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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009426
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】糖尿病の治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20250110BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 5/50 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250110BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
A61K48/00
A61P3/10
A61P5/50
A61P43/00 105
A61K38/17
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112427
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】稲田 明理
(72)【発明者】
【氏名】稲田 扇
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084BA44
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC031
4C084ZC032
4C084ZC351
4C084ZC352
(57)【要約】
【課題】有効性の高い糖尿病の治療薬を提供する。
【解決手段】GREB1(Growth Regulation By Estrogen In Breast Cancer 1)又はGREB1をコードする核酸を含む、糖尿病の治療薬。GREB1又はGREB1をコードする核酸を含む、β細胞増殖剤。GREB1又はGREB1をコードする核酸を含む、インスリン産生促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GREB1(Growth Regulation By Estrogen In Breast Cancer 1)又はGREB1をコードする核酸を含む、糖尿病の治療薬。
【請求項2】
GREB1(Growth Regulation By Estrogen In Breast Cancer 1)又はGREB1をコードする核酸を含む、β細胞増殖剤。
【請求項3】
GREB1(Growth Regulation By Estrogen In Breast Cancer 1)又はGREB1をコードする核酸を含む、インスリン産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
血中のグルコース濃度である血糖値は、インスリン、グルカゴン、及びコルチゾール等の様々なホルモンの働きによって、常に一定範囲内に調節されている。これらのホルモンの中でも、インスリンは唯一血糖値を下げることが可能であり、膵臓のβ細胞で産生されている。β細胞が減少すると、体内でインスリンが不足し、血中のグルコースが正常範囲を逸脱し、糖尿病を発症する。近年、糖尿病患者が世界中で急増している。なお、糖尿病患者の約90%は2型糖尿病である。
【0003】
これまで多くの2型糖尿病の治療薬が開発されてきている。例えば、体内のインスリンを補充するインスリン注射、体内に残存するβ細胞を刺激してインスリン分泌させる治療薬、筋肉や脂肪細胞内におけるインスリン感受性を改善する治療薬、腎臓において糖を尿中に排出させる治療薬、腸における糖の吸収を遅延又は抑制させる治療薬、及び肝臓における糖の産生を抑制する治療薬などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/072282号
【特許文献2】国際公開第2011/007882号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】The Journal of Biological Chemistry 1999, 274 (30): 21095-21103
【非特許文献2】Molecular and Cellular Biology 2004, 24(7): 2831-28412831-2841
【非特許文献3】The American Journal of Pathology 2005, 167 (2): 327-336
【非特許文献4】The American Journal of Pathology 2022, 192 (7): 1028-1052
【非特許文献5】Endocrinology 2014, 155(10): 3829-3842
【非特許文献6】Journal of American Society Nephrology 2016, 27(10): 3035-3050
【非特許文献7】Endocrinology 2016, 157(12): 4691-4705
【非特許文献8】JAMA 1935,105: 257-263; J Clin Invest 1939, 18: 715-722
【非特許文献9】J Clin Endocrinol Metab 1997, 82: 638-643
【非特許文献10】Diabetologia 1997, 40: 843-849
【非特許文献11】Br J Obstet Gynaecol 2000, 107; 1017-1021
【非特許文献12】J Clin Endocrinol Metab 2001, 86: 48-52
【非特許文献13】Diabet Med 2007, 24: 906-910
【非特許文献14】Proc Natul Acad Sci USA 2006, 103: 9232-9237
【非特許文献15】Nature Metabolism 2022, 2: 192-209
【非特許文献16】Scientific Reports 2015, 5: 10211
【非特許文献17】Cell Reports Medicine 2022, 3,100598
【非特許文献18】Diabetologia 2015, 58: 604-614
【非特許文献19】Diabetes Care 2007, 30 (4): 989-992
【非特許文献20】日本糖尿病学会誌「糖尿病」2005, 48 (9): 677-684
【非特許文献21】日本糖尿病学会誌「糖尿病」2006, 49 (8): 679-684
【非特許文献22】日本糖尿病学会誌「糖尿病」2007, 50 (1): 1-8
【非特許文献23】日本糖尿病学会誌「糖尿病」2001, 44 (1): 17-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の糖尿病の治療薬は、いずれも、インスリン分泌を完全に制御したり、減少したβ細胞を回復したり、血糖値を正常に戻すことはできない。そのため、より有効性が高い糖尿病の治療薬が求められている。そこで、本発明は、有効性の高い糖尿病の治療薬を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、糖尿病の主な原因であるインスリン不足を解消するため、膵臓β細胞のインスリン遺伝子の転写調節機構について研究し、インスリン遺伝子の転写を抑制する因子である誘導性cAMP早期抑制因子(ICER)を同定した(非特許文献1参照。)。また、本発明者らは、β細胞に特異的にICERを過剰発現するトランスジエニックマウス(ICER-Tgマウス)を作製し、ICER-Tgマウスではβ細胞が枯渇し、インスリンの産生が低下して、ICER-Tgマウスは早期から重度の糖尿病を発症することを示した(非特許文献2参照。)。これらの結果をもとに、本発明者らは、ICER-Tgマウスを、高血糖を維持する重症2型糖尿病・糖尿病性腎症モデルとして確立した(非特許文献3、4及び特許文献1参照。)。
【0008】
さらに、本発明者らは、オスのICER-Tgマウスに、エストロゲンの一種である17βエストラジオール(E2)を投与して、オスのICER-Tgマウスにおいて男性ホルモンであるアンドロゲンと女性ホルモンである17βエストラジオールの比率を、メスのICER-Tgマウスにおける比率に近づけたところ、膵島や膵管でβ細胞が急速に増殖誘導され、病態が著しく回復することを見出した(非特許文献5及び特許文献2参照。)。
【0009】
また、本発明者らは、ICER-Tgマウスが糖尿病性腎症を発症した後でも、マウスに17βエストラジオールを投与すると、硬化した腎臓組織(糸球体や尿細管)が回復することを見出した(非特許文献6参照。)。さらに、本発明者らは、17βエストラジオールを投与することによって、AKTやGlut4等の骨格筋において糖取り込みに関わる分子の発現が充進し、糖取り込みが促進されることを見出した(非特許文献7参照。)。
【0010】
本発明者らは、糖尿病の治療に有効な戦略は、生体内で十分な量の内因性β細胞を再生させ、維持することであると考えた。しかし、従来、17βエストラジオールによってβ細胞が増殖する原因は明らかでなかった。そこで、本発明者らは、鋭意研究の末、17βエストラジオールによって膵島においてGREB1(Growth Regulation By Estrogen In Breast Cancer 1)の発現が誘導され、β細胞が増殖し、血中グルコース濃度が低下することを見出し、GREB1が糖尿病の治療薬として有効であることを見出した。
【0011】
GREB1は、GREB1遺伝子によってコードされるタンパク質である。GREB1は、乳がん細胞株において、エストロゲンシグナルの標的遺伝子として発現し、核内でエストロゲン受容体と結合して転写を促進する転写共役因子として同定されたタンパク質である。GREB1は、エストロゲンやアンドロゲン等の性ホルモンに感受性のある乳がんや前立腺がんの細胞増殖を促進することが報告されている。しかし、従来、GREB1と血中グルコース濃度の関係は全く不明であった。
【0012】
本発明の態様によれば、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含む糖尿病の治療薬が提供される。
【0013】
本発明の態様によれば、有効成分としてGREB1又はGREB1をコードする核酸を含む糖尿病の治療薬が提供される。
【0014】
本発明の態様によれば、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸から本質的になる糖尿病の治療薬が提供される。
【0015】
本発明の態様によれば、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸からなる糖尿病の治療薬が提供される。
【0016】
本発明の態様によれば、糖尿病の治療薬の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸の使用が提供される。
【0017】
本発明の態様によれば、糖尿病の治療薬の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含む有効成分の使用が提供される。
【0018】
本発明の態様によれば、糖尿病の治療薬の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸から本質的になる有効成分の使用が提供される。
【0019】
本発明の態様によれば、糖尿病の治療薬の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸からなる有効成分の使用が提供される。
【0020】
本発明の態様によれば、糖尿病の患者に、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含む糖尿病の治療薬を投与することを含む、糖尿病の治療方法が提供される。
【0021】
本発明の態様によれば、糖尿病の患者に、有効成分としてGREB1又はGREB1をコードする核酸を含む糖尿病の治療薬を投与することを含む、糖尿病の治療方法が提供される。
【0022】
本発明の態様によれば、糖尿病の患者に、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸から本質的になる糖尿病の治療薬を投与することを含む、糖尿病の治療方法が提供される。
【0023】
本発明の態様によれば、糖尿病の患者に、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸からなる糖尿病の治療薬を投与することを含む、糖尿病の治療方法が提供される。
【0024】
本発明の態様によれば、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含むβ細胞増殖剤が提供される。
【0025】
本発明の態様によれば、有効成分としてGREB1又はGREB1をコードする核酸を含むβ細胞増殖剤が提供される。
【0026】
本発明の態様によれば、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸から本質的になるβ細胞増殖剤が提供される。
【0027】
本発明の態様によれば、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸からなるβ細胞増殖剤が提供される。
【0028】
本発明の態様によれば、β細胞増殖剤の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸の使用が提供される。
【0029】
本発明の態様によれば、β細胞増殖剤の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含む有効成分の使用が提供される。
【0030】
本発明の態様によれば、β細胞増殖剤の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸から本質的になる有効成分の使用が提供される。
【0031】
本発明の態様によれば、β細胞増殖剤の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸からなる有効成分の使用が提供される。
【0032】
本発明の態様によれば、対象に、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含むβ細胞増殖剤を投与することを含む、対象におけるβ細胞を増殖させる方法が提供される。
【0033】
本発明の態様によれば、対象に、有効成分としてGREB1又はGREB1をコードする核酸を含むβ細胞増殖剤を投与することを含む、対象におけるβ細胞を増殖させる方法が提供される。
【0034】
本発明の態様によれば、対象に、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸から本質的になるβ細胞増殖剤を投与することを含む、対象におけるβ細胞を増殖させる方法が提供される。
【0035】
本発明の態様によれば、対象に、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸からなるβ細胞増殖剤を投与することを含む、対象におけるβ細胞を増殖させる方法が提供される。
【0036】
本発明の態様によれば、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含むインスリン産生促進剤が提供される。
【0037】
本発明の態様によれば、有効成分としてGREB1又はGREB1をコードする核酸を含むインスリン産生促進剤が提供される。
【0038】
本発明の態様によれば、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸から本質的になるインスリン産生促進剤が提供される。
【0039】
本発明の態様によれば、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸からなるインスリン産生促進剤が提供される。
【0040】
本発明の態様によれば、インスリン産生促進剤の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸の使用が提供される。
【0041】
本発明の態様によれば、インスリン産生促進剤の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含む有効成分の使用が提供される。
【0042】
本発明の態様によれば、インスリン産生促進剤の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸から本質的になる有効成分の使用が提供される。
【0043】
本発明の態様によれば、インスリン産生促進剤の製造における、GREB1又はGREB1をコードする核酸からなる有効成分の使用が提供される。
【0044】
本発明の態様によれば、対象に、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含むインスリン産生促進剤を投与することを含む、対象におけるインスリン産生を促進する方法が提供される。
【0045】
本発明の態様によれば、対象に、有効成分としてGREB1又はGREB1をコードする核酸を含むインスリン産生促進剤を投与することを含む、対象におけるインスリン産生を促進する方法が提供される。
【0046】
本発明の態様によれば、対象に、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸から本質的になるインスリン産生促進剤を投与することを含む、対象におけるインスリン産生を促進する方法が提供される。
【0047】
本発明の態様によれば、対象に、有効成分がGREB1又はGREB1をコードする核酸からなるインスリン産生促進剤を投与することを含む、対象におけるインスリン産生を促進する方法が提供される。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、有効性の高い糖尿病の治療薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は、マウスの血中グルコース濃度の時間変化を示すグラフである。グラフのプロットは、平均値±標準誤差を示す。
図2図2は、マイクロアレイ解析に使用した4群のマウスを示す模式図である。
図3図3は、マイクロアレイ解析により得られた4群のマウスの膵島における遺伝子発現パターンを示すヒートマップである。
図4図4は、マイクロアレイ解析により得られた遺伝子の抽出方法を示す模式図である。17β-エストラジオール(E2)をインプラントされたトランスジェニックマウスで有意に発現が増加した遺伝子、発現が減少した遺伝子、及びエストロゲン応答領域(ERE)サイトを有する遺伝子の関係を示す。Tg-E2群で有意に変動した遺伝子は合計67個、そのうち52個が発現上昇、15個が発現低下。合計260個の遺伝子にエストロゲン応答エレメント(ERE)部位があり、2個の遺伝子が両群に共通していた。
図5図5は、17β-エストラジオールをインプラントされたトランスジェニックマウスで発現が増加した遺伝子であり、かつエストロゲン応答領域(ERE)サイトを有する遺伝子である2つの遺伝子の統計値を示す表である。
図6図6は、β細胞特異的にGreb1をノックアウトしたマウスを作製する際におけるアレルの変化を示す模式図である。
図7図7は、ゲノムDNAをPCRにて増幅し、電気泳動により遺伝子型を解析した結果を示す写真である。
図8図8は、β細胞特異的にGreb1をノックアウトしたマウスの膵島におけるmRNAの相対発現量を示すグラフである。グラフのプロットは、平均値±標準誤差を示す。
図9図9は、実施例3の実験デザインを示す模式図である。
図10図10は、β細胞特異的にGreb1をノックアウトし、17β-エストラジオールをインプラントされたマウスの血中グルコース濃度の経時変化を示すグラフである。グラフのプロットは、平均値±標準誤差を示す。
図11図11は、β細胞特異的にGreb1をノックアウトし、17β-エストラジオールをインプラントされたマウスの累積生存率の経時変化を示すグラフである。
図12図12は、抗インスリン抗体及び抗グルカゴン抗体を用いて免疫染色した膵島の蛍光顕微鏡写真である。
図13図13は、膵島におけるβ細胞の比率を示すグラフである。
図14図14は、膵島におけるβ細胞の面積を示すグラフである。
図15図15は、実施例4の実験デザインを示す模式図である。中央写真は17β-エストラジオールペレット、右写真は腎皮膜下に移植された極少量の単離膵島と隣接してインプラントされた17β-エストラジオールペレットの写真を示す。
図16図16は、ストレプトゾトシン(STZ)を投与されたマウスの血中グルコース濃度の経時変化を示すグラフである。グラフのプロットは、平均値±標準誤差を示す。
図17図17は、単離膵島と17β-エストラジオールをインプラントされた腎臓の写真である。
図18図18は、単離膵島と17β-エストラジオールをインプラントされた腎臓の断面の写真である。
図19図19は、単離膵島と17β-エストラジオールをインプラントされた腎臓の蛍光顕微鏡写真である。
図20図20は、腎臓に移植された膵島におけるGreb1のmRNAの相対発現量を示すグラフである。
図21図21は、オスの野生型マウス、誘導性cAMP早期抑制因子(ICER Iγ)が膵β細胞特異的に高発現するオスのトランスジェニックマウス(ICER-Tgマウス)、及び17β-エストラジオールをインプラントされたオスのICER-Tgマウスの血中グルコース濃度を示すグラフである。
図22図22は、オスの野生型マウス、オスのICER-Tgマウス、及び17β-エストラジオールをインプラントされたオスのICER-Tgマウスの膵島におけるGreb1とGreb1に関連する因子の遺伝子のmRNAの相対発現量を示すグラフである。
図23図23は、オスの野生型マウス、オスのICER-Tgマウス、及び17β-エストラジオールをインプラントされたオスのICER-Tgマウスの膵島における細胞周期に関連する因子の遺伝子のmRNAの相対発現量を示すグラフである。
図24図24は、メスのICER-Tgマウスの血中グルコース濃度の経時変化を示すグラフである。
図25図25は、メスのICER-Tgマウスの膵島におけるインスリンmRNAの相対発現量を示すグラフである。
図26図26は、メスのICER-Tgマウスの膵島におけるGreb1とGreb1に関連する因子の遺伝子のmRNAの相対発現量を示すグラフである。
図27図27は、メスのICER-Tgマウスの膵島における細胞周期に関連する因子の遺伝子のmRNAの相対発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に本発明の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態が本発明を限定するものであると理解するべきではない。本開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。
【0051】
実施形態に係る糖尿病の治療薬は、GREB1(Growth Regulation By Estrogen In Breast Cancer 1)又はGREB1をコードする核酸を含む。実施形態に係るβ細胞増殖剤は、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含む。実施形態に係るインスリン産生促進剤は、GREB1又はGREB1をコードする核酸を含む。
【0052】
実施形態に係る糖尿病の治療薬、β細胞増殖剤、又はインスリン産生促進剤は、ヒト又は非ヒト動物である対象に投与される。GREB1は、対象の膵島に送達されると、膵島のβ細胞を増殖し、これによりインスリンの産生が促進され、グルカゴンの濃度が正常になり、対象の血糖値が下がる。そのため、GREB1は、対象の糖尿病の治療に有効である。なお、糖尿病には、1型糖尿病、2型糖尿病、その他の特定の機序、疾患による糖尿病、及び妊娠糖尿病があるが、いずれにも限定されない。
【0053】
GREB1をコードする核酸は、対象の膵島に送達されると、膵島の細胞内に導入され、膵島の細胞内でGREB1を産生する。GREB1をコードする核酸は、DNAであってもよいし、RNAであってもよい。RNAはmRNAであってもよい。GREB1をコードする核酸は、ベクターに搭載されていてもよい。ベクターはウイルスベクターであってもよいし、非ウイルスベクターであってもよい。
【0054】
ウイルスベクターの例としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、及びセンダイウイルスベクターが挙げられるが、特に限定されない。非ウイルスベクターの例としては、プラスミドベクターが挙げられるが、特に限定されない。GREB1をコードする核酸は、リポソームに含まれていてもよい。
【0055】
GREB1又はGREB1をコードする核酸は、膵臓細胞の受容体に結合するタンパク質又はペプチドと結合又は融合していてもよい。臓細胞の受容体に結合するタンパク質又はペプチドと結合又は融合することにより、GREB1又はGREB1をコードする核酸が膵臓細胞に効率的に送達され得る。膵臓細胞は、例えば、β細胞である。
【0056】
膵臓細胞の受容体は、例えば、グルカゴンスーパーファミリーの受容体である。グルカゴンスーパーファミリーの受容体は、例えば、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体である。膵臓細胞の受容体に結合するタンパク質は、例えば、グルカゴンスーパーファミリーのタンパク質である。グルカゴンスーパーファミリーのタンパク質は、例えば、GLP-1である。グルカゴンスーパーファミリーのペプチドは、例えば、グルカゴンスーパーファミリーの受容体に対するアゴニスト活性を有するペプチドである。
【0057】
例えば、GREB1の求核反応性部分と、膵臓細胞の受容体に結合するタンパク質又はペプチドの求電子反応性部分と、を反応させて、GREB1と、膵臓細胞の受容体に結合するタンパク質又はペプチドと、を結合させてもよい。あるいは、GREB1の求電子反応性部分と、膵臓細胞の受容体に結合するタンパク質又はペプチドの求核反応性部分と、を反応させて、GREB1と、膵臓細胞の受容体に結合するタンパク質又はペプチドと、を結合させてもよい。
【0058】
求核反応性基の例としては、アミノ、チオール、及びヒドロキシルが挙げられるが、特に限定されない。求電子反応性基の例としては、カルボキシル、塩化アシル、無水物、エステル、スクシンイミドエステル、ハロゲン化アルキル、スルホン酸エステル、マレイミド、ハロアセチル、及びイソシアン酸が挙げられるが、特に限定されない。
【0059】
あるいは、リンカーを介して、GREB1と、膵臓細胞の受容体に結合するタンパク質又はペプチドの求電子反応性部分と、を架橋させて、GREB1と、膵臓細胞の受容体に結合するタンパク質又はペプチドと、を結合させてもよい。
【0060】
実施形態に係る糖尿病の治療薬は、有効量のGREB1又はGREB1をコードする核酸を含む。有効量とは、例えば、糖尿病を治療できる量である。糖尿病を治療できるか否かは、例えば、対象の血中グルコース濃度が正常値に近づくよう変化しているか否かで判断することができる。有効量は、対象の体重、年齢、症状、病態、及び投与方法によって変わり得る。
【0061】
実施形態に係るβ細胞増殖剤、及びインスリン産生促進剤は、それぞれ、有効量のGREB1又はGREB1をコードする核酸を含む。有効量とは、例えば、β細胞を増殖できる量、あるいはインスリン産生を促進できる量である。
【0062】
実施形態に係る糖尿病の治療薬、β細胞増殖剤、又はインスリン産生促進剤は、薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝剤、及び安定剤から選択される少なくともいずれかとともに、医薬組成物を構成していてもよい。
【0063】
担体は、液体であってもよい。液体担体は、例えば、水、石油、動物油、植物油、鉱油、及び合成油から選択される少なくともいずれかを含んでいてもよい。実施形態に係る糖尿病の治療薬、β細胞増殖剤、又はインスリン産生促進剤は、注射液に含まれていてもよい。注射液の例としては、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、及び乳酸化リンゲル注射液が挙げられるが、特に限定されない。
【0064】
実施形態に係る糖尿病の治療薬、β細胞増殖剤、又はインスリン産生促進剤の投与方法は、経口投与であってもよいし、非経口投与であってもよい。実施形態に係る糖尿病の治療薬、β細胞増殖剤、又はインスリン産生促進剤は、対象の膵臓、好ましくは膵島に局所的に投与されてもよい。
【0065】
(実施例1)
C57BL/6バックグラウンドの野生型オスマウス(オスのWTマウス)、誘導性cAMP早期抑制因子(ICER Iγ)が膵β細胞特異的に高発現するオスのトランスジェニックマウス(オスのICER-Tgマウス)、及びICER Iγが膵β細胞特異的に高発現するメスのトランスジェニックマウス(メスのICER-Tgマウス)を用意した。ICER Iγは、β細胞におけるインスリンとサイクリンAの発現を強く抑制し、β細胞の増殖を低下させる。そのため、ICER-Tgマウスは、誕生後、早期に重症の糖尿病を発症する。
【0066】
マウスを動物実験施設で12時間の明暗サイクルで飼育した。マウスには水と標準的な飼料(CE-2、CLEA Japan)を自由に与えた。飼料は、8.9%の水、24.9%の粗タンパク質、4.6%の粗脂質、4.1%の粗繊維、6.6%の粗灰分、及び51%の可溶無窒素物を含み、100gあたり344.9kcalを含む。当該飼料は、長期にわたって標準的な血中グルコース濃度を維持するのに適している。
【0067】
本実施例及び以下の実施例において、マウスの体重及び朝食後グルコース濃度を、隔週で測定した。マウスの尻尾から採取した血液におけるグルコース濃度は、血糖値測定装置(ONE-TOUCH UltraVue、Johnson & Johnson又はGLUCOCARD DIAmeter、登録商標、ARKRAY)で測定した。マウスの尻尾から採取した血液におけるグリコシル化ヘモグロビン濃度(HbA1c)は、血液分析装置(DCA2000、Siemens Healthineers)で測定した。
【0068】
図1に示すように、オスのWTマウス(n=6)の血中グルコース濃度は、生後3週から24週にわたって、一定の低い値を示した。オスのICER-Tgマウス(n=26)は重度の糖尿病であり、血中グルコース濃度は、生後上昇を続け、その後、高濃度を維持した。オスのICER-Tgマウスとは対照的に、メスのICER-Tgマウス(n=7)の血中グルコース濃度は、生後上昇したものの、その後、低下に転じ、オスのWTマウスと同等となった。
【0069】
膵島中のβ細胞の増殖を誘導するために、19週齢のオスのICER-Tgマウス(同腹仔、n=6)の首筋に0.72mgの17β-エストラジオール(E2)の90日持続放出ペレット(Innovative Research of America)をインプラントしたところ、インプラントしてから1週間後には血中グルコース濃度が半減し、その後も血中グルコース濃度は低下し続け、6週間後(6ヵ月齢)には、オスのWTマウス及びメスのICER-Tgマウスと同じ程度まで血中グルコース濃度が低下した。
【0070】
次に、図2に模式的に示すように、それぞれ6ヵ月齢のオスのWTマウス(n=6)、17β-エストラジオールをインプラントしなかったオスのICER-Tgマウス(n=15)、17β-エストラジオールをインプラントして6週間経過したオスのICER-Tgマウス(n=6)、及びメスのICER-Tgマウス(n=7)から膵島を単離し、試薬(TRIzol、Invitrogen又はRNeasy Kit、Qiagen)を用いて、単離した膵島からトータルRNAを抽出した。
【0071】
cRNA調製キット(Low Input Quick Amp Labeling Kit、Agilent Technologies)を用いて、トータルRNAから増幅されたラベル化cRNAを調製した。cRNAを、マウスのcoding RNAを網羅的に搭載した遺伝子発現マイクロアレイ(SurePrint G3 Mouse Gene Expression Microarray 8x60K, Agilent Technologies)とハイブリダイズさせ、マイクロアレイをスキャナー(Agilent Technologies)でスキャンし、相対的なハイブリダイゼーション強度を遺伝子ごとに算出した。さらに、マイクロアレイの解析結果に基づき、統計解析ソフト(R)を用いて、図3に示す遺伝子発現パターンを示すヒートマップを生成し、膵島における遺伝子発現をプロファイリングした。図3のヒートマップのカラーキーにおいて、プラス側はアップレギュレーション、マイナス側はダウンレギュレーションを示す。ヒートマップは、17β-エストラジオールをインプラントして6週間経過したオスのICER-Tgマウスにおいて、多数の遺伝子の発現がアップレギュレートされていたことを示していた。
【0072】
17β-エストラジオールをインプラントして6週間経過したオスのICER-Tgマウスにおいて、発現が有意に変動した遺伝子は67個であった。そのうち、52個の遺伝子の発現が増加し、15個の遺伝子の発現が減少していた。また、17β-エストラジオールに応答するエストロゲン応答領域(ERE)サイトを有する遺伝子は260個あり、図4に示すように、17β-エストラジオールをインプラントしたオスのICER-Tgマウスにおいて発現が上昇した遺伝子群と、EREサイトを有する遺伝子群と、に共通する遺伝子は、Greb1とNudt4の2個であった。
【0073】
マイクロアレイの解析で得られた17β-エストラジオールをインプラントしたオスのICER-TgマウスにおけるGreb1のシグナル強度を、オスのWTマウス、17β-エストラジオールをインプラントしなかったオスのICER-Tgマウス、及びメスのICER-TgマウスにおけるGreb1のシグナル強度と比較したところ、図5に示すように、17β-エストラジオールをインプラントしたオスのICER-TgマウスにおけるGreb1のシグナル強度は、Zスコア及び強度比において高かった。17β-エストラジオールをインプラントしたオスのICER-TgマウスにおけるGreb1の発現は、17β-エストラジオールをインプラントしなかったオスのICER-Tgマウスの4.6倍、野生型マウスの6.7から10倍であった。この結果は、体内における17β-エストラジオールの濃度の上昇によってGreb1の発現が誘導され、β細胞が増殖し、血中グルコース濃度が低下したことを示している。
【0074】
(実施例2)
C57BL/6N-Greb1tm1a(KOMP)Wtsi/BayMmucdマウス(Greb1tm1a/tm1aマウス)をカリフォルニア大学デービス校のノックアウトマウスプロジェクト(KOMP)リポジトリから入手した。また、Ins1遺伝子のストップコドン直前にP2A-nls CreをノックインしたバイシストロニックCreドライバーマウスであるC57BL/6J-Ins1em1(cre)Utrマウスを理化学研究所バイオリソース研究センターから入手した。Greb1tm1a/tm1aマウスとIns1em1(cre)Utrマウスを交配させ、β細胞特異的にGreb1をノックアウトしたマウス(Ins1-Gre+/-;Greb1tm1a/tm1aマウス)を作製した。Greb1ノックアウトマウスにおいては、図6に模式的に示すように、膵臓のβ細胞にTm1bアレルが生成している。
【0075】
野生型マウス、Greb1tm1a/tm1aマウス、及びGreb1ノックアウトマウスのゲノムDNAをPCRにて増幅し、電気泳動により遺伝子型を解析したところ、図7に示すように、野生型のマウスからは2018bpの野生型アレルが検出され、Greb1tm1a/tm1aマウスからは野生型アレルと4212bpのTm1aアレルが検出され、Greb1ノックアウトマウスからは野生型アレルと625bpのTm1bアレルが検出された。
【0076】
17週齢のメスのGreb1tm1a/tm1aマウス(n=10)及び17週齢のメスのGreb1ノックアウトマウス(n=5)のそれぞれから膵島を単離し、膵島からトータルRNAを抽出した。Greb1tm1a/tm1aマウスにおけるmRNAの発現量を1として、Greb1ノックアウトマウスにおけるmRNAの相対的発現量を測定した。その結果、図8に示すように、Greb1ノックアウトマウスの膵島においては、Greb1の発現がないことが確認された。
【0077】
(実施例3)
図9に模式的に示すように、114週齢のGreb1tm1a/tm1aマウス(コントロールマウス)と114週齢のGreb1ノックアウト(KO)マウスのそれぞれに、150mg/kgのストレプトゾトシン(STZ、シグマアルドリッチ)を腹腔内投与し、β細胞を著しく破壊して高血糖を誘発した。ストレプトゾトシンを投与してから1週間後に、Greb1tm1a/tm1aマウスとGreb1ノックアウトマウスのそれぞれに、17β-エストラジオール(E2)をインプラントした。図10及び図11に示すように、オスのGreb1tm1a/tm1aマウス(n=7)は、17β-エストラジオールをインプラントした後、血中グルコース濃度が徐々に低下し、ほとんどが死亡しなかった。これに対し、Greb1ノックアウトマウス(n=7、うち、メス3、オス4)は、17β-エストラジオールをインプラントした後でも、血中グルコース濃度が低下せず、次第に衰弱し、ほとんどが死亡した。Greb1tm1a/tm1aマウス(n=14)の生存率と、Greb1ノックアウトマウス(n=19)の生存率との差は、統計的に有意であった。
【0078】
ストレプトゾトシンを投与してから4から5週目(19週齢)にGreb1tm1a/tm1aマウスとGreb1ノックアウトマウスのそれぞれから、10週目(24週齢)にGreb1tm1aマウスから膵島を単離し、図12に示すように、抗インスリン抗体及び抗グルカゴン抗体を用いて膵島を免疫染色した。図13に示すように、Greb1tm1a/tm1aマウス(4、5週で解析:n=3、10週で解析:n=4)においては、膵島におけるα細胞とβ細胞の合計に対するβ細胞の比率が時間経過とともに増加した。また、図14に示すように、Greb1tm1a/tm1aマウスにおいては、膵島におけるβ細胞の面積が時間経過とともに有意に増加し、多くの膵島の形態が正常化していた。これに対し、Greb1ノックアウトマウス(n=7、うち、メス4、オス3)においては、β細胞の比率が低く、膵島の形態も崩壊しており、改善は見られなかった。これらの結果は、Greb1が欠損していると、17β-エストラジオールをインプラントしても、β細胞は増殖できなことを示しており、Greb1がβ細胞増殖因子であることを示している。
【0079】
(実施例4)
8週齢の野生型(WT)マウスを用意し、2日後、180mg/kgのストレプトゾトシン(STZ、シグマアルドリッチ)をマウスの尾静脈に投与し、β細胞を著しく破壊して重度の糖尿病を誘発した。マウスを用意してから5日後、図15に示すように、ストレプトゾトシンを投与された野生型マウスの腎被膜下の一か所に、50個の単離膵島を移植した。50個の単離膵島の移植のみでは、糖尿病マウスの高血糖を改善することはできないと従来報告されている。しかし、腎被膜下の50個の単離膵島の近傍に17β-エストラジオール(E2)のペレット(1.5mm径、0.72mg、90日徐放性、Innovative Research of America)をインプラントすると、マウスは死亡しなかった。
【0080】
独立して2回実験を繰り返したところ、図16に示すように、野生型マウス(1回目:n=7、2回目:n=3)の血中グルコース濃度は、ストレプトゾトシンを投与された後、急上昇した。単離膵島と17β-エストラジオールを腎皮下にインプラントした後は、変動はあるものの、30日にわたって血中グルコース濃度は減少し、その後は正常の範囲内に安定的に保たれた。マウスを用意してから46日目に、マウス(n=2)から膵島を移植した腎臓(片腎)を摘出すると、マウスの血糖値は直ちに上昇した。これらの結果は、移植された膵島が、17β-エストラジオールに曝されることにより、血糖値を正常に維持したこと、すなわち正常血糖の維持は移植膵島に完全に依存していたことを示している。
【0081】
マウスを用意してから109日目に腎臓を摘出した。図17に示すように、多くの新生血管が、膵島移植片とペレットに伸展し、広がっているのが観察された。また、マウスを用意してから109日目又は145日目に摘出した腎臓の切片を4%のパラホルムアルデヒドで固定した。さらに、固定した腎臓の切片をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した。図18に示すように、膵島は、腎被膜下で拡大していた。また、腎被膜下に移植された膵島に対してインスリンとBrdU、あるいはインスリンとグルカゴン抗体を用いて免疫染色をしたところ、図19―1、及び図19―2に示すように、膵島のβ細胞が増殖していることが観察された。
【0082】
マウスを用意してから109日目にマウス(n=3)から腎臓を摘出し、腎皮膜を剥離して膵島の移植片を摘出し、膵島の移植片における遺伝子発現を調べた。その結果、図20に示すように、17β-エストラジオールをインプラントしなかったマウスの膵島の移植片におけるGreb1の発現量を1として、17β-エストラジオールをインプラントしたマウスの膵島の移植片におけるGreb1の相対発現量は、著しく増加していた。
【0083】
(実施例5)
6ヵ月齢のオスのWTマウス(n=6)、6ヵ月齢のオスのICER-Tgマウス(n=15)、19週齢の時に0.72mgの17β-エストラジオール(E2)をインプラントされた6ヵ月齢のオスのICER-Tgマウス(オスのICER-Tg-E2マウス、n=6)を用意した。それぞれのマウスの血中グルコース濃度を測定した結果を図21に示す。
【0084】
また、それぞれのオスのマウスから単離した膵島におけるGreb1とGreb1に関連する因子の遺伝子のmRNAの発現量を測定した結果を図22に示す。Nik特異的キナーゼ(Nrk)は、Greb1の活性と逆相関する因子である。エストロゲン受容体α(ERα)と肝受容体相同体1(LRH1)は、17β-エストラジオールの上昇に迅速に反応してβ細胞で誘導されることが知られている。また、乳がん細胞株では、ERαとLRH1が、GREB1の発現を活性化することが知られている。
【0085】
図22のグラフは、オスのWTマウスにおけるmRNAの発現量を1として、オスのICER-Tgマウス及びオスのICER-Tg-E2マウスにおけるmRNAの相対発現量を示している。オスのICER-Tg-E2マウスでは、Greb1の発現が顕著に増加していた。Greb1より低いものの、LRH-1の発現も増加していた。ERαとNrkの発現は非常に低かった。LRH-1は、オスのICER-Tg-E2マウスのみならず、オスのICER-Tgマウスでも高発現していた。
【0086】
また、それぞれのオスのマウスから単離した膵島における細胞周期に関連する因子の遺伝子のmRNAの発現量を測定した結果を図23に示す。図23のグラフは、オスのWTマウスにおけるmRNAの発現量を1として、オスのICER-Tgマウス及びオスのICER-Tg-E2マウスにおけるmRNAの相対発現量を示している。オスのWTマウス及びオスのICER-Tgマウスと比較して、オスのICER-Tg-E2マウスにおいては、サイクリンA2、サイクリンB1、サイクリンB2、及びオーロラキナーゼBをコードする遺伝子の発現が有意に増加していた。
【0087】
これらの結果は、外因性の17β-エストラジオールにより、Greb1、LRH1、サイクリンA2、サイクリンB1、サイクリンB2、及びオーロラキナーゼBの発現が増加したことを示している。また、細胞周期に関連する因子の発現の上昇により、β細胞が増殖したことが示唆される。
【0088】
(実施例6)
5週齢のメスのICER-Tgマウス、8から12週齢のメスのICER-Tgマウス、13から18週齢のメスのICER-Tgマウス、及び24週齢のメスのICER-Tgマウスを用意した。それぞれのメスのマウスの血中グルコース濃度を測定した結果を図24に示す。5週齢のメスのICER-Tgマウスの血中グルコース濃度は高かったものの、週齢とともに血中グルコース濃度は低下し、13週齢以降は正常な濃度となっていた。
【0089】
メスの野生型ラットでは、血漿中の内因性の17β-エストラジオール(E2)の濃度は、生後3から4週目に徐々に増加し、6週目にさらに増加した後、6ヶ月目までに徐々に減少すると報告されている。したがって、メスのICER-Tgマウスにおける血中グルコース濃度の低下は、血漿中の内因性の17β-エストラジオールの濃度上昇に応じていることが示唆された。
【0090】
メスのICER-Tgマウスのそれぞれから膵島を単離し、インスリンmRNAの発現量を測定した。13から15週齢のオスのマウスにおけるインスリンmRNAの発現量を1として、メスのICER-TgマウスにおけるインスリンmRNAの相対的な発現量を図25のグラフに示す。メスのICER-Tgマウスにおいて、インスリンmRNAの発現量は週齢とともに有意に増加していた。インスリンmRNAの発現量の増加は、β細胞の増加を反映している。
【0091】
また、メスのICER-Tgマウスのそれぞれから単離した膵島におけるGreb1とGreb1に関連する因子の遺伝子のmRNAの発現量を測定した。13から15週齢のオスのマウスにおけるmRNAの発現量を1として、メスのICER-TgマウスにおけるmRNAの相対的な発現量を図26のグラフに示す。
【0092】
5週齢のメスのICER-Tgマウスでは、ERαとLRH-1の発現は高かったが、Greb1とNrkの発現は低かった。8から12週齢のメスのICER-Tgマウスでは、ERαの発現は著しく低下したが、Greb1の発現は約8倍まで急増した。血中グルコース濃度が十分に低下し、インスリンの発現が増えた13から18週齢のメスのICER-Tgマウスでは、ERαとLRH-1の発現はさらに減少し、Greb1の発現も低下したが、Nrkの発現は増加していた。24週齢のメスのICER-Tgマウスでは、ERα、LRH-1、Greb1、及びNrkの発現が低下していた。よって、Greb1の発現は一過性であることが示された。
【0093】
また、メスのICER-Tgマウスのそれぞれから単離した膵島における細胞周期に関連する因子の遺伝子のmRNAの発現量を測定した。13から15週齢のオスのマウスにおけるmRNAの発現量を1として、メスのICER-TgマウスにおけるmRNAの相対的な発現量を図27のグラフに示す。
【0094】
サイクリンD1とサイクリンE2を除く測定された全ての細胞周期関連因子であるサイクリンA2、サイクリンB1、サイクリンB2、サイクリンD2、サイクリンE1、オーロラキナーゼA、及びオーロラキナーゼBは、血中グルコース濃度が低下する8から12週齢において増加し、その後、インスリンが十分に増加する13から18週齢で低下していた。
【0095】
これらの結果は、メスのICER-Tgマウスでは、内因性の17β-エストラジオールの増加により、Greb1、サイクリンA2、サイクリンB1、サイクリンB2、サイクリンD2、サイクリンE1、オーロラキナーゼA、及びオーロラキナーゼBの発現が増加したことを示している。また、これらの結果から、細胞周期に関連する因子の発現の上昇により、β細胞が増殖したことが示唆される。
図1
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