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特開2025-9419可食性3Dプリンタインクおよび三次元造形食品
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  • 特開-可食性3Dプリンタインクおよび三次元造形食品 図1
  • 特開-可食性3Dプリンタインクおよび三次元造形食品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009419
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】可食性3Dプリンタインクおよび三次元造形食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/269 20160101AFI20250110BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20250110BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20250110BHJP
   A23L 29/281 20160101ALI20250110BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20250110BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20250110BHJP
【FI】
A23L29/269
A23L29/00
A23L5/00 K
A23L29/281
A23L5/00 A
A23L5/00 F
B33Y70/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112416
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今中 陽
(72)【発明者】
【氏名】内山 美登里
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B035LC03
4B035LE02
4B035LE04
4B035LE05
4B035LG15
4B035LG21
4B035LG27
4B035LG42
4B035LK04
4B035LP01
4B035LP31
4B041LC03
4B041LD01
4B041LE06
4B041LH02
4B041LH18
4B041LK16
4B041LK36
4B041LP01
4B041LP12
(57)【要約】
【課題】射出前に加熱することなく用いることができるカードランを含む可食性3Dプリンタインクを提供すること。また、カードランを含む可食性3Dプリンタインクにコラーゲンを含有させた場合の保形性や射出前加熱の風味への影響をうけない可食性3Dプリンタインクおよび該可食性3Dプリンタインクを用いた三次元造形食品を提供する。
【解決手段】可食性3Dプリンタインクとして、カードランとα化澱粉を用いることで、射出前加熱を経ずに射出成型することができる射出適正および保形性を有した可食性3Dプリンタインクとすることができる。さらに、該可食性3Dプリンタインクは、高齢者食品としての栄養改善・機能性素材としてコラーゲンを含むことができる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カードランとα化澱粉を含有する可食性3Dプリンタインク。
【請求項2】
さらに、コラーゲンを含有する請求項1の可食性3Dプリンタインク。
【請求項3】
1~50質量%のコラーゲンを含む請求項2の可食性3Dプリンタインク。
【請求項4】
カードランの配合量が0.5~10質量%、α化澱粉の配合量が1~50質量%である請求項1~3の可食性3Dプリンタインク。
【請求項5】
請求項1または2のいずれかの可食性3Dプリンタインクを用いて成型された射出成型食品。
【請求項6】
かたさが3000~20000N/m2であることを特徴とする請求項5に記載の射出成型食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元射出成型によって製造される食品組成物の原料、つまり可食性3Dプリンタインクおよび該可食性3Dプリンタインクで製造された三次元造形食品に関する。より詳細には、咀嚼や嚥下が困難となった者または高齢者にも適する食品のインクであり、コラーゲンを含有しても射出成型が可能な可食性3Dプリンタインクに関する。さらに、該可食性3Dプリンタインクを用いて射出成型よって製造された食品に関する。
【背景技術】
【0002】
個々人の食事機能および栄養要求にあわせたパーソナル食の開発が望まれており、その一助として3Dプリンターによる食品成形が利用できることが知られている。
【0003】
一般に、これまでの高齢者食品や咀嚼困難者食品は、食事機能が低下している対象者にあわせ、食品を柔らかくしたり、飲み込みやすくしたりする調理法をとっていたため、多くは加水などによって、食品の重量当たりのタンパク質量が少なくなっていた。このことは意外と知られておらず、健康維持および栄養補充の観点から食品内にタンパク質を多く配合することは重要な課題であった。
【0004】
タンパク質の一種であるコラーゲンは、健康素材としての注目もあり多くのサプリメントや食品に利用されている。例えば、筋肉量の増加や関節機能の改善、肌水分の増加などの効果が挙げられることから、特に高齢者食品への配合が望まれる成分である。またコラーゲンを多く含むにも関わらず水産加工品への加工時に廃棄されることが多い魚の皮は、コラーゲンを多く含む未利用資源となっており、未利用資源活用の観点からも、コラーゲンを含有させた食品が望まれている。
【0005】
出願人は、これまでにゲル化物質であるカードランと加工澱粉を用いた咀嚼嚥下困難者用介護食品の発明(特許文献1)及び、カードランを用いた三次元造形食の発明(特許文献2)を開示しており、これらを利用した三次元射出成型食品の製造においてコラーゲンを含有した食品を製造することを検討した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2017/017953
【特許文献2】WO2022/244743
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、単純にこれらの技術に基づき成型食品を製造しようとした場合、コラーゲン含有によるものと思われる保形性への影響があり、積層して成型することが出来ないという課題が生じることが明らかになった。さらに、コラーゲンを含有する場合、特許文献2のようにカードランを含む可食性3Dプリンタインクを、射出前に加熱によって熱不可逆なゲルとする工程を経る際に、加熱時間が長くなるとコラーゲン由来の不快臭(オフフレーバー)が生じるという課題もあることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、例えばコラーゲンのように、積層して成型するための保形性や、加熱による風味への影響が出る食材にも適用できる可食性3Dプリンタインクとして、カードランとα化澱粉を用いることで、射出前の加熱を経ずに射出成型できることを見出だした。
【0009】
すなわち本発明の目的は、カードランを含有し、射出前加熱を経ずに射出成型することができる射出適正および保形性を有した可食性3Dプリンタインク、さらにはコラーゲンを含有した該可食性3Dプリンタインク、さらにはそれらを用いた、高齢者にも適する物性の成型食品を提供することにある。
【0010】
すなわち、本発明は第一に、カードランとα化澱粉を含有する可食性3Dプリンタインクである。
第二に、コラーゲンを含有する前記可食性3Dプリンタインクである。
第三に、コラーゲンを1~50質量%含む前記第二に記載の可食性3Dプリンタインクである。
第四に、カードランの配合量が0.5~10質量%、α化澱粉の配合量が1~50質量%である前記第一~第三のいずれかに記載の可食性3Dプリンタインクである。
第五に、前記第一または第二のいずれかに記載の可食性3Dプリンタインクを用いて成型された射出成型食品である。
第六に、かたさが3000~20000N/mであることを特徴とする前記第五に記載の射出成型食品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、射出前加熱を経ずに射出成型することができる射出適正および保形性を有した可食性3Dプリンタインクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例6の可食性3Dプリンタインクにより製造した三次元造形食品の写真である。なお、左はエビの形状、右は魚の切り身の形状になるよう射出成型したものである。
図2】実施例8の可食性3Dプリンタインクにより製造した鮭切り身風の嚥下困難者向け三次元造形食品である。なお、左は加熱前、右は電子レンジ(500W30秒)加熱後である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の可食性3Dプリンタインクとは、3Dプリンター(付加装置ともいう)や3Dプリントペンのような三次元造形機器を用いて、吐出口から射出または吐出することで立体造形を行い成型食品を製造する際に原料となる食品組成物を指し、カードランを含有する。
【0014】
カードランは、微生物により生産されるβ-1,3-グルコシド結合を主体とする加熱凝固性多糖類であり、例えばアルカリゲネス属又はアグロバクテリウム属の微生物によって生産されるものが挙げられる。また、粉末状の市販品を用いることもできる。
【0015】
カードランの配合量は、可食性3Dプリンタインク中の他の素材によって可食性3Dプリンタインク自体の硬さや保形性が変化するので、適宜決定すればよいが、三次元造形機器を用いて得られる成型食品を加熱しても形崩れしないという耐熱性を付与する効果を得るために、可食性3Dプリンタインク中に0.5質量%以上配合することが好ましい。カードランの配合量に制限はないが、カードランのゲル化には水が必要であり、可食性3Dプリンタインク中の水分が、カードランに対して相対的に不足するとカードランが固まりにくくなるため、カードランが10質量%以下となるように配合することが好ましく、より好ましくは1.0~6.0質量%とするとよい。そして、三次元造形機器で吐出可能なインクとしての硬さ・保形性を持ちながら、立体造形後の成型食品を高齢者食品や咀嚼困難者食品としても好適な硬さとするためには、カードランとして1.0~5.0質量とすることが好ましい。
【0016】
カードランは、水への溶解性が低いため配合量によっては溶解に至らない場合もあるが、その場合は可食性3Dプリンタインク中に分散していれば良い。好ましくは、一定量の水にあらかじめ攪拌機などで分散させておくと、可食性3Dプリンタインク中に均一に分散させることができる。また、カードランはアルカリ性溶液にはよく溶解することが知られており、アルカリ溶液であらかじめ溶解しておいて可食性3Dプリンタインクに用いることもできるが、その場合は、カードランの溶解後にpH調整剤などで中性域に調整してから、他の素材と混合して使用することができる。
【0017】
そして、本発明の可食性3Dプリンタインクは、α化澱粉を含有する。α化澱粉は、糊化した状態で乾燥してある澱粉を指し、水に一部または全部が可溶となる性質をもつ。原料澱粉に制限はないが、エーテル化、エステル化、架橋、酸化、酸処理といった加工処理がされた加工澱粉でない、いわゆる未加工澱粉であればよく、米澱粉、小麦澱粉、コーン澱粉、ワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、エンドウ豆澱粉などを用いて良い。
【0018】
α化澱粉の配合量についても、カードラン同様、可食性3Dプリンタインク中の他の素材との兼ね合いによって適宜決定すればよいが、射出した可食性3Dプリンタインクを積層して立体造形を行うための保形性を得るために、可食性3Dプリンタインク中に1質量%以上配合することが好ましい。上限についての制限はないが、α化澱粉は膨潤するために水を必要とするため、他の素材の水分やインク中の含水量を鑑み、可食性3Dプリンタインク中の配合量が50質量%以下となるように配合することが好ましく、より好ましくは3~30質量%とするとよい。
【0019】
本発明の可食性3Dプリンタインクはコラーゲンを含有してもよい。本発明に用いられるコラーゲンとしては特に制限されないが、畜肉・水産動物由来のコラーゲン、合成コラーゲン、コラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質を加水分解して得られる加水分解コラーゲン(コラーゲンペプチド)などを用いることができる。特に未利用資源の有効利用の観点から、水産物由来のコラーゲンを用いることが好ましい。
【0020】
カードランを含む可食性3Dプリンタインクにコラーゲンを含有させる場合、配合量は任意に決定できるが、タンパク質としての栄養強化やコラーゲンによる健康機能を期待する場合は好ましくは1%以上配合すること、より好ましくは5%以上配合することができる。また、コラーゲンの配合量が多くなるにつれ、積層して成型するための保形性への影響が増してくるため、50%以下とすることが好ましく、より好ましくは40%以下である。
【0021】
本発明の可食性3Dプリンタインクは、カードラン、α化澱粉、コラーゲン以外に、食品ペーストを含有することができる。食品ペーストは、野菜、果物、魚介類、肉類、卵類、乳製品類、また、これらの加工品などの食材を、生又は加熱した後、大きな塊のないように破砕、摩砕や、裏ごしなど従来知られた方法で微細化することにより、三次元造形機器において詰まりなく射出できるような状態となっていることが好ましい。
【0022】
さらに、発明の効果を阻害しない限りにおいて、味付けやテクスチャー改善、日持ち向上などの目的から、調味料や香辛料、甘味料などの食品素材、増粘多糖類やデキストリン、油脂、食品添加物などを含有してもよい。より詳細には、動植物油脂類、カードランや加工デンプン以外の増粘多糖類、水溶性食物繊維、水飴、デキストリン等の糖質、保存料、香料、着色料などを適宜配合することができる。
【0023】
本発明の可食性3Dプリンタインクは、これらの素材を混合して可食性3Dプリンタインクとして三次元造形装置の原料貯蔵機構に収めて用いられる。混合の方法は従来知られた方法を用いれば良いが、可食性3Dプリンタインクが均一なペースト状またはゾル状になるように行う。なお、原料貯蔵機構がカートリッジのような容器で攪拌機構を持たない場合は、あらかじめカードラン、α化澱粉及びその他の素材を均一に混合しておく。原料貯蔵機構がタンク式で内部に攪拌機構を持つ構造であれば、各素材を投入後原料貯蔵機構内で混合してもよい。このような、原料貯蔵機構内であらかじめ加熱する必要がなく、必要に応じて冷却することもできる点は本発明の利点の一つである。
【0024】
そして原料貯蔵機構から接続された三次元造形装置の射出口から可食性3Dプリンタインクが射出され、積層による立体造形を行うことで、三次元造形食品を得ることができる。得られた三次元造形食品は、可食性3Dプリンタインクに含まれるカードランの加熱ゲル化性により、加熱するとさらに型崩れしにくい三次元造形食品とすることができる。加熱の方法は、従来知られた方法で構わないが、電子レンジ加熱やスチーミング(蒸し)を用いると、得られた三次元造形食品同士の接触が少なく、より型崩れせずに加熱することができる。
【0025】
本発明における射出適正は、三次元造形機器を用いて、可食性3Dプリンタインクを吐出口から射出または吐出する際に、射出口から可食性3Dプリンタインクが流れ落ちてしまわないことを言う。また、保型性は、三次元造形機器を用いて、積層して立体造形を行う際に、吐出したインクが平面状に広がりダレてしまったり、複数層へのインクの積み上げ時に層間で混合してしまったりすることで、設計通りの造形形状を得られなかったり、造形形状がいびつとなったりすることがないようなかたさを可食性3Dプリンタインクが保有することを言う。
【0026】
そして、得られた三次元造形食品の咀嚼嚥下困難者用食品としての適性は、三次元造形食品のかたさをもって判断することができる。詳細には、品温20℃のかたさが、50000N/m以下、好ましくは30000N/m以下であると、咀嚼嚥下困難者用食品として好ましい。なお、かたさの測定方法は、テクスチャーアナライザーやクリープメーターなどの物質の圧縮応力を測定できる装置を用い、直径20mmの円柱型プランジャーを10mm/秒の速度で測定した結果で示される。
【0027】
以下に本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0028】
なお、以下の実施例で用いた三次元造形装置はNatural Machines社製 のFoodini 3D Printerを用いた。
【実施例0029】
表1の配合(数値は質量%を示す)により、可食性3Dプリンタインクを試作し、射出性および保形性の確認試験を行った。射出性は、吐出口から流れ落ちずに射出できるかどうかの可否を、保形性は吐出口から射出した吐出線を観察してダレのなさおよび積層が可能かどうかを評価した。なお、カードランは攪拌機を用いて水で先に分散させ、その他の素材を後から添加することで、各素材が均一に分散した可食性3Dプリンタインクとした。
【0030】
【表1】
比較例1および比較例2の可食性3Dプリンタインクは射出口からポタポタと漏出していた。また射出後の吐出線は平面状に広がってしまい、保形性を評価することができないほどであった。
【0031】
表2の配合により、コラーゲンを配合する可食性3Dプリンタインクにおいて、カードラン量を変えて、可食性3Dプリンタインクおよびそれを用いて三次元造形食品を製造し、射出性、保形性、加熱(電子レンジ10秒~1分)後の様子を評価した。
可食性3Dプリンタインクの製造および射出性、保形性の評価については、表1の配合の試験と同様とした。加熱後の様子は、カードランの熱ゲル化および三次元造形食品が加熱後ゲル化不足や耐熱性不足などで変形していないかを評価した。
【0032】
【表2】
【0033】
[実施例8]
カードラン1.25質量%、α化澱粉3質量%、鮭ペースト40質量%、水55.75質量%を混合して、鮭風味の可食性3Dプリンタインクを作成した。また、カードラン5質量%、α化澱粉5質量%、鮭皮チップ(粉砕)10質量%、コラーゲン10質量%、水70%を混合して鮭皮風の可食性3Dプリンタインクを作成した。この2種のインクを順次、三次元造形装置で射出成型し、鮭風の嚥下困難者向け三次元造形食品を作成した。さらに、作成した三次元造形食品を電子レンジによって加熱した。食品は温かく喫食に適しており、加熱前後で形状もほとんど崩れることはなかった。このコラーゲン配合鮭風嚥下困難者食品の外観を示す写真を図2に示す。
【0034】
鮭風味の可食性3Dプリンタインクを用いた鮭風嚥下困難者食品のフィレ身部分の加熱後のかたさをクリープメーター(山電社製、RHEONER2 CREEP METER RE2-3305s)で測定した結果、かたさは20,000N/m以下であり、嚥下困難食品として適したかたさであった。
【0035】
上記の結果から、三次元射出成型において、可食性3Dプリンタインク中にカードランとα化澱粉を含有させることにより、射出前に加熱しなくても射出適正と保形性を持つ可食性3Dプリンタインク中とすることができた。また、コラーゲンを含有させた場合においても、成型食品の製造が可能であった。さらに、該可食性3Dプリンタインクを用いれば嚥下困難者食品としての適性を持つことも可能であると分かった。
【0036】
以上のことから、本発明によれば、未利用資源であるコラーゲンの利用も可能とした三次元造形食品の製造が可能となり、さらに嚥下困難者食品としての利用も可能となった。


図1
図2