線グラフが補正される。熟練度成長曲線グラフの補正には、リアルデーRDに含まれる作業内容ごとの処理速度や処理量などの作業者それぞれの能力データが用いられる。作業経験に対する熟練度の向上度合いは、その作業を作業者が得意か不得意かによって異なる。
【0041】
作業者が異なる内容の複数の作業に従事した場合、作業者は作業内容ごとに経験を積み、作業内容ごとに熟練度が向上していく。第二実施形態では、個々の作業者の作業内容ごとの熟練度に応じた人員配置計画が作成される。その人員配置計画に従い作業が行われるたびに作業者ごと且つ作業内容ごとに熟練度が更新されていくことによって、目標処理計画を達成する上で現在の各作業者の作業内容ごとの熟練度に見合った人員配置計画を作成することができる。
【符号の説明】
【0042】
2 リアルライン
10 計画作成装置
20 シミュレータ
22 デジタルツインライン
100 人員配置計画システム