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特開2025-9410補強情報生成システム、補強情報生成方法、及び補強情報生成プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009410
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】補強情報生成システム、補強情報生成方法、及び補強情報生成プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/28 20100101AFI20250110BHJP
   G01S 19/07 20100101ALI20250110BHJP
   G01S 19/43 20100101ALN20250110BHJP
【FI】
G01S19/28
G01S19/07
G01S19/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112404
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 夏子
(72)【発明者】
【氏名】宮 雅一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 征吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一敏
(72)【発明者】
【氏名】太田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】塚本 悠一朗
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062CC07
5J062DD22
5J062EE02
5J062FF01
(57)【要約】
【課題】電離圏擾乱を観測したデータを補強情報生成時に利用することにより、GNSS(Global Navigation Satellite System)に対する電離圏擾乱の影響を低減し、可用性及び位置精度を向上したい。
【解決手段】補強情報生成システム90が備える衛星選択装置100は、衛星選択部130を備える。衛星選択部130は、電離圏を観測した結果に基づいて予測された電離圏擾乱領域を示す電離圏予報と、対象期間において対象電子基準点から観測することができる複数の衛星を示す可視衛星予報とに基づいて、対象電子基準点において対象期間に電離圏擾乱の影響を受けにくい複数の衛星を選択する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離圏を観測した結果に基づいて検出された電離圏擾乱に基づいて予測された領域であって、対象期間において電離圏擾乱が発生する領域である電離圏擾乱領域を示す電離圏予報と、GNSS(Global Navigation Satellite System)における複数の衛星のうち、前記対象期間において、前記GNSSによる測位を補強する情報である補強情報の生成に利用される電子基準点である対象電子基準点から観測することができる複数の衛星を複数の観測可能衛星として示す可視衛星予報とに基づいて、前記複数の観測可能衛星から、前記対象電子基準点において前記対象期間に電離圏擾乱の影響を受けにくい複数の衛星を選択し、選択した複数の衛星を示す基準衛星リストを生成する衛星選択部
を備える衛星選択装置
を備える補強情報生成システム。
【請求項2】
前記衛星選択部は、前記GNSSにおける複数の衛星の各衛星を対象衛星としたとき、前記対象電子基準点における前記対象衛星の可視時間の長さと、前記対象電子基準点において前記対象衛星が送信した信号が電離圏擾乱の影響を受ける度合いとを考慮して複数の衛星を選択する請求項1に記載の補強情報生成システム。
【請求項3】
前記衛星選択部は、選択した複数の衛星の各々について前記電離圏予報に基づいて電離圏擾乱の影響を受ける度合いを劣化指数として算出し、算出した劣化指数を前記基準衛星リストに含める請求項1又は2に記載の補強情報生成システム。
【請求項4】
前記補強情報生成システムは、さらに、
前記基準衛星リストが示す複数の衛星の各々が送信した信号と、前記電離圏予報とに基づいて前記GNSSによる測位に関する情報であって、前記補強情報に含まれる情報である補正情報を生成し、前記電離圏予報と、生成した補正情報と、電子基準点である測距基準点における測距結果に基づいて見積もった前記測距結果に含まれる誤差とに基づいて、前記補強情報が示す各衛星における電離圏擾乱による前記補強情報の精度低下の度合いを示す指数を算出する補強情報生成部
を備える補強情報生成装置
を備える請求項1又は2に記載の補強情報生成システム。
【請求項5】
前記補強情報生成システムは、さらに、
前記補強情報と、算出された指数を示す情報とを配信する補強情報配信部
を備える補強情報配信装置
を備える請求項4に記載の補強情報生成システム。
【請求項6】
コンピュータが、電離圏を観測した結果に基づいて検出された電離圏擾乱に基づいて予測された領域であって、対象期間において電離圏擾乱が発生する領域である電離圏擾乱領域を示す電離圏予報と、GNSS(Global Navigation Satellite System)における複数の衛星のうち、前記対象期間において、前記GNSSによる測位を補強する情報である補強情報の生成に利用される電子基準点である対象電子基準点から観測することができる複数の衛星を複数の観測可能衛星として示す可視衛星予報とに基づいて、前記複数の観測可能衛星から、前記対象電子基準点において前記対象期間に電離圏擾乱の影響を受けにくい複数の衛星を選択し、選択した複数の衛星を示す基準衛星リストを生成する補強情報生成方法。
【請求項7】
電離圏を観測した結果に基づいて検出された電離圏擾乱に基づいて予測された領域であって、対象期間において電離圏擾乱が発生する領域である電離圏擾乱領域を示す電離圏予報と、GNSS(Global Navigation Satellite System)における複数の衛星のうち、前記対象期間において、前記GNSSによる測位を補強する情報である補強情報の生成に利用される電子基準点である対象電子基準点から観測することができる複数の衛星を複数の観測可能衛星として示す可視衛星予報とに基づいて、前記複数の観測可能衛星から、前記対象電子基準点において前記対象期間に電離圏擾乱の影響を受けにくい複数の衛星を選択し、選択した複数の衛星を示す基準衛星リストを生成する衛星選択処理
をコンピュータである衛星選択装置に実行させる補強情報生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、補強情報生成システム、補強情報生成方法、及び補強情報生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
GNSS(Global Navigation Satellite System)は、衛星から送信される電波を利用して位置を求める(測位)システムである。衛星から送信される電波には誤差が含まれており、最も基本的な測位手法では通常数メートル程度の精度で位置が求まる。既知の位置における誤差量を求め、求めた誤差量と、今求めたい位置における誤差量とが時間的及び空間的に相関していることを利用して、両者の差分をとることにより誤差を補正すること及び低減することができる。
高精度な誤差の補正手法の1つとして、RTK-GPS(Real Time Kinematic-Global Positioning System)が知られており、RTK-GPSをさらに発展させた技術としてPPP(Precise Point Positioning)-RTK(非特許文献1)といった技術がある。これらの技術において、誤差量(補正情報)を正確に推定するために、測位衛星からの信号を途切れずに観測する必要がある。
【0003】
信号の観測を途切れさせてしまう要因の1つに、電離圏と呼ばれる大気の層の影響がある。電離圏の振る舞いには、空間的及び時間的な特徴を持つ振る舞いもあれば、突発的な振る舞いもある。そのため、電離圏の影響を正確に予測することは難しい。ここで、このような信号への影響を逆手に取ることにより、GNSSを使った電離圏の観測も行われている(非特許文献2)。しかしながら、電離圏は、多層構造であり、かつ、空間的な大きさが幅広い。そのため、電離圏の全てをGNSSにより観測することは現実的には難しい。そこで、GNSSの周波数帯とは異なる周波数帯により電離圏を観測する方法も検討されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5570649号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wubbena,Gerhard,Schmitz,Martin,Bagge,Andreas,“PPP-RTK:Precise Point Positioning Using State-Space Representation in RTK Networks”,Proceedings of the 18th International Technical Meeting of the Satellite Division of The Institute of Navigation(ION GNSS 2005),Long Beach,CA,September 2005,pp.2584-2594.
【非特許文献2】T.Tsugawa,M.Nishioka,A.Saito,Y.Otsuka,S.Saito,T.Maruyama,T.Nagatsuma,K.T.Murata,and M.Ishii,“High-resolution ionospheric total electron content observations using dense GNSS receiver networks”,38th COSPAR Scientific Assembly. Held 18-15 July 2010, in Bremen,Germany,p.13
【非特許文献3】Otsuka,Y.,Ogawa,T.and Effendy,“VHF radar observations of nighttime F-region field-aligned irregularities over Kototabang,Indonesia.”,Earth Planet Sp 61,431-437(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
補正情報を生成する際に、電子基準点において受信したGNSSの信号(搬送波位相)を用いる。補正情報は、受信した信号の情報を用い、あるモデルに基づいてカルマンフィルタ等によって誤差値を推定することによって実現する。ここで、GNSSの信号は連続的に観測される必要がある。信号の観測が途切れた場合(以下、サイクルスリップという)において、誤差値を推定するフィルタがリセットされるため、誤差値を再度推定する必要がある。特に、高仰角に位置する衛星においてサイクルスリップが発生した場合、発生したサイクルスリップの影響が全体に波及する。補正情報を生成する際に、一般的に、高仰角に位置する衛星を基準衛星として、基準衛星の観測量と他の衛星の観測量との差分を取って用いるためである。
【0007】
通常、サイクルスリップは、低仰角に位置する衛星から受信する信号において起こることが多い。これは、低仰角に位置する衛星から信号を受信する場合における経路が、高仰角に位置する衛星から受信する場合における経路に比べて長いためである。経路が長くなると、その分信号が大気を通過する時間が長くなり、信号は大気の影響を受けやすくなる。また、低仰角において経路の途中に電波を遮るような建物等が存在することも影響する。
【0008】
一方、高仰角に位置する衛星から受信する信号において、通常はほとんどサイクルスリップが発生することはない。しかしながら、突発的な電離圏擾乱(プラズマバブル等)のシンチレーションが発生した場合に、高仰角においてもサイクルスリップが発生し得る。
ここで、サイクルスリップが低頻度で発生する場合、サイクルスリップが補正情報の生成に大きく影響することはない。しかしながら、電離圏擾乱が上空に発生した場合において、サイクルスリップが高頻度で発生するため、補正情報の生成が困難になる。
【0009】
従来技術では、GNSSの観測値から今起きている電離圏擾乱を検知することはできても、電離圏擾乱の発生を事前に予測して回避することは困難である。そのため、電離圏擾乱は、GNSSによる位置推定と、応用技術である補強情報生成とにおける課題の1つとなっている。特に日本の南方(沖縄及び小笠原諸島等)と、東南アジア等の低緯度地域では電離圏擾乱が発生しやすいため、サイクルスリップの問題が起こる可能性が非常に高い。
本開示は、電離圏擾乱を観測したデータを補強情報生成時に利用することにより、GNSSに対する電離圏擾乱の影響を低減し、可用性及び位置精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る補強情報生成システムは、
電離圏を観測した結果に基づいて検出された電離圏擾乱に基づいて予測された領域であって、対象期間において電離圏擾乱が発生する領域である電離圏擾乱領域を示す電離圏予報と、GNSS(Global Navigation Satellite System)における複数の衛星のうち、前記対象期間において、前記GNSSによる測位を補強する情報である補強情報の生成に利用される電子基準点である対象電子基準点から観測することができる複数の衛星を複数の観測可能衛星として示す可視衛星予報とに基づいて、前記複数の観測可能衛星から、前記対象電子基準点において前記対象期間に電離圏擾乱の影響を受けにくい複数の衛星を選択し、選択した複数の衛星を示す基準衛星リストを生成する衛星選択部
を備える衛星選択装置
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、観測された電離圏擾乱に基づく電離圏予報に基づいて電離圏擾乱の影響を受けにくい複数の衛星を選択する。選択された複数の衛星は補強情報の生成において用いられる。従って、本開示によれば、VHF(Very High Frequency)レーダーなど、何らかの手段を用いて電離圏擾乱を観測したデータを補強情報生成時に利用することにより、GNSSに対する電離圏擾乱の影響を低減し、可用性及び位置精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る補強情報生成システム90の構成例を示す図。
図2】実施の形態1に係る電離圏予報と可視衛星予報とを説明する図。
図3】上空の様子を説明する図。
図4】実施の形態1に係る衛星選択装置100のハードウェア構成例を示す図。
図5】実施の形態1の変形例に係る衛星選択装置100のハードウェア構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態の説明及び図面において、同じ要素及び対応する要素には同じ符号を付している。同じ符号が付された要素の説明は、適宜に省略又は簡略化する。図中の矢印はデータの流れ又は処理の流れを主に示している。また、「部」を、「回路」、「工程」、「手順」、「処理」又は「サーキットリー」に適宜読み替えてもよい。
本開示において、「衛星」は測位衛星を指す。測位衛星はGNSS(Global Navigation Satellite System)の人工衛星である。
【0014】
実施の形態1.
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態は、GNSS補正情報の生成におけるデータの入力方法に関する。
【0015】
***構成の説明***
図1は、本実施の形態に係る補強情報生成システム90の構成例を示している。補強情報生成システム90は、図1に示すように、電子基準点20と、電離圏観測装置30と、衛星選択装置100と、補強情報生成装置200と、補強情報配信装置300とを備える。補強情報生成システム90が備える複数の装置が一体的に構成されていてもよい。
【0016】
電子基準点20は複数存在する。複数の電子基準点20は電子基準点網を形成する。電子基準点20は、単に基準点とも呼ばれる。各電子基準点20は、各電子基準点20が取得した観測データと、各電子基準点20の座標値を示すデータとを衛星選択装置100に向けて送信する。
【0017】
電離圏観測装置30は、電離圏を観測し、観測結果に基づいて電離圏擾乱を検出する。電離圏観測装置30は、具体例としてVHF(Very High Frequency)レーダーである。電離圏擾乱は、具体例としてプラズマバブルである。電離圏観測装置30は、観測結果を示す電離圏観測データを衛星選択装置100に向けて送信する。
【0018】
衛星選択装置100は、可視衛星予測部110と、電離圏予測部120と、衛星選択部130とを備える。
【0019】
可視衛星予測部110は、対象期間における可視衛星予報を生成する。具体的には、可視衛星予測部110は、観測データと座標値を示すデータとを各電子基準点20から受信し、受信したデータを用いて、各電子基準点20から対象期間において観測することができる衛星の組み合わせを航法暦から計算する。対象期間の長さはどのように定められてもよい。
可視衛星予報は、GNSSにおける複数の衛星のうち、対象期間において対象電子基準点から観測することができる複数の衛星を複数の観測可能衛星として示す。対象電子基準点は、補正情報を生成する際に利用される各電子基準点20である。
【0020】
電離圏予測部120は、対象期間における電離圏予報を生成する。具体的には、電離圏予測部120は、電離圏擾乱を検出した結果を示すデータを電離圏観測装置30から受信し、受信したデータに基づいて対象期間における電離圏擾乱の時間変化を予測する。電離圏擾乱を検出した結果は、具体例としてプラズマバブルのスポットを検出した結果である。電離圏擾乱の時間変化は、具体例としてプラズマバブルのスポットの時間変化である。
電離圏予報は電離圏擾乱領域を示す。電離圏擾乱領域は、電離圏観測装置30により電離圏を観測した結果に基づいて検出された電離圏擾乱に基づいて予測された領域であって、対象期間において電離圏擾乱が発生する領域である。電離圏予報は、対象期間内の各時刻における電離圏擾乱領域を示してもよい。
【0021】
衛星選択部130は、各電子基準点20について、生成された電離圏予報と可視衛星予報とに基づいて対象期間において電離圏擾乱の影響を受ける可視パスを予測し、予測した可視パスについての仰角方位角を通過する衛星を基準衛星の選択候補から外す。衛星選択部130は、複数の観測可能衛星から、対象電子基準点において対象期間に電離圏擾乱の影響を受けにくい複数の衛星を選択し、選択した複数の衛星を示す基準衛星リストを生成する。基準衛星リストは、補強情報生成対象衛星リストとも呼ばれ、補強情報の生成対象である衛星を示すリストである。補強情報は、GNSSによる測位を補強する情報であり、補正情報と品質指標とから成る。補強情報には、衛星ごとに各値が格納されている。補正情報は、GNSSによる測位に関する情報であって、補強情報に含まれる情報である。衛星選択部130は、GNSSにおける複数の衛星の各衛星を対象衛星としたとき、対象電子基準点における対象衛星の可視時間の長さと、対象電子基準点において対象衛星が送信した信号が電離圏擾乱の影響を受ける度合いとを考慮して複数の衛星を選択してもよい。なお、衛星選択部130の処理を処理対象衛星決定アルゴリズムと呼ぶ。
衛星選択部130は、具体例として、電離圏予報と可視衛星予報とに基づいて、電離圏擾乱の影響を受けにくさと、可視時間の長さとを考慮して順に所定数の基準衛星を選択する。
また、衛星選択部130は、各衛星が電離圏擾乱の影響を受ける度合いを電離圏観測装置30による観測結果に基づいて予測し、予測結果を劣化指数として数値化する。この際、衛星選択部130は、選択した複数の衛星の各々について電離圏予報に基づいて電離圏擾乱の影響を受ける度合いを劣化指数として算出し、算出した劣化指数を基準衛星リストに含める。
【0022】
補強情報生成装置200は、補強情報生成部210を備える。
補強情報生成部210は、各基準衛星を示す基準衛星リストと、各衛星に対応する劣化指数との各々を示すデータを衛星選択部130から受け取る。また、補強情報生成部210は、電離圏予報を示すデータを電離圏予測部120から受け取る。補強情報生成部210は、受け取ったデータを用いて補正情報を生成する。
補強情報生成部210が基準衛星リストに基づいて衛星を選択することにより、サイクルスリップによる観測断と、観測断による補正情報生成への影響とを比較的低く抑えることと、ロバスト性の向上とが見込まれる。
さらに、補強情報生成部210が各衛星に対応する劣化指数に基づいて誤差推定におけるパラメータをアダプティブに変更することにより、電離圏擾乱の影響が大きい時間帯においても、補正量の品質を高く保つ効果が見込まれる。
さらに、補強情報生成部210は、各衛星に対応する劣化指数と、補正情報の生成状況とに基づいて補強情報における電離圏補正項の品質指数を算出する。品質指数は品質指標に当たる。
つまり、補強情報生成部210は、基準衛星リストが示す複数の衛星の各々が送信した信号と、電離圏予報とに基づいて測位に関する補正情報を生成し、電離圏予報と、生成した補正情報と、測距基準点における測距結果に基づいて見積もった測距結果に含まれる誤差とに基づいて、品質指数として、補強情報が示す各衛星における電離圏擾乱による補強情報の精度低下の度合いを示す指数を算出する。測距基準点は、生成された補正量を用いて測距誤差を算出する際に利用される電子基準点20である。測距基準点は、対象電子基準点と同じ電子基準点20であってもよく、対象電子基準点と異なる電子基準点20であってもよい。
【0023】
補強情報配信装置300は、補強情報配信部310を備える。
補強情報配信部310は、補強情報と、補強情報生成部210によって算出された指数を示す情報とを配信する。具体的には、補強情報配信部310は、補強情報生成部210から補強情報と品質指数を示す情報とを受け取り、受け取った補強情報をエンドユーザに対して配信する。また、補強情報配信部310は、補強情報生成部210が算出した品質指数に基づいて、エンドユーザに対して電離圏擾乱による影響を通知する。
【0024】
既存の品質指数は、GNSS観測量と、GNSS観測量を用いて算出する過程において計算したデータに基づく。
一方、本実施の形態では、品質指数の算出において、電離圏を観測するレーダーの観測結果を示す観測データを直接的に又は間接的に併用する。そのため、本実施の形態によれば、より質が高い品質指数を算出することができる。電離圏を観測するレーダーは、GNSS以外のセンサであってもよい。
さらに、本実施の形態によれば、可視衛星予報と電離圏予報と組み合わせることにより、ユーザに対して電離圏擾乱の影響を受ける衛星を事前に通知することができる。ユーザは、通知された情報に基づいて衛星を選択的に利用して測位を実施することにより、ロバストな自己位置推定を実現することができる。
【0025】
図2は、電離圏予報と、可視衛星予報とを説明する図である。
図2に示す例において、電離圏観測装置30による観測結果に基づいて予測された電離圏擾乱であって、電離圏予報が示す電離圏擾乱が示されている。また、各測位衛星の位置は可視衛星予報が示す位置である。
本例において、各電子基準点20において、測位衛星Aが送信した測位信号は電離圏擾乱の影響を受けないが、測位衛星Bが送信した測位信号は電離圏擾乱の影響を受ける。そのため、本例において、各電子基準点20に対応する基準衛星として、測位衛星Aが選択されるものの、測位衛星Bは選択されない。
【0026】
図3は、対象期間内のある時刻において、補強情報の生成に利用する特定の電子基準点20から上空を見た図である。図3において、対象時刻において、電離圏擾乱が発生している領域と、当該電子基準点20から観測可能な衛星のうち電離圏擾乱の影響を受けている衛星と、当該電子基準点20から観測可能な衛星のうち電離圏擾乱の影響を受けていない衛星とを示す。
衛星選択部130は、電離圏擾乱の影響を受けていない衛星から基準衛星を選択する。
【0027】
図4は、本実施の形態に係る衛星選択装置100のハードウェア構成例を示している。衛星選択装置100はコンピュータから成る。衛星選択装置100は複数のコンピュータから成ってもよい。
【0028】
衛星選択装置100は、本図に示すように、プロセッサ11と、メモリ12と、補助記憶装置13と、入出力IF(Interface)14と、通信装置15等のハードウェアを備えるコンピュータである。これらのハードウェアは、信号線19を介して適宜接続されている。
【0029】
プロセッサ11は、演算処理を行うIC(Integrated Circuit)であり、かつ、コンピュータが備えるハードウェアを制御する。プロセッサ11は、具体例として、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、又はGPU(Graphics Processing Unit)である。
衛星選択装置100は、プロセッサ11を代替する複数のプロセッサを備えてもよい。複数のプロセッサはプロセッサ11の役割を分担する。
【0030】
メモリ12は、典型的には揮発性の記憶装置であり、具体例としてRAM(Random Access Memory)である。メモリ12は、主記憶装置又はメインメモリとも呼ばれる。メモリ12に記憶されたデータは、必要に応じて補助記憶装置13に保存される。
【0031】
補助記憶装置13は、典型的には不揮発性の記憶装置であり、具体例として、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、又はフラッシュメモリである。補助記憶装置13に記憶されたデータは、必要に応じてメモリ12にロードされる。
メモリ12及び補助記憶装置13は一体的に構成されていてもよい。
【0032】
入出力IF14は、入力装置及び出力装置が接続されるポートである。入出力IF14は、具体例として、USB(Universal Serial Bus)端子である。入力装置は、具体例として、キーボード及びマウスである。出力装置は、具体例として、ディスプレイである。
【0033】
通信装置15は、レシーバ及びトランスミッタである。通信装置15は、具体例として、通信チップ又はNIC(Network Interface Card)である。
【0034】
衛星選択装置100の各部は、他の装置等と通信する際に、入出力IF14及び通信装置15を適宜用いてもよい。
【0035】
補助記憶装置13は補強情報生成プログラムを記憶している。補強情報生成プログラムは、補強情報生成システム90が備える各装置の各部の機能をコンピュータに実現させるプログラムである。補強情報生成プログラムは、メモリ12にロードされて、プロセッサ11によって実行される。衛星選択装置100が備える各部の機能は、ソフトウェアにより実現される。
【0036】
補強情報生成プログラムを実行する際に用いられるデータと、補強情報生成プログラムを実行することによって得られるデータ等は、記憶装置に適宜記憶される。衛星選択装置100の各部は記憶装置を適宜利用する。記憶装置は、具体例として、メモリ12と、補助記憶装置13と、プロセッサ11内のレジスタと、プロセッサ11内のキャッシュメモリとの少なくとも1つから成る。なお、データという用語と情報という用語とは同等の意味を有することもある。記憶装置は、コンピュータと独立したものであってもよい。
メモリ12及び補助記憶装置13の機能は、他の記憶装置によって実現されてもよい。
【0037】
補強情報生成プログラムは、コンピュータが読み取り可能な不揮発性の記録媒体に記録されていてもよい。不揮発性の記録媒体は、具体例として、光ディスク又はフラッシュメモリである。補強情報生成プログラムは、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
補強情報生成システム90が備える他の装置のハードウェア構成は、衛星選択装置100のハードウェア構成と同様であってもよい。
【0038】
***動作の説明***
補強情報生成システム90が備える各装置の動作手順は補強情報生成方法に相当する。また、補強情報生成システム90が備える各装置の動作を実現するプログラムは補強情報生成プログラムに相当する。
【0039】
PPP-RTK方式の1つに、センチメータ級測位補強サービス(CLAS)がある。CLASは日本全国をサービス対象としており、サービス対象地域には石垣島及び小笠原諸島といった低緯度の地域も含まれている。低緯度の地域では電離圏の活動が活発であるため、不規則な変動が発生しやすい。不規則な変動が発生することにより、GNSSの信号にサイクルスリップが発生する。そのため、不規則な変動の発生には、補強情報の品質が低下するリスクと、連続性に影響を及ぼすリスク等がある。
【0040】
そこで、本実施の形態を適用し、電離圏を観測したデータに基づく電離圏予報を活用することにより、電離圏擾乱が発生する仰角方位角に存在する衛星と、電離圏擾乱の影響を受ける衛星とをあらかじめ補強情報の生成対象から除外したり、これらの衛星に対応する重みを下げたりすることができる。これにより、補強情報の品質低下を抑え、かつ、連続性を担保することが可能となり、CLASの補強情報の品質の向上を見込むことができる。
また、電離圏の変動は低緯度地域のみならず、本州から北海道にかけても中規模伝搬性電離圏擾乱(MSTID)といった形で発生する。そして、MSTIDもまた補強情報の品質に影響を及ぼすことが知られている。MSTIDに対しても、電離圏予報を活用することにより補強情報の品質の向上が見込まれる。
【0041】
さらに、補強情報生成部210は、補強情報の生成時において、電離圏予報の情報と、誤差推定値とから電離圏擾乱による精度劣化を見積もる。見積もった精度劣化を示すデータはユーザに配信される。これにより、ユーザは、配信されたデータに基づいて電離圏の状態に合わせて適応的にパラメータを変更して測位することにより、ロバストかつ比較的精度が高い測位を実現することができる。
【0042】
***実施の形態1の効果の説明***
以上のように、本実施の形態によれば、VHFレーダー等の電離圏観測装置30の観測結果に基づく電離圏予報を使用することにより、GNSS補強情報の品質(精度)の向上と、ロバスト性の向上とが可能となる。具体的には、本実施の形態によれば、プラズマバブル等の電離圏擾乱によってサイクルスリップが発生することを、GNSS以外の観測センサによって事前に予見し、電離圏擾乱の影響を受けると予想される衛星に対応する観測データを使用しないようにすることにより、品質及び継続性の向上を見込むことができる。
さらに、事前の予見では防ぎきれなかったGNSS補強情報の劣化についても、GNSS以外の観測センサとの協調によってアダプティブに推定パラメータを変更したり、劣化指数をユーザに通知したりすることにより、ユーザ側において誤差を吸収することを可能にすることができる。
【0043】
また、補正情報の生成時には、高仰角に位置する特定の衛星を基準衛星として整数バイアスを解いている。通常、高仰角に位置する衛星においてサイクルスリップが発生することはほとんどない。しかしながら、プラズマバブルなどの電離圏擾乱によるシンチレーションの影響により、サイクルスリップが発生する場合がある。基準衛星においてサイクルスリップが発生すると、整数バイアスの再推定が必要となり、その影響は全体に波及してしまう。従来技術において、GNSSによる観測によって電離圏擾乱を検知することはできても、電離圏擾乱を事前に予測して回避することができないという課題がある。
本実施の形態によれば、電離圏観測装置30による観測結果に基づいて電離圏擾乱状況の時間変化を予測した結果を示す「電離圏予報」と、各電子基準点20から観測可能な衛星の組み合わせを計算した結果を示す「可視衛星予報」とを用いて、各電子基準点20において電離圏擾乱の影響を受ける可能性が高い衛星を特定し、特定した衛星を基準衛星の候補から外す。基準衛星がサイクルスリップの影響を受けていない場合において、整数バイアスの再推定が不要となり、補正情報の生成に必要な数の衛星を確保することができる。そのため、この場合において、電離圏擾乱が起きていても測位補強サービスの提供を続けることができる。
【0044】
***他の構成***
<変形例1>
図5は、本変形例に係る衛星選択装置100のハードウェア構成例を示している。
衛星選択装置100は、プロセッサ11、プロセッサ11とメモリ12、プロセッサ11と補助記憶装置13、あるいはプロセッサ11とメモリ12と補助記憶装置13とに代えて、処理回路18を備える。
処理回路18は、衛星選択装置100が備える各部の少なくとも一部を実現するハードウェアである。
処理回路18は、専用のハードウェアであってもよく、また、メモリ12に格納されるプログラムを実行するプロセッサであってもよい。
【0045】
処理回路18が専用のハードウェアである場合、処理回路18は、具体例として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はこれらの組み合わせである。
衛星選択装置100は、処理回路18を代替する複数の処理回路を備えてもよい。複数の処理回路は、処理回路18の役割を分担する。
【0046】
衛星選択装置100において、一部の機能が専用のハードウェアによって実現されて、残りの機能がソフトウェア又はファームウェアによって実現されてもよい。
【0047】
処理回路18は、具体例として、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせにより実現される。
プロセッサ11とメモリ12と補助記憶装置13と処理回路18とを、総称して「プロセッシングサーキットリー」という。つまり、衛星選択装置100の各機能構成要素の機能は、プロセッシングサーキットリーにより実現される。
補強情報生成システム90が備える他の装置のハードウェア構成は、本変形例と同様であってもよい。
【0048】
***他の実施の形態***
実施の形態1について説明したが、本実施の形態のうち、複数の部分を組み合わせて実施しても構わない。あるいは、本実施の形態を部分的に実施しても構わない。その他、本実施の形態は、必要に応じて種々の変更がなされても構わず、全体としてあるいは部分的に、どのように組み合わせて実施されても構わない。
なお、前述した実施の形態は、本質的に好ましい例示であって、本開示と、その適用物と、用途の範囲とを制限することを意図するものではない。手順は適宜変更されてもよい。
【0049】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0050】
(付記1)
電離圏を観測した結果に基づいて検出された電離圏擾乱に基づいて予測された領域であって、対象期間において、前記GNSSによる測位を補強する情報である補強情報の生成に利用される電子基準点である電離圏擾乱が発生する領域である電離圏擾乱領域を示す電離圏予報と、GNSS(Global Navigation Satellite System)における複数の衛星のうち、前記対象期間において対象電子基準点から観測することができる複数の衛星を複数の観測可能衛星として示す可視衛星予報とに基づいて、前記複数の観測可能衛星から、前記対象電子基準点において前記対象期間に電離圏擾乱の影響を受けにくい複数の衛星を選択し、選択した複数の衛星を示す基準衛星リストを生成する衛星選択部
を備える衛星選択装置
を備える補強情報生成システム。
【0051】
(付記2)
前記衛星選択部は、前記GNSSにおける複数の衛星の各衛星を対象衛星としたとき、前記対象電子基準点における前記対象衛星の可視時間の長さと、前記対象電子基準点において前記対象衛星が送信した信号が電離圏擾乱の影響を受ける度合いとを考慮して複数の衛星を選択する付記1に記載の補強情報生成システム。
【0052】
(付記3)
前記衛星選択部は、選択した複数の衛星の各々について前記電離圏予報に基づいて電離圏擾乱の影響を受ける度合いを劣化指数として算出し、算出した劣化指数を前記基準衛星リストに含める付記1又は2に記載の補強情報生成システム。
【0053】
(付記4)
前記補強情報生成システムは、さらに、
前記基準衛星リストが示す複数の衛星の各々が送信した信号と、前記電離圏予報とに基づいて前記GNSSによる測位に関する情報であって、前記補強情報に含まれる情報である補正情報を生成し、前記電離圏予報と、生成した補正情報と、電子基準点である測距基準点における測距結果に基づいて見積もった前記測距結果に含まれる誤差とに基づいて、前記補強情報が示す各衛星における電離圏擾乱による前記補強情報の精度低下の度合いを示す指数を算出する補強情報生成部
を備える補強情報生成装置
を備える付記1又は2に記載の補強情報生成システム。
【0054】
(付記5)
前記補強情報生成システムは、さらに、
前記補強情報と、算出された指数を示す情報とを配信する補強情報配信部
を備える補強情報配信装置
を備える付記4に記載の補強情報生成システム。
【符号の説明】
【0055】
11 プロセッサ、12 メモリ、13 補助記憶装置、14 入出力IF、15 通信装置、18 処理回路、19 信号線、20 電子基準点、30 電離圏観測装置、90 補強情報生成システム、100 衛星選択装置、110 可視衛星予測部、120 電離圏予測部、130 衛星選択部、200 補強情報生成装置、210 補強情報生成部、300 補強情報配信装置、310 補強情報配信部。
図1
図2
図3
図4
図5