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特開2025-9471雲構造を計測するための方法、装置及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009471
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】雲構造を計測するための方法、装置及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20250110BHJP
   G01S 17/95 20060101ALI20250110BHJP
   G01S 17/58 20060101ALI20250110BHJP
   G01P 5/26 20060101ALI20250110BHJP
   G01P 13/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
G01W1/00 E
G01S17/95
G01S17/58
G01P5/26 Z
G01P13/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112497
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】515335415
【氏名又は名称】メトロウェザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】弁理士法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】古本 淳一
【テーマコード(参考)】
2F034
5J084
【Fターム(参考)】
2F034AA02
2F034DA23
2F034DB20
5J084AA02
5J084AA05
5J084AA07
5J084AA09
5J084AA13
5J084AA14
5J084AB08
5J084AD01
5J084BA03
5J084BA50
5J084BB28
5J084CA03
5J084CA31
5J084CA32
5J084CA33
5J084CA48
5J084CA49
(57)【要約】

【課題】 赤外線レーザ光を用いて全天又はその一部をスキャンすることによって、雲の面的分布及び/又は立体的分布(すなわち雲構造)を自動的かつ高精度に計測する方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、雲構造を計測するための方法を提供する。本方法は、大気に向けて送出されたレーザ光の散乱光から得られた複数の散乱光データを用いて、レーザ光の送出方向に沿った複数の測定領域の散乱光強度を求める信号処理ステップと、求められた散乱光強度に基づいて、複数の散乱光データの各々が雲粒子からの散乱光データであるかどうかを判定する雲判定ステップと、雲判定ステップによって雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データに基づいて、雲の構造を決定する雲構造決定ステップとを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雲構造を計測するための方法であって、
大気に向けて送出されたレーザ光の散乱光から得られた複数の散乱光データを用いて、レーザ光の送出方向に沿った複数の測定領域の散乱光強度を求める信号処理ステップと、
求められた散乱光強度に基づいて、複数の散乱光データの各々が雲粒子からの散乱光データであるかどうかを判定する雲判定ステップと、
雲判定ステップによって雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データに基づいて、雲の構造を決定する雲構造決定ステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記雲判定ステップは、
得られた複数の散乱光データのうち、地上又はその近傍から連続して散乱光強度が得られた散乱光データは、雲粒子以外の粒子からの散乱光データであると判定することと、
雲粒子以外の粒子からの散乱光データではない散乱光データは雲粒子からの散乱光データであると判定することと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記雲判定ステップは、雲粒子以外の粒子からの散乱光データが途切れたあとに再度出現する散乱光データが、雲底からの散乱光データであると判定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記雲判定ステップは、雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データのうち、連続する複数の散乱光データからなる複数のデータ集合の各々は、複数の雲層の各々からの散乱光データであると判定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記雲構造決定ステップは、前記複数の雲層の各々からの散乱光データに基づいて、前記複数の雲層の各々の厚さ及び濃さを求めることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記雲判定ステップは、
得られた複数の散乱光データについて、地上又はその近傍から順次、レーザ光の送出方向に沿って隣接する測定領域の散乱光強度を比較し、所定の差より小さい値で連続的に変化する散乱光強度が得られる散乱光データは、雲粒子以外の粒子からの散乱光データであると判定することと、
雲粒子以外の粒子からの散乱光データではない散乱光データは雲粒子からの散乱光データであると判定することと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記雲判定ステップは、雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データについて、レーザ光の送出方向に沿って隣接する測定領域の散乱光強度を比較し、所定の差より小さい値で連続的に変化する散乱光強度が得られる散乱光データからなる複数のデータ集合の各々は、複数の雲層の各々からの散乱光データであると判定することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
雲粒子以外の粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データの散乱光強度に基づいて、雲が存在しない空間における風情報を求める風計算ステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記雲構造決定ステップは、前記雲底からの散乱光データに基づいて、雲底の高度を決定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記雲構造決定ステップは、前記複数の雲層の各々からの散乱光データに基づいて、雲層の構造を決定することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
雲構造を計測するためのコンピュータ・プログラムであって、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の方法をコンピュータに実行させるプログラム命令を含むコンピュータ・プログラム。
【請求項12】
雲構造を計測するための装置であって、
レーザ光を大気に向けて送出する光送出部と、
送出されたレーザ光の散乱光を受信する光受信部と、
受信した散乱光から得られた複数の散乱光データを用いて、レーザ光の送出方向に沿った複数の測定領域の散乱光強度を求める信号処理部と、
求められた散乱光強度に基づいて、複数の散乱光データの各々が雲粒子からの散乱光データであるかどうかを判定し、雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データに基づいて、雲の構造を決定する、雲判定・構造決定部と
を備える装置。
【請求項13】
前記雲判定・構造決定部は、
得られた複数の散乱光データのうち、地上又はその近傍から連続して散乱光強度が得られた散乱光データは、雲粒子以外の粒子からの散乱光データであると判定し、
雲粒子以外の粒子からの散乱光データではない散乱光データは雲粒子からの散乱光データであると判定する、
請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記雲判定・構造決定部は、雲粒子以外の粒子からの散乱光データが途切れたあとに再度出現する散乱光データが、雲底からの散乱光データであると判定する、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
前記雲判定・構造決定部は、雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データのうち、連続する複数の散乱光データからなる複数のデータ集合の各々は、複数の雲層の各々からの散乱光データであると判定する、請求項12に記載の装置。
【請求項16】
前記雲判定・構造決定部は、複数の雲層の各々からの散乱光データに基づいて、複数の雲層の各々の厚さ及び濃さを求める、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記雲判定・構造決定部は、
得られた複数の散乱光データについて、地上又はその近傍から順次、レーザ光の送出方向に沿って隣接する測定領域の散乱光強度を比較し、所定の差より小さい値で連続的に変化する散乱光強度が得られる散乱光データは、雲粒子以外の粒子からの散乱光データであると判定し、
雲粒子以外の粒子からの散乱光データではない散乱光データは雲粒子からの散乱光データであると判定する
請求項12に記載の装置。
【請求項18】
前記雲判定・構造決定部は、雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データについて、レーザ光の送出方向に沿って複数の測定領域の散乱光強度を比較し、所定の差より小さい値で連続的に変化する散乱光強度が得られる散乱光データからなる複数のデータ集合の各々は、複数の雲層の各々からの散乱光データであると判定する
請求項17に記載の装置。
【請求項19】
雲粒子以外の粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データの散乱光強度に基づいて、雲が存在しない空間における風情報を求める風計算部をさらに含む、請求項12に記載の装置。
【請求項20】
前記雲判定・構造決定部は、雲底からの散乱光データに基づいて、雲底の高度を決定する、請求項14に記載の装置。
【請求項21】
前記雲判定・構造決定部は、複数の雲層の各々からの散乱光データに基づいて、雲層の構造を決定する、請求項15に記載の装置。
【請求項22】
レーザ光を大気に向けて送出し、散乱光を受信する光送受信部と、前記光送受信部からのデータを受け取って請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の方法を行うコンピュータとを備えた、雲構造を計測するための雲構造計測システム。
【請求項23】
請求項11に記載のコンピュータ・プログラムが記憶された記憶装置と、プロセッサとを備え、レーザ光を大気に向けて送出し、散乱光を受信するドップラーライダ装置と通信することによって、雲構造を求めるように構成された、コンピュータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気象観測技術に関し、より具体的には、赤外線レーザ光を用いて雲の高度や分布などの構造を自動的に計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空港周辺における雲底高度や雲量などといった雲分布は、離発着する航空機が視認できる範囲を決定づけることから、安全運航のために必要不可欠な観測要素である。従来、滑走路周辺には、雲底高度を計測する装置が配置されているが、これらの装置は、装置直上の雲底高度が計測できるのみであり、雲底高度や雲量の決定は、目視観測に頼っている。
【0003】
雲底高度や雲量を計測する技術として、特許文献1-3に記載の技術が提案されている。
特許文献1には、雲底高度を測定するシーロメータを用いて雲量を判定する装置が提案されている。この装置では、鉛直上方に向けて複数回発射したレーザ光の反射光に基づいて求められた雲底高度から、雲底高度候補を求め、複数の雲底高度候補から雲層候補を求め、雲底高度データ及び雲層候補から雲量を求める。すなわち、この装置は、装置の真上の雲量を推定するものであり、任意の位置の雲底高度及び雲量を計測することができるものではない。
【0004】
特許文献2には、雲の画像から雲底高度の分布を計測する装置が提案されている。この装置は、天頂に向けた2台の広角カメラの画像から雲の方位角及び天頂角を読み出し、これらの角度と各広角カメラの位置とに基づいて、雲底の高度分布を求めるものである。特許文献2の技術は、画像データを用いるものであり、画像内での雲の有無は把握できるものの、距離方向の情報を得ることができない、夜間における計測ができないといった問題がある。
【0005】
また、特許文献3には、全天の範囲における雲高を計測する装置が提案されている。この装置では、少数の雲高計測装置から得られる局所的な雲高値と、全天の画像データに基づいて推定された複数の雲底の相対的な高さとを用いて、複数の雲底の高さを求める。特許文献3の技術は、複数の雲高計測装置を用いることが必要であり、また画像データを用いるものであるため、特許文献2と同様に、画像内での雲の有無は把握できるものの、距離方向の情報を得ることができない、夜間における計測ができないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-309309号公報
【特許文献2】特開2019-060754号公報
【特許文献3】特開2022-013152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の上記課題に鑑み、本発明は、赤外線レーザ光を用いて全天又はその一部をスキャンすることによって、雲の面的分布及び/又は立体的分布(すなわち雲構造)を自動的かつ高精度に計測する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、雲構造を計測するための方法を提供する。本方法は、大気に向けて送出されたレーザ光の散乱光から得られた複数の散乱光データを用いて、レーザ光の送出方向に沿った複数の測定領域の散乱光強度を求める信号処理ステップと、求められた散乱光強度に基づいて、複数の散乱光データの各々が雲粒子からの散乱光データであるかどうかを判定する雲判定ステップと、雲判定ステップによって雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データに基づいて、雲の構造を決定する雲構造決定ステップとを含む。
【0009】
本発明は、別の態様において、雲構造を計測するための装置を提供する。本装置は、 レーザ光を大気に向けて送出する光送出部と、送出されたレーザ光の散乱光を受信する光受信部と、受信した散乱光から得られた複数の散乱光データを用いて、レーザ光の送出方向に沿った複数の測定領域の散乱光強度を求める信号処理部と、求められた散乱光強度に基づいて、複数の散乱光データの各々が雲粒子からの散乱光データであるかどうかを判定し、雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データに基づいて、雲の構造を決定する、雲判定・構造決定部とを備える。
【0010】
本発明は、さらに別の態様において、雲構造を計測するための方法をコンピュータに実行させるプログラム命令を含むコンピュータ・プログラムを提供する。さらに、本発明は、レーザ光を大気に向けて送出し、散乱光を受信する光送受信部と、光送受信部からのデータを受け取って雲構造を計測するための方法を行うコンピュータとを備えた、雲構造を計測するための雲構造計測システムを提供する。さらに、本発明は、雲構造を計測するための方法をコンピュータに実行させるプログラム命令を含むコンピュータ・プログラムが記憶された記憶装置と、プロセッサとを備え、レーザ光を大気に向けて送出し、散乱光を受信するドップラーライダ装置と通信することによって、雲構造を求めるように構成された、コンピュータを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、雲底高度、並びに、雲層の高度、数、厚さ及び濃さといった雲構造の計測が自動化され、リアルタイムでデータベース化されるため、航空機等にいち早く正確な情報を提供することが可能である。また、本発明によれば、雲構造の計測と風の計測とを同時に実施することができるため、計測効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態による、雲構造を計測する方法の概要を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態による、雲構造を計測する雲構造計測システムの構成を示すブロック図である。
図3A】本発明の一実施形態による雲構造計測システムによって行われる処理を示すフローチャートである。
図3B】本発明の別の実施形態による雲構造計測システムによって行われる処理を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態による、雲層の構造を計測するための方法を示す模式図であり、(a)は、雲の高度及び層数を計測する考え方を示し、図4(b)は、雲層の厚さ及び濃さを計測する考え方を示す。
図5】本発明の一実施形態による、雲の立体構造を表す三次元マップ及び雲底の高度を表す二次元マップの一例を示す模式図である。
図6】本発明の一実施形態による、散乱光強度の計測例と、それぞれのエコーが表している計測対象とを示す。
図7】本発明の一実施形態による、仰角を変化させてレーザ光を送出したときの計測例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(雲構造計測システムの概要)
図1は、本発明の一実施形態による、全天又はその一部の雲構造を計測する方法の概要を示す。本方法は、例えば、当業者に周知のドップラーライダ装置を用いて実現することができる。本発明においては、赤外線レーザ光などの送信光を、水平方向に0~360度、垂直方向に0~180度の範囲で大気に向けて送出し、送出されたレーザ光が雲の粒子若しくは雲粒子以外の粒子(大気中に浮遊するエアロゾル)又はその両方により散乱された散乱光を取得する。取得した散乱光の信号は、レーザ光の送出方向に沿った距離に応じて複数の測定レンジに切り分けられ、測定レンジごとに即時フーリエ変換を経て、周波数空間の散乱光強度に変換される。それぞれの測定レンジのスペクトルから得られたピーク周波数の強度を、各測定レンジの散乱光強度とする。得られた散乱光強度に対応する散乱光が、雲粒子からの散乱光であるかそれ以外の粒子(エアロゾル)からの散乱光であるかの判定は、散乱光強度やスペクトル形状の違いから判別される。
【0014】
本発明によれば、雲底の分布及び高度を自動的に計測することができる。また、本発明によれば、レーザ光の送出強度を適切に調整することによって、所望の高度まで、複数の雲層の高度、数、厚さ及び濃さを同時に計測することもできる。このようにして計測された雲底若しくは雲層又はその両方のデータから、雲の立体構造データを自動的に得ることができる。立体構造データを二次元マップ又は三次元マップにマッピングすることによって、立体構造を可視化することも可能である。本発明によれば、雲が存在しない空間では風の情報を取得し、雲が存在する空間では雲の情報を取得することができる。
【0015】
本発明によれば、水平方向に0~360度、垂直方向に0~180度の範囲の散乱光データを取得することができるため、空港滑走路の侵入経路や滑走路ごと、ヘリポート、又はドローンポート上の雲の立体構造、ウインドシアなどの風の急変を自動的に計測することが可能である。
【0016】
本明細書において用いられる場合、散乱光強度(散乱強度又はエコーともいう)は、送出されたレーザ光がエアロゾルや雲粒子などに当たって反射されることによって測定系に戻ってきた散乱光の強度(単位dB)である。スペクトル強度は、測定系に戻ってきた散乱光の周波数ごとの強度である。スペクトル形状は、スペクトル強度を周波数順に並べたグラフの形状である。測定レンジは、レーザ光の送出方向(視線方向ともいう)に沿った距離に応じて切り分けられた複数の測定領域の各々である。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態による、雲構造を計測する雲構造計測システム1の構成を示す。
【0018】
雲構造計測システム1(以下、単にシステム1という)は、光送受信部2と、雲構造計測装置3とを備える。光送受信部2は、レーザ光を大気に向けて送出する光送出部21と、雲粒子又はエアロゾルによって散乱された散乱光を受信する光受信部22とを有する。雲構造計測装置3は、制御・信号処理部31、雲判定・構造決定部32、風計算部33、及び風情報・雲情報表示部34を有する。
【0019】
システム1は、当業者に周知のドップラーライダ装置を用いて実現することができる。例えば、一般的なドップラーライダ装置は、レーザ光を送受信する光送受信部を有しており、ドップラーライダ装置に雲構造計測装置を構成する各部、すなわち、制御・信号処理部31、雲判定・構造決定部32、風計算部33、及び風情報・雲情報表示部34を組み込むことによって、システム1を実現することができる。あるいは、レーザ光を送受信する装置と、受信した散乱光の信号を受け取って雲構造を決定する雲構造計測装置とを別個の装置とすることによって、システム1を実現することもできる。
【0020】
雲構造計測装置3は、通信可能な汎用コンピュータを用いて実現することができ、より具体的には、CPU(プロセッサ)等の制御部である処理装置、本発明に係る雲構造を計測する方法をコンピュータに実行させるプログラム命令を含むコンピュータ・プログラム及びその他のプログラムを記憶することができる記憶装置及び記憶媒体、外部との通信装置を有するハードウェアにより実現することができる。記憶装置は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Slid State Drive)等を用いることができる。雲構造計測装置3の各部の機能は、例えば、CPUが、ROMからプログラム及びプログラム命令を読み出し、RAMに対して読み書きして処理を実行することにより実現することができる。
【0021】
上記コンピュータ・プログラム及びその他のプログラムは、例えば、外部の記憶媒体の一例であるUSB(Universal Serial Bus)メモリ又は外部接続されたHDD、SSD等から読み出されたり、ネットワークを介した他のコンピュータからダウンロードする等して提供されてもよい。さらに、雲構造計測装置3の各部の機能は、1つのコンピュータに設けられることに限定されるものではなく、各部の機能の全部又は一部が、1つ又は複数のコンピュータに分散して設けられ、インターネット等の媒体を介して互いに通信することにより同様の機能を実現してもよい。
【0022】
(雲構造計測システムの機能の詳細)
<光送受信部>
光送受信部2は、レーザ光を大気に向けて送出する光送出部21と、雲粒子又雲粒子以外の粒子によって散乱された散乱光を受信する光受信部22とを有する。光送出部21は、レーザ光を送出することができる構成であれば、限定されるものではない。光送出部21として、例えば、周知のドップラーライダ装置に採用されている光送受信部を用いることができる。このような光送受信部は、例えば、水平方向の回転ミラーを360度の範囲で回転させるとともに、垂直方向の回転ミラーを180度の範囲で回転させることによって、レーザ光を大気に向けて送出することができる。
【0023】
レーザ光を送出する方向は、例えば、方位角0度~360度の範囲、仰角0度~180度の範囲、必要な角度分解能で、大気状況に応じて任意に設定することができる。また、例えば、滑走路における航空機の進入・離陸方向のみとするなどのように、特定の方向にのみレーザ光を送出してその方向の雲構造を計測するように設定してもよい。
【0024】
光受信部22は、光送出部21から送出されたレーザ光が雲粒子又は雲粒子以外の粒子によって散乱されて戻ってくる散乱光を受信することができる構成であれば、限定されるものではない。光受信部22として、例えば、周知のドップラーライダ装置に採用されている光送受信部を、戻ってくる散乱光を受信することができるように回転させる構成を用いることができる。光送受信部2は、受信した散乱光の信号をアナログ/デジタル変換(A/D変換)してデジタル信号としての散乱光データを生成することができるように構成されることが好ましい。生成された散乱光データは、雲構造計測装置3に出力される。あるいは、A/D変換器を雲構造計測装置3に設け、光受信部22で受信した散乱光の信号を雲構造計測装置3のA/D変換器に送るように構成してもよい。
【0025】
<制御・信号処理部>
制御・信号処理部31は、制御部31aと信号処理部31bとを含むことができる。制御部31aは、システム1全体の動作の制御を行うことができる。さらに、制御部31aは、光送受信部2の光送出部21及び光受信部22の方位角及び仰角の制御を行うことができるとともに、風情報・雲情報表示部34に対して、光送受信部2の方位角及び仰角の情報を提供することができる。
【0026】
信号処理部31bは、光受信部22が受信した散乱光から生成された複数の散乱光データを受け取り、それらの複数の散乱光データから散乱光強度を求めることができる。ある1つの方位角及び仰角でレーザ光を送出したときに受信され、レーザ光の送出方向に沿った距離に応じて複数の測定レンジの各々について得られた散乱光データを、1つの散乱光データとする。全天にわたってレーザ光が送出される場合、複数の方位角及び仰角で送出されたレーザ光から、異なる方位角及び仰角並びに測定レンジに対応する複数の散乱光データが取得される。レーザ光を送出する方位角及び仰角の数、並びに測定レンジの数は、最終的に得られる雲構造を利用する用途に求められる解像度に応じて、適宜設定することができる。
【0027】
信号処理部31bは、複数の散乱光データから散乱光強度を求めることができる。信号処理部31bにおいては、取得した散乱光データを高速サンプリングし、複数の測定レンジの各々について即時フーリエ変換を行い、複数の測定レンジの各々おける散乱光強度を求める。具体的には、複数の測定レンジの各々について、散乱光強度を周波数の関数として表したパワースペクトルを求め、このパワースペクトルに対して正規分布関数のフィッティングを行い、フィッティングパラメータを求める。次に、フィッティングパラメータに含まれるピーク周波数の値に基づいて、その測定レンジの散乱光強度が決定される。
【0028】
本実施形態においては、フィッティングパラメータは、ピーク周波数、ピーク強度及びピーク幅の値を含む。その上で、フィッティングパラメータに対応する正規分布関数 GAUSS(x) を、次のように定める。
【数1】
式において、dはピーク周波数、pはピーク強度、wはピーク幅である。ピーク周波数は正規分布の平均値を、ピーク強度は正規分布の平均値における強度を、ピーク幅は正規分布の標準偏差を、それぞれ定めるものとして定義付けられる。なお、本発明において、フィッティングパラメータは、本実施形態において説明したものに限らず、正規分布関数を定める値の組であれば良いので、別の実施形態においては、別の値を含むようにすることができ、例えば、正規分布の標準偏差に代えて、正規分布の半値幅を含むようにしても良い。
このようにして、雲構造を特定する必要がある方位角及び仰角について、レーザ光の送出方向に沿った複数の測定レンジの各々における散乱光強度を得ることができる。
【0029】
<雲判定・構造決定部>
雲判定・構造決定部32は、得られた散乱光強度に基づいて、散乱光データが雲粒子からの散乱光データであるかどうかを判定し、雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データに基づいて、雲の構造を決定することができる。
【0030】
得られた散乱光強度に基づいて、雲粒子からの散乱光であるかどうかの判定は、次のように行うことができる。
【0031】
(a)判定の実施形態1
まず、地上又はその近傍から連続して得られる散乱光強度は、空気中のエアロゾルからの散乱光によるものであり、したがって、それらの散乱光強度が得られた散乱光データは、雲粒子よって散乱された散乱光によるものではない(すなわち、空気中のエアロゾルの散乱光強度である)と判定される。ここで、雲粒子からの散乱光データの散乱光強度、又は雲粒子以外の粒子(エアロゾル)からの散乱光データの散乱光強度であると判定するためのしきい値は、計測場所の気象観測データや予備的な事前調査などに基づいて決定することができる。例えば、出願人が観測した過去の例を挙げれば、バックグラウンドノイズが-64dBの場合に、それより大きい散乱光強度は、雲粒子又は雲粒子以外の粒子からの散乱光によるものと判定することができる。
【0032】
すなわち、雲判定・構造決定部32は、地上又はその近傍から連続的に、例えば-64dB以上の散乱光強度が得られた場合は、その散乱光強度は、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)からの散乱光データから得られたものであると判定する。また、雲判定・構造決定部32は、地上又はその近傍から連続的に得られる-64dB以上の散乱光強度が途切れたときに、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)が存在しなくなったと判定する。このようにして得られた、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)からの散乱光による散乱光強度は、後述する風計算部33に送信され、散乱光強度に基づいて風速及び風向が計算される。
【0033】
ここで、雲層の構造を計測する考え方を、図4を用いて説明する。図4(a)は、雲の高度及び層数を計測する考え方を示し、図4(b)は、雲層の厚さ及び濃さを計測する考え方を示す。
図4(a)に示されるように、雲構造計測システム1の光送出部21から送出されたレーザ光Aは、大気中の粒子に当たって散乱し、一部の散乱光が雲構造計測システム1の光受信部22に戻ってくる。地上又はその近傍から連続的に得られるしきい値以上の散乱光強度が途切れたあとに、再びしきい値以上の散乱光強度が得られたとき、雲判定・構造決定部32は、その散乱光強度が雲粒子からの散乱光に基づくものであると判定する。このときに得られる散乱光A’の強度は、雲の最下部、すなわち雲底からの散乱光に基づくものであると判定することができる。また、図4(b)に示されるように、しきい値以上の散乱光強度が連続する複数の測定レンジは、雲の位置に対応する測定レンジであると判定され、次にしきい値以上の散乱光強度が得られなくなったとき、その直前の測定レンジは、雲の最上部に対応するレンジであると判定することができる。こうして得られた連続する複数の散乱光強度は、第1の雲層からの散乱光に基づくものであると判定される。
【0034】
雲の最下部すなわち雲底の高度は、図4(a)に示されるように、雲構造計測システム1からレーザ光Aが送出されてから散乱光A’として戻ってくるまでの時間から算出することができる。レーザ光Aが所定の仰角で送出される場合は、その角度と光送出部21から雲までの距離とを用いて、雲底の高度を算出することができる。
【0035】
雲層の厚さは、図4(b)に示されるように、地上又はその近傍から連続的に得られるしきい値以上の散乱光強度が途切れたあとに、再びしきい値以上の散乱光強度が得られたときの測定レンジ(すなわち、雲底に対応する)の高度と、その後の連続するしきい値以上の散乱光強度が得られなくなった測定レンジの直前の測定レンジの高度との差から算出することができる。また、雲の濃さは、しきい値以上の連続する散乱光強度の各々の大きさから判定することができ、散乱光強度が大きいほど濃い雲であると判定される。
【0036】
レーザ光の送出強度を調整することによって、第1の雲層より高い高度の雲層を計測することができる。すなわち、第1の雲層より遠くまで達することができる強度でレーザ光を送出することによって、送出されたレーザ光Aのうち、第1の雲層の粒子によって散乱されなかったレーザ光は、図4(a)に示されるレーザ光Bとしてさらに進み、雲粒子によって散乱された一部の散乱光B’が雲構造計測システム1の光受信部22に戻ってくる。第1の雲層によって連続的に得られる散乱光強度が途切れたあと、再びしきい値以上の散乱光強度が得られる散乱光B’は、第2の雲層の最下部に対応する測定レンジからの散乱光であると判定することができる。
【0037】
第1の雲層の場合と同様に、第2の雲層の最下部の高度は、レーザ光Aが送出されてから散乱光B’として戻ってくるまでの時間から算出することができる。レーザ光Aが所定の仰角で送出される場合は、その角度と光送出部21から雲までの距離とを用いて、第2の雲層の最下部の高度を算出することができる。第2の雲層の厚さもまた、第1の雲層の場合と同様に、第1の雲層による連続的に得られるしきい値以上の散乱光強度が途切れたあとに、再びしきい値以上の散乱光強度が得られたときの測定レンジ(すなわち、第2の雲層の最下部に対応する)の高度と、その後の連続するしきい値以上の散乱光強度が得られなくなった測定レンジの直前の測定レンジの高度との差から算出することができる。また、雲の濃さは、しきい値以上の連続する散乱光強度の各々の大きさから判定することができ、散乱光強度が大きいほど濃い雲であると判定される。
【0038】
同様にして、さらにレーザ光の送出強度を調整することにより、第2の雲層のさらに上方に位置する第Nの雲層の情報を取得することができる。しきい値以上の連続的な散乱光強度が途切れたあと、しきい値以上の散乱光強度が得られない場合には、その連続的な散乱光強度が得られた雲層より上には、雲が存在しないものと判定することができる。
以上のように、雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データのうち、連続する複数の散乱光データからなる複数のデータ集合の各々は、複数の雲層の各々(第1の雲層~第Nの雲層)からの散乱光データであると判定される。
【0039】
(b)判定の実施形態2
上述の実施形態1による雲粒子か否かの判定は、各測定レンジの散乱光強度の絶対値に基づいて行われ、エアロゾルや雲粒子による散乱光強度の連続的なデータが途切れたかどうかを雲の判定に利用するものである。この方法は、判定がシンプルであり、計算量が少ないため大きな計算リソースを利用する必要がないという利点がある。一方で、この方法は、エアロゾルと雲とが途切れることなく連続的に続いているような場合には、雲の判定が難しいケースがある。両方の粒径の差が小さい場合には、特に問題となる。こうした気象条件が想定される場合には、以下の方法を用いることができる。
【0040】
実施形態2による判定は、視線方向に隣接する測定レンジ間の散乱光強度の差に基づいて行われるものである。具体的には、雲判定・構造決定部32は、地上又はその近傍から順次、視線方向に隣接する測定レンジ間の散乱光強度を比較し、散乱光強度が所定の差より小さい値で連続的に変化する測定レンジにおける散乱光データは、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)からの散乱光データに基づくものであると判定する。次に、雲判定・構造決定部32は、隣接する測定レンジ間の散乱光強度が所定の差以上となったときには、その測定レンジから雲が始まると判定する。なお、所定の差は、計測場所の気象観測データや予備的な事前調査などに基づいて決定することができる。例えば、出願人が観測した過去の例を挙げれば、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)と雲粒子との散乱光強度の差は、5dB以上とすることができる。このようにして得られた、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)からの散乱光による散乱光強度は、後述する風計算部33に送信され、散乱光強度に基づいて風速及び風向が計算される。
【0041】
雲層の構造を計測する考え方を、同様に図4(a)を用いて説明すると、雲構造計測システム1の光送出部21から送出されたレーザ光Aは、大気中の粒子に当たって散乱し、一部の散乱光A’が雲構造計測システム1の光受信部22に戻ってくる。戻ってきた散乱光A’を用いて計算された、視線方向に隣接する測定レンジ間の散乱光強度の差が5dB以上であった場合、雲判定・構造決定部32は、遠い方の測定レンジの散乱光強度が雲粒子からの散乱光に基づくもの(雲の始まり)であると判定する。このときに得られる散乱光A’の強度は、雲の最下部、すなわち雲底からの散乱光に基づくものであると判定することができる。
【0042】
次に、図4(b)に示されるように、隣接する測定レンジ間の散乱光強度の差が5dBより小さい値で連続する複数の測定レンジは、雲の位置に対応する測定レンジであると判定され、次に隣接する測定レンジ間の散乱光強度の差が5dB以上となった場合に、雲判定・構造決定部32は、その2つの測定レンジのうち近い方の測定レンジが、雲の最上部に対応する測定レンジであると判定することができる。こうして得られた、所定の値より小さい値で連続的に変化する散乱光強度は、第1の雲層からの散乱光に基づくものであると判定される。
【0043】
雲の最下部すなわち雲底の高度は、図4(a)に示されるように、雲構造計測システム1からレーザ光Aが送出されてから散乱光A’として戻ってくるまでの時間から算出することができる。レーザ光Aが所定の仰角で送出される場合は、その角度と光送出部21から雲までの距離とを用いて、雲底の高度を算出することができる。
【0044】
雲層の厚さは、図4(b)に示されるように、隣接する測定レンジ間の散乱光強度の差が5dB以上となったときの遠い方の測定レンジ(すなわち、雲底に対応する)の高度と、その後に隣接する測定レンジ間の散乱光強度の差が5dBより小さくなったときの近い方の測定レンジの高度との差から算出することができる。また、雲の濃さは、雲粒子であると判定された測定レンジの散乱光強度の大きさから判定することができ、散乱光強度が大きいほど濃い雲であると判定される。
【0045】
レーザ光の送出強度を調整することによって、第1の雲層より高い高度の雲層を計測することができる。すなわち、第1の雲層より遠くまで達することができる強度でレーザ光を送出することによって、送出されたレーザ光Aのうち、第1の雲層の粒子によって散乱されなかったレーザ光は、図4(a)に示されるレーザ光Bとしてさらに進み、雲粒子によって散乱された一部の散乱光B’が雲構造計測システム1の光受信部22に戻ってくる。第1の雲層より遠くにおいて再び5dB以上の散乱光強度の差が得られた場合に、遠い方の測定レンジの散乱光B’は、第2の雲層の最下部に対応すると判定することができる。
【0046】
第1の雲層の場合と同様に、第2の雲層の最下部の高度は、レーザ光Aが送出されてから散乱光B’として戻ってくるまでの時間から算出することができる。レーザ光Aが所定の仰角で送出される場合は、その角度と光送出部21から雲までの距離とを用いて、第2の雲層の最下部の高度を算出することができる。
【0047】
さらに、隣接する測定レンジ間の散乱光強度の差が5dBより小さい値で連続する複数の測定レンジは、雲の位置に対応する測定レンジであると判定され、次に隣接する測定レンジ間の散乱光強度の差が5dB以上となった場合に、雲判定・構造決定部32は、その2つの測定レンジのうち近い方の測定レンジが、雲の最上部に対応するレンジであると判定することができる。このように、第1の雲層の場合と同様、所定の値より小さい値で連続的に変化する散乱光強度は、第2の雲層からの散乱光に基づくものであると判定される。第2の雲層の厚さ及び濃さもまた、第1の雲層の場合と同様に算出することができる。
【0048】
同様にして、さらにレーザ光の送出強度を調整することにより、第2の雲層のさらに上方に位置する第Nの雲層の情報を取得することができる。第Nの雲層より遠い位置において、隣接する測定レンジ間の差が5dB以上にならない場合には、第N番目の雲層より上には、雲が存在しないものと判定することができる。
以上のように、雲粒子からの散乱光データであると判定された散乱光データについて、レーザ光の送出方向に沿って隣接する測定領域の散乱光強度を比較し、所定の差より小さい値で連続的に変化する散乱光強度が得られる散乱光データからなる複数のデータ集合の各々は、複数の雲層の各々(第1の雲層~第Nの雲層)からの散乱光データであると判定される。
【0049】
<風計算部>
風計算部33は、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)からの散乱光による散乱光強度に基づいて、雲が存在しない空間における風向及び風速を計算することができる。風計算部33では、具体的には、複数の測定レンジの各々について、散乱光強度を周波数の関数として表したパワースペクトルを求め、このパワースペクトルに対して正規分布関数のフィッティングを行い、フィッティングパラメータを求める。次に、フィッティングパラメータに含まれるピーク周波数の値と、風速0m/sを表す基準周波数との周波数の差を求め、周波数の差を風速値に変換することによって、風速を計算する。例えば、1MHzの周波数の差は0.77m/sに相当し、この関係から風速を求めることができる。この関係は、以下の式を用いて求めることができる。
V=(L/2)F
ここで、Lはレーザ光の波長(m)、Fは受信帯域幅(Hz)、Vは視線方向の風速(m/s)を示す。
【0050】
<風情報・雲情報表示部>
風情報・雲情報表示部34は、散乱光強度に基づいて得られた雲構造及び風情報を二次元マップ若しくは三次元マップ又はその両方にマッピングすることによって、雲情報及び風情報を視覚的に表示することができる。
図5は、本発明の一実施形態による、雲の立体構造を表す三次元マップ及び雲底の高度を表す二次元マップの一例を示す模式図である。
【0051】
雲の立体構造を表す三次元マップ及び雲底の高度を表す二次元マップは、当業者に周知の方法で作成することができる。すなわち、上述のように、雲判定・構造決定部32は、ある方向(ある方位角及び仰角)に送出されたレーザ光が雲粒子によって散乱されて戻ってきた散乱光の散乱光強度に基づいて、その方向に存在する雲底の高度、並びに、雲層の高度、数、厚さ及び濃さを判定する。風情報・雲情報表示部34は、レーザ光を複数の方向(方位角及び仰角)に送出することによって得られる全天又はその一部の雲情報のデータを、当業者に周知の方法で、全天の三次元空間にマッピングする。マッピングに必要なレーザ光の送出方向(方位角及び仰角)のデータは、制御部31aから風情報・雲情報表示部34に提供することができる。
【0052】
具体的には、全天の空間に設定した三次元の格子点に対して、雲が存在する格子点には1をマッピングし、雲が存在しない格子点には0をマッピングする。すべての格子点に対して、1又は0をマッピングすることによって、雲構造の三次元マップを作成することができる。また、三次元にマッピングした雲構造において、それぞれの雲層の最も低高度の位置を二次元に投影することによって、全天又はその一部における雲底の位置を示す二次元マップを作成することができる。必要に応じて、高度によって雲底の色を変えたり濃さを変えたりすることによって、二次元マップに雲底の高度の情報を表示させることもできる。必要に応じて、すべての格子点の数に対して1がマッピングされた格子点の数を求めて、例えば10段階で全天雲量の割合を表示させることもできる。
【0053】
(雲構造計測システムの処理フローチャート)
図3は、これまで説明したシステム1によって行われる処理を示すフローチャートである。図3Aは、戻ってくる散乱光が雲粒子からのものであるかどうかを判定する実施形態1に対応するフローチャート300Aであり、図3Bは、戻ってくる散乱光が雲粒子からのものであるかどうかを判定する実施形態2に対応するフローチャート300Bである。
【0054】
フローチャート300Aから説明すると、システム1は、光送受信部2によってレーザ光を送出し、雲粒子又は雲粒子以外の粒子(エアロゾル)によって散乱されて戻ってきた散乱光を受信する(sA301)。レーザ光は、制御部31aによって水平方向に0~360度の範囲、垂直方向に0~180度の範囲、任意の角度解像度で制御されることによって、任意の方向に送出することができる。光送受信部2によって受信された散乱光は、制御・信号処理部31によって処理され、散乱光強度が求められる。
【0055】
雲判定・構造決定部32は、地上又はその近傍から連続的に得られるしきい値以上の散乱光強度は、雲粒子以外の粒子による散乱光強度であると判定する(sA302)。連続的に得られる散乱光強度が途切れたあとに、再びしきい値以上の散乱光強度が得られたとき(sA304)、雲判定・構造決定部32は、その散乱光強度が雲粒子からの散乱光に基づくもの(第1雲エコー)であると判定する(sA305)。
【0056】
雲判定・構造決定部32は、しきい値以上の散乱光強度が連続する複数の測定レンジは、雲の位置に対応する測定レンジであると判定し、次にしきい値以上の散乱光強度が得られなくなったとき、その直前の測定レンジは、雲の最上部に対応するレンジであると判定することができる。こうして得られた連続する散乱光強度は、第1の雲層からの散乱光に基づくものであると判定される。得られた散乱光強度に基づいて、雲底高度、雲層の厚さ及び/又は雲の濃さを求めることができる(sA305)。
【0057】
雲判定・構造決定部32は、次にしきい値以上の散乱光強度が得られたとき(sA306)に、その散乱光強度が雲粒子からの散乱光に基づくもの(第2雲エコー)であると判定する。第1の雲層の場合と同様に、しきい値以上の散乱光強度が連続する複数の測定レンジは、雲の位置(第2の雲層)に対応する測定レンジであると判定し、次にしきい値以上の散乱光強度が得られなくなったとき、その直前の測定レンジは、第2の雲層の最上部に対応するレンジであると判定することができ、得られた連続する散乱光強度に基づいて、雲底高度、雲層の厚さ及び/又は雲の濃さを求めることができる(sA307)。雲判定・構造決定部32は、散乱光強度に基づく上記の判定を繰り返し、必要に応じて第Nの雲層を判定することができる(sA308、sA309)。
【0058】
上記のようにして得られた雲構造のデータと、制御部31aから提供されたレーザ光の送出方向(方位角及び仰角)のデータとに基づいて、風情報・雲情報表示部34は、雲情報を視覚的に表示することができる二次元マッピング(sA310)及び/又は三次元マッピング(sA311)を行う。風情報・雲情報表示部34は、全天又はその一部の雲情報のデータを、全天の二次元空間及び/又は三次元空間にマッピングし、任意の方法で(例えば、モニタに表示することなどによって)出力する(sA312)。
【0059】
次にフローチャート300Bを説明する。ここでは、フローチャート300Aと同じ処理については簡単に説明する。システム1は、雲粒子又は雲粒子以外の粒子(エアロゾル)によって散乱されて戻ってきた散乱光を受信する(sB301)。
【0060】
雲判定・構造決定部32は、地上又はその近傍から順次、隣接する測定レンジ間の散乱光強度を比較し(sB302)、散乱光強度が所定の差より小さい値で連続的に変化する(sB303)測定レンジにおける散乱光データは、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)からの散乱光から得られたものであると判定する(SB304)。雲判定・構造決定部32は、隣接する測定レンジ間の散乱光強度を比較し続け、差が所定の値以上であるかどうかを判定する(sB305)。差が所定の値より小さい場合は、その散乱光強度は、依然として雲粒子以外の粒子(エアロゾル)からのものであると判定する(sB304)。
【0061】
雲判定・構造決定部32は、隣接する測定レンジ間の散乱光強度を比較し続け、差が所定の値以上となった場合は、その測定レンジの散乱光強度が雲粒子からの散乱光に基づくもの(第1雲エコー)であると判定する(sB306)。雲判定・構造決定部32は、隣接する測定レンジ間の散乱光強度をさらに比較し続け、差が所定の値以上であるかどうかを判定する(sB307)。差が所定の値より小さい場合は、その散乱光強度は、依然として雲粒子からのもの(第1の雲層)であると判定する(sB306)。
【0062】
隣接する測定レンジ間の散乱光強度をさらに比較し続けた結果、差が所定の値以上となった場合、雲判定・構造決定部32は、差が現れた2つの測定レンジのうち近い方の測定レンジが、雲の最上部に対応するレンジであると判定し、第1の雲層を抜けたと判定することができる。得られた散乱光強度に基づいて、雲底高度、雲層の厚さ及び/又は雲の濃さを求めることができる(sB308)。雲判定・構造決定部32は、散乱光強度に基づく上記の判定を繰り返し、必要に応じて第Nの雲層を判定することができる(sB309、sA310)。
【0063】
上記のようにして得られた雲構造のデータとレーザ光の送出方向データとに基づいて、風情報・雲情報表示部34は、雲情報を視覚的に表示することができる二次元マッピング(sB311)及び/又は三次元マッピング(sB312)を行い、全天又はその一部の雲情報のデータを出力する(sB313)。
【0064】
(散乱光強度の計測例)
以下、本出願の出願人が行った計測実験によって得られた結果の例を示す。
図6は、本発明の一実施形態による、散乱光強度の計測例と、それぞれのエコーが表している計測対象とを示す図であり、鉛直上方にレーザ光を送出したときの計測例である。図6(a)から図6(d)は、時間経過に沿った散乱光強度の計測画像と、それぞれの画像が表している対象の模式図とを示す。それぞれ、横軸はドップラー速度(m/s)、縦軸は高度(km)を示し、画像と模式図との間には散乱光強度のスケールバーが示される。
【0065】
いずれの計測画像でも、地上(高度0km)から高度約0.7km付近まで連続して散乱光強度が得られており、この連続する散乱光強度は、判定の実施形態1に基づいて、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)による散乱光強度(風エコー)であると判断される。図6(a)では、高度約0.9km~約1.0kmの範囲と、さらに高度約1.2~約1.3kmの範囲とに散乱光強度(雲エコー)が得られており、それぞれ同じ程度の厚さの雲層が存在することが示される。
【0066】
その後、一定時間が経過すると、図(b)に示されるように、風エコーの上空において、高度約1.0km~約1.5kmの範囲で連続する雲エコーが得られており、図6(a)の時点での2つの雲層から1つの厚い雲層に変化したことが分かる。同様に、図6(c)では、高度約0.9km~約1.0kmの範囲に薄い雲層が存在し、約1.2km~約1.4kmの範囲にそれより厚い雲層が存在することが示される。さらに、図6(d)では、高度約1.2km~約1.4kmの範囲に1つの雲層が存在することが示される。
【0067】
図7は、仰角を変化させてレーザ光を送出したときの計測例を示す。図7(a)は、それぞれの仰角で水平方向360度にわたってレーザ光を送出し、散乱光強度を計測している状態を表した模式図であり、図7(b)は、計測結果を全天の二次元マップに示した図である。図中の「EL」は仰角を表す。図7(a)において、それぞれの仰角の線はレーザ光を表し、太い線で表されている部分は、雲粒子以外の粒子(エアロゾル)による散乱光強度(風エコー)が得られている部分を例示的に示している。図7(b)は、二次元マップとその右側の散乱光強度スケールバーとが1つの仰角で得られた計測結果であり、左図から右図に向かうにつれて仰角が大きくなっている。
【0068】
図7(b)の各二次元マップは、円の中央が光送出部の鉛直上方に相当し、上部が北、下部が南、左部が西、右部が東の方位に相当する。図7(b)に示されるように、本システムによれば、雲粒子以外の粒子による散乱光強度(風エコー)と雲の粒子による散乱光強度(雲エコー)とを区別し、雲底の分布を可視化することが可能である。
【0069】
当業者であれば、この説明に基づいて本願の請求項に記載された発明の一実施形態を実施できること、及び、請求項に記載された発明の技術的範囲において実施形態の種々の変形が可能であることが理解できる。

図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7