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特開2025-9413ヒューズの残寿命予測装置および残寿命予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009413
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ヒューズの残寿命予測装置および残寿命予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/74 20200101AFI20250110BHJP
   H02H 7/00 20060101ALI20250110BHJP
   H01H 85/02 20060101ALI20250110BHJP
   G01R 31/00 20060101ALN20250110BHJP
【FI】
G01R31/74
H02H7/00 B
H01H85/02 Z
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112409
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 正樹
(72)【発明者】
【氏名】中沢 周平
(72)【発明者】
【氏名】西村 光博
【テーマコード(参考)】
2G014
2G036
5G053
5G502
【Fターム(参考)】
2G014AA23
2G014AB29
2G014AB46
2G014AC18
2G036AA24
2G036BA02
2G036BB03
2G036CA08
2G036CA10
5G053AA16
5G053BA01
5G053DA03
5G502AA18
(57)【要約】
【課題】ヒューズの残寿命を高精度に予測できる残寿命予測装置を提供する。
【解決手段】ヒューズの残寿命予測装置1は、ヒューズHに流れる電流を常時検出する電流センサ10と、通電判定部30と、ダメージ算出部40と、を備える。通電判定部30は、電流センサ10により検出される電流値が第一閾値以上かを判定する。ダメージ算出部40は、電流値が第一閾値以上になった場合、通電時間および電流値に基づいて劣化量を積算し、電流値が第一閾値未満の場合、劣化量を積算しない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒューズの残寿命予測装置であって、
前記ヒューズに流れる電流を常時検出する電流センサと、
通電判定部と、
ダメージ算出部と、
を備え、
前記通電判定部は、前記電流センサにより検出される電流値が第一閾値以上かを判定し、
前記ダメージ算出部は、
前記電流値が前記第一閾値以上になった場合、通電時間および前記電流値に基づいて劣化量を積算し、
前記電流値が前記第一閾値未満の場合、前記劣化量を積算しない、残寿命予測装置。
【請求項2】
前記残寿命予測装置は、
積算した前記劣化量から前記ヒューズの残寿命を算出する残寿命算出部をさらに備え、
前記残寿命が第二閾値より小さい場合、前記残寿命算出部は前記ヒューズの残寿命に関するアラートを出力する、請求項1に記載の残寿命予測装置。
【請求項3】
前記残寿命予測装置は、
前記ヒューズの周囲温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記ダメージ算出部は、
前記通電時間を算出し、
前記通電時間における前記電流値の実効値を算出し、
前記通電時間から、仮に前記通電時間だけ前記ヒューズに通電したときに前記ヒューズが溶断する最小の電流値である溶断電流値を算出し、
前記溶断電流値に前記周囲温度に基づく補正係数を乗算して補正し、
前記電流値の実効値と補正後の前記溶断電流値から負荷率を算出し、
前記負荷率および負荷率-通電回数特性から、繰り返し通電回数を算出し、
前記ヒューズについて設定されている通電可能回数を前記繰り返し通電回数で除算して算出される前記劣化量を積算する、請求項1に記載の残寿命予測装置。
【請求項4】
前記第一閾値は、前記ヒューズの定格電流、定常ディレーティング、および温度ディレーティングの積である、請求項1に記載の残寿命予測装置。
【請求項5】
前記通電時間は、前記電流値が前記第一閾値以上となってから、前記電流値が前記第一閾値未満になって所定時間が経過するまでの間である、請求項1に記載の残寿命予測装置。
【請求項6】
ヒューズを有する電子装置であって、
請求項2に記載の残寿命予測装置と、
前記残寿命算出部によって出力される前記アラートを表示する表示部と、を備える。
【請求項7】
不揮発性メモリに記録されたコンピュータープログラムを、プロセッサを有する処理装置に実行させる、ヒューズの残寿命予測方法であって、
前記ヒューズに流れる電流値が第一閾値以上のときに、通電時間および前記電流値に基づいて劣化量を積算して、前記劣化量を前記不揮発性メモリに保存し、
前記電流値が前記第一閾値未満の場合、前記劣化量を積算しない、残寿命予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒューズの残寿命予測装置および残寿命予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機器の電源回路などでは、過電流から電気機器を保護するためにヒューズが設けられている。ヒューズは、通電時にジュール熱が発生して熱膨張し、非通電時にはジュール熱が発生せずに熱収縮するという特性を有する。このような熱膨張と熱収縮が繰り返されると、ヒューズエレメントは金属疲労により劣化し、断裂する恐れがある。特に、通電時に規定以上の過電流が流れる場合、熱膨張と熱収縮の差が大きくなり、ヒューズはより一層破断し易くなる。
【0003】
ヒューズが破断すると、電気機器を正常に動作できなくなる。そのため、ヒューズが破断する前に、ヒューズの劣化を判定し、残寿命を予測する技術が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1のヒューズの劣化判定装置は、単位時間毎のヒューズのダメージ量を算出し、所定期間内における複数のダメージ量のうち最大のダメージ量を当該所定期間のダメージ量と近似して、ダメージ量を積算する。ダメージ量の積算値が閾値を超えた場合、劣化判定装置はヒューズの残寿命に関するアラートを出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-155591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているヒューズの劣化判定装置では、所定期間内における複数のダメージ量のうち最大のダメージ量を当該所定期間のダメージ量と近似するため、ダメージ量を過大評価する可能性がある。そのため、ヒューズの残寿命をより高精度に予測できる残寿命予測装置が求められる。
【0007】
そこで、本発明では、ヒューズの残寿命を高精度に予測できる残寿命予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る一側面に係るヒューズの残寿命予測装置は、
前記ヒューズに流れる電流を常時検出する電流センサと、
通電判定部と、
ダメージ算出部と、
を備え、
前記通電判定部は、前記電流センサにより検出される電流値が第一閾値以上かを判定し、
前記ダメージ算出部は、
前記電流値が前記第一閾値以上になった場合、通電時間および前記電流値に基づいて劣化量を積算し、
前記電流値が前記第一閾値未満の場合、前記劣化量を積算しない
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電流値が所定値未満の場合には劣化量を積算しないことにより、ヒューズの劣化量を正確に評価して、高精度にヒューズの残寿命を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る残寿命予測装置のブロック図である。
図2】劣化量算出部の内部ブロック図である。
図3】ヒューズ電流の波形データおよび通電判定部の内部処理を説明するグラフである。
図4】通電時間、およびヒューズ電流絶対値の2乗の積算値の算出処理に関するフローチャートである。
図5】ヒューズの溶断電流特性を示すグラフである。
図6】ヒューズの繰り返し通電回数と負荷率の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、実施形態の説明において既に説明された部材と同一の参照番号を有する部材については、説明の便宜上、その説明は省略する。また、本図面に示された各部材の寸法は、説明の便宜上、実際の各部材の寸法とは異なる場合がある。
【0012】
図1は、本実施形態に係る残寿命予測装置1のブロック図である。図1に示すように、残寿命予測装置1は、電流センサ10と、A/D変換部20と、通電判定部30と、ダメージ算出部40と、残寿命算出部50と、温度センサ60と、表示部70を備える。また、通電判定部30は、閾値判定部31と、電流値積算部32を有する。また、ダメージ算出部40は、通電時間算出部41と、実効値算出部42と、溶断電流値算出部43と、劣化量算出部44を有する。通電判定部30、ダメージ算出部40、および残寿命算出部50は、メモリとプロセッサを備えている。メモリは、コンピュータ可読命令(プログラム)を記憶するように構成されている。例えば、メモリは、ROM及びRAMにより構成されている。プロセッサは、例えば、CPU、MPU及びGPUのうちの少なくとも一つにより構成される。
【0013】
電流センサ10は、三相の交流電源100と交流を電力変換する電力変換装置200との間に配置されたヒューズHに直列に接続されており、ヒューズHに流れる交流(以降、ヒューズ電流Iとも呼ぶ)の電流値を常時検出する。A/D変換部20は、電流センサ10で検出されたヒューズ電流Iの電流値をA/D変換する。温度センサ60はヒューズHの周囲温度Thを常時検出する。表示部70は、液晶パネル又は有機ELパネルによって構成されていて、残寿命算出部50によって出力されるヒューズHの残寿命に関するアラートを表示する。なお、交流電源100は単相であってもよい。
【0014】
閾値判定部31は、A/D変換された電流値の絶対値(以降、ヒューズ電流絶対値Iaとも呼ぶ)が第一閾値Th1以上であるかを判定する。閾値判定部31は、ヒューズ電流絶対値Iaの最大値が第一閾値Th1以上であればヒューズHは通電中であると判定し、第一閾値Th1未満であればヒューズHは非通電中であると判定する。詳細な判定方法については後述する。
【0015】
電流値積算部32は、閾値判定部31においてヒューズHが通電中であると判定された期間、ヒューズ電流絶対値Iaの2乗値を積算する。
【0016】
通電時間算出部41は、図3のヒューズ電流絶対値Iaの波形データに示す通電時間Tоnを算出する。実効値算出部42は、通電時間Tоnにおいて、電流値積算部32で算出されたヒューズ電流絶対値Iaの2乗値の積算値に基づいて、ヒューズ電流絶対値Iaの実効値であるヒューズ電流実効値Irmsを算出する。溶断電流値算出部43は、仮に通電時間TоnだけヒューズHに通電した場合にヒューズHが劣化して溶断すると推定される最小の電流値である溶断電流値Ifを算出する。さらに、温度センサ60によって検出されたヒューズHの周囲温度に基づいて、溶断電流値Ifを温度補正した補正後の溶断電流値If’を算出する。劣化量算出部44は、実効値算出部42で算出されたヒューズ電流実効値Irmsと、溶断電流値算出部43で算出された補正後の溶断電流値If’に基づいて、ヒューズHの劣化量Dを算出する。それぞれの詳細な算出方法については後述する。
【0017】
図2は、劣化量算出部44の内部ブロック図である。劣化量算出部44は、負荷率算出部45と、劣化量積算部46を有する。
【0018】
負荷率算出部45は、実効値算出部42で算出されたヒューズ電流実効値Irmsと補正後の溶断電流値If’から負荷率Sを算出する。
【0019】
劣化量積算部46は、負荷率算出部45で算出された負荷率Sと図6に示す負荷率-通電回数特性から、繰り返し通電回数Nを特定し、ヒューズ毎に設定されているヒューズHの通電可能回数Nmaxと繰り返し通電回数Nから、ヒューズHの劣化量Dを算出する。
<通電中の判定方法>
【0020】
図3を用いて、ヒューズHが通電中であるかの詳細な判定方法について説明する。図3は、ヒューズ電流の波形データおよび通電判定部の内部処理を説明するグラフである。ヒューズ電流Iは、ヒューズHに流れる交流であって、図1に示すモータMの回転数を上げた際に電流センサ10で検出される電流値の波形データである。ヒューズ電流絶対値Iaは、ヒューズ電流Iの絶対値を表す波形データである。
【0021】
ここで、ヒューズ電流絶対値Iaの最大値が第一閾値Th1以上であればヒューズHは通電中であると判定され、第一閾値Th1未満であればヒューズHは非通電中であると判定される。これにより、ヒューズHの劣化に影響を及ぼさない第一閾値Th1未満のヒューズ電流絶対値Iaについては、ヒューズHの劣化量Dの算出に用いないことで、劣化量Dの過大評価を防止する。なお、第一閾値Th1は、ヒューズHの定格電流、定常ディレーティング、および温度ディレーティングの積で求められる値としてもよい。
<通電時間の算出方法>
【0022】
図4を用いながら、ヒューズHの通電時間Tоnの詳細な算出方法について説明する。図4は、通電時間、およびヒューズ電流絶対値の2乗の積算値の算出処理に関するフローチャートである。
【0023】
算出処理開始後(S100)、ヒューズ電流絶対値Iaの最大値が第一閾値Th1以上であれば(S101のYes)、ヒューズHは通電中であると判定して通電中フラグをHiにする(S102)。さらに、ヒューズHは通電中であると判定されている期間は、通電カウント値n1をカウントアップする(S103)。
【0024】
また、算出処理で、ヒューズ電流絶対値Iaの最大値が第一閾値Th1未満になれば、ヒューズHは非通電中であると判定する(S101のNo)。次に、通電中フラグがHiであるかを判定する(S104)。ヒューズHは非通電中であって通電中フラグがHiであると判定されている期間は(S104のYes)、非通電カウント値n2をカウントアップする(S105)。なお、算出処理は、ソフトウェアの更新周期(例えば125μs)毎に行う。
【0025】
このように、ヒューズ電流絶対値Iaに第一閾値Th1を設けているのは、第一閾値Th1以上の場合にはヒューズHの劣化が進みやすいが、第一閾値Th1未満の場合にはヒューズHに発生するジュール熱が小さく、劣化が進みにくいためである。このように、ヒューズ電流絶対値Iaが第一閾値Th1未満の場合には、非通電中と判断して劣化量を積算しない。これにより、ヒューズHの劣化量を正確に評価して、高精度に残寿命を予測することができる。
【0026】
その後、非通電カウント値n2が100より大きくなった場合(S106のYes)、非通電カウント値n2を初期値である0にして、通電中フラグをLowにする(S107)。このとき、電流センサ10や通電判定部30の内部処理の遅れ時間を考慮して、例えば、通電中フラグをLowにしたときの通電カウント値n1から100を引いてもよい(S107)。なお、ヒューズHは非通電中であると判定されていても通電中フラグがHiである期間、つまり非通電カウント値n2が100以下の期間については(S106のNo)、通電カウント値n1をカウントアップする(S103)。このように、ヒューズHは非通電中であると判定されていても、すぐに通電中フラグをLowにしないのは、交流波形の特性上、タイミングによっては、あるソフトウェアの更新周期TではヒューズHは非通電中であると判定されて、その周期Tの前後ではヒューズHは通電中であると判定される可能性があるためである。このような場合は、その周期Tの前後に渡ってヒューズHは通電中であると判定される方が望ましい。
【0027】
このように、ヒューズHの通電時間Tоnは、ヒューズ電流絶対値Iaの最大値が第一閾値Th1以上になってから、第一閾値Th1未満になって所定時間が経過する(非通電カウント値n2が100より大きくなる)までの間と定義される。通電時間Tоnの期間中は、通電中フラグがHiとなっていて通電カウント値n1はカウントアップされる。
【0028】
次に、通電中フラグをLowにしたときの通電カウント値n1とソフトウェアの更新周期Tから、以下の数式を用いて、通電時間Tоnを算出する。
(式1)
Ton=n1×T
<ヒューズ電流実効値の算出方法>
【0029】
図4を用いながら、ヒューズ電流実効値Irmsの詳細な算出方法について説明する。
通電中フラグがHiである期間は、ヒューズ電流絶対値Iaの2乗値を積算する(S103)。通電中フラグがLowである期間(S104のNo)、または、非通電カウント値n2が100より大きい期間は(S106のYes)ヒューズ電流絶対値Iaの2乗値を積算しない。非通電カウント値n2が100より大きくなった場合(S106のYes)であって、通電カウント値n1が28より大きい場合(S108のYes)、演算タイミングフラグをHiにして(S109)、それまで積算されたヒューズ電流絶対値Iaの2乗値の積算値ΣIaをヒューズ電流実効値Irmsの算出に用いる。なお、通電カウントn1が28未満の場合(S108のNo)、ヒューズ電流絶対値Iaの2乗値の積算値ΣIaは小さくヒューズHの劣化に影響を及ぼさない。このような場合には、通電カウント値n1および、ヒューズ電流絶対値Iaの2乗値の積算値ΣIaを初期値である0にして、それまでのヒューズ電流絶対値Iaの2乗値の積算値ΣIaをヒューズ電流実効値Irmsの算出に用いないようにする(S110)。これにより、劣化量Dの過大評価を防止する。ステップS103、S109、S110後、演算処理を終了する(S111)。
なお、演算タイミングフラグは、ヒューズ電流絶対値Iaの2乗値の積算値など積算処理を終了し、それまで積算されたヒューズ電流絶対値Iaの2乗値の積算値ΣIaからヒューズ電流実効値Irmsの算出処理を行うことを表している。
【0030】
次に、ヒューズ電流絶対値Iaの2乗値の積算値ΣIaおよび通電カウント値n1から、以下の数式を用いて、ヒューズ電流実効値Irmsを算出する。
(式2)
Irms=(ΣIa/n1)1/2
上記の数式で算出されたヒューズ電流実効値Irmsについて、図3に示す交流電流であるヒューズ電流IaがヒューズHに流れた場合に発生するジュール熱と、仮にヒューズ電流実効値Irmsと同じ値の直流電流がヒューズHに流れた場合に発生するジュール熱とが等価であるとみなすことができる。したがって、ヒューズ電流実効値Irmsを用いることで、ヒューズHに交流電流が流れた場合のヒューズHの劣化量を算出し、高精度に残寿命を予測することができる。
<溶断電流値の算出方法>
【0031】
図5を用いながら、ヒューズHの溶断電流値Ifの算出方法について説明する。図5は、ヒューズHの溶断電流特性を示すグラフである。縦軸に溶断電流値Ifを、横軸に通電時間Tonを示す。溶断電流値Ifは、仮に通電時間TonだけヒューズHに直流電流を通電した場合に、ヒューズHが溶断する最小の電流値である。また、溶断電流特性は、ヒューズの材質等から定まるヒューズ固有の特性である。溶断電流特性に基づいて、通電時間Tоnから、図5のグラフで対応する溶断電流値Ifを算出することができる。
【0032】
また、温度センサ60によって検出されたヒューズHの周囲温度に基づいて、溶断電流値Ifを温度補正するための補正係数Kを算出し、溶断電流値Ifに補正係数Kを乗算して補正後の溶断電流値If’を算出する。ヒューズHの周囲温度は、ヒューズHに発生したジュール熱がヒューズHの外部へ放出されるスピードに影響するため、このような温度補正を行っている。補正後の溶断電流値If’を用いることで、ヒューズHの周囲温度を考慮した高精度な残寿命の予測が可能となる。
<負荷率の算出方法>
【0033】
ヒューズ電流実効値Irmsと補正後の溶断電流値If’から、以下の数式を用いて、負荷率Sを算出する。
(式3)
S=Irms/If’
<繰り返し通電回数の算出方法>
【0034】
図6を用いながら、ヒューズHの繰り返し通電回数Nの算出方法について説明する。図6は、ヒューズHの繰り返し通電回数と負荷率の特性を示すグラフである。縦軸に繰り返し通電回数Nを、横軸に負荷率Sを示す。図6に例示したヒューズHの特性グラフは、以下の数式で表される。
(式4)
N=S-22
負荷率の算出方法によって算出された負荷率Sから、上記の数式を用いて、繰り返し通電回数Nを算出する。なお、上記の特性グラフ、及び、数式はヒューズ毎に異なる。
<劣化量の算出方法>
【0035】
ヒューズHに予め設定されている通電可能回数Nmaxと繰り返し通電回数Nから、以下の数式を用いて、劣化量Dを算出する。通電可能回数Nmaxは、例えば525万回である。
(式5)
D=Nmax/N
<残寿命の算出方法>
【0036】
通電可能回数Nmaxと劣化量Dの積算値から、以下の数式を用いて、残寿命RLを百分率で算出する。
(式6)
RL=100-ΣD/Nmax
算出された残寿命RLが第二閾値Th2より小さい場合、図1に示す表示部70に残寿命に関するアラートを出力する。
【0037】
以上のように、本発明の実施形態に係る残寿命予測装置は、ヒューズ電流の絶対値、およびヒューズ電流の絶対値の2乗の積算値が所定値未満の場合には、劣化量を積算しないことにより、ヒューズの劣化量を過大評価せず、高精度にヒューズの残寿命を予測することができる。また、温度センサによって検出されたヒューズの周囲温度に基づいて、溶断電流値を温度補正することで、ヒューズの周囲温度を考慮した高精度な残寿命の予測が可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0039】
1:残寿命予測装置
10:電流センサ
20:A/D変換部
30:通電判定部
31:閾値判定部
32:電流値積算部
40:ダメージ算出部
41:通電時間算出部
42:実効値算出部
43:溶断電流値算出部
44:劣化量算出部
45:負荷率算出部
46:劣化量積算部
50:残寿命算出部
60:温度センサ
70:表示部
100:三相交流電源
200:電力変換装置
H:ヒューズ
M:モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6