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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009451
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】茶の実の抽出物を含む抗がん剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/82 20060101AFI20250110BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
A61K36/82
A61P35/00
A61P35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112460
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】000105154
【氏名又は名称】株式会社GSIクレオス
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】多賀 淳
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲志
(72)【発明者】
【氏名】森田 雅彦
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB45
4C088AC04
4C088BA08
4C088CA03
4C088CA04
4C088NA14
4C088ZB26
(57)【要約】
【課題】がんの治療において、分子標的剤は、効果は高いとはいえ、転移を伴う進行がんにおける生存率は未だに改善されていない。そのため、転移性がんに対して効果的な抗腫瘍薬を開発することが重要な課題となっている。
【解決手段】圧搾された茶の実の残渣の抽出物を有効成分とする抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑制するとともに、細胞の遊走を抑制することができ、がんの進行を効果的に抑制することができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧搾された茶の実の残渣の抽出物を有効成分とする抗がん剤。
【請求項2】
前記茶の実は、カメリア・シネンシスの「やぶきた」である請求項1に記載された抗がん剤。
【請求項3】
前記抽出物は、pH1~7の極性溶媒による抽出物である請求項1または2の何れかの請求項に記載された抗がん剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は茶の実の抽出物を含みがん細胞の増殖抑制および遊走抑制効果を有する抗がん剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がんによる死亡は、本邦における死因の第一位であり、死亡例も年々増加し続けている。分子標的薬などの発展により、これらのがんによる死亡率は大幅に改善されるようになった。しかし、分子標的薬は、副作用が強く、使用に際しては患者の負担を強いるものが多い。
【0003】
近年、薬用植物のような天然素材は、安全で副作用が少ないため、抗腫瘍薬を開発するための有用な資源として着目されており、様々な抗腫瘍効果を持つ植物性化学物質が発見され、抗腫瘍薬として臨床でも使用さるようになってきた。
【0004】
特許文献1には茶の実の果実の圧搾油中には、アミノ酸、カテキン、カフェイン、ビタミンC、β-カロチン、ビタミンE、オレイン酸といった成分が含まれるので、発がん抑制、免疫機能増進、老化防止作用、動脈硬化予防等の効能を有効に摂取することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-89146公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分子標的剤は、効果は高いとはえ、転移を伴う進行がんにおける生存率は未だに改善されていない。そのため、転移性がんに対して効果的な抗腫瘍薬を開発することが重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためのもので、天然物由来の材料で、特にがん細胞の遊走及び浸潤を抑制する抗がん剤を提供するものである。
【0008】
具体的に本発明に係る抗がん剤は、圧搾された茶の実の残渣の抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る抗がん剤は、がん細胞の増殖、遊走および浸潤を抑制するので、がんの転移を効果的に抑制させることが期待できる。また、本発明に係る抗がん剤は、天然由来のものであり、副作用の心配はほぼないと言ってよい。したがって、がん治療の予後期間だけでなく、早期にがんが発見された場合の服用によって、がんの進行を抑制し、手術が必要になるまでの時間を延期させることができる。さらに、切除不能例に対してもがんの転移を抑制することで、他の治療法と併用することにより切除可能な状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の抗がん剤の有効成分となる茶の実抽出物による胃がん細胞(KATO-III)の増殖抑制効果を示すグラフである。(a)は培養開始後24時間後の結果であり、(b)は48時間後の結果である。
図2】本発明の抗がん剤の有効成分となる茶の実抽出物による大腸がん細胞(SW480)の増殖抑制効果を示すグラフである。(a)は培養開始後24時間後の結果であり、(b)は48時間後の結果である。
図3】本発明の抗がん剤の有効成分となる茶の実抽出物による胃がん細胞(KATO-III)の細胞遊走をボイデンチャンバー試験で調べた結果である。(a)はBlankの場合の例示写真と結果の表であり、(b)は茶の実抽出液の場合の例示写真と結果の表である。
図4】本発明の抗がん剤の有効成分となる茶の実抽出物による大腸がん細胞(SW480)の細胞遊走をボイデンチャンバー試験で調べた結果である。(a)はBlankの場合の例示写真と結果の表であり、(b)は茶の実抽出液の場合の例示写真と結果の表である。
図5】本発明の抗がん剤の有効成分となる茶の実抽出物による胃がん細胞(KATO-III)のスクラッチ試験の結果である。
図6】本発明の抗がん剤の有効成分となる茶の実抽出物による大腸がん細胞(SW480)のスクラッチ試験の結果である。
図7】本発明の抗がん剤の有効成分となる茶の実抽出物の質量分析の結果の一部を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明に係る抗がん剤について実施例および図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。また、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0012】
本発明に係る抗がん剤は、茶の実を圧搾した後の残渣から酢酸とメタノールによる抽出で得られたものを有効成分とする。
【0013】
茶の実は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹であるチャノキ(Camellia sinensis:カメリア・シネンシス)になる実である。チャノキの実であれば、特に種類は限定されないが、日本で最も多く栽培されている「やぶきた」の実は好適に利用することができる。茶の実としては、10月~1月頃に収穫されたものを用いる。
【0014】
本発明に係る抗がん剤は、この茶の実を圧搾した残渣を用いる。圧搾の方法は特に限定されないが、一般に天日干しを行って、外側の殻を割り、中の果実を圧搾する方法がとられる。茶の実の圧搾油は、その後さまざまな方法で利用される。本発明では、この圧搾後の残渣を用いる。
【0015】
圧搾された後の残渣を「圧搾残渣」と呼ぶ。圧搾残渣とはいえ、非常に硬い固形物である。そこで、まず、圧搾残渣を粉砕する。粉砕は、細かく粉砕できれば好ましいが、金づち等で、打撃を与え、粉々にする程度であってもよい。粉砕された圧搾残渣を「粉砕残渣」と呼ぶ。
【0016】
粉砕残渣を中性から酸性よりのpH(pH1~7)の極性溶媒に溶解し抽出物を得る。例えば、極性溶媒としては水とアルコールの混合液、アルコールには低級アルコールは好適に利用できるが、エタノールは好ましい。もしろん、それ以外のアルコールであってもよい。抽出時には毒性のある溶媒を用いても、後に精製しそれらを除去することができるからである。また、pHを酸性よりにするためには酢酸が好適に利用できる。
【0017】
水とアルコールの比率および酸の添加量は、水とアルコールの混合液に対して、酸が混合液の0.1質量対容量%~1.0質量対容量%であり、アルコールが混合液の5容量%~80容量%の比率にし、高極性かつ疎水基にも溶解力を持つ混合液が好適である。粉砕残渣から成分を抽出する際には、混合液の温度を0℃~混合液の沸点までの温度、好ましくは15℃~60℃、より好ましくは20℃~40℃で抽出する。なお、溶解および抽出の際にはマグネチックスターラーや超音波といった物理的な振動若しくは攪拌を伴ってもよい。また、混合液の沸点付近の温度で抽出する場合は、適切な環流装置を用いてもよい。
【0018】
抽出した後、混合液はろ過し、固形物を除去する。得られた濾液を「茶の実抽出液」と呼ぶ。この茶の実抽出液は本発明における茶の実抽出物である。
【0019】
本発明に係る抗がん剤は、この茶の実抽出物を有効成分として有する。抗がん剤としては、茶の実抽出液として液体状薬剤として使用してもよいし、凍結乾燥などの方法で固形化し粉末状で用いることもできる。なお、茶の実からの抽出工程で用いた極性溶媒を含む媒体は、抗がん剤とする際には精製によって除去してもよい。
【0020】
また、本発明に係る抗がん剤は、生物学的製剤に通常使用される担体、希釈剤、賦形剤、または2つ以上の組み合わせを含むことができる。例えば、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールおよびこれらの成分のうちの1成分以上を混合して利用することができる。
【0021】
また、必要であれば抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など、他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤および滑沢剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような、注射用製剤、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。もちろん、各疾患に応じて、または混合する成分に応じて好ましく製剤化することができる。
【0022】
また、本発明に係る抗がん剤は、目的とする方法によって非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に注射用製剤として適用)したり、経口投与することができる。投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度などにより、調節してよい。
【0023】
本発明の組成物の経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当する。これに加えて、通常使用される単純希釈剤である水、流動パラフィン以外に様々な賦形剤、所謂、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを一緒に含ませてもよい。
【0024】
非経口投与のための製剤には、水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが含まれる。本発明に係る抗がん剤は、有効成分である茶の実抽出物が標的細胞に移動することができる任意の装置によって投与することもできる。好ましい投与方式および製剤は、静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤などである。
【0025】
注射剤は、生理食塩液、リンゲル液などの水性溶剤、植物油、高級脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、アルコール類(例えば、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)などの非水性溶剤などを用いて製造することができる。
【0026】
変質防止のための安定化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、BHA、トコフェロール、EDTAなど)、乳化剤、pH調節のための緩衝剤、微生物発育を阻止するための保存剤(例えば、硝酸フェニル水銀、チメロサル、塩化ベンザルコニウム、フェノール、クレソール、ベンジルアルコールなど)などの薬学的担体を含むことができる。
【0027】
本発明に係る抗がん剤は、薬剤学的に許容可能な添加剤をさらに含むことができる。薬剤学的に許容可能な添加剤としては、デンプン、ゼラチン化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、ポビドン、コロイダル二酸化ケイ素、リン酸水素カルシウム、ラクトース、マンニトール、飴、アラビアゴム、アルファ化澱粉、トウモロコシ澱粉、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オパドライ、でん粉グリコール酸ナトリウム、カルボナウバロウ、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、白糖、デキストロース、ソルビトールおよびタルクなどが挙げられる。
【実施例0028】
<茶の実抽出物>
茶の実は、茶葉の収穫期に茶の実そのものを摘み取って収穫したものを用いた。収穫後すぐに天日干しを行った。天日干しによって茶の実の外側の殻は割れた。殻の中の果肉を取り出し、さらに乾燥機で乾燥させた。乾燥温度は約55℃、乾燥時間は約12時間であった。その後、果肉を圧搾し、圧搾油を取り出した。圧搾油を取り出した果肉は圧搾残渣である。
【0029】
圧搾残渣を金づちで叩いて粉砕し、粉砕残渣を作製した。粉砕残渣の大きさは約0.5mmに満たない粉状から3mm程度の大きさであった。
【0030】
粉砕残渣100mgをとり、酢酸を加えた水とメタノールの混合液1mLに加え均一に懸濁させた。混合液に対して酢酸は0.2質量対容量%、水とメタノールの混合液のメタノールは25容量%とした。粉砕残渣を懸濁させた混合液を超音波水浴に10分間入れ、茶の実の可溶性成分(茶の実抽出物)を抽出した。
【0031】
超音波水浴後、不溶物を遠心分離により沈殿させ、上澄み400μLを0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過することで茶の実抽出物を含む茶の実抽出物(液)を得た。
【0032】
得られた茶の実抽出物(液)を10%FBS含有の培地を用いて100、200、400、800、1600、3200、6400倍希釈して茶の実抽出液サンプル(以後単に「サンプル」ともいう。)として各1mLを調製した。それぞれの濃度は1000μg/mL、500μg/mL、250μg/mL、125μg/mL、62.5μg/mL、31.25μg/mL、15.625μg/mLである。
【0033】
なお、10%FBS含有培地は、富士フィルム和光純薬株式会社製の型式:RPMI-1640培地500mLに、CCP社製の型式:CCP-FBS-BR-500FBS(Fetal Bovine Serum)55mLを加え、調製した。
【0034】
また、茶の実抽出物(液)の溶媒自体の細胞毒性による結果のバイアスを除くため、各サンプルにおける0.2%酢酸含有量および25%メタノール含有量を一定に調節した。具体的には、0.2%酢酸含有25%メタノールをcontrolは1mL中に20μL、500μg/mL以下のサンプルは希釈する培地1mL中に10μLを加えた。
【0035】
<培養がん細胞>
培養大腸がん細胞SW480及び培養胃がん細胞KATO-IIIは、American Type Culture Collection社から購入した。全ての細胞は、10%牛胎児血清入りRPMI 1640培地で5%CO環境下で培養した。
【0036】
<細胞増殖アッセイ>
細胞を96-wellプレートに5×10個/wellになるように分注し培養する。翌日培養液を茶の実抽出物(液)(62.5μg/mL~1000μg/mL)または抽出溶媒含有培地に交換し、24及び48時間後にWST-8 cell counting reagent(和光純薬)を用いて細胞増殖能を測定した。
【0037】
<細胞遊走及び浸潤能アッセイ>
In vitroでの細胞遊走アッセイをボイデンチャンバー法を用いて実施した。細胞をインサート内に1×10個/インサートになるように分注し、37℃、5%COの環境下でインキュベートする。茶の実抽出物(液)(1000μg/mL)または抽出溶媒含有培地を化学誘因因子として下層に添加しておく。SW480は26時間後、KATO-IIIは24時間後にインサートを通過した細胞数を計測した。全てのアッセイはn=3で実施し、盲検下ランダムに撮影した5視野に存在する細胞数を計測した。
【0038】
遊走能への影響を確認するためスクラッチアッセイを行った。SW480またはKATO-III細胞を3×10個/wellになるように24-wellプレートに分注し、37℃でインキュベートし、コンフルエントになるよう培養した。マイクロピペット用200-μLチップを用いて中心部をスクラッチしたのち、PBSで洗浄し剥がれた細胞を取り除いた。その後、茶の実抽出物(液)(1000μg/mL)または抽出溶媒含有培地に交換し、0時間および6.5時間後にスクラッチ部位の撮影をEVOS FLoid Cell Imaging Stationを用いて行った。
【0039】
<統計解析>
全てのデータは平均±標準誤差で示した.データはDunnett’s testを用いて解析し、P値が0.05以下のとき有意であるとした。解析はGraphPad Prism version 8.0 (GraphPad Software)を用いて実施した。
【0040】
<結果>
[がん細胞の増殖における茶の実抽出物の効果]
図1および図2に胃がん細胞(KATO-III)及び大腸がん(SW480)の増殖に対する茶の実抽出物の効果を検討した。それぞれの図において、(a)は培養開始24時間後の結果であり、(b)は48時間後の結果を表す。また、それぞれのグラフにおいて、縦軸は450nmの吸光度を表し、横軸はサンプルの濃度(μg/mL)を表す。また、各グラフにおいて「*」は有意水準が0.05(P<0.05)、「**は」0.01(P<0.01)、「***」は0.001(P<0.001)、「****」は0.0001(P<0.0001)を表す。
【0041】
WST-8アッセイの結果、図1を参照して、茶の実抽出物添加によりKATO-III細胞の増殖能が、24時間後(250μg/mL;P<0.05、500μg/mL;P<0.001、1000μg/mL;P<0.0001)及び48時間後(62.5μg/mL;P<0.0001、125μg/mL;P<0.0001、250μg/mL;P<0.0001、500μg/mL;P<0.0001、1000μg/mL;P<0.0001)で濃度依存的に有意に細胞増殖が抑制された。
【0042】
また、図2を参照して、SW480細胞の増殖能についても同様に24時間後(62.5μg/mL;P<0.05、125μg/mL;P<0.01、250μg/mL;P<0.0001、500μg/mL;P<0.0001、1000μg/mL;P<0.0001)及び48時間後(125μg/mL;P<0.0001、250μg/mL;P<0.0001、500μg/mL;P<0.0001、1000μg/mL;P<0.0001)で濃度依存的に有意に細胞増殖が抑制された。
【0043】
[がん細胞の遊走における茶の実抽出物の効果]
さらに、ボイデンチャンバー法を用いて、細胞の遊走への効果を検討した。結果を図3及び図4に示す。図3はKATO-IIIに対する結果である。図3(a)はBlankの結果であり、図3(b)は、茶の実抽出物(液)(1000μg/mL)の場合の結果である。また、図4はSW480に対する結果である。図4(a)はBlankの結果であり、図4(b)は、茶の実抽出物(液)(1000μg/mL)の場合の結果である。
【0044】
それぞれの図は、5枚の写真と1つの表からなる。5枚の写真は(a)、(b)それぞれBlank1およびサンプル1の場合のインサートを通過した細胞の写真である。なお、Blankは下層に抽出溶媒と化学誘因因子を添加した場合であり、サンプルは、茶の実抽出物(液)と化学誘因因子を添加した場合である。Blank1~3およびSample1~3は、実験回数ごとの結果を示す。
【0045】
また、表は、各サンプル毎のインサートを通過した細胞数を表し、表の最後には「average」として平均を表記した。
【0046】
図3を参照して、KATO-IIIに対する結果として、Blankは平均約120個程度の細胞がインサートを通過した(図3(a))に対して、茶の実抽出物を添加した場合(図3(b))は約1.3個の細胞がインサートを通過した。
【0047】
図4を参照して、SW480に対する結果として、Blankは平均約109個程度の細胞がインサートを通過した(図4(a))に対して、茶の実抽出物を添加した場合(図4(b))は約0.4個の細胞がインサートを通過した。
【0048】
このように、茶の実抽出物(液)(1000μg/mL)による細胞遊走能への影響はKATO-III及びSW480共に有意に抑制された(P<0.0001)。
【0049】
さらに、茶の実抽出物による細胞遊走抑制効果を確認するため、スクラッチアッセイを実施した。結果を図5および図6に示す。図5および図6は、それぞれKATO-IIIに対する結果とSW480に対する結果を表す。各図とも、Controlの場合と、茶の実抽出物の場合で、スクラッチアッセイ開示時(0hr)と6.5時間経過後(6.5hr)の場合の写真を示す。それぞれの図で縦線間の距離がスクラッチの幅Swとなる。なお、0hr時のスクラッチ幅Swを「Sw0」6.5時間経過後のスクラッチ幅Swを「Sw65」と表す。
【0050】
図5を参照して、KATO-IIIの場合、Controlは試験開始後6.5hrのスクラッチ幅Sw65は、試験開始時(0hr)におけるスクラッチ幅Sw0より狭くなっていた。一方、茶の実抽出物を使用した場合は、試験開始後6.5hrのスクラッチ幅Sw65は、試験開始時(0hr)におけるスクラッチ幅Sw0とほぼ同じであった。
【0051】
図6を参照して、SW480の場合も同様の結果が得られた、すなわち、Controlは試験開始後6.5hrのスクラッチ幅Sw65は、試験開始時(0hr)におけるスクラッチ幅Sw0より狭くなっていた。一方、茶の実抽出物を使用した場合は、試験開始後6.5hrのスクラッチ幅Sw65は、試験開始時(0hr)におけるスクラッチ幅Sw0とほぼ同じであった。
【0052】
以上の結果より、茶の実抽出物(液)(1000μg/mL)の添加により、KATO-III及びSW480共に細胞遊走能がほぼ完全に抑制された(P<0.0001)。
【0053】
<茶の実抽出物の分析>
<茶の実抽出物>の項で記載した粉砕残渣から100mgを量りとり、0.2%酢酸を含む25%メタノールを1mL加え均一に懸濁させた。この懸濁液を超音波水浴に10分間入れた後、不溶物を遠心分離により沈殿させ、上澄み200μLを0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過した。得られたろ液を0.1%ギ酸含有10%メタノールを用いて10倍希釈して分析サンプルとして調製した(10mg/mL)。分析はThermo社製のExactiveを用いた。分析の条件を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
測定結果を図7に示す。UV検出(280nm)LCが一番上、その下は全てLC-MSの結果である。UV検出(280nm)LCを参照すると、主要なピークとして、13.14分、18.43分及び、18.43分の後ろにもある比較的大きなピークの合計3本がメインピークと判断できる。
【0056】
2段目は、トータルイオン(100-1000)のMSである。MSの検出強度を大まかに見積もるためにクロマトの右に書かれている「NL:5.69E8」という数値が目安になる。
【0057】
3段目以降は主要ピークを溶出時間が早い順に選択MSのクロマトグラムを示したものである。4段目のカテキンは主要とはみなされなかったが、カテキン類の分子量を指定し、表示させたものである。カテキン類は「NL:8.10E5」であるので、トータルイオンの「NL:5.69E8」に対する「NL:8.10E5」の割合である0.14%程度である。この検出時間(14.69分)を1段目のUVで見てみると、その近辺には全くピークは見られない。
【0058】
カテキンの酸性でのλmaxは270~280nmということから考えると、280nmのクロマトグラムでは検出されなかったことから、カテキン類はあったとしても、ごく微量であり、上記に述べた茶の実抽出物によるがん細胞増殖抑制能およびがん細胞遊走抑制能は、カテキンのものではないと言える。
【0059】
以上のように、本発明に係る抗がん剤の有効成分となる茶の実抽出物(液)は、カテキン類をほぼ含んでいない。しかし、がん細胞増殖抑制機能やがん細胞遊走抑制機能を発揮することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る茶の実抽出物を有効成分とする抗がん剤は、がん細胞の増殖抑制およびがん細胞の遊走を抑制させることができ、がんの発見初期や、がん治療の予後に好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7