(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009462
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】積層体、化粧材、転写シート及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20250110BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112483
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】西垣 亮介
(72)【発明者】
【氏名】桜井 玲子
(72)【発明者】
【氏名】西根 祥太
(72)【発明者】
【氏名】良波 梨紗
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】小紫 真友子
(72)【発明者】
【氏名】中村 晴香
(72)【発明者】
【氏名】岩田 真次
(72)【発明者】
【氏名】松村 夏美
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA20A
4F100AA20H
4F100AK01D
4F100AK01E
4F100AK07B
4F100AK25A
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4F100AR00C
4F100AT00D
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4F100YY00
4F100YY00A
(57)【要約】 (修正有)
【課題】手で触れることにより知覚できる凹部を有しながらも全体として滑らかな触感を有する艶消物品を提供する。
【解決手段】積層体20は、第1面20a及び第2面20bを含み、第2面から第1面に向けてベース層30及び艶消層40をこの順に備え、艶消層は、第1面を構成するシワ構造45を有し、ベース層は、艶消層を向く面に凹部32を有し、凹部と重なる位置における第1面に表面凹部49が形成され、第1面は、表面凹部が位置する第1領域A1と、表面凹部が位置しない第2領域A2とを含み、第1領域A1における、JIS B0601:2013に規定される平均長さRSmの値をRSm1とし、第2領域A2における平均長さの値をRSm2としたときに、RSm1のRSm2に対する比(RSm1/RSm2)の値の最大値およびRSm2のRSm1に対する比(RSm2/RSm1)の値の最大値は1.5以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び第2面を含み、前記第2面から前記第1面に向けてベース層及び艶消層をこの順に備えた積層体であって、
前記艶消層は、前記第1面を構成するシワ構造を有し、
前記ベース層は、前記艶消層を向く面に凹部を有し、
前記凹部と重なる位置における前記第1面に表面凹部が形成され、
前記第1面は、前記表面凹部が位置する第1領域と、前記表面凹部が位置しない第2領域とを含み、
前記第1領域における、JIS B0601:2013に規定される平均長さRSmの値をRSm1とし、前記第2領域における、JIS B0601:2013に規定される平均長さRSmの値をRSm2としたときに、
RSm1のRSm2に対する比(RSm1/RSm2)の値の最大値およびRSm2のRSm1に対する比(RSm2/RSm1)の値の最大値は1.5以下である、積層体。
【請求項2】
前記第1領域と前記第2領域の高低差が10μm以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
10mmの間隔をあけて一直線上に並ぶ20の測定位置にて測定された、JIS Z8741:1997に規定される60°鏡面光沢度の20の測定値のうちの、最も大きい方から5つの測定値及び最も小さい方から5つの測定値を除いた10の測定値の標準偏差は0.5以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
絵柄を有する絵柄層を更に備え、
前記第1領域及び前記第2領域は、前記絵柄に応じて配置される、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体と、
前記積層体と積層された支持材と、を備える、化粧材。
【請求項6】
前記支持材は建築材である、請求項5に記載の化粧材。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体と、
前記積層体と積層された成形樹脂部と、を備える、化粧材。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体と、
電離放射線硬化型樹脂の硬化物を含む硬化樹脂層と、を備え、
前記硬化樹脂層は、前記第1面に接触してシワ構造を有する、転写シート。
【請求項9】
絵柄を有する絵柄層を更に備え、
前記硬化樹脂層は、前記絵柄層及び前記積層体の間に位置する、請求項8に記載の転写シート。
【請求項10】
凹部を有する第1面を有するベース層と、前記第1面と対面して配置された艶消層とを備えた積層体の製造方法であって、
前記凹部を覆うように前記ベース層に前記艶消層を積層する工程であって、前記凹部と重なる位置における前記ベース層と反対に位置する面に表面凹部が形成される工程と、
前記艶消層に、100nm以上380nm以下の波長を有する光を照射する工程と、を備える、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体、化粧材、転写シート及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
艶消物品を作製する方法として、エキシマ光等の光を用いて樹脂の表面にシワ構造を有する凹凸面を形成する方法が提案されている。このような凹凸面の製造方法の一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1では、まず、光硬化性を有する樹脂からなる塗膜の表面にエキシマ光を照射する。その後、当該塗膜に紫外線を照射して塗膜の全体を硬化させる。これにより、塗膜の表面にシワ構造が形成される。特許文献1では、このようにして形成されたシワ構造により、低光沢性を有する塗膜が得られる。また、表面にこのような凹凸面を有する艶消物品は、滑らかな触感を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人が触れることができる箇所で用いられる艶消物品では、手で触れることにより知覚できる凹部を当該艶消物品に形成したいというニーズがある。このような艶消物品では、凹部の存在により所望の触感を提供できる。艶消剤を用いて艶消しされた従来の艶消物品は、全体的に荒い触感を有している。すなわち、従来の艶消物品では、凹部により所望の触感を提供できたとしても、滑らかな触感を提供することはできない。
【0005】
エキシマ光等の光を用いて表面にシワ構造が形成された艶消物品に凹部を形成することも考えられる。しかし、シワ構造を有する表面にエンボスなどの手法により凹部を形成すると、シワ構造が潰れるおそれがある。この場合、シワ構造が潰れた部分の艶消効果が低減する。これにより、所望の意匠が得られなくなる。したがって、表面に手で触れることにより知覚できる凹部を形成しながらも、全体として滑らかな触感を有する艶消物品を作製することは困難である。
【0006】
本開示の実施形態は、手で触れることにより知覚できる凹部を有しながらも全体として滑らかな触感を有する艶消物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態による積層体は、
[1] 第1面及び第2面を含み、前記第2面から前記第1面に向けてベース層及び艶消層をこの順に備えた積層体であって、
前記艶消層は、前記第1面を構成するシワ構造を有し、
前記ベース層は、前記艶消層を向く面に凹部を有し、
前記凹部と重なる位置における前記第1面に表面凹部が形成され、
前記第1面は、前記表面凹部が位置する第1領域と、前記表面凹部が位置しない第2領域とを含み、
前記第1領域における、JIS B0601:2013に規定される平均長さRSmの値をRSm1とし、前記第2領域における、JIS B0601:2013に規定される平均長さRSmの値をRSm2としたときに、
RSm1のRSm2に対する比(RSm1/RSm2)の値の最大値およびRSm2のRSm1に対する比(RSm2/RSm1)の値の最大値は1.5以下である、積層体、である。
【0008】
本開示の一実施形態による積層体は、
[2] 前記第1領域と前記第2領域の高低差が10μm以上である、[1]に記載の積層体、である。
【0009】
本開示の一実施形態による積層体は、
[3] 10mmの間隔をあけて一直線上に並ぶ20の測定位置にて測定された、JIS Z8741:1997に規定される60°鏡面光沢度の20の測定値のうちの、最も大きい方から5つの測定値及び最も小さい方から5つの測定値を除いた10の測定値の標準偏差は0.5以下である、[1]又は[2]に記載の積層体、である。
【0010】
本開示の一実施形態による積層体は、
[4] 絵柄を有する絵柄層を更に備え、
前記第1領域及び前記第2領域は、前記絵柄に応じて配置される、[1]~[3]のいずれか1つに記載の積層体、である。
【0011】
本開示の一実施形態による化粧材は、
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の積層体と、
前記積層体と積層された支持材と、を備える、化粧材、である。
【0012】
本開示の一実施形態による化粧材は、
[6] 前記支持材は建築材である、[5]に記載の化粧材、である。
【0013】
本開示の一実施形態による化粧材は、
[7] [1]~[4]のいずれか1つに記載の積層体と、
前記積層体と積層された成形樹脂部と、を備える、化粧材、である。
【0014】
本開示の一実施形態による転写シートは、
[8] [1]~[3]のいずれか1つに記載の積層体と、
電離放射線硬化型樹脂の硬化物を含む硬化樹脂層と、を備え、
前記硬化樹脂層は、前記第1面に接触してシワ構造を有する、転写シート、である。
【0015】
本開示の一実施形態による転写シートは、
[9] 絵柄を有する絵柄層を更に備え、
前記硬化ベース層は、前記絵柄層及び前記積層体の間に位置する、[8]に記載の転写シート、である。
【0016】
本開示の一実施形態による積層体の製造方法は、
[10] 凹部を有する第1面を有するベース層と、前記第1面と対面して配置された艶消層とを備えた積層体の製造方法であって、
前記凹部を覆うように前記ベース層に前記艶消層を積層する工程であって、前記凹部と重なる位置における前記ベース層と反対に位置する面に表面凹部が形成される工程と、
前記艶消層に、100nm以上380nm以下の波長を有する光を照射する工程と、を備える、積層体の製造方法、である。
【発明の効果】
【0017】
本開示の一実施形態によれば、手で触れることにより知覚できる凹部を有しながらも全体として滑らかな触感を有する艶消物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態を説明する図であって、積層体を備えた化粧材の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、積層体のシワ構造の一例を示す平面写真である。
【
図3】
図3は、積層体の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図4】
図4は、積層体の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図5】
図5は、積層体の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図6】
図6は、積層体の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図7】
図7は、積層体を備えた化粧材の他の例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、転写シートの製造方法の一例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、積層体を有する転写シートの一例を示す断面図である。
【
図10】
図10は、転写シートを用いて製造された転写済みシートの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。本明細書に添付する図面における縦横の寸法比等は、実物の寸法比等から変更されている。なお、以下に示す実施形態は、本開示の実施形態の一例である。したがって、本開示はこれらの実施形態に限定して解釈されるべきではない。
【0020】
本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されない。例えば、「シート」は、「板」又は「フィルム」と呼ばれる部材も含む。
【0021】
また、「シート面」とは、対象となるシート状の部材を全体的に見た場合に、対象となるシート状の部材が延びる方向と一致する面を指す。また、シート状の部材に対して用いる法線方向とは、当該部材のシート面に対する法線が延びる方向を指す。「板面」、「フィルム面」等の用語についても同様である。
【0022】
本明細書において、「平面視」とは、対象となるシート状(板状、フィルム状)の部材を当該部材の法線方向から見た状態を指す。例えば、ある板状の部材が「平面視において矩形状の形状を有する」とは、当該部材をその板面に対する法線方向から見たときに、当該部材が矩形状の形状を有することを意味する。
【0023】
本明細書において用いる、形状、幾何学的条件及び物理的特性並びにそれらの程度を特定する用語は、厳密にその範囲に限定されず、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含む。これらの用語には、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語が含まれる。長さ、角度、面積、体積、重さ及び物理的特性の値が指す範囲は、厳密にその範囲に限定されず、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含む。ただし、特に厳格に解釈すべき旨の記載がある場合を除く。
【0024】
本開示の実施形態の積層体20は、例えば、建築物の内装及び外装、建具、家具及び家電等の表面、車両の内装等の最表層を構成する部材として用いられる。より詳細には、積層体20は、例えば、壁、天井、床等の建築物の内装用部材、外壁、軒天井、屋根、塀、柵等の外装用部材、窓枠、扉、扉枠、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材、箪笥、棚、机等の一般家具、食卓、流し台等の厨房家具、家電、OA機器等のキャビネット等の表面化粧板、車両の内装、外装用部材に用いられてもよい。また、積層体20は、包装材料、ディスプレイ用防眩フィルム、白板(ホワイトボード)又は黒板、クレジットカード、キャッシュカード、テレフォンカード、各種証明書類等の各種カード、各種キーボードの鍵盤、窓、扉、間仕切り等の透明板(窓硝子等)、人工皮革等に用いられてもよい。なお、積層体20の用途は、ここに挙げたものに限られない。
【0025】
図1は、本開示の一実施形態を説明する図であって、積層体20を備えた化粧材10の一例を示す断面図である。本実施形態の化粧材10は、支持材12と、積層体20とを含む。積層体20は、支持材12に積層されている。積層体20は、第1面20aと第2面20bとを含んでいる。第2面20bは、支持材12と対面する。第1面20aは、支持材12と反対に位置する。第1面20aは、積層体20の表面及び化粧材10の表面を構成する。
【0026】
支持材12は、積層体20を支持する。支持材12は、積層体20の第2面20bと対面して配置されている。支持材12は、シート状の部材であってもよい。支持材12の厚さは、10μm以上1mm以下であってもよい。好ましくは、支持材12の厚さは、20μm以上300μm以下であってもよい。支持材12は、建築材であってもよい。建築材は、例えば、壁、天井、床等の建築物の内装用部材、外壁、軒天井、屋根、塀、柵等の外装用部材、窓枠、扉、扉枠、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材であってもよい。
【0027】
支持材12の材料として、例えば、樹脂材料、金属材料、繊維質材料を用いてもよい。樹脂材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル等の塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂であってもよい。金属材料は、例えば、アルミニウム、鉄、銅、金、銀、クロム、ニッケル、コバルト、錫、チタニウム又はこれらの合金であってもよい。繊維質材料は、例えば、紙、織布、不織布又はこれらに樹脂を含侵させたものであってもよい。支持材12は、これらの材料により構成される1層のみを含んでもよい。また、支持材12は、これらの材料により構成される複数の層を含んでもよい。支持材12が複数の層を含む場合、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでもよい。
【0028】
積層体20は、第2面20bから第1面20aに向けてベース層30及び艶消層40をこの順に備えている。とりわけ、本実施形態では、積層体20は、意匠層50と、接着層58とをさらに備えている。
図1に示された例では、第2面20bから第1面20aに向けて、意匠層50、接着層58、ベース層30及び艶消層40をこの順に備えている。なお、意匠層50及び接着層58は、いずれも積層体20に不可欠の構成要素ではない。積層体20は、意匠層50及び接着層58の1つ以上を有しなくてもよい。また、積層体20は、特定の機能を発揮することが意図された他の部材(層)を有してもよい。
【0029】
意匠層50は、積層体20を観察する観察者から視認されるべき意匠を表示する機能を有する。この意匠としては、例えば、絵、写真、図形、模様、マーク、文字、色彩等の絵柄であってもよい。意匠層50は、単色の色彩の絵柄を意匠として表示するものであってもよい。一例として、意匠層50が表示する意匠は、木目柄であってもよい。意匠層50は、艶消層40の第2面40bと対面して配置されている。本実施形態では、意匠層50は、支持材12と艶消層40との間に配置されている。意匠層50の厚さは、0.5μm以上20μm以下であってもよい。好ましくは、意匠層50の厚さは、1μm以上10μm以下であってもよい。さらに好ましくは、意匠層50の厚さは、2μm以上5μm以下であってもよい。
【0030】
意匠層50は、着色層52と、絵柄層54とを含んでもよい。着色層52は、支持材12の表面の全面に所望の色彩を付与する層である。着色層52は、いわゆるベタ層であってもよい。着色層52は、単一の色彩を有してもよい。また、着色層52は、複数の色で構成される模様を有してもよい。絵柄層54は、意匠層50が表示すべき意匠を構成する層である。着色層52及び絵柄層54は、それぞれインキを用いて、塗布、印刷等により形成され得る。インキとしては、例えば、バインダー樹脂と、顔料、染料等の着色剤とを含むものが使用され得る。なお、意匠層50は、着色層52及び絵柄層54のいずれか一方のみを有してもよい。すなわち、意匠層50は、着色層52のみを有してもよく、絵柄層54のみを有してもよい。
【0031】
接着層58は、意匠層50とベース層30とを互いに接着する機能を有する。積層体20が意匠層50を有しない場合には、接着層58は、支持材12とベース層30とを互いに接着してもよい。接着層58の材料として、例えば、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤等の接着剤を用いてもよい。接着層58の厚さは、0.1μm以上30μm以下であってもよい。好ましくは、接着層58の厚さは、1μm以上15μm以下であってもよい。さらに好ましくは、接着層58の厚さは、2μm以上10μm以下であってもよい。
【0032】
ベース層30は、艶消層40を支持する。ベース層30は、艶消層40の第2面40bと対面して配置されている。本実施形態では、ベース層30は、意匠層50と艶消層40との間に配置されている。ベース層30は、艶消層40を向く第1面30aと、艶消層40と反対を向く第2面30bとを含んでいる。
図1に示された例では、艶消層40の第2面40bとベース層30の第1面30aとが互いに対面している。
【0033】
ベース層30は、樹脂材料で形成されてもよい。樹脂材料は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等であってもよい。ベース層30は、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤、また着色剤等の添加剤を含有してもよい。ベース層30の厚さは、10μm以上300μm以下であってもよい。好ましくは、ベース層30の厚さは、20μm以上200μm以下であってもよい。さらに好ましくは、ベース層30の厚さは、30μm以上150μm以下であってもよい。
【0034】
ベース層30のJIS K7375:2008に規定される全光線透過率は、50%以上であってもよい。好ましくは、ベース層30の可視光透過率は、80%以上であってもよい。
【0035】
図1に示されているように、ベース層30の第1面30aには、凹部32が形成されている。後述するように、凹部32と重なる位置における積層体20の第1面20aには、表面凹部49が形成される。表面凹部49に手で触れた人は、当該表面凹部49の存在を知覚できる。したがって、凹部32は、積層体20の第1面20aに触れた人に対して表面凹部49の存在を知覚させることが意図された部分に配置される。例えば、意匠層の絵柄が木目模様を形成している場合、導管に対応する部分に凹部32が形成されてもよい。
【0036】
凹部32の深さD32は10μm以上150μm以下であってもよい。好ましくは、深さD32は、20μm以上100μm以下であってもよい。さらに好ましくは、深さD32は、30μm以上80μm以下であってもよい。深さD32は、以下のように測定される。ベース層30の厚さ方向に沿った断面において、光学顕微鏡を用いてベース層30を観察する。測定対象となる凹部32に隣接した、凹部32が存在しない領域における第1面30aから、凹部32における最も深さの大きい箇所までの、ベース層30の法線方向に沿った長さを深さD32とする。凹部32の深さD32が10μm以上であることにより、積層体20の第1面20aに手で触れた際に凹部32の存在が適切に知覚される。
【0037】
凹部32の幅W32は50μm以上1000μm以下であってもよい。好ましくは、幅W32は、100μm以上800μm以下であってもよい。さらに好ましくは、幅W32は、200μm以上600μm以下であってもよい。
【0038】
ベース層30の平面視において、凹部32が線状に延びている場合、すなわち凹部32が明確な長手方向を有する場合、幅W32は、凹部32の延びる方向と直交し且つベース層30のシート面に平行な方向に沿って測定される。凹部32の幅がベース層30の厚さ方向に沿って変化している場合には、厚さ方向に沿って変化する幅の値のうち最大の幅の値を、凹部32の幅W32とする。
【0039】
ベース層30の平面視において、凹部32が明確な長手方向を有しない場合には、幅W32は、以下のように測定される。ベース層30の平面視において、凹部32を任意の互いに平行な2本の直線で挟んで、その2本の直線間の距離を測定する。2本の直線間の距離は、2本の直線間の最短距離である。ベース層30のシート面内において2本の直線の角度を変更して、その2本の直線間の距離を測定し、2本の直線間の距離の最大値を、凹部32の幅W32とする。
【0040】
凹部32は、例えば、エンボス加工、賦形、サンドブラスト、エッチング等によって、形成される。
【0041】
ベース層30と艶消層40との間の密着性を向上させるために、ベース層30と艶消層40との間にプライマー層が設けられてもよい。プライマー層は、例えば、樹脂材料で形成される。樹脂材料は、ウレタン樹脂、アクリルポリオール樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、ブチラール樹脂、スチレン樹脂、ウレタン-アクリル共重合体、ポリカーボネート系ウレタン-アクリル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂、塩素化プロピレン樹脂、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等の樹脂であってもよい。プライマー層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を含有してもよい。プライマー層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であってもよい。好ましくは、プライマー層の厚さは、1μm以上8μm以下であってもよい。さらに好ましくは、プライマー層の厚さは、2μm以上6μm以下であってもよい。
【0042】
艶消層40は、積層体20の表面(第1面20a)における艶消効果を発揮する層である。艶消層40は、第1面40aと、第2面40bとを含む。第1面40a及び第2面40bは、互いに反対を向く。積層体20が支持材12を有している場合、第1面40aは支持材12と反対に向き、第2面40bは支持材12に向く。第1面40aは、艶消層40の表面を構成するとともに、積層体20の第1面20aを構成する。第1面40aは、微細な凹凸を有する面、いわゆるマット面である。艶消層40に入射した光は、この第1面40aで乱反射して拡散する。これにより、艶消層40の表面における光沢が減少する。すなわち、艶消層40において艶消効果が発揮される。
【0043】
本実施形態では、艶消層40は、樹脂層41と、複数の粒子47とを含む。樹脂層41は、艶消層40の本体部分を構成する。第1面40aは、樹脂層41の表面に形成される。すなわち、樹脂層41が第1面40aを有する。第1面40aは、シワ構造45を有する。複数の粒子47は、第1面40aに特定のシワ構造45を付与するためのシワ形成剤として機能する。
【0044】
シワ構造45は、筋状の凹凸構造を含む構造である(
図2を参照)。とりわけ、本実施形態のシワ構造45は、筋状の凸部及び/又は筋状の凹部を含む。筋状の凸部及び/又は筋状の凹部は、平面視において不規則な形状を有して不規則に配置される。シワ構造45は、湾曲した複数の筋状の凸部と、複数の凸部により囲まれて形成される凹部とを含んでもよい。また、シワ構造45は、湾曲した複数の筋状の凹部と、複数の凹部により囲まれて形成される凸部とを含んでもよい。「湾曲」とは、平面視において、1つの筋状の凸部又は凹部の延びる方向が一方側から他方側に反転する反転部分を有することを意味する。シワ構造45は、蛇行する筋状の凸部と、この蛇行する筋状の凸部に囲まれて形成される凹部とを含んでもよい。また、シワ構造45は、蛇行する筋状の凹部と、この蛇行する筋状の凹部に囲まれて形成される凸部とを含んでもよい。「蛇行」とは、平面視において、1つの筋状の凸部又は凹部が2つ以上の反転部分を含み、1つの凸部又は凹部における隣り合う2つの反転部分において、凸部又は凹部の延びる方向が互いに逆向きに反転することを意味する。
【0045】
ベース層30の凹部32と重なる位置における、艶消層40の第1面40aには、表面凹部49が形成されている。上述のように、艶消層40の第1面40aが積層体20の第1面20aを構成する。本明細書において、艶消層40の第1面40a及び積層体20の第1面20aを、まとめて第1面20a,40aと記載することもある。表面凹部49は、凹部32の段差に追従して形成される凹部である。第1面20a,40aは、表面凹部49が位置する第1領域A1と、表面凹部49が位置しない第2領域A2とを含む(
図1参照)。シワ構造45は、第1領域A1及び第2領域A2の全域にわたって形成されている。すなわち、第1領域A1及び第2領域A2には、シワ構造45が形成されていない領域は含まない。
【0046】
表面凹部49の深さD49、すなわち、第1領域A1と第2領域A2の高低差は、シワ構造45の凹部の深さよりも大きい。表面凹部49の深さD49は、10μm以上100μm以下であってもよい。好ましくは、深さD49は、20μm以上90μm以下であってもよい。さらに好ましくは、深さD49は、30μm以上80μm以下であってもよい。
【0047】
表面凹部49の深さD49の測定方法として、接触式表面粗さ・形状測定機を用いて、JIS B0601:2013の3.2.8に規定される「縦座標値」から算出する方法が用いられる。第2領域A2および第1領域A1内の高さは、当該領域内の皺形状以外に由来する勾配のない領域の縦座標値の平均をその領域の高さとし、この2つの高さの差を表面凹部49の深さD49として測定する。触針の形状および粗さ曲線の標準カットオフ値は、測定するサンプルの凹凸形状にしたがって適宜選択される。
【0048】
表面凹部49の幅W49は、シワ構造45の凹部の幅よりも大きい。表面凹部49の幅W49は、50μm以上1000μm以下であってもよい。好ましくは、幅W49は、100μm以上800μm以下であってもよい。さらに好ましくは、幅W49は、200μm以上600μm以下であってもよい。
【0049】
艶消層40の平面視において、表面凹部49が線状に延びている場合、すなわち表面凹部49が明確な長手方向を有する場合、幅W49は、表面凹部49の延びる方向と直交し且つ艶消層40のシート面に平行な方向に沿って測定される。表面凹部49の幅が艶消層40の厚さ方向に沿って変化している場合には、厚さ方向に沿って変化する幅の値のうち最大の幅の値を、表面凹部49の幅W49とする。
【0050】
艶消層40の平面視において、表面凹部49が明確な長手方向を有しない場合には、幅W49は、以下のように測定される。艶消層40の平面視において、表面凹部49を任意の互いに平行な2本の直線で挟んで、その2本の直線間の距離を測定する。2本の直線間の距離は、2本の直線間の最短距離である。艶消層40のシート面内において2本の直線の角度を変更して、その2本の直線間の距離を測定し、2本の直線間の距離の最大値を、表面凹部49の幅W49とする。
【0051】
第1領域A1における平均長さRSmの値をRSm1とする。第2領域A2における平均長さRSmの値をRSm2とする。本明細書における平均長さRSmは、JIS B0601:2013の4.3.1に規定される「粗さ曲線要素の平均長さ」である。平均長さRSmは、輪郭曲線の横方向のパラメータであり、基準長さにおける輪郭曲線要素の長さの平均である。平均長さRSmの数値が小さいほど凸部及び凹部の幅が狭くなり、表面形状はより幅が狭い凸部及び凹部を有する傾向があることを示す。平均長さRSmは、レーザー顕微鏡を用いて測定する。エンボスの表面が、錐形、台形のように一部または全域に傾斜した部分を有する場合、エンボス内部での測定は、傾斜した部分を含まず全面が一様に平らな領域を選んで測定を行う。
【0052】
RSm1及びRSm2は、5μm以上200μm以下であってもよい。好ましくは、RSm1及びRSm2は、10μm以上150μm以下であってもよい。さらに好ましくは、RSm1及びRSm2は、20μm以上100μm以下であってもよい。
【0053】
本実施形態では、RSm1のRSm2に対する比(RSm1/RSm2)の値の最大値およびRSm2のRSm1に対する比(RSm2/RSm1)の値の最大値は、1.5以下である。好ましくは、RSm1/RSm2の値の最大値およびRSm2のRSm1に対する比(RSm2/RSm1)の値の最大値は、1.4以下である。さらに好ましくは、RSm1/RSm2の値の最大値およびRSm2のRSm1に対する比(RSm2/RSm1)の値の最大値は、1.3以下である。
【0054】
RSm1/RSm2の値の最大値およびRSm2/RSm1の値の最大値はそれぞれ、10°間隔で互いに傾斜した18の方向に沿って測定された18のRSmの値の比のうちの最大値である。より詳細には、まず、10°間隔で互いに傾斜した18の方向のそれぞれで、第1領域A1のRSmの値(RSm1)及び第2領域A2のRSmの値(RSm2)を測定する。次に、同一の方向に測定された第1領域A1のRSm1の第2領域A2のRSm2に対する比(RSm1/RSm2)および第2領域A2のRSm2の第1領域A1のRSm1に対する比(RSm2/RSm1)を算出する。これにより、18のRSm1/RSm2の値および18のRSm2/RSm1の値が算出される。この18のRSm1/RSm2の値のうちの最大値を、「RSm1のRSm2に対する比(RSm1/RSm2)の値の最大値」とする。また、18のRSm2/RSm1の値のうちの最大値を、「RSm2のRSm1に対する比(RSm2/RSm1)の値の最大値」とする。なお、第1領域A1のRSmの値は、表面凹部49の幅方向における中央部分において測定する。第2領域のRSmの値は、表面凹部49の輪郭から50μm以上離れた箇所において測定する。
【0055】
RSm1/RSm2の値の最大値およびRSm2/RSm1の値の最大値が1.5以下であることにより、第1領域A1における第1面20a,40aの鏡面光沢度と、第2領域A1における第1面20a,40aの鏡面光沢度との差を小さくできる。これにより、観察者が積層体20を観察した際に、第1領域A1と第2領域A1とが互いに区別されづらくなる。すなわち、本実施形態の積層体20は、手で触れることにより知覚できる表面凹部49を有しながらも、積層体20を目視により観察した際には、第1領域A1と第2領域A1とが互いに区別されづらくなっている。
【0056】
本明細書において、第1面20a,40aの鏡面光沢度は、JIS Z8741:1997の「方法3」に規定される60°鏡面光沢度(GS(60°))を指す。鏡面光沢度(GS(60°))は、光沢計を用いて測定する。光沢計としては、例えば、BYK-Gardner社製micro-gloss光沢計を用いてもよい。
【0057】
第1領域A1及び第2領域A1における第1面20a,40aの鏡面光沢度(GS(60°))は、0より大きく10以下であってもよい。好ましくは、第1領域A1及び第2領域A1における第1面20a,40aの鏡面光沢度(GS(60°))は、5以下であってもよい。さらに好ましくは、第1領域A1及び第2領域A1における第1面20a,40aの鏡面光沢度(GS(60°))は、2.5以下であってもよい。
【0058】
本実施形態の積層体20の第1面20a,40aにおいて、10mmの間隔をあけて一直線上に並ぶ20の測定位置にて測定された、鏡面光沢度の20の測定値のうちの、最も大きい方から5つの測定値及び最も小さい方から5つの測定値を除いた10の測定値の標準偏差は、0.5以下である。この場合、第1面20a,40aにおける鏡面光沢度のばらつきが小さくなる。これにより、観察者が積層体20を観察した際に、第1領域A1と第2領域A1とが、さらに互いに区別されづらくなる。すなわち、本実施形態の積層体20は、手で触れることにより知覚できる表面凹部49を有しながらも、積層体20を目視により観察した際には、第1領域A1と第2領域A1とが、さらに互いに区別されづらくなる。
【0059】
艶消層40の表面凹部49の深さD49とベース層30の第1面30a(艶消層40を向く面)における凹部32の深さD32との差の絶対値は、30μm以下であってもよい。好ましくは、深さD49と深さD32との差の絶対値は、20μm以下であってもよい。さらに好ましくは、深さD49と深さD32との差の絶対値は、10μm以下であってもよい。
【0060】
深さD49と深さD32との差の絶対値が30μm以下であることにより、第1領域A1における艶消層40の厚さと第2領域A1における艶消層40の厚さとの差が小さくなる。これにより、後述の製造方法により形成される第1領域A1のシワ構造45と第2領域A2のシワ構造45との間の全体的な凹凸形状の差が小さくなる。具体的には、RSm1/RSm2の値の最大値およびRSm2/RSm1の値の最大値が小さくなる。これにより、観察者が積層体20を観察した際に、第1領域A1と第2領域A1とが、さらに互いに区別されづらくなる。すなわち、本実施形態の積層体20は、手で触れることにより知覚できる表面凹部49を有しながらも、積層体20を目視により観察した際には、第1領域A1と第2領域A1とが、さらに互いに区別されづらくなる。
【0061】
本実施形態では、第1領域A1及び第2領域A2は、意匠層50が有する絵柄に応じて配置される。例えば、第1領域A1及び第2領域A2は、意匠層50の絵柄層54の配置に応じて配置される。第1領域A1及び第2領域A2が絵柄に応じて配置されるとは、第1領域A1が絵柄層54と重なるように配置される場合、及び、第2領域A2が絵柄層54と重なるように配置される場合を含む。このとき、第1領域A1又は第2領域A2の全ての領域が絵柄層54と重なる必要はない。積層体20の平面視において、第1領域A1と第2領域A2との間の境界線のうちの50%以上が、絵柄層54の輪郭線と重なる場合、第1領域A1及び第2領域A2が絵柄に応じて配置されているものとする。好ましくは、積層体20の平面視において、第1領域A1と第2領域A2との間の境界線のうちの70%以上が、絵柄層54の輪郭線と重なってもよい。さらに好ましくは、積層体20の平面視において、第1領域A1と第2領域A2との間の境界線のうちの80%以上が、絵柄層54の輪郭線と重なってもよい。
【0062】
艶消層40の厚さは、1μm以上であってもよい。好ましくは、艶消層40の厚さは、2μm以上であってもよい。より好ましくは、艶消層40の厚さは、3μm以上であってもよい。さらに好ましくは、艶消層40の厚さは、4μm以上であってもよい。また、艶消層40の厚さは、300μm以下であってもよい。好ましくは、艶消層40の厚さは、200μm以下であってもよい。より好ましくは、艶消層40の厚さは、100μm以下であってもよい。さらに好ましくは、艶消層40の厚さは、50μm以下であってもよい。なお、本実施形態において、艶消層40の厚さは、第2領域A2における艶消層40の厚さを意味する。また、艶消層40の厚さは、艶消層40のうち粒子47が存在しない部分の厚さを意味する。すなわち、艶消層40の厚さは、樹脂層41の厚さである。樹脂層41の厚さは、樹脂層41の法線方向に平行な断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した画像から20箇所の厚さを測定し、20箇所の厚さの値の相加平均の値とする。なお、SEMの加速電圧は3kV、倍率は厚さに応じて設定する。
【0063】
樹脂層41は、樹脂組成物を含む。樹脂層41に用いられる樹脂組成物は、電離放射線硬化性樹脂を含んでもよい。電離放射線硬化性樹脂は、電離放射線硬化性官能基を有する樹脂である。電離放射線硬化性官能基は、電離放射線の照射によって架橋する基である。電離放射線硬化性官能基は、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性二重結合を有する官能基であってもよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクロイル基を示す。また、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを示す。また、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合及び/又は架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味する。電離放射線としては、紫外線(UV)、電子線(EB)、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線を用いてもよい。
【0064】
電離放射線硬化性樹脂としては、電子線硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂を用いてもよい。電離放射線硬化性樹脂は、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から適宜選択して用いてもよい。
【0065】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好ましい。とりわけ、重合性モノマーとしては、多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートモノマーは、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーであってもよい。多官能性(メタ)アクリレートモノマーの官能基数は、2以上8以下であってもよい。好ましくは、多官能性(メタ)アクリレートモノマーの官能基数は、2以上6以下であってもよい。これらの多官能性(メタ)アクリレートは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
重合性オリゴマーは、例えば、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーであってもよい。重合性オリゴマーは、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマー等であってもよい。さらに、重合性オリゴマーは、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、及びノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー等であってもよい。
【0067】
これらの重合性オリゴマーは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。重合性オリゴマーは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーであってもよい。好ましくは、重合性オリゴマーは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマーであってもよい。さらに好ましくは、重合性オリゴマーは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであってもよい。
【0068】
これらの重合性オリゴマーの官能基数は、2以上8以下であってもよい。好ましくは、重合性オリゴマーの官能基数は、2以上6以下であってもよい。重合性オリゴマーの重量平均分子量は、2500以上7500以下であってもよい。好ましくは、重合性オリゴマーの重量平均分子量は、3000以上7000以下であってもよい。さらに好ましくは、重合性オリゴマーの重量平均分子量は、3500以上6000以下であってもよい。ここで、重量平均分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された平均分子量である。
【0069】
本実施形態において、樹脂層41を形成する樹脂として、重合性オリゴマーと重合性モノマーとが組み合わされて用いられてもよい。重合性オリゴマーは、多官能性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであってもよい。好ましくは、重合性オリゴマーは、多官能性ウレタンアクリレートオリゴマーであってもよい。重合性モノマーは、多官能の重合性モノマーであってもよい。好ましくは、重合性モノマーは、多官能性(メタ)アクリレートモノマーであってもよい。さらに好ましくは、重合性モノマーは、多官能アクリレートモノマーであってもよい。重合性オリゴマーと重合性モノマーとが組み合わされて用いられる場合、重合性オリゴマーと重合性モノマーとの合計100質量部に対する重合性オリゴマーの含有量は、40質量部以上であってもよい。好ましくは、重合性オリゴマーの含有量は、50質量部以上であってもよい。さらに好ましくは、重合性オリゴマーの含有量は、60質量部以上であってもよい。さらに好ましくは、重合性オリゴマーの含有量は、70質量部以上であってもよい。さらに好ましくは、重合性オリゴマーの含有量は、80質量部以上であってもよい。重合性オリゴマーの含有量は、98質量部以下であってもよい。好ましくは、重合性オリゴマーの含有量は、95質量部以下であってもよい。さらに好ましくは、重合性オリゴマーの含有量は、92質量部以下であってもよい。
【0070】
樹脂層41に用いられる樹脂組成物は、上述の樹脂の他、所望の性能等に応じて、他の成分を含んでもよい。例えば、樹脂層41に用いられる樹脂組成物は、その粘度を低下させる等の目的で、単官能性(メタ)アクリレートを含有してもよい。これらの単官能性(メタ)アクリレートは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
また、上述の樹脂が紫外線により硬化する紫外線硬化性樹脂である場合、光重合開始剤、光重合促進剤等の添加剤を含んでもよい。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、チオキサントン類等から選ばれる1種以上を用いてもよい。光重合促進剤は、硬化時の空気による重合阻害を軽減させ硬化速度を速めることができるものである。光重合促進剤としては、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等から選ばれる1種以上を用いてもよい。
【0072】
粒子47は、第1面40aに特定のシワ構造45を付与するためのシワ形成剤として機能する。エキシマ光等を用いて樹脂の表面にシワ状の凹凸面を形成する従来技術では、凹凸面のシワ構造45の形状を精密に制御することは困難だった。これについて本件発明者らが鋭意検討を進めたところ、艶消層40を形成するための樹脂組成物に、さらに粒子47を添加することにより、第1面40aのシワ構造45の形状を制御できることがわかった。
【0073】
従来、シワ構造45を有しない樹脂層にシリカ等の粒子を添加して、艶消層を形成する技術が知られている。この技術では、樹脂層の表面から突出する粒子により当該表面に凹凸が形成され、この凹凸が艶消効果を発揮する。これに対して、本実施形態では、第1面40aにおける凹凸は、シワ構造45により実現される。本実施形態の粒子47は、それ自体が第1面40aにおける凹凸を形成することを意図されたものではない。この点において、シワ構造45を有しない樹脂層に添加された粒子と、本実施形態の粒子47とは、本質的に異なる。本件発明者らは、後述する製造方法のように樹脂組成物にエキシマ光等を照射した際に、粒子47が起点となって、シワ構造45を構成する凸部及び/又は凹部が形成されるものと推測している。これにより、シワ構造45に、従来技術では形成することが困難だった形状を付与することが可能になったものと考えられる。本実施形態では、艶消層40が粒子47を含むことにより、第1面40aにおける、平均長さRSmを25μm以上35μm以下とすることができた。以下、このような粒子47について説明する。
【0074】
粒子47としては、例えば、有機粒子又は無機粒子を用いてもよい。有機粒子を構成する有機物として、ポリメチルメタクリレート、アクリル-スチレン共重合体樹脂、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル樹脂、ベンゾグアナミン-メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、シリコーン、フッ素系樹脂及びポリエステル系樹脂等を用いてもよい。無機粒子を構成する無機物として、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、アルミノシリケート及び硫酸バリウム等を用いてもよい。この中で、好ましくは、無機粒子を構成する無機物として、シリカを用いてもよい。粒子47の形状は、例えば、球形、多面体、鱗片状、不定形等であってもよい。
【0075】
粒子47の平均粒子径は、1μm以上であってもよい。好ましくは、粒子47の平均粒子径は、1.3μm以上であってもよい。さらに好ましくは、粒子47の平均粒子径は、1.5μm以上であってもよい。さらに好ましくは、粒子47の平均粒子径は、1.8μm以上であってもよい。粒子47の平均粒子径は、20μm以下であってもよい。好ましくは、粒子47の平均粒子径は、15μm以下であってもよい。さらに好ましくは、粒子47の平均粒子径は、10μm以下であってもよい。なお、本明細書において、粒子47の平均粒子径は、レーザ光回折法による粒度分布測定における質量平均値d50として測定したものである。
【0076】
複数の粒子47は、樹脂層41の厚さの1/2以上の最大寸法を有する粒子47を含んでもよい。本件発明者らの検討により、複数の粒子47が、樹脂層41の厚さの1/2以上の最大寸法を有する粒子47を含む場合に、第1面40aのシワ構造45の形状をより適切に制御できることがわかった。好ましくは、複数の粒子47は、樹脂層41の厚さ以上の最大寸法を有する粒子47を含んでもよい。
【0077】
粒子47の最大寸法は、艶消層40の法線方向に平行な断面において観察される粒子47の断面において測定される。粒子47の断面において、当該粒子を横断する直線のうち、最も長い直線の長さが粒子47の最大寸法である。粒子47の最大寸法をこのように測定することにより、艶消層40に含まれる粒子47の最大寸法を簡単に測定できる。なお、粒子47における断面の位置によっては、上述のようにして測定された粒子47の最大寸法は、当該粒子47の真の最大寸法とは異なることもあり得る。しかし、上述のようにして測定された粒子47の最大寸法が、当該粒子47の真の最大寸法よりも大きくなることはない。したがって、粒子47の真の最大寸法は、上述のようにして測定された粒子47の最大寸法と等しいかこれより大きいものと推測できる。
【0078】
樹脂層41を形成する樹脂100質量部に対して、粒子47の含有量は0.5質量部以上であってもよい。好ましくは、粒子47の含有量は0.75質量部以上であってもよい。さらに好ましくは、粒子47の含有量は1.0質量部以上であってもよい。さらに好ましくは、粒子47の含有量は1.2質量部以上であってもよい。樹脂層41を形成する樹脂100質量部に対して、粒子47の含有量は25.0質量部以下であってもよい。好ましくは、粒子47の含有量は15.0質量部以下であってもよい。さらに好ましくは、粒子47の含有量は10.0質量部以下であってもよい。さらに好ましくは、粒子47の含有量は7.5質量部以下であってもよい。さらに好ましくは、粒子47の含有量は6.0質量部以下であってもよい。
【0079】
次に、
図3~
図6を参照して、本実施形態の積層体20の製造方法の一例について説明する。まず、ベース層30を準備する(
図3参照)。この段階で、ベース層30は、支持材12、意匠層50及び接着層58と積層されていてもよい。次に、ベース層30に凹部32を形成する(
図4参照)。凹部32は、例えば第1面30aを介してベース層30にエンボス加工を行うことにより形成されてもよい。
【0080】
次に、ベース層30の第1面30a上に、後に樹脂層41となる樹脂組成物と粒子47との混合物を配置する(
図5参照)。混合物は、第1領域A1及び第2領域A2の全体にわたって配置される。これにより、混合物は、凹部32を覆うように配置される。混合物は、例えば、流動性を有する状態で第1面30a上に塗布されてもよい。混合物は、例えば、グラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法等により塗布されてもよい。このとき、凹部32と重なる位置における混合物の表面には、表面凹部49が形成される。
【0081】
次に、樹脂組成物に、380nmを超える波長を有する光を照射して、樹脂組成物の全体を予備硬化させる。好ましくは、この光の波長は、385nm以上400nm以下であってもよい。なお、この予備硬化の工程は必須の工程ではなく、省略してもよい。
【0082】
その後、樹脂組成物の表面に、100nm以上380nm以下の波長を有する光を照射する。これにより、樹脂組成物の表面にシワ構造45が形成される(
図6参照)。このシワ構造45が形成されるメカニズムは、以下のとおりであると推測される。樹脂組成物の表面に、100nm以上380nm以下の波長を有する光を照射すると、この光の波長が短いことから、光のエネルギーが表面部分のみに浸透し、それより下層には光のエネルギーが到達しない。このとき、当該樹脂組成物の表面部分だけが硬化を始める。これにより、表面だけが硬化収縮を生じ、樹脂組成物の表面にシワ構造45が形成される。樹脂組成物における、表面からのある厚さの範囲内の部分のみが硬化した状態において生じていると考えられる。また、このとき、粒子47がシワ構造45の形成のきっかけとなる核のような機能を有しているものと考えられる。したがって、粒子47を中心に樹脂組成物の表面部分の樹脂が集まり、シワ構造45の凸部及び凹部が形成されるものと推測される。
【0083】
100nm以上380nm以下の波長を有する光としては、例えば、Ar、Kr、Xe、Ne等の希ガス、F、Cl、I、Br等のハロゲンによる希ガスのハロゲン化物等ガス、又はこれらの混合ガスの放電によって形成される励起状態の2量体、すなわちエキシマ(excimer)からの紫外線波長域の光を含む「エキシマ光」を用いてもよい。エキシマ光の波長及び光源となるエキシマは、例えばAr2のエキシマから輻射される波長126nmの光(以下、「126nm(Ar2)」のように略称する)、146nm(Kr2)、157nm(F2)、172nm(Xe2)、193nm(ArF)、222nm(KrCl)、247nm(KrF)、308nm(XeCl)、351nm(XeF)等であってもよい。エキシマ光としては、自然放出光、誘導放出によるコヒーレンス(可干渉性)の高いレーザ光のいずれでもよい。なお、このような光を放射する放電ランプは、「エキシマランプ」とも称される。エキシマ光は波長ピークが単一であり、また通常の紫外線(例えば、メタルハライドランプ、水銀ランプ等から放射される紫外線)と比べて波長の半値幅が狭い。このようなエキシマ光を用いることで、シワの形成が安定し、安定的に艶消効果が向上する。
【0084】
樹脂組成物の表面に照射される光の波長は120nm以上であってもよい。好ましくは、光の波長は140nm以上であってもよい。さらに好ましくは、光の波長は150nm以上であってもよい。さらに好ましくは、光の波長は155nm以上であってもよい。樹脂組成物の表面に照射される光の波長は320nm以下であってもよい。好ましくは、光の波長は300nm以下であってもよい。さらに好ましくは、光の波長は250nm以下であってもよい。さらに好ましくは、光の波長は200nm以下であってもよい。さらに好ましくは、光の波長は172nm(Xe2)であってもよい。
【0085】
樹脂組成物の表面に照射される光の積算露光量は1mJ/cm2以上であってもよい。好ましくは、積算露光量は10mJ/cm2以上であってもよい。さらに好ましくは、積算露光量は30mJ/cm2以上であってもよい。さらに好ましくは、積算露光量は50mJ/cm2以上であってもよい。樹脂組成物の表面に照射される光の積算露光量は1000mJ/cm2以下であってもよい。好ましくは、積算露光量は500mJ/cm2以下であってもよい。さらに好ましくは、積算露光量は300mJ/cm2以下であってもよい。
【0086】
樹脂組成物の表面に照射される光の出力密度は0.001W/cm以上であってもよい。好ましくは、出力密度は0.01W/cm以上であってもよい。さらに好ましくは、出力密度は0.03W/cm以上であってもよい。樹脂組成物の表面に照射される光の出力密度は10W/cm以下であってもよい。好ましくは、出力密度は5W/cm以下であってもよい。さらに好ましくは、出力密度は3W/cm以下であってもよい。
【0087】
樹脂組成物の表面に光を照射する際の酸素濃度は1000ppm以下であってもよい。好ましくは、酸素濃度は750ppm以下であってもよい。さらに好ましくは、酸素濃度は500ppm以下であってもよい。さらに好ましくは、酸素濃度は300ppm以下であってもよい。
【0088】
上述のように、樹脂組成物の表面に100nm以上380nm以下の波長を有する光を照射した後、樹脂組成物に、当該光の波長よりも長い波長を有する光を照射する。これにより、樹脂組成物の表面から深さ方向に離れた部分における硬化が進行し、樹脂組成物の全体が硬化し、樹脂組成物から樹脂層41が形成される。このとき、樹脂組成物の表面部分における硬化の進行度合いと、表面から深さ方向に離れた部分における硬化の進行度合いの差により、シワ構造45の形成がさらに進行する。このように樹脂組成物の全体を硬化させる際に用いられる光として、例えば紫外線(UV)を用いてもよい。また、樹脂組成物の全体を硬化させる際には、紫外線に代えて他の電離放射線、例えば電子線(EB)を用いてもよい。
【0089】
図7に示されているように、化粧材10は、支持材12の代わりに成形樹脂部14を有してもよい。この場合、化粧材10は、積層体20と、積層体20と積層された成形樹脂部14と、を備える。成形樹脂部14は、所望の形状に成形された樹脂部材である。成形樹脂部14は、例えば、自動車内装部材、自動車外装部材、樹脂サッシ、手すり、家電製品である。
【0090】
積層体20の第1面20aに形成されるシワ構造45は、他の部材の表面に転写されてもよい。
図8~
図10を参照して、積層体20を用いたシワ構造45の転写方法について説明する。
【0091】
まず、
図8に示されているように、積層体20を準備する。積層体20は、
図3~
図6を参照して説明した積層体20の製造方法により製造できる。次に、積層体20の第1面20a上に未硬化の樹脂層を形成する。樹脂層は、流動性を有した樹脂を第1面20a上に塗布することにより形成されてもよい。樹脂層を構成する樹脂としては、電離放射線硬化型樹脂が用いられる。電離放射線硬化型樹脂としては、樹脂層41を構成する電離放射線硬化型樹脂と同様の樹脂が用いられてもよい。
【0092】
樹脂層には、接着層67、意匠層70及び支持材65が積層されてもよい。意匠層70は、着色層72と絵柄層74とを含んでもよい。意匠層70は、
図1を参照して説明した例における意匠層50と同様に形成されてもよい。着色層72及び絵柄層74は、
図1を参照して説明した例における着色層52及び絵柄層54と同様に形成されてもよい。支持材65は、
図1を参照して説明した例における支持材12と同様に形成されてもよい。接着層67は、
図1を参照して説明した例における接着層58と同様に形成されてもよい。
【0093】
その後、電離放射線を樹脂層に照射して樹脂層を硬化させ、樹脂層から硬化樹脂層62を形成する(
図9参照)。電離放射線としては、紫外線(UV)、電子線(EB)、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線を用いてもよい。
【0094】
図9は、積層体20を有する転写シート60の一例を示す断面図である。硬化樹脂層62における、積層体20の第1面20aと接触する表面には、第1面20aのシワ構造45が転写されている。これにより、硬化樹脂層62における、第1面20aと接触する表面は、第1面20aのシワ構造45の凹凸形状が転写シート60の法線方向に反転した形状を有するシワ構造が形成される。これにより、
図9に示された転写シート60は、積層体20と、電離放射線硬化型樹脂の硬化物を含む硬化樹脂層62と、を備え、硬化樹脂層62は、積層体20の第1面20aに接触してシワ構造を有する。また、
図9に示された例では、転写シート60は、絵柄を有する絵柄層74を更に備え、硬化樹脂層62は、絵柄層74及び積層体20の間に位置する。
【0095】
次に、硬化樹脂層62を積層体20から剥離する(
図10参照)。これにより、表面にシワ構造を有する硬化樹脂層62を含む艶消シート80が得られる。
図10に示された例では、艶消シート80は、支持材65と、意匠層70と、接着層67とをさらに含んでいる。
【0096】
以下、本件発明者らが実施した実験の一例について説明する。なお、本開示の実施の形態は、以下の実験結果により限定されるものではない。
【0097】
以下のようにして、ベース層及び艶消層を有する積層体を作成した。
【0098】
ポリプロピレン系樹脂のシートを押出しラミネート方式で積層してベース層を形成した。ベース層の厚さは80μmであった。
【0099】
実施例1及び2並びに比較例1~4においては、ベース層の第1面にエンボス加工により凹部を形成した後に、当該第1面上に艶消層を形成した。比較例5においては、ベース層の第1面上に艶消層を形成した後に、当該艶消層上からエンボス加工により表面凹部及び凹部を形成した。エンボス加工では、まず、ベース層を赤外線非接触方式のヒーターで加熱し軟化させた。その後、熱圧によりエンボス加工を行うことによりベース層に凹凸模様を賦形した。
【0100】
下記の材料を混合して、樹脂層及び粒子を含む組成物を得た。
<樹脂層>
・多官能ウレタンアクリレートオリゴマー 30質量部
・多官能アクリレートモノマー 50質量部
・単官能アクリレートモノマー 20質量部
・光重合開始剤(ベンゾフェノン系) 2.0質量部
<粒子>
・シリカ粒子(平均粒子径8μm) 3質量部
【0101】
上記の組成物を、グラビアコーティングにより、ベース層上に凸部側から塗布した。第2領域A2における乾燥塗布量は15g/m2であった。その後、この塗布層に紫外線を照射して塗布層を予備硬化した。予備硬化では、LEDから構成されるUV照射装置を用いた。予備硬化における紫外線の照射条件は、波長395nm、最大照度0.6W/cm2、積算光量30mJ/cm2~100mJ/cm2であった。次いで、エキシマ光照射装置を用いて、酸素濃度200ppm以下の窒素雰囲気中で塗布層に紫外線を照射した。このとき、塗布層の表面にシワ構造が形成された。エキシマ光照射装置を用いた紫外線の照射条件は、波長172nm(Xe2)、紫外線出力密度30mW/cm2、積算光量5mJ/cm2~100mJ/cm2であった。さらに、酸素濃度100ppm以下の窒素雰囲気中で電子線を照射して、艶消層を形成した。電子線の照射条件は、加速電圧100kV~150kV、照射線量30kGy~100kGyであった。第2領域A2における艶消層の厚さは、15μmであった。第1領域A1における艶消層の厚さは、ベース層の凹部の形状(幅、深さ)により変化した。
【0102】
表1は、各実施例及び比較例における、ベース層の凹部の形状、艶消層の表面(第1面)における各パラメータの値、表面凹部の形状及び評価についてまとめたものである。
【0103】
表1において、「ベース層」の「凹部形状」の「深さ(μm)」及び「幅(μm)」は、それぞれベース層の凹部の深さD32及び幅W32に対応する。「ベース層」の「凹部形成工程」の欄において、「A」は、ベース層の第1面にエンボス加工により凹部を形成した後に、当該第1面上に艶消層を形成したことを示す。同欄において、「B」は、ベース層の第1面上に艶消層を形成した後に、当該艶消層上からエンボス加工により表面凹部及び凹部を形成したことを示す。
【0104】
「艶消層」の「RSm値(μm)」は、RSm1/RSm2の値の最大値またはRSm2/RSm1の値の最大値を与える各領域A1,A2のRSm値(μm)を示す。
【0105】
「艶消層」の「Rz(μm)」は、各領域A1,A2における最大高さRzの値を示す。最大高さRzは、輪郭曲線の山及び高さパラメータの1つである。とりわけ、最大高さRzは、基準長さにおける輪郭曲線の中で、最も高い山の高さと最も深い谷の深さとの和である。最大高さRzの数値が大きいほど、山の頂部から見て大きい深さを有する谷が存在し、そのような谷が多く存在する傾向がある。
【0106】
「艶消層」の「Ra(μm)」は、各領域A1,A2における算術平均粗さRaの値を示す。算術平均粗さRaは、輪郭曲線の高さ方向のパラメータの1つである。とりわけ、算術平均粗さRaは、基準長さにおける輪郭曲線において、平均面からの高低差の平均値である。算術平均粗さRaの数値が小さいほど、表面形状における凸部、これに応じて形成する凹部がより小さくなり、より滑らかで均一な形状となる。
【0107】
なお、最大高さRz、算術平均粗さRaは、キーエンス社製レーザー顕微鏡(型番:VK-X100)を用いて、JIS B0601:2013に準拠して測定した。
【0108】
「艶消層」の「Ssk」は、第2領域A2におけるスキューネスSskの値を示す。スキューネスSskは、ISO25178-2:2012にて規定される三次元表面性状パラメータの1つである。とりわけ、スキューネスSskは、平均面からの高さ分布の偏りの度合いを示す指標である。スキューネスSskが0である場合は表面形状が平均面に対して対称(正規分布)である。スキューネスSskが0を超えると表面形状が平均面に対して下側、すなわち高さが低い側に偏りがあり、凸部の頂部近傍が鋭く細くなる傾向にある。スキューネスSskが0未満であると平均面(平均水準面)に対して表面形状が上側、すなわち高さが高い側に偏っていて、凸部の頂部近傍が鈍く太くなる。
【0109】
「艶消層」の「Sku」は、第2領域A2におけるクルトシスSkuの値を示す。クルトシスSkuは、ISO25178-2:2012にて規定される三次元表面性状パラメータの一つである。とりわけ、クルトシスSkuは、平均面からの高さ分布の尖りの度合いを示す指標である。クルトシスSkuが3である場合は、表面形状が平均面に対して対称(正規分布)である。クルトシスSkuが3を超える場合は、高さ分布が尖った形状を有する。クルトシスSkuが3未満である場合は、高さ分布がつぶれる形状を有する。
【0110】
「艶消層」の「表面凹部の深さ(μm)」は、艶消層の表面凹部の深さD49に対応する。この「表面凹部の深さ(μm)」は、上述した表面凹部49の深さD49の測定方法により測定される。
【0111】
意匠の評価は、実施例及び比較例で得られた物品について、20人の成人の評価者が積層体を視認することにより行った。評価は、照度700LUXの光源下において、50cm離れた場所から積層体を視認することにより行った。「評価」の「意匠」の欄において、評価「A」は、20人の評価者のうち、艶消層の表面の面状態が均一であり一様に艶消効果が得られていると判定した評価者が16人(80%)以上であったことを示す。評価「B」は、20人の評価者のうち、艶消層の表面の面状態が均一であり一様に艶消効果が得られていると判定した評価者が15人以下であったことを示す。
【0112】
触感の評価は、実施例及び比較例で得られた物品について、20人の成人の評価者が、積層体の表面(第1面)を触ることにより行った。評価において、80番手の綿糸を用いたオックスフォード生地を、なめらかな触感の基準とした。「評価」の「触感」の欄において、評価「A」は、20人の評価者のうち、全体として基準に近い触感であり、かつその中にエンボスに沿った触感を認識できると評価した評価者が16人(80%)以上であったことを示す。評価「B」は、20人の評価者のうち、全体として基準に近い触感であり、かつその中にエンボスに沿った触感を認識できると評価した評価者が15人以下であったことを示す。
【0113】
【0114】
実施例1及び2では、「RSm1/RSm2の最大値」及び「RSm2/RSm1の最大値」がいずれも1.5以下であった。この実施例1及び2においては、「意匠」及び「触感」のいずれにおいても評価は「A」であった。すなわち、実施例1及び2においては、照度700LUXの光源下において50cm離れた場所から積層体を視認した場合に、艶消層の表面(第1面)における第1領域A1と第2領域A2とを互いに区別できなかった。すなわち、第1領域A1及び第2領域A2の両方にわたって概ね均一な外観が得られた。また、艶消層の表面において、全体として滑らかな触感が得られた。
【0115】
比較例1~4では、「RSm1/RSm2の最大値」が1.5より大きい1.72~3.06であった。比較例5では、表面凹部が位置する第1領域A1におけるシワ構造が破損していた。上述のように、比較例5では、ベース層の第1面上に艶消層を形成した後に、当該艶消層上からエンボス加工により表面凹部を形成した。これにより、第1領域A1では、先に形成された艶消層のシワ構造が、エンボス加工時に潰されたものと考えられる。比較例5では、シワ構造が破損していたことにより、第1領域A1におけるRSmの値(RSm1)が測定できなかった。したがって、比較例5では、「RSm1/RSm2の最大値」及び「RSm2/RSm1の最大値」も算出できなかった。なお、比較例5では、第1領域A1における最大高さRzの値及び算術平均粗さRaの値も測定できなかった。
【0116】
比較例1~5では、「意匠」の評価は「B」であった。すなわち、比較例1~5では、照度700LUXの光源下において50cm離れた場所から積層体を視認した場合に、艶消層の表面における第1領域A1と第2領域A2とが互いに区別できた。すなわち、第1領域A1及び第2領域A2の両方にわたって均一な外観が得られなかった。この理由について、本件発明者は以下のように推測している。例えば、比較例1~3においては、「表面凹部の深さ」が0μmである。これは、第1領域A1の内部において艶消層を構成する組成物の塗布量が多くなっていることを示す。その結果、第1領域A1において粗いシワ構造が形成される。そのため、この第1領域A1における艶消し効果が小さくなる。これにより、第1領域A1と第2領域A2とが互いに区別して視認されやすくなる。したがって、一様に艶消効果が得られていると判定した評価者が少なくなったものと考えられる。
【0117】
比較例1~3では、「触感」の評価は「B」であった。すなわち、比較例1~3では、全体として滑らかな触感が得られなかった。この理由について、本件発明者は以下のように推測している。比較例1~3においては、「表面凹部の深さ」が0μmである。したがって、評価者は、表面凹部に沿った触感を手で知覚できなかったものと考えられる。
【0118】
表1の結果より、「RSm1/RSm2の最大値」及び「RSm2/RSm1の最大値」がいずれも1.5以下である場合に、艶消層の表面において、第1領域A1及び第2領域A2の両方にわたって概ね均一な外観が得られるとともに、全体として滑らかな触感が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0119】
10 化粧材
12 支持材
14 成形樹脂部
20 積層体
20a 第1面
20b 第2面
30 ベース層
32 凹部
40 艶消層
41 樹脂層
45 シワ構造
47 粒子
49 表面凹部
50 意匠層
52 着色層
54 絵柄層
58 接着層
60 転写シート
80 艶消シート
A1 第1領域
A2 第2領域