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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025094401
(43)【公開日】2025-06-25
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20250618BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20250618BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
B60C11/03 300C
B60C11/13 C
B60C11/12 B
B60C11/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209894
(22)【出願日】2023-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中林 隆之
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB11
3D131BC12
3D131BC18
3D131BC19
3D131BC34
3D131EB11X
3D131EB31V
3D131EB31X
3D131EB46V
3D131EB46X
3D131EB81V
3D131EB87X
3D131EB91V
3D131EB91X
(57)【要約】
【課題】耐偏摩耗性能を向上可能な空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ショルダー陸1及びセンター陸2において、溝要素の第1組み合わせG1と第2組み合わせG2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されている。ショルダー陸1は、陸のタイヤ軸方向ADの両端に開口する第1スリット31と、第1ノッチ12と、第1ノッチ12から離隔する第1サイプ11と、を有する。センター陸2は、陸のタイヤ軸方向ADの両端に開口する第2スリット32と、第2ノッチ22と、第2ノッチから離隔する第2サイプ21と、を有する。第1組み合わせG1は、第1スリット31、第1スリット31とタイヤ軸方向ADに連なる第2ノッチ22及び第2サイプ21を含む。溝要素の第2組み合わせG1は、第2スリット32、第2スリット32とタイヤ軸方向ADに連なる第1ノッチ12及び第1サイプ11を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延びる第1主溝と、
前記第1主溝を挟んでタイヤ軸方向に隣接する第1陸及び第2陸と、を有するトレッド面を備え、
前記第1陸は、前記第1陸のタイヤ軸方向の両端に開口する第1スリットと、一端が前記第1主溝に開口し他端が前記第1陸内で終端する第1ノッチと、前記第1ノッチからタイヤ軸方向に離隔する第1サイプと、を有し、
前記第2陸は、前記第2陸のタイヤ軸方向の両端に開口する第2スリットと、一端が前記第1主溝に開口し他端が前記第2陸内で終端する第2ノッチと、前記第2ノッチからタイヤ軸方向に離隔する第2サイプと、を有し、
前記トレッド面は、
前記第1スリット、前記第1スリットとタイヤ軸方向に連なる前記第2ノッチ及び前記第2サイプを含む第1組み合わせと、
前記第2スリット、前記第2スリットとタイヤ軸方向に連なる前記第1ノッチ及び前記第1サイプを含む第2組み合わせと、を有し、
前記トレッド面において前記第1組み合わせと前記第2組み合わせとがタイヤ周方向に交互に配置されている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記トレッド面は、タイヤ周方向に延びる複数の主溝を有し、前記複数の主溝に前記第1主溝が含まれ、
前記第1主溝は、前記複数の主溝のうちタイヤ軸方向の最も外側に配置されるショルダー主溝である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第2陸は、前記第1陸よりもタイヤ軸方向の内側に配置されており、
前記トレッド面は、前記第2ノッチと前記第2サイプとの間に小陸領域を有し、
前記第2ノッチと前記第2サイプと前記小陸領域とが現れる断面において、前記第2陸における前記第2ノッチの底から前記小陸領域を経て前記第2サイプの底に至る部位の幅は、タイヤ径方向の内側から外側に向けて小さくなる、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1サイプ及び前記第2サイプのサイプ表面形状は、平面視において、幅が一定の直線部位を含む、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3には、空気入りタイヤのトレッド面が主溝によって複数の陸に区画され、陸がスリット、ノッチ及びサイプを有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-236510号公報
【特許文献2】特開2014-177262号公報
【特許文献3】特開2022-190431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記スリット、ノッチ及びサイプは、所望のタイヤ性能を向上させる機能を有する一方で、陸を変形しやすくするために、陸のタイヤ軸方向の両端部の摩耗量が異なる偏摩耗を招来するおそれがあり、耐偏摩耗性能を悪化させる可能性がある。
【0005】
本開示は、耐偏摩耗性能を向上可能な空気入りタイヤを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延びる第1主溝と、前記第1主溝を挟んでタイヤ軸方向に隣接する第1陸及び第2陸と、を有するトレッド面を備え、前記第1陸は、前記第1陸のタイヤ軸方向の両端に開口する第1スリットと、一端が前記第1主溝に開口し他端が前記第1陸内で終端する第1ノッチと、前記第1ノッチからタイヤ軸方向に離隔する第1サイプと、を有し、前記第2陸は、前記第2陸のタイヤ軸方向の両端に開口する第2スリットと、一端が前記第1主溝に開口し他端が前記第2陸内で終端する第2ノッチと、前記第2ノッチからタイヤ軸方向に離隔する第2サイプと、を有し、前記トレッド面は、前記第1スリット、前記第1スリットとタイヤ軸方向に連なる前記第2ノッチ及び前記第2サイプを含む第1組み合わせと、前記第2スリット、前記第2スリットとタイヤ軸方向に連なる前記第1ノッチ及び前記第1サイプを含む第2組み合わせと、を有し、前記トレッド面において前記第1組み合わせと前記第2組み合わせとがタイヤ周方向に交互に配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態の空気入りタイヤが備えるトレッド面のタイヤ新品時の展開図である。
図2】第1実施形態のトレッド面の半分を示す拡大展開図である。
図3】第1実施形態のトレッド面のさらなる拡大展開図である。
図4図1におけるI-I部位断面図である。
図5図5Aは、図3におけるII-II部位断面図である。図5Bは、図3におけるIII-III部位断面図である。
図6】比較例1及び実施例1~6のセンター陸及びショルダー陸の形状を模式的に示す平面図である。
図7】第1の変形例を示す図4に対応する図である。
図8】第2の変形例を示す図4に対応する図である。
図9】第3の変形例を示す図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
以下、本開示の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
【0009】
図1は、第1実施形態の空気入りタイヤが備えるトレッド面Trのタイヤ新品時の展開図である。図2は、第1実施形態のトレッド面Trの半分を示す拡大展開図である。図3は、第1実施形態のトレッド面Trのさらなる拡大展開図である。
【0010】
図1及び図2に示すように、空気入りタイヤ(以下、ただ単にタイヤと表記する場合がある)はトレッド面Trを有する。トレッド面Trに含まれる接地面には、タイヤ周方向CDに連続して延びる複数の主溝(40,41)が設けられている。主溝の本数は変更可能である。第1実施形態の複数の主溝(40,41)は、接地面においてタイヤ軸方向ADの最も外側にあるショルダー主溝40(第1主溝に相当)と、タイヤ赤道CLに最も近いセンター主溝41と、を含んでいる。第1実施形態のショルダー主溝40は、タイヤ周方向CDに連続して延びるジグザグ形状の溝である。センター主溝41は、分岐部及び合流部を含む形状の溝である。
【0011】
主溝は、特に限定されないが、例えば、接地端LE,LE間の距離(タイヤ軸方向ADの寸法)の3%以上の溝幅を有している、としてもよい。また、主溝は、特に限定されないが、例えば、7.0mm以上の溝幅を有している、としてもよい。また、主溝は、特に限定されないが、例えば、タイヤ周方向CDに連続し、トレッド面Tr内で溝深さが一番深い、としてもよい。主溝の溝内には、摩耗による使用限界を示すTWI(トレッドウェアインジケータ)が部分的に設けられている、としてもよい。
【0012】
空気入りタイヤの各部の寸法等は、空気入りタイヤを正規リムに装着して正規内圧を充填した無負荷状態で測定される値である。
【0013】
接地面は、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地する面を意味する。接地端LEは、接地面のタイヤ軸方向ADの最も外側の端である。
【0014】
正規リムは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤごとに定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRA、及びETRTOであれば「Measuring Rim」である。
【0015】
正規内圧は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている空気圧であり、トラックバス用タイヤ、ライトトラック用タイヤの場合は、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。乗用車用タイヤの場合は通常180kPaとするが、タイヤに、Extra Load、又は、Reinforcedと記載されたタイヤの場合は220kPaとする。
【0016】
正規荷重は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」である。タイヤが乗用車用の場合には、前記荷重の88%に相当する荷重である。タイヤがレーシングカート用の場合、正規荷重は392Nである。
【0017】
本明細書において、スリット(第1スリット31、第2スリット32)は、後述するサイプよりも幅が広く、陸の一端から他端まで連なる溝である。ノッチ(第1ノッチ12、第2ノッチ22)は、後述するサイプよりも幅が広く、陸の一端に開口し且つ陸の他端から離れて陸内で終端する溝であり、タイヤ軸方向ADの長さが、タイヤ周方向CDの幅よりも長い溝である。第1実施形態のノッチは、主溝よりも浅いが、主溝と同じ深さを有するとしてもよい。サイプ(第1サイプ11、第2サイプ21)の後述する第1部位(幅一定部位)の溝幅は0.3mm以上且つ1.5mm以下である。サイプの溝幅は、第1部位の幅を意味する。第1部位の幅は、トレッド面Tr(タイヤの外表面)に現れるサイプ表面において一定幅で離隔する2線を通る垂線に沿った幅である。2線は、直線および曲線を含む。サイプは、深さ方向に屈曲する部分を有する3次元サイプでもよいし、深さ方向に屈曲せずに深さ方向に直線状に延びる2次元サイプであってもよい。
【0018】
空気入りタイヤは、ショルダー主溝40よりもタイヤ軸方向ADの外側に配置されるショルダー陸1(第1陸に相当)と、ショルダー主溝40よりもタイヤ軸方向ADの内側に配置されるセンター陸2(第2陸に相当)と、を有する。ショルダー陸1及びセンター陸2は、ショルダー主溝40を挟んで互いにタイヤ軸方向ADに隣接している。図1に示すトレッドパターンは、ショルダー陸1及びセンター陸2が点対称となるトレッドパターンである。
【0019】
<ショルダー陸1>
第1実施形態におけるショルダー陸1は、第1スリット31と、第1サイプ11と、第1ノッチ12と、を有する。ショルダー陸1は、第1スリット31及びショルダー主溝40によって複数のショルダーブロックに区画されている。第1スリット31は、ショルダー陸1のタイヤ軸方向ADの両端に開口している。具体的には、第1スリット31は、ショルダー主溝40に開口すると共にショルダー陸1のタイヤ軸方向ADの外側の端まで延びている。ショルダー陸1は、陸のタイヤ径方向の外側の面(接地面)と陸の側面とが交差する稜線を有しており、この稜線がショルダー陸1のタイヤ軸方向ADの外側の端であり、接地端LEとなる。第1ノッチ12の一端がショルダー主溝40に開口し、第1ノッチ12の他端がショルダー陸1内で終端する。第1サイプ11は、第1ノッチ12からタイヤ軸方向ADに離隔している。第1サイプ11が第1ノッチ12から離隔しているため、第1ノッチ12と第1サイプ11との間にトレッド面Trの一部である第1小陸領域13が配置される。
【0020】
<センター陸2>
第1実施形態におけるセンター陸2は、第2スリット32と、第2サイプ21と、第2ノッチ22と、を有する。センター陸2は、第2スリット32及び主溝(40,41)によって複数のセンターブロックに区画されている。第2スリット32は、センター陸2のタイヤ軸方向ADの両端に開口している。具体的には、第2スリット32は、ショルダー主溝40及びセンター主溝41に開口している。第2ノッチ22の一端がショルダー主溝40に開口し、第2ノッチ22の他端がセンター陸2内で終端している。第2サイプ21は、第2ノッチ22からタイヤ軸方向ADに離隔している。第2サイプ21が第2ノッチ22から離隔しているため、第2ノッチ22と第2サイプ21との間にトレッド面Trの一部である第2小陸領域23が配置される。
なお、第1実施形態におけるセンターブロック及びショルダーブロックの端には、1.0mm等の一定幅の段差がブロックの端に沿って形成されているが、これに限定されない。ブロックの端に段差が形成されていなくてもよい。
【0021】
<サイプ、ノッチ及びスリットの位置関係>
図2に示すように、トレッド面Trは、溝要素の第1組み合わせG1と、溝要素の第2組み合わせG2とを有している。溝要素の第1組み合わせG1は、第1スリット31と、第1スリット31とタイヤ軸方向ADに連なる第2ノッチ22と、第2ノッチ22とタイヤ軸方向ADに離隔する第2サイプ21とを含む。溝要素の第2組み合わせG2は、第2スリット32と、第2スリット32とタイヤ軸方向ADに連なる第1ノッチ12と、第1ノッチ12とタイヤ軸方向ADに離隔する第1サイプ11とを含む。トレッド面Trにおいて第1組み合わせG1と第2組み合わせG2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されている。溝要素の第1組み合わせG1及び第2組み合わせG2の間に、溝要素の第1組み合わせG1及び第2組み合わせG2を構成していないスリット及びサイプが配置されていてもよい。
これにより、ショルダー陸1及びショルダー陸1とショルダー主溝40を介して隣接するセンター陸2において、溝要素の第1組み合わせG1だけが配置されている場合や溝要素の第2組み合わせG2だけが配置されている場合に比べて、陸のタイヤ軸方向の一方側の端部と他方側の端部の摩耗量が異なる偏摩耗を抑制可能となる。特に、溝要素の第1組み合わせG1と第2組み合わせG2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されているパターンに最も偏摩耗が発生しやすいショルダー陸1が含まれているので、各陸の変形しやすさのバランスがとれ、耐偏摩耗性能の向上に有利である。
なお、ショルダー陸1及びセンター陸2に形成される全てのノッチがショルダー主溝40に開口しており、ショルダー陸1の第1ノッチ12とセンター陸2の第2ノッチ22とがタイヤ周方向CDに交互に配置される、としてもよい。ショルダー陸1及びセンター陸2に形成されるノッチの全てが、上記第1組み合わせG1と第2組み合わせG2のいずれかを構成している、としてもよい。
【0022】
<第2ノッチ22と第2サイプ21と第2小陸領域23とを通る断面形状>
図4は、図1におけるI-I部位断面図であり、第2ノッチ22と第2サイプ21と第2小陸領域23とが現れる断面図である。センター陸2において、第2ノッチ22の底(22a)から第2小陸領域23を経て第2サイプ21の底(底面21b)に至る部位24の幅は、タイヤ径方向RDの内側から外側に向けて小さくなる。これにより、第2小陸領域23を形成する部位24の剛性を高めて耐偏摩耗性能を向上可能となる。上記部位24の幅は、上記断面における幅である。
【0023】
図4に示すように、第2サイプ21は、トレッド面Trに沿って延びる底面21bと、トレッド面Trから深さ方向に延びる縦壁面21cとを有する。サイプの深さ方向はトレッド面Trの法線方向である。底面21bが最も深い底である。第2サイプ21の底面21b(第2小陸領域23に近い端21a)は、1又は複数の曲面を介して縦壁面21cに接続されている。
【0024】
図4の例では、第2ノッチ22がトレッド面Trから深さ方向に延びる縦壁面22cと、底面22bとを有する。第2ノッチ22の底22aは、第2ノッチ22の底面22bのうち最も深い部分である。ノッチの深さ方向はトレッド面Trの法線方向である。第2ノッチ22の底面22bは、第2小陸領域23に向けて深さが小さくなるように傾斜している。第2ノッチ22の底面22bは、曲面を介して縦壁面22cに接続されている。
【0025】
<第1小陸領域13及び第2小陸領域23の寸法>
図3に示すように、第1小陸領域13のタイヤ軸方向ADの寸法L3、第1サイプ11のタイヤ軸方向ADの寸法L2、第1ノッチ12及び第2スリット32を合わせたタイヤ軸方向ADの寸法L1は、次の関係を満たすことが好ましい。
L3の(L1+L2+L3)に対する割合が1%以上且つ5%以下であることが挙げられる。特に、上記割合が3%であることが好ましい。
上記割合が1%以上であることにより、耐偏摩耗性能の向上効果が得られやすい。上記割合が5%以下であることにより、スノートラクション性能とウエットグリップ性能の維持効果又は向上効果が得られやすい。
第1ノッチ12及び第2スリット32を合わせたタイヤ軸方向ADの寸法L1は、第1ノッチ12のタイヤ軸方向ADの端と、第2スリット32のタイヤ軸方向ADの端との間のタイヤ軸方向ADに沿った距離である。ここで、第1ノッチ12及び第2スリット32のタイヤ軸方向ADの端は、直線端である場合には直線端の中心点を意味し、直線端が無い場合には端の最も外側を意味する。
第1サイプ11のタイヤ軸方向ADの寸法L2は、サイプ表面の幅一定部分における幅中心の端同士のタイヤ軸方向ADに沿った距離である。
第1小陸領域13のタイヤ軸方向ADの寸法L3は、第1サイプ11のサイプ表面の幅一定部分における幅中心の端と、第1ノッチ12のタイヤ軸方向ADの端との間のタイヤ軸方向ADに沿った距離である。
【0026】
第2小陸領域23についても同様であり、第2小陸領域23のタイヤ軸方向ADの寸法L3、第2サイプ21のタイヤ軸方向ADの寸法L2、第2ノッチ22及び第1スリット31を合わせたタイヤ軸方向ADの寸法L1は、上記関係を満たすことが好ましい。
第2ノッチ22及び第1スリット31を合わせたタイヤ軸方向ADの寸法L1は、第2ノッチ22のタイヤ軸方向ADの端と、第1スリット31のタイヤ軸方向ADの端との間のタイヤ軸方向ADに沿った距離である。第2ノッチ22のタイヤ軸方向ADの端は、直線端である場合には直線端の中心点を意味し、直線端が無い場合には最も外側の端を意味する。第1スリット31のタイヤ軸方向ADの端は、接地端LEである。
第2サイプ21のタイヤ軸方向ADの寸法L2は、サイプ表面の幅一定部分における幅中心の端同士のタイヤ軸方向ADに沿った距離である。
第2小陸領域23のタイヤ軸方向ADの寸法L3は、第2サイプ21のサイプ表面の幅一定部分における幅中心の端と、第2ノッチ22のタイヤ軸方向ADの端との間のタイヤ軸方向ADに沿った距離である。
【0027】
<第1サイプ11及び第2サイプ21の形状>
図5Aは、図3におけるII-II部位断面図である。図5Bは、図3におけるIII-III部位断面図である。図3に示すように、第2サイプ21は、第1部位51のみを有する。図5A及び図5Bに示すように、第1部位51のサイプ表面の幅D1は一定である。図3に示すように、第1サイプ11は、第1部位51および第2部位52を有する。図5Bに示すように、第2部位52のサイプ表面の幅D2は第1部位51の幅D1よりも大きい。
第1サイプ11が第1部位51だけでなく第2部位52を有することで、第1サイプ11が第1部位51のみを有する場合に比べて溝幅が増加するのでウエットグリップ性能が向上可能となる。また、第2部位52を有することで、接地によりタイヤが変形する際に空気が入りやすくなり、タイヤが路面から離れる際に第1サイプ11に入り込んだ雪の排出が促され、これにより、第1サイプ11に雪が入り込んでいないフレッシュな状態で踏み込みでき、エッジ効果が発揮されやすくなるので、スノートラクション性能が向上可能となる。
【0028】
図5Bに示すように、第2部位52は、第1部位51のサイプ幅と同一の幅D1のサイプ部分52aと、そのサイプ部分52aのサイプ幅方向WDの両側に形成された一対の凹部52bとを含む。一対の凹部52bは、トレッド面Trに開口しており、第1サイプ11のサイプ深さ方向NDに直交する方向(サイプ幅方向WD)に平行に延びる平坦な底面53と、トレッド面Trから深さ方向に延びる縦壁面56と、を有する。サイプ深さ方向NDは、トレッド面Trの法線方向である。
第2部位52が縦壁面56を有することにより、第2部位52が縦壁面56の代わりに深さ方向に傾斜する傾斜面を有する場合に比べてエッジ効果を向上でき、スノートラクション性能が向上可能となる。
【0029】
各々の凹部52bの幅D3は上記幅D1よりも大きいことが好ましい。また、バランスをとるためには、一対の凹部52bの幅D3が等しいことが好ましい。第1実施形態では、幅D1が0.8mmであり、幅D2が3.0mmであり、幅D3が1.1mmである。
第1実施形態において、第2部位52の深さD4は1.0mmであるが、これに限定されない。第2部位52の深さD4の最小値は0.5mmである。第2部位52の深さD4が0.5mmよりも小さいと、第2部位52によるウエットグリップ性能の向上及びスノートラクション性能の向上効果が得られにくくなる。
【0030】
[実施例及び比較例]
以下、実施例を示すが、本開示はこれらの実施例に限定されない。図6は、比較例1及び実施例1~6のセンター陸2及びショルダー陸1の形状を模式的に示す平面図である。
【0031】
比較例1
ショルダー陸1及びセンター陸2のブロックそれぞれに、ノッチ(12、22)、小陸領域(13,23)、サイプ(11、21)がタイヤ軸方向ADの外側から内側に順に配置されている。比較例1のパターンは、ノッチ(12、22)が全て陸(ブロック)のタイヤ軸方向ADの外側の端に開口するように配置されているパターンである。上記L3の(L1+L2+L3)に対する割合は3%である。
【0032】
実施例1
ショルダー陸1及びセンター陸2において、溝要素の第1組み合わせG1と第2組み合わせG2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されている。溝要素の第1組み合わせG1は、第1スリット31、第2ノッチ22及び第2サイプ21とが含まれ、これらがタイヤ軸方向ADの外側から内側に順に配置されている。溝要素の第2組み合わせG2は、第1サイプ11、第1ノッチ12及び第2スリット32とが含まれ、これらがタイヤ軸方向ADの外側から内側に順に配置されている。上記L3の(L1+L2+L3)に対する割合は1%である。
【0033】
実施例2
実施例1における上記L3の(L1+L2+L3)に対する割合は3%である。それ以外は、実施例1と同じである。
【0034】
実施例3
実施例1における上記L3の(L1+L2+L3)に対する割合は5%である。それ以外は、実施例1と同じである。
【0035】
実施例4
実施例1におけるショルダー陸1の第1サイプ11が第2部位52を有する。それ以外は、実施例1と同じである。
【0036】
実施例5
実施例4における上記L3の(L1+L2+L3)に対する割合は3%である。それ以外は、実施例4と同じである。
【0037】
実施例6
実施例4における上記L3の(L1+L2+L3)に対する割合は5%である。それ以外は、実施例4と同じである。
【0038】
上記実施例1~6及び比較例1のタイヤを製作し、ウエットグリップ性能、スノートラクション性能及び耐偏摩耗性能について評価した。各評価方法は次の通りである。
【0039】
<ウエットグリップ性能>
各試験タイヤを車両に装着し、気温25℃の条件の下、時速100kmで、水深1mmの路面を走行させた状態からABSを作動させた。この際の制動距離を測定し(n=10の平均値)、比較例1を100とした指数で示した。数値が大きいほど制動距離が短く、ウエットグリップ性能が良好であることを示す。
【0040】
<スノートラクション性能>
各試験タイヤを装着した実車(2名乗車)で雪道を走行し、停止状態から20m地点到達までの時間を測定して、その逆数を算出し、比較例1を100とした指数で示した。数値が大きいほど時間が短く、スノートラクション性能が良好であることを示す。
【0041】
<耐偏摩耗性能>
各試験タイヤを車両に装着し、4名乗車相当(ドライバー+55kgの重り×3個)の荷重を積載し、12000km走行させた。走行後に、2本の空気入りタイヤについて、ショルダーブロックのタイヤ軸方向の内側と外側の摩耗差を測定した。そして、2本の空気入りタイヤの摩耗差の平均値を求め、その平均値の逆数を指数化した。指数は、比較例1を100とする指数で示した。指数が大きいほど、耐偏摩耗性能に優れることを示す。
【0042】
評価結果が表1に示される。
【表1】
【0043】
比較例1と実施例2を比較すれば、溝要素の第1組み合わせG1と第2組み合わせG2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されていることによって、耐偏摩耗性能が向上することが理解できる。さらに、ウエットグリップ性能及びスノートラクション性能を向上できることが理解できる。
実施例1、実施例2及び実施例3を比較すれば、上記L3の(L1+L2+L3)に対する割合が1%以上且つ5%以内であれば、耐偏摩耗性能が向上できると共に、ウエットグリップ性能及びスノートラクション性能を維持又は向上できることが理解できる。
実施例1と実施例4、実施例2と実施例5、実施例3と実施例6を比較すれば、第1サイプ11が第2部位52を有することにより、ウエットグリップ性能及びスノートラクション性能が向上するものの、耐偏摩耗性能が若干低下することが理解できる。いずれも、比較例1に比べると、各々の性能が向上している。
【0044】
[変形例]
(A)上記実施形態において、第1サイプ11の第2部位52は、サイプ部分52aのサイプ幅方向WDの両側に凹部52bを有するが、これに限定されない。例えば、第2部位52が、サイプ部分52aのサイプ幅方向WDの片側のみに凹部52bを有する、としてもよい。また、第1サイプ11が第2部位52を有さず、第1部位51のみを有する、としてもよい。
【0045】
(B)上記実施形態において、図5Bに示すように、第2部位52のサイプ幅方向WDに沿った断面の形状は、底面53と、トレッド面Trからサイプ深さ方向NDに延びる縦壁面と、縦壁面と底面53とを接続する1つの曲面であるが、これに限定されない。
【0046】
(C)上記実施形態において、センター陸2に形成される第2サイプ21は、センター陸2のタイヤ軸方向ADの内側の端に開口しているが、これに限定されない。センター陸2に形成される第2サイプ21は、センター陸2のタイヤ軸方向ADの内側の端から離隔してセンター陸2の内部で終端していてもよい。
【0047】
(D)上記実施形態において、図4に示すように、センター陸2において、第2ノッチ22の底22aから第2小陸領域23を経て第2サイプ21の底(底面21b)に至る部位24の幅が、タイヤ径方向RDの内側から外側に向けて小さくなっていれば、その断面形状が図4に示す形状に限定されない。
第1の変形例として、上記部位24の断面形状を図7に示す形状にしてもよい。図7は、第1の変形例を示す図4に対応する図である。図7における第2サイプ21の形状は図4に示す第2サイプ21の形状と同じである。図7の例では、第2ノッチ22がトレッド面Trから深さ方向に延びる傾斜平面122cを有する。第2ノッチ22の底面22bは、トレッド面Trに沿って延びている。第2ノッチ22の底面22b(第2小陸領域23に近い端122a)は、1又は複数の曲面を介して傾斜平面122cに接続されている。
第2の変形例として、上記部位24の断面形状を図8に示す形状にしてもよい。図8は、第2の変形例を示す図4に対応する図である。図8における第2ノッチ22の形状は図4に示す第2ノッチ22の形状と同じである。図8の例では、第2サイプ21は、トレッド面Trから深さ方向に延びる縦壁面21cと、トレッド面Trに沿って延びる底面21bと、底面21bと縦壁面21cとの間に配置される傾斜平面21dと、を有する。第2サイプ21の底面21b(第2小陸領域23に近い端21a)は、1又は複数の曲面を介して傾斜平面21dに接続されている。傾斜平面21dは、1又は複数の曲面を介して縦壁面21cに接続されている。
第3の変形例として、上記部位24の断面形状を図9に示す形状にしてもよい。図9は、第3の変形例を示す図4に対応する図である。図9における第2ノッチ22の形状は図4に示す第2ノッチ22の形状と同じである。図9の例では、第2サイプ21は、トレッド面Trに沿って延びる底面21bと、トレッド面Trに向けて延びる傾斜平面21dとを有する。第2サイプ21の底面21b(第2小陸領域23に近い端21a)は、1又は複数の曲面を介して傾斜平面21dに接続されている。
【0048】
[1]
以上、上記実施形態のように、空気入りタイヤは、タイヤ周方向CDに延びる第1主溝(40)と、第1主溝(40)を挟んでタイヤ軸方向ADに隣接する第1陸(1)及び第2陸(2)と、を有するトレッド面Trを備え、第1陸(1)は、第1陸(1)のタイヤ軸方向ADの両端に開口する第1スリット31と、一端が第1主溝(40)に開口し他端が第1陸(1)内で終端する第1ノッチ12と、第1ノッチ12からタイヤ軸方向ADに離隔する第1サイプ11と、を有し、第2陸(2)は、第2陸(2)のタイヤ軸方向ADの両端に開口する第2スリット32と、一端が第1主溝(40)に開口し他端が第2陸(2)内で終端する第2ノッチ22と、第2ノッチ22からタイヤ軸方向ADに離隔する第2サイプ21と、を有し、トレッド面Trは、第1スリット31、第1スリット31とタイヤ軸方向ADに連なる第2ノッチ22及び第2サイプ21を含む第1組み合わせG1と、第2スリット32、第2スリット32とタイヤ軸方向ADに連なる第1ノッチ12及び第1サイプ11を含む第2組み合わせG2と、を有し、トレッド面Trにおいて第1組み合わせG1と第2組み合わせG2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されている、としてもよい。
この構成によれば、溝要素の第1組み合わせG1と第2組み合わせG2がタイヤ周方向CDに交互に配置されているので、第1組み合わせG1のみが設けられているパターンや第2組み合わせG2のみが設けられているパターンに比べて、各陸の変形しやすさのバランスがとれ、耐偏摩耗性能を向上可能となる。
【0049】
[2]
上記[1]に記載の空気入りタイヤであって、トレッド面Trは、タイヤ周方向CDに延びる複数の主溝(40、41)を有し、複数の主溝に第1主溝(40)が含まれ、第1主溝(40)は、複数の主溝のうちタイヤ軸方向ADの最も外側に配置されるショルダー主溝40である、としてもよい。
この構成によれば、第1陸または第2陸のいずれかがショルダー陸1となり、最も偏摩耗が発生しやすいショルダー陸1が、溝要素の第1組み合わせG1と第2組み合わせG2とがタイヤ周方向CDに交互に配置されているパターンに含まれているので、耐偏摩耗性能の向上に有利である。
【0050】
[3]
上記[1]又は[2]に記載の空気入りタイヤであって、第2陸(2)は、第1陸(1)よりもタイヤ軸方向ADの内側に配置されており、トレッド面Trは、第2ノッチ22と第2サイプ21との間に小陸領域(第2小陸領域23)を有し、
第2ノッチ22と第2サイプ21と小陸領域(第2小陸領域23)とが現れる断面において、第2陸(2)における第2ノッチ22の底22aから小陸領域(第2小陸領域23)を経て第2サイプ21の底(21b)に至る部位24の幅は、タイヤ径方向RDの内側から外側に向けて小さくなる、としてもよい。
この構成によれば、小陸領域(第2小陸領域23)を形成する上記部位24の剛性を確保でき、耐偏摩耗性能を向上可能となる。
【0051】
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の空気入りタイヤであって、第1サイプ11及び第2サイプ21のサイプ表面形状は、平面視において、幅が一定の直線部位(51)を含む、としてもよい。
【0052】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0053】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 :ショルダー陸(第1陸)
2 :センター陸(第2陸)
11 :第1サイプ
12 :第1ノッチ
21 :第2サイプ
22 :第2ノッチ
23 :第2小陸領域(小陸領域)
31 :第1スリット
32 :第2スリット
40 :ショルダー主溝(第1主溝)
AD :タイヤ軸方向
CD :タイヤ周方向
G1 :第1組み合わせ
G2 :第2組み合わせ
RD :タイヤ径方向
Tr :トレッド面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9