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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025094768
(43)【公開日】2025-06-25
(54)【発明の名称】硬化性組成物および硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/48 20060101AFI20250618BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20250618BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20250618BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20250618BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20250618BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20250618BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20250618BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
C08G77/48
C08K5/1515
C08K5/17
C08L33/06
C08K5/098
C08F230/08
C08F220/18
C08F293/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210513
(22)【出願日】2023-12-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケブラー
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】玉井 仁
(72)【発明者】
【氏名】吉橋 健一
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
4J100
4J246
【Fターム(参考)】
4J002AE05X
4J002BG04W
4J002EG028
4J002EL026
4J002EN017
4J002FD318
4J002FD346
4J002GH01
4J002GJ01
4J002GJ02
4J026HA12
4J026HA20
4J026HA24
4J026HA38
4J026HB20
4J026HB24
4J026HE02
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100AL05R
4J100AL08S
4J100BA77S
4J100CA06
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA08
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100FA34
4J100GC07
4J100GC26
4J100JA01
4J100JA03
4J246AA11
4J246BA020
4J246BA02X
4J246BB020
4J246BB022
4J246BB02X
4J246BB240
4J246BB241
4J246BB24X
4J246CA130
4J246CA13U
4J246CA13X
4J246CA240
4J246CA24X
4J246EA05
4J246FA081
4J246FA131
4J246FB213
4J246FC191
4J246GC17
4J246HA22
4J246HA28
4J246HA32
(57)【要約】
【課題】小さな力で伸びやすく、伸びが向上した硬化物を与える硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る硬化性組成物は、成分A:シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体、成分B:エポキシ化合物、成分C:多価アミンおよび成分D:硬化触媒を含んでいる。成分Aおよび成分Bは、特定の条件を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分A~Dを含んでいる、硬化性組成物:
成分A:シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体;
成分B:エポキシ化合物;
成分C:硬化触媒;
成分D:多価アミン;
ここで、上記成分Aは、
XブロックおよびYブロックを有するXYジブロック構造またはXYXトリブロック構造を分子中に有しており、
上記Xブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、平均で2.0個より多く、
上記Yブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、上記Yブロックに含まれている全ての繰り返し単位の重量を基準として、0重量%以上5重量%未満であり、
分子量分布(Mw/Mn)は、1.8以下であり、
上記成分Bは、
1分子あたりに平均して、エポキシ基を1.0個以下有している。
【請求項2】
上記成分Aは、CH=C(R)COOR(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数が9個以上の基である)に由来する繰り返し単位を1重量%以上含んでいる、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
上記成分Aの数平均分子量は、2,000~50,000である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
下記成分Eをさらに含んでいる、請求項1に記載の硬化性組成物:
成分E:乾性油。
【請求項5】
下記成分Fをさらに含んでいる、請求項1に記載の硬化性組成物:
成分F:液状またはアルコール可溶性である高級脂肪酸の金属塩。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物および硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリル基を有する重合体分子は、シリル基が加水分解することにより、他の重合体分子との間でシロキサン結合を形成する。この架橋反応により、ゴム状の硬化物が得られる。このような重合体分子を含有している硬化性組成物は、シーリング材、接着剤、塗料などに使用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2023/048155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような従来技術に開示されている硬化性組成物には、硬化物のモジュラスおよび伸びを改善する余地が残されていた。
【0005】
本発明の一態様は、小さな力で伸びやすく、伸びが向上した硬化物を与える硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る硬化性組成物は、下記成分A~Dを含んでいる:
成分A:シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体;
成分B:エポキシ化合物;
成分C:硬化触媒;
成分D:多価アミン;
ここで、上記成分Aは、
XブロックおよびYブロックを有するXYジブロック構造またはXYXトリブロック構造を分子中に有しており、
上記Xブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、平均で2.0個より多く、
上記Yブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、上記Yブロックに含まれている全ての繰り返し単位の重量を基準として、0重量%以上5重量%未満であり、
分子量分布(Mw/Mn)は、1.8以下であり、
上記成分Bは、
1分子あたりに平均して、エポキシ基を1.0個以下有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、小さな力で伸びやすく、伸びが向上した硬化物を与える硬化性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、下記の各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更を施してよい。異なる実施形態に記載されている技術的手段を組合せた実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0009】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味する。本明細書において特記しない限り、「シリル基」とは、「加水分解性シリル基」を意味する。一実施形態において、シリル基は、アルコキシシリル基である。
【0010】
〔1.硬化性組成物の成分〕
本発明の一態様に係る硬化性組成物は成分A:シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体、成分B:シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体、成分C:多価アミン、成分D:硬化触媒を含んでいる。硬化性組成物は、任意成分として、成分E:乾性油、成分F:液状またはアルコール可溶性である高級脂肪酸の金属塩を含んでいてもよい。これらの各成分は、1種類のみを含んでいてもよいし、2種類以上を含んでいてもよい。
【0011】
[1.1.成分A:シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体]
成分Aは、シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体である。成分Aは、シリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来するシリル基を有している。成分Aは、シリル基の出現頻度が高いXブロックと、シリル基の出現頻度が低いYブロックとを有している。成分Aは、例えば、重合の途中でモノマー組成を変化させることにより重合できる。
【0012】
[1.1.1.成分Aの構造]
成分Aは、XブロックおよびYブロックを有しており、分子中にXYジブロック構造またはXYXトリブロック構造を含んでいる。なお、成分Aの分子全体の構造は、XYジブロック構造またはXYXトリブロック構造を含んでいれば特に限定されず、例えばXYXYテトラブロック構造であってもよい。
【0013】
ここで、「XYXトリブロック構造」とは、当業者間で一般に言われている「ABAトリブロック構造」を意味する。成分AにおけるX/Yの比は、(5/95)~(60/40)が好ましく、(15/85)~(40/60)がより好ましい。
【0014】
一実施形態において、成分Aの分子はXYジブロック構造である。XYジブロック構造の分子において、Xブロックとは、分子の一方の末端から40%以下、30%以下または25%以下の領域でありうる(分子に含まれる全繰返し単位を100%とする)。ここで、Xブロックは、シリル基が相対的に多く分布している側のブロックである。
【0015】
一実施形態において、成分Aの分子はXYXトリブロック構造である。XYXトリブロック構造の分子において、Xブロックとは、分子の末端から40%以下、30%以下または25%以下の領域でありうる(分子に含まれる全繰返し単位を100%とする)。ここで、Xブロックは、分子の両末端に位置しているブロックである。
【0016】
成分Aは、シリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位を有している。シリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、Xブロックに相対的に多く含まれている。Xブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、平均で2.0個より多い。成分Aが1分子中に2つ以上のXブロックを有している場合は、複数のXブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位の個数を合計した値が、平均で2.0個より多い。一方、Yブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、Yブロックに含まれている全ての繰り返し単位の重量を基準として、0重量%以上5重量%未満である。
【0017】
Xブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、平均して2.0個超であり、2.1個以上が好ましく、2.2個以上がより好ましく、2.3個以上がさらに好ましく、2.5個以上が特に好ましい。同じく、Xブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、Xブロックに含まれている全ての繰り返し単位の重量を基準として、0.5重量%以上が好ましく、2.0重量%以上がより好ましく、3.0重量%以上がさらに好ましい。Xブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位の上限は、90重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。
【0018】
Yブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰返し単位の上限は、Yブロックに含まれている全ての繰返し単位の重量を基準として、5重量%未満であり、4重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましく、2重量%以下がさらに好ましく、1重量%以下が特に好ましい。Yブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰返し単位の下限は、Yブロックに含まれている全ての繰返し単位の重量を基準として、0重量%以上が好ましく、0重量%超がより好ましい。
【0019】
成分Aに導入されているシリル基の数は、分子全体として、平均して2.0個超、好ましくは2.2個以上、より好ましくは2.6個以上、さらに好ましくは3.0個以上、特に好ましくは3.4個以上である。(メタ)アクリル系重合体に導入されているシリル基の数の上限は、10.0個以下が好ましく、8.0個以下がより好ましく、6.0個以下がさらに好ましく、5.0個以下が特に好ましい。シリル基の数が上記の範囲であれば、良好な物性の硬化性組成物および硬化物が得られる。
【0020】
シリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの具体例としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0021】
成分Aは、側鎖が長鎖である(メタ)アクリル系モノマーに由来する繰返し単位を含んでいてもよい。本明細書において、「側鎖が長鎖である(メタ)アクリル系モノマー」とは、式:CH=C(R)COORで表されるモノマーである。式中、Rは、水素原子またはメチル基である。Rは、炭素数が9個以上の基である。
【0022】
側鎖が長鎖である(メタ)アクリル系モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、成分Aに含まれる全構成単位のうち、1重量%以上であることが好ましい。このような繰返し単位を含んでいる成分Aは、ポリオキシアルキレン系重合体との相溶性が改善されたり、得られる硬化物の物性が改善されたりすることがある。側鎖が長鎖である(メタ)アクリル系モノマーに由来する繰返し単位の含有量の上限は、5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下がより好ましい。含有量が上記の程度であれば、成分Aの製造コストを極端に高騰させずに済む。
【0023】
側鎖が長鎖である(メタ)アクリル系モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イコシル、(メタ)アクリル酸ドコシル、(メタ)アクリル酸オレイル、(メタ)アクリル酸リノレイル、(メタ)アクリル酸イソボルニルが挙げられる。
【0024】
上述したモノマーの中では、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸オレイルおよび(メタ)アクリル酸リノレイルから選択される1種類以上が好ましい。これらのモノマーには、常温で液体であり、重合安定性が高いという利点がある。また、これらのモノマーを配合することにより、ポリオキシアルキレン系重合体との相溶性が高い(メタ)アクリル酸系重合体が得られる。
【0025】
本明細書において、「側鎖が長鎖でない(メタ)アクリル系モノマー」とは、上記式において、Rが炭素数8個以下の基であるモノマーを表す。このようなモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソプロポキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸1-エチルシクロペンチルエーテル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルが挙げられる。
【0026】
上述したモノマーの中では、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチルおよび(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルから選択される1種類以上が好ましい。これらのモノマーは調達コストが低く、成分Aの製造コストを低減する目的に適している。
【0027】
さらに、ガラス転移点の観点からは、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルから選択される1種類以上が好ましい。これらのモノマーから得られる成分Aはガラス転移点が低く、重合体の粘度が低重合体の粘度が低くなる。そのため、低温環境下での使用が容易な硬化性組成物が得られる。
【0028】
成分Aは、(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外のモノマーに由来する繰返し単位を有していてもよい。成分Aにおいて、(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する繰返し単位が占める割合は、成分Aの全重量の50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。
【0029】
[1.1.2.成分Aが有しているシリル基]
成分Aが有しているシリル基は、シリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来であってもよい。一実施形態において、シリル基は下記一般式(1)により表される。
-[Si(R32-b(Y)O]-Si(R3-a(Y)・・・(1)
【0030】
式(1)中、RおよびRは、独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基、メトキシメチル基、または(R’)SiO-で示されるトリオルガノシロキシ基である。R’は、炭素数1~20の1価の炭化水素基である。3個存在するR’は、同一であってもよく、異なっていてもよい。RまたはRが2個以上存在するとき、これらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Yは水酸基または加水分解性基を表している。加水分解性基の例としては、アルコキシ基、アセトキシ基、オキシム基が挙げられる。一実施形態において、Yは、水酸基、メトキシ基、エトキシ基またはイソプロポキシ基である。1つのシリル基にXが複数含まれる場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。成分Aの1分子中に複数のシリル基が含まれている場合、Yは、シリル基ごとに異なっていてもよい。aは、0、1、2または3である。bは、0、1または2である。mは、0~19の整数である。ただし、a+mb≧1の関係を満たしている。
【0031】
シリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの具体的な構造は、特に制限されない。一例として、下記一般式で示されるモノマーが挙げられる。
C=C(R)C(=O)-O-(CH-SiR (OR3-n
【0032】
式中、Rは、水素またはメチル基である。RおよびRは、水素、メチル基およびエチル基からなる群より選択される1種類以上である。Rおよび/またはRが複数存在する場合、これらは同一であってもよく、異なっていてもよい。mは、0~10の整数である。nは、0~2の整数である。
【0033】
シリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの具体例としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0034】
[1.1.3.成分Aの物性]
一実施形態において、成分Aの数平均分子量の下限は、2,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、15,000以上がさらに好ましい。成分Aの数平均分子量の上限は、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、20,000以下がさらに好ましい。成分Aの数平均分子量が上記の範囲であれば、硬化性組成物の粘度が高くなりすぎず、充分な作業性を確保できる。
【0035】
一実施形態において、成分Aの分子量分布は、1.8以下であり、好ましくは1.5以下、1.4以下、1.3以下または1.2以下である。分子量分布が上記の範囲であれば、重合体の粘度が低下し、作業性が向上する傾向にある。分子量分布とは、「重量平均分子量÷数平均分子量」で与えられる値である。
【0036】
重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定する。GPC測定には、移動相としてクロロホルム、固定相としてポリスチレンゲルカラムを用いる。測定により得られる分子量は、標準ポリスチレン換算の分子量である。
【0037】
[1.1.4.成分Aの製造方法]
成分Aの重合方法は、特に限定されず、公知の重合方法を用いることができる(ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオン重合法など)。SGO(Solid Grade Oligomer;高温連続塊状重合)と呼ばれる重合方法は、重合溶剤、重合開始剤、連鎖移動剤などをほとんど使用せずに成分Aが得られる方法であるため、好ましい。重合体分子の末端近傍に官能基を導入でき、分子量分布の小さい成分Aを合成できることから、リビング重合法が好ましい。リビング重合法の例としては、リビングラジカル重合法、リビングカチオン重合法、リビングアニオン重合法が挙げられ、その中でもリビングラジカル重合法が(メタ)アクリル系モノマーの重合に適している。リビングラジカル重合法の例としては、以下が挙げられる。
・原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization;ATRP(J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 5614; Macromolecules. 1995, 28, 1721を参照))
・一電子移動重合(Sigle Electron Transfer Polymerization;SET-LRP(J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 14156; JPSChem 2007, 45, 1607を参照))
・可逆移動触媒重合(Reversible Chain Transfer Catalyzed Polymerization;RTCP(「有機触媒で制御するリビングラジカル重合」『高分子論文集』68, 223-231 (2011); 特開2014-111798を参照))
・可逆的付加-開裂連鎖移動重合法(RAFT重合)
・ニトロキシラジカル法(NMP法)
・有機テルル化合物を用いる重合法(TERP法)
・有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBRP法)
・有機ビスマス化合物を用いる重合法(BIRP法)
・ヨウ素移動重合法
【0038】
成分Aにシリル基を導入する方法の例としては、特開2018-162394号公報に記載の方法が挙げられる。同文献に開示の方法は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを共重合することにより、成分Aにシリル基を導入する。より詳細には、リビング重合の進行段階に応じてシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの投入量を制御することにより、成分A分子の末端近傍にシリル基を導入する。これらの方法によって得られる成分Aは、分子の末端または末端近傍に局所的にシリル基を有しうる。
【0039】
[1.2.成分B:エポキシ化合物]
成分Bは、エポキシ化合物である。成分Bに含まれているエポキシ基の数は、1分子あたりに平均して1.0個以下である。
【0040】
一般的に、成分Bとしては、モノエポキシドが用いられる。市販されているモノエポキシドに含まれているエポキシ基の数は、特段の事情がない限り、1分子あたりに平均して1個と見做す。成分Bを自ら合成する場合などには、副生成物やエポキシ基の導入率に起因して、成分Bに含まれているエポキシ基の数が1分子あたりに平均して1.0個未満となることもある。成分Bに含まれているエポキシ基の数の下限は、1分子あたりに平均して0.7個以上、0.8個以上または0.9個以上でありうる。
【0041】
一実施形態において、成分Bはモノエポキシドである。モノエポキシドの例としては、以下が挙げられる。
・炭素数2~24の炭化水素系オキシド:エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1-ブテンオキシド、2-ブテンオキシド、炭素数5~24のα-オレフィンオキシド、スチレンオキシドなど。
・置換または非置換で炭素数2~19の炭化水素のグリシジルエーテル:2-フェノキシイソプロピルグリシジルエーテル、n-ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-エチル-ヘキシルグリシジルエーテル、2-メチルオクチルグリシジルエーテル、ラウリルアルコール(EO)15グリシジルエーテル、C12,C13混合アルコールグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、2-フェニルフェノールグリシジルエーテル、フェノール(EO)グリシジルエーテルp-sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテルなど。
・炭素数3~30のモノカルボン酸のグリシジルエステル:グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなど。
・エピハロヒドリン:エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリンなど。
・水酸基含有オキシド:グリシドールなど。
・エポキシシラン化合物:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、4-オキシラニルブチルトリメトキシシラン、8-オキシラニルオクチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなど。
・単官能の脂環式エポキシ化合物:4-ビニルエポキシシクロヘキサン、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ビニルシクロヘキセンモノエポキシドなど。
【0042】
成分Bは、市販の製品であってもよい。このような製品の例としては、デナコールEX-121、EX-141、EX-142-IM、EX-145、EX-146、EX-146P、EX-171、EX-192、EX-731(以上、全てナガセケムテックス株式会社);YED111N、111AN、188(以上、全て三菱ケミカル株式会社)が挙げられる。
【0043】
[1.3.成分C:多価アミン]
成分Cは、多価アミンである。多価アミンとは、アミノ基または置換アミノ基を合計で2個以上を有している化合物である。成分Cの例としては、アミノ基または置換アミノ基を2個有している化合物(エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなど);アミノ基または置換アミノ基を3個有している化合物(ジエチレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、エチレンミンの3量体など);アミノ基または置換アミノ基を4個以上有している化合物(トリエチレンテトラミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)ブタン-1,4-ジアミン、エチレンイミンの4量体など)が挙げられる。成分Cは、アミノ基または置換アミノ基を多数有しているポリマーであってもよい。
【0044】
[1.4.成分D:硬化触媒]
硬化触媒の例としては、錫系硬化触媒が挙げられる。錫系硬化触媒の具体例としては、ジアルキル錫カルボン酸塩類(ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジエチルヘキサノレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジメチルマレート、ジブチル錫ジエチルマレート、ジブチル錫ジブチルマレート、ジブチル錫ジイソオクチルマレート、ジブチル錫ジトリデシルマレート、ジブチル錫ジベンジルマレート、ジブチル錫マレエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジステアレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジエチルマレート、ジオクチル錫ジイソオクチルマレートなど);ジアルキル錫オキサイド類(ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの混合物など);4価錫化合物(ジアルキル錫オキサイド、ジアルキル錫ジアセテートなど)とシリル基含有低分子ケイ素化合物(テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなど)との反応物;2価の錫化合物類(オクチル酸錫、ナフテン酸錫、ステアリン酸錫など);モノアルキル錫類(モノブチル錫化合物(モノブチル錫トリスオクトエート、モノブチル錫トリイソプロポキシドなど)、モノオクチル錫化合物など);アミン系化合物と有機錫化合物との反応物または混合物(ラウリルアミンとオクチル酸錫の反応物または混合物など);キレート化合物(ジブチル錫ビスアセチルアセトナート、ジオクチル錫ビスアセチルセトナート、ジブチル錫ビスエチルアセトナート、ジオクチル錫ビスエチルアセトナートなど);錫アルコラート類(ジブチル錫ジメチラート、ジブチル錫ジエチラート、ジオクチル錫ジメチラート、ジオクチル錫ジエチラートなど)が挙げられる。
【0045】
この中でも、キレート化合物(ジブチル錫ビスアセチルアセトナートなど)および錫アルコラート類は、シラノール縮合触媒としての活性が高い点が好ましい。また、ジブチル錫ジラウレートは、硬化性組成物に添加しても着色が少なく、廉価であり、入手が容易である点が好ましい。
【0046】
[1.5.成分E:乾性油]
成分Eは、乾性油である。乾性油とは、空気と接触することにより酸化され、固化する性質を有している脂肪油である。成分Eを配合することにより、硬化物の表面タックが低減されうる。
【0047】
通常、成分Eは不飽和度が高い。一実施形態において、成分Eのヨウ素価は、130以上である。成分Eの例としては、桐油、紅花油、アマニ油、クルミ油、シソ油、エゴマ油、ヒマワリ油、ケシ油、魚油が挙げられる。
【0048】
[1.6.成分F:液状またはアルコール可溶性である高級脂肪酸の金属塩]
成分Fは、液状またはアルコール可溶性である高級脂肪酸の金属塩である。成分Fを配合することにより、硬化物の表面タックが低減されうる。
【0049】
成分Fが液状またはアルコール可溶性である理由は、製造プロセス上の要求である。すなわち、高級脂肪酸の金属塩が液状であれば硬化性組成物との混合性が良好であるのに対し、高級脂肪酸の金属塩が固形であれば混合性に劣る。固形である高級脂肪酸の金属塩を溶媒に溶解させて混合するにしても、硬化性組成物は湿分硬化性であるから、水は溶媒として利用できない。その代わりに、溶媒としてはアルコールが好適に使用できる。成分Fの溶解に必要なアルコールは少量であるため、アルコールを溶媒とすることには、溶媒が硬化性組成物に与える影響を低減できるという利点もある。
【0050】
成分Fを構成する金属は、特に限定されず、1種類であっても2種類以上であってもよい。一実施形態において、金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。一実施形態において、金属は、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群より選択される1種類以上である。その他の金属の例としては、リチウム、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マンガン、コバルト、ジルコニウム、ニッケル、ビスマスが挙げられる。
【0051】
成分Fを構成する高級脂肪酸は、特に限定されず、1種類であっても2種類以上であってもよい。高級脂肪酸の炭素数の下限は、6個以上、8個以上、10個以上または12個以上でありうる。高級脂肪酸の炭素数の上限は、40個以下または30個以下でありうる。高級脂肪酸の有するカルボキシル基は、通常は、1分子あたり1個である。高級脂肪酸の例としては、2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リシノール酸、エイコセン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、プニカ酸、ステアドリン酸が挙げられる。
【0052】
成分Fの具体例としては、2-エチルへキシルカルボン酸カリウムが挙げられる。成分Fがアルコール可溶性である場合、溶媒とするアルコールは、成分Fの特性に応じて当業者が適宜選択できる。
【0053】
[1.7.その他の成分]
硬化性組成物は、上述した成分以外にも、種々の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤を含有させることによって、硬化性組成物および硬化物の諸物性を調節することができる。添加剤の例としては、以下が挙げられる。これらの添加剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0054】
(接着性付与剤)
硬化性組成物は、接着性付与剤を含んでいてもよい。接着性付与剤を添加することにより、シーリング材がサイディングボードなどの被着体から剥離する危険性を低減できる(この剥離は、外力により目地幅などが変動することによって生じる)。また、接着性を向上させるためのプライマーを使用する必要性がなくなる場合もある。この場合は、施工作業の簡略化が期待される。
【0055】
接着性付与剤の例としては、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤の具体例としては、イソシアネート基含有シラン類(γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシランなど);アミノ基含有シラン類(γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベンジル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリエトキシシランなど);メルカプト基含有シラン類(γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなど);カルボキシシラン類(β-カルボキシエチルトリエトキシシラン、β-カルボキシエチルフェニルビス(2-メトキシエトキシ)シラン、N-(β-カルボキシメチル)アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなど);ビニル型不飽和基含有シラン類(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクロイルオキシプロピルメチルトリエトキシシランなど);ハロゲン含有シラン類(γ-クロロプロピルトリメトキシシランなど);イソシアヌレートシラン類(トリス(トリメトキシシリル)イソシアヌレートなど)が挙げられる。また、シランカップリング剤を変性させた誘導体である、アミノ変性シリルポリマー、シリル化アミノポリマー、不飽和アミノシラン錯体、フェニルアミノ長鎖アルキルシラン、アミノシリル化シリコーン、シリル化ポリエステルなども、シランカップリング剤として用いることができる。
【0056】
接着性付与剤の含有量は、成分Aおよび成分Bの含有量を100重量部とすると、0.1~20重量部が好ましく、0.5~10重量部がより好ましい。
【0057】
(充填材)
硬化性組成物は、充填材を含んでいてもよい。充填材の例としては、木粉;補強性充填材(パルプ、木綿チップ、アスベスト、マイカ、クルミ殻粉、もみ殻粉、グラファイト、白土、シリカ(ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、ドロマイト、無水ケイ酸、含水ケイ酸など)、カーボンブラックなど);充填材(重質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、べんがら、アルミニウム微粉末、フリント粉末、酸化亜鉛、活性亜鉛華、亜鉛末、炭酸亜鉛、シラスバルーンなど);繊維状充填材(石綿、ガラス繊維およびガラスフィラメント、炭素繊維、ケブラー繊維、ポリエチレンファイバーなど)が挙げられる。
【0058】
充填材の含有量は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、5~5000重量部が好ましく、10~2500重量部より好ましく、15~1500重量部が特に好ましい。
【0059】
(物性調整剤)
硬化性組成物は、硬化物の引張特性を調整する物性調整剤を含んでいてもよい。物性調整剤を用いることにより、硬化物の硬度を上げたり、逆に硬化物の硬度を下げて伸びを上げたりすることができる。
【0060】
物性調整剤の例としては、アルキルアルコキシシラン類(メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシランなど);アルキルイソプロペノキシシラン(ジメチルジイソプロペノキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシランなど);官能基を有するアルコキシシラン類(ビニルジメチルメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなど);シリコーンワニス類;ポリシロキサン類が挙げられる。
【0061】
物性調整剤の含有量は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、0.1~80重量部が好ましく、0.1~50重量部がより好ましい。
【0062】
(チクソ性付与剤(垂れ防止剤))
硬化性組成物は、垂れを防止し、作業性を良くするために、チクソ性付与剤(垂れ防止剤)を含んでいてもよい。
【0063】
チクソ性付与剤の例としては、ポリアミドワックス類;水添ヒマシ油誘導体類;上述した成分Fに含まれない金属石鹸類(ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウムなど)が挙げられる。
【0064】
チクソ性付与剤の含有量は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、0.1~50重量部が好ましく、0.2~25重量部がより好ましい。
【0065】
(光硬化性物質)
硬化性組成物は、光硬化性物質を含んでいてもよい。光硬化性物質とは、光の作用によって短時間で化学変化をおこし、物性的変化(硬化など)を生ずる物質である。光硬化性物質を含有させることにより、硬化物表面の粘着性(残留タック)を低減できる。典型的な光硬化性物質は、例えば室内の日の当たる位置(窓付近など)に、1日間、室温にて静置することにより硬化させることができる。光硬化性物質には、有機単量体、オリゴマー、樹脂およびこれらを含んでいる組成物など、多くのものが知られており、その種類は特に限定されない。光硬化性物質の例としては、不飽和アクリル系化合物、ポリケイ皮酸ビニル類、アジド化樹脂が挙げられる。
【0066】
不飽和アクリル系化合物の具体例としては、低分子量アルコール類(エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルアルコールなど)の(メタ)アクリル酸エステル類;酸(ビスフェノールA、イソシアヌル酸)または低分子量アルコールなどを、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどで変性させた、アルコール類の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸エステル類(主鎖がポリエーテルであり末端に水酸基を有するポリエーテルポリオール、主鎖がポリエーテルであるポリオール中でビニル系モノマーをラジカル重合することにより得られるポリマーポリオール、主鎖がポリエステルで末端に水酸基を有するポリエステルポリオール、主鎖がビニル系または(メタ)アクリル系共重合体であり主鎖中に水酸基を有するポリオールなど);エポキシ樹脂(ビスフェノールA型やノボラック型など)と(メタ)アクリル酸を反応させることにより得られるエポキシアクリレート系オリゴマー類;ポリオール、ポリイソシアネート、水酸基含有(メタ)アクリレートなどを反応させることにより得られる分子鎖中に、ウレタン結合および(メタ)アクリル基を有する、ウレタンアクリレート系オリゴマーが挙げられる。
【0067】
光硬化性物質の含有量は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、0.01~30重量部が好ましい。
【0068】
(酸化防止剤および光安定剤)
硬化性組成物は、酸化防止剤および/または光安定剤を含んでいてもよい。酸化防止剤および光安定剤は、各種のものが知られている。例えば、[猿渡健市 他『酸化防止剤ハンドブック』大成社、1976年][大沢善次郎 監『高分子材料の劣化と安定化』シーエムシー、1990年、235-242ページ]などに記載された物質が挙げられる。
【0069】
酸化防止剤の例としては、アデカスタブ PEP-36、アデカスタブ AO-23などのチオエーテル系酸化防止剤(以上、全て株式会社ADEKA);Irgafos38、Irgafos168、IrgafosP-EPQ(以上、全てチバ・スペシャルティ・ケミカルズ)などリン系酸化防止剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;が挙げられる。上述した中では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0070】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、モノ(またはジもしくはトリ)(αメチルベンジル)フェノール、2,2’-メチレンビス(4エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-アミルハイドロキノン、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルフォスフォネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,4-ビス[(オクチルチオ)メチル]o-クレゾール、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、メチル-3-[3-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート-ポリエチレングリコール(分子量約300)縮合物、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール誘導体、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート挙げられる。
【0071】
市販されている酸化防止剤の例としては、ノクラック200、ノクラックM-17、ノクラックSP、ノクラックSP-N、ノクラックNS-5、ノクラックNS-6、ノクラックNS-30、ノクラック300、ノクラックNS-7、ノクラックDAH(以上、全て大内新興化学工業株式会社);アデカスタブ AO-30、アデカスタブ AO-40、アデカスタブ AO-50、アデカスタブ AO-60、アデカスタブ AO-616、アデカスタブ AO-635、アデカスタブ AO-658、アデカスタブ AO-80、アデカスタブ AO-15、アデカスタブ AO-18、アデカスタブ 328、アデカスタブ AO-37(以上、全て株式会社ADEKA);IRGANOX-245、IRGANOX-259、IRGANOX-565、IRGANOX-1010、IRGANOX-1024、IRGANOX-1035、IRGANOX-1076、IRGANOX-1081、IRGANOX-1098、IRGANOX-1222、IRGANOX-1330、IRGANOX-1425WL(以上、全てチバ・スペシャルティ・ケミカルズ);SumilizerGM、SumilizerGA-80、SumilizerGS(以上、全て住友化学株式会社)が挙げられる。
【0072】
光安定剤の例としては、紫外線吸収剤(チヌビンP、チヌビン234、チヌビン320、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン329、チヌビン213(以上、全てチバ・スペシャルティ・ケミカルズ)などのベンゾトリアゾール系化合物;チヌビン1577などトリアジン系光安定剤;CHIMASSORB81などのベンゾフェノン系化合物;チヌビン120(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)などのベンゾエート系化合物;ヒンダードアミン系化合物)が挙げられる。上述した中では、ヒンダードアミン系化合物が好ましい。
【0073】
ヒンダードアミン系化合物の具体例としては、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、N,N’-ビス(3アミノプロピル)エチレンジアミン-2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、コハク酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリディニル)エステルが挙げられる。
【0074】
市販されている光安定剤の例としては、チヌビン622LD、チヌビン144、CHIMASSORB944LD、CHIMASSORB119FL;(以上、全てチバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、アデカスタブ LA-52、アデカスタブ LA-57、アデカスタブ LA-62、アデカスタブ LA-67、アデカスタブ LA-63、アデカスタブ LA-68、アデカスタブ LA-82、アデカスタブ LA-87(以上、全て株式会社ADEKA);サノールLS-770、サノールLS-765、サノールLS-292、サノールLS-2626、サノールLS-1114、サノールLS-744、サノールLS-440(以上、全てチバ・スペシャルティ・ケミカルズ)が挙げられる。
【0075】
酸化防止剤および光安定剤を、併用してもよい。これらを併用することにより、それぞれの効果がさらに向上し、硬化物の耐熱性、耐候性などが向上することがある。例えば、耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系化合物(HALS)とを組合せることできる。この組合せは、それぞれの薬剤の効果をより向上させることができ、好ましい。
【0076】
酸化防止剤および/または光安定剤の含有量は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、それぞれ、0.1~20重量部が好ましい。
【0077】
〔2.硬化性組成物の組成〕
硬化性組成物において、成分A/成分Bの重量比の下限は、50/50以上が好ましく、60/40以上がより好ましく、70/30以上がさらに好ましい。成分A/成分Bの重量比の上限は、99/1以下が好ましく、95/5以下がより好ましく、90/100以下がさらに好ましい。上記の範囲で各成分を配合すれば、伸びが大きく小さな力で伸びやすい硬化物が得られる傾向にある。
【0078】
硬化性組成物において、成分Cの含有量の下限は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、0.01重量部以上が好ましく、0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましく、0.5重量部以上が特に好ましい。成分Cの含有量の上限は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、10重量部以下が好ましく、8重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。
【0079】
硬化性組成物において、成分Dの含有量の下限は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、0.1重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がより好ましい。成分Dの含有量の上限は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましい。
【0080】
硬化性組成物において、成分Eの含有量の下限は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、1重量部以上が好ましく、2重量部以上がより好ましい。成分Eの含有量の上限は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、20重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましく、5重量部以下が特に好ましい。
【0081】
硬化性組成物において、成分Fの含有量の下限は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、0.01重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましい。成分Eの含有量の上限は、成分Aおよび成分Bの含有量の合計を100重量部とすると、5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、2重量部以下がさらに好ましく、1重量部以下が特に好ましい。
【0082】
〔3.硬化性組成物の形態〕
成分A~Dを含んでいる硬化性組成物は、1成分型であってもよいし、多成分型であってもよい。1成分型の硬化性組成物とは、全ての配合成分を予め配合した後、密封保存したものである。1成分型の硬化性組成物は、使用後に環境中の湿分により硬化する。多成分型の硬化性組成物においては、硬化触媒とそれ以外の成分を別々に用意し、使用時に両者を混合する。多成分型の硬化性組成物は、上記成分の他に、任意構成である他の剤(着色剤など)を備えていてもよい。
【0083】
硬化性組成物を多成分型として調製すると、各成分の混合時に、着色剤をさらに添加することができる。着色剤は、例えば、顔料、可塑剤、必要に応じて充填材を混合し、ペースト化したものが、作業性が高く好ましい。
【0084】
また、多成分型の硬化性組成物は、主剤および硬化剤の混合時に遅延剤を添加することができる。これにより、硬化速度を作業現場にて微調整することができる。
【0085】
〔4.硬化物〕
上述の硬化性組成物から、公知の方法によって、硬化物が得られる。例えば、上述の硬化性組成物は、周囲の湿分を吸収して自発的に硬化物へと変化しうる。硬化物の用途は、特に限定されない。一例として、建築用および工業用のシーリング剤、電気・電子部品材料(太陽電池裏面封止剤など)、電気絶縁材料(電線・ケーブル用絶縁被覆材など)、粘着剤、接着剤、弾性接着剤、コンタクト接着剤、タイル用接着剤、塗料、コーティング材、缶蓋などのシール材、電気電子用ポッティング剤、フィルム、ガスケット、注型材料、各種成形材料、人工大理石、網入りガラスまたは合わせガラスの切断部の防錆・防水用封止材、防水剤が挙げられる。
【0086】
一実施形態において、硬化物は、膜状である。製造される膜の厚さの下限は、0.1mm以上、0.5mm以上、1mm以上、5mm以上または10mm以上でありうる。製造される膜の厚さの上限は、100mm以下、90mm以下、80mm以下、70mm以下、60mm以下または50mm以下でありうる。
【0087】
膜状の硬化物は、例えば、硬化性組成物を基材に塗布した後に硬化させることによって製造できる。基材から膜を剥離した状態で使用してもよいし、基材と膜とが一体になった状態で使用してもよい。膜状の硬化物の用途の例としては、シーリング材、コーティング剤、接着剤が挙げられる。
【0088】
〔5.まとめ〕
本発明には、下記の態様が含まれている。
<1>
下記成分A~Dを含んでいる、硬化性組成物:
成分A:シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体;
成分B:エポキシ化合物;
成分C:硬化触媒;
成分D:多価アミン;
ここで、上記成分Aは、
XブロックおよびYブロックを有するXYジブロック構造またはXYXトリブロック構造を分子中に有しており、
上記Xブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、平均で2.0個より多く、
上記Yブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰り返し単位は、上記Yブロックに含まれている全ての繰り返し単位の重量を基準として、0重量%以上5重量%未満であり、
分子量分布(Mw/Mn)は、1.8以下であり、
上記成分Bは、
1分子あたりに平均して、エポキシ基を1.0個以下有している。
<2>
上記成分Aは、CH=C(R)COOR(式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数が9個以上の基である)に由来する繰り返し単位を1重量%以上含んでいる、<1>に記載の硬化性組成物。
<3>
上記成分Aの数平均分子量は、2,000~50,000である、<1>または<2>に記載の硬化性組成物。
<4>
下記成分Eをさらに含んでいる、<1>~<3>のいずれかに記載の硬化性組成物:
成分E:乾性油。
<5>
下記成分Fをさらに含んでいる、<1>~<4>のいずれかに記載の硬化性組成物:
成分F:液状またはアルコール可溶性である高級脂肪酸の金属塩。
<6>
<1>~<5>のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化物。
【実施例0089】
〔測定方法〕
[数平均分子量]
数平均分子量の測定には以下の装置を用いた。測定値は、ポリスチレン換算分子量である。
・送液システム:HLC-8120GPC(東ソー株式会社)
・カラム:TSK-GEL Hタイプ(東ソー株式会社)
・溶媒:THF
【0090】
[末端シリル基の導入率]
H-NMR測定の結果から、末端シリル基の導入率を計算した。H-NMR測定には以下の装置を用いた。
・測定器:JNM-LA400(日本電子株式会社)
・溶媒:CDCl
【0091】
[硬化物の引張特性]
硬化性組成物を、23℃、50%RH条件下にて硬化させて、硬化物を得た。JIS K 6251に準拠し、硬化物から3号ダンベル形状の試験片を得て、引張特性を測定した。引張特性の測定は、オートグラフを使用して、23℃、55%RHにて実施した。評価項目は、100%伸長時の応力および破断時の伸び率とした。
【0092】
[表面タック]
得られた硬化物の表面を指触により確認し、以下の基準で評価した。
A:全くタックを感じない
B:ほとんどタックを感じない
C:明確にタックを感じる
【0093】
〔材料〕
実施例および比較例で使用した材料は、下記の通りである。
●成分A:シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体
・製造例1で得たシリル基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)
●成分A’:成分Aでないシリル基を有する(メタ)アクリル系重合体
・比較製造例1で得たシリル基を有する(メタ)アクリル系重合体(A’)
●成分B:エポキシ化合物
・エポキシ化合物(B-1)(デナコールEX-146、ナガセケムテックス株式会社、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、1分子あたりのエポキシ基:1個)
・エポキシ化合物(B-2)(デナコールEX-145、ナガセケムテックス株式会社、フェノール(EO)グリシジルエーテル、1分子あたりのエポキシ基:1個)
・エポキシ化合物(B-3)(YED111N、三菱ケミカル株式会社、アルキルものグリシジルエーテル、1分子あたりのエポキシ基:1個)
●成分C:多価アミン
・多価アミン(C-1)(H30、三菱ケミカル株式会社、ケチミン、アミン当量:27)
・多価アミン(C-2)(FXJ-8074-D、株式会社T&K TOKA、変性脂肪族ポリアミン、アミン当量:445)
・多価アミン(C-3)(1,4-ジアミノブタン、アミン当量:44.1)
●成分D:硬化触媒
・硬化触媒(ネオスタンU-220H、日東化成株式会社、ジブチル錫)
●成分E:乾性油
・桐油
●成分F:高級脂肪酸の金属塩
・アルコール可溶性の高級脂肪酸の金属塩(2-エチルへキシルカルボン酸カリウム、2-へキシルアルコール溶液、濃度:10重量%)
●接着性付与剤
・N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-603、信越化学工業株式会社)
・3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Silquest A-187、MOMENTIVE)
●脱水剤
・ビニルトリメトキシシラン(Silquest A-171、MOMENTIVE)
【0094】
〔製造例1:(メタ)アクリル系重合体(A)の合成〕
下記の手順により、シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)を合成した。
(準備)
1. 2000mLの3つ口フラスコを用意した。108gのアクリル酸エチル、707gのアクリル酸n-ブチルおよび186gのアクリル酸オクタデシルをフラスコ内に仕込み、混合した。この混合物を、「(メタ)アクリル酸エステルモノマー混合物」と称する。
2. 別の攪拌容器を用意した。52.7mgの臭化第二銅(CuBr)、54.4mgのヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン(MeTREN)および1.82gのメタノールを攪拌容器に仕込み、窒素気流下にて、均一溶液になるまで攪拌した。この均一溶液を「銅溶液」と称する。なお、銅溶液に含まれている銅は、(メタ)アクリル酸エステルモノマー混合物の全量に対して、15ppmに相当する。
3. さら別の攪拌容器を用意した。30.8mLのメタノール、1.0gのアスコルビン酸および1.6mLのトリエチルアミンを攪拌容器に仕込み、窒素気流下にて攪拌して均一溶液とした。この均一溶液を、「アスコルビン酸溶液」と称する。
(第1工程)
4. 攪拌機に、5.60gのα-ブロモ酪酸エチル(開始剤;0.029モル)、全量の20重量%分の(メタ)アクリル酸エステルモノマー混合物、10gの3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(0.045モル;開始剤に対して1.5モル当量)、107.68gのメタノール、全量の銅溶液を投入し、窒素気流下にて30分間攪拌して、均一溶液とした。このとき使用した攪拌機は、ジャケット温調付攪拌装置であり、ジャケット温度は45℃に設定した。
5. 重合系内の温度が40℃以上になった時点で、アスコルビン酸溶液を連続滴下することにより、重合反応を開始させた。このときのアスコルビン酸溶液の滴下速度は、1時間あたり144mgのアスコルビン酸が重合系に投入される速度とした。
6. 重合系内の温度をモニターしたところ、アスコルビン酸の滴下開始と同時に温度が上昇し、最大温度に到達した後、徐々に温度が低下していった。重合系内の温度からジャケット温度を減じた温度差が1℃になった時点で、重合系内の反応溶液を少量サンプリングし、ガスクロマトグラフで分析した。その結果、最初に投入した(メタ)アクリル酸エステルモノマー混合物のうち、90重量%が消費されていた。
(第2工程)
7. 第1工程で投入しなかった(メタ)アクリル酸エステルモノマー混合物の残り(全量の80重量%分)を、90分間かけて、重合系に連続的に滴下した。このときのアスコルビン酸溶液の滴下速度は、1時間あたり48mgのアスコルビン酸が重合系に投入される速度とした。また、逐次的にサンプリングを行い、ガスクロマトグラフで分析した。そして、重合系に投入した(メタ)アクリル酸エステルモノマー混合物全量のうち、88重量%が消費されるまで重合させた。
(第3工程)
8. 11gの3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(0.049モル;開始剤に対して1.6モル当量)を、重合系に投入した。重合系に投入した(メタ)アクリル酸エステルモノマー混合物の全量のうち98重量%が消費されるまで、アスコルビン酸溶液の連続滴下を続けた。その後、アスコルビン酸溶液の滴下を終了し、重合を終了させた。
9. ジャケット温度を80℃に変更してから、溶媒を脱揮した。脱揮には、最初はダイヤフラムポンプを用い、次いで真空ポンプを用いた。脱揮終了後に、ジャケット温度が60℃以下になるまで冷却した。
(精製)
10. ジャケット温調付攪拌装置に、1000gの酢酸ブチルを投入して、脱揮を終えたポリマーと均一溶液になるまで混合攪拌した。この均一溶液に、吸着剤を加えて、1時間攪拌した。吸着剤としては、10gのキョーワード500SH(協和化学工業株式会社)および10gのキョーワード700SEN-S(協和化学工業株式会社)を用いた。
11. 攪拌終了後、得られた混合物を、バグフィルター濾布を敷いた濾過器によって濾過した。これによって、清澄なポリマー溶液を得た。この溶液に、1.5gの酸化防止剤(SumilizerGS、住友化学株式会社)を加え、均一になるまで混合した。その後、最初はダイヤフラムポンプを用い、次いで真空ポンプを用いて、溶液から溶媒を脱揮した。このようにして、(メタ)アクリル系重合体(A)を得た。
【0095】
(メタ)アクリル系重合体(A)は、XYX型のブロック共重合体であり、数平均分子量:5,5000、分子量分布:1.11、1分子あたりに導入されたシリル基の数:2.1個であった。また、(メタ)アクリル系重合体(A)のXブロックは、重合体1分子当たり、シリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰返し単位を平均で2.1個有していた。(メタ)アクリル系重合体(A)のYブロックは、シリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰返し単位を1.1重量%有していた(Yブロックに含まれている全ての繰返し単位の重量を基準とする)。なお、Yブロックに含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰返し単位は極端に少ない。そのため、有効数字2桁で計算すると、分子全体に含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰返し単位も、Xブロック全体に含まれているシリル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の繰返し単位も、いずれも2.1個となっている。
【0096】
〔比較製造例1:(メタ)アクリル系重合体(A’)の合成〕
下記の手順により、シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体(A’)を合成した。(メタ)アクリル系重合体(A’)は、XブロックおよびYブロックの構造を有していないため、成分Aには該当しない。
1. 攪拌機付ステンレス製反応容器の内部を脱酸素した。反応容器に、7.7gの臭化第一銅および200gのブチルアクリレートを仕込み、加熱しながら攪拌した。
2. 90gのアセトニトリルおよび17.6gのジエチル2,5-ジブロモアジペート(開始剤)を反応容器に加えて混合した。混合液の温度を約80℃に調節した後、ペンタメチルジエチレントリアミンを加えて、重合反応を開始させた。
3. 800gのブチルアクリレートを反応容器に逐次加えながら、重合反応を進めた。重合反応の進行中、ペンタメチルジエチレントリアミンを適宜追加して、重合速度を調節した。重合時に使用したペンタメチルジエチレントリアミンの総量は、1.4gであった。重合反応の進行中、反応容器の内部温度は、約80℃~約90℃に調節した。
4.モノマー転化率(重合反応率)が約95%以上となった時点で、揮発分を減圧脱揮して除去し、(メタ)アクリル系重合体の濃縮物を得た。
5. 200gの1,7-オクタジエン、260gのアセトニトリルおよび3.1gのペンタメチルジエチレントリアミンを反応容器に加えた。
6. 反応容器の内部温度を約80℃~約90℃に調節しながら、数時間加熱攪拌した。これにより、(メタ)アクリル系重合体の重合体末端と1,7-オクタジエンとを反応させて、(メタ)アクリル系重合体の末端にアルケニル基を導入した。
7. アセトニトリルおよび未反応の1,7-オクタジエンを減圧脱揮して除去し、末端にアルケニル基を有する(メタ)アクリル系重合体の濃縮物を得た。
8. 工程7で得られた濃縮物を酢酸ブチルで稀釈し、濾過助剤、吸着剤(キョーワード700SENおよびキョーワード500SH、協和化学工業株式会社)を加えた。
9. 工程8で得られた混合物を約80℃~約100℃に加熱および攪拌した後、固形成分を濾別した。濾液を濃縮して、重合体の粗精製物を得た。
10. 得られた重合体の粗精製物に、熱安定剤(SumilizerGS、住友化学株式会社)および吸着剤(キョーワード700SENおよびキョーワード500SH)を加えた。
11. 減圧脱揮および加熱攪拌しながら重合体の粗精製物を昇温し、約170℃~約200℃にて数時間、減圧脱揮および加熱攪拌を続けた。
12. 重合体の粗精製物に、吸着剤(キョーワード700SENおよびキョーワード500SH)と、重合体の粗精製物に対して約10倍重量の酢酸ブチルとを加え、約170℃~約200℃にて数時間程度、さらに加熱攪拌した。
13. 工程12で得られた処理液を、酢酸ブチルでさらに稀釈した後、吸着剤を濾別した。濾液を濃縮することで、両末端にアルケニル基を有する重合体を得た。
14. 工程13で得られた両末端にアルケニル基を有する重合体500gに、7.7gのメチルジメトキシシラン、2.5gのオルト蟻酸メチル、50mgの白金触媒を混合し、約100℃にて1時間程度、加熱攪拌した。白金触媒としては、ビス(1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン)白金錯体触媒のイソプロパノール溶液を用いた。
15. 加熱攪拌後、揮発成分(未反応のメチルジメトキシシランなど)を減圧留去した。このようにして、シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体(A’)を得た。
【0097】
(メタ)アクリル系重合体(A’)が有しているシリル基の数は、1分子あたりに平均して、2.0個であった。(メタ)アクリル系重合体(A’)は、数平均分子量:27,000、分子量分布:1.2であった。
【0098】
〔実施例1~6、比較例1~2〕
下記の手順により、物性評価用のサンプルを作製した。
1. 各成分を表1に記載の分量(単位:g)だけ用意した。
2. 各成分を150ccのプラスチックカップに投入し、薬匙で攪拌した。
3. 遊星式攪拌脱泡装置(ARE-310、株式会社シンキー)を用いて、攪拌(1600rpm×90秒)および脱泡(2200rpm×300秒)して、硬化性組成物を得た。
【0099】
[結果]
結果を表1に示す。
【表1】
【0100】
実施例1~6に係る硬化性組成物は、成分Aを含んでいる。比較例1、2に係る硬化性組成物は、成分A以外の(メタ)アクリル系重合体を含んでいる。表1から分かるように、実施例1~6に係る硬化物は、比較例1に係る硬化物と比べて100%伸長時の応力が低く、破断時の伸びが大きかった。比較例2に係る硬化性組成物は、硬化物の試料を作製する際に割れてしまったことから分かるように、柔軟性が非常に低かった。このことから、成分A~Dの組合せによって、硬化物のモジュラスを低下させ伸びを向上させられることが示唆される。
【0101】
実施例3~6に係る硬化性組成物は、成分E、Fをさらに含んでいる。実施例1、2に係る硬化性組成物は、成分E、Fをいずれも含んでいない。表1から分かるように、実施例3~6に係る硬化物は、実施例1に係る硬化物と比べて表面タックが低減されていた。このことから、成分E、Fの配合によって、上述の効果に加えてさらに硬化物の表面タックを低減させられることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、粘着剤、シーリング材、接着剤、型取剤、防振材、制振材、防音材、発泡材料、塗料、吹付材などに好適に利用できる。